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2018年 05月 07日

月曜社5月新刊:荒木優太『仮説的偶然文学論』

◆月曜社2018年5月新刊:人文/文芸/思想・批評:5月14日受注締切/5月22日取次搬入予定

仮説的偶然文学論――〈触れ‐合うこと〉の主題系
荒木優太著
月曜社 2018年5月 本体:2,000円 B6変判[180mm×114mm×23mm]並製336頁 ISBN: 978-4-86503-059-4


なぜ「たまたま」や「ひょんなこと」や「奇跡」で小説を組み立ててはいけないのか。昭和10年代、中河与一の偶然文学論は近代文学伝統のリアリズムに対して果敢に挑戦した。本当にリアルなのは偶然の方なのだ。が、その偶然なるものは、どんな〈触れ‐合い〉を排除することで成り立っているのか。中河、国木田独歩、寺田寅彦、葉山嘉樹のテクストに宿るcontingencyを、〈遭遇 con-tact〉と〈伝染 con-tagion〉、つまりは〈触れ‐合うこと con-tangere〉の主題系として読み解く。偶然という言葉でもってなにかを語った気になってはいけない。新シリーズ〈哲学への扉〉創刊!

目次:
序 偶然を克服/導入せよ?
第一部 コンタクト
第一章 偶然性の時代
第二章 中河与一『愛恋無限』と日本的伝統
第三章 国木田独歩『鎌倉夫人』と主題〈場所性〉
第四章 国木田独歩『号外』と主題〈外部性〉
第五章 国木田独歩『第三者』と主題〈感性〉
第六章 国木田独歩の諸作と主題〈断片性〉
第二部 コンテイジョン
第七章 中河与一の初期小説と主題〈伝染性〉
第八章 寺田寅彦の確率論
第九章 寺田寅彦の風土論
第一〇章 葉山嘉樹文学の住環境と主題〈混合性〉
第一一章 葉山嘉樹の寄生虫
終章 偶然的他者との幅のある出会い方
あとがき
文献
索引

荒木優太(あらき・ゆうた:1987-):在野研究者。専門は有島武郎。明治大学文学部文学科日本文学専攻博士前期課程修了。ウェブを中心に大学の外での研究活動を展開している。2015年、「反偶然の共生空間――愛と正義のジョン・ロールズ」が第59回群像新人評論賞優秀作となる。著書に『これからのエリック・ホッファーのために――在野研究者の生と心得』(東京書籍、2016年)、『貧しい出版者――政治と文学と紙の屑』(フィルムアート社、2017年;『小林多喜二と埴谷雄高』ブイツーソリューション、2013年の増補改題版)。

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# by urag | 2018-05-07 11:06 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2018年 05月 07日

ドイッチャー賞受賞作の訳書一覧

イギリスのマルクス主義歴史学者アイザック・ドイッチャー(Isaac Deutscher, 1907-1967)とその伴侶タマラ(Tamara Deutscher, 1913-1990)を記念し、英語圏で出版されたマルクスおよびマルクス主義をめぐる革新的な研究に対して毎年贈られる「ドイッチャー賞(the Deutscher Memorial Prize)」の受賞作(1969-2017)の訳書をまとめてみました。記載のない年は訳書がないか受賞なしの場合です。研究者の名前だけ記載しているのは、受賞作が翻訳されていないものの、他の著作や編書の訳書がある場合です。2018年はマルクス生誕200周年ですので、ブックフェアやコーナーづくりのご参考になれば幸いです。

2015年
タマシ・クラウス

2013年
グローバル資本主義の形成と現在:いかにアメリカは、世界的覇権を構築してきたか
レオ・パニッチ/サム・ギンディン著、長原豊監訳、芳賀健一/沖公祐訳、作品社、2018年

2010年
資本の「謎」:世界金融恐慌と21世紀資本主義
デヴィッド・ハーヴェイ著、森田成也ほか訳、作品社、2012年

2009年
ベン・ファイン

2003年
近代国家体系の形成:ウェストファリアの神話
ベンノ・テシィケ著、君塚直隆訳、桜井書店、2008年

1999年
カール・マルクスの生涯
フランシス・ウィーン著、田口俊樹訳、朝日新聞社、2002年

1997年
ロビン・ブラックバーン

1996年
ドナルド・サスーン

1995年
20世紀の歴史:極端な時代(上下)
エリック・ホブズボーム著、河合秀和訳、三省堂、1996年

20世紀の歴史:両極端の時代(上)
エリック・ホブズボーム著、大井由紀訳、ちくま学芸文庫、2018年6月7日発売予定

1994年
市民社会の帝国 : 近代世界システムの解明
J・ローゼンバーグ著、渡辺雅男/渡辺景子訳、桜井書店、2008年

1993年
ハーヴェイ・J・ケイ

1992年
必要の理論
L・ドイヨル/I・ゴフ著、遠藤環/神島裕子訳、勁草書房、2014年

1991年
要塞都市LA
マイク・デイヴィス著、村山敏勝/日比野啓訳、青土社、2001年;増補新版2008年

1990年
A・J・メイア

1989年
美のイデオロギー
テリー・イーグルトン著、鈴木聡ほか訳、紀伊國屋書店、1996年

1988年
ボリス・カガルリツキー

1986年
エレン・メイクシンス・ウッド

1985年
所有と進歩:ブレナー論争
ロバート・ブレナー著、山家歩/田崎愼吾/沖公祐訳、日本経済評論社、2013年

1984年
失われた美学:マルクスとアヴァンギャルド
マーガレット・A・ローズ著、長田謙一ほか訳、法政大学出版局、1992年

1980年
現代資本主義の論理:対立抗争とインフレーション
ボブ・ローソン著、藤川昌弘ほか訳、新地書房、1983年

1979年
G・A・コーエン

1977年
S・S・プロウアー

1976年
社会化と政治体制:東欧社会主義のダイナミズム
W・ブルス著、大津定美訳、新評論、1982年

1975年
M・リーブマン

1974年
イスラームと資本主義
M・ロダンソン著、山内昶訳、岩波現代選書、1978年;岩波現代選書特装版、1998年

1972年
A・ギャンブル/P・ウォルトン

1970年
マルクスの疎外理論
I・メサーロシュ(イシュトヴァン・メーサロシュとも)著、三階徹/湯川新訳、啓隆閣、 1972年;再版1975年

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# by urag | 2018-05-07 01:27 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 05月 06日

