人気ブログランキング | 話題のタグを見る

URGT-B(ウラゲツブログ)

urag.exblog.jp
ブログトップ
2014年 10月 21日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2014年11月13日(木)オープン
フタバ図書福岡パルコ店:160坪
福岡県福岡市中央区天神2-9-18 福岡パルコ新館6F
日販帳合。弊社へのご発注は芸術書の主要書目。天神地区は全国でも有数の書店激戦区。広島に拠点を置くフタバ図書はすでに福岡県内に複数店舗を展開していますが天神地区は初めてかと思います。旧岩田屋新館ビルを建て替えて開店。福岡パルコの2014年9月14日 付「ニュース・リリース」および新館のウェブサイトによれば、新館6Fは「タマリバ6(シックス)」という名称で、「「出会える」ブック&カフェ/ダイニング/エンタテインメント」がコンセプト。フロアプロデュースは青野玄さんが代表取締役を務める株式会社SLD(エスエルディー)が手掛けておられます。青野さんは1980年生まれで、福岡県ご出身。外食企業、音楽プロダクションを経て弱冠24歳でSLDを設立。飲食店やライブハイスなどの経営のほか、コンサートや野外フェスの企画運営、さらには音楽レーベルなどのエイタテインメント事業、商業空間や店舗のプロデュースおよびコンサルティング事業を行っているとのことです。

フタバ図書の代表取締役社長世良與志雄さんの記名による案内状によれば、「書店創業101年の総力を結集し、「感動づくり・人づくり・繁盛づくり」という企業理念実現の舞台として、〔・・・〕出店いたします。福岡天神の立地を活かし、ライフスタイルを提案する「スタイリッシュな書店」をコンセプトに、今までにない本との出会いを楽しんでいただける洗練された品揃えで、より多くのお客様に喜んでいただく所存」とのことです。

複合商業施設に書店は欠かせない要素のひとつとなっていますが、パルコの中にリブロやパルコBCではなくフタバが入ることになったのは、ご近所の岩田屋本店本館(福岡市中央区天神2-5-35)の7Fにすでにリブロ福岡天神店(同じく日販帳合)が入っているためかと思われます。天神地区での岩田屋の変遷についてはwikipediaなどをご参照ください。

# by urag | 2014-10-21 10:15 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2014年 10月 19日

注目新刊:ランシエール『平等の方法』航思社、ほか

注目新刊:ランシエール『平等の方法』航思社、ほか_a0018105_23543940.jpg

平等の方法
ジャック・ランシエール著 市田良彦・上尾真道・信友建志・箱田徹訳
航思社 2014年10月 本体3,400円 四六判並製392頁 ISBN978-4-906738-08-3

帯文より:世界で最も注目される思想家が、みずからの思想を平易なことばで語るロング・インタビュー。2012年までの全著作の自著解説。「分け前なき者」の分け前をめぐる政治思想と、映画や文学、アートなど「感覚的なものの分割」をめぐる美学思想は、いかに形成され、いかに分けられないものとなったか。ランシエール思想、待望の入門書!

★発売済(2014年10月10日取次搬入済)。原書は、La méthode de l'égalité(Bayard, 2012)です。ローラン・ジャンピエールとドール・ザビュニャンによるインタヴュー本で、「生成過程」「いくつもの線」「閾」「現在」の四部構成です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末には事項索引と人名索引があり、人名索引は人物小辞典を兼ねています。カヴァーはランシエールの顔の大写しで、背にちょうど左目が来るので、棚にあるとどうしてもつい眼が合ってしまいます。これは良い戦略かも。デザインは前田晃伸さんによるものです。ランシエールはインタヴューにかなりざっくばらんに答えていて、学生時代や教員時代の様々なエピソードや自身の著書の話など、同時代の知識人たちとの違いや温度差、影響関係が如実に表れた、非常に興味深い内容となっています。訳者のお一人である市田さんによる驚嘆すべき『ランシエール――新〈音楽の哲学〉』(白水社、2007年)は別格として、ランシエール自身によるランシエール入門として出色の一冊ではないでしょうか。本書はまた、ランシエールの視点から見た現代思想史の貴重な証言集でもあると言えるかもしれません。

インパクトが強い本書のカヴァーは、陳列方法によっていっそう強力になる気がします。たとえば私の手元には偶然2冊の『平等の方法』があるのですが、平積みを少しズラすと眼眼眼・・・になります。これをもっとたくさんの冊数でやったら・・・と想像すると・・・
注目新刊:ランシエール『平等の方法』航思社、ほか_a0018105_038688.jpg



時間のヒダ、空間のシワ…[時間地図]の試み――杉浦康平ダイアグラム・コレクション
杉浦康平著
鹿島出版会 2014年9月 本体3,500円 A4変型判並製104頁 ISBN978-4-30604606-1

カバーソデ紹介文より:地図の歴史を塗り替えた伝説のダイアグラム「時間地図」「時間軸変形地球儀」――。東京が、日本列島が、そして地球が容赦なく歪み、引っ張られ、凹んでいく。移動速度の変化が引き起こし、文化の振る舞いが映し出された「時間のヒダ、空間のシワ」を可視化する・・・。時間を軸にして、これまでに見慣れた空間地図や地球儀を変形する試み。多視点から解析して生みだされたデータ群を再構成し、新しい視点を加え図像化する。数々の伝説的なヴィジュアル・デザインを生み出した杉浦康平が、1960年代から挑戦しつづけた「ダイアグラムデザイン」、「時間地図」群の全貌・・・。初期ダイアグラム群を共作した松岡正剛との対談をはじめ、多木浩二によるエッセイ、かつて時間地図の編集・制作にかかわった、村山恒夫・赤崎正一らによる寄稿・インタビュー、後半では、建築家・白井宏昌やhclab.の若手クリエーターが、時間地図のデジタライズによって、〈スギウラ時間地図〉の試みを解読する・・・。

目次
記号と記号のかなた――杉浦康平についての覚え書き(多木浩二)
時間地図とは何か――「多にして一」という発想法(インタビュー:杉浦康平×赤崎正一)
ダイアグラム・コレクション
足跡としての、時間地図(対談:松岡正剛×杉浦康平)
紙の「マルチメディア」実験――『百科年鑑』生誕クロニクル(村山恒夫)
新しい時間地図を生みだす――〈スギウラ時間地図〉の試み(杉浦康平)
ダイアグラム・コレクション
時間地図のモデル化に挑む――時間のヒダ、空間のシワを可視化する(杉浦康平)
建築家にとっての時間地図(白井宏昌)
デジタイズされた時間地図の再解釈と展開(hclab.+白井宏昌)
時間地図のかなたへ・・・(杉浦康平)
収録図版データ
執筆者紹介

