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2025年 08月 22日
月曜社新刊案内【2025年9月新刊:人文書1点】 2025年09月08日受注締切 2025年09月18日取次搬入予定 人文・フランス哲学 ドゥルーズ革命 阿部晴政[編] 月曜社 本体3,200円 46判並製392頁(188x130x23mm) 380g ISBN978-4-86503-210-9 ドゥルーズの愛弟子ラプジャードと兄弟子・宇野邦一の対話からはじまり、90年代生まれの若手の最新研究まで、多様な世代のドゥルージアンたち15名が、ドゥルーズ哲学を更新させて新たな魅力を引き出す。ドゥルーズ生誕100年/没後30年記念論集。 執筆者:ダヴィッド・ラプジャード/宇野邦一/江川隆男/廣瀬純/近藤和敬/大山載吉/小倉拓也/平田公威/小林卓也/佐々木晃也/小谷弥生/黒木秀房/辰己一輝/築地正明/堀真悟 目次: 哲学の笑い――概念を創造する野生の手つき|ダヴィッド・ラプジャード×宇野邦一|髙山花子訳 いかなる身体のための、いかなる器官?|ダヴィッド・ラプジャード|髙山花子訳 ドゥルーズ問題|江川隆男 カフカとオイルショック|廣瀬純 『差異と反復』の「強度」概念とクロソウスキー的ニーチェ――「永劫回帰」は歴史的物質性の理論たりうるか|近藤和敬 ドゥルーズ『シネマ』における量子的空間の方へ|大山載吉 死に瀕したイメージ――最後期ドゥルーズ|小倉拓也 マテシス、無人島、内在的生――ドゥルーズ哲学における始原のイメージ|小林卓也 くちびるに歌を持て――ドゥルーズ゠ガタリ『千のプラトー』における半音階的言語学について|平田公威 消尽と務め――ドゥルーズとスピノザ主義の問題|佐々木晃也 〈亀裂〉の思考――ドゥルーズ哲学における新たなる地平|小谷弥生 差異と合一のあわいで――ドゥルーズ哲学と触感の倫理|黒木秀房 車椅子の無限運動――『哲学とは何か』を〈身体障害者の哲学〉として読み直す|辰己一輝 ドゥルーズと大江健三郎――「マイナー文学」の再検討|築地正明 うしろからおされて――田中小実昌゠遵聖、ポロポロのエチカ|堀真悟 編者:阿部晴政(あべ・はるまさ, 1957-)編集者。文芸書から思想書まで幅広く手がける。日本読書新聞、河出書房新社を経て現在はフリー。 #
by urag
| 2025-08-22 12:02
| 近刊情報
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2025年 08月 10日
★まず、ここ数ヶ月分の注目新書新刊既刊(新書サイズの単行本を含む)を記します。 『帝国陸軍――デモクラシーとの相剋』髙杉洋平(著)、中公新書、2025年7月、本体1,100円、新書判312頁、ISBN978-4-12-102863-1 『物語化批判の哲学――〈わたしの人生〉を遊びなおすために』難波優輝(著)、講談社現代新書、2025年7月、本体960円、新書判240頁、ISBN978-4-06-539964-4 『「進歩」を疑う――なぜ私たちは発展しながら自滅へ向かうのか』スラヴォイ・ジジェク(著)、早川健治(訳)、NHK出版新書、2025年7月、本体1,250円、新書判並製208頁、ISBN978-4-14-088747-9 『出版という仕事』三島邦弘(著)、ちくまプリマー新書、2025年7月、本体900円、新書判並製224頁、ISBN978-4-480-68528-5 『悲劇の誕生――あるいはギリシア精神と悲観論』ニーチェ(著)、浅井真男(訳)、 白水Uブックス「思想の地平線」、2025年6月、本体1,700円、新書判並製200頁、ISBN978-4-560-72142-1 『セカンド・チャンス――シェイクスピアとフロイトに学ぶ「やり直しの人生」』スティーブン・グリーンブラット/アダム・フィリップス(著)、河合祥一郎(訳)、岩波新書、2025年6月、本体1,200円、新書判334頁、ISBN978-4-00-432068-5 『[新書版]人間の本性――人間社会を自分が生き延びるための本能』アルフレッド・アドラー(著)、長谷川早苗(訳)、興陽館、2025年6月、本体1,500円、新書判232頁、ISBN978-4-87723-341-9 『存在論のフロンティア――自然・技術・形而上学』セバスチャン・ブロイ/井頭昌彦/田中祐理子(編著)、読書人、2025年5月、本体1,800円、新書判並製350頁、ISBN978-4-924671-94-2 『立ち読みの歴史』小林昌樹(著)、ハヤカワ新書、2025年4月、本体1,200円、新書判200頁、ISBN978-4-15-340043-6 ★盆休みの省力中につき、1点のみ言及しておきます。新書レーベルではないものの新書版として刊行された興陽館の、アドラー『人間の本性』に注目。『Menschenkenntnis』を二分冊した前半部で、単行本『人間の本性――人間とはいったい何か』(興陽館、2020年)として刊行されたのち、新書版として再刊されました。後半部は単行本『性格の法則 ――あのひとの心に隠された秘密』(長谷川早苗訳、興陽館、2020年)として刊行されたのち、新書版『性格の秘密――あのひとの心に隠された』が今年1月に発売済です。また、長谷川早苗訳のアドラー新書版には『生きる意味』(興陽館、2024年)があります。 ★『Menschenkenntnis』の既訳としては、『人間知の心理学』(高尾利数訳、春秋社、1987年)、『人間知の心理学』(岸見一郎訳、アルテ、2008年;新装版2021年)、『性格の心理学』(岸見一郎訳、アルテ、2009年)、『現代人の心理構造』(山下肇訳、日本教文館、1957年;『現代人のこころ――個人心理学入門』山下肇訳、潮文庫、1971年;『人間をかんがえる』山下肇・山下萬里訳、河出書房新社、2021年)などがあり、アドラーの代表作として日本でも広く読まれてきたと言えるのではないでしょうか。 ★次に、最近出会いがあった作品社、平凡社の新刊を列記します。まず作品社7~8月新刊より3点。 