注目新刊:フランソワ・マトゥロン『もはや書けなかった男』航思社、ほか

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もはや書けなかった男』フランソワ・マトゥロン著、市田良彦訳、航思社、2018年4月、本体2,200円、四六判並製200頁、ISBN978-4-906738-34-2
人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』三宅陽一郎著、BNN新社、2018年4月、本体2,500円、A5判並製384頁、ISBN978-4-8025-1080-6
黄金の華の秘密 新装版』C・G・ユング/R・ヴィルヘルム著、湯浅泰雄/定方昭夫訳、人文書院、2018年4月、本体2,800円、4-6判上製338頁、ISBN978-4-409-33057-9
フェレンツィの時代――精神分析を駆け抜けた生涯』森茂起著、人文書院、2018年4月、本体3,600円、4-6判上製240頁、ISBN978-4-409-34052-3
グローバル資本主義の形成と現在――いかにアメリカは、世界的覇権を構築してきたか』レオ・パニッチ&サム・ギンディン著、長原豊監訳、芳賀健一/沖公祐訳、作品社、2018年4月、本体3,800円、46判上製600頁、ISBN978-4-86182-694-8
友情の哲学――緩いつながりの思想』藤野寛著、作品社、2018年4月、本体1,800円、46判並製208頁、ISBN978-4-86182-692-4
生物模倣――自然界に学ぶイノベーションの現場から』アミーナ・カーン著、松浦俊輔訳、作品社、2018年5月、本体2,600円、46判並製376頁、ISBN978-4-86182-691-7

★『もはや書けなかった男』はアルチュセールの死後出版の編纂・校訂者で『ミュルティテュード(マルチチュード)』誌の編集委員を務めた哲学者フランソワ・マトゥロン(François Matheron, 1955-)による著書の、初めての日本語訳。フランス語版『L’homme qui ne savait plus écrire』(Zones/La Découverte, 2018)は3月に刊行されており、その出版に尽力し「あとがき」も著した盟友である市田良彦さん(本書においては「戦いの同伴者ヨシ」)が日本語訳を手掛けておられます。2005年の11月、家族との団らん中に脳卒中で倒れたマトゥロンが、リハビリ訓練中の翌年9月に書くことを薦められ、とはいえ文字通りの執筆が困難なため、テープレコーダーに録音し、のちに音声入力ソフトを使用してできあがったのが本書だそうです。人の名前を忘れ、排泄を含めて自身のことがどんどんままならなくなる中での自画像であり、その合間にアルチュセールやスピノザをめぐる思索の軌跡が刻まれます。糞尿まみれの拷問のような日々には絶句するばかりです。

★壊れていく伴侶を日々支えることによって深く疲弊していくマトゥロン夫人キャロルとの関係がありのままに描かれている一方で、ひどい鬱状態のために2016年には「あの」サンタンヌ病院に搬送されたマトゥロンが、アルチュセールとの符合をめぐってヨシとやりとりをしたエピソード(「最初に読まれるべき訳者あとがき」)に厚い友情を感じます。また、本書巻末に収められたネグリからのメッセージにも友愛が溢れています。父親であるスピノザ学者アレクサンドル・マトゥロン(Alexandre Matheron, 1926-)が、息子に代わってアルチュセール本の校正を手伝ったというくだりにも胸を打たれました。アレクサンドルは息子が倒れた一年後に同じく脳卒中を患ったことがあるそうです。

★三宅陽一郎『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』は2016年に出版された西洋哲学篇の続編で、「人工知能の足元を支える哲学を探求する」という名目で行われた「人工知能のための哲学塾」の成果です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「東洋哲学篇は僕にとって未来にあたります。なぜなら、東洋哲学篇はこれから僕自身も進むべき人工知能の新しい方向を示した場であるからです。知能を作るためには、人類の持つあらゆる叡智を結集・結晶せねばなりません。西洋から発祥した人工知能の方向がやがて行き詰まりを迎えるときには、東洋の示す人工知能が新しい活路を示さねばなりません」と、三宅さんは「はじめに」でお書きになっています。荘子、井筒俊彦、道元、龍樹、鈴木大拙、等々がゲーム開発におけるキャラクターAIのために参照される様は非常に興味深く、科学・哲学・工学の交差点にあるという人工知能の議論への関心は、本書の登場によっていっそう高まるのではないかと予感します。

★続いて人文書院さんの新刊2点。『黄金の華の秘密』は1980年の初版刊行以来、版を重ねオンデマンドでもロングセラーを続けてきた古典の、新装再刊です。原著は1929年刊で、道教の文献『太乙金華宗旨』と『慧命経』のヴィルヘルムによるドイツ語訳に、ユングが長大な注解を添えたもの。ユングのマンダラ論、原型論、個性化論を理解するうえで欠かせない必読書です。長い年月を掛けてユングの著作の重版や新装版を刊行し続けておられる人文書院さんに敬意を表したいです。

★次に、森茂起『フェレンツィの時代』はハンガリーの精神分析家、フェレンツィ・シャーンドル(Ferenczi Sándor, 1873-1933)をめぐる、おそらく日本初の専門研究書です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書では幼少期から時系列的に出来事を追うのではなく「フェレンツィの生涯から日付を特定できるいくつかの瞬間を取り上げ、そこに至る過程を振り返る叙述を大幅に取り入れ」(あとがきより)、「ある特定の場所である時代のある瞬間を生きたフェレンツィの姿を描き出し」(同)ています。著者の森さんによるフェレンツィの訳書、『臨床日記』(みすず書房、2000年)も新装版が本書と同じく4月に発売されており、フェレンツィと往復書簡を交わしていたゲオルク・グロデックの著書『エスの本――ある女友達への精神分析の手紙』(岸田秀/山下公子訳、誠信書房、1991年)も、同月に講談社学術文庫の一冊として再刊されています。

