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2014年 06月 30日

太洋社本社移転の影響を考える(その2)

拙稿「太洋社本社移転の影響を考える」に対していただいたご意見の中から応答すべきと感じたものについてコメントさせていただこうと思います。

これは主に、松井祐輔さん(『HAB』編集発行人/本屋「小屋BOOKS」店主)のFACEBOOKの2014年6月25日4時23分に投稿されたエントリーとそれに対する梶原治樹さん(扶桑社)と神谷康宏さん(フリー)のコメントに応答するものです。このお三方のことは、どういう経歴でどういう部署で仕事されてきた方なのか業界人ならよくご存知でしょうからいちいち注釈しません。ちなみに以下の「やりとり」はともすると字面だけ見ればヒリヒリしたものに見えるかもしれませんが、梶原さんも神谷さんも私の知人ですし、松井さんも知人の知人なので、ざっくばらんに書きます。ただし、前回よりもさらに突っ込んだ内容になるため、書くのをためらった部分があることは確かです。当ブログのトップエントリーでお断りしている通り、「日々この業界ではたくさんの出来事が起こっていて、それぞれにコメントしたい気もするし、実際言うべきこともままあるのですが、出来事に振り回されるのは嫌だし、こみいった背景をうまく説明できなかったり、しがらみのせいではっきり言えなかったりするのが現実」だからです。今回もその好例ですから、すべて書き尽くせるわけではないことをあらかじめお詫びしておきます。

まず、松井さんのご感想を引用します。整理はしますが「編集」はしたくないので、パートに分けつつ全文を引用します。まず最初はこちら。

|うーん。(もはや)いち消費者として、感じるのはむしろ、
|−以下引用−
|(ちなみに他社より1日早く太洋社に見本出しすることや、
|宅配便で見本日午前中に納品するという選択肢は、
|印刷製本の事情で弊社には現実的ではありません)
|−引用オワリ−
|かなぁ。
|〔中略〕
|いずれにしたって、お客さんと現場にとって重要なのは
|「可能な限りの発売日統一」であって、それができるなら、
|見本なんて束見本と(内容については最悪)プルーフでも
|いいんじゃないのかしら。
|間違ってたら、だれか指摘してください。

松井さんの仰る「いち消費者」というのは後段の「お客さん」すなわち、読者のことかと思います。「現場」というのは「取次」や「書店」と受け止めていいでしょうか。「可能な限りの発売日統一」が読者にとって重要だというご意見には共感を覚えます。ただ若干補足して言えば、書店や取次にとっては事情が異なるかもしれませんね。発売日統一がすでに昔からずっと困難であることは松井さんもご存知のはずではと拝察します。書籍の場合、発売日協定※を定めてある本は別として、版元が統一に貢献できるのはせいぜい取次搬入日です。そこから先、つまり書店さんに届けるまでの取次さんの領分では、輸送の都合で着店日は東京都内より地方の方が遅いですし、北海道や九州、沖縄はさらに本が届くのが遅いですね。そんなわけで、書店や読者に本が届く日数には物流上の地方格差が昔から厳然としてあるわけです。ですから松井さんのご意見は再度拙稿との交点を考慮した上で言えば、まず当面は「太洋社への見本出しが取次他社より遅れないようにしたらどうか」という論点へと集約されていくものとして仮に受け止めておきます。

※出版流通や発売日協定については、Yahoo!知恵袋の「書籍の流通について質問させていただきます。」というエントリーをご参照ください。

松井さんは「それ〔発売日統一〕ができるなら、見本なんて束見本と(内容については最悪)プルーフでもいいんじゃないのかしら」と発言されています。そういう方式は経験的に言ってずばり、取次の仕入窓口に嫌がられます(松井さんは取次ご出身なので、それを承知で提案されているのだと思いますが)。様々な「事故」を防ぐためには新刊がどういう本なのか現物で確かめる、というのが取次さんの大前提であるはずではないでしょうか。ですから、束見本と校了紙で充分だと取次さんが公言することは原則的に「ない」わけです。先物取引じゃあるまいし、というご判断でしょう。

梶原さんは松井さんの発言を受けて、

|そうそう、だったら一日早く校了すれば?
|と私なんかは思うんですけどね。

と発言されています。一日早く校了したことによって一日早く見本ができあがると仮定したとして(実際は一日早く校了したところで一日早く見本ができあがるとはまったく限らないわけですが、この一日という単位はあくまでも比喩だと理解しておきます)、一日早くできあがればやはり真っ先に持っていくのは日販でありトーハンであって太洋社ではないんです。ですから校了が一日早くなろうが、一か月早くなろうが全然関係ありません。

そこでむしろ、太洋社への搬入日を遅らせないために、その他の取次の搬入日を太洋社に合わせて遅らせることが版元にとって現実的かどうかが問われてくるわけですが、そのやり方は残念ながら「採用できません」。この点についておべんちゃらや綺麗事を言うつもりはありません。本件を太洋社さんの取次窓口の方と協議した際に私自身はっきりと認識できたのは、出版社が太洋社を取次上位他社より優先できないことは太洋社の仕入窓口の方すら承知している、という現実です。それは業界五番手であるということをよく自覚されているからではないでしょうか。とても嫌な言い方になりますが、業界の弱肉強食の実態そのものは最初からフェアではありません(むろん太洋社さんにとってみれば、弊社はよっぽどちっぽけな存在ですけれどね)。

松井さんのご発言に戻ります。

|たった「一日」でも見本→印刷/搬入の日程がずらせない
|スケジュールで、印刷/搬入が進行している事実。それで
|いて、搬入日一日遅れはやむなしとするのは、一体誰の為
|の仕組みなんだろう。

一出版人として言えば「たった一日」という感覚はまったくありません。一日早めるのが出版社や印刷製本所にとってどれだけ大変なことか。それと搬入日が一日遅れるのは、取次がどこも「基本的に新刊見本は午前中に持ってきてください」と案内されているからであって、出版社の事情ではないです。それと「午前中に持ってこい」という取次さんの事情を私は否定するつもりはまったくありません。それでずっとやってきているわけなので。

|もしかして「見本」とは名ばかりで、本印刷したもの(すで
|に全部数刷り上がっている)を取次に見本だしする為に、
|印刷会社で数日寝かせているから、コストがかかるとか?

それは違います。見本ができればすぐに取次に持っていくわけですから。わざわざ商品を寝かせる理由がありません。

|そうそう、窓口が遠くなって人間関係が希薄になるのは、
|仰る通りだとおもいます。ただ、それで希薄になるくらいの
|人間関係は、所詮その程度のものでしかないよね。実際に
|会わなくたって、重要で濃密なコミュニケーションは十分で
|きるかな。

同じことを現役の仕入窓口の方が仰るとは思えないです。窓口に顔を出してほしいというのは取次さんの昔からの変わらぬご要望だと思いますよ。行かなくたっていいなら版元は行かなくなるかもしれません。仕入窓口は出版社との取引の重要な絆であり、かなめです。顔が繋がっていてこそ、いざという時に出版社も対応できるわけです。「実際に会わなくたって、重要で濃密なコミュニケーションは十分できる」ということを私は否定はしません。しかしそれは、窓口業務とはおそらく別種のコミュニケーションだと思います。窓口も版元営業マンもどんどん担当者が変わりますから、顔を繋いでおくことは大事です。本の「現物」と受注短冊(もしくは受注一覧や指定一覧)を手に対面でやり取りするということの「確認重要性」(版元がへまを流通に持ち込まないよう監視すること)は仕入窓口の現場では当面は変わりにくいのではないかと私は見ています。

