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2024年 06月 23日

注目新刊:福尾匠『非美学』河出書房新社、ほか

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★まずはまもなく発売となる新刊2点について。

非美学――ジル・ドゥルーズの言葉と物』福尾匠(著)、河出書房新社、2024年6月、本体2,700円、46判並製466頁、ISBN978-4-309-23157-0
K-PUNK 自分の武器を選べ──音楽・政治』マーク・フィッシャー(著)、坂本麻里子+髙橋勇人+五井健太郎(訳)、ele-king books:Pヴァイン、2024年6月、本体3,300円、四六判並製648頁、ISBN978-4-910511-70-2

★『非美学』はまもなく発売。『眼がスクリーンになるとき――ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』』(フィルムアート社、2018年7月)に続く、福尾匠(ふくお・たくみ, 1992-)さんによる2冊目の単独著です。デビュー作は書き下ろしでしたが、今作は博士論文「ドゥルーズの非美学――哲学と実践」を3年かけて全面的に改稿したもの。博士論文は横浜国立大学に2021年3月に提出されたもので、主査が平倉圭さん、副査が小泉義之さん、江川隆男さん、千葉雅也さん、榑沼範久さん、彦江智弘さんでした。単行本化にあたり、千葉雅也さんは推薦文を寄せておられます。「何もかもをクリエイティブだと言って微笑むようなこの時代に、創造性とは何かをゼロから問い直す」と。

★福尾さんは巻頭の序論でこう書いておられます。「哲学の変化と哲学にとっての他者、つまり〈哲学の実践的な規定〉と〈他の実践の哲学的な規定〉こそが同時につかまえられなければならない。本書がドゥルーズから取り出すことを目指すのはこの両立だ。自律的であるということを閉鎖的であるということにせず、他者に開かれているということを包摂の方便にしないということを、この両立は意味するだろう」(序論、14頁)。「本書はドゥルーズの哲学を、その実践性、そして芸術との関係というふたつの観点から研究する。このふたつがそれぞれ〈哲学の実践的な規定〉と〈他の実践の哲学的な規定〉に対応する。両者の相互前提的な関係がどのように構築されるのか明らかにすることが全体の目的だ」(同、16頁)。

★この序論では本書に先行する「論脈」として、東浩紀『存在論的、郵便的――ジャック・デリダについて』(新潮社、1998年)、平倉圭『ゴダール的方法』(インスクリプト、2010年)、千葉雅也『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社、2013年;河出文庫、2017年)の3冊を挙げ、これらが「ある共通のテーマをもっているように思われる」と指摘しています。「〈他者のポジティビティ〉と〈実践における有限性のポジティビティ〉をカップリングさせるというテーマだ。東の「誤配」、平倉の「失認的非理論」、そして千葉の「非意味的切断」」(同、26頁)。「誤配、失認的非理論、非意味的切断が深く実践へと方向づけられているように、非美学はドゥルーズの実践をテストする観点であると同時に〔…〕それを哲学的実践の条件を構成する概念として定立することだ。その実践が芸術という他者との関係におけるものである以上、非美学は批評の条件についての哲学的思考である」(同、42頁)。

★なお、版元さんのプレスリリース「【2024年、最重要<人文書>】注目の哲学者・批評家、福尾匠による新刊『非美学』が6月24日ついに発売!」によれば、今後の刊行予定として、8月にデビュー作『眼がスクリーンになるとき』が河出文庫で再刊されるとのことです。黒嵜想、山本浩貴(いぬのせなか座)の両氏と著者による鼎談を追加収録。そして、11月には「著者のデビュー以来の批評=エッセイを一挙収録」し、著者の「批評=エッセイの実践がひとつの哲学に結実する軌跡が刻まれている」と謳う単行本『ひとごと――クリティカル・エッセイズ(仮題)』が発売予定と公表されています。

★『自分の武器を選べ』は、『夢想のメソッド』(ele-king books:Pヴァイン、2023年9月)に続く、英国の批評家マーク・フィッシャー(Mark Fisher, 1968-2017)のブログ「k-punk」からまとめられたフィッシャー評論選集『K-PUNK』の第2弾。帯文に曰く「21世紀初頭において、もっとも影響力のある、労働者階級出身の批評家によるエッセイ/論考集の「音楽・政治」編。資本主義の向こう側に突き抜けるための思考の記録」と。凡例によれば「本書はMark Fisher, k-punk: The Collected and Unpublished Writings of Mark Fisher (2004-2016), Repeater Books, 2018のうち、第三部および第四部を訳出し、日本語版編者序文を付したものである」とのこと。同原書第一部と第二部は既刊『夢想のメソッド』に収録。原書第五部以降は「別巻にて続刊」と特記されています。なお既刊前作は「本・映画・ドラマ」編。別巻というのは本巻別巻の区別のことではなく、下記引用にある通り、三巻目の意味かと思われます。