『マーベル・コミックのすべて』ダグラス・ウォーク(著)、上杉隼人(訳)、作品社、2025年8月、本体6,300円、四六判並製608頁、ISBN978-4-86793-101-1 『〈聖戦〉という思想――近代日本の宿命』田中久文(著)、作品社、2025年8月、本体2,700円、四六判並製272頁、ISBN978-4-86793-106-6 『呪文の言語学――ルーマニアの魔女に耳をすませて』角悠介(著)、作品社、2025年7月、本体2,400円、四六判並製256頁、ISBN978-4-86793-104-3 ★『マーベル・コミックのすべて』は、米国の作家で批評家のダグラス・ウォーク(Douglas Wolk, 1970-)による『All of the Marvels: A Journey to the Ends of the Biggest Story Ever Told』(Penguin Books, 2021)の訳書。「世界で唯一!? マーベル・コミックの“ほぼ”すべて――2万7000冊以上を読破した著者による、初心者・マニアも必携の、作品宇宙の完全ガイド」(帯文より)。附録は「マーベル・ストーリー要約集」。巻末索引は「キャラクター、架空の団体・媒体・事件、セリフほか」「実在の人物・団体・事件ほか」「作品(コミック、映画、書籍、アルバム、曲など)」という三つのカテゴリーで作成されています。 ★『〈聖戦〉という思想』は、帯文に曰く「近衛文麿らの総力戦体制論、石原莞爾、大川周明らの超国家主義や京都学派「近代の超克」論など、先人たちの思考をもう一度、丁寧に読み直す」。序章で著者はこう書いています。「実は戦争を自己目的とするような聖戦論は存在しない。どのような聖戦論も永久平和を実現する手段として説かれるのである。そう考えると、聖戦論は平和論と決して矛盾するものではない。だとするならば、各時代の聖戦論を丹念に紐解くことによって、そこから平和につながる新たな知恵の端緒を見出すことはできないであろうか。そうした願いから本書は書かれたものである」(8頁)。著者の田中久文(たなか・きゅうぶん, 1952-)さんは日本女子大学名誉教授。ご専攻は倫理学、日本思想史です。作品社では2020年に単著『西田幾多郎』を上梓されています。 ★『呪文の言語学』は、国内外の大学で教える言語学者の角悠介(すみ・ゆうすけ, 1983-)さんによる単著。まえがき全文が公開されています。曰く「本書で扱うのは東欧ルーマニアの呪文である。〔…〕筆者の実体験や民間伝承も交えながら魔術を検証し、からくりを紐解き、人々の幻想に埋もれかけている「本来的な魔女」を掬い出す。きっと本書は言語学や民族学に興味がある人だけでなく、ファンタジー小説や漫画のクリエーターにも何かしらのアイデアを提供するのではないかと期待している」と。巻末にはルーマニア出身で日本で料理教室や語学教室を開催しつつ、伝統魔術を日々実践しているという山田エリーザさんへのインタビューが併載されています。 ★続いて平凡社の7月新刊より4点。 『尹致昊日記(8上)1920-1921年』尹致昊(著)、木下隆男(訳注)、東洋文庫:平凡社、2025年7月、本体4,100円、B6変型判上製函入392頁、ISBN978-4-582-80925-1 『尹致昊日記(8下)1922-1924年』尹致昊(著)、木下隆男(訳注)、東洋文庫:平凡社、2025年7月、本体4,000円、B6変型判上製函入308頁、ISBN978-4-582-80926-8 『まいあ Maia―SWAN actⅡ― 完全版 第1巻』有吉京子(著)、平凡社、2025年7月、本体1,300円、4-6判並製272頁、ISBN978-4-582-28885-8 『ウイングス・オブ・ファイア(4)闇の救世主――夜の翼のスターフライト』トゥイ・タマラ・サザーランド(著)、田内志文(訳)、平凡社、2025年7月、本体2,500円、4-6判上製424頁、ISBN978-4-582-31534-9 ★『尹致昊〔ユン・チホ〕日記(8上)1920-1921年』『尹致昊日記(8下)1922-1924年』は、東洋文庫の第925番と第926番。それぞれの帯文を引きます。上巻は「斎藤実総督の文化政治の下、資本主義が都市から農村へと浸透。若者・女性・一般大衆が社会の表舞台に登場し、朝鮮社会は三・一独立運動以前の“近代”かえあ“現代”への過渡期に入る」。下巻は「1913年以来の懸案事項「日韓YMCA併合協約書」の破棄により朝鮮YMCAの独立を確保。キリスト教系出版社「彰文社」の設立を巡る総合。関東大震災後、反動とテロリスムの時代が到来」。次回配本は今月(2025年8月)、版元紹介文を借りると「朝鮮王朝を中心に、新羅以降の史話や朝鮮官界の見聞譚、巷の噂話、鬼神譚など、300を超えるさまざまな逸話を収め」た、成俔『慵斎叢話』(野崎充彦訳注)全3巻中の第1巻。 ★『まいあ 完全版 第1巻』は、有吉京子(ありよし・きょうこ, 1950-)さんによるバレエ漫画『SWAN』(愛蔵版全16巻、平凡社)の登場人物「真澄」と「レオン」の愛娘「まいあ」の物語を描いた全7巻を、最新作の描き下ろし番外編やカラー絵を加えて新編集のもと完全版全4巻としてリニューアルする、その第1巻。主人公のまいあがパリ・オペラ座バレエ学校を受験する様子が描かれています。番外編として巻頭カラーおよび扉絵コレクション「まいあ variation(1)」7頁を併載し、初回出荷分限定でポストカードが付されています。 ★『闇の救世主』は、アメリカの児童文学作家のトゥイ・タマラ・サザーランド(Tui Tamara Sutherland, 1978-)によるドラゴン戦記シリーズ「ウイングス・オブ・ファイア」の第4巻『Wings of Fire: The Dark Secret』(2013年)の訳書。巻頭に掲出された内容紹介文を参照すると、「ウイングス・オブ・ファイア」シリーズは、ドラゴンが住まうピリア大陸に七つの種族があり、殺された女王の後継争いが続くなか、予言により戦争を止めるとされた五頭の「運命のドラゴンの子」たちが平和のために立ち上がる、という物語。これまでに『運命のドラゴン――泥の翼のクレイ』『帰ってきた王女――海の翼のツナミ』『かくされた王国――雨の翼のグローリー』が刊行され、今回の新刊のあとに、本年末(2025年12月)刊行予定で『かがやく炎の翼――砂の翼のサニー』が予告されています。
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by urag
| 2025-08-10 23:05
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2025年 08月 03日