★発売済。杉浦康平さんによる独創的なダイアグラムの数々を1冊で振り返ることができる新刊です。版元紹介文に曰く「空間や都市にまつわる膨大な事象やデータを図解し、一枚の平面に落とし込んだダイアグラムと時間地図の全貌」。世界を別の視点から見直すことを可能にしてくれる時間地図の数々は、それを見る者が以前に持っていた世界像を変容させ、知を鮮やかに刷新していくインパクトを秘めています。一般的なダイアグラムは学生の教科書にも利用されていますが、たいがいそれらは機能的なものです。杉浦さんが作成したきたものは機能的であるだけでなく美的でもあり、見る者の想像力の膨らませ方がより豊かになる気がします。

★巻頭には次のような特記があります。「本書は、図版に描かれた文字が確実に読みとれるように、高精細印刷を施しています。ルーペを用い詳細に読みとってみてください」。こだわりが半端じゃありません。また、本書には赤青セロファンの眼鏡で見ると立体的に見えるステレオ図も収録されていて、杉浦ファンとしてはロングセラーの名作『立体で見る[星の本]』(福音館書店、1986年)を引っ張り出して付録の眼鏡を使うと良いと思われます。


なぜ生物時計は、あなたの生き方まで操っているのか?
ティル・レネベルク著 渡会圭子訳
インターシフト発行 合同出版発売 2014年10月 本体2,200円 46判上製320頁 ISBN978-4-7726-9542-8

帯文より:そのズレがあなたの人生を狂わせる。自分本来のリズムとのズレ。恋人や家族のリズムとのズレ。社会のリズムとのズレ。英国医療協会、年間ベストブック。

★発売済。原題は、Internal Time: Chronotypes, Social Jet Lag, and Why You're So Tired(内部時間:クロノタイプ、社会的時差ぼけ、なぜあなたはとても疲れているのか)で、2010年にケルンのDuMont Buchverlagからドイツ語訳が出たあと、2年後の2012年にHarvard University Pressから英語版が刊行されています。著者のティル・レネベルク(Till Roenneberg, 1953-)は、ミュンヘンのルートヴィヒ-マクシミリアンズ大学医療心理学研究所教授で、時間生物学センターの主任、欧州生物リズム学会の会長をおつとめです。ポピュラー・サイエンスの分野で次々にヒット作を出版してきたインターシフトさんですが、今回の新刊もやっぱり面白いです。面白いという以上に、色々と考えさせられます。一人ひとりの生活、睡眠、労働の質の向上だけでなく、よりよい社会を考える上で、体内時計=生物時計の研究が絶対に欠かせないのだということに気づかされます。

★クロノタイプとは、「個人が一日の中で示す活動の時間的志向性」(21頁)で、「いわゆる朝型・夜型」(同)のこと。個人にとって最適な「寝る」タイミングを決めているのもこのクロノタイプです。生物学的時間(内部時間)を刻むこのクロノタイプが社会的時間(外部時間)を刻む自分の仕事のサイクルとずれていると「社会的時差ぼけ」が起きてしまうようです。社会的時差ぼけというのは「仕事のある日と休みの日の睡眠中央時刻の差」(190頁)のことで、自分の体にとって自然な睡眠サイクルと仕事時間との関係が齟齬をきたしていると、慢性的な健康障害に見舞われます。よく考えてみれば当たり前のように思えますが、ほとんどの現代人はさほど意識していないかもしれません。本書を読んでいると、生物時計の研究がいっそう進んでいるはずの未来社会は、個々人の持つ体内時計の違いというものに対しいっそう寛容で柔軟な体制になっているかもしれないな、と想像させます。




◎作品社さんの新刊より

プラグマティズム古典集成――パース、ジェイムズ、デューイ』チャールズ・サンダース・パース+ウィリアム・ジェイムズ+ジョン・デューイ著、植木豊編訳、作品社、2014年10月、本体4,200円、46判上製660頁、ISBN978-4-86182-501-9
ノワール』ロバート・クーヴァー著、上岡伸雄訳、作品社、2014年10月、本体2,400円、46判上製248頁 ISBN978-4-86182-499-9

★『プラグマティズム古典集成』は発売済。帯文は以下の通り。「20世紀初頭、プラグマティズム運動は何と闘ったのか? 混迷する21世紀を打開する思想となりえるのか? 日本で初めて最重要論文を1冊に編纂。画期的な基本文献集。本邦初訳を含む、全17論文を新訳」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。初訳なのは、デューイ「アメリカにおけるプラグマティズムの展開」(1925年)、同「真理に関する提要問答」(1910年)で、さらに部分訳しか出版されていなかった論文の新訳として、パース「プラグマティシズムの問題点」(1905年)、同「プラグマティズム」(1907年草稿)、デューイ「自由についての哲学上の諸学説」(1928年)が収められています。また、付録として編訳者の植木さんによる解題「プラグマティズムの百年後」、パース、ジェイムズ、デューイの略歴、掲載論文の出典および先行翻訳一覧、プラグマティズム文献案内が続き、巻末には事項索引と人名索引を完備。

★数多くの入門書や個々の著作集は存在していたものの、原典によってプラグマティズムの古典を集成したアンソロジーは、本書以前では『世界思想教養全集(14)プラグマティズム』(河出書房新社、1963年;『世界の思想(14)』1966年)や『世界の名著(48)パース/ジェイムズ/デューイ』(中央公論社、1968年)があった程度でした。今回の『古典集成』ではプラグマティズムに分類される古典を集めるというよりはプラグマティズムという新語自体の生成と展開に焦点を絞って原典を集めている点が画期的で、歴史的経緯を追いたい方にはぜひとも必要な論文集でした。編訳者の植木さんはボブ・ジェソップやジョン・アーリに師事して社会理論を専門に研究されてきた方で、現在ご自身の著作『プラグマティスト社会理論』をご執筆中であるほか、東京大学出版会から近刊予定の『ジョン・デューイ著作集』(!)の第16巻「政治」の共訳を手掛けられておられるとのことです。

★近頃、ローティの大著『プラグマティズムの帰結』(ちくま学芸文庫、2014年6月)が文庫化されましたし、コーネル・ウェストの『哲学を回避するアメリカ知識人――プラグマティズムの系譜』(未來社、2014年9月)も発売されたばかりです。昨年はヒラリー・パトナム『プラグマティズム――限りなき探究』(晃洋書房、2013年2月)が刊行され、シャンタル・ムフ編『脱構築とプラグマティズム――来たるべき民主主義』の新装版も出ました(法政大学出版局、2013年12月)。ここに東大の『ジョン・デューイ著作集』が加わるとなると、売場もますます盛り上がりそうですね。

