人気ブログランキング | 話題のタグを見る

URGT-B(ウラゲツブログ)

urag.exblog.jp
ブログトップ
2024年 12月 31日

月曜社最新情報まとめ(ブログの最新エントリーは当記事の次からです)

◆公式ウェブサイト・オリジナルコンテンツ
◎2011年6月28日~:ルソー「化学教程」翻訳プロジェクト。

◆近刊
2024年6月5日搬入発売予定:『表象18:皮膚感覚と情動――表象から現前のテクノロジーへ』本体2,000円。

◆最新刊(書籍の発売日は、取次への搬入日であり、書店店頭発売日ではありません)
2024年05月16日発売:谷川雁『筑豊からの報告――大正行動隊から退職者同盟へ』本体3,600円。
2024年04月30日発売:ジョヴァンニ・ジェンティーレ『純粋行為としての精神の一般理論』本体5,400円、シリーズ・古典転生第30回配本(本巻29)。
2024年04月30日発売:アンヌ・ソヴァニャルグ『ドゥルーズと芸術』本体3,600円。
2024年04月10日発売:江川隆男『内在性の問題』本体4,300円。
2024年03月21日発売:『平岡正明著作集』上下巻、各3,200円。
2024年02月16日発売:シャルロット・デルボー『無益な知識――アウシュヴィッツとその後2』本体2,400円。
2024年02月06日発売:アルベール・カミュ『結婚』本体2,000円、叢書・エクリチュールの冒険第24回配本。
2024年01月18日発売:ジュディス・バトラー『新版 自分自身を説明すること』本体2,700円。
2024年01月09日発売:近藤和敬『人類史の哲学』本体3,800円。
2023年12月01日発売:アンジェロ・ポリツィアーノ『シルウァエ』本体5,400円、シリーズ・古典転生第29回配本(本巻28)。
2023年12月01日発売:石川義正『存在論的中絶』本体2,600円。
2023年11月17日発売:小田原のどか/山本浩貴編『この国(近代日本)の芸術――〈日本美術史〉を脱帝国主義化する』本体3,600円。
2023年11月09日発売:渡辺由利子『ふたりの世界の重なるところ――ジネヴラとジョルジョと友人たち』本体2,200円、シリーズ〈哲学への扉〉第10回配本。
2023年10月25日発売:茅辺かのう『茅辺かのう集成――階級を選びなおす』本体4,800円。
2023年10月02日発売:森山大道『写真よさようなら 普及版』本体4,500円。
2023年09月22日発売:ダヴィッド・ラプジャード『壊れゆく世界の哲学――フィリップ・K・ディック論』本体2,800円。
 三田格氏書評(「ele-king」2023年11月20日、Book Revies欄)
 藤田直哉氏書評「まだ絶望ではない――現在を生きるためのヒントを、フィリップ・K・ディックの著作の中に探る」(「図書新聞」2023年12月2日3617号8面)
2023年08月04日発売:『表象17:映像と時間――ホー・ツーニェンをめぐって』本体2,000円。
2023年08月01日発売:アレクサンドル・ヴヴェヂェンスキィ『ヴヴェヂェンスキィ全集』本体6,400円。
2023年07月28日発売:ジャン-リュック・ナンシー『否認された共同体』本体3,600円、叢書・エクリチュールの冒険第23回配本。
2023年07月28日発売:ステファヌ・マラルメ『散文詩篇』本体2,000円、叢書・エクリチュールの冒険第22回配本。
2023年06月12日発売:『多様体5:記憶/未来』本体3,000円。
2023年06月12日発売:ベンジャミン・ピケット『ヘンリー・カウ――世界とは問題である』本体6,000円。
2023年06月08日発売:フリードリヒ・シラー『シラー詩集』第1部:本体4000円、第2部:本体4,400円。

◆販売情報(重版・品切・サイン本、等々)
◎重版出来:
 2023年03月20日:星野太『崇高の修辞学』4刷(2017年初刷)
 2023年03月29日:ジョルジョ・アガンベン『創造とアナーキー』2刷(2022年5月初刷)

◆出版=書店業界情報:リンクまとめ
◎業界紙系:「新文化 ニュースフラッシュ」「文化通信
◎一般紙系:Yahoo!ニュース「出版業界」「電子書籍」「アマゾン
◎話題系:フレッシュアイニュース「出版不況」「電子書籍」「書店経営
◎新刊書店系:日書連 全国書店新聞
◎雑談&裏話:5ちゃんねる 一般書籍

※このブログの最新記事は当エントリーより下段をご覧ください。 
※月曜社について一般的につぶやかれている様子はYahoo!リアルタイム検索からもご覧になれます。月曜社が公式に発信しているものではありませんので、未確定・未確認情報が含まれていることにご注意下さい。ちなみに月曜社はtwitterのアカウントを取得する予定はありませんが、当ブログ関連のアカウントはあります。


# by urag | 2024-12-31 23:59 | ご挨拶 | Comments(21)
2024年 07月 14日

注目新刊:エルヴェシウス『精神論』京都大学学術出版会、ほか

注目新刊:エルヴェシウス『精神論』京都大学学術出版会、ほか_a0018105_00234453.jpg


★まず注目新刊既刊を列記します。

精神論』エルヴェシウス(著)、森岡邦泰/菅原多喜夫(訳)、近代社会思想コレクション:京都大学学術出版会、2024年7月、本体7,400円、四六判上製772頁、ISBN978-4-8140-0529-1
黒人法典――フランス黒人奴隷制の法的虚無』ルイ・サラ=モランス(著)、中村隆之/森元庸介(訳)、世界人権問題叢書:明石書店、2024年6月、本体3,800円、4-6判上製488頁、ISBN978-4-7503-5761-4
家の哲学――家空間と幸福』エマヌエーレ・コッチャ(著)、松葉類(訳)、勁草書房、2024年6月、本体2,500円、4-6判上製196頁、ISBN978-4-326-15488-3
教育の超・人類史――サピエンス登場から未来のシナリオまで』ジャック・アタリ(著)、林昌宏(訳)、大和書房、2024年6月、本体3,000円、四六判上製496頁、ISBN978-4-479-79809-5
教理講話』新神学者シメオン(著)、大森正樹/谷隆一郎(訳)、知泉学術叢書:知泉書館、2024年6月、本体6,300円、新書判上製552頁、ISBN978-4-86285-410-0
意識と無意識――ETHレクチャー(2)1934
』C・G・ユング(著)、E・ファルツェーダー(編)、河合俊雄(監修)、猪股剛/宮澤淳滋/長堀加奈子(訳)、創元社、2024年6月、本体4,000円、A5判並製224頁、ISBN978-4-422-11734-8
ビジュアル図鑑 魔導書の歴史』オーウェン・デイヴィス(著)、辻元よしふみ/辻元玲子(訳)、河出書房新社、2024年5月、本体5,900円、A4変形判上製256頁、ISBN978-4-309-22905-8

