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2025年 03月 24日

注目新刊:ポール・リクール『有限性と罪責性』国書刊行会、ほか

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★まず最初に最近出会いのあった新刊を列記します。

ひとつ以上の言語』バルバラ・カッサン(著)、西山雄二/山根佑斗(訳)、読書人、2025年3月、本体1,200円、新書判並製128頁、ISBN978-4-924671-91-1
ベルクソン書簡集(Ⅲ)1925-1940』アンリ・ベルクソン(著)、平賀裕貴(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2025年3月、本体5,500円、四六判上製526頁、ISBN978-4-588-00980-8

★『ひとつ以上の言語』は、バイヤール社のシリーズ「小さな講演会」(ジルベルト・ツァイ企画)の一冊として刊行された『Plus d'une langue』(2012/2023年)の全訳。フランスの哲学者バルバラ・カッサン(Barbara Cassin, 1947-)がパリ郊外のモントルイユ新劇場で2010年4月10日に行った子供むけの講演と質疑応答の記録。カッサンの訳書は『ノルタルジー ――我が家にいるとはどういうことか? オデュッセイウス、アエネアス、アーレント』(馬場智一訳、花伝社、2020年)に続く2冊目。「講演の主題は、グローバル化の進展によって多言語の状況が生じている今日、母語とは何か、また、別の言語を学んだり話すことにいかなる意味があるのか」をめぐるもの(訳者あとがきより)。

★「二つの言語を――少なくとも二つです――話すことはとても重要です。そのことで、みなさんの言語が唯一のありうる言語ではなく、それが、どのような意味の激突や融合を生み出すのかを理解できます。フランス語で私がsensというとき、sensは言葉の「意味」(英語の「meaning」)、私たちが抱く「感覚」、そしてまた「方向」を含意します。〔…〕ある言語を定義づけるのは、その多義性の総体です。とりわけ、その多義性が偶然の産物ではなく、このフランス語の事例のように、その言語の長い歴史において、たとえばある言語から他の言語へとなされる翻訳を通して作り上げられる場合にそうなってくるのです。たとえば、語の「意味〔sens〕」と「感覚〔sensation〕」は、すでにラテン語のsensusにおいて結びついていて、そこからフランス語へと受け継がれました。そして、このラテン語それ自体は、ギリシア語のnous〔心、精神、知性〕を翻訳したものです。nousは直観のような何かを意味します」(38~39頁)。

★『ベルクソン書簡集(Ⅲ)1925-1940』は、『ベルクソン書簡集(Ⅰ)1865-1913』(合田正人監修、ボアグリオ治子訳、2012年7月)、『ベルクソン書簡集(Ⅱ)1914-1924』( 松井久訳、2024年7月)に続く書簡集全3巻の最終巻。帯文に曰く「危機の中の最晩年。両大戦間期からドイツによる占領初期にあたる1925~1940年までの書簡を収める。慢性的な病と体調不良に見舞われながらも『二源泉』をはじめとする晩年の思索を深化させ、1927年にはノーベル文学賞を受賞。フランス的な知性を代表する著名人として多忙な日々を送りつつ、反ユダヤ主義の拡大するヨーロッパの未来を案じつづける晩年の姿が明らかに。人名索引付」。人名索引は全3巻分のもの。

★ジャン・ヴァールへの1939年11月8日付の手紙を引きます。「強く心を打たれました。動乱の最中に『テアイテトス』と『ソピステス』について語るのは、なんと素敵なことでしょう。この情勢にもかかわらず、この主題に対してどんなものを書いてくださるのであれ、あなたが聴衆を得ることを確信しています。フランスを不屈にするのは、まさに勇気を際限なく支えることが唯一可能な精神的実在を、フランスが決して見失わないことによります」(1509頁)。ベルクソンの遺言によれば「私の書簡の出版を禁じ、J・ラシュリエの場合のように、この禁止が覆されることも承知しない」(1530頁)とのことでしたが、訳者あとがきにあるように「著作からではうかがい知ることのできないベルクソンの生き生きとした姿を甦らせてくれる有益な財産となる」(1547頁)というのは紛れもない事実だと思います。

★次に、注目の新刊既刊単行本を列記します。

有限性と罪責性――『過ちやすき人間』/『悪のシンボリズム』』ポール・リクール(著)、杉村靖彦(訳)、シリーズ宗教学再考:国書刊行会、2025年3月、本体6,800円、A5判上製660頁、ISBN978-4-336-07117-0
アルトナの幽閉者』ジャン=ポール・サルトル(著)、岩切正一郎(訳)、閏月社、2025年3月、本体3,600円、四六判並製312頁、ISBN978-4-904194-08-9
エクソシストは語る――エクソシズムの真実』田中昇(著)、集英社インターナショナル、2025年2月、本体2,300円、四六判並製296頁、ISBN978-4-7976-7459-0
魚が存在しない理由――世界一空恐ろしい生物分類の話』ルル・ミラー(著)、上原裕美子(訳)、サンマーク出版、2025年3月、本体2,100円、四六判並製384頁、ISBN978-4-7631-4178-1