★まもなく発売となるちくま学芸文庫の8月新刊5点を列記します。 『法然の手紙を読む』阿満利麿(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,300円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51320-5 『ジャポニスム――幻想の日本』馬渕明子(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,500円、文庫判401頁、ISBN978-4-480-51317-5 『日本・現代・美術』椹木野衣(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,700円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-51315-1 『ボスニア内戦――グローバリゼーションとカオスの民族化』佐原徹哉(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,800円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51313-7 『ブリタニア列王史――アーサー王ロマンス原拠の書』ジェフリー・オヴ・モンマス(著)、瀬谷幸男(訳)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,600円、文庫判512頁、ISBN978-4-480-51310-6 ★『法然の手紙を読む』は、明治大学名誉教授の阿満利麿(あま・としまろ, 1939-)さんによる、文庫オリジナルの書き下ろし。カバー裏紹介文に曰く「本書では、法然が熊谷直実のような武士から式子内親王、北条政子に至る人々に宛てた手紙を平易な訳文とともに紹介する。仏教を専門としない相手に書かれた手紙には、称名念仏による極楽往生こそ救いの道であることが、わかりやすくかつ論理的に説かれている。また文面からは、身分や年齢にかかわらず相手を尊重し、権力とは正面から対峙しない、優しくも強かな法然の人柄が窺える。本書はそうした手紙の読解を通じて、現実から逃げるのではなく往生を見据えて現実を強く生きるという、本願念仏の持つ実践的な力を提示する」。巻末には法然の手紙の原文、略年表、主要参考文献などが配されています。「今回、あらためて通読してみて強く感じるのは、〔…〕本願念仏が「他力」の「行」だという点である」(あとがきより)。「なまじいに私の「自我」が大きいばっかりに、自分のあり方は自分が決めているような錯覚を起こしているに過ぎない。「他力」が分かるということは、人間と世界のあり方が分かるということでもある」(同)。 ★『ジャポニスム』は、美術史家の馬渕明子(まぶち・あきこ, 1947-)さんの同名著書(ブリュッケ、1997年;新装版2004年;新版2015年)の文庫化。カバー裏紹介文によれば「ジャポニスムの定義から起こして、印象派・ウィーン分離派ほか多数の作品や当時の評論をもとに、日本美術が与えたインパクトとその意味を詳細に解説する」と。文庫化にあたり、巻末に版自著解説「「ジャポニスム」は理解されてきたか?」が加えられています。「この本を一読すれば分かると思うが、これは日本文化のすばらしさを謳うものでは全くない。〔…〕ジャポニスムとは西洋人が作り上げたもので、そこには日本への賛美もないわけではないが、基本的には西洋人が、自分たちが持っていた表現方法や物の考えかたに対して、異なった見方を取り入れようとしたものである」(364頁)。「1997年に初版が出た時から、28年という歳月が経っているので、私自身ジャポニスムに関してもいくつか執筆しているのだが、今回の文庫版には大幅な加筆はせず、最小限の訂正と情報提供に留めた」とお書きになっています。 ★『日本・現代・美術』は、1997年に新潮社より刊行された、美術評論家の椹木野衣(さわらぎ・のい, 1962-)さんの単著の文庫化。カバー裏紹介文に曰く「世界史から切り離され、忘却と堂々めぐりを繰り返す「閉じられた円環」である「悪い場所」日本において、美術の歴史は成立しているのか? 1945年=敗戦以降の美術の動向と批評の堆積を遡行し、歴史的・政治的なコンテクストに位置づける」。文庫版あとがきによれば「文庫化にあたり増補はもちろん、最小限の表記の変更や適切な語句への修正、補足的な註などを除いては、原則として加筆・修正をいっさい行わなかった(ただし口絵については新たに河原温の「浴室」シリーズから1点を加えた。これは初版刊行当時から所望していたものが実現できていなかった)」とのことです。巻末解説は安藤礼二さんによる「「悪い場所」を超えて」です。 ★『ボスニア内戦』は、2008年に有志舎から刊行された単行本を改訂し文庫化したもの。1992年4月から19995年11月までの3年半にわたり、イスラム教徒のボシュニャク人、東方正教会のセルビア人、カトリックのクロアチア人のあいだに勃発したボスニア内戦における残虐行為を、旧ユーゴ国際戦犯法廷や国際刑事裁判所の記録を通じて分析しています。「これからの戦争は、国家と民族の衰退を加速させるだけなのだ。このことに多くの人が気づいて、無意味な軍拡と兵器開発を止め、気候変動対策や住む場所を失った人々の救済に資源を振り向けるべきである。本書がそのための一助となることを願っている」(文庫版あとがきより)。佐原徹哉(さはら・てつや, 1963-)さんは明治大学教授。ご専門は東欧史・比較ジェノサイド研究です。まもなく最新著『極右インターナショナリズムの時代――世界右傾化の正体』が有志舎から発売となります。 ★『ブリタニア列王史』は、2007年に南雲堂フェニックスから刊行された単行本の文庫化。帯文に曰く「ブリタニア王国建国から滅亡までの二千年を活写し、アーサー王や魔術師マーリンの事績を体系づけた壮大な偽史」。訳者の言葉を借りると、アーサー王の生涯がはじめて修正されて網羅的に描かれ、アーサー王伝説にいわば歴史的な骨子と枠組みを付与し、アーサー王を疑似歴史上の君主として創りあげた『Historia Regum Britannie』(1138年頃)の訳書です。底本はニール・ライトによる編書(1985年)で、参考した他の版は「訳者あとがき」冒頭に掲出されています。著者のジェフリー・オヴ・モンマス(Geoffrey of Monmouth, c1100-c1154/55)は南ウェールズのカトリックの聖職者。本書のほかの日本語で読める著書には、同じ訳者による『マーリンの生涯――中世ラテン叙事詩』(南雲堂フェニックス、2009年5月)があります。 ★このほか最近では以下の新刊との出逢いがありました。 