★『精神論』は、京都大学学術出版会の素晴らしいシリーズ「代社会思想コレクション」の第36弾。18世紀フランスの哲学者で啓蒙思想家クロード=アドリアン・エルヴェシウス(Claude-Adrien Helvétius, 1715-1771)の主著『De l'esprit』(1758年)の全訳です。底本はシャンピオン版全集第1巻(2016年)とのこと。聖書に反する、という理由から教会や宮廷から「激しい批判を浴び、教会に断罪された問題の書」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★本文より印象的な箇所を引きます。「陰謀家は、人間というものを知らない。それを知っていても、彼には役に立たないであろう。彼の目的は公衆の歓心を買うことではなく、何人かの権力者たち、そしてしばしば限られた人々に気に入られることである。過度の才覚は、この意図を損なうであろう。凡庸な人々に気にいられるためには、一般的に、ありふれた誤りに順応し、慣習に従い、みなに似る必要がある。高度な精神は、そこまではりくだることができない。彼は、水の流れのままに漂う軽い小枝であるよりも、むしろ、決壊することになっていたとしても、急流に抵抗する堤防であることをの好む」(第四論説「精神に与えられたさまざまな名称について」第十三章「振る舞いの才覚」、670頁)。

★エルヴェシウスの訳書が刊行されるのは、彼の死去の翌年、1772年に刊行された『人間論(De l'homme)』の、根岸國孝さんによる二度にわたる抄訳以来で、約58年ぶりです。原著全10巻のうち、第1~3巻の初訳が『人間論(上)』(世界古典文庫、日本評論社、1949年)で、巻頭の訳者付記によれば、主たる底本はロンドンで1781年に出版された全集の第Ⅲ~Ⅴ巻。『人間論』の研究は「東京商科大学フランス唯物論研究会同人によって始められた」(26頁)とのことです。興味深いエピソードなので、もう少し訳者付記より引用します。

★「同人たちの共同のテーマは、「ただに既存の政治的諸制度にたいする闘争でありまた既存の宗教や、神学にたいする闘争であったばかりでなく、同じくまたそれは、十七世紀の形而上学にたいする、また一般にあらゆる形而上学にたいする一つの公然と名乗りをあげての闘争でもあった」(カール・マルクス『神聖家族』)といわれるフランス唯物論の思想構造、その思想史的系譜およびその物質的基礎を究明することにあった。この訳書は、同研究会の成果でもある。同人であった長谷川正安、平田清明、上野裕也の諸氏のご努力がなかったならば、この訳書は日の目をみなかったであろう」(同頁)。

★その後、明治図書の創業50周年記念出版である「世界教育学選集」の第37巻として、改訳版の『人間論』が1966年に刊行されます。こちらは原著の第1巻、第2巻(抄訳)、第5巻、第10巻の本文を訳出したもの。第3巻は収録されていません。底本は世界古典文庫版と変わりありません。選書という性格もあって、初訳出版に至る上記のエピソードは省略されています。

★『黒人法典』は、フランスの哲学者ルイ・サラ=モランス(Louis Sala-Molins, 1935-)の代表作『Le Code noir ou le Calvaire de Canaan』(PUF, 1987)の全訳。底本にはPUFのカドリージュ叢書版第6版(2018年)が用いられています。「黒人法典」というのは、ルイ14世治世下の1685年に発布された法文書で、奴隷貿易と奴隷制へのフランスの関与を示す史料です。「本書がフランスにおける黒人法典の認知に貢献した文献であるのは疑いようがない。原著が刊行された1987年当時、黒人法典は一部の歴史家のあいだで知られる程度のものであり、奴隷貿易と奴隷制の歴史のなかの一コマにすぎなかった。原著のなによりもの貢献は、古文書や古い専門書のなかに埋もれていた黒人法典というテクストを復刻し、だれもが読めるようにしたことにある」(訳者解説より、452頁)。

★もう少し訳者解説から引きます。「著者は、黒人法典の発掘を通じて、奴隷貿易と奴隷制をめぐる問題群を発見し、これらをフランスの思想史のなかに導入したのである。なぜフランスはアンティル諸島の黒人奴隷を黒人奴隷として正当化する法律を制定したのか。なぜ1658年に制定された黒人法典は、人権や平等をうたう啓蒙主義の時代を平然と生き延びて160年以上も続いてきたのか。こうした問いに答えるためには、たんに黒人法典を復刻するだけでは十分ではなく、黒人法典が成立する以前にまでさかのぼり、フランスで黒人がどのように当時の言説のなかで表象され、論じられてきたのかをたどる必要があったのである」(453~454頁)。

★なお同書では全面帯が採用されているのが印象的です。サラ=モランスの既訳書には、『ソドム――法哲学への銘』(原著1991年;馬場智一/柿並良佑/渡名喜庸哲訳、月曜社、2010年)があり、14年ぶりの待望の新刊となります。
https://getsuyosha.jp/product/978-4-901477-74-1/

★『家の哲学』は、イタリア出身の哲学者で現在フランスの社会科学高等研究院(EHESS)准教授をつとめるエマヌエーレ・コッチャ(Emanuele Coccia, 1976-)の著書『Filosofia della casa: Lo spazio domestico e la felicità』(Einaudi, 2021)の、仏訳版『Philosophie de la maison : L'espace domestique et le bonheur』(traduit par Léo Texier, Rivage, 2021)からの全訳。訳者あとがきによれば「著者自身がフランス語で著述でき、訳にもみずから目を通していること、元のコラムや講演がフランス語であること、仏伊語版がほぼ同時に出版されていることからも、原著との異同や解釈不一致の類はほぼないと思われる」。

★序論から引きます。「哲学にとって、家を忘れることは、みずからを不幸にすること、つまり幸福を都市と政治とに従わせることで、思考不可能にしてしまうことを意味する。哲学は、家を家系図と財産という力に任せてしまうことで無理やり切り縮め、家を解剖学的な身体と混同し、幸福のしるしをもつすべてを壁のかなから都市へと追い出してしまった。幸福が実体をもたない影絵となったとすれば、その理由は、家の敷地――そのなかにはもはや幸福のための場所はない――から切り出されたことで、幸福が政治的な事柄となり、都会にしかない存在であると偽ってきたからだ。反対に、近代的な街とは、もはや自分の家で作り出すことができない自由と幸福とを生み出すために、家の秩序に逆らって建築されたちぐはぐな場所、技術、装置の総体であり、たぐいまれな発明にほかならない。街の労働、消費、教育、文化あるいは娯楽をつうじて、わたしたちは自然に、よく考えないまま、この奇妙な見て見ぬふりの状態をやりすごすようになったのである」(7~8頁)。