★最後に作品社さんの新刊3点。まず、パニッチ&ギンディン『グローバル資本主義の形成と現在』は、『The Making of Global Capitalism: The Political Economy of American Empire』(Verso, 2012)の全訳。マルクスおよびマルクス主義をめぐる革新的な研究に対して毎年贈られるドイッチャー賞(the Deutscher Memorial Prize)を2013年に受賞しています。監訳者の長原さんによれば本書は、アメリカの帝国的発展こそがグローバル資本主義の形成過程にほかならないことを実証した同時代史の書であり、現状分析の書でもある、と紹介しておられます。また、サスキア・サッセンやナオミ・クライン、デヴィッド・ハーヴェイをはじめとする多くの識者から「偉大な一書」「必要不可欠な書」「すべての人びとが読むべき一書」等々という賛辞が寄せられています。アメリカとの付き合いに様々な困難と課題が付きまとう日本においても参考になる本ではないでしょうか。目次は以下の通りです。

まえがき
序文 方法論的視点
第Ⅰ部 新たなアメリカ帝国へのプレリュード
 第1章 アメリカ資本主義の遺伝子
 第2章 アメリカ国家の能力――第一次世界大戦からニューディールまで
第Ⅱ部 グローバル資本主義というプロジェクト
 第3章 新たなアメリカ帝国を計画する
 第4章 グローバル資本主義の船出
第Ⅲ部 グローバル資本主義への移行
 第5章 成功の矛盾
 第6章 危機を貫く構造的な力
第Ⅳ部 グローバル資本主義の実現
 第7章 帝国的力能の更新
 第8章 グローバル資本主義の統合
第Ⅴ部 グローバル資本主義の支配
 第9章 法の支配――グローバル化を統治する
 第10章 帝国の新たな挑戦――危機を管理する
第Ⅵ部 グローバル資本主義の21世紀
 第11章 自分の姿に似せた世界
 第12章 アメリカの危機、世界の危機
結論
[日本語版解説]忖度〔ぼうりょく〕を制度化する非公式帝国アメリカ――相対的脱領土〔グローバリゼーション〕化装置(長原豊)

★次に、藤野寛『友情の哲学』はこんにちもっとも困難であろう問いと向き合った好著。「本書では、理想主義にも冷笑主義にも陥ることなく友情について考えることが試みられる。そういう方向性を採るように促されるのは、友情をめぐる21世紀の現実によってである。より具体的に言えば、高齢化社会、セクシュアリティ、家族、ジェンダー、SNSをめぐる私たちの現実だ」(プロローグより)。アクセル・ホネットの承認論を導きの糸とし、アリストテレス、モンテーニュ、カント、ニーチェ、フーコーらの議論を振り返りつつ、アレクサンダー・ネハマス(Alexander Nehamas, 1946-)や、ヤノーシュ・ショービン(Janosch Schobin, 1981-)らの友情(Freundschaft)論も参照しつつ、平易な言葉で「友情の原理」(第Ⅰ部)と「変化の中の友情」(第Ⅱ部)が掘り下げられます。恋愛でも博愛でもない友情の中間的性格や緩さの再発見は、超高齢社会に突入して久しい日本の現状と未来を考える上で欠かせない視点ではないかと感じます。

★カーン『生物模倣』は明日5月7日取次搬入となる新刊で、『Adapt: How Humans Are Tapping into Nature's Secrets to Design and Build a Better Future』(St. Martin's Press, 2017)の翻訳。「ロサンゼルス・タイムズ」紙のサイエンスライターによる「生物に着想を得たデザイン(biologically inspired design)」をめぐる一冊。「本書では、生物学から学ぼうと集まり、私たちの技術開発能力の限界を超えようとしている様々な分野の科学者と出会う。極微の世界(光合成の化学)からきわめて大きな世界(生態系の原理)まで見て回る。そこで話を、材料科学、運動の力学、システムの基礎構造、持続可能性という四つのテーマに分けることにする。各章では、自然がどのように今の科学技術の上を行っているかを人々が調べるうちに、いくつかの新発見がなされ、またさらに現われようとしている分野を見ていく。本書全体で、そうした例やさらにその先を見て、自然の新機軸を人間の科学技術向上にあてはめることで、ものごとを大きくするのではなく、良くすることが可能になる様子を探る」(プロローグより)と。目次詳細は書名のリンク先でご覧になれます。

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# by urag | 2018-05-06 23:00 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 04月 30日

注目新刊:イーグルトン『文学という出来事』、村山則子『ラモー 芸術家にして哲学者』、ほか

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テリー・イーグルトン著、大橋洋一訳
平凡社、2018年4月、本体3,600円、A5判上製352頁、ISBN978-4-582-74431-6

★イーグルトン『文学という出来事』は、『The Event of Literature』(Yale University Press, 2012)の全訳。目次は以下の通りです。

はじめに
第一章 実在論者と唯名論者
第二章 文学とは何か(一)
第三章 文学とは何か(二)
第四章 虚構の性質
第五章 ストラテジー
原注/訳注
訳者あとがき
作品名索引/人名索引

★「文学理論は、ここ二十年で、かなり流行遅れとなった」という一文で始まる巻頭の「はじめに」でイーグルトンは本書の執筆意図についてこう説明しています。「状況の異常さ〔…〕なにしろ大学では教員も学生も、文学とは虚構〔フィクション〕とか詩とか物語〔ナラティヴ〕などの言葉を習慣的に使いながら、それらが何を意味しているのかについて議論する準備も訓練もできていないのだから。文学理論家とは、こうした事態を、たとえ危険極まりないとは思わないとしても異常であると思う人びとである。〔…〕またさらに文学理論の流行が遠のいた結果、答えられぬまま宙づりになった重要な問いかけが数多くあり、本書は、そうした問いのいくつかに答えようとしている」(12頁)。

★イーグルトンのロングセラー『文学理論』(『文学とは何か――現代批評理論への招待』大橋洋一訳、岩波書店、1985年;新版、1997年;岩波文庫、上下巻、2014年;Literary Theory: An Introduction, Blackwell, 1983; Second edition, 1996; 25th Anniversary edition, 2008)と本書との関係について、大橋さんは訳者あとがきで次のように書かれています。「『文学とは何か』が、ヨーロッパ大陸系の文学理論を扱うものであるとすれば、本書『文学という出来事』は、英米の分析哲学に影響を受けているというか、分析哲学そのものでもある「文学哲学」について扱っている。英米系の分析哲学と大陸系の文学理論、この両者の橋渡し、あるいは有意義な遭遇の場、それが本書でもある」(330~331頁)。