★『有限性と罪責性』は、シリーズ「宗教学再考」全9巻の第4回配本となる第7巻。フランスの哲学者ポール・リクール(Paul Ricœur, 1913-2005)の初期プロジェクト『意志の哲学(Philosophie de la volonté)』の第2巻『Finitude et culpabilité』(2 volumes, Aubier, 1960)の全訳。同書は原著では2分冊の本ですが、日本語訳ではかつて3冊の本に分かれて刊行されたことがあります。原著第1分冊『L'homme faillible』の訳書が『人間この過ちやすきもの――有限性と有罪性』(久重忠夫訳、以文社、1978年)、同第2分冊『La symbolque du mal』第1部「Les symboles primaires : souilleure, péché, culpabilité」の訳書が『悪のシンボリズム』(植島啓司/佐々木陽太郎訳、渓声社、1977年)、同第2部「Les mythes du commencement et de la fin」の訳書が『悪の神話』(一戸とおる/佐々木陽太郎/竹沢尚一郎訳、渓声社、1980年)です。今回は原著全体の関連がきちんと見えるように工夫して、全面的に訳し変えている、とのことです。

★なお『意志の哲学』第1巻である『Le volontaire et l'involontaire』(Aubier, 1950)は、日本語訳では『意志的なものと非意志的なもの』として以下の通り3分冊で紀伊國屋書店より刊行されています。『(Ⅰ)決意すること』(滝浦静雄/箱石匡行/竹内修身訳、1993年)、『(Ⅱ)行動すること』(滝浦静雄/中村文郎/竹内修身訳、1995年)、『(Ⅲ)同意すること』(滝浦静雄/中村文郎/竹内修身訳、1995年)。長期品切となっているので、いずれ復刊されると良いですね。

★『アルトナの幽閉者』は、フランスの哲学者ジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Sartre, 1905-1980)の「最後の戯曲、50年ぶりの新訳」(版元紹介文より)。底本はプレイアード版『戯曲全集』(Gallimard, 2005)所収の「Les Séquestrés d'Altona」(1959年)。巻末の訳者解説によれば、2014年2月の新国立劇場での上演用台本を作成する準備のために参考資料として「俳優やスタッフと共有した注付きの全訳をもとに、演出家との打ち合わせや稽古場での台詞直しを反映して」作ったとのことです。「サルトルの戯曲のほとんどは観て楽しい性格のものとは言えないが、個人と社会、個人と他者の関係、人間の矛盾を俎上に載せ、見ると深く染みてくる、考えさせる戯曲である」と訳者の岩切さんは評しておられます。なお同書の既訳には人文書院版『サルトル全集』第24巻「アルトナの幽閉者」(永戸多喜雄訳、1961年)があります。

★『エクソシストは語る』は、カトリック東京大司教区司祭で2017年から2018年にかけて日本唯一のエクソシストとして活動された経験をお持ちの田中昇(たなか・のぼる, 1976-)さんが「実際のエクソシズムの儀式の体験談、祓魔師エクソシストの実態、悪魔について」(帯文より)明かした貴重な一冊。『盛儀のエクソシズムと関連する種々の祈り』(ローマ教皇庁、1999年)所収の第一章「盛儀のエクソシズム」、第二章「儀式において使用可能な任意の式文」、付録一「特殊な状況に用いることができる協会の嘆願の祈りとエクソシズム」に含まれるラテン語の「エクソシズムの式文」の訳例が150~167頁に収められており、非常に貴重な史料となるのではないかと思われます。

★『魚が存在しない理由』は、米国のサイエンスライター、ルル・ミラー(Lulu Miller)さんの著書『Why Fish Don’t Exist: A Story of Loss, Love, and the Hidden Order of Life』(Simon & Schuster, 2020)の訳書。「19世紀末、生涯をかけ魚類を収集・分類した科学者デイヴィッド・スター・ジョーダン。その膨大なコレクションは、落雷、火災、さらに巨大地震によって幾度となく破壊された。だが彼は、世界に秩序をもたらそうと、まるで運命に抗うかのように分類作業を続ける。〔…〕ジョーダンの生涯を掘り起こす作業を通じ、自然、歴史、倫理、そして愛についての著者の理解は大きく揺るがされていく。〔…〕目が離せない知的冒険の記録」(カバー表4紹介文より)。岩元萌(オクターヴ)さんによる美麗な装丁が書店店頭で強い存在感を放っています。三方はベタ塗りではなく、絵画が刷られています。この書物自体がひとつの宝箱のようです。