★「近代において哲学は、都市にすべてを位置づけた。しかし、わたしたちの惑星の未来は家のなかにしか存在しえないのだ。わたしたちは家を考えなければならない。というのも、わたしたちは、この惑星から本当の、品来の住まいを作ること、あるいは、わたしたちの住居から真の惑星、つまりみなを迎え入れることのできる空間を作るよう強いられながら暮らしているからだ。都市をグローバル化しようという近代の計画は、わたしたちのアパートを開放して地球と一致させるという計画に置き換わったのだ」(11頁)。



★『教育の超・人類史』は、フランスの思想家ジャック・アタリ(Jacques Attali, 1943-)の著書『Histoires et avenirs de l'éducation』(Flammarion, 2022)の訳書。巻頭には「日本の読者へ」という一文が加えられています。「これまで私はさまざまな分野において、過去を分析することによって未来を予測する書籍を多数上梓してきた。本書もそうした試みの一冊だ」(2頁)。「世界の他の地域と同様、日本においても、外国の教育事例に精通し、性別や出自にかかわらず、生徒、若者、大人に教育の機会を均等に保証し、インターネットやビデオゲームの中毒に抗い、読書と手書きを奨励し、競争の激化を緩和し、個人のテスト結果に重きを置きすぎず、将来必要とされる資質を育成することが急務なのだ」(3頁)。主要目次を以下に転記しておきます。

日本の読者へ
序章 教育の歴史から未来を予測する
第一章 教育のはじまり――ホモ・サピエンス登場から2000年前まで
第二章 一神教による教育の支配――紀元一世紀から1448年まで
第三章 印刷技術の発達と宗教改革で広がる知識――1448年から1700年まで
第四章 権力者と理想の教育――1700年からフランス革命まで
第五章 教育の発達と経済――1800年から1900年まで
第六章 すべての人が教育を受ける時代――1900年から2022年まで
第七章 これからの教育――ホモ・バルバリクスあるいはホモ・ハイパーサピエンスのシナリオ
筆を置く前に
謝辞

★日本の事例は第五章での「日本:徹底した西洋化」と第六章での「日本:まもなく子供のいなくなる国の過酷な競争」をはじめ、節題に日本と書かれていなくても言及があります。巻末の「筆を置く前に」では、世界に向けた20の提言、フランスに対する20の具体的な提言、読者に向けた20の具体的な提言、が箇条書きで書かれていますので、時間のない読者はまずここから読んでもいいかもしれません。

★『教理講話』は、「知泉学術叢書」の第32弾。東方正教会の聖人であり、小アジア(現在のトルコ)で苦難の人生を歩んだ、新神学者シメオン(Συμεὼν ὁ Νέος Θεολόγος, 949-1022)の主著『カテケーシス』の全訳。底本はフランスのCerfが刊行しているシリーズ「Sources Chrétiennes」で1963年から1965年にかけて出版された第96巻第104巻第113巻です。シメオンの著作は平凡社版『中世思想原典集成』や新世社版『フィロカリア』などに翻訳が収録されたことがありますが、アンソロジー以外でまとまった著作が一冊の独立した書籍として翻訳出版されるのは、本書が初めてになります。

★カバー裏紹介文に曰く「東方教会で「神学者」の名称を与えられた三人のうち最後の人「新神学者シメオン」(949-1022)は10-11世紀に活躍した,霊性史上特異な存在であった。この「新」とは彼の新奇さや異様さを示し,教会の制度を超えて神と人間との直接の交わりを強調したことによる。/本書は彼が修道士たちに向けて,修道生活の細かい注意や生活指針から始まり祈りと信仰の真実まで,修道士の霊性を高めるために行った講話の全訳である」。なお、三人の神学者のうちシメオンに先行する二人というのは、福音記者ヨハネと、ナジアンゾスのグレゴリオスのこと。

★『意識と無意識(1934)』は、スイス連邦工科大学で行われたユングによる講義の記録である「ETHレクチャー」の第2巻。既刊には、2020年の第1巻『近代心理学の歴史(1933-1934)』と、2023年8月の第6巻『ヨーガと瞑想の心理学(1938-1940)』があり、今回で3点目となります。原著は『Consciousness and the Unconscious』(2022)。帯文は以下の通り。「ユング心理学の概念を入門的にわかりやすく紹介した基礎講座。大学に復帰した2年目、1934年に行われた講義の記録。ユングみずからが「意識と無意識」「思考・感情・感覚・直観」「タイプ」「言語連想検査」「夢の臨床」など、ユング心理学を知るための入口となる基礎的な概念を一つ一つていねいに説く。入門の書であり、ユングの精髄が秘められた一冊」。全12講。

★「私の経験からすると、たいてい、基本となる用語が原因で理解が困難となるようです。そこで、今学期はより素朴なものごと――つまり、基本的な用語と方法――についてお話しすることにしました。この話を通じて、私が扱っている概念たちがどのように生まれてきたのかを、みなさんにご説明したいと思います」(第1講、3頁)。「無意識の機能は、意識の機能とは、いくぶん異なる〔…〕。思考プロセスや感情プロセスの無意識的なあり方は、古風であるという点で、明確に異なっています。その機能の特徴は、古代的で、大衆の信念に近いものです。無意識はより原始的で、そのためその結論は、私たち自身の推論とは一致しません。それはむしろアナロジーによって動いていきます」(第4講、32頁)。

★『ビジュアル図鑑 魔導書の歴史』は、英国の歴史家でハートフォードシャー大学教授のオーウェン・デイヴィス(Owen Davies, 1969-)の著書『Art of the Grimoire: An Illustrated History of Magic Books and Spells』(2023)の訳書。米国のYale University Pressから刊行されている版をネットでは見かけますが、訳書の奥付を見る限り、著作権は英国のQuarto Publishingにあるようです。版元ウェブサイトの単品頁にも「原書はビジュアルに定評のあるイギリスのクオルト社、アメリカ版は名門イエール大学出版局から刊行」とあります。帯文に曰く「人類の想像力が結晶した魔導書の、妖しくも美しい世界を、250点超の図版とともにたどる」と。

★帯表4に記載されている「本書の特徴」も転記しておきます。「1.魔導書の歴史を網羅した、初めてのビジュアル図鑑。2.西洋だけでなく、アジア、アフリカ、南米など世界の魔導書を解説。3.魔導書の歴史とともに、筆記や印刷の発展史もわかる。4.日本の妖怪やアニメも登場。5.重要なポイントはコラムで詳しく解説」。図版はオールカラーで美しいです。デイヴィスの既訳書には、『世界で最も危険な書物――グリモワールの歴史』(原著2009年;宇佐和通訳、柏書房、2010年;著者名表記は「オーウェン・デイビーズ」)があります。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