★「日本版『k-punk』の三巻目には、階級(貧困)問題には目もくれず、環境とアイデンティティばかりに奔走する「高級化し、道徳化する左翼」を批判した、彼のもっとも有名な(そして大いに反論を読んだ悪名高き)エッセイ「ヴァンパイア城からの脱出」があり、晩年のフィッシャーが60年代のカウンター・カルチャーにおける失われた可能性を再評価し、その更新を試みる「アシッド・コミュニズム」(彼が自死する前に取り組んでいた、『資本主義リアリズム』の続編となるはずだった『アシッド・コミュニズム』の序文)が収録される」(日本語版編者序文、14頁)。版元さんのプレスリリースによれば「今秋には第三分冊「インタヴュー/アシッド・コミュニズム編」も刊行を予定」とのことです。

★言うまでもありませんが、『成功の掟』(日本能率協会マネジメントセンター、新装版2005年)などの自己啓発書の著者で知られるマーク・フィッシャー (Marc Fisher, 1953-; 本名Marc-André Poissant)はカナダの作家で、上記の英国の批評家マーク・フィッシャー (Mark Fisher, 1968-2017)とは別人です。

★続いて注目単行本既刊新刊を列記します。

新言語学試論』ルイ・イェルムスレウ(著)、平田公威(訳)、記号学的実践叢書:水声社、2024年5月、本体4,500円、A5判上製262頁、ISBN978-4-8010-0695-9
死後の世界――30年間事務所に出た幽霊が教えてくれた』横澤丈二(著)、KADOKAWA、2024年6月、本体1,400円、四六判並製176頁、ISBN978-4-04-606752-4

★『新言語学試論』は、デンマークの言語学者ルイ・イェルムスレウ(Louis Hjelmslev, 1899-1965)の死後出版『Nouveaux essais』(recueillis et présentés par François Rastier, Presses universitaires de France, 1985)の全訳。復刊を除くと約40年ぶりのイェルムスレウの訳書刊行です。カバー表4紹介文に曰く「《言語素論》(glossématique)のエッセンスを柔らかい語り口で提示する「言語理論についての講話」、強靭な抽象的思考の結晶である「言語理論のレジュメ」をはじめとする、構造言語学の極北へと誘う最重要論考を収録」と。大谷大学文学部哲学科助教で『ドゥルーズ=ガタリと私たち――言語表現と生成変化の哲学』(水声社、2023年11月)の著者である平田公威(ひらた・きみたけ, 1990-)さんによる「訳者あとがき」の説明を拝借すると、本書は未訳の2冊、1959/1971年の『言語学試論(Essais linguistiques)』と、1973年の『言語学試論Ⅱ(Essais linguistiques II)』に続く論文集です。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★編者のフランソワ・ラスティエはこう書いています。「奇妙に思えることだが、イェルムスレウには追従する者があまりいなかった。そのため、かれの教育によって今日よく知られる言語学者が育成されたにもかかわらず、厳密な意味での弟子は数えるほどしかいない。イェルムスレウの影響は、別のところではたらいていたのである。それというのも、かれの言語理論である言語素論〔glossématique〕は、言語学を超える射程をもち、一般記号論の基礎づけに寄与しうるものだからであり、さらに言えば、その認識論的な革新性は社会科学全体の興味を引くものだからである」(序文、12頁)。「イェルムスレウは、言語学の全分野を共通の基礎によって統一するだけの強力な理論を作り出し、さらに後年には、一般記号論を創設するに足る理論を作り出しているが、つまるところ、そうすることで、比較と歴史の言語学が一世紀以上前から推し進めてきた研究を深めようとしているのである」(同、14~15頁)。

★最後にイェルムスレウの既訳書を掲出しておきます。ほとんどが新本では入手不可能になっているのはもったいないことです。

1958年『一般文法の原理』小林英夫訳、三省堂、再版1974年
1959年『言語理論序説』林栄一訳述、研究社出版、復刻1998年(ゆまに書房)
1968年『言語学入門』下宮忠雄・家村睦夫訳、紀伊國屋書店
1985年『言語理論の確立をめぐって』竹内孝次訳、岩波書店
2024年『新言語学試論』平田公威訳、水声社