『スネーク・ピープル――ジグザグデモ、あるいは戦術の系譜』酒井隆史(著)、洛北出版、2025年8月、本体2,800円、四六判並製414頁、ISBN978-4-903127-37-8 『エモさと報道』西田亮介(著)、ゲンロン、2025年7月、本体2,000円、四六判並製232頁、ISBN:978-4-907188-62-7 『激動の時代』マリオ・バルガス=リョサ(著)、久野量一(訳)、作品社、2025年8月、本体3,600円、46判並製332頁、ISBN978-4-86793-103-5 『後藤新平論集』後藤新平(著)、立石駒吉(編)、伏見岳人(監修・解説)、藤原書店、2025年7月、本体3,000円、四六判上製320頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-465-7 『国史より観たる皇室――[附]日本の行くべき道』徳富蘇峰(著)、所功(註・解説)、藤原書店、2025年7月、本体2,700円、四六変型判上製208頁+口絵4頁、ISBN 978-4-86578-466-4 『玉井義臣の全仕事 あしなが運動六十年(5)遺児作文集 天国にいるおとうさま/黒い虹 ほか』玉井義臣(著)、藤原書店、2025年7月、本体8,000円、A5判上製布クロス装560頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-467-1 ★『スネーク・ピープル』はまもなく発売。社会学者の酒井隆史(さかい・たかし, 1965-)さんの論考「Notes on the Snake Dance / Zigzag Demonstration」(『体制の歴史』所収、洛北出版、2013年)を発展させたもので、『通天閣』(青土社、2011年)の「スピンオフ」とのこと。帯文に曰く「かつてのデモは、多種で柔軟だった。なかでも路上を蛇行するジグザグデモは、デモンストレーションの華であり、労働者・失業者、老若男女・色とりどりの人びとを魅了した。しかし、その変幻自在な乱舞のあらわれは、大衆の愚かな「はみだし」としてバッシングされ、内と外から「迷惑行為」として規制されていく…。このスネーク・ダンスの誕生から姿を消すまでの、蛇行の軌跡を追尾する」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★『エモさと報道』は、ゲンロン叢書の第17弾。マスメディアの「エモい記事」をめぐる論争から生まれた一冊。社会学者の西田亮介(にしだ・りょうすけ, 1983-)さんの提言と、それを発端とした対談や鼎談が収められています。「インターネット、SNS、動画という新しい事業形態が全面化した環境のことで、なぜ「民業としての報道」の成立、存続を自明視できるのだろうか」(38頁)。「「信頼できる情報」はその土台となる「トラストな情報基盤」があって初めて提供される。しかしそのような土台の維持、発展はメディア環境の変化によってハード、ソフトともに棄損されているのではないか。それが筆者の問題意識であり、認識である」(47頁)。 ★「ここでいう「トラストな情報基盤」とは、正確な情報を収集し、信頼できるコンテンツの制作と流通を具体的に保証する制度、仕組み、機能を有する報道事業者等の総体のことである」(36頁)。「筆者が懸念するのは、記者が「個性」を求められる時代だけに、昔ながらの社会部的「軟派もの」の名残やエモーショナルな「ちょっといい話」「お涙頂戴物」の現代バージョンを、貴重な紙面やネットに垂れ流しているのではないかということだ。そんなものはいまどきネットにいくらでも無料で転がっているはずだ。報道事業者に求められている仕事だろうか」(51頁)。 ★『激動の時代』は、ペルーの作家マリオ・バルガス=リョサ(Mario Vargas Llosa, 1936-2025)の最晩年の長篇『Tiempos recios』(Alfaguara, 2019)の訳書。書名はアビラの聖テレサの自伝から採られているとのことです。グアテマラ革命の挫折が主題の本書は、長篇小説としては19冊目で、最後から数えて2番目の作品だとか。なお本書には『チボの狂宴』(作品社、2010年)の登場人物が再登場します。人名を書くとネタバレになるので、控えておきます。訳者あとがきの全文が作品社のnoteで公開されています。 ★藤原書店の7月新刊は3点。『後藤新平論集』は、後藤新平(ごとう・しんぺい, 1857-1929)が50代前半の折に行った講演と論説を46編収録したもの。1911年に刊行された書籍の復刊。「文明国の要素」と「新国歌」は収録から外されています。『国史より観たる皇室』は、公職追放され自宅拘禁中の徳富蘇峰(とくとみ・そほう, 1863-1957)が1946年に語り下ろし1953年に私家版として刊行された幻の遺著の復刊。併載された「日本の行くべき道」は同じく1953年の口述で謄写版の小冊子として残されていたもの。『遺児作文集 天国にいるおとうさま/黒い虹 ほか』は、「玉井義臣の全仕事」全6巻中の第5回配本。帯文に曰く「交通遺児・災害遺児・震災遺児・病気遺児・自死遺児に加えて、遺児家庭保護者の声を含めた生の声を厳選して、この一冊に収録」と。
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by urag
| 2025-08-03 21:33
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2025年 07月 27日
★まずは注目の文庫新刊既刊を記します。 『政治的なものの概念』カール・シュミット(著)、中山元(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年7月、本体1,060円、文庫判384頁、ISBN978-4-334-10713-0 『エミール 2』ルソー(著)、斉藤悦則(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年7月、本体1,500円、文庫判518頁、ISBN978-4-334-10712-3 『戦争と漫画 銃後の物語』山田英生(編)、ちくま文庫、2025年7月、本体980円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-44042-6 『戦争と漫画 戦地の物語』山田英生(編)、ちくま文庫、2025年6月、本体940円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-44037-2 