ですから、神谷さんが、

|たかだか一種類を何千個しか売らない商品のためにもう
|ちょっと流通のプロセスって合理化できないのかね?って
|門外漢としては思います。わざわざ手持ちで商品見せにいく
|のが最も合理的だった時代ってもう昔のことじゃないの笑

と仰ることについてはこう答えたいと思います。そもそも出版社サイドは合理化してほしいと思っているけれど、見本出し自体の「確認重要性」(たとえそれがとっくに形骸化しているとしても)まで否定しようとは思わないです。それにしても神谷さん、経歴上ご自身を門外漢とまで仰ってはダメじゃないですか(笑)※。

※神谷さんとは後日電話でお話しし、発言の真意について伺いました。神谷さんが考えている「見本出し」の方法があり、業界の弱点を突く非常に興味深いものでしたが、それは本エントリーとは別に立てて論じるべきことなのでここでは省きます。

神谷さんのこのコメントについては梶原さんはこう書いておられます。

|たかだか数ヶ所に見本を持ってくだけで全国に営業しなくても
|勝手に配本してくれて(時間はかかるとはいえ)おカネを払って
|くれるという…究極の効率的流通ですよね。他の産業からしたら
|なかなかありえないんじゃないかと。これを「維持」したいと
|思うなら、喜んで校了早めますよ。

効率的流通というご評価について異論はありません。ただし、大手版元と零細版元では「効率」の内実が異なるようです。ちなみに弊社の新刊は受注配本なので、「勝手に配本」されることはありません(太洋社さん以外は)。また、「維持」と「早期校了」は弊社では上述の通り結びついていません。とはいえ出版人同士のこうした現実の類似と差異は梶原さんにとっては織り込み済みかと推察します。

この梶原さんのご発言を受けて神谷さんはこう応答されています。

|メーカーの都合としてはそうなんでしょうけどね…。
|だけど問屋はそのために何人かそれなりの練度の人が
|一年中張り付きで結局返品がどっさり戻ってくるようですし…。
|難しいですね

より正確に言えばメーカー「だけ」の都合ではないし、メーカー「すべて」の都合でもないですね。すべての版元が押し紙ならぬ押し配本をしているわけではないですし。いずれにせよ、悩ましい問題であることには違いありません。

松井さんは梶原さんや神谷さんのコメントに対してこう締めくくられています。

|ぶっちゃけ、窓口に見本だしはもうなくてもいいんじゃないか
|と思いますね。いまや、もっと効率が上がりそうな代替手段が
|たくさんありますし。大きなシステムはともかく、こういう
|細かい部分で改善できるところはいっぱいあるかな、と。

「窓口に見本だしはもうなくてもいい」というのは太洋社ご出身の方のご発言としてはいささか衝撃的ではあるのですが(笑)、松井さんの仰る代替手段や神谷さんの仰る合理化というのは、色々困難があるにせよ、今後実現されないわけでもないかも、と予想できます。

・・・さてここで最初に戻り、松井さんが「いち消費者として」残念に思われていることについて、可能な範囲で弊社と太洋社の具体的な現実をお話ししたいと思います。太洋社帳合の書店しか利用することのできない読者の方は確かに今後、都内であれ地方であれ新刊の着荷が遅れることの影響を受ける可能性が高まるかもしれません(しかし、前エントリーに書いた通り、太洋社さんにだけ見本出しが遅れる事態に対しての予防策は弊社はきちんと講じますし、リスクが現実にならないよう全力を尽くします)。具体的に言えば、芳林堂、知遊堂、カルコス、友朋堂、附家書店、といった書店チェーンをご利用のお客様です(サンミュージックは少し前までは太洋社帳合でしたが、今はトーハンに帳合変更されたので、話から外します)。

ただし、弊社の新刊はこれらの書店チェーン全店のうち、ここ半年の受注実績ベースで言えば1~2店舗にしか配本されません。配本数は各1~数冊です(TRCSBや既刊SBを除くと、弊社の書店受注規模においては、軒数・冊数ともに取次全社トータルの中で太洋社さんのシェアは1%強です)。このほか、太洋社さんは余分に何冊か仕入れて、帳合書店の数店舗未満に見計らいを出されているようですが、こうした見計らい配本は弊社が取引している取次他社ではほぼまったく行われません。弊社は発売日協定を組まなければならないようなベストセラー必至の新刊は出していませんし、一日を争うような即日売り切れる本も出していません。そのぶん扱い書店は多くないですから、弊社本を入手することの難しさ(と言っても高いハードルかどうかはお客様の環境次第ですけれど)は、特に地方の場合、今までと同様にこれからもあまり変わらないと思います。つまり、「いち消費者」としての松井さんに与える影響は、弊社本のご購入に限って言えば、ほとんど以前と状況は変わらないかもしれませんし、もし変わったとしても代わりとなる入手方法は色々あると申し上げたいと思います。

最後にTRCのSBの帳合変更リスクの上昇について。どなたかがtwitterでいみじくも「バタフライ効果」と比喩されたように、太洋社の本社移転の影響は万が一悪い方に転がれば、太洋社や太洋社一手扱いの版元と書店にまで気がかりな連鎖が広がる可能性があります。TRCは太洋社より売上が大きい会社なので、力関係としては将来的にTRCが自社に有利な選択を下すことがありえないわけではないと推察できます。

# by urag | 2014-06-30 18:03 | 雑談 | Comments(2)
2014年 06月 29日

注目新刊と近刊:2014年6月~8月

◎注目新刊(2014年5月~6月)

ここ約1カ月の間に発売された新刊の中から、未言及だったものを中心に要チェックな書目をもう一度列記します。今月は特に、蓮實重彦『「ボヴァリー夫人」論』をはじめ、松浦寿輝『明治の表象空間』、大西巨人『日本人論争――大西巨人回想』といった国内著者の三冊と、デリダ『プシュケー――他なるものの発明(I)』、フォン・ノイマン+モルゲンシュテルン『ゲーム理論と経済行動 刊行60周年記念版』の海外著者の二冊というように大冊が続いたおかげで、とても充実感のある一か月でした。この五冊で45,000円以上かかるので、一般読者にとっては厳しい出費です。

もっと安くならないのかとお感じの読者もおられることと思いますが、おそらく今後、紙媒体の書籍が安くなることはないと私は予想しています。一昔前より販売数は落ちていますし、それに伴い初版部数も減っています。単価が上がらざるをえないのです。良い本を出せば絶対に売れるなどという幻想は持てません。これは幻想を否定しているのではありません。時代を駆動させる幻想があることも事実です。その上で、今は安売競争に走る戦略は経営上の根拠に乏しいというのが業界の本音だと思います。日本全体の読書熱や教養熱、そして景気が上向きになるように出版界にできることは何なのかが問われています。しかしおそらくそれは出版界が孤軍奮闘すれば解決できるような問題ではないのです。