★『一般文法の原理』は『Principes de grammaire générale』(1929年)の訳書。『言語理論序説』は『Omkring sprogteoriens grundlæggelse』(1943年)の、フランシス・J・ウィットフィールドによる英訳書『Prolegomena to a Theory of Language』(1953年)からの重訳。巻頭の「訳述者の言葉」によれば本書は「訳述解説を試みたもの」で「原著と英訳とは若干相違している箇所があるが、これは原著者と英訳者との協議によったもので、むしろ英訳の方が改訂版といった恰好になっている」(iii頁)。1943年のデンマーク語原典からの翻訳が『言語理論の確立をめぐって』です。『言語学入門』は1963年の『Sproget. En introduktion』の訳書。紀伊國屋書店出版部によると、初刷1968年、2刷1969年、3刷1972年、4刷1981年とのことで、途中改訂はなし、以後復刊はされていないとのことです。岩波書店と紀伊國屋書店は毎年「書物復権」に参加していますから、ぜひとも来年あたり復刊書目に入れて下されば、若い読者にも届くようになるのではないでしょうか。

★『死後の世界』は、芸能事務所ヨコザワ・プロダクション代表取締役の横澤丈二(よこざわ・じょうじ, 1964-)さんの『日本一の幽霊物件――三茶のポルターガイスト』(幻冬舎文庫、2023年3月、一部抜粋はこちら)に続く2冊目の書き下ろし。前作では映画『三茶のポルターガイスト』(後藤剛監督、2022年製作、2023年3月公開、エクストリーム配給、82分)の公開に合わせて発売されましたが、今回の第2作も新作映画『新・三茶のポルターガイスト』(豊島圭介監督、2024年製作、2024年6月公開、エクスリーム配給、88分)の公開に合わせての出版です。

★第1章「霊との邂逅――稽古場の怪異現象とてっちゃんとの出会い」は自己紹介パートなので、前作『日本一の幽霊物件』と内容は重複しますが、前作と同じく担当編集者をつとめ、映画にも主演されている角由紀子さんをはじめとする14名の証言が挟みこまれています。第二章「死後の世界――30年交流した幽霊が伝えた真実」では、降霊術「コックリさん」によって判明した、現世と来世、そして宇宙のしくみなどが明かされています(細部のネタバレにならないよう大雑把に書いています)。新作映画では明かされていない重要な情報や説明が多いので、映画「新三茶ポ」をご覧になった方は劇場版パンフレットだけでなく『死後の世界』や月刊誌『ムー 2024年7月号』などを講読されることをお薦めします。四つの世界の重なり合いや失踪空間、合わせ鏡の話は特に興味深いです。

★第三章「死後の世界Q&A――素朴な疑問の一問一答」は第二章の補足篇。半導体という概念は独特ですが、なるほどと思います。第四章「予知――あの日見たビジョンのこと」は横澤さん自身の予知の体験が記されています。第五章「2024-2023年の景色――幽霊が語った日本と地球の未来」はコックリさんで得た未来予知の情報がまとめられています。大げさすぎる記述はなく、一見すると想定しうる事象の連なりにも思えますが、淡々と書かれている分、注意深く読む必要がありそうです。終章「てっちゃんの存在と感謝」は横澤さんの守護霊(本書の用語では「守護神」)である「サカクラ・テツ」さんについて改めて紹介するもの。本書を読むと、まだ書ききれていない細部が多くあることに気づきます。映画や数々の関連動画でもヨコプロの不可解な現象の謎はまだまだ解明されておらず、横澤さんの書き下ろしにせよ映画や動画にせよ、三元ビルが存続しているうちに記録し検証すべきことは多いように思います。

★『死後の世界』は、心霊現象と異世界、宇宙人、予知など様々な異なるジャンルの要素がひとまとめに説明できるかもしれない横断的な地平を提示しており、とうてい信じがたいとする読者、もっと知りたくなる読者、そして「怖いのでできれば知らないままでいたい」となる読者、など様々な反応があると想像できます。個人的な感想をひとつだけ言えば、三軒茶屋の民俗誌の一頁として特異な記録になるかもしれないと感じています。