而今而後〔ジコンジゴ〕――批評のあとさき(岡﨑乾二郎批評選集 vol.2)』岡﨑乾二郎(著)、亜紀書房、2024年7月、本体3,900円、A5判上製516頁、ISBN978-4-7505-1838-1
ロシア文学の怪物たち』松下隆志(著)、書肆侃侃房、2024年7月、本体1,800円、四六判並製200頁、ISBN978-4-86385-629-5

★『而今而後』は、造形作家で批評家の岡﨑乾二郎(おかざき・けんじろう, 1955-)さんの批評選集の第2巻で、完結巻となります。。第1巻『感覚のエデン』(亜紀書房、2021年)は毎日出版文化賞(文学・芸術部門、第76回)を受賞されています。帯文に曰く「而今而後(=いまから後、ずっと先も)の世界を見通し、芸術・社会の変革を予見する。稀代の造形作家の思想の軌跡を辿り、その現在地を明らかにする、比類なき批評集」。全五章で、各章巻末に著者自身の談話による解題が加えられています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。なお帯文には、柄谷行人さんの推薦文も記載されています。「岡﨑乾二郎は稀有な存在である。彼にあっては、芸術制作と哲学的認識、自身の生活と社会運動が一つになっている」。

★「而今而後」の出典は『論語』泰伯第八です。「曽子有疾。召門弟子曰、啓予足、啓予手、詩云、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄冰。而今而後、吾知免夫、小子」(曾子、疾あり。門弟子をよびて曰く、予が足をひらけ、予が手をひらけ。詩に云う、戦戦兢兢として、深淵に臨むが如く、薄冰を履むが如しと。今よりして後、吾免かるるを知るかな、小子)。版元プレスリリースによれば「この言葉には〔…重度の脳梗塞からの〕「恢復」の過程が重ねられています」とのこと。

★書名にもなっている巻頭に置かれた文章「而今而後」は、編集部のノートによれば、もともとは2015年に著者が還暦を迎えるにあたって制作された私家版の冊子『而今而後』で発表されたもの。「連続する時間の中でただ一回きりのはずの出来事-死が、再び、いまこの私の内に起こる。その死はもはや私のものである。誰にも代理できない痛みを持って私は、その死とともに再び生まれる、而今而後」(15頁)。著者が脳梗塞を患ったのはその6年後の2021年です。「入院後に読み返して、こちらも、脳梗塞後に経験していることが予告的に書かれていることに自分でも驚きました」(第Ⅰ章著者解題より、90頁)。

★『ロシア文学の怪物たち』は、岩手大学准教授で現代ロシア文学・文化がご専門の松下隆志(まつした・たかし, 1984-)さんによる書き下ろし。帯文に曰く「ロシア文学は現実の不確かさを読者に突きつけ、世界の裂け目に開いた深淵を露わにする。『青い脂』(ソローキン)や『穴持たずども』(マムレーエフ)など“怪作”を翻訳してきた著者による「悪」のロシア文学入門」。木澤佐登志さんが推薦文を寄せておられます。「虚無的な現実を覆う皮膜の下で蠢く怪物たちの饗宴。間違いない、本書は毒にも劇薬にもなりうる」。

★取り上げられている書目を列記すると、ゴーゴリ『外套』、ゴンチャロフ『オブローモフ』、ドストエフスキー『地下室の手記』、トルストイ『イワン・イリイチの死』、チェーホフ『六号室』、ザミャーチン『われら』、マムレーエフ『穴持たずども』、ソローキン『マリーナの三十番目の恋』、ペレーヴィン『ジェネレーション〈P〉』、エリザーロフ『図書館大戦争』、の計10点に1章ずつ割かれ、最後の第11章では、ナールビコワ『ざわめきのささやき』/トルスタヤ『クィシ』/スタロビネツ『むずかしい年ごろ』の3点が取り上げられています。『クィシ』は抄訳のみですが、そのほかは訳書があります。

★「危うい魅力に満ちたロシア文学の古典や、いずれ古典と呼ばれるようになるだろう現代の重要な作品について、自分なりに物語ろうと思う。古典と言うと、ややもすると古臭くて退屈なものを想像するかもしれないが、安心してほしい。ロシア文学には、誇りをかぶって大人しく本棚に収まっているような作品はひとつとしてないのだから」(はじめに、4頁)。「世界の深淵と対峙することを怖れないロシア文学の作家たちを、私は畏怖の念を込めて「怪物」と呼ぶことにしよう」(5頁)。「この本は〔…〕いわば、ロシア文学の怪物たちとのごく私的な対話である」(同頁)。巻末にはブックガイドが配されています。


# by urag | 2024-07-14 23:57 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 07月 09日

月曜社8月新刊:東京藝術大学未来創造継承センター年報「Creative Archive」創刊

2024年08月01日取次搬入予定 ジャンル:芸術・年報

Creative Archive vol.1
ヨミ:クリエイティヴ・アーカイヴ・ヴォリュームワン
シリーズ:東京藝術大学未来創造継承センター年報
発行:東京藝術大学未来創造継承センター
発売:月曜社
本体1,500円 A5判(縦210mm×横148mm×束幅21mm、重量450g)並製272頁 ISBN:978-4-86503-191-1 C0070

芸術の何を、どのように継承するのか。新たな創造につながる仕組みをデザインし、未来をともにつくる「クリエイティヴ・アーカイヴ」――作品はもとより、楽器、記録、デジタルデータ、文書といった芸術資源や創造の過程、文脈などもアーカイヴ・保存・継承し、新たな表現や概念の開拓へと持続的な循環を促し、未来における芸術の役割を探求する。単に過去を保存するではなく、それ自体が創造的な実践であり、「未来」を創造する実験へ。東京藝術大学未来創造継承センター年報、創刊第1号。