05月22日『魂のレイヤー――社会システムから心身問題へ』西川アサキ著、青土社、3,024円
05月23日『言語起源論の系譜』互盛央著、講談社、2,484円
05月23日『好奇心の赴くままに――ドーキンス自伝(I)私が科学者になるまで』リチャード・ドーキンス著、垂水雄二訳、早川書房、3,024円
05月30日『明治の表象空間』松浦寿輝著、新潮社、5,400円
05月30日『「4分33秒」論──「音楽」とは何か』佐々木敦著、Pヴァイン、2,376円
05月31日『翻訳の倫理学――彼方のものを迎える文字』アントワーヌ・ベルマン著、藤田省一訳、晃洋書房、3,024円
06月06日『科学の地理学――場所が問題になるとき』デイヴィッド・リヴィングストン著、梶雅範+山田俊弘訳、法政大学出版局、4,104円
06月07日『情報汚染の時代』高田明典著、メディアファクトリー/KADOKAWA、1,512円
06月16日『琉球共和社会憲法の潜勢力――群島・アジア・越境の思想』川満信一+仲里効編、未來社、2,808円
06月19日『あなたが救える命――世界の貧困を終わらせるために今すぐできること』ピーター・シンガー著、児玉聡+石川涼子訳、勁草書房、2,700円
06月20日『アメリカ〈帝国〉の現在――イデオロギーの守護者たち』ハリー・ハルトゥーニアン著、平野克弥訳、みすず書房、3,672円
06月20日『編集者になろう!』大沢昇著、青弓社、1,728円
06月20日『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている――再生・日本製紙石巻工場』佐々涼子著、早川書房、1,620円
06月20日『背信の科学者たち――論文捏造はなぜ繰り返されるのか?』ウイリアム・ブロード+ニコラス・ウェイド著、牧野賢治訳、講談社、1,728円
06月22日『陶酔とテクノロジーの美学――ドイツ文化の諸相1900-1933』鍛治哲郎+竹峰義和編著、青弓社、4,320円
06月23日『ユングとジェイムズ――個と普遍をめぐる探求』小木曽由佳著、創元社、3,024円
06月24日『グラムシとフレイレ――対抗ヘゲモニー文化の形成と成人教育』ピーター・メイヨー著、里見実訳、太郎次郎社エディタス、4,860円
06月24日『現代思想の時代――〈歴史の読み方〉を問う』大澤真幸+成田龍一著、青土社、2,376円
06月25日『脱成長(ダウンシフト)のとき――人間らしい時間をとりもどすために』セルジュ・ラトゥーシュ+ディディエ・アルパジェス著、佐藤直樹+佐藤薫訳、未來社、1,944円
06月25日『写真講義』ルイジ・ギッリ著、萱野有美訳、みすず書房、5,940円
06月26日『華氏451度〔新訳版〕』レイ・ブラッドベリ著、伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫SF、929円
06月27日『「ボヴァリー夫人」論』蓮實重彦著、筑摩書房、6,912円
06月27日『日本人論争――大西巨人回想』大西巨人著、左右社、8,964円
06月27日『新版 アリストテレス全集(13)問題集』岩波書店、7,992円
06月28日『プシュケー――他なるものの発明(I)』ジャック・デリダ著、藤本一勇訳、岩波書店、10,260円
06月28日『アダム・スミスとその時代』ニコラス フィリップソン著、永井大輔訳、白水社、3,024円
06月30日『ゲーム理論と経済行動 刊行60周年記念版』ジョン・フォン・ノイマン+オスカー・モルゲンシュテルン著、武藤滋夫訳、中山幹夫訳協力、勁草書房、14,040円

蓮實さんの『「ボヴァリー夫人」論』は6月の人文書新刊のベストブックと言っていいと思います。ちょうど良いこの機会に、マリオ・バルガス・リョサ『果てしなき饗宴――フロベールと『ボヴァリー夫人』』(工藤庸子訳、筑摩叢書、1988年)が文庫化されたらいいなと想像しています。

◎注目近刊(2014年7月~8月)

来月とさ来月の新刊ですでにネット書店や版元サイト等で情報公開が始まっている書目の中から注目書を挙げてみます。話題を呼ぶだろうことが予想されるのは、国内著者の近刊では柄谷行人『帝国の構造――中心・周辺・亜周辺』、海外著者の訳書ではレザー・アスラン『イエス・キリストは実在したのか』かと思います。後者は版元サイトの紹介文によれば、「全米騒然の大ベストセラー。救世主(キリスト)としてのイエスは実在しなかった。いたのは、暴力で秩序転覆を図った革命家(ゼロット)としてのイエスだった」。同社サイトで公開されている担当編集者氏の紹介文にはこうあります。「実際のイエスは、ローマ帝国に反抗した暴力も辞さない革命家(ゼロット)だった。しかし死後、切迫した歴史的事情から愛と平和を説いた救世主(キリスト)というイエス像に書き換えられた――イエスの実像とキリスト教誕生の核心に迫った本書は、全米で20万部超の大ベストセラーとなりました」。「本書の執筆にあたって」という原著者の文章も立ち読みできます。

07月02日『耳を傾ける技術』レス・バック著、有元健訳、せりか書房、3,456円
07月02日『ベンヤミンの言語哲学』柿木伸之著、平凡社、4104円
07月08日『無神論の歴史――始原から今日にいたるヨーロッパ世界の信仰を持たざる人々(上・下)』ジョルジュ・ミノワ著、石川光一訳、法政大学出版局、14,040円
07月09日『増補版 承認をめぐる闘争――社会的コンフリクトの道徳的文法』アクセル・ホネット著、山本啓+直江清隆訳、法政大学出版局、3,888円
07月09日『イラク戦争は民主主義をもたらしたのか』トビー・ドッジ著、山岡由美訳、みすず書房、3,888円
07月10日『イエス・キリストは実在したのか』レザー・アスラン著、白須英子訳、文藝春秋、1,836円
07月10日『書店不屈宣言――わたしたちはへこたれない』田口久美子著、筑摩書房、1,620円
07月10日『冤罪を生む構造――アメリカ雪冤事件の実証研究』ブランドン・L・ギャレット著、笹倉香奈ほか訳、日本評論社、5,940円
07月14日『別のしかたで――ツイッター哲学』千葉雅也著、河出書房新社、1,728円
07月14日『ドゥルーズと狂気』小泉義之著、河出ブックス、1,944円
07月14日『境界の現象学――始原の海から流体の存在論へ』河野哲也著、筑摩選書、1,620円
07月14日『幸福論』アラン著、村井章子訳、日経BP社、1,728円
07月15日『民族の創出――まつろわぬ人々、隠された多様性』岡本雅享著、岩波書店、4,536円
07月15日『戦争に隠された「震度7」――1944東南海地震・1945三河地震』木村玲欧著、吉川弘文館、2,160円
07月16日『[新世界]透明標本2』冨田伊織作、小学館、1,728円
07月18日『戦後日本公害史論』宮本憲一著、岩波書店、8,856円
07月18日『アラブ・イスラム用語辞典』松岡信宏著、成甲書房、2,484円
07月18日『ディルタイ全集(9)シュライアーマッハーの生涯(上)』法政大学出版局、29,160円
07月19日『「無」の科学』イアン・スチュアートほか著、ジェレミー・ウェッブ編、水谷淳訳、ソフトバンククリエイティブ、1,728円
07月19日『いま、幸福について語ろう――宮台真司「幸福学」対談集(仮)』宮台真司著、コアマガジン、1,620円
07月22日『靖国神社と幕末維新の祭神たち――明治国家の「英霊」創出』吉原康和著、吉川弘文館、2,484円
07月24日『プロパガンダ・ラジオ――日米電波戦争 幻の録音テープ』渡辺考著、筑摩書房、2,484円
07月24日『人間が人間でなくなるとき――フッサールの影を追え、とメルロ=ポンティは言った』岡山敬二著、亜紀書房、2,916円
07月24日『あなたのなかの宇宙』ニール・シュービン著、吉田三知世訳、早川書房、2,592円
07月25日『帝国の構造――中心・周辺・亜周辺』柄谷行人著、青土社、2,376円
07月25日『処女神――少女が神になるとき』植島啓司著、集英社、2,160円
07月25日『1968 パリに吹いた「東風」――フランス知識人と文化大革命』リチャード・ウォーリン著、福岡愛子訳、岩波書店、5,184円
07月25日『描かれた倭寇――「倭寇図巻」と「抗倭図巻」』東京大学史料編纂所編、吉川弘文館、2,700円
07月25日『工芸とナショナリズムの近代――「日本的なもの」の創出』木田拓也著、吉川弘文館、5,184円
07月25日『消されたマッカーサーの戦い――日本人に刷り込まれた〈太平洋戦争史〉』田中宏巳著、吉川弘文館、3,024円
07月25日『平和と命こそ』日野原重明+宝田明+澤地久枝著、新日本出版社、1,296円
07月28日『欲望と消費の系譜』ジョン・スタイルズ+ジョン・ブリューア+イヴ・ローゼンハフト+アヴナー・オファ著、草光俊雄+眞嶋史叙監修、NTT出版、2,592円
07月28日『世界の妖精・妖怪事典〔普及版〕』キャロル・ローズ著、松村一男監訳、原書房、3,024円
07月29日『サイボーグ昆虫、フェロモンを追う』神﨑亮平著、岩波科学ライブラリー、1,296円
07月30日『アベノミクス批判――四本の矢を折る』伊東光晴著、岩波書店、1,836円
07月30日『民主党政権とは何だったのか――キーパーソンたちの証言』山口二郎+中北浩爾編、岩波書店、2,592円
07月30日『集団的自衛権の何が問題か――解釈改憲批判』奥平康弘+山口二郎編、岩波書店、2,052円
07月30日『薩摩・朝鮮陶工村の四百年』久留島浩+須田努+趙景達編、岩波書店、3,888円
07月30日『創造と狂気――精神病理学的判断の歴史』フレデリック・グロ著、澤田直+黒川学訳、法政大学出版局、3,672円
07月31日『ニーズ・価値・真理――ウィギンズ倫理学論文集』デイヴィッド・ウィギンズ著、大庭健+奥田太郎監修、勁草書房、3,996円