★再びイーグルトン自身の「はじめに」に戻ると、彼は「ある意味で本書は文学理論に対する暗黙の批判であるともいえる。わたしの議論は、最終章を除くと、その多くが、文学理論ではなく、それとは似て非なる分野すなわち文学哲学を相手にしている」(10頁)と書いています。「文学理論がヨーロッパ地域からおおむね芽吹いたとしたら、文学哲学のほうは、その大部分が英米圏から誕生している。しかし最良の文学哲学にみられる厳密さや専門性は、一部の文学理論にみられる知的なゆるさとは好対照をなしているがゆえに、文学理論陣営ではなおざりにされてきた諸問題(たとえば虚構の性格をめぐるもの)に鋭く切り込むことができた」(同)。

★さらにこう続きます。「逆に文学理論とは対照的に文学哲学についてまわるのは、知的保守主義と臆病さであり、批判的眼識と大胆な想像力の、時として致命的な欠如である。一方の陣営が、フレーゲなど聞いたことがないかのようにふるまうとすれば、いま一方の陣営はフロイトなど聞いたことがないかのように行動する。〔…〕今日では、分析哲学と文化的・政治的な保守主義との間に奇妙な(そしてまったく不必要な)関係が存在するように見えるが、一昔前は分析哲学の主要な実践者の多くにそのような傾向はみられなかった」(10~11頁)。

★イーグルトンが言う「文学哲学」の原語は the philosophy of literature なのですが、この分野(文学哲学、ないし文学の哲学)はひょっとすると日本ではまだよく理解されていないかもしれません。まず概論としてはまさに本書の原著版元であるブラックウェルが標準的な読本を手掛けており、2004年に『The Philosophy of Literature: Contemporary and Classic Readings - An Anthology』を、2010年には『A Companion to the Philosophy of Literature』を出版しているので、そちらを踏まえておいても良いかもしれません。『文学という出来事』では英米語圏の哲学者、文学研究者、批評家などが登場し、よく言及される人物にはヴィトゲンシュタイン(1889-1951)、ケネス・バーク(1897-1993)、フレドリック・ジェイムソン(1934-)、スタンリー・フィッシュ(1938-)、ピーター・ラマルク(1948-)らがいます。本書には言及がない本ですが、ラマルクにはその名もずばり『文学の哲学』という著書があります。この本もブラックウェルより2009年に刊行されたものです。

★このほか、幾度となく言及される人物には、フランク・レイモンド・リーヴィス(1895-1978)、ジョン・L・オースティン(1911-1960)、モンロー・C・ビアズリー(1915-1985)、ポール・ド・マン(1919-1983)、ジョゼフ・マーゴリス(1924-)、エリック・ドナルド・ハーシュ(1928-)、リチャード・M・オーマン(1931-)、ジョン・M・エリス(1936-)、リチャード・ゲイル(1932-2015)、ジョン・サール(1932-)、ケンダル・ウォルトン(1939-)、チャールズ・アルティエリ(1942-)、クリストファー・ニュー(1942-)、ジョナサン・カラー(1944-)、グレゴリー・カリー(1950-)などがいます。これら複数の分野にまたがる学者をカヴァーするイーグルトンの視野の広さと奥行きを感じさせます。ちなみに文学哲学に隣接する分野を扱った読本として、『分析美学基本論文集』(勁草書房、2015年)があり、そこで扱われる研究者は部分的にですが『文学という出来事』と重なります。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

サルゴフリー 店は誰のものか――イランの商慣行と法の近代化』岩﨑葉子著、平凡社、2018年4月、本体4,800円、A5判上製272頁、ISBN978-4-582-82487-2
ラモー 芸術家にして哲学者――ルソー・ダランベールとの「ブフォン論争」まで』村山則子著、作品社、2018年4月、本体4,200円、A5判上製376頁、ISBN978-4-86182-687-0
マンシュタイン元帥自伝――一軍人の生涯より』エーリヒ・フォン・マンシュタイン著、大木毅訳、作品社、2018年4月、本体3,600円、46判上製560頁、ISBN978-4-86182-688-7
昭和ノスタルジー解体――「懐かしさ」はどう作られたのか』高野光平著、晶文社、2018年4月、本体2,500円、四六判上製380頁、ISBN978-4-7949-6996-5
進歩――人類の未来が明るい10の理由』ヨハン・ノルベリ著、山形浩生訳、晶文社、2018年4月、本体1,850円、四六判並製344頁、ISBN978-4-7949-6997-2
日本の気配』武田砂鉄著、晶文社、2018年4月、本体1,600円、四六判並製296頁、ISBN978-4-7949-6994-1

★岩﨑葉子『サルゴフリー 店は誰のものか』は「サルゴフリーと呼ばれる権利の売買にまつわるイランの商慣行が、20世紀初頭から現在までのおよそ100年の間に、それをめぐる法律とともにどのような歴史的変遷を辿ったかを論じ」たもの(序章、10頁)。サルゴフリーとは借りた店舗で商売をする権利のこと。「イスラーム諸国における法の近代化とその今日的帰趨」(12頁)をめぐる興味深い事例であり、そこには「イスラーム法と西欧近代法との「不測の」軋轢とその克服」(10頁)の歴史があるとのことです。著者の岩﨑葉子(いわさき・ようこ:1966-)は日本貿易振興機構アジア経済研究所開発研究センターにお勤めで、近年の単独著に『「個人主義」大国イラン――群れない社会の社交的なひとびと』(平凡社新書、2015年)があります。

★村山則子『ラモー 芸術家にして哲学者』は『メーテルランクとドビュッシー――『ペレアスとメリザンド』テクスト分析から見たメリザンドの多義性』(作品社、2011年)、『ペローとラシーヌの「アルセスト論争」――キノー/リュリの「驚くべきものle merveilleux」の概念』(作品社、2014年)に続く、詩人で小説家でもある著者による重厚な研究書。18世紀フランスの作曲家にして音楽理論家の、ジャン=フィリップ・ラモー(Jean-Philippe Rameau, 1683-1764)を論じたもの。第一部「芸術家ラモー」全六章と第二部「哲学者ラモー」全五章の二部構成。第一部ではラモーのオペラ作品を取り上げ、第二部では副題にあるように、ダランベールやルソーらと交わした論争を扱い、ラモー自身の音楽理論が考察されます。和声を重視したラモーの音楽理論の根本原理である「音響体 le principe sonore」概念が非常に興味深いです。