★『ノワール』は発売済(2014年10月16日取次搬入済)。帯文に曰く「“夜を連れて”現われたベール姿の魔性の女(ファム・ファタール)「未亡人」とは何者か!? 彼女に調査を依頼された街の大立者「ミスター・ビッグ」の正体は!? そして「君」と名指される探偵フィリップ・M・ノワールの運命は!? ポストモダン文学の巨人による、フィルム・ノワール/ハードボイルド探偵小説の、アイロニカルで周到なパロディ!」。訳者の上岡さんによるクーヴァー(Robert Coover, 1932-)の翻訳は斎藤兆史さんとの共訳『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』(作品社、2012年)に続く2作目です。

★訳者あとがきで上岡さんは本書をこう解説しておられます。「『ノワール』は、ジャンル〔フィルム・ノワールやハードボイルド探偵小説〕をユーモラスにいじったメタフィクションであり、環境や役柄を捺しつけられて生きる人間のカリカチュアでもある。物語の時系列的な流れを分断し、過去と現在が複雑に入り組むあたりは、ポストモダン作家クーヴァーらしい構造(語りの過去形と現在形に注意して読んでいただきたい)。パズルを当てはめていくような面白味、あるいはコンピュータでハイパーリンクされた小説を読むような現代性がある。〔・・・〕彼の作品としてはわかりやすく、ご落成が高いので、クーヴァー初心者にもぜひお薦めしたい一冊だ」とのことです。

★作品社さんではクーヴァーの続刊として、上岡さんの訳で『ゴースト・タウン』(原著2000年)や、越川芳明さんの訳で『ある夜の映画館』(原著1987年)の刊行が予定されています。ちなみに越川さん訳の『ユニヴァーサル野球協会』は白水uブックスで今年1月に再刊されています。クーヴァーと同様にポストモダン文学に分類されるトマス・ピンチョンの全小説作品を2010年より全12巻で新訳改訳してきた新潮社では先月『重力の虹』の佐藤良明さんの新訳上下巻でシリーズが完結しましたし、アメリカ文学棚のポストモダン・コーナーが再び賑やかになりつつあることを想像しています。


◎2014年10月文庫新刊より

快楽について』ロレンツォ・ヴァッラ著、近藤恒一訳、岩波文庫、1,200円
現代哲学』バートランド・ラッセル著、高村夏輝訳、ちくま学芸文庫、1,600円
解釈としての社会批判』マイケル・ウォルツァー著、大川正彦+川本隆史訳、ちくま学芸文庫、1,200円
精神と自然――ワイル講演録』ヘルマン・ワイル著、ピーター・ペジック編、岡村浩訳、ちくま学芸文庫、1,600円
生きがい喪失の悩み』ヴィクトール・E・フランクル著訳、中村友太郎訳、講談社学術文庫、本体880円
三国志演義(二)』井波律子訳、講談社学術文庫、本体1,700円

★まず岩波文庫『快楽について』は原著刊行が1431年。原題は「真の善と偽りの善について」です。もともと第1巻のみ「快楽論」として『原典イタリア・ルネサンス人文主義』(池上俊一監修、名古屋大学出版会、2010年)に訳出されていたものが全3巻全訳となって文庫化されたものです。イタリア・ルネサンスを彩る知の星座のひとつがこれで日本人にも近づきやすくなりました。訳者の近藤さんはこれまで岩波文庫でペトラルカやカンパネッラの訳書を上梓しているほか、単行本ではエウジェニオ・ガレンの著書を数冊訳しておられます。ヴァッラは今春『「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』(高橋薫訳、水声社、2014年4月)が訳されているほか、『快楽について』と並ぶ主著のひとつ「自由意志について」(1439年)の翻訳が『ルネサンスの人間論――原典翻訳集』(佐藤三夫編訳、有信堂、1984年、109-143頁)に収録されています。

★なお、来月(2014年11月)14日発売の岩波文庫新刊では、ケストナー『人生処方詩集』小松太郎訳、コセリウ『言語変化という問題――共時態、通時態、歴史』田中克彦訳、『マラルメ詩集』渡辺守章訳などが予告されています。言語学を勉強していれば誰しもコセリウの名前には突き当たるとはいえ、なかなか渋い選択です。おそらく『うつりゆくこそことばなれ――サンクロニー・ディアクロニー・ヒストリア』(田中克彦・かめいたかし訳、クロノス、1981年)の文庫化ではないかと思われます。また、『マラルメ詩集』は岩波文庫では鈴木信太郎訳(1963年)以来の新訳でこれは待望の新刊と言えそうです。「エロディアード」「半獣神の午後」の異本を徹底的に読み込み、詳細に注解する、と宣伝されています。

★次にちくま学芸文庫です。ラッセル『現代哲学』はかの有名な、An Outline of Philosophy(1927年)の初訳本です。先週、私はプルードンの『貧困の哲学(上)』(平凡社ライブラリー)について「まさかまさかの本邦初訳」と書きましたが、ラッセルの本書も負けず劣らずまさかの本邦初訳です。後代への影響力を考えれば、とっくの昔に訳されていてもおかしくありませんでした。翻訳大国であるはずの日本でもまだまだ未訳の古典はあるようです。訳題候補として「哲学概論」(出版社サイド)や「哲学のアウトライン」(訳者)が出ていたそうですが、書名を決めることは存外に難しいものですね。「同時代の科学的成果に正面から取り組んで世界観を作ろうとしていること、そしてクオリア問題などまさに現代哲学の課題に通じる議論が展開されていることを踏まえて、『現代哲学』と題することにした」と訳者解説に書かれています。本書は『哲学入門』『論理的原子論の哲学』に続く高村さんによるラッセルの翻訳第3弾。底本であるラウトレッジ・クラシックス版(2009年)に収録されているジョン・G・スレイターによる解説も一緒に訳出されています。

★『解釈としての社会批判』は、Interpretation and Social Criticism(Harvard University Press, 1987)の全訳で、風行社より1996年に刊行されたものの文庫化です。文庫化にあたって、共訳者の大川さんが長めの文庫版解題「足・耳・口の力、約束の想い起こし――ウォルツァー『解釈としての社会批判』のもうひとつの読みかた」が追加され、もう一人の訳者の川本さんはご自身による訳者あとがきに短い「文庫版への追記」を加えられています。ウォルツァーの著作が文庫になるのは本書が初めてです。