08月12日『反逆の神話――カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』ジョセフ・ヒース+アンドルー・ポッター著、栗原百代訳、NTT出版、3,024円
08月15日『ゴヤ――啓蒙の光の影で』ツヴェタン・トドロフ著、小野潮訳、法政大学出版局、4,104円
08月18日『粒でできた世界(ワンダー・ラボラトリ 01)』結城千代子+田中幸著、西岡千晶絵、太郎次郎社エディタス、1,620円
08月18日『空気は踊る(ワンダー・ラボラトリ 02)』結城千代子+田中幸著、西岡千晶絵、太郎次郎社エディタス、1,620円
08月22日『リスク、人間の本性、予測の未来』アラン・グリーンスパン著、日本経済新聞出版社、2,376円
08月25日『発達障害の時代(仮)』立岩真也著、みすず書房、3,888円

また、近刊文庫・新書では次の書目が目に留まりました。驚いたのは岩波文庫のモース『贈与論』新訳です。有地亨訳(勁草書房)が2008年に新装復刊され、翌年には、吉田禎吾・江川純一の両氏による新訳もちくま学芸文庫で出ました。さらには以前から予告されている通り、平凡社版『モース著作集』の第一回配本予定もやはり『贈与論』だったはずです。こんにち資本主義のオルタナティヴを考える上では「贈与」の歴史をひもとくことは避けて通れません。なにもそんなに集中しなくたって(ほかにもやるべきことがあるのでは)と思われる読者もあるいはいらっしゃるかもしれませんが、意図して便乗できるような本でもない気がします。競合を恐れず複数の新訳が出版されるのは喜ばしいことです。

07月04日『口語訳 遠野物語』柳田國男著、佐藤誠輔訳、小田富英注釈、河出文庫、691円
07月07日『日本劣化論』笠井潔+白井聡著、ちくま新書、907円
07月07日『空海の思想』竹内信夫著、ちくま新書、864円
07月07日『入門 老荘思想』湯浅邦弘著、ちくま新書、907円
07月07日『古典を読んでみましょう』橋本治著、ちくまプリマー新書、929円
07月09日『ベンヤミン・コレクション(7)〈私〉記から超〈私〉記へ』浅井健次郎編訳、ちくま学芸文庫、1,836円
07月09日『自然とギリシャ人・科学と人間性』エルヴィン・シュレーディンガー著、水谷淳訳、ちくま学芸文庫、1,080円
07月09日『増補 靖国史観』小島毅著、ちくま学芸文庫、1,080円
07月09日『十八史略』曾先之著、今西凱夫訳、ちくま学芸文庫、1,512円
07月09日『オーギュスト・コント』清水幾太郎著、ちくま学芸文庫、1,404円
07月10日『やわらかな遺伝子』マット・リドレー著、中村桂子+斉藤隆央訳、ハヤカワ文庫NF、972円
07月10日『小さな黒い箱』フィリップ・K・ディック著、ハヤカワ文庫SF、1,102円
07月11日『神曲 煉獄篇』ダンテ・アリギエリ著、原基晶訳・解説、講談社学術文庫、1,566円
07月11日『お金の改革論』ジョン・メイナード・ケインズ著、山形浩生訳、講談社学術文庫、864円
07月11日『生物学の歴史』アイザック・アシモフ著、太田次郎訳、講談社学術文庫、1,037円
07月16日『ラデツキー行進曲(上)』ヨーゼフ・ロート著、平田達治訳、岩波文庫、842円
07月16日『おんな二代の記』山川菊栄著、岩波文庫、1,166円
07月16日『江戸東京実見画録』長谷川渓石画、進士慶幹+花咲一男注解、岩波文庫、842円
07月16日『贈与論 他二篇』マルセル・モース著、森山工訳、岩波文庫、1,231円
07月16日『復活(上)』トルストイ著、藤沼貴訳、岩波文庫、1,102円
07月16日『法華経物語』渡辺照宏著、岩波現代文庫、1,469円
07月16日『現代語訳 東海道中膝栗毛(上)』伊馬春部訳、岩波現代文庫、1,058円
07月16日『「日本国憲法」を読み直す』井上ひさし+樋口陽一著、岩波現代文庫、1,123円
07月16日『デカルトの旅/デカルトの夢――『方法序説』を読む』田中仁彦著、岩波現代文庫、1,469円
07月18日『若い藝術家の肖像』ジェイムズ・ジョイス著、丸谷才一訳、集英社文庫、1,296円
07月18日『集団的自衛権と安全保障』豊下楢彦+古関彰一著、岩波新書、886円
07月18日『サッカーと人種差別』陣野俊史著、文春新書、810円
07月21日『ポール・リクール』ジャン・グロンダン著、杉村靖彦訳、文庫クセジュ、1,296円
07月23日『錬金術』吉田光邦著、中公文庫、864円
07月23日『マッカーサー大戦回顧録』ダグラス・マッカーサー著、津島一夫訳、中公文庫、1,512円
07月25日『青春論』亀井勝一郎著、角川ソフィア文庫、648円
07月25日『日本国憲法を生んだ密室の九日間』鈴木昭典著、角川ソフィア文庫、1,080円
07月25日『文学とは何か』加藤周一著、角川ソフィア文庫、778円
07月25日『呪いと日本人』小松和彦著、角川ソフィア文庫、778円