『深夜の祝祭――澁澤龍彥怪異小品集』澁澤龍彦(著)、東雅夫(編)、平凡社ライブラリー(文豪怪異小品シリーズ第14弾)、2025年7月、本体1,900円、B6変型判並製384頁、ISBN978-4-582-76993-7 『最初の哲学、最後の哲学――形而上学と科学のあいだの西洋の知』ジョルジョ・アガンベン(著)、岡田温司(訳)、平凡社ライブラリー、2025年6月、本体1,900円、B6変型判並製224頁、ISBN978-4-582-76991-3 『中国奇想小説集――古今異界万華鏡』井波律子(編訳)、平凡社ライブラリー、2025年6月、本体1,800円、B6変型判並製336頁、ISBN978-4-582-76992-0 『本と子どもが教えてくれたこと』中川李枝子(著)、平凡社ライブラリー、2025年4月、本体1,300円、B6変型判並製128頁、ISBN978-4-582-76988-3 『トリストラントとイザルデ』アイルハルト・フォン・オーベルク(著)、石川栄作(訳)、講談社学術文庫、2025年6月、本体1,500円、A6判344頁、ISBN978-4-06-539833-3 ★光文社古典新訳文庫の7月新刊は2点。カール・シュミット『政治的なものの概念』は、近年では 権左武志訳(岩波文庫、2023年8月)に続く新訳。権左訳は「1932年版と33年版を全訳し、各版での修正箇所を示すことで、初出論文である27年版からの変化をたどれるように編集。さらに63年版の序文や補遺等も収録」したものでした。今回の中山訳では、第2版(1932年/1963年、最終版)と第3版(1933年、ナチス版)、最終版(1963年)のまえがきと、第2版(1932年)のあとがきを収録。中山さんの巻末解説から紹介文を引きます。 ★「大幅な改訂を加えた第二版は、戦後になってシュミットが底本として採用したものであり、第一版では語り得なかった問題についてもさまざまな分野まで考察を広げている。ナチスが政権を取る直前の版であり、当時のシュミットの政治哲学的な模索の現場をかいま見せてくれる。/翌年刊行された第三版は、シュミットがナチスに入党した後に刊行されたものであり、第二版において学問的に高く評価していたユダヤ人のエーリヒ・カウフマンについての言及をすべて削除しただけえではなく、人種差別的な表現をいくつか滑り込ませるようなこともしている。さらにナチスの運動体としての側面に注目した言及もみられる。細かなところまで秀が入っているので、ナチス時代にシュミットが自分の著作をどのようなものとして見られたいと考えていたかを知るために役立つだろう」(380~381頁)。 ★『エミール 2』は、全3巻の第2巻。「信仰と道徳についてルソー自身の哲学観、宗教観がもっとも色濃く語られる「サヴォワの助任司祭の信仰告白」を収録」(カバー表4紹介文より)。第1巻は4月に刊行済。これまでに光文社古典新訳文庫で刊行されたルソーの新訳には『エミール』のほか3点あります。2008年8月『人間不平等起源論』中山元訳、2008年9月『社会契約論/ジュネーヴ草稿』中山元訳、2012年9月『孤独な散歩者の夢想』永田千奈訳。『エミール』を訳した斉藤悦則の同文庫での既訳書には、2011年7月にマルサス『人口論』、2012年6月にミル『自由論』、2015年10月にヴォルテール『カンディード』、2016年5月にヴォルテール『寛容論』、2017年5月にヴォルテール『哲学書簡』があります。 ★『戦地の物語』『銃後の物語』は、山田英生(やまだ・ひでお, 1968-)さん編纂によるマンガアンソロジー『戦争と漫画』全3巻の第1弾と第2弾。第1弾『戦地の物語』では、12作品を収録。武田一義、滝田ゆう(原作:野間宏)、水木しげる、わちさんぺい、山田参助、楳図かずお、石坂啓、今日マチ子、比嘉慂、村上もとか、河井克夫(原作:辺見じゅん)、ちばてつや、の各氏。巻末エッセイは吉田裕さん。第2弾『銃後の物語』でも12作品を収録。こうの史代、伊藤重夫、大島弓子、滝沢聖峰、古谷三敏、石坂啓、水木しげる、おざわゆき、巴里夫、近藤ようこ(原作:坂口安吾)、伊藤潤二、滝田ゆう、の各氏。巻末エッセイは中島京子さん。それぞれの目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。来月8月には、第3弾『焦土の記憶』が発売予定です。山田さんによるマンガアンソロジー集は『戦争と漫画』のほかに9点あります。うち8点の整理番号は「や-50」番台で、「現代マンガ選集」のシリーズの1冊『悪の愉しみ』で、こちらの整理番号のみ「け-6-6」です。 ★平凡社ライブラリーの4~7月新刊より4点。4月刊『本と子どもが教えてくれたこと』は、児童文学作家の中川李枝子(なかがわ・りえこ, 1935-2024)さんの語り下ろし自伝(平凡社、2019年)の文庫化。版元紹介文に曰く「名作絵本『ぐりとぐら』『いやいやえん』を生み出した本と子どもとの出合い。巻末に手書きのメッセージ、おすすめのブックリスト付」。巻頭に掲げられた著者の言葉がとても素敵です。「もし、誰かに「あなたの人生は幸せでしたか?」と聞かれたら、「はい、とても」と答えるつもり。「どうして?」と聞かれたら、「本をたくさん読めたからよ」と答えるでしょうね。まだ聞かれたことはないけれど」。巻末解説は夢眠ねむさんによる「本に育てられた、かつての子どもたち」。 ★6月刊2点『最初の哲学、最後の哲学』は、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベン(Giorgio Agamben, 1942-)さんの著書『Filosofia prima filosofia ultima: Il sapere dell'Occidente fra metafisica e scienze』(Einaudi, 2023)の全訳。文庫化ではなく、最初から文庫版で出るのはアガンベンさんの訳書では初めてです。「この研究は、西洋哲学の伝統において「第一哲学」という言い回しによって、あるいはまた――少なくともこの伝統の一部において――「形而上学」という用語によって、いったい何が意図されてきたのかを解明しようとするものである。ここでわたしたちにとって関心があるのは、それを理論的に定義することよりもむしろ、この概念が哲学史のなかで帯びてきた戦略的な機能を解明することである」(9頁)。「第二哲学」「分裂した哲学」「超越論批判」「無限の名」「超越論的対象=X」「形而上学的動物」の全6章立て。 ★『中国奇想小説集』は、2018年に同社から刊行された単行本の文庫化。