[主要目次]
「未来」のために「過去」を創造する|毛利嘉孝
未来創造継承センターについて|未来創造継承センター
◆第1章:特集
キックオフ・シンポジウム「未来・創造・継承」
 開会あいさつ|桐野文良
 第1部《未来》
  センターの理念と目的|平諭一郎
  シンボルマークのデザイン|小河原美波
 第2部《創造》
  大学美術館コレクションの創造・作品アーカイヴ|黒川廣子
  音楽の創造と記録~「GEIDAI Music Archive」の取り組み|山田香
  芸術教育研究アーカイヴの継承とアートDX|岡本美津子
  アーカイヴから紡ぎ出される東京藝術大学|嘉村哲郎
  未来の共生社会をつくる:アート・コミュニケーション共創拠点|伊藤達矢
 第3部《継承》
  センターへの期待|日比野克彦
  ラウンドテーブル|日比野克彦・岡本美津子・伊藤達矢・嘉村哲郎(聞き手=桐野文良・平諭一郎・田口智子)
 閉会あいさつ|桐野文良
 論考:クリエイティヴ(を・な・に)アーカイヴ(に・を・を)|平諭一郎
 シンポジウム「戦争とアーカイヴ」
  開会あいさつ|毛利嘉孝
  第1部「戦没学生は音楽で何を残したのか」
   「戦没学生のメッセージ」プロジェクトのこれまで|大石泰
   奇跡のプロジェクト 戦没学生のメッセージと声聴館|橋本久美子
   毛利センター長のコメント&応答(1)|毛利嘉孝・大石泰・橋本久美子
   戦没学生は音楽で何を残したのか|楠田健太
   大学史史料室の活動より 2022~2023年|橋本かおる
   演奏家の立場からみた「戦没者のメッセージ」プロジェクト:声楽家・関口直仁氏インタビュー|聞き手=橋本かおる
   「戦没学生のメッセージ」から|仲辻真帆
   毛利センター長のコメント&応答(2)|毛利嘉孝・楠田健太・橋本かおる・仲辻真帆
  第2部「戦争を記憶すること・記録すること」
   その1:自らの演劇実践からアーカイヴを考える:《北投ヘテロトピア》、《戦争画/ヘテロトピア》、《国民投票プロジェクト》|高山明
   その2:戦争のアーカイヴとしての芸術、それに抗う芸術:《爆撃の記録》と《日本の戦争美術 1946》|藤井光
   その3:ディスカッション|高山明・藤井光(司会=毛利嘉孝・平諭一郎)
 論考:ある活動からの報告書:マイナー音楽が行き交う現場とドクターU氏のコレクションを訪ねる|幅谷和眞
◆第2章:報告
 「フィールド・レコーディング」の現在と小泉文夫記念資料室|酒井絵美
 対談:フィールドワークやフィールド・レコーディングの過去・現在・未来|柳沢英輔・尾高暁子(司会=毛利嘉孝)
 アートとプロジェクトの記録と記憶を語る茶話会:勉強会 vol.1|平諭一郎
未来創造継承センター・小泉文夫記念資料室公開講座「北欧笛の魔術師ヨーラン・モンソン、レクチャー・コンサート」レビュー|酒井絵美
 ヨーラン・モンソン氏への書面インタビュー|質問者=尾高暁子
◆第3章:活動記録
 芸術資源活用プロジェクト
 クリエイティヴ・アーカイヴ研究会
 日比野克彦を保存する・クラウドファンディング成果報告展
 「全国アート・プロジェクト資料」の受け入れ
 受託研究「被災皮革資料等安定化処理に関する研究」
 受託研究「企業が保有する芸術作品の保存と継承に関する研究」
 授業「創造と継承とアーカイヴ:領域横断的思考実験」
 2022 年度の活動一覧
 東京藝術大学未来創造継承センター規則

アマゾン・ジャパンで予約受付中。

月曜社8月新刊:東京藝術大学未来創造継承センター年報「Creative Archive」創刊_a0018105_19345584.jpg


# by urag | 2024-07-09 19:32 | 近刊情報 | Comments(0)
2024年 07月 07日

注目新刊:ちくま学芸文庫7月新刊、ほか

注目新刊:ちくま学芸文庫7月新刊、ほか_a0018105_19204005.jpg


★まもなく発売となるちくま学芸文庫の7月新刊4点を列記します。

『セクシュアリティの歴史』ジェフリー・ウィークス(著)、赤川学(監訳)、武内今日子/服部恵典/藤本篤二郎(訳)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,400円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51246-8
『日中15年戦争』黒羽清隆(著)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,900円、文庫判768頁、ISBN978-4-480-51247-5
『中世政治思想講義――ヨーロッパ文化の原型』鷲見誠一(著)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,300円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51248-2
『日本人』柳田國男(編)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,300円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51251-2

★『セクシュアリティの歴史』は文庫版オリジナルの訳し下ろし。英国の歴史社会学者ジェフリー・ウィークス(Jeffrey Weeks, 1945-)による『What is Sexual History?』(Polity, 2016)の全訳です。ウィークスの著書としては『セクシュアリティ』(原著1986年;上野千鶴子監訳、河出書房新社、1996年)、『われら勝ち得し世界』(原著2007/2015年;赤川学監訳、弘文堂、2015年)に続く3冊目の訳書です。「性の歴史とは何か。それはいかにして書かれ、何について語ってきたか。19世紀から現在までの展開を簡潔に記した、第一人者による画期的概説書」(カバー裏紹介文より)。主要目次を転記しておきます。

序文・謝辞
イントロダクション
第1章 性の歴史を組み立てる
第2章 性の歴史の発明
第3章 同性関係の歴史を問い直し、クィア化する
第4章 ジェンダー、セクシュアリティ、権力
第5章 性の歴史の主流化
第6章 性の歴史のグローバル化
第7章 記憶、コミュニティ、声
監訳者解説
さらなる読書案内
原注
人名索引/事項索引

★「性の歴史は今日、高度な理論とコミュニティ(共同体)の歴史の両面を、つまり象牙の塔の専門主義と民主的実践の双方を内包している。それは、より上位の歴史学的実践においても大きな存在感を示し、性政治の実践における歴史的存在になっている。/性の歴史に関する簡潔な概要にすぎない小著が、完全に包括的であることは不可能である。だから私は、いくつかの鍵となる主題に絞ることにした。主体の「発明」と批判的な性の歴史学の展開、同性愛の歴史化と性/ジェンダーの見解の相違、ジェンダーと権力関係、抑圧と抵抗の諸次元の交差性、性の歴史の主流化と「近代セクシュアリティ」の登場、性の歴史のグローバル化、コミュニティの歴史が有する意義である。これらの主題を探究することによって、性の歴史を実践するという、より広がりある冒険に対する洞察を読者が得られることを、私は望んでいる」(序文、12~13頁)。

★『日中15年戦争』は、教育社より3巻本で1977年から79年にかけて刊行された単行本の文庫化。「「戦争へのあこがれ」に抗して――多様な人びとの視点とともに描く全体像」(帯文)。文庫版解説は、埼玉大学教授の一ノ瀬俊也さんによる「戦争の全体像復元の壮大な試み」。著者の黒羽清隆(くろは・きよたか, 1934-1987)さんは歴史学者。文庫化された著書に『太平洋戦争の歴史』(講談社学術文庫、2004年)がありますが、現在は品切。

★『中世政治思想講義』は、政治学者の鷲見誠一(すみ・せいいち, 1939-)さんの著書『ヨーロッパ文化の原型――政治思想の視点より』(南窓社、1996年)の改題文庫化。巻末特記によれば「書名を変更し、本文内の誤りは適宜訂正した」とのこと。著者による「文庫版あとがき」が付されています。「政治と宗教が未分離だった時代、中世。近代を用意する政治思想の誕生と発展に迫った出色の講義」(帯文)。