08月07日『50歳からの知的生活術』三輪裕範著、ちくま新書、842円
08月07日『汚染水との闘い』空本誠喜著、ちくま新書、799円
08月12日『神曲 天国篇』ダンテ・アリギエリ著、原基晶訳・解説、講談社学術文庫、価格未定

# by urag | 2014-06-29 23:25 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2014年 06月 25日

太洋社本社移転の影響を考える

専門的な話ですが、同様の案件をお持ちの版元さんもおられるかもしれないと思い、以下に記します。

出版取次の太洋社が本社移転の案内をついに出版社に通知し始めました。8月25日(月)から、仕窓口は地下鉄銀座線「末広町」駅至近のビルに移ります。「注文品物流」は戸田市美女木の同社戸田センターに集約するようです。物流拠点の移転はこれまで取次各社が時代の推移とともに行ってきたものですから、これについては今は脇におくとします。少しやっかいなのは、仕入窓口の移転の影響です。

弊社は日販、トーハン、大阪屋、栗田、太洋社の5社に新刊の見本出しを1人で行っています。利用する交通機関は電車とバスで、あとは徒歩(一部タクシー)です。新刊見本の際に自転車や自動車を利用する版元さん、複数の人数で見本出しする版元さん、郵送や宅配便ですべて済ませる版元さん、あるいは新刊見本を納品で済ませる版元さんなど、事情はそれぞれ異なると思うのですが、弊社と同じように、1人で5社を午前中(厳密に言えば9時半から11時半までの間)に車を使わず回る場合、売上5番手の太洋社に午前中に入るのがとても難しくなることは、版元の営業マンなら気づくと思います。

以前も少し書きましたが、現状では弊社では、地下鉄有楽町線「江戸川橋」で下車し、徒歩で9時半過ぎに太洋社に着くようにします。その次は神田川を挟んだ反対側のトーハンまで歩きます。トーハンを終えたら、タクシーで日販へ。日販の次は地下鉄丸ノ内線に乗って「後楽園」で下車、徒歩で大阪屋を回り、今度は都営三田線に「春日」から乗って「神保町」で降りて徒歩で栗田を回ります。取次窓口が混雑する〆日25日前1週間でなければ、このルートで午前中になんとか回り切れます。

取次搬入日まで中3日がここ10年のスタンダードですが、電車が止まったり、仕入窓口が混んでいたりすると、午前中は大阪屋に滑り込むのがやっとで、栗田には間に合わないことがあります。その場合は栗田のみ中2日に変更し、搬入日が取次他社とズレないようにします。どの取次を優先するかと言えば、それは売上順です。日販やトーハンは大阪屋より優先しなければならないし、大阪屋は栗田より優先されなければなりません。太洋社は5番手です。この現状で、太洋社が本社移転によりルートから外れるとどうなるか。トーハンと近いからこそ早めに回るルートに組み込めていたのが、栗田の後に回るとなれば、弊社の場合、かなりの高確率で「午前中に太洋社を回り切れず、太洋社への搬入日が取次他社より1日ズレ込む」ことになります。

そうなると一番影響が出るのが、太洋社を使ってまとまった部数の新刊を仕入れているTRC(図書館流通センター)のストックブックです。TRCにとっても太洋社にとってもストックブックの納品が取次他社の配本より1日ずれるのは面白いことではありません。納品が遅れても構わないとはまったく思っていないはずです。「午前中に太洋社を回り切れず、太洋社への搬入日が取次他社より1日ズレ込む」ことによって「太洋社からTRCSBへの納品が1日遅れる」事態を生むこの悪循環は、出版社にとっても面倒なことです。太洋社を利用する限りはSBへの納品は遅れることになりますから、最悪の場合「太洋社外し」が懸念されるのです。

(むろんこれは弊社のように、取次見本に1名しか人員を割いていない出版社がどれくらい多く存在するかによるので、単なる杞憂かもしれません。しかし私の知る限りでは、それなりの数の出版社が、1人で見本出しをしているように見受けます。地図が書き変わるためには、こうした出版社が多数派である必要はありません。たとえ1~2割の版元の搬入日が遅れるだけでも、それがずっと続くなら問題はおそらくけっして小さくはないのです。)

TRCがSBの扱いを太洋社から他社へ帳合変更してしまうと、SBの売上が大きいはずの太洋社はかなりの打撃を受けることになるでしょう。太洋社の売上が減ると困るのは、太洋社一手と取引している版元です。太洋社を介して他社取次へ仲間卸しているわけですから、太洋社が打撃を受ければ、その版元にも余波があります。これもまた最悪の場合、「太洋社および取引版元の連鎖倒産リスクの急上昇」が懸念されます。

(つまり、太洋社の本社移転の影響は、たかが見本出しの話とはいえ、太洋社への搬入日に配慮しきれない出版社の数次第では、思いがけない展開へと連鎖しかねないというのが私の印象です。おそらくそこまでの悪循環には陥らないにせよ、不測の事態に備える必要が出版社にとってもゼロではないわけです。)

弊社では太洋社仕入部さんと協議し、搬入日のズレこみを回避するごくシンプルな対策を取ることにしました。新刊見本についてはまず「搬入連絡票」を見本日当日午前中までにFAXし、現物を追って納品する、という方法です(昔からあるいわゆる「後見本」というやつですね)。むろんこうした場合でも、見本当日に日販やトーハンの窓口交渉で、搬入日が前倒しになった場合は、色々しわ寄せが起こります。万全な対策ではありませんが、ほかに方法もないようです(ちなみに他社より1日早く太洋社に見本出しすることや、宅配便で見本日午前中に納品するという選択肢は、印刷製本の事情で弊社には現実的ではありません)。

かつて栗田が文京区の仕入窓口を閉鎖して旧板橋本社(都営地下鉄「志村坂上」駅下車徒歩10分強)に窓口を移した時、書籍の窓口を訪れる版元が少なくなり、版元との人間関係が希薄になったという前例があります。太洋社の移転先は板橋ほど離れてはいませんが、それでも微妙に回りにくい場所ではあるので、直接訪問せず、郵送や宅急便で済ませようという版元が出てくるかもしれません。搬入日がズレようがそれは仕方ないという版元もその中には含まれることでしょう。ごくありふれた問題のようで、下手をすると悪循環につながりかねないこの問題について果たして太洋社さんがどう対策を取られるのか、注視したいと思っています。

+++

追記:この件がどうしてことさら「嫌な感じ」に見えるのか、同業者の方々はすでにご存じかと思います。背景にあるのは太洋社のここしばらくの経営以不振と最近の支払決済システムのトラブルです。こうした悪い空気がこれ以上続かないようにするべきところに本社移転が本決まりになり(それが以前から検討されていたことで、経営再建には必要なことだとしても)、出版社は一抹の不安感や不満を覚えているのではないでしょうか。SBの帳合変更というカードをTRCに切らせないためには、「太洋社で問題なし」という出版社の信任=後ろ盾も必要なはずです。その部分が若干危うくなりつつあるのかなと案じています。