★『精神と自然』は、Mind and Nature: Sellected Writings on Philosophy, Mathematics, and Physics(Peter Pesic ed., Princeton University Press, 2009)の全訳で、アメリカでワイルが行った講演を中心に9篇を収めたもの。文庫オリジナルの新刊です。ワイルの文庫本としては『空間・時間・物質』(上下巻、内山龍雄訳、ちくま学芸文庫、2007年)がありましたが現在は品切。同文庫の「マス&サイエンス」シリーズはすぐに読むかどうかに関係なく買っておかないと品切になったあとにひどく悔やむことになるので要注意です。巻頭にペジックによる「はじめに」が置かれ、あとは年代順に「電気と重力」1921年、「形而上学的質問に対するアインシュタインとワイルの2通の手紙」1922年、「宇宙の時間関係性――固有時間、経験された時間、形而上学的時間」1927年、「開かれた時間――科学の形而上学的意味についての三つの講演」1932年(I:神と宇宙、II:因果律、III:無限)、「精神と自然」1934年(I:感覚と主観、II:世界と意識、III:科学と諸概念と理論の構成的性格、IV:相対性、V:量子物理学における主体と対象)、「プリンストン大学創立200周年記念会議での講演」1946年、「人間と科学の基礎」1949年頃、「知識の統一性」1954年、「洞察と反省」1955年、の9篇です。

★ちくま学芸文庫の来月(11月)10日発売の新刊には、サティ『卵のように軽やかに――サティによるサティ』岩佐鉄男・秋山邦晴編訳、ヴェイユ『工場日記』田辺保訳、などが予告されています。前者は筑摩叢書(1992年)からのスイッチで、後者はかつて講談社学術文庫で刊行されていたものの再刊かと思います。『工場日記』はなぜか長期品切だっただけに再度の文庫化は妥当ですね。

★最後に講談社学術文庫です。『生きがい喪失の悩み』は、Das Leiden am sinnlosen Leben(Herder, 1977)の翻訳で、講演録をまとめたものです。親本はエンデルレ書店から1982年に『生きがい喪失の悩み――現代の精神療法』として刊行されています。古書店であまり見かけない本でしたから文庫化は嬉しいです。再刊にあたって「学術文庫版への訳者あとがき」と諸富祥彦(明治大学教授)さんによる解説「フランクル――絶望に効く心理学」が加えられています。訳者の中村さんは「原本の刊行から30ね二条が経過しているので、時代状況の変化にあわせて、いくつかの精神医学用語などの訳語を変更したほか、より分かりやすい表現への改訂にも尽力しました」とのことです。

★『三国志演義(二)』は第31回から第60回までを収録。孔明の登場や「長坂の戦い」「赤壁の戦い」など、物語前半の山場となる場面を収めています。第三巻は来月10日発売予定です。

# by urag | 2014-10-19 23:54 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2014年 10月 14日

2014年11月上旬発売予定:森山大道『ニュー新宿』

2014年11月11日取次搬入予定 *写真集

ニュー新宿――森山大道写真集
月曜社 2014年11月 本体8,800円 B5判上製(タテ264mm×ヨコ184mm×ツカ46mm)ハードカバー752頁(写真点数641点) ISBN:978-4-86503-019-8

内容:名作『新宿』(2003年毎日芸術賞受賞)の集大成!『新宿』(2002年刊)および『新宿+』(2006年刊)を根本的に見直し、未発表作約110点/150頁を増補した決定版(撮影=2000年前後のおよそ5年間)。「新宿――この街は、ぼくのあらゆる生における現場であり、交叉点であり、ぼくを虜にしてしまうところがある」(森山大道)。

森山大道(もりやま・だいどう):1938年生まれ。最近の作品集に、『実験室からの眺め』(河出書房新社、2013年)、『Daido Moriyama 1965~』(上田義彦編、赤々舎、2013年)、『パリ+』(月曜社、2013年10月)、『記録 26号』(Akio Nagasawa Publishing、2014年)、『終わらない旅 北/南』(2分冊、Akio Nagasawa Publishing、2014年)、写真論・エッセイ集『通過者の視線』(月曜社、2014年10月)など。

【現在、アマゾン・ジャパンにて予約受付中です】

カヴァーはモノクロ写真にスミ箔で書名と著者名を刻印します。
2014年11月上旬発売予定:森山大道『ニュー新宿』_a0018105_12483685.jpg

以下は中身のサンプルです。随時、新しいサンプルは公開していく予定です。
2014年11月上旬発売予定:森山大道『ニュー新宿』_a0018105_12455947.jpg

2014年11月上旬発売予定:森山大道『ニュー新宿』_a0018105_12491520.jpg

2014年11月上旬発売予定:森山大道『ニュー新宿』_a0018105_12493462.jpg


# by urag | 2014-10-14 12:49 | 近刊情報 | Comments(0)
2014年 10月 12日

小林康夫×大澤真幸『「知の技法」入門』河出書房新社、ほか

小林康夫×大澤真幸『「知の技法」入門』河出書房新社、ほか_a0018105_23381074.jpg

「知の技法」入門
小林康夫+大澤真幸著
河出書房新社 2014年10月 本体1,500円 46判並製232頁 ISBN978-4-309-24677-2

帯文より:ベストセラー『知の技法』から20年――東大新入生必読のまったく新しい基礎教養。東大教授と知の巨人が読書術と思考術を徹底伝授。

目次:
I――入門篇
 第1章 「人文書」入門――タイタニック号の乗員のためのブック・ガイド
 第2章 「読書の技法」入門――速読、精読、ノート法
II――理論篇
 第3章 誰にもわかる「実存主義・構造主義・ポスト構造主義」――二〇世紀の思考の大きな流れを知る
 第4章 自然科学と人文科学のインターフェイス――意識と物質のミッシングリンクを考える
III――「知の技法」とは何か?

★まもなく発売。版元サイトの公式情報では10月15日発売です。90年代半ばにベストセラーになった東大発「知の~」シリーズ三部作(「技法」94年、「論理」95年、「倫理」96年)からはや20年、編者を務められた小林さんが、近作『思考術』が話題を呼んだ大澤さんとともに、こんにちあらためて必要な教養について縦横に対談されたのが本書です。ざっくばらんな対談なので読みやすいですし、ハウツー本にありがちな薄っぺらさもありません。人文学を学ぶこと、知を身につけることの根本的な意義がその都度確認されつつ、概論として知っておきたい現代思想の基礎が言及されています。東大新入生必読、と帯に謳われていますが、全国書店の人文書担当(特に哲学思想)の皆さんにも広くお薦めします。54~56頁には、「タイタニック号の乗員が世界の「外」を思考するために読むべき人文書案内」というブックリストが添えられており、実際にすでにブックフェアを展開されている書店さんもあるようです。ちなみにシリーズ本家の東京大学出版会では98年に『新・知の技法』が編まれ、さらには今夏、『人文知』という新しい教養シリーズが刊行され、全3巻が今月完結します。

★また、現在発売中の「文藝」2014年冬号では「特別企画」として、斎藤環×斎藤美奈子×成田龍一の三氏による鼎談「[短期集中連載]1980年代再考 第一回:ニューアカ・オタク・ヤンキー」が掲載されています。三氏にとってのそれぞれのニューアカ像があって興味深いです。この対談もいずれ書籍化されるのでしょうか。