★『マンシュタイン元帥自伝』は1958年に刊行された『Aus einem Soldatenleben』の全訳。ドイツの「名将」フリッツ・エーリヒ・フォン・レヴィンスキー・ゲナント・フォン・マンシュタイン(1887-1973)の誕生から第二次世界大戦の開戦までを回顧したものです。訳者解説では本書を「単なる軍人の回想録を超えた、ドイツ近現代史への貴重な証言であり、さらには、マンシュタインという19世紀的教養人の思想と生涯を知る上で不可欠の資料といえる」と評しています。また同解説では、マンシュタイン自身による第二次世界大戦期の回想録(1955年に原著刊行)が『失われた勝利』(上下巻、本郷健訳、中央公論新社、1999年)として刊行されており、包括的な伝記としてマンゴウ・メルヴィン『ヒトラーの元帥 マンシュタイン』(上下巻、大木毅訳、白水社、2016年)があることも紹介されています。

★最後に晶文社さんの4月新刊より3点。目次詳細はいずれも書名のリンク先でご確認いただけます。まず、高野光平『昭和ノスタルジー解体』は「いわゆる「懐かしの昭和」を愛好する文化がいつ、どのように成立したのか」(序、11頁)をめぐる丁寧な考察。完成まで7年を要したという力作です。マンガ『三丁目の夕日』の連載が始まった1974年を起点に、おたく文化やサブカルも渉猟しています。レトロ、アナクロ、ノスタルジーの広大な領野に思いをはせる一冊です。

★スウェーデンの作家で歴史家のヨハン・ノルベリ(Johan Norberg, 1973-)による『進歩』は『Ten Reasons to Look Forward to the Future』(Oneworld, 2016)の全訳。「世の中、百年単位で観ればあらゆる面でよくなっている、ということ〔…〕を各種のデータやエピソードで補ってきちんと説明したもの」(訳者解説より)。「現在の世界に関する楽観論と、古典的な啓蒙主義思想の重要性を訴える数多くの本のはしりと言える」と訳者の山形さんは評価しておられます。

★武田砂鉄『日本の気配』はウェブサイト「晶文社スクラップブック」での連載や各種媒体で発表してきたエッセイを編み直し書き直したもの。「ムカつくものにムカつくと言うのを忘れたくない。個人が物申せば社会の輪郭はボヤけない。個人が帳尻を合わせようとすれば、力のある人たちに社会を握られる。今、力のある人たちに、自由気ままに社会を握らせすぎだと思う。この本には、そういう疑念を密封したつもりだ」(あとがきより)。〈時代の空気を読む感性〉に優れた編集者への批判とともに自身の振る舞いについて問いかける「左派が天皇陛下の言葉にすがる理由」(203~209頁)をはじめ、空気を読むことを強いる忖度だらけの現代の相互監視社会を拒絶する、一貫した強度が魅力です。

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# by urag | 2018-04-30 23:17 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 04月 28日

注目新刊:金子遊『混血列島論――ポスト民俗学の試み』フィルムアート社、ほか

★佐藤真理恵さん(著書:『仮象のオリュンポス』)
月刊誌「ユリイカ」2018年5月号(特集:アーシュラ・K・ル=グウィンの世界)に、「見出された世界――アーシュラ・K・ル=グウィンにおける名・影・帰還」と題されたテクストを寄稿されています(155~161頁)。同号では『ゲド戦記』の訳者である清水眞砂子さんへのインタヴュー「アースシーを歩きつづけて」や、萩尾望都さん、白井弓子さんによるオマージュイラスト、さらに上橋菜穂子さんと荻原規子さんによる対談「「ゲド戦記」とわたしたち、あるいはファンタジーを継ぐということ」などを掲載し、盛りだくさんの内容です。

★鵜飼哲さん(共訳:ジュネ『公然たる敵』)
月刊誌「現代思想」2018年5月号(特集:パレスチナ‐イスラエル問題――暴力と分断の70年)で、臼杵陽さんとともに「ナクバは何を問いかけるのか」という討議を行われています(16~36頁)。同号では今年訳書が刊行されたハミッド・ダバシやイランパペの論考も掲載されており、さらに両者を論じた早尾貴紀さんによる「「ユダヤ人国家」イスラエルの歴史実在論とポスト・オリエンタリズムの課題――イラン・パペとハミッド・ダバシ」も併載されています。

★金子遊さん(編書:松本俊夫『逸脱の映像』)
フィルムアート社さんから3月下旬に単独著を刊行されました。目次詳細や試し読みは書名のリンク先で提供されています。金子さんは巻頭の「prologue 混血列島論」でこうお書きになっています。「わたしたちは谷川健一の思想に導かれて、ヤポネシアにさまざまな異質性と重層性をはらんだ、あるがままの「混血列島」を再発見する。ヤポネシアを育んできたユーラシア大陸や大河川の上流地域、朝鮮半島やインドシナ半島、ミクロネシアからフィリピンやインドネシアの島々にいたるまで、文化的にも遺伝子的にも祖先の記憶が感じられるという意味では、その圏域はわたしたちにとって、さらに広大な「マクロネシア」とでも呼ぶべきものを形成しているのだといえないか」(22頁)。

混血列島論――ポスト民俗学の試み
金子遊著
フィルムアート社 2018年3月 本体3,000円 四六版上製288頁 ISBN978-4-8459-1709-9
帯文より:わたしたちは混血している。サントリー学芸賞受賞の批評家が、文学、映像、フォークロア研究を交差させながら、太平洋の島嶼という視点で日本列島(ヤポネシア)に宿る文化の混淆性を掘り起こす、新たな民俗学。

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# by urag | 2018-04-28 17:00 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 04月 24日

本日より取次搬入開始:岡田聡/野内聡編『交域する哲学』

岡田聡/野内聡編『交域する哲学』を本日より取次搬入開始いたしました。書店さんの店頭に並び始めるのは5月あたまあたりからでしょうか。同書の目次や扱っていただける書店さんの一覧はこちらをご覧ください。少部数出版につき、あらかじめ店頭在庫を電話などでご確認いただいてからご訪問いただくのが良さそうです。
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# by urag | 2018-04-24 15:51 | 人文書既刊 | Trackback | Comments(0)
2018年 04月 22日