# by urag | 2014-06-25 15:15 | 雑談 | Comments(2)
2014年 06月 23日

エウレカ・プロジェクトのウェブ雑誌「E!」が創刊、ほか

★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
物理学者の松野孝一郎さん(長岡科学技術大学名誉教授)が提唱し、理論生命科学者の郡司ペギオ幸夫さん(早稲田大学教授)が発展させた、新しい思考様式「内部観測」をハブ概念とした領域横断型のウェブ雑誌「E!」を、上浦基さん(東京電機大学理工学部助教)、澤宏司さん(日本女子大学附属高等学校教諭)、竹之内大輔さん(株式会社イーライフ、シニアコンサルタント)、水越康介(首都大学東京大学院ビジネススクール准教授)と共同で2014年6月20日に創刊されました。エウレカ・プロジェクトのウェブサイトから創刊#1号をダウンロードできます。近藤さんは同号に「あたらしさについて」という架空対談形式のテクストを寄稿されているだけでなく、組版デザインも手掛けておられます。

E! vol.1
澤宏司責任編集
エウレカ・プロジェクト 2014年6月 無料 PDF85頁 ISSN2188-756X

版組デザイン=近藤和敬
WEBプランニング(Eureka Project)=園原譲(フリーランス)
表紙・グラフィックデザイン=高村舞(東京大学大学院修士課程、建築学)
企画協力=高際俊介

目次:
エウレカ宣言Ⅰ 巻頭言 【6-7】
内部観測 The Origin|松野孝一郎×上浦基【8-31】    
松野×上浦対談解題〈内部観測〉が居酒屋で使われる、そのときまでに、世界は。|上浦基【32-33】 
機械と人間のオチのない物語をめぐって――将棋電王戦から考える|久保明教【34-41】
天才と凡人とそのあいだくらい|水越康介【42-49】 
わたしと世界が触れるとき|齋藤帆奈【50-55】
あたらしさについて|近藤和敬【56-73】
論理の時間、論理と時間(Ⅰ)ラッセルの形式、ヒルベルトの計画|澤宏司【74-83】
執筆者プロフィール一覧 【84】
エウレカ宣言Ⅱ 巻末言 【85】


★川合全弘さん(訳書:ユンガー『追悼の政治』『労働者』)
ロシア政治思想史の研究者、京都大学名誉教授の勝田吉太郎さん(かつだ・きちたろう:1928-)さんが1968年に潮新書(潮出版社)の一冊として上梓された『ドストエフスキー』が、加筆訂正されて再刊されました。勝田さんは川合さんの恩師であり、川合さんは今回の再刊に際し編集協力に当たられています。

ドストエフスキー
勝田吉太郎(かつだ・きちたろう:1928-)著
第三文明社 2014年4月 本体3,500円 四六判上製函入360頁 ISBN978-4-476-03326-7
帯文より:人間とは何か――この根源的な問いに、ドストエフスキーは巨大な精神力を注いだ。近代文明に翻弄された現代人が新たな文明を模索する一書。

目次:
第一章 近代小説とドストエフスキーの手法
第二章 人間学――社会主義社会の蟻塚と人間的自由
第三章 自由の悲劇的弁証法
第四章 全体主義権力の論理と心理構造
第五章 ヒューマニズムの危機
第六章 宗教と倫理――弁神論の問題
第七章 悪の共同体
第八章 ナショナリズムと神
むすび
あとがき
ドストエフスキー略年表
著作目録


★ジャック・デリダさん(著書:『条件なき大学』)
井筒俊彦さんに宛てられた1983年7月10日付の書簡「〈解体構築〉DÉCONSTRUCTIONとは何か」丸山圭三郎訳、初出=「思想」1984年4月号に掲載、原文「Lettre à un ami japonais (1985) 」は増補新版『プシュケー』第Ⅱ巻、ガリレ、2003年収録)が、河出書房新社さんの「道の手帖」シリーズの最新刊「井筒俊彦」に再掲載されています。2014年は井筒俊彦さんの生誕百年に当たります。内容詳細は以下の通りです。

井筒俊彦――言語の根源と哲学の発生
安藤礼二+若松英輔責任編集
河出書房新社 2014年6月 本体1,600円 A5判並製224頁 ISBN978-4-309-74053-9
版元紹介文より:東西の叡智を一身に体現する世界的思想家・井筒俊彦の可能性に迫る。

目次:(既出テクストの再掲載には★印を付します)
【特別対談】安藤礼二×若松英輔「コトバの形而上学――井筒俊彦の生涯と思想」
【インタビュー】高橋巖「エラノスで会った〈非〉学問の人」 (聞き手=安藤礼二・若松英輔)
【井筒俊彦を読む】
 大江健三郎「井筒宇宙の周縁で――『超越のことば』井筒俊彦を読む」★
 田口ランディ「『意識の形而上学――「大乗起信論」の哲学』を読む」
 吉村萬壱「下から」
 池田晶子「『意識と本質』を読む」★
 日野啓三「言い難く豊かな砂漠の人」★
 ジャン・コーネル・ホフ「井筒哲学を翻訳する」(野口良次訳)
【特別収録】ジャック・デリダ「[書簡]〈解体構築〉DÉCONSTRUCTIONとは何か」 (丸山圭三郎訳)★
【井筒哲学の可能性】
 中沢新一「創造の出発点」★
 安藤礼二「呪術と神秘――井筒俊彦の言語論素描」
 若松英輔「光と意識の形而上学――井筒俊彦とベルクソン」
 中島岳志「「東洋の理想」の行方――大川周明と井筒俊彦」
 山城むつみ「井筒俊彦とロシアと文字と戦争と」
 上野俊哉「スピリチュアル・アナキズムに向かって」
【井筒哲学の基層】
 河合俊雄「井筒俊彦とエラノス精神」
 末木文美士「禅から井筒哲学を考える」
 頼住光子「井筒俊彦と道元」
 池内恵「井筒俊彦の主要著作に見る日本的イスラーム理解」★
 納富信留「井筒俊彦とプロティノス」
 澤井義次「井筒俊彦とインド哲学」
【井筒俊彦と東洋哲学】
 鎌田東二「詩と宗教と哲学の間――言語と身心変容技法」
 野平宗弘「地球社会化時代の東洋哲学――井筒俊彦とファム・コン・ティエン」
 松枝到「「読む」ことの教え――井筒俊彦から受け取ったこと」
 永井晋「〈精神的東洋を索めて〉――光の現象学」
井筒俊彦 略年譜

※なお、河出書房新社さんでは「道の手帖」シリーズのほかにも、大西巨人さんをめぐるアンソロジーを発売されたばかりです。また、今月の講談社文芸文庫の新刊では大西さんの『地獄変相奏鳴曲――第一楽章 白日の序曲/第二楽章 伝説の黄昏/第三楽章 犠牲の座標」が発売されています。