★最後に、注目の新刊既刊文庫を列記します。

比較神話学』フリードリヒ・マックス・ミュラー(著)、山田仁史(訳)、松村一男(解説)、角川ソフィア文庫、2025年2月、本体1,240円、文庫判304頁、ISBN978-4-04-400857-4
毛糸のズボン――直野祥子トラウマ少女漫画全集』直野祥子(著)、ちくま文庫、2025年2月、本体1,000円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-44009-9
諏訪の神――縄文の〈血祭り〉を解き明かす』戸矢学(著)、河出文庫、2025年3月、本体900円、文庫判264頁、ISBN978-4-309-42173-5
暗黒のメルヘン』澁澤龍彦(編)、河出文庫、2025年3月、本体1,200円、文庫判488頁、ISBN978-4-309-42175-9
弁論術』アリストテレス(著)、相澤康隆(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年3月、本体1,620円、文庫判672頁、ISBN978-4-334-10584-6
人間の権利』トマス・ペイン(著)、角田安正(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年2月、文庫判622頁、ISBN978-4-334-10571-6
フロイトとベルクソン』渡辺哲夫(著)、講談社学術文庫、2025年3月、本体1,600円、A6判352頁、ISBN978-4-06-538783-2
キリスト教綱要 初版』ジャン・カルヴァン(著)、深井智朗(訳)、2025年2月、本体2,100円、A6判568頁、ISBN978-4-06-538782-5
国家はなぜ衰退するのか――権力・繁栄・貧困の起源(上)』ダロン・アセモグル/ジェイムズ・A・ロビンソン(著)、鬼澤忍(訳)、ハヤカワ文庫NF、2013年8月;10刷2024年12月、文庫判422頁、ISBN978-4-15-050464-9
国家はなぜ衰退するのか――権力・繁栄・貧困の起源(下)』ダロン・アセモグル/ジェイムズ・A・ロビンソン(著)、鬼澤忍(訳)、ハヤカワ文庫NF、2013年8月;7刷2024年10月、文庫判424頁、ISBN978-4-15-0504656

★時間の都合で2点のみ特記します。『比較神話学』は、ドイツ生まれの英国の比較宗教学者フリードリヒ・マックス・ミュラー(Friedrich Max Müller, 1823-1900)の著書の初めての文庫化。凡例によれば、『比較宗教学の誕生――宗教・神話・仏教』(宗教学名著選:国書刊行会、2014年10月)所収の「比較神話学」および「「比較神話学」解題」を文庫化したもの。「同書の松村一男「『比較宗教学の誕生』解説」を大幅に加筆・修正した「解説」も収録した」とも書かれています。解題によれば本書の底本は『オックスフォード・エッセイズ』誌(1856年刊)に収録された「Comparative Mythology」で、その後ミュラーの著書に編入された1867年版と1907年版の加筆訂正も参照したとのことです。

★『毛糸のズボン』は、漫画家の直野祥子(なおの・よしこ)さんの短篇漫画14篇を収録。講談社の三誌「少女フレンド」「なかよし」「別冊なかよし」で1971年から1973年に掛けて発表された作品群で、作家所蔵の元原稿が震災で焼失しているため、掲載誌から復刻したとのことです。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。巻末には著者による書き下ろしの「自作解説――漫画と私」が加えられています。大人の読者にとっては子供の頃の不安感を思い出させ、心理的にグサリとくる作品が揃っています。

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# by urag | 2025-03-24 00:36 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2025年 03月 09日

注目新刊:ちくま学芸文庫3月新刊、ほか

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★まもなく発売となる、ちくま学芸文庫の3月新刊5点を列記します。

新版 古代ギリシアの同性愛』K・J・ドーヴァー(著)、中務哲郎/下田立行(訳)、ちくま学芸文庫、2025年3月、本体1,800円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51290-1
事物の本性について――宇宙論』ルクレティウス(著)、藤沢令夫/岩田義一(訳)、ちくま学芸文庫、2025年3月、本体1,600円、文庫判544頁、ISBN978-4-480-51301-4
増補 古典としての旧約聖書』月本昭男(著)、ちくま学芸文庫、2025年3月、本体1,300円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51294-9
新編 人と人との間――精神病理学的日本論』木村敏(著)、ちくま学芸文庫、2025年3月、本体1,300円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51293-2
詩の構造についての覚え書――ぼくの《詩作品入門〔イニシアシオン〕》』入沢康夫(著)、ちくま学芸文庫、2025年3月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-51292-5

★『新版 古代ギリシアの同性愛』は、英国の古典学者K・J・ドーヴァー(Kenneth James Dover, 1920-2010)の著書『Greek Homosexuality』 (1978)の全訳(リブロポート、1984年;改訂版、青土社、2007年)の文庫化。1984年のリブロポート版「訳者あとがき」によれば「ダックワース社のペーパーバック・リプリント版(1981年)に付せられた訂正と追加、及びそれ以後の、著者から連絡を受けた補訂を全て訳し込んだ」とのことです。その後の青土社版(2007年)の「新版訳者あとがき」では1989年の原著第2版の「著者後記」が訳出され、そこで言及されている加筆訂正が反映されている旨が示されています。今般の中務哲郎さんによる「文庫版訳者あとがき」では、担当編集者と校正者による親本および原著との綿密な照合により、微調整が行なわれた様子が窺えます。文庫版解説「色差豊かな世界の分析」は大阪大学大学院教授の栗原麻子さんによるもの。なお原著は著者の死後の2016年に第3版が出ているようですが、今回の文庫版のクレジットには記載されていないので、原文の再改訂はなかったと見ていいのだろうと想像します。

★『事物の本性について』は、ローマ共和政末期の詩人で哲学者のルクレティウス(Titus Lucretius Carus, BC94c-BC55c)の哲学詩『De rerum natura』の文庫化。筑摩書房版『世界古典文学全集(21)ウェルギリウス/ルクレティウス』所収のルクレティウスの章を文庫化したもの。凡例によれば、元々は『世界大思想全集 第1期(哲学・文芸思想篇)第3巻』(河出書房、1959年)所収の田中美知太郎/岩田義一訳「宇宙論」を、藤沢令夫さんが「諸般の事情が許す範囲で検討し、それにもとづいて岩田義一さんが新しく稿を改めた」もの。同書の既訳書は複数ありますが、現在も入手可能なのは『物の本質について』(樋口勝彦訳、岩波文庫、1961年)のみでしたから、今回の文庫化は待望のものでした。