★『日本人』は、1954年に毎日新聞社の「毎日ライブラリー」の1冊として刊行されたものの文庫化。「柳田國男とその愛弟子たちによる日本人論の白眉」(帯文)。執筆分担は以下の通り。一「日本人とは」柳田國男、二「伝承の見方・考え方」萩原龍夫、三「家の観念」柳田國男、四「郷土を愛する心」堀一郎、五「日本人の生活の秩序」直江広治、六「日本人の共同意識」最上孝敬、七「日本人の表現力」大藤時彦、八「日本人の権威観」和歌森太郎、九「文化の受けとり方」萩原龍夫、十「不安と希望」堀一郎。論考の後には執筆陣による座談会が収められています。巻末には、阿満利麿さんによる文庫版解説「「日本人」論のむつかしさ」が加わっています。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。『パリと五輪』のみまもなく発売で、その他は発売済です。

パリと五輪――空転するメガイベントの「レガシー」』佐々木夏子(著)、以文社、本体2,700円、四六判並製328頁、ISBN978-4-7531-0387-4
古くて新しい国――ユダヤ人国家の物語』テオドール・ヘルツル(著)、村山雅人(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2024年7月、本体4,000円、四六判並製414頁、ISBN978-4-588-01168-9
文藝 2024年秋季号』河出書房新社、2024年7月、本体1,400円、A5判並製568頁、雑誌07821-08
夜の日記』ヴィーラ・ヒラナンダニ(著)、山田文(訳)、金原瑞人選モダン・クラシックYA:作品社、2024年7月、本体2,200円、46判並製240頁、ISBN978-4-86793-041-0
現代ネット政治=文化論――AI、オルタナ右翼、ミソジニー、ゲーム、陰謀論、アイデンティティ』藤田直哉(著)、作品社、2024年6月、本体2,700円、46判並製352頁、ISBN978-4-86793-037-3
ベルリオーズ ドラマと音楽――リスト・ワーグナーとの交流と共に』村山則子(著)、作品社、2024年6月、本体3,600円、46判上製440頁、ISBN978-4-86793-035-9
わからないままの民藝』朝倉圭一(著)、作品社、2024年6月、本体2,700円、四六判並製272頁、ISBN978-4-86793-033-5
インドの台所』小林真樹(著)、作品社、2024年6月、本体2,700円、四六判並製272頁、ISBN978-4-86793-031-1

★『パリと五輪』はまもなく発売。フランス在住の文筆家・翻訳家の佐々木夏子(ささき・なつこ)さんによる五輪論です。「パリと五輪の因縁から、進行するジェントリフィケーション、そして「オリンピックマネー」まで。〔…〕2007年より在仏の著者が描く、どこよりも詳しいパリ五輪の顛末」(帯文)。「国際オリンピック委員会の主催するイベントが、開催都市がどこであれ必ず同質の問題を生んでしまう構造を解明することは、本書の大きな目的のひとつである」(序、4頁)。「おそらく日本のメディアは「さすがフランスでやるオリンピックは素敵」といった言説を形成するはずだ。それらを止められるとまでは思っていないが、対抗言説で先制することで日本におけるメガイベント批判に貢献できれば」(同、6~7頁)とのこと。以文社ウェブサイトでの佐々木さんの連載「誰がパリ五輪に抵抗しているのか?」(2021年11月~2023年7月)の発展形と理解してよさそうです。

★『古くて新しい国』は、オーストリアの作家でシオニストのテオドール・ヘルツル(Theodor Herzl, 1860-1904)の小説『Altneuland』(Seemann Nachf., 1902)の訳書。帯文に曰く「シオニズム運動の推進者であり、イスラエル建国の立役者として知られるユダヤ人作家」による「シオニズムの宣言書『ユダヤ人国家』〔1896年〕での構想をより克明に描き出し、〔…〕多くの反響を呼んだ近未来小説の初邦訳」。

★訳者解説では次のように紹介されています。「『古くて新しい国』は各部が六章からなる全五部構成である。内容は二つの部分に分けられる。反ユダヤ主義が強まっていた1902年当時のウィーンを舞台に、リベラリズム全盛の1870年代以降に一般化していた、高学歴を積むことによって自分の将来の夢を描くが定職に就けず、その結果、高等プロレタリア化していくユダヤ人インテリ、豪奢な生活ぶりをまだ誇示できたブルジョアのユダヤ人、そしてシオニズムに活路を開こうとする東方ユダヤ人難民と、ユダヤ人の諸相が映し出される第一部。そして、それから二十年後のパレスチナに築かれた、他民族との平等互恵を実現した超近代的で理想的なユダヤ人国家が、人びとの生活風景を通じて具体的に描出される残りの四部である。小説で重要な部分を成しているのは、表題が示すとおり後半の四部である」(397頁)。

★「『古くて新しい国』は実際、空想未来小説としても読める。しかし、政治的シオニズムの指針を示した『ユダヤ人国家』で示された国家像を、登場人物たちの活動を通じて細部に至るまで具体的に描出したこの小説は、明らかに『ユダヤ人国家』の小説ヴァージョンであり、ヘルツルの集大成だと言っていい。そして、本書は成立の過程や内容と作者の発言に鑑みて、ユダヤ人および非ユダヤ人に向けた政治的シオニズムのプロパガンダ小説とみなすことができる(以上の理由から、邦訳版では「ユダヤ人国家の物語」という副題を付け加えた。/本訳書が、パレスチナ-イスラエル問題の現実と、さらに、その根源、および政治的シオニズムの起こりについて考えるきっかけとなれば幸いである」(407~408頁)。

★『文藝 2024年秋季号』の特集は、「世界文学は忘却に抵抗する」「怖怖怖怖怖」の2本立て。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。どちらの特集も興味深いです。特集の扉頁ある紹介文を引くと、前者は「本特集では、数々の訳書を手がける翻訳者による鼎談、アジアの作家たちによる「戦争」をテーマにした書き下ろし小説と、往復書簡、エッセイ、さまざまな言語圏の翻訳者・研究者へのアンケートを掲載し、世界の文学の「いま」をとらえる」。後者は「作家、歌人、精神科医、研究者、テレビプロデューサーなどが、さまざまな分野から「いまこの時代の新しい怖さとは何なのか?」「なぜ怖いのか?」を探る」。後者では、春日武彦さんと梨さんの対談「本当に怖いフィクションとは何か?」、大森時生さんによる、墨塗りが所々にあるエッセイ「衝動的煩悩」、木澤佐登志さんによる卓抜な論考「この世界という怪異――実話怪談と思弁的怪異」などに惹かれます。