六朝から唐、宋、明、清代までの古典『捜神記』『唐代伝奇』『聊斎志異』『子不語』などから奇想幻想小説26編を精選したもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「白娘子 永えに雷峰塔に鎮めらるること」は17世紀初め(明末)に馮夢龍(ふうぼうりゅう, 1574-1646)が編纂した小説集『警世通言』に収められた「白娘子永鎮雷峰塔」の現代語訳。いわゆる白蛇伝と総称される民間伝説に属するものです。日本では上田秋成の『雨月物語』の「蛇性の婬」がその一変奏と言えます。日本でも児童書からコミック、小説、実写映画、アニメ、ミュージカルなど、幅広く取り上げられてきた主題です。 ★『深夜の祝祭』は、東雅夫さんが編者をつとめる「文豪怪異小品集」シリーズの第14弾。今回は澁澤龍彥がフィーチャーされています。「物語作家・澁澤龍彥の精髄を収めた〈女妖について〉、雑誌「幻想文学」に寄稿した評論、関連エッセイを網羅した〈書妖について〉、幼年期を過ごした東京・田端や思い出深い鎌倉など土地にまつわる記憶を綴った〈地妖について〉の三章立て」(カバー表4紹介文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。ご参考までに「文豪怪異小品集」シリーズの既刊書を以下に記します。 第01弾:2012年06月『おばけずき――鏡花怪異小品集』泉鏡花 第02弾:2013年06月『百鬼園百物語――百閒怪異小品集』内田百閒 第03弾:2014年07月『可愛い黒い幽霊――宮沢賢治怪異小品集』 第04弾:2015年07月『たそがれの人間――佐藤春夫怪異小品集』 第05弾:2016年07月『怪談入門――乱歩怪異小品集』江戸川乱歩 第06弾:2017年07月『夢Q夢魔物語――夢野久作怪異小品集』 第07弾:2018年08月『変身綺譚集成――谷崎潤一郎怪異小品集』 第08弾:2019年07月『電信柱と妙な男――小川未明怪異小品集』 第09弾:2020年08月『幻想小説とは何か――三島由紀夫怪異小品集』 第10弾:2021年08月『幻想童話名作選――文豪怪異小品集 特別篇』泉鏡花/内田百間/佐藤春夫/江戸川乱歩/夢野久作/谷崎潤一郎/小川未明/三島由紀夫/宮沢賢治/鈴木三重吉/室生犀星/芥川龍之介/与謝野晶子/小泉八雲/川路重之/巌谷小波 第11弾:2022年07月『お住の霊――岡本綺堂怪異小品集』 第12弾:2023年08月『龍潭譚/白鬼女物語――鏡花怪異小品集』泉鏡花(2回目) 第13弾:2024年07月『我が見る魔もの――稲垣足穂怪異小品集』 第14弾:2025年7月『深夜の祝祭――澁澤龍彥怪異小品集』 ★『トリストラントとイザルデ』は、ケルト起源のトリスタン伝説が発展するなかで、12世紀後半に古フランス語で纏められた原典(その後散逸)をもとにドイツ語で物語を書いた、アイルハルト・フォン・オーベルクの作品を新訳したもの。訳者解説によれば「トリスタン伝説の全貌を伝える最古の作品」とのこと。底本が違いますが、文庫で読めるトリスタン伝説には、今回の新訳と底本が異なりますが、ジョゼフ・ベティエ編『トリスタン・イズー物語』(佐藤輝夫訳、岩波文庫、1953年;改版1985年)がありました。現在は品切。オーベルク版の既訳については、wikipediaの「トリスタンとイゾルデ」の項目をご参照ください。 ★このほか最近では以下の新刊との出逢いがありました。 『深海の闇の奥へ』エディス・ウィダー(著)、橘明美(訳)、紀伊國屋書店、2025年8月、本体3,000円、46判並製464頁、ISBN978-4-314-01215-7 『熊になったわたし――人類学者、シベリアで世界の狭間に生きる』ナスターシャ・マルタン(著)、高野優(訳)、紀伊國屋書店、2025年8月、本体2,000円、46判並製208頁、ISBN978-4-314-01211-9 『アナーキーのこと』フランシス・デュピュイ=デリ/トマ・デリ(著)、片岡大右(訳)、作品社、2025年7月、本体2,700円、四六判並製288頁、ISBN978-4-86793-089-2 『浮世絵のみかた』フランク・ロイド・ライト(著)、上杉隼人(編訳)、作品社、2025年7月、本体2,700円、A5判並製208頁、ISBN978-4-86793-102-8 『ウオルド』大小島真木(文・絵)、作品社、2025年7月、本体2,700円、B4横変形判上製56頁、ISBN978-4-86182-989-5 『現代思想2025年8月号 特集=「昭和一〇〇年」から問う』青土社、2025年7月、本体1,800円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1485-8 ★紀伊國屋書店さんのまもなく発売となる新刊より2点。『深海の闇の奥へ』は、米国の海洋学者エディス・ウィダー(Edith Anne Widder Smith, 1951-)による科学ノンフィクション『Below the Edge of Darkness: A Memoir of Exploring Light and Life in the Deep Sea』(Random House, 2021)の訳書です。帯文に曰く「世界初、生きたダイオウイカの撮影に成功した女性科学者が地球最後のフロンティアに潜む謎に挑んだ40年の軌跡」と。映画監督のジェームズ・キャメロンは「苦難を乗り越えて楽観主義を貫いた、懸命な探究と画期的な研究の物語」と評しています。 ★『熊になったわたし』は、フランスの人類学者ナスターシャ・マルタン(Nastassja Martin, 1986-)の実録『Croire aux fauves』(Verticales, 2019)の訳書。帯文によれば「熊に顔をかじられ九死に一生を得た人類学者の変容と再生の軌跡を追ったノンフィクション」。当時著者は29歳。襲われた後に応急処置を受け、ヘリで搬送されて治療される過程がまず描かれます。彼女の友人はこう言います。「今、君はミエトゥカ――二つの世界の狭間で生きる者になったんだ」と。ツングース諸語のひとつであるエヴェン語で「熊に印をつけられた者」という意味のミエトゥカは、半分人間で半分熊だと見なされるそうです。フランスでベストセラーとなり、複数の賞を受賞しています。 ★作品社さんの7月新刊より3点。『アナーキーのこと』は、カナダの政治学者フランシス・デュピュイ=デリ(Francis Dupuis-Déri, 1966-)と彼の父で出版人のトマ・デリ(Thomas Déri, 1936-)の共著『L'anarchie expliquée à mon père』(Lux éditeur, 2014)の全訳。