★『増補 古典としての旧約聖書』は、聖書学者の月本昭男(つきもと・あきお, 1948-)さんが2008年に聖公会出版より上梓した講演集の増補文庫化。親本では2004年から2007年に行われた5本の講演が収められていましたが、文庫化にあたりさらに5本が加えられました。「歴史と信仰――預言者ホセアに学ぶ」1999年、「主はわが牧者――ヤコブの生涯に学ぶ」2006年、「旧約聖書と現代―― 一神教は暴力的か」2004年、「古代文学にみる友情」2016年、「旧約聖書における物語文学の構造と主題」2019年。

★『新編 人と人との間』は、精神病理学者の木村敏(きむら・びん, 1931-)さんの著書2点を合本文庫化したもの。2点というのは『人と人との間――精神病理学的日本論』(弘文堂、1972年)と講演録『人と人とのあいだの病理』(河合ブックレット、1987年)。文庫版解説は医学研究所北野病院の神経精神科専攻医の清水健信さんによる「木村敏とドイツの間、木村敏と京都学派の間」。

★『詩の構造についての覚え書』は、詩人でフランス文学者の入沢康夫(いりさわ・やすお, 1931-2018)さんが思潮社の雑誌「現代詩手帖」で1996年1月号から10月号まで連載した詩論であり、同社より1968年に単行本化され、以後1970年に新装版、1977年に増補版、2002年に増補改訂新版が刊行されたもの。そのロングセラーが今回、文庫となりました。文庫版解説は詩人の野村喜和夫さんによる「『詩の構造についての覚え書』をめぐって」。

★なお4月10日発売となるちくま学芸文庫4点のうちには、シオラン『崩壊概論』(有田忠郎訳、大谷崇解説)が予告されています。これは1975年に刊行された国文社版『シオラン選集(1)』の文庫化かと思われますが、国文社の廃業前から長期品切になっていたものなので、久しぶりの非常に嬉しい再刊です。『シオラン選集』には同書のほか、第2巻『苦渋の三段論法』及川馥訳(1976年)、第3巻『実存の誘惑』篠田知和基訳(1975年)、第4巻『時間への失墜』金井裕訳(1976年;改訂版2004年)、第5巻『深淵の鍵』出口裕弘/及川馥/原ひろし訳(1977年)がありました。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

本屋のパンセ――定有堂書店で考えたこと』奈良敏行(著)、三砂慶明(編)、作品社、2025年2月、本体2,200円、46判並製248頁、ISBN978-4-86793-073-1
吉本隆明全集36[2007-2012]』吉本隆明(著)、晶文社、2025年2月、本体8,700円、A5変型判上製902頁、ISBN978-4-7949-7136-4
草双紙って何?――赤本・黒本青本は主張する』松原哲子(著)、ブックレット〈書物をひらく〉:平凡社、2025年2月、本体1,500円、A5判並製92頁、ISBN978-4-582-36473-6
トリンキュロ――思考としての家具』大橋晃朗(著)、住まい学エッセンス:平凡社、2025年2月、本体3,800円、B6変型判208頁、ISBN978-4-582-54367-4
バラの花咲く家』公文健太郎(著)、平凡社、2025年2月、本体4,800円、A4変型判80頁、ISBN978-4-582-27841-5

★『本屋のパンセ』は、1980年10月から2023年4月まで営業していた鳥取の名物書店「定有堂書店」の店長、奈良敏行(なら・としゆき, 1948-)さんの『町の本屋という物語――定有堂書店の43年』(三砂慶明編、作品社、2024年2月)に続く第2作。今回も編者は書店員の三砂慶明(みさご・よしあき, 1982-)さん。三砂さんの「はじめに」によれば、本書は定有堂書店発行の月刊ミニコミ誌「音信不通 本のビオトープ」に掲載された巻頭エッセイに、書き下ろしの原稿を加えて再構成したもの。本を売ることや読むこと、お客様と対話することの楽しさが綴られている、と紹介されています。帯文には内沼晋太郎さんと宇田智子さんによる推薦文が載っており、書名のリンク先でお読みいただけます。同リンク先では、奈良さんのあとがき「これからの十年」も立ち読みできます。

★『吉本隆明全集36[2007-2012]』は、第37回配本。最晩年の3作『真贋』『日本語のゆくえ』『開店休業』に加え、「単行本初収録となる小品や未発表原稿・未定稿なども多数収録」(版元紹介文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「僕が批評眼を磨くためにやってきたことは、ただ考えるとか、ただ本を読むというだけではなく、体の動きと組み合わせて修練するということです。/たとえば、歩きながら、いい考えが思いがけなく浮かぶことがあります。ニーチェの言葉に、「歩きながら書かれた文章でなければ読む気がしない」というのがありますが、まさにそのとおりだと思います」(『真贋』47頁)。付属の月報37には、編集者の松崎之貞さんによる「思い出の一断片」。貴重なエピソードが4頁のうちにぎっしり詰め込まれています。次回配本は8月予定の第38巻「書簡Ⅱ」。本巻最終巻です。続く別巻(写真アルバム、生活史年譜、著作年譜)の刊行で全巻完結。