★作品社の新刊5点。『夜の日記』は新シリーズ「金原瑞人選モダン・クラシックYA」の第2弾。米国の作家ヴィーラ・ヒラナンダニ(Veera Hiranandani)の小説『The Night Diary』の訳書です。「この作品は、1947年8月のインドとパキスタンの分離独立をテーマにして小説」(訳者あとがきより)とのこと。「この一家の経験は、おおむねわたしの父がわの家族の経験をもとにしています。〔…〕家とたくさんの持ち物を失い、見知らぬ場所で難民として再出発することを強いられました。わたしの親類が経験したことをもっとよく知りたい。その気持ちが大きな動機になって、この本を書きました」(著者あとがき)。

★『現代ネット政治=文化論』は、日本映画大学准教授で批評家の藤田直哉(ふじた・なおや, 1983-)さんが2014年から2023年にかけて各種媒体で発表してきた論考をまとめたもの。「本書は、インターネットが大きく変えている現在の政治状況を、文化との連続性の観点から考えるものである。/大きく注目する文化は、初期のネットカルチャーと連続性を持っていたサブカルチャーとオタクカルチャーである。〔…〕現在起こっている政治や社会の現象を理解するには、初期のインターネットやオタクカルチャーの歴史を知っておく必要がある。そこで涵養されたマインドや価値観が、今にまで影響しているように思われるからだ」(はじめに)。

★『ベルリオーズ ドラマと音楽』は、作家の村山則子(むらやま・のりこ=りおん)さんによる音楽家論。「ベルリオーズの人間性に焦点を当て、多方面からの視点を加えて、その立体像を浮かび上がらせることを心掛けた。彼の音楽作品については、その全体像を見るのではなく、あくまで「ドラマと音楽」という観点から、三作品〔幻想交響曲、ロメオとジュリエット、トロイアの人々〕のみに留めた。主に残された書簡や自伝から構成し、ベルリオーズ、そして彼を取り巻くワーグナーやリスト等の声が直接響き、こだまする作品にしたいと考えた」(終わりに)とのこと。

★『わからないままの民藝』は、飛騨高山の山奥の古民家で民芸の器を中心に新旧の生活道具を扱い、私設図書館を併設する「やわい屋」の店主、朝倉圭一(あさくら・けいいち, 1984-)さんによるエッセイ集。「民藝に対しての詩的な想いと、これまであまりまとめて語られることがなかった飛騨と民藝運動の関わりについての話、そして古民家を移築再生して営んでいる「やわい屋」の始まりについて書き記した一冊」(はじめに)とのことです。

★『インドの台所』は、インド食器や調理器具などの専門店「有限会社アジアハンター」の代表取締役、小林真樹(こばやし・まさき)さんによる「インド台所紀行」(帯文)。「本書で紹介するのは、北は夏でも朝晩寒いカシミールから、南は呼吸するだけで汗の出るタミルの最南部まで、巨大な冷蔵庫を6台も抱える大富豪から、わずかな身の回り品しか持っていない路上生活者までの、さまざまな調理現場である。〔…〕一戸一戸の立場や地位、地域は異にしながらも、全体として共通するインド像が浮かび上がってきた」(はじめに)。カラー図版多数。


# by urag | 2024-07-07 18:49 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 06月 30日

注目新刊:ヤン・アスマン『文化的記憶』福村出版、ほか

注目新刊:ヤン・アスマン『文化的記憶』福村出版、ほか_a0018105_22451267.jpg


文化的記憶――古代地中海諸文化における書字、想起、政治的アイデンティティ』ヤン・アスマン(著)、安川晴基(訳)、福村出版、2024年7月、本体6,300円、A5判上製424頁、ISBN9784571300424
道元「赴粥飯法」』道元(著)、石井修道(監修)、ビギナーズ日本の思想:角川ソフィア文庫、2024年6月、本体1,060円、文庫判320頁、ISBN978-4-04-400721-8

★『文化的記憶』は、ドイツのエジプト学者ヤン・アスマン(Jan Assmann, 1938-2024)の主著『Das kulturelle Gedächtnis: Schrift, Erinnerung und politische Identität in frühen Hochkulturen』(Beck, 1992)の待望の全訳。訳者解説によれば、ドイツ語版第七版(2013年)と著者自身によって加筆されている英語版(2011年)を参照し翻訳したとのことです。「本書の三つのテーマが、このささやかなドラマから聞こえてくる。すなわち、「私たち」「あなた方」「私」に表されているアンデンティティというテーマ。この「私たち」を基礎づけ、構成する出エジプトの物語に表されている想起というテーマ。そして、父と子のこの関係に表されている継続と再生産というテーマである」(序論、3頁)。

★「本書は、これらの三つのテーマ――「想起」(あるいは過去の参照)、「アンデンティティ」(あるい政治的想像力」)、そして「文化の継続」(あるいは伝統の形成)――の関連を扱う。どの文化も、その〈連結構造〉と呼べるかもしれないものを形成する。この連結構造は、結びつけ、つなぎ合わせる働きをする。それも二つの次元――社会の次元と時間の次元でそうする。この連結構造は、「象徴的な意味世界」(バーガー/ルックマン)として、ある共有の経験と期待と行為の空間を形作ることで、人々を互いにつなぎ合わせる」(同頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本年2月に逝去したヤン・アスマンの著書の翻訳には以下のものがあります。『エジプト初期高度文明の神学と信仰心』吹田浩訳、関西大学出版部、1998年。『エジプト人モーセ――ある記憶痕跡の解読』安川晴基訳、藤原書店、2017年。

★『道元「赴粥飯法」』は、曹洞宗の食事作法書。「禅では「さとり」の境地を、日常の営みの中に見出す。そのため、生活の要である「食」は、大事な修行の場でもあるのだ。〔…〕やさしい現代語訳と解説に豊富な写真資料を加え、「解題」「道元禅師の生涯」も収録した決定版」(カバー表4紹介文より)。監修者の石井さんはこう紹介されています。「本書は、食事作法について、一挙手一投足の動きや注意事項を極めて詳細に記している。読まれた方は、道元禅師が示す教えがあまりにも細かいことに、きっと驚きを持たれるに違いない。しかしこれは、修行する者を規則で縛って不自由にすることを意味しない。示されている作法は、最も合理的で無駄の無い、崇高な美を体現しているものである。本書の姉妹編ともいうべき『典座教訓』にも、食を作る心構えや、それを担う典座の職はさとった仏のはたらきと同じであることなどが詳しく記されている」(はじめに、4頁)。