注目新刊:ヤコービ『スピノザの学説に関する書簡』知泉書館、ほか

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スピノザの学説に関する書簡』F.H.ヤコービ著、田中光訳、知泉書館、2018年4月、本体7,000円、A5判上製496頁、ISBN978-4-86285-273-1
『自叙伝』マリア・ヴァルトルタ著、殿村直子訳、春秋社、2018年4月、本体5,000円、四六判上製581頁、ISBN978-4-393-21713-9
議論して何になるのか――ナショナル・アイデンティティ、イスラエル、68年5月、コミュニズム』アラン・バディウ/アラン・フィンケルクロート著、的場寿光/杉浦順子訳、水声社、2018年4月、本体2,800円、四六判上製211頁、ISBN978-4-8010-0333-0

★ヤコービ『スピノザの学説に関する書簡』は初版が1785年に刊行された『Über die Lehre des Spinoza』の第三版(1819年刊のヤコービ著作集第四巻に収録)の翻訳で、凡例によれば「巻頭のケッペンの読者宛ての文と「メンデルスゾーンの非難に抗して」は割愛した」とあります。訳文は『モルフォロギア』に20年来掲載してきたものが元になっているとのことです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。周知の通り「汎神論論争(スピノザ論争)」のきっかけとなった高名な古典であり、ヤコービがユダヤ人哲学者モーゼス・メンデルスゾーン(Moses Mendelssohn, 1729-1786)に対して送った書簡集が中心となっています。

★また巻末には、各版の異同情報を記した「『スピノザ書簡』第三版と第一版・第二版との異同について」、訳者による解説「ヤコービの生涯と著作」(363~426頁)や、ヤコービ年譜、文献表、索引(人名・事項・文献)と充実しています。

★巻頭の「日本語版への序言」はヤコービ研究の第一人者ビルギッド・ザントカウレン教授(ボーフム大学)が寄稿されたものです。彼女が「時代の影の実力者」(ix頁)と評した哲学者ヤコービ(Friedrich Heinrich Jacobi, 1743-1819)は「一人でスピノザを研究し、ゲーテの時代で一番スピノザを理解していた人」(訳者あとがき)で、当時カントの論敵として名高かったはずのメンデルスゾーンに対して、憶することなくスピノザ哲学への理解度について論難しています。二人の共通の友人にレッシングがいたわけですが、レッシングの死去によって論争がもたらされることになり、「ドイツの知識人は〔…〕根底から震撼させられ」たといいます(「日本語版への序文」viii頁)。

★ヤコービによるスピノザ理解は第Ⅰ部「スピノザの学説に関する書簡」内の「スピノザの学説に関して」でまとめられているテクストのうち、特に「六 スピノザの学説の第二の叙述」と「七 スピノザ主義に関する六つの命題」に端的に表れています。前者にはヤコービ自身が「この説明に私の精神の力すべてを傾け、その際いかなる苦労も忍耐も厭わないと固く決心し」た(155頁)と書いた44項目のテーゼが含まれています。訳者による「ヤコービの生涯と著作」で二度にわたり惹かれているテーゼ39が印象的です。以下に引用します。

★「すべての個物は互いを前提とし、また互いに関係しあっている。したがって、どの個物も残りすべての個物なしでは、またすべての他の個物もおのれ以外の個物なしでは存在することも、考えることもできない。すなわち、すべての個物は協力して一つの切り離すことのできない全体を形づくっている。〔…〕」(163頁)。また、「人間の拘束性と自由についての予備的命題」にはこうも書かれています。「私たちに知られているすべての個々の事物の存在の可能性は、他の事物との共存に支えられ、関係している。したがって私たちはそれ自体で存立している有限な存在者を思い描くことはできない」(47頁)。

★「ドイツ古典哲学にとっても、近代哲学全体にとっても一つの新しい時代」(「日本語版への序文」viii頁)への導入となった本書の翻訳をきっかけに、ヤコービが日本においても再発見されることになるのではないかと感じます。

★次にヴァルトルタ『自叙伝』は、彼女の著書『私に啓示された福音』などの訳書を刊行してきた天使館から当初は刊行予定だったもの。ヴァルトルタ(ワルトルタとも:Maria Valtorta, 1897-1961)はイタリアの霊視者であり見神家。イエス・キリストの生涯や聖母マリアの言葉を病床に寝たきりの状態で霊的に見聞きしたままに書き写した122冊のノート(1943~1951年)によって有名です。聴罪司祭の勧めによってその直前まで書いていたのがこの『自叙伝』(1943年)であり、ヴァルトルタが歩んできた苦難の半生が綴られています。目次は以下の通りです。

はじめに
第一章 育児放棄〔ネグレクト〕する母のもとで
第二章 父の悲しみ、寄宿学校にて
第三章 フィレンツェ、従姉と叔父
第四章 一九三〇年の夏
第五章 超霊的な至福
第六章 寝たきりの日々
第七章 父の死
編集者後記(エミリオ・ピザーニ)
訳者あとがき
写真

★巻末の写真は、著者の生涯を振り返るアルバムです。ヴァルトルタの著作はこれまでにあかし書房よりフェデリコ・バルバロ神父(Federico Barbaro, 1913-1996)によって抜粋訳が10冊出版されており、天使館から『私に啓示された福音』全10巻が全訳で刊行中ですが、『自叙伝』の翻訳は初めてです。ヴァルトルタはこう書きます。「私の人生にこんなにも悲しみがあり、希望がことごとく壊され、愛情面でことごとく失望させられ、孤独が日増しに大きくなって、完全に私を取り囲むのも、すべては神によって特別に意図されたものだったのです。神は木である私の葉を全部刈り込み、枝を全部切り取られますが、それは私が神の庭で大きくたくましく育つためだったのです。私の神は排他的な愛をお望みで、私を神だけのものと定められ、私が神だけに慰めを求めるしかなくなるように、私からすべてを取り上げられたのでした」(163頁)。血涙を絞るような本書での告白と、一切が(他宗教すらも)収斂していく中心としての神への愛は、122冊のノートへと結実するものの「蕾の徴〔しるし〕」(ピザーニ)として読むことができると思われます。