「本書では、無神論者で兵役拒否者の父親と、大学でアナキズムを講じる政治学者の息子との対話をとおして、〔…〕「調和による秩序」を求めるその核心を明らかにし、現在の社会問題へと接続する。国家、宗教、家父長制、資本主義、人種差別など、豊富な論点を取り上げ、総合的な見取り図を提供する、最良の基本書」(カバーソデ紹介文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 ★『浮世絵のみかた』は、「近代建築の巨匠ライトが遺した、浮世絵にまつわる評論/エッセイを一冊にまとめる、本邦初の書籍。ライトが日本で収集し、アメリカに持ち帰った作品のカラー図版、96点を収録」(帯文より)。「浮世絵 ひとつの解釈」「暫(しばらく)」「未来の世代のために」「一九〇六年シカゴ美術館「広重展」序文」「日本古代誌」「浮世絵を追い求めて」の全6章。フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright, 1867-1959)は米国の建築家。1910年代から20年代に日本で手掛けた建築に、帝国ホテルライト館や自由学園明日館、旧山邑邸などがあります。 ★『ウオルド』は、美術家の大小島真木(おおこじま・まき, 1987-)さんと編集者の辻陽介(つじ・ようすけ, 1983-)さんの二氏によるアートユニット「大小島真木」が手掛ける初めての絵本。シュルレアリスムを思わせる絵画群に言葉が添えられています。ユニットの制作活動は「「絡まり、もつれ、ほころびながら、いびつに循環していく生命」をテーマにしているとのこと。9月には本書の特装限定版(クロス装、函入、直筆サインおよびナンバリング入りの銅版画付き)が作品社ウェブサイトで税別5万円にて発売されると予告されています。 ★『現代思想2025年8月号』の特集は「「昭和一〇〇年」から問う」。版元紹介文に曰く「近年――憧憬あるいは嫌悪をもって――盛んに回顧される「昭和」表象にも目を向けつつ、60年余りに及んだこの一時代をいま改めて問うことで、戦前/戦後を貫き現在にまで連なる歴史のありようを広く見渡していく」と。佐藤卓己さんと成田龍一さんによる討議「記憶の場としての「昭和」/方法としての「昭和」」のほか、論考17本と資料1本を掲載。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。次号9月号の特集は「米と日本人」とのこと。
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by urag
| 2025-07-27 17:17
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2025年 07月 21日
★まず注目既刊書から。文庫や新書の新刊既刊も取り上げる予定でしたが、点数が多いので、次の機会に持ち越します。 『ETHレクチャー(7)1939-1940 ユングが語るイグナティウス・ロヨラの霊操』C・G・ユング(著)、M・リープシャー(編)、河合俊雄(監修)、猪股剛/宮澤淳滋/長堀加奈子(訳)、創元社、2025年6月、本体6,000円、A5判並製432頁、ISBN978-4-422-11739-3 『技術への問い』マルティン・ハイデガー(著)、中山元(訳)、日経BPクラシックス、2025年6月、本体3,000円、四六変形判上製276頁、ISBN978-4-296-00249-8 ★『ユングが語るイグナティウス・ロヨラの霊操』は、シリーズ「ETHレクチャー」の第7巻。「1939年から1940年の冬にかけて行われた『霊操』に関する講義の記録。キリスト教の精神修養とアクティブ・イマジネーションとの類似点についてのユングの研究の集大成」(帯文より)。「監修者によるまえがき」で河合俊雄さんはこう解説しています。「『赤の書』で知られるように、ユングは想像上の人物像との対話を行うアクティヴ・イマジネーションのという技法を用いたので、いわば神との対話を行う霊操(Exercitia spiritualia)という方法についてのユングの解説は、アクティヴ・イマジネーションの歴史的背景を知り、またユングの霊操についての理解を知るために非常に参考になると考えられる」(7頁)。 ★「ETHレクチャー」は、ETH(エーテーハー:スイス連邦工科大学)で一般聴衆向けに行われた講義録シリーズの翻訳。既刊書は、第1巻『近代心理学の歴史(1933-1934)』2020年8月刊、第6巻『ヨーガと瞑想の心理学(1938-1940)』2023年8月刊、第2巻『意識と無意識(1934)』2024年10月刊。 ★『技術への問い』は、日経BPクラシックスの第29弾。「ハイデガーの技術論の核心を示す4つの講演・論文を収録」(版元紹介文より)。「技術への問い」(Die Frage nach der Technik, 1953年)、「建てること、住むこと、考えること」(Bauen Wohnen Denken, 1951年) 、「物」(Das Ding, 1949年)、「世界像の時代」(Die Zeit des Weltbildes, 1938年)の新訳を収録し、巻末に中山元さんによる「ハイデガーの四つの技術論の位置――訳者あとがきに代えて」が配されています。「わたしたちが危険に近づけば近づくほど、救いをもたらすものに通じる道がそれだけ明るく輝き始めるのであり、それだけいっそうわたしたちは問い掛ける者となるのです。というのも、問い掛けるということは、思考の敬虔なあり方だからです」(「技術への問い」82頁)。 ★このほか最近では以下の新刊との出逢いがありました。 