★平凡社さんの最新刊より3点。『草双紙って何?』は、江戸近世文学の一分野で大衆向けの絵入り小説である「草双紙(くさぞうし)」の世界を紹介するもの。巻頭の「はじめに」によれば「本書では、黄表紙の嚆矢であり、草双紙の中で随一の有名作品である『金々先生栄花夢〔きんきんせんせいえいがのゆめ〕』に関係する幾つかのトピックに触れながら、草双紙を順当に理解し、楽しむうえで、知っていてほしいポイントを紹介していく」(5~6頁)。著者の松原哲子(まつばら・のりこ, 1973-)さんは国文学研究資料館の特任准教授。

★『トリンキュロ』は、家具デザイナーの大橋晃朗(おおはし・てるあき, 1938-1992)さんが1993年に住まいの図書館出版局のシリーズ「住まい学大系」より刊行した遺稿集の再刊。巻末解説は伊東豊雄さんによる「「家具とはなんだろう」と生涯考え続けた人――大橋晃朗の家具」。書名の「トリンキュロ」は、大橋さんが制作したキャビネットの名前のひとつ。多木浩二さんによる寄稿「家具を彷徨った人」に曰く「トリンキュロとはシェークスピアの『テンペスト』のなかに出てくる酔っぱらいの男である。名優が演ずるみごとなわき役なのだ。〔…〕こうした命名を彼は楽しんでいた。一方にきびしい形の追求があったが、他方では知的な快楽にひらかれた家具たちが生まれていた。これが大橋さんの夢想の生産的な側面なのである」(185~186頁)。

★『バラの花咲く家』は、写真家の公文健太郎(くもん・けんたろう, 1981-)さんが若き日に撮影したという、大正末期に建てられた阿佐谷の文化住宅で2009年に惜しくも焼失した旧近藤邸の在りし日の姿をまとめたもの。設計者である近藤謙三郎さんの姪にあたる近藤英(こんどう・えい, 2022年逝去, 98歳)さんの文章が添えられています。「この家は本当に不思議な家。言いつくせないくらい素晴らしいめぐり逢いを生んだ空間です。ただ住んでいただけなのですが、思いがけない出逢いがあり、遠方から見に訪ねてくる人があとをたちませんでした」(71頁)。


# by urag | 2025-03-09 21:12 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2025年 03月 03日

注目新刊:ジェイコブ・ヘルバーグ『サイバー覇権戦争』作品社、ほか

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★まもなく発売となる新刊2点を列記します。

サイバー覇権戦争』ジェイコブ・ヘルバーグ(著)、川村幸城(訳)、作品社、2025年3月、本体3,400円、四六判並製432頁、ISBN978-4-86793-062-5
アンビバレント・ヒップホップ』吉田雅史(著)、ゲンロン叢書:ゲンロン、2025年3月、本体3,000円、四六判並製424頁、ISBN978-4-907188-58-0

『サイバー覇権戦争』は、「サイバーセキュリティの専門家として2020年までグーグル社で対偽情報・外国介入のポリシー策定を主導し」、現在はパランティア・テクノロジーズ社CEO上級政策顧問を務めるジェイコブ・ヘルバーグ(Jacob Helberg, 1989/90-)のデビュー作『The Wires of War: Technology and the Global Struggle for Power』(Simon & Schuster, 2021)の全訳。帯文に曰く「新たな戦争=「グレー戦争」の主戦場であるサイバー空間での戦いを、「フロントエンド」=ソフトウェア(ニュース・SNS・アプリなど)と、「バックエンド」=ハードウェア(コンピュータ・タブレット・スマホ・光ファイバー・衛星など)の二つの戦線に整理。最新技術を用いて、世界の勢力圏の再編成を試みるテクノロジー権威主義国の攻撃の実態を明らかにし、加熱するグレー戦争に民主主義国はいかに対処するべきか、第二次トランプ政権、国務次官(経済成長、エネルギー、環境問題担当)指名の著者が処方箋を提示する」と。

★訳者の川村幸城(かわむら・こうき)さんは防衛省防衛研究所(政策研究部・グローバル安全保障研究室)主任研究官、1等陸佐。他の訳書では「慶應義塾大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を修了し、博士号(安全保障学)を取得」と紹介されています。最近のご活躍では、2024年12月4日の会津大学での川村さんの講話「安全保障分野における最近のサイバー行動」について、陸上自衛隊東北方面隊の「みちのくWeb」が紹介しています。川村さんの既訳書には以下のものがあります。

2017年7月:マイケル・フリン/マイケル・レディーン『戦場――元国家安全保障担当補佐官による告発』中央公論新社
2019年7月:ヤクブ・グリギエル/A・ウェス・ミッチェル『不穏なフロンティアの大戦略――辺境をめぐる攻防と地政学的考察』中央公論新社
2021年3月:ルイス・A・デルモンテ『AI・兵器・戦争の未来』東洋経済新報社
2021年6月:ショーン・マクフェイト『戦争の新しい10のルール――慢性的無秩序の時代に勝利をつかむ方法』中央公論新社
2022年9月:エリザベス・ヴァン・ウィー・デイヴィ『陰の戦争――アメリカ・ロシア・中国のサイバー戦略』中央公論新社
2023年3月:スコット・ジャスパー『ロシア・サイバー侵略――その傾向と対策』作品社
2023年6月:ジェームズ・ジョンソン『ヒトは軍用AIを使いこなせるか』並木書房
2025年1月:ラース・サレンダー『検証 空母戦――日米英海軍の空母運用構想の発展と戦闘記録』中央公論新社