★続いて、バディウとフィンケルクロートの対談本『議論して何になるのか』は、『L'explication : Conversation avec Aude Lancelin』(Éditions Lignes, 2010)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきによれば、本書は「ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」誌の文化・思想欄を担当するジャーナリストであるオード・ランスランの提案によって2009年12月17日と2010年2月16日に行われた、バディウとフィンケルクロートの討論を収録したもの。ランスランは序章で次のように綴っています。

★「バディウとフィンケルクロートは、時代のまさに要諦をなす、根本的に相反するふたつの視点である。このふたつの固有名は、今日コランスで激しく争うことが明確に定められた、知的な両氏族にとっての戦時名として響いている。2009年12月21日号の「ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」誌上に掲載された対談に際して、彼らが初めて向かい合ったとき、両者ともに敵と対面するというこの単純な事実ゆえにもっとも熱狂的な仲間たちから激しく批判された。それでも彼らの仲間たちは出版された雑誌を目にするや、すぐさま胸を撫で下ろした。恐れていたハッピー・エンドが訪れることはない。緊張に満ち、火花散るような、時に激昂しさえもする雰囲気が誌面を貫いていたからだ。それは通常の討論とは明らかに異なるが、その後に含まれる、口語的な、ほとんど具体的な意味での、まさに「口論〔エクスプリカスィオン〕」であった」(10~11頁)。

★「バディウと私が現実と見なしていることが、同じではないということです。われわれは現実についての同じ思考を共有していません」(60頁)とフィンケルクロートが吐露しているような、二者の討論が生む隔たりは、そのまま読者の思考の幅を広げてくれる梃子になっているように感じます。フランス人の話だと切って捨てることのできない切迫性を日本の読者も実感できるのではないかと思われます。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

被抑圧者の教育学 50周年記念版』パウロ・フレイレ著、三砂ちづる訳、亜紀書房、2018年4月、本体2,600円、四六判上製408頁、ISBN978-4-7505-1545-8
熊楠と猫』南方熊楠/杉山和也/志村真幸/岸本昌也/伊藤慎吾著、共和国、2018年4月、本体2,300円、A5変型判上製176頁、ISBN978-4-907986-36-0
ねみみにみみず』東江一紀著、越前敏弥編、作品社、2018年4月、本体1,800円、46判並製258頁、ISBN978-4-86182-697-9
エンジニアリング・デザインの教科書』別府俊幸著、平凡社、2018年4月、本体3,200円、A5判並製256頁、ISBN978-4-582-53225-8
現代思想2018年5月臨時増刊号 総特集=石牟礼道子』青土社、2018年4月、本体1,500円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1363-9

★フレイレ『被抑圧者の教育学 50周年記念版』は、ポルトガル語版『Pedagogia do Oprimido』(Paz e Terra社、2005年刊、第46版)を翻訳した旧版『新訳 被抑圧者の教育学』(亜紀書房、2011年)に、先月(2018年3月)にBloomsbury Academicより刊行された50周年記念英訳版『Pedagogy of the Oppressed』で新たに追加された、ドナルド・ナセドによる「50周年記念版へのまえがき」と、アイラ・ショアによるあとがき「闘いはつづく」と、「同時代の学者たちへのインタヴュー」を訳出して併載したものです。インタヴューに登場する人々は以下の通り。マリナ・アパリシオ・バーベラン、ノーム・チョムスキー、グスタボ・E・フィッシュマン、ラモン・フレチャ、ロナルド・デービッド・グラス、バレリー・キンロック、ピーター・メイヨー、ピーター・マクラーレン、マーゴ・オカザワ・レイ、以上9名。80頁以上の増量にもかかわらず本体価格はわずか100円の値上げです。英語版からの旧々訳が1979年に刊行されて以来長らく読み継がれている名著であるだけに、今回の再刊は実に嬉しい知らせです。

★『熊楠と猫』は杉山和也さんによる「はじめに」によれば、「熊楠自筆の日記や書簡に見える熊楠と猫とのエピソードを紹介」し、熊楠が「猫を学術的な観点からはどのように捉えていたのか、ということについても詳しく解説」したもので、「熊楠自慢の猫の絵(自筆)を多数、紹介して」もいると言います。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「猫と南方熊楠。自由で不思議な生き物と自由に不思議を究める人間の関係についての本なんて。読みたいに決まっているやんけざますじゃん。」という、町田康さんの帯文が素敵です。よく見ると帯文の町田さんの名前が、カバーの書名に次ぐ大きさで組まれていて、ものすごい誘引力を放っています。巻末には参考資料として年表「熊楠と猫のあゆみ」や「猫に関する〔熊楠の〕論考一覧」などもあって、共和国さんならではの、楽しみが満載されていると同時に資料価値の高い一冊となっています。

★東江一紀『ねみみにみみず』は、2014年に逝去した翻訳家が「多忙をきわめた翻訳作業の合間を縫って、数えきれないほどの達意のエッセイや雑文を書いた〔・・・〕それらのエッセイを一冊にまとめ」たもの(編者後記より)。目次は書名のリンク先でご覧になれます。「たとえあなたがなんだこりゃと思ったとしても、これは間違いなく本書の内容目次である」という注意書きがあるのが楽しいですね。編者の越前さん東江さんの文章を「軽妙洒脱」と評しておられますが、本書はまさにそのものが味わえる魅力的な本で、読者が読み終わる頃には東江さんのことがすっかり好きになってしまうことでしょう。書名の由来は越前さんの編者後記で明かされています。目次や奥付の後に配置されている東江さんの「名刺」の数々も洒落が効いていてついつい笑ってしまいます(何のことを言っているのかはぜひ店頭でご確認下さい)。編者さんと編集者さんの東江愛を感じる素敵な一書です。