全体史の誕生――若き日の日記と書簡
ジュール・ミシュレ著 大野一道編訳
藤原書店 2014年9月 本体3,000円 四六変上製320頁 ISBN978-4-89434-987-2

帯文より:「すべての学問は一つである」。ミシュレは、いかにしてミシュレとなりえたか? アナール歴史学の父、ミシュレは、古典と友情の海から誕生した。万巻の書を読み精神の礎を築き、親友と真情を語り合い人間の核心を見つめたミシュレの青春時代の日記や書簡から、その稀有な精神の源に迫る。

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。1825年の「学問の統一性についてのスピーチ」に始まり、少年時代の回想や、20代~30代前半の青年時代の日記、そして親友ポワンソとの往復書簡が収められています。凡例によれば、本書はミシュレのEcrits de Jeunesse(Gallimard, 1959)を参考に編集したものとのことです。訳者による序文には「ミシュレの若き日々の、日常を記録し、歴史化の出発点となっただろう学びの後を証言する」と本書を位置づけておられます。1818年から1829年の読書日記にはミシュレが読んだ本の書名が列記されており、その読書量に圧倒されます。猛烈な読書家だったことが窺われます。

★藤原書店さんではまもなく、ジュール・ミシュレ『学生よ――1848年革命前夜の講義録〈新版〉』(大野一道訳、藤原書店、2014年10月、ISBN978-4-89434-992-6)も刊行されます。本書は95年に刊行された同書に訳者による新しい序文を添えた新装版です。パリの1968年「5月革命」のバイブルになったというミシュレの講義録は今なお熱い波動を放っています。彼は革命を論じ、世界が一つになるべきことを強く訴えます。聴講生は時に拍手喝采をもってそれに答えます。原書は、L'Etudiant(Seuil, 1970)です。同原書にはガエタン・ピコンによるミシュレ論が添えられていますので、興味のある方は原書にあたってみてください。


フランクフルト学派と反ユダヤ主義
古松丈周著
ナカニシヤ出版 2014年10月 本体3,500円 4-6判上製228頁 ISBN978-4-7795-0887-5

帯文より:フランクフルト社会研究所のメンバーたちは、時代を席巻していく反ユダヤ主義と国民社会主義をどのように捉え、それに対抗しようとしたのか。ホルクハイマー、アドルノを中心に、『啓蒙の弁証法』へと結実する「反ユダヤ主義研究プロジェクト」の全貌を明らかにする。

★まもなく発売。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。同書は同名の博士論文(2009年、関西大学)がもとになっているとのこと。著者の古松丈周(こまつ・たけのり)さんは1971年生まれで、ご専門は社会思想史。現在、旭川大学経済学部准教授でいらっしゃいます。反ユダヤ主義は世界のあちこちで今なお生き延びていますが、ホルクハイマーは反ユダヤ主義を次のような類型に細かく分けて注意を喚起しています(72頁)。「生まれながら」の反ユダヤ主義者、宗教的-哲学的反ユダヤ主義者、粗野なセクト的ユダヤ主義者、敗北した競争相手、上品な反ユダヤ主義者、「傭兵」の反ユダヤ主義者、「ユダヤ人迫害者」、ファシズム的-政治的反ユダヤ主義者、ユダヤ人愛好者。これらを混同すると誤解が生じる、とホルクハイマーは警告しました。「ユダヤ人憎悪は〔・・・〕決して克服されたことはなく、今にも燃え上がる可能性を秘めている」(66-67頁)と彼は書きます。1941年の話です。『啓蒙の弁証法』(岩波文庫)には病的憎悪への鋭い分析があり、アドルノの『権威主義的パーソナリティ』(青木書店)は真のリベラルがどういうものかを教えています。本書はホルクハイマーとアドルノを再読解するための道しるべとなってくれるものです。



背骨のフルート
マヤコフスキー著 小笠原豊樹訳 高橋睦郎序文
土曜社 2014年10月 本体952円 ペーパーバック判(172×112mm)並製64頁 ISBN978-4-907511-03-6

版元紹介文より:よろしい! ぼくは出て行く!《声の力で世界を完膚なきまでに破壊して、ぼくは進む、美男子で二十二歳》と言い放ったその年に詩人は奇妙な夫妻と知る。のちに秘密警察 OGPU の工作員として働くことになるオシップとリーリャのブリーク夫妻である。詩人と妻の関係を知りながら、あろうことか、夫オシップは詩人の作品を一行50カペイカで買いとり、『ズボンをはいた雲』『背骨のフルート』を出版する。『フルート』初版600部が世に出たのは16年2月。来る5月に詩人は《ロシア式ルーレット》を実行し、さいわい、弾丸は不発に終る……。

★発売済。小笠原豊樹さんによる新訳の『ズボンをはいた雲』『悲劇ヴラジーミル・マヤコフスキー』に続く「マヤコフスキー叢書」第3弾です。これまでの2篇とは異なる印象があります。生きるか死ぬかの恋心を謳った捨て身のラヴソング。彼ほどのプライドの高いイケメン(表紙の写真は上段右端が彼)でも恋する相手を思うとこんな風に頼りなくなるのか、と却って好感度が上がります。「こころを盗んだ女よ、そのこころをすべて失い、たわごとでぼくの魂をさいなんだ女よ、ぼくの贈物を受けてくれ、いとしい女よ、たぶんぼくはもう何一つ考えつくまい」(42-43)頁。「高くよじのぼり、疲れて、裸で待つ月」(31頁)であるぼくが吹く「自分の背骨のフルート」(18頁)の響きの切なさが男心にも沁みます。

★「マヤコフスキー叢書」第4弾『戦争と世界』は、2014年11月上旬発売予定。町田康さんが序文を寄稿されるそうです。さらに第5弾『ミステリヤ・ブッフ』は12月刊とのこと。これまでに大杉栄、マヤコフスキーと読者に古典を再発見させてくれ続けている土曜社さんですが、今後はベンジャミン・フランクリンを読書界に再導入してくださるようで、楽しみです。


◎平凡社さんの新刊より
狂講 深井志道軒――トトントン、とんだ江戸の講釈師』斎田作楽著、平凡社、2014年10月、本体2,800円、4-6判上製324頁、ISBN978-4-582-65409-7
貧困の哲学 上』ピエール=ジョゼフ・プルードン著、斉藤悦則訳、平凡社ライブラリー、2014年10月、B6変判並製568頁、ISBN978-4-582-76820-6