『渇き』ガブリエル・マルセル(著)、古川正樹(訳)、〈ルリユール叢書〉第48回配本69冊目:幻戯書房、2025年7月、本体2,900円、四六変形判上製232頁、ISBN978-4-86488-327-6 『カトリーヌ・クラシャの冒険』ピエール・ジャン・ジューヴ(著)、小川美登里/飯塚陽子(訳)、〈ルリユール叢書〉第48回配本68冊目:幻戯書房、2025年7月、本体4,500円、四六変形判上製408頁、ISBN978-4-86488-326-9 『満月が欠けている――不治の病・緑内障になって歌人が考えたこと』穂村弘(著)、叢書クロニック:ライフサネンス出版、2025年7月、本体2,000円、四六判並製256頁、ISBN 978-4-89775-492-5 『vanitas No. 009 特集=なぜつくるのか』蘆田裕史+水野大二郎(責任編集)、アダチプレス、2025年7月、本体2,400円、A5判変型216頁、ISBN978-4-908251-18-4 『木下尚江 その生涯と思想』鄭玹汀(著)、平凡社、2025年6月、本体5,000円、A5判上製388頁、ISBN978-4-582-83985-2 『完全版 ブロードウェイ・ミュージカル事典』重木昭信(著)、平凡社、2025年7月、本体22,000円、A5判上製函入1088頁、ISBN978-4-582-12650-1 ★ジューヴ『カトリーヌ・クラシャの冒険』とマルセル『渇き』は、幻戯書房の〈ルリユール叢書〉第48回配本となる、68冊目と69冊目。『カトリーヌ・クラシャの冒険』は、フランスの作家ピエール・ジャン・ジューヴ(Pierre Jean Jouve, 1887–1976)の小説『Aventure de Catherine Crachat』(Mercure de France, 1962)の新訳。帯文に曰く「映画女優カトリーヌをめぐる三角関係と破局を描く『ヘカテー』。小説の結構が瓦解し、主人公の夢と現が混淆する『ヴァガドゥ』。めくるめく二つの物語がオペラのように紡がれる詩的長編小説」。既訳には豊崎光一訳(モダン・クラシックス:河出書房新社、1975年)があります。 河出版の帯文はこうでした。「罪と愛と死とエロチシズムをめぐって生命からほとばしりでるパッション(受難-情熱)の世界」。 ★『渇き』は、フランスの哲学者ガブリエル・マルセル(Gabriel Marcel, 1889–1973)の戯曲『Le soif』(Desclée de Brouwer, 1938)の初訳。帯文に曰く「日常生活における真の「愛」の実相が家庭劇の対話を通じて追求され、登場人物各自の自発的な自己反省から人間存在そのものの内なる飢え、〈渇き〉という存在論的問題が浮き彫りにされる」と。訳者の古川さんは同じくルリユール叢書で、マルセルの戯曲の訳書『稜線の路』(2023年;原著1936年)を手がけておられます。 ★『満月が欠けている』は、歌人の穂村弘(ほむら・ひろし, 1962-)さんが「私の持病である緑内障とその周辺について」(あとがきより)語った半世紀とも言える一冊。表題作の「満月が欠けている」は、北原白秋や寺山修司らの短歌を「瞳」をめぐる作品として読み解いたもの。緑内障の主治医・後藤克博氏との対談「今日は患者の君の目を診る」や、長年の友人で精神科医の春日武彦氏との対談「天国に格差はある?」を併録。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★ファッション批評誌『vanitas』の第9号は特集「なぜつくるのか」。創刊13年目を迎える今号では巻頭言(foreword)が更新され、判型も一回り大きくなっています。誌名のリンク先では目次詳細と、水野大二郎さんによる「introduction」の主要部分を読むことができます。曰く「人間とその内面や、人間と人間、人間と技術、人間と環境、人間と未来など、多様な要素の連関や応答のなかで「なぜつくるのか」をとらえることは近年、ますます重要となっている。なぜなら、ファッションとは個人や社会、ひいては地球のあり方と連関し応答する文化的な営みだからだ」と。 ★『木下尚江 その生涯と思想』は、「日本における稀有の革命思想家、木下尚江の評伝決定版」(帯文より)。「普選運動の開拓者、絶対天皇制への挑戦者、人権の擁護者、反戦運動の唱道者、野生のキリスト教徒、社会主義の闘士として活躍しながらも、一切の権力を否定しきった果て、政治闘争の世界に望みを絶ち、野に隠れた木下尚江。それから数十年、長い沈黙を破って再び公衆の前に姿を現した彼が、その人生を賭けて語ろうとした「革命」とは」(同)。巻頭の「はじめに」によれば「本書は前著『天皇制国家と女性――日本キリスト教史における木下尚江』(教文館、2013年)で扱えなかったところ、つまり木下尚江の幼年・少年期、東京専門学校(現・早稲田大学)に在籍した時期、そして政治・社会運動家ら離れた後半生を含めて、その生涯の全体に光を当てて再構成した評伝である」。著者の鄭玹汀(ちょん・ひょんじょん, 1967-)さんは、ソウル生まれで2002年に来日。東京大学で博士課程を終え、現在は中国の東北師範大学副教授、立命館大学客員研究員を務めておられます。 ★木下尚江(きのした・なおえ, 1869-1937)の著作については、教文館より『木下尚江全集』全20巻(1990~2003年)がありますが、現在は新本では全巻を揃えるのが難しいようです。鄭さんの評伝本の帯表4には木下の『貧乏』(昭文堂、1908年;教文館全集第6巻所収、1991年)から次の言葉が引かれています。「君に故郷という観念がないのは、僕から見れば実に大なる恩寵だ、古来大思想家だの、大宗教家だのと云う連中でも、皆なこの故郷とか祖国とか云う小感情に制〔おさ〕えられて、自由自在に伸びることができなくて、中途はんぱで委縮している」。昨今の政治家に音読させたい名言です。 ★『完全版 ブロードウェイ・ミュージカル事典』は、重木昭信(しげき・あきのぶ, 1951-)さんによる、『ミュージカル映画事典』(平凡社、2016年)、『音楽劇の歴史――オペラ・オペレッタ・ミュージカル』(平凡社、2019年)に続く大作。『ブロードウェイ・ミュージカル事典』は「芝邦夫」名義で劇書房より1984年に上梓され、1997年には同社より増補再版が刊行されていました。今般、28年ぶりに約2倍の増量と改訂を行った完全版が完成。総項目数は約1,800、総索引数は約12,000とのことです。帯文に曰く「ブロードウェイの250年をわしづかみにする日本唯一の専門事典」と。本書の特徴について帯表4より転記しておきます。 作品編:演目数約900。出演者、スタッフ、物語、解説を掲載。 人名編:480を超える重要人物の紹介と、関連演目を収録。 用語集:演劇・ミュージカル用語を中心に、約250語を解説。 劇場案内:おもな劇場約100館の概要と、上演演目を収録。 作品年表:主要約22600作品を上演順に掲載。 ブロードウェイ・ミュージカル小史:成立から発展を端的に記述。 文献案内:案内書や通史、事典から論文までを概観。 索引:和文・欧文で引ける作品索引/人名索引/事項索引。 #
by urag
| 2025-07-21 16:08
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