★食をめぐる心得と作法について、食べる側のそれを説いた『赴粥飯法』と、作る側のそれを説いた『典座教訓』は対となる著作であり、講談社学術文庫では両書が1冊にまとまっていますが、角川ソフィア文庫では別々になっています。藤井宗哲訳『道元「典座教訓」――禅の食事と心』(2009年)がそれで、現在版元品切ですが、電子書籍はあります。『赴粥飯法』が発売となったいま、いずれ重版されることを期待したいです。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

林達夫のドラマトゥルギー ――演技する反語的精神』鷲巣力(著)、平凡社、2024年6月、本体3,800円、4-6判上製400頁、ISBN978-4-582-83963-0
岳麓書院蔵秦簡 「為獄等状四種」訳注――裁判記録からみる戦国末期の秦(上)』柿沼陽平(編訳注)、東洋文庫:平凡社、2024年6月、本体3,200円、B6変型判上製函入322頁、ISBN978-4-582-80918-3
岳麓書院蔵秦簡 「為獄等状四種」訳注――裁判記録からみる戦国末期の秦(下)』柿沼陽平(編訳注)、東洋文庫:平凡社、2024年6月、本体3,200円、B6変型判上製函入282頁、ISBN978-4-582-80919-0
楽しみと日々――壺中天書架記』高遠弘美(著)、法政大学出版局、2024年6月、本体7,000円、四六判上製878頁、ISBN978-4-588-46025-8
二人のウラジーミル――レーニンとプーチン』伴野文夫(著)、藤原書店、2024年6月、本体2,200円、四六変型判上製240頁、ISBN978-4-86578-427-5
甦るシモーヌ・ヴェイユ 1909-1943――純粋にして、勇敢・寛容(別冊『環』29)』鈴木順子(編)、藤原書店、2024年6月、本体2,800円、菊変判並製224頁、ISBN978-4-86578-423-7
現代思想2024年7月号 特集=ウィーナーとサイバネティクスの未来』青土社、2024年6月、本体1,600円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1467-4
農業と経済 2024年春号(90巻2号)』英明企画編集、2024年6月、本体1,700円、A5判並製224頁、ISBN978-4-909151-61-2

★『林達夫のドラマトゥルギー』は、帯文に曰く「戦前戦後を通じ、岩波書店、中公公論社、角川書店、平凡社などの出版社で書籍雑誌を編み、「饒舌な編集者」にして「寡黙な執筆者」として活動した林達夫。不透明な時代を生きるわれわれに強く響く、その思想と行動の軌跡」。「その精神形成」「存在証明としての翻訳」「思想運動としての編集」「方法としての反語」「何が林達夫を支えたのか」の五部構成。資料編として、林の二篇の文章「中央公論社の現状について」「ルネッサンス」を併録。なお平凡社では『林達夫著作集』全7巻(1971~1972年、1987年)と、平凡社ライブラリー版『林達夫セレクション』全3巻(2000年)の刊行実績があります。

★『岳麓書院蔵秦簡 「為獄等状四種」訳注』上下巻は、東洋文庫の第918巻と第919巻。書名のヨミは「がくろくしょいんぞうしんかん・いごくとうじょうよんしゅ・やくちゅう」。版元紹介文によれば本書は「中国・湖南大学の岳麓書院が入手した、戦国時代の秦から統一頃までの裁判記録。世界各地の研究成果を網羅・整理した訳注の決定版」。法制史の第一級の史料であり、秦の統治下における庶民の生活が垣間見えます。上巻は案例一から七を収録し、下巻は八から十五までを収録。編訳注者の柿沼陽平(かきぬま・ようへい, 1980-)さんは早稲田大学教授で、長江流域文化研究所所長。東洋文庫の次回配本は7月発売予定、『正宗敦夫文集1』とのこと。

★『楽しみと日々』は、明治大学名誉教授で仏文学者の高遠弘美(たかとお・ひろみ, 1952-)さんが半世紀にわたって様々な媒体で発表し、単行本未収録であった文章を一冊にまとめたもの。「プルーストの花咲く街」「月光に照り映える街」「言の葉の調べ漂う街」「親しき外国人街」「旅人宿が立ち並ぶ街」「雑踏往来の街」「小さな図書館の街」「遊園地のある街」の八部構成。まえがきによれば、これらの「街区」はすべて担当編集者の赤羽健さんの構成によるもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『二人のウラジーミル』は、NHKの解説委員で杏林大学で教鞭を執られた伴野文夫(ばんの・ふみお, 1933-)さんによる書き下ろし。「2024年1月21日は、レーニンが53歳で早逝してからちょうど百年にあたる年だ。〔…〕この機会に「レーニンの失敗の本質」を徹底的に追及する必要がある。〔…〕プーチンの言語道断の隣国に対する武力侵略は、まさに歴史的な大ロシア主義から生まれたものであり、レーニンとプーチンという“二人のウラジーミル”には、名前だけではない多くの共通点があるのだ」(はじめに、11~12頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『甦るシモーヌ・ヴェイユ 1909-1943』は『別冊 環』第29号。帯文に曰く「混迷の時代の渦中で、「真に強靭で、真に純粋で、真に勇敢で、真に寛大」であるために。〔…〕専門領域の垣根を超えた多様なアプローチにより、シモーヌ・ヴェイユの生涯と思想を俯瞰する画期的論集」。「総論 今、なぜヴェイユか」「「犠牲」と「歓び」の思想――永遠なるものと内奥の往還」「共にあるために――「利己」と「利他」の間で」「歴史を問うヴェイユ、歴史に問われるヴェイユ」「ヴェイユ研究をひらく」の五部構成。巻末の資料編は、略年譜と文献一覧。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。

★『現代思想2024年7月号』の特集は「ウィーナーとサイバネティクスの未来」。版元紹介文に曰く「生誕130年/没後60年……サイバネティクスの創始者、その思想に迫る」と。ユク・ホイ「機械とエコロジー」原島大輔訳、イ・アレックス・テックァン「リヴァイアサンと惑星的サイバネティックス――新たな政治哲学に向けて」鍵谷怜訳、近藤和敬「ウィーナーのサイバネティクスにおける実証主義哲学――〈神とゴーレム社〉の欽定」をはじめ、16本の論考を収録。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。次号8月号の特集は「長期主義――遠い未来世代のための思想」。

★『農業と経済 2024年春号』の特集は、辻村英之、久野秀二、坂梨健太、の3氏による責任編集で「海を越えてくる食べ物の裏側──食料調達におけるSDGsとは」と題されています。「持続可能な食料調達・食資源とは」「オルタナティブ調達によって社会問題に立ち向かう」「調達不安を引き起こす社会・環境問題」の三部構成。巻末の「編集雑感」によれば「日本に届く食物の産地で起こっている問題と、その改善の取り組み、そして持続可能な調達について検討されて」いるとのこと。目次詳細はこちらをご覧ください。


# by urag | 2024-06-30 22:14 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)