★『狂講 深井志道軒』は発売済。帯文に曰く「鬼才平賀源内が師と仰いだ稀代の講釈師がいた! 軍談のあいまに繰り広げられる過激な統制批判とエロ談義で、一世を風靡。その絶妙な話芸と虚実なかばする伝説的な生涯を解明する」。著者の斎田作楽(さいた・さくら)さんは1941年生まれ。「太平書屋」という出版社の創業者でもあり、2006年には『志道軒全書』を刊行されています。斎田さんは志道軒について虚実を峻別したいわば痩せ細った実像ではなく「彼を生んだ時代、彼を愛で楽しんだ人たち、そして彼を記録し追跡した多彩な人たちを、一旦まるごと受け入れ」(8頁)て吟味整理していく手法を採っています。「歌舞伎役者二世市川団十郎(海老象)と天下の人気を二分した」(同頁)という志道軒への愛情に溢れた一冊です。

★『貧困の哲学』上巻は発売済。下巻は11月刊行予定。まさかまさか、の本邦初訳です。マルクスによる本書への論難の書『哲学の貧困』は幾度も訳されているというのに、またその論難がいささか意地悪にすぎるものだと知られているにもかかわらず、当の批判対象が訳されずに今まで来たというのはある意味滑稽なほどです。「経済社会において矛盾(アンチノミー)が系列的に連鎖していく様相を緻密に解き明かし、独占でも共有でもない新たな可能性として交換の法則と相互性の理論を提唱する」(カヴァー紹介文より)という本書の原題は『経済の矛盾の大系あるいは哲学の貧困』(1846年)で、上巻にはプロローグから第八章までが収録されています。斉藤さんによる訳文はこなれていて読みやすく、プルードンの本作の約170年ぶりの復活を見事に飾っています。本書を高額で持ち運びにくい単行本ではなくライブラリー・オリジナルで刊行した平凡社さんの判断も素晴らしいです。そもそも文庫本サイズでプルードンの著作が入手可能なのはこれまで平凡社ライブラリーの『プルードン・セレクション』(河野健二編訳、2009年;親本は『世界の思想家(13)プルードン』平凡社、1977年)だけでした。このセレクションにも『貧困の哲学』からの断片が翻訳されていますが、全編を通しで読めるのは今回が初めてということになりそうです。


◎水声社さんの新刊より

『物語における時間と話法の比較詩学――日本語と中国語からのナラトロジー』橋本陽介著、水声社、2014年9月、本体7,000円、A5判上製520頁、ISBN978-4-8010-0057-5
『まなざしに触れる』高野隆大+新城郁夫著、水声社、2014年9月、本体3,000円、A5判上製152頁、ISBN978-4-8010-0047-6
『夢かもしれない娯楽の技術』ボリス・ヴィアン著、原野葉子訳、水声社、2014年9月、本体2,800円、46判上製264頁、ISBN978-4-8010-0058-2
『経験と出来事――メルロ=ポンティとドゥルーズにおける身体の哲学』小林徹著、水声社、本体6,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-8010-0069-8
『美術、市場、地域通貨をめぐって〔第二版(新装版)〕』白川昌生著、水声社、2014年10月、本体2,800円、46判上製264頁、ISBN978-4-8010-0070-4

★『物語における時間と話法の比較詩学』は発売済。「叢書 記号学的実践」の第29弾です。2013年度に慶應義塾大学に提出された博士論文に訂正を加えたものとのことです。同叢書ではこれまでジュネットの訳書を始め、日本の若手研究者の力作もいくつか刊行しています。例えば『《力》の思想家ソシュール』が刊行された1986年当時、著者の立川健二さんは28歳でした。橋本さんは1982年生まれなので数え年で32歳。充分に若いだけでなく、デビュー作『7カ国語をモノにした人の勉強法』(祥伝社新書、2013年)で知られている通り、マルチリンガルな才能をお持ちです。『物語における時間と話法の比較詩学』はカヴァー裏紹介文によると「これまでの物語論の議論を振り返り、「比較詩学」の立場から追究可能な問題について整理し、「時間」や「語る声と視点」などの問題を詳細に考察」したもの。今後ますますご活躍されるのではないかと想像しています。

★『まなざしに触れる』は発売済。鷹野さんによるモノクロ写真と新城さんによる作品論を交差させた非常に魅惑的な一冊です。写真家の作品群とそれへの丁寧な批評がここまで幸福に絡み合った例というのは現代ではまれではないかと感じます。「私たちは、写真に触れて写真に触れられ、これを眼で愛撫しこれに愛撫され、指で、唇で、舌で、影をなぞり、ときに身体に刻印しそこに移されたものたちと生きた(生きられなかった)時間を守る。感光体としての私たちの身体は、そこに写されたものたちの影を遺してこれを留め、閉じられることのない喪失を生きることができる。この可能性のなかでこそ、私たちの身体は、自分自身を含めた幾多の存在の生の痕跡あるいは遺影が重なり触れ合う場となる」(23頁)。鷹野さんの作品群は「毎日写真」というシリーズから選び出されたもの。男たちの肉体が無防備にさらけ出されています。「一つの身体のなかを、別の身体たちが生きる。みずからから抜け出た影が、誰とも知れぬ誰かの身体に影を落とし、その誰かは、私の影を、あなたの影を、自ら知ることなく自分の影に重ねて共なる時を共に生きる。この共なる時間が、街角を、部屋を、身体を横切っていく瞬間を、鷹野は写真に刻印する」(98頁)。

★『夢かもしれない娯楽の技術』は発売済。著者が新聞や雑誌に実名もしくは筆名で寄稿したエッセイ20篇を「くらす」「でかける」「まなぶ」の3部構成で収録したオリジナル版で、訳者解説によれば「単行本でいうと、コラム集『ベル・エポック』の収録作品が中心になっている」とのことです。書名はその『ベル・エポック』所収の1篇から採られています。帯文に「ささやかな日々の暮らしを贅沢に過ごすためのアイディアが満載」とあるのですが、一方で「ユーモア全開、人生を愉しむための(非)実用的エッセイ集」とも書いてあります。この(非)がミソです。仕事に追われ続けるだけのささくれだった毎日に一方的にカラ元気を注入してくれるようなカンフル剤ではありません。仕事も勉強もだんだんすべてが馬鹿馬鹿しくなってきた割には休日に外に出てリフレッシュする気力も湧かない午後、ちらりとひもといてみるとヴィアンの見事に無責任な(けれどもなかなか風刺の効いた)脱線ぶりに思わず乾いた笑いが鼻腔から漏れてしまう、そんな(素敵な)、肩の力が良い意味で抜けている本です。