★『アンビバレント・ヒップホップ』は、批評家であるとともにビートメイカー、MCの肩書をもつ吉田雅史(よしだ・まさし, 1975-)さんの初の単独著。『ゲンロンβ』での連載(全24回、2016~2019年)をもとに、大部分を書き下ろしたとのことです。版元の内容紹介文によれば「アメリカと日本(フッド)に引き裂かれた日本語ラップには、戦後社会のアンビバレンスが凝縮されている。緻密な楽曲分析を通し、ヒップホップの本質とこの国の「リアル」を抉る、衝撃の日本=ラップ論」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。吉田さんの共著書や訳書には以下のものがあります。

2017年3月:『ラップは何を映しているのか――「日本語ラップ」から「トランプ後の世界」まで』毎日新聞出版(大和田俊之、磯部涼との鼎談)
2018年8月:ジョーダン・ファーガソン『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』DU BOOKS
2024年3月:『最後の音楽𝄇――ヒップホップ対話篇』DU BOOKS(荘子itとの対談鼎談集、鼎談ゲストは、さやわか、菊地成孔、後藤護、Illicit Tsuboi)

★注目の新刊と既刊を列記します。

思弁的註記――ヘーゲルの機知に富んだ語』ジャン=リュック・ナンシー(著)、小原拓磨(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2025年2月、本体3,500円、四六判上製270頁、ISBN978-4-588-01180-1
ルネサンス絵画の社会史』マイケル・バクサンドール(著)、篠塚二三男/石原宏/豊泉尚美/池上公平(訳)、アートワークス、2024年12月、本体2,600円、A5判並製312頁、ISBN978-4-903423-03-6
芸術と進歩――進歩理念とその芸術への影響』E・H・ゴンブリッチ(著)、下村耕史/後藤新治/浦上雅司(訳)、アートワークス、2022年11月、本体2,000円、A5判並製204頁、ISBN978-4-903423-01-2

★『思弁的註記』は、フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシー(Jean-Luc Nancy, 1940–2021)の単独著第一作『La Remarque spéculative (un bon mot de Hegel)』(Galilée, 1973)の全訳。序言の原註12によれば「本書の仕事は1973年3月にユルム街で開かれたJ・デリダのセミネールでの発表にもとづいている」(32頁)とあります。「ヘーゲルを別の仕方で読むこと〔…〕アウフヘーブングを別の仕方で読み、書かなければならない」(序言、30頁)。帯文に曰く「弁証法的体系の内包する根源的複数性を明るみに出したナンシーの翻訳困難なデビュー作」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★法政大学出版局の今月来月の続刊予定には注目書が多いです。3月刊予定:アンリ・ベルクソン『ベルクソン書簡集(Ⅲ)1925-1940』平賀裕貴訳、モーリス・ラヴェル『ラヴェル著述選集』笠羽映子編訳。4月刊予定:ソフィー・ロイドルト『法現象学入門』青山治城ほか訳、ハインリヒ・ハイネ『アルマンゾル』今本幸平訳。

★『ルネサンス絵画の社会史』は、イギリス出身の美術史家で長らくヴァールブルク研究所の教授を務めたマイケル・バクサンドール(Michael David Kighley Baxandall, 1933-2008)の著書『Painting and Experience in Fifteenth-Century Italy: A Primer in the Social History of Pictorial Style』(Oxford University Press, 1972; 2nd ed., 1988)の全訳で、平凡社の「ヴァールブルクコレクション」にて1989年に刊行されたものの再刊。共訳者の篠塚二三男さんによる「アートワークス版への手記」(2024年11月付)によれば「復刊にさいしては、全文に目を通し修正に努めた。〔…〕不分明であった箇所がより明瞭となり、またレイアウトの細部の面でもだいぶ読みやすくなったと思う」とのことです。また、篠塚さんによる平凡社版の訳者あとがきを再録し、共訳者の池上公平さんによるアートワークス版訳者あとがきが加わっています。平凡社版のバクサンドール自身による挨拶文「日本の読者のみなさまへ」はそのまま再録されています。

★アートワークスは、学習院大学名誉教授で美術史家の高橋裕子(たかはし・ひろこ, 1949-)さんが設立した美術史専門出版社。SNSでの自己紹介によれば「主に英文による西洋美術史の名著を良質な翻訳と手頃な価格で刊行することを目的に」しているとのことです。注文はSNS(X, facebook)に記載されているメールアドレスにて受付。後払用の郵便振替用紙を添付して迅速に送付してくださいます。バクサンドールの再刊より前のこれまでの既刊書は以下の通り。

2021年10月:レンスラー・W・リー『ウト・ピクトゥラ・ポエシス 詩は絵のごとく/絵は詩のごとく――人文主義絵画理論』(森田義之/篠塚二三男訳)
2022年11月:E・H・ゴンブリッチ『芸術と進歩――進歩理念とその芸術への影響』下村耕史/後藤新治/浦上雅司(訳)
2023年10月:エルンスト・クリス/オットー・クルツ『芸術家伝説――歴史学的研究の試み』(E・H・ゴンブリッチ序、大西広/越川倫明/児島薫/村上博哉訳)