大西巨人――抒情と革命
河出書房新社編集部編
河出書房新社 2014年6月 本体2,300円 A5判並製256頁 ISBN978-4-309-02300-7

目次:(既出テクストの再掲載は★印)
【エッセイ】
 いとうせいこう「リアリズムへの神聖喜劇」
 小沢信男「汚い原稿の美しさ」
【大西巨人 単行本未収録エッセイ選解題(山口直孝編)】
 「ヒューマニズムの陥穽――「ネオ・ユマニスム」の旗手としての荒正人について」★
 「K少尉的なもの」★
 「二つの書物――「あられ酒」と「追憶」と」★
 「対馬の上島・下島」★
 「古い記憶の水鏡――短歌一種、詩二編について」★
【対談】
 大西巨人×武井昭夫「21世紀の革命と非暴力――新訳『縮図・インコ道理教』をめぐって」★
 大西巨人×柄谷行人「畏怖あるいは倫理の普遍性」★
 大西巨人×吉本隆明「“大小説”の条件――『神聖喜劇』をめぐって」★
 大西巨人×大岡昇平「変貌する「戦後」を問う」★
【大西巨人 初出で読む「俗情との結託」解題(山口直孝編)】 
 「俗情との結託――『三木清に於ける人間の研究』と『真空地帯』」★
 「雉子も鳴かずば打たれまい――民科芸術部会のこと、『真空地帯』批判(「俗情との結託」)の二つの反批判(?)のこと、シャーロック・ホームズ的推理のこと、その他」★
 「『真空地帯』問題――会本来の使命発展のために・Ⅳ」★
【論考】
 山口直孝「疾走する「たわぶれ心」――大西巨人におけるフモールの展開」
 絓秀実「さらに踏み越えられたエロティシズムの倫理――—大西巨人の場合」★
 井口時男「「正名と自然」再び」
 倉数茂「大西巨人の聖史劇(ミステリー・プレイズ)」
 友常勉「〈党〉と部落問題」
 千野帽子「大西巨人を読んでめんくらうこと」
【『神聖喜劇』論】
 石橋正孝「大西巨人における暴力の問題」
 田島正樹「革命的主体について――『神聖喜劇』論」★
 宮野由梨香「神聖喜劇』の彼方へ」
 橋本あゆみ「「別の長い物語り」のための覚書――『精神の氷点』から『神聖喜劇』へ」
【作品ガイド】
 「精神の氷点」(堀川労)
 「神聖喜劇」(橋本あゆみ)
 「天路の奈落」(生住昌大)
 「地獄変相奏鳴曲」(坂口博)
 「三位一体の神話」(楠田剛士)
 「五里霧」(堀川労)
 「迷宮」(内田友子)
 「二十一世紀前夜祭」(堀川労)
 「深淵」(内田友子)
 「縮図・インコ道理教」(坂口博)
 「地獄篇三部作」(坂口博)
大西巨人略年譜(齋藤秀昭)

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# by urag | 2014-06-23 16:10 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2014年 06月 22日

注目新刊:晶文社版吉本隆明全集第2回配本第7巻、ほか

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吉本隆明全集7 [1962‐1964]
吉本隆明著
晶文社 2014年6月 本体6,300円 A5判変型上製636頁 ISBN978-4-7949-7107-4

帯文より:長く深い時間の射程で考えつづけた思想家の全貌と軌跡。重厚な評論「丸山真男論」と「日本のナショナリズム」を中心とする、1962年1月から1964年12月の間に発表された論考と詩を収める。第2回配本。

★まもなく発売。第1回配本(2014年3月)に続く第2回配本は第7巻。目次詳細は書名のリンク先か、吉本隆明全集特設サイトをご覧ください。単行本未収録原稿は二篇(「宍戸恭一『現代史の視点』」「中村卓美『最初の機械屋』」二段組でともに590頁に収録)で、月報には加藤典洋「うつむき加減で、言葉少なの」と、ハルノ宵子「じゃあな」が収録されています。ハルノさんのエッセイは隆明さんが臨終を迎える時の家族の絆についてかかれたもので、あっさりした書き方ですが胸に迫るものがあります。第1回配本の際は大型書店で吉本隆明全集刊行記念フェア「吉本隆明のDNAをどう受け継ぐか」が開催されました。内田樹さん、中沢新一さん、茂木健一郎さん、宇野常寛さんが選書されたリストや、フェアの店頭風景を特設サイトでご覧いただくことができます。吉本さんの読者層は幅広いですから、前回開催できなかった書店さんでは今回の第二回配本にあわせてたとえば「丸山真男と吉本隆明」フェアを展開されるのも良いかもしれません。次回配本は9月、第4巻(1952-1957)とのことです。


視覚文化「超」講義
石岡良治(いしおか・よしはる:1972-)著
フィルムアート社 2014年6月 本体2,100円 四六判並製336頁 ISBN978-4-8459-1430-2

帯文より:映画、ゲーム、アニメ、PV、アート、CG、マンガ・・・ハイカルチャー/ポップカルチャーの枠組みを超えて視覚文化を語る! 動画以降の世紀を生きるための、ポピュラー文化のタイム・トラベル。

推薦文(國分功一郎、巻末特別対談より):「文化の民主化」が徹底されつつある今、まさに必読の書が現れた。
推薦文(宇野常寛):伝説の男が、「日本最強の自宅警備員」と呼ばれるあの男がついにその重い腰を上げた……! 本書をもって世界は知ることになるだろう、本物の知性と本物の情熱の存在を。そして、石岡良治氏だけが両者をあわせもつことを。

★まもなく発売。國分功一郎(1974-)、宇野常寛(1978-)、千葉雅也(1978-)といった同世代の第一線で思考する若手各氏から、その鋭い分析力が常に高く評価されてきた批評家の待望のデビュー作です。視覚文化(特にポピュラー文化)をテーマに2014年2月から4月、フィルムアート社で行われた講義を全5回にまとめたもの。巻末には國分功一郎さんとの特別対談「新しい時代のための、視覚文化をめぐる哲学」が収録されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「超」講義と題されたのは、本書が視覚文化を論じる際に「時代と対象領域の広がりを重視」(4頁)し、「分野の横断性を強く意識」(同)しつつ、「複数の速度、複数の歴史を「ギアチェンジ」していくモデル」(10頁)を追求する、その姿勢ゆえではないかと思います。芸術批評の分野で2014年におそらくもっとも注目される新刊として話題を呼びそうです。書店員さんは巻末の参考文献にぜひ目を通してみてください。本書が扱っている議論の広がりに触発されることだろうと思います。


キリストの顔――イメージ人類学序説
水野千依著
筑摩叢書 2014年6月 本体2,000円 四六判並製400頁 ISBN978-4-480-01601-0

帯文より:究極の禁忌と欲望。その不可能なる肖像を彼らはいかにして描きえたのか。西洋思想の根幹に触れるイメージ生成の謎に迫る。

目次:
はじめに
第一章 失われた顔を求めて――キリストの肖像前史
第二章 マンディリオン伝説の構築――東方正教会における「真の顔」
第三章 マンディリオンの表象――東方における聖像論
第四章 複製される神聖空間
第五章 ラテラーノ宮殿の救世主の肖像――ローマのアケイロポイエトス
第六章 ヴェロニカ伝説の構築――西方世界における「普遍的教会の象徴」
第七章 ヴェロニカの表象――信仰と芸術のはざまで
第八章 キリストのプロフィール肖像――構築される「真正性」と「古代性」
おわりに――イメージ人類学に向けて