★『経験と出来事』は発売済。パリ第一大学へ2012年に提出された博士論文の翻訳改訂版とのことです。指導教官はルノー・バルバラスさん。口頭試問の審査員は、バルバラスさんのほか、ピエール・モンテベロ、エティエンヌ・バンブネ、ダヴィド・ラプージャドの各氏だったとのことです。参考文献には國分功一郎(1974-)さんや千葉雅也(1978-)さんなど若手研究者の文献も挙がっており、小林さんご自身も1975年生まれで、新世代の息吹を感じます。帯文にある次の文章が本書の実践的核を端的に言い当てているようです。「「経験」に根差したメルロ=ポンティの「内部の思考」と、絶えず「出来事」へ滑り込んでいくドゥルーズの「外部の思考」を往還しながら、現代における〈身体〉の在り処を指し示す」。レーモン・リュイエル(1902-1987)やジルベール・シモンドン(1924-1989)といった哲学者、さらには作家のアンリ・ミショー(1899-1984)をも経由しつつ探究は進みます。肉と襞、奥深さと平面、いくつものキーワードが見事に縫合されつつほどかれていきます。その手さばきは次回作でのステップやジャンプを期待させるものではないかと思われます。

★『美術、市場、地域通貨をめぐって』は発売済。2001年に刊行された同名書籍の第二版(新装版)です。初版本のISBNは9784891764531です。本体価格は据え置き。内容は初版本と変わりないようです。帯文の背にある「展覧会は政治である」との言葉が印象的です。「美術館そのものがすでにして公的な情報と価値の「交換」の場であり、「市場」以外の何ものでもないことが理解されなければならないのだ。そこで売るか否かは重要ではなく、そこに参加すること自体が、「作家」という価値物として市場に参加することになるのだ。「労働」が商品であるように、「作家」という社会的認知を得た存在自体が価値を持った商品である」(71頁)。本書の巻頭には夏目漱石のこんな言葉がエピグラフとして引かれています。「直接世間を相手にする芸術家に至っては、もしその述作なり制作なりがどこか社会の一部に反響を起して、その反響が物質的報酬となって現われて来ない以上は、餓死するより外は仕方がない」。この一節を含む漱石の講演「道楽と職業」は青空文庫で読めます。

★水声社さんでは『小島信夫批評集成』全8巻に続いて、今月から『小島信夫短篇集成』全8巻の配本開始が書籍への投げ込みチラシで予告されています。初回配本は2冊刊行で、以後毎月1冊発売で来春には完結予定だそうです。詳しくは水声社さん(電話03-3818-6040)へお問い合わせください。

# by urag | 2014-10-12 23:40 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2014年 10月 10日

注目新刊:ビュール『革命の芸術家』こぶし書房、ほか

注目新刊:ビュール『革命の芸術家』こぶし書房、ほか_a0018105_14235364.jpg

◆ニコラス・ロイルさん(著書:『デリダと文学』)
◆中井亜佐子さん(共訳:ロイル『デリダと文学』)
◆吉田裕さん(共訳:ロイル『デリダと文学』)
「図書新聞」2014年10月11日付第3178号に、弊社6月刊『デリダと文学』の書評「「デリダと文学」の出会いを描出――日本語によるオリジナル論集」が掲載されました。評者は守中高明さんです。「著者はこの時代における「デリダと文学」の出会いをその可能性の中心において描き出すことに成功している」と評していただき、さらに厳しい評価も頂戴しましたが、詳しくは紙面をご覧ください。

『デリダと文学』の訳者のお二人は先月刊行されたC・L・R・ジェームズについての伝記の訳書『革命の芸術家』を手掛けられています。また、吉田さんは7月に花伝社さんからチョムスキーのインタヴュー集『複雑化する世界、単純化する欲望――核戦争と破滅に向かう環境世界』を上梓されており、活発なご活躍に目を瞠るばかりです。『革命の芸術家』の訳者あとがきでは、弊社より来春刊行予定の近刊書、C・L・R・ジェームズ『境界を超えて』をご紹介いただきました。

革命の芸術家――C・L・R・ジェームズの肖像
ポール・ビュール著 中井亜佐子+星野真志+吉田裕訳
こぶし書房 2014年9月 本体4,000円 4-6判上製396頁 ISBN978-4-87559-293-8

帯文より:サイードが高く評価した稀有な黒人革命家。クリケットを愛し、労働者階級と植民地の解放をめざして戦争と革命の世紀を疾駆した、思想家の生涯!


◆中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
先日も少し言及しましたが、『資本論』第一巻に続く中山元さんによるマルクスの新訳第二弾『ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説』が刊行されました。表題二篇の論考の翻訳に加え、その二篇の合計よりも長い訳者解説が付されている力作です。岩波文庫版の既訳書『ユダヤ人問題によせて ヘーゲル法哲学批判序説』(城塚登訳、1974年)と比べても厚さは一目瞭然ですし、値段も倍以上です。しかし人文系の文庫本の訳者解説で300頁強というここまで長篇のものはめったにありません。分冊するのではなく1冊にまとめた光文社さんの気合いが伝わってきます。

ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説
マルクス著 中山元訳
光文社古典新訳文庫 2014年9月 本体1,400円 562頁 ISBN978-4-334-75298-9

帯文より:新訳+充実の解説。青年マルクスの思想的跳躍の核心!
帯文(裏)より:「急進的な民主主義者」から「プロレタリアートによる革命を目指す共産主義者」へ。宗教批判からヘーゲルの法哲学批判へと向かい、真の人間解放を考え抜いた青年マルクス。その思想的跳躍の核心を充実の解説とともに読み解く。従来の枠を超えた画期的な「マルクス読解本」の誕生。
カヴァー裏紹介文より:青年マルクスは、宗教批判から現実の政治変革としてヘーゲルの法哲学批判へと向かい、そしてユダヤ人問題、すなわち「貨幣」に支配される社会を変革することなしに、真の人間解放はあり得ないと喝破する。独創性あふれる「初期マルクス」の最重要論文集に、詳細かつ丁寧な解説を付す。

中山さんは『資本論』第1巻の翻訳を全4分冊で日経クラシックスより上梓されましたが、周知の通りマルクスなかんずく『資本論』はここしばらく再読解再評価の機運がますます高まっており、今春にはミヒャエル・ハインリッヒ『『資本論』の新しい読み方――21世紀のマルクス入門』(明石英人+佐々木隆治+斎藤幸平+隅田聡一郎訳、堀之内出版、2014年4月)のような話題書も刊行されています。堀之内出版さんと言えば、来年1月に新しい思想誌『ニュクス』を創刊されることでもさいきん注目されていますね。『ニュクス』創刊号(2015年1月発行予定、本体1,800円、A5判並製256頁予定)は第一特集が「〈エコノミー〉概念の思想史 アリストテレスからピケティへ」、第二特集が「現代ラカン派の理論展開」だそうで、弊社関連の著者も寄稿されるそうなので、刊行され次第拙ブログでもご紹介するつもりです。