★『芸術と進歩』は、オーストリア出身の美術史家エルンスト・ゴンブリッチ(Sir Ernst Hans Josef Gombrich, 1909-2001)の著書『Kunst und Fortschritt: Wirkung und Wandlung einer Idee』(DuMont, 1978)の全訳で、中央公論美術出版より1991年に刊行された単行本を改訂して再刊したもの。共訳者の下村さんによる巻末解説によれば、本書のもととなる英語版講演原稿を参照し「独英の両テキストを比較することで、著者の真意により近づくことができたものと確信する」とのことです。巻末の「ゴンブリッチ著作目録」も拡張されて「著者の生涯の著作活動全体が見渡せるものとした」と。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。都合により、書誌情報のみ掲出します。月刊誌『現代思想』3月号と、藤原書店の2月新刊4点です。

現代思想2025年3月号 特集=統治vsアナーキー』青土社、2025年2月、本体1,800円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1478-0
台湾の歴史 大全――基礎から研究へのレファレンス』春山明哲/松田康博/松金公正/川上桃子(編)、藤原書店、2025年2月、本体4,400円、A5判上製464頁、ISBN978-4-86578-446-6
美か義か――日本人の再興』新保祐司(著)、藤原書店、2025年2月、本体2,600円、四六判上製216頁、ISBN978-4-86578-451-0
阿蘇神社の夜明け前――神々とともに生きる社会のエスノグラフィー』柏木亨介(著)、藤原書店、2025年2月、本体4,800円、A5判上製344頁、ISBN978-4-86578-452-7
「公害地域再生」とは何か――大阪・西淀川「あおぞら財団」の軌跡と未来』清水万由子(著)、藤原書店、2025年2月、本体4,200円、A5判並製296頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-450-3


# by urag | 2025-03-03 00:31 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2025年 02月 26日

重版出来:アンヌ・ソヴァニャルグ『ドゥルーズと芸術』2刷

アンヌ・ソヴァニャルグ『ドゥルーズと芸術』(月曜社、2024年5月)の2刷が本日できあがりました。重版ではなく初刷本がどうしても欲しかった、というお客様は、月曜社までお問い合わせください。

# by urag | 2025-02-26 10:58 | 販売情報 | Comments(0)
2025年 02月 24日

注目新刊:ウォーラー『道徳的責任廃絶論』平凡社、ほか

注目新刊:ウォーラー『道徳的責任廃絶論』平凡社、ほか_a0018105_23395480.jpg


★まず最初に、まもなく発売となる新刊3点をご紹介します。

スピリチュアリズムの時代 1847-1903』伊泉龍一(著)、紀伊國屋書店、2025年3月、本体6,800円、A5判上製806頁、ISBN978-4-314-01207-2
サルとジェンダー』フランス・ドゥ・ヴァール(著)、柴田裕之(訳)、紀伊國屋書店、2025年3月、本体3,200円、46判上製512頁、ISBN978-4-314-01213-3
レヴィナスのユダヤ性』渡名喜庸哲(著)、勁草書房、2025年2月、本体5,000円、A5判上製352頁、ISBN978-4-326-10349-2

★紀伊國屋書店より2点。『スピリチュアリズムの時代』は、占い・精神世界研究家で翻訳家の伊泉龍一(いずみ・りゅういち)さんによる「近代スピリチュアリズム研究の決定版」(帯文より)。「源流となる18世紀のスウェーデンボルグやメスメリズムに遡りつつ、ムーヴメントが隆盛を極めた1847年から1903年までの資料から、“見えない力”や“霊的なるもの”に翻弄された人々の記録を辿りながら、その背景にあった社会思想や文化的意義を踏まえて考察する」(同)。「スピリチュアリズムの台頭」「サイキカル・リサーチ」の二部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★「私は、スピリチュアリズムが全盛期だった十九世紀後半の出来事を知るにつれ、驚き、興奮した。当時の新聞や雑誌や書簡をもとに何が起こっていたのかを追いながら、当事者たちの見解や考えかた、そして信奉者と批判者の論争に目を通していくと、そこには形而上学、生理学、心理学、物理学などと関連する興味深い諸問題があることに気付かされた。とりわけ、1882年にイギリスで設立されたソサエティ・フォー・サイキカル・チサーチ(本書ではSPRと表記、「心霊現象研究協会」とも訳されている)による研究結果が記された当時の機関誌や紀要を精査していくと、会議はだったはずの私自身の常識を揺さぶるような論証に目を開かせられることもあった」(はじめに、11頁)。

★『サルとジェンダー』は、オランダ生まれの動物行動学者フランス・ドゥ・ヴァール(Frans de Waal, 1948-2024)の著書『Different: Gender Through the Eyes of a Primatologist』(Norton, 2022)の全訳。チンパンジーやボノボの研究を通じて人間の性差について考察しています。かのユヴァル・ノア・ハラリは本書を次のように論評しています。「性とジェンダーに関する白熱した論争に、科学的で思いやりのあるバランスのとれたアプローチをもたらす、すばらしく魅力的な本」。目次詳細は書名のリンク先でご覧ください。序文と第一章「おもちゃが私たちについて語ること――男の子と女の子と他の霊長類の遊び方」の冒頭、そして訳者あとがきの立ち読みもリンク先でできます。