★別府俊幸『エンジニアリング・デザインの教科書』は帯文に曰く「顧客価値を作り出せ! 未来のビジネスとモノづくりのために! 日本製品デザインのノウハウがここにある」と。本書は以下の8章から成ります。1.デザインとエンジニアリング、2.クライアント要求を説き明かす、3.デザインに必要な情報、4.デザイン案を考える、5.エンジニアリング・デザイン・プロセス、6.アイデアより設計情報へ、7.失敗に学ぶ、8.新しいデザインで未来を切り拓くために。別府さんは「おわりに」でこうまとめておられます。「日本的ユーザ指向アプローチは、製品に関連することだけに集約されているように感じます。〔…〕クライアントのニーズを、その根底まで掘り起こそうとの意識が薄いようです。これが製品の改善にばかり注力し、主体的にマーケットを変革させようとの発想につながらない要因だと感じます」(250頁)。またこうも書いておられます。「競争に苦戦しているのであれば、その理由を徹底的に分析すべきでしょう。想定できれば失敗は回避できるように、理由が明らかになれば、対応策を作ることはできるはずです」(251頁)。出版人も噛みしめるべき言葉であるように感じます。

★『現代思想2018年5月臨時増刊号 総特集=石牟礼道子』は、こたつに座って執筆する石牟礼さんの写真が目を惹く増刊号で、初期未発表作品6篇、「現代思想」「ユリイカ」両誌からの再録2篇をはじめ、加藤登紀子さんのインタヴュー、栗原彬さんと藤原辰史さんの討議、石内都さんによる写真と回想記、そして様々な書き手によるエッセイや論考が収められた読み応えのある特集となっています(他誌からの再録もあり、石牟礼さんと石内さんを引き合わせた伊藤比呂美さんのエッセイ「『不知火』の声」は『道標』誌第9号から)。附録として略年譜と主要著作一覧を掲載。渡辺京二さんによるエッセイ「誤解を解く」では『苦海浄土』と渡辺さんの関わりをめぐる風説について言及されています。「この際、このような推測を完全に一掃しておかねば、とんでもない悔いを残すことになる」として、たいへん興味深い打ち明け話を綴っておられます。

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# by urag | 2018-04-22 23:36 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 04月 20日

取次搬入日決定:『表象12:展示空間のシアトリカリティ』

表象12:展示空間のシアトリカリティ』(表象文化論学会発行、月曜社発売)の取次搬入日が決定しました。日販、大阪屋栗田、トーハン、いずれも4月23日(月)予定です。書店店頭には25日頃から順次並び始める予定です。どうぞよろしくお願いいたします。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。
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# by urag | 2018-04-20 15:29 | 表象文化論学会 | Trackback | Comments(0)
2018年 04月 20日

注目新刊:『思想』ボリス・グロイス特集号、『現代思想』現代思想の316冊特集号、など

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弊社出版物でお世話になっている著訳者の皆さんの最近のご活躍をご紹介します。

★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
★加治屋健司さん(共訳:ボワ/クラウス『アンフォルム』)
岩波書店さんの月刊誌「思想」2018年第4号(特集「ボリス・グロイス――コンテンポラリー・アートと批評」)に、論文をお寄せになっています。星野さんの論文「〈生きている〉とはどういうことか――ボリス・グロイスにおける「生の哲学」」(72~86頁)は、はじめに、1:生の哲学、2:生を物語ること――ドキュメンテーション、3:生を導き入れること――インスタレーション、4:生を解放すること――セオリーとミュージアム、という全4節構成。一方、加治屋さんの論文「グロイスにおける芸術の制度と戦後日本美術」は(87~99頁)は、はじめに、一:グロイスの制度論、二:戦後日本美術をどう捉えるか、三:変化する現代日本の美術、四:二つのソーシャリー・エンゲージド・アート、おわりに、の全四節校正。

なお、星野さんはまもなく発売となる表象文化論学会の「表象12:展示空間のシアトリカリティ」において、ボリス・グロイスの論考「インスタレーションの政治学」(66~79頁)の共訳を担当されているとともに、特集冒頭のイントロダクション(14~17頁)や、共同討議「越境するパフォーマンス――美術館と劇場の狭間で」の司会を担当されています。ちなみに同号では星野さんの昨春の著書『崇高の修辞学』(月曜社、2017年)に対する谷川渥さんによる書評「修辞学的崇高の新しい地平」(244~247頁)も掲載されています。

★岡本源太さん(著書:『ジョルダーノ・ブルーノの哲学』)
青土社さんの月刊誌「現代思想」の2018年4月号(特集「現代思想の316冊――ブックガイド2018」で、美学欄を担当され、「美学の今世紀」(134~140頁)というブックガイドを寄せておられます。一:感覚、自然――感性の脱人間化、二:身振り、関係性――美的文明での生存、三:言葉、イメージ――普遍性の構成、という立て分けの中で20点以上の書籍に言及されています。

★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
光文社古典新訳文庫の今月(2018年4月)新刊として、ハイデガー『存在と時間』(全8巻)の第4巻を上梓されました。帯文に曰く「現存在の「頽落」とはなにか? わたしたちの〈気分〉を哲学する画期的な思想」と。第一部第一篇第五章「内存在そのもの」の第28節「内存在を主題とした分析の課題」から第38節「頽落と被投性」までを訳出し、後半は長大な解説となっています。同文庫での『存在と時間』新訳の特徴は訳文と読解をドッキングさせた点にあり、全8巻というのは各社文庫版の中では最大規模になります。

★舞台芸術研究センター(発行:『舞台芸術』第一期全十巻)
京都造形芸術大学舞台芸術研究センターの機関誌『舞台芸術』の第四期第21号が刊行されました。特集は「アーカイヴを「批評」する――「記録」の創造的な活用のために」です。特集扉頁には「舞台芸術における「映像・音声記録(アーカイヴ)」の問題を考えること。それは、とりもなおさず、「映像・音声」というメディアを介して、「舞台芸術」というジャンルの本質を問うことに通じているのではないか。この特集は、ひとえにそうした観点から構想されている」等々と記載されています。目次は号数のリンク先でご確認いただけます。

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# by urag | 2018-04-20 15:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 04月 16日

「週刊読書人」に『多様体1』の書評

「週刊読書人」2018年4月13日号に『多様体1』の書評「現代日本の思想誌の最良の命脈を継承」が掲載されました。評者は新潟大学准教授の宮﨑裕助さんです。第1号の特集や連載についてだけでなく、弊社既刊書や編集担当にまで目配りしてご紹介下さいました。過分なお言葉を頂戴しましたが、今後いっそう励みたいと思っております。宮﨑先生、ありがとうございました。

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# by urag | 2018-04-16 17:41 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)