◆川田喜久治さん(写真集:『地図』)
港区のフォト・ギャラリー・インターナショナルの今月の展示会で川田さんの作品が展開されています。また、アキオ・ナガサワ・ギャラリー&パブリッシングでは今月、写真集『地図』の完全復刻版限定600部を発売されます。高額本ですが、Paypalでも支払えるので分割払いが可能ではないかと思います。美術出版社の元版は古書価でたいてい数十万円しますから、今回の復刻版には国内外から注文が殺到するかもしれません。弊社がかつて海外用に用意した版もあっという間に品切になったのを思い出します。

P.G.I. October Show 2014

会期:2014年10月6日(月)~11月4日(火)
場所:フォト・ギャラリー・インターナショナル(東京都港区芝浦4-12-32)
内容:現代において写真の有り様は多岐にわたり、写真家は様々なアプローチで作品を制作しています。その中で「形」は、時代や表現の変化の中にあっても変わらず、コンセプトやテーマを為す要素のひとつとしてあり続けています。コンポジションをテーマにした写真はもちろん、スナップにおいても、都市と人の関係を描いたり、瞬間の緊張感を表すのに線と形は重要な役割を果たしています。今回の展示では、川田喜久治のスナップや、石元泰博の桂離宮、アーロン・シスキンの名作「Pleasures and Terrors of Levitation」など、「形」をキーワードに、展覧会を開催いたします。是非ご高覧ください。


地図(復刻版)【限定600部、サイン&ナンバー入】
川田喜久治写真
AkioNagasawaPublishing 2014年10月 本体50,000円 特製タトウ入150×225mm190P

内容:収録作品95点/大江健三郎「MAP」/川田喜久治「1965年版写真集「地図」再復刻について」。1965年に刊行、今では観ることすら叶わない伝説の写真集「地図」。原爆ドームの壁や天井を埋め尽くす「しみ」を執拗に追いながら、若い攻隊員の肖像や手紙、廃虚と化した要塞等を通じて戦火の記憶を炙り出している。また、戦後の復興を暗示する町工場の鉄くず、占領軍が持ち込んだラッキーストライクの箱、捨てられたコカ・コーラの瓶など、戦後日本の変貌もとらえている。全頁観音開きという杉浦康平による特異なブックデザインも再現、日本の写真集の中で最も実験的な写真集との呼び声高い『地図』待望の完全復刻です。

作者コメント:「「地図」の初版は1965年に刊行された。2005年に一度、今回、2014年版が復刻として二度目になる。当然ながら、おもむきも少しずつ変わる。一度目の復刻は、すくなからず「新版」への意志をもったものだった。半世紀を経て、今回は初版とほぼ同じものに固執した。複製印刷技術の高度なデジタル化のなかで、失われたグラビア版式のトーンに近づけるのは難しい。トーンとは、写真ではメチェから内容を暗示するシグナルであるから、印刷のなかでも微細に追いかけなければゴールは無い。そして、ここにシャム双生児のように「地図」は結合された。さきの時代の象徴的で、最後のものたちが、蘇生しながら、未来へむかうオブジェとなった。遠い場所の記憶ほど、鮮鋭さとコントラストのなかでモノクロームの内容は確かに動いている」(川田喜久治)。

※10月の3大ご予約特典――期間限定特別価格45,000円(税抜)、以降は通常価格50,000円(税抜)とさせていただきます。1965年オリジナル版(美術出版社刊)販売時の予約受付用内容見本の復刻版をお付けいたします。送料無料お品物は「レターパック+」でのお届けとなります。お届け日時のご指定は頂けませんので、予めご了承ください。なお、お品物は10月中旬より順次発送させて頂きます。上記3大特典は「10月31日迄」にご精算頂いた方を対象とさせていただきます。

※ご注文・お問合せはinfo@akionagasawa.comで承っております。お名前/ご住所/お電話番号/ご注文タイトル/冊数/希望お支払方法(銀行振込/Paypal) 以上をご明記の上、上記メールアドレスまでお願いいたします。追って詳細をご連絡させていただきます。

【ご注意ください!復刻版『地図』はAkioNagasawaPublishingさんの出版物であり、月曜社が扱う商品ではありません】


◆間章さん(著書:『間章著作集』全三巻)
◆須川善行(編書:『間章著作集』全三巻)
『間章著作集』全三巻の完結記念として、以下のトークイベントが行われます。

◎椹木野衣×須川善行 「非時[ときじく]と廃墟そして 間章[あいだあきら]

時間:2014年11月8日(土)15:00~17:00 (14:30開場)
場所:本屋B&B(世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F)
料金:1500円+1ドリンクオーダー

内容:きらめく知性と文体でフリージャズやパンクを論じ、1970年代を駆け抜けた音楽批評家、間章。絶版状態が続いていた著作群に膨大な未発表原稿を加えて再編集した「間章著作集」全3巻(月曜社)も、『時代の未明から来たるべきものへ』に始まり、『さらに冬へ旅立つために』刊行をもって完結を迎えました。音楽批評という枠を越えた間章のテクストは、今読み返したときに私たちにどんな問いを投げかけてくれるのでしょうか。70~80年代の音楽文化からのインパクトを隠さない美術批評家、椹木野衣と、「間章著作集」の担当編集者、須川善行が、音楽批評の美学を振り返りながら、「来たるべき」間章について語ります。


◆清水知子さん(著書:『文化と暴力』、共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
田中功起さんの近著『必然的にばらばらなものが生まれてくる』(武蔵野美術大学出版局、2014年9月)の刊行を記念したトークセッションに出演されます。

『必然的にばらばらなものが生まれてくる』刊行記念トークセッション:田中功起×清水知子

日時:2014年11月25日(火)19:30~
場所:ジュンク堂書店池袋本店4F カフェ
定員:40名
料金:1000 円(1ドリンク付)
予約:1階案内カウンターにて受付、電話予約も承りますTEL.03-5956-6111

内容:第55回ヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)日本館代表アーティストとして特別表彰を受賞した田中功起さんと、清水知子さんによるトークセッションです。はじまりは、「清水知子さんと、アートの公共性/社会の中でのアートというテーマで話したい」という田中さんのひとことでした。清水さんはスラヴォイ・ジジェクやアントニオ・ネグリなどの文化理論や、英国現代文化、アニメーション等の現代文化比較研究を専門とし、『文化と暴力――揺曳するユニオンジャック』(月曜社)を昨年上梓されました。〈サッチャー政権以後の「社会のない社会」と呼ばれた時代を、人びとはどのように生き、そこから何を生み出したのか〉。これは『文化と暴力――揺曳するユニオンジャック』の帯文です。田中さんは、根源的な制度への疑いは一貫し、その一貫性を保とうとすれば必然的にばらばらなものが生まれてくる(本書259頁)と言います。田中さんと清水さんのトークセッションは、平熱で沸騰するような刺激的な時間となるでしょう。

# by urag | 2014-10-10 14:27 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)