★勁草書房より1点。『レヴィナスのユダヤ性』は、フランス哲学や社会思想史がご専門の立教大学教授、渡名喜庸哲(となき・ようてつ, 1980-)によるレヴィナス研究書。本書は「レヴィナスがユダヤ思想ないしユダヤ教をテーマに公刊した著作群を対象とし、できるかぎりその全容に目配せすることで、またそれを時代的背景と照らし合わせて読み解いていくことで、レヴィナスの「ユダヤ性」なるものがどのようなものだったか、どのような変遷をたどっているのか」(おわりに、285頁)を論じたもの。「フランスをはじめとするヨーロッパにおけるユダヤ人の波乱に満ちた知的営みを理解するうえでも、また、現在なおも続く「イスラエル」問題を巨視的に理解するうえでも、前提となる基本的な理解枠組みが提示できればと考える」(はじめに、5頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★次に、最近出会いのあった新刊を列記します。

道徳的責任廃絶論――責めても何もよくならない』ブルース・N・ウォーラー(著)、木島泰三(訳)、平凡社、2025年2月、本体7,200円、A5判並製544頁、ISBN978-4-582-70372-6
愛する者は憎む』アドフフォ・ビオイ・カサーレス/シルビナ・オカンポ(著)、寺田隆吉(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2025年2月、本体2,700円、四六変型判上製240頁、ISBN978-4-86488-318-4
アフター・リアリズム――全体主義・転向・反革命』中島一夫(著)、書肆子午線、2015年1月、本体4,300円、四六判上製528頁、ISBN978-4-908568-47-3

★『道徳的責任廃絶論』は、米国の哲学者ブルース・N・ウォーラー(Bruce N. Waller, 1946-2023)の著書『Against Moral Responsibility』(MIT Press, 2011)の全訳。「本書は、道徳的責任というシステムへの攻撃の書である。つまり道徳的責任のシステムという、私たちの社会と制度の中に深く根を下ろし、私たちの感情の奥底にその根源をもち、アリストテレスから現代にいたる哲学者たちが熱心に用語してきたシステムを攻撃する書、ということだ」(まえがき、8頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。また、まえがき全文が無料公開されています。

★「道徳的責任のシステムには、数多くの深刻な欠陥が存在しているのだ。加えて、道徳的責任を擁護する哲学者たちは〔…〕道徳的責任という砦を防衛するための統一された擁護論を提供するに至っていない。それどころかこれらの哲学者たちは、科学の進歩による異議申し立てに対しては道徳的責任を擁護するために、お互いに大きく異なった、しかも相互に矛盾し合う根拠を提供している」(同)。「道徳的責任の完全な廃絶は、望ましいと共に、実現可能なものでもある」(同、10頁)。

★『愛する者は憎む』は、〈ルリユール叢書〉第44回配本、63冊目。アルゼンチンの作家夫妻、アドルフォ・ビオイ・カサーレス(Adolfo Bioy Casares, 1914–1999)とシルビナ・オカンポ(Silvina Ocampo, 1903–1993)の唯一の共作となる探偵小説『Los que aman, odian』(Emecé, 1946)の初訳。初版はボルヘスが監修したシリーズ〈第七圏〔セプティモ・シルクロ〕〉から刊行され、それから「75年以上も定期的に改版・増刷を続けている」(訳者解題)とのことです。「刊行当初こそ大きな反響を呼ぶことはなかったものの、その後「アルゼンチン推理小説の先駆的作品」という評価が定まったこの作品を今改めて手に取ってみると、色褪せることのないその独創性に驚かされる」(同)。

★『アフター・リアリズム』は、文芸評論家の中島一夫(なかじま・かずお, 1968-)さんの論考、時評、書評を集成したもの。「文学・転向・リアリズム」「ラーゲリ・ユートピア・保守革命」「時評 二〇一四年一月~一二月」「書評」の四部構成。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。

★「ブランショと交わる地点で、三島由紀夫は、「私が「私」というとき」と言った。「それは厳密に私に帰属するような「私」ではなく、私から発せられた言葉のすべてが私の内面に還流するわけではなく、そこになにがしか、帰属したり還流したりすることのない残滓があって、それをこそ、私は「私」と呼ぶであろう」(「太陽と鉄」)。私は「私」という言葉に「帰属」しない「残滓」にしかいない。それは「失われた=残滓」としての「ラザロ」だ。「探求としての文学の言語」は、言葉によって死んだ「ラザロ」を蘇らせ再現するのではなく、いかに墓の「ラザロ」、失われた「ラザロ」を求めるか、なのだ。いくら転倒して見えようとも、この逆説にしか文学の真実はない。究極、文学は、ラザロを蘇らせる者と、失われたラザロを求める者とのたたかいである。本当の文学論争はそこにしかない。〔…〕文学とは、つねに転向者のものである。転向者にしかリアリズムが不可能であることが、言い換えれば失われたラザロの姿を見ることはできないからだ。〔…〕本書は、だから今さらながら、転向を問う書である。転向を問うことでしか、失われたラザロというアフター・リアリズムは決して見えてこない」(はじめに、18~19頁)。


# by urag | 2025-02-24 23:12 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)