あとがき
参考文献
掲載図版一覧
人名索引

★発売済。第一作『イメージの地層――ルネサンスの図像文化における奇跡・分身・予言』(名古屋大学出版会、2011年)で第34回(2012年度)サントリー学芸賞を受賞した著者による待望の第二作です。まえがきによれば本書は「西洋キリスト教という文化圏にフィールドを限定し、歴史的にもっとも覆われ隠されつつも特権化され格別の崇敬を受けてきたイメージ、すなわり「キリストの顔」を対象に、「見るなの禁」のメカニズムを一考するとともに、キリスト教における表象の論理を堀り下げ」るもので(15頁)、「到達不可能なキリストの顔に接近する長い歴史を追うことで、キリスト教文化におけるイメージの論理を歴史人類学的視座から捉え直すことを試み」ています(18頁)。マンディリオンというのはイエスが自身の顔を拭いた布がそのままイエスの肖像となった聖顔布のことで、「人の手によらざる(アケイロポイエトス)」イメージ、キリスト自身の奇蹟の力によって生みだされた真正なる肖像という権威が備わっていました。「キリスト自らが想像したのならば偶像ではない」(52頁)というわけです。ローマのラテラーノ宮殿の救世主像や、聖ヴェロニカがイエスの血と汗を拭った聖顔布も、アケイロポイエトスの例です。見てはならないものを見えるものにするという聖なるイメージのパラドクスの歴史に迫り、イメージ人類学への道のりを示す力作です。


思想史の名脇役たち――知られざる知識人群像
合田正人著
河出ブックス 2014年6月 本体1,700円 B6判並製288頁 ISBN978-4-309-62472-3

帯文より:カミュに「作家になること」を決意させた人とは? アランが敬愛した先生とは? ベルクソン、ヴェイユ、ドゥルーズ、ガタリ、ラカン、デリダ、コント、バシュラール・・・彼らが愛した人物たちに光を当て、新たな思考の場へ――。

目次:
ランナバウト
ジャン・グルニエ
シャルル・ルヌヴィエ
ジュール・ラニョー
ジャン・ポーラン
ユージェーヌ・ミンコウスキー
ガブリエル・マルセル
ジャン・ヴァール
レオン・ブランシュヴィック

★発売済。フランス19-20世紀哲学史のある意味での「陰の部分」を扱う非常に啓発的な入門書です。「これから取り上げる思想家たちは決してマイナーな思想家ではない。けれども、ベルクソンという巨星の陰に彼らが多少なりとも隠されてきたことは間違いない。隠されつつも、彼ら自身、不連続性、言語、非人間的なもの、オリエント、媒介、空間、知性などの諸点についてベルクソンと対決した。ベルクソンはベルクソンで、シャルル・ルヌヴィエと対決した。しかし、その対決の意義が探られることはほとんどなかった。のみならず、例えばジャン・グルニエは、グルニエであるよりもむしろ「カミュの先生」である。ジュール・ラニョーも「アランの先生」である。いや、「アランの先生」としてさえ認知されていないかもしれない。ガブリエル・マルセルはサルトルによって乗り越えられた宗教哲学者にとどまっている。レオン・ブランシュヴィックはソルボンヌの「番犬たち」のひとりにすぎず、ジャン・ヴァールも実存主義の紹介者でしかない。精神医学の分野でこの数十年ユージェーヌ・ミンコウスキーのことが語られたことはほとんどない。大物編集者ジャン・ポーランの言語論を支えるマダガスカル経験を本質的なものとみなす論者もほとんどいない。ドゥルーズやリオタールやアラン・バデュの訳堂には、フランソワ・シャトレという存在が不可欠だったのではないか」(7頁)。「錆びた金属が旋盤にかけるとぴかぴか輝きだすように、彼らの著作は、私たちが未だ答えを見出していない最先端の、そして最も日常的な数々の問いの探求へと私たちを巻き込む力をいささかも失っていない。「来るべき書物」であり、「明日の哲学」への序曲なのだ」(7-8頁)。哲学史の細部への目配りを絶えず怠らなかった合田さんならではのたいへん魅力的な「星座の書」です。


黄泉の河にて
ピーター・マシーセン著 東江一紀訳
作品社 2014年6月 本体2,600円 46判上製272頁 ISBN978-4-86182-491-3

帯文より:「マシーセンの十の面が光る、十の周密な短編」――青山南氏推薦! 「われらが最高の書き手による名人芸の逸品」――ドン・デリーロ氏激賞! 半世紀余にわたりアメリカ文学を牽引した作家/ナチュラリストによる、唯一の自選ベスト作品集。

★発売済。今年4月に逝去したアメリカの作家の自選短篇集です。収録作品と執筆年は以下の通りです。「黄泉の河にて」1985年、「流れ人」1957年、「五日目」1951年、「セイディー」1950年、「センターピース」1951年、「季節はずれ」1953年、「アギラの狼」1958年、「馬捨ての緯度」1959年、「薄墨色の夜明け」1963年、「ルムンバは生きている」1988年。1998年に書かれた著者あとがきによれば、「作家として駆け出しの1950年代に、30篇近く書いて以来、わたしはめったに短篇を書かなくなっていた」とのことで、60年代以後は20年にわたって短篇が書かれていなかったものの、「最近、〔・・・〕初期のものよりかなり長く、かつ野心的な短篇を二篇仕上げた」と述べています。本書にはデリーロだけでなく、ウィリアム・スタイロンやジム・ハリソンも熱烈な賛辞を捧げていますマシーセンの新刊は『インディアン・カントリー』(上下巻、中央アート出版社、2003年)以来約10年ぶり、小説に限って言えば、早川書房より1992年に刊行された『ワトソン氏を殺す』『神の庭に遊びて』から約20年ぶりの新刊になります。


論語集注2
朱熹著 土田健次郎訳注
東洋文庫 2014年6月 本体2,900円 全書判上製函入396頁 ISBN978-4-582-80841-4

帯文より:宋学の『論語』解釈の精髄を集約した朱熹『集注』に、反朱子学の仁斎、さたに仁斎も批判する徂徠が果敢に挑む。『論語』解釈をめぐる中国と日本の儒学思想史上の白熱した議論を再現。

★まもなく発売。全4巻のうちの第2回配本第2巻。巻三の「公冶長第五」「雍也第六」、巻四の「述而第七」「泰伯題八」が収録されています。仁斎や徂徠の議論は集注への補説として随所で紹介されています。会員制の東洋文庫読者倶楽部では今般会報「東洋文庫通信」第2号を発行されました。『論語集注』の訳者、土田先生による「経学の世界」というエッセイが2頁にわたって掲載されているほか、森まゆみさんによる「私のオススメの一冊」として、モース『日本その日その日』が紹介されています。また会員が投票に参加できる東洋文庫のリクエスト復刊の案内も会報に同封されていました。『論語集注2』で通算850巻を数える東洋文庫の約半数が品切とのことで、書店さんでの復刊フェアも予定されているそうです。出来上がったばかりの解説目録2014年版と会員に配布された「品切書目一覧」を交互に見ながら、あらためて東洋文庫の半世紀にわたる長い道のりに思いを馳せたいと思います。

★平凡社さんの6月の新刊ではこのほか、森美術館をはじめ来年半ばまで名古屋、沖縄、高知を巡回する美術展のカタログ『ゴー・ビトゥイーンズ展――こどもを通して見る世界』(森美術館編、本体2,500円、A4変型判並製192頁、ISBN978-4-582-20674-6)や、フランスの絵本作家による『不思議の国のシロウサギかあさん』(ジル・バシュレ著、いせひでこ訳、本体A4変型判上製32頁、ISBN978-4-582-83653-0)がまもなく一般発売開始となります。

# by urag | 2014-06-22 23:15 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)