# by urag | 2024-06-23 23:53 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 06月 16日

注目新刊既刊:『新装版 シェリング著作集(1b)自然哲学』文屋秋栄、ほか

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★単行本の注目既刊書を列記します。

〈新装版〉シェリング著作集(1b)自然哲学』松山壽一(編)、文屋秋栄、2024年5月、本体6,000円、A5判上製384頁、ISBN978-4-906806-12-6
うつむく眼――二〇世紀フランス思想における視覚の失墜〈新装版〉』マーティン・ジェイ(著)、亀井大輔/神田大輔/青柳雅文/佐藤勇一/小林琢自/田邉正俊(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2024年5月、本体6,600円、四六判上製798頁、ISBN978-4-588-14084-6
諸原理について(ペリ・アルコーン)』オリゲネス(著)、小高毅(訳)、キリスト教古典叢書:教文館、2024年4月、本体7,800円、A5判上製534頁、ISBN978-4-7642-1814-7
アドルノ/ツェラン往復書簡 1960-1968』ヨアヒム・ゼング(編)、細見和之(訳)、郁文堂、2023年12月、本体2,400円、四六判上製168頁、ISBN978-4-261-07361-4

★『〈新装版〉シェリング著作集(1b)自然哲学』は、『〈新装版〉シェリング著作集』の第8回配本。第1a巻は2020年4月に刊行済。第1b巻では、「自然哲学に関する諸考案(1797年)」浅沼光樹・松山壽一訳、「世界霊について(1798年)」松倉寿・松山壽一訳、「自然哲学体系の第一草案(1799年)」渋谷理江・松山壽一訳、「自然哲学体系草案への序説(1799年)」後藤正英・松山壽一訳を収録。訳注と解説は編者の松山壽一さんが担当されています。「近代科学に真っ向から挑んだシェリング自然哲学の精髄がここにある」(帯文より)。巻末特記によれば「本書は、2011年発行〔燈影舎;初版2009年〕、第1b巻『自然哲学』第二版を底本とし、新装版刊行にあたり、大幅な加筆修正を行っています」と。完結までの続刊予定はあと2巻4分冊。第3a巻『同一哲学』伊坂青司・加藤紫苑編、第3b巻『芸術哲学』小田部胤久・八幡さくら・平井涼編、第5a巻『神話の哲学〈上〉』大橋良介編、第5b巻『神話の哲学〈下〉』大橋良介編。第3ab巻は、燈影舎版「シェリング著作集」第3巻『同一哲学と芸術哲学』(伊坂青司・西村清和編、2006年)の改訂分冊化で、『同一哲学』は著作を追加し加筆修正され、『芸術哲学』は全訳とのことです。

★マーティン・ジェイ『うつむく眼〈新装版〉』は、2017年刊行の訳書を新装版で再刊ということで初版を講読された方はスルーしがちかもしれません。店頭で念のため「訳者あとがき」を確認したところ「追記」があり「新装版の刊行にあたり、誤訳や誤植の若干の修正、原註で参照されている文献の日本語訳の書誌情報のアップデート等をおこなった」とのことで、私は再度購入しました。

★オリゲネス『諸原理について(ペリ・アルコーン)』は、帯文に曰く「創文社版の訳文を全面改訂し、ラテン語訳からの翻訳に加えて新たにギリシア語断片の翻訳も併記した改訳決定版。同一主題を扱った小品『ヘラクレイデスとの対話』も収載」。創文社「キリスト教古典叢書」版『諸原理について』は1978年に初版が、1995年に新装版が刊行されていたもの。長期品切のなか版元さんが廃業し、古書価が下がらず入手困難でしたが、今般全面改訂版が刊行されました。46年ぶりの改訳です。しかも、同じく長期品切だった創文社「キリスト教古典叢書」版『ヘラクレイデスとの対話』(初版1986年、新装版1999年)が併載されており、見逃せない1冊です。創文社「キリスト教古典叢書」では、同じく小高毅さん訳で、オリゲネスの『雅歌注解・講話』1982年、『ヨハネによる福音注解』1984年、『祈りについて/殉教の勧め』1985年、『ローマの信徒への手紙注解』1990年、が刊行されていました。講談社「創文社オンデマンド叢書」にはまだ入っていないので、今後の予定が気になるところです。

★『アドルノ/ツェラン往復書簡 1960-1968』は、訳者の細見さんによるあとがきによれば、本書は「『フランクフルター・アドルノ・ブレッター』第8号〔2003年〕に、ヨアヒム・ゼングの編集で掲載されている「アドルノ/ツェラン往復書簡 1960-1968」と同号に掲載されているゼング自身の論考〔「「真実なる投壜通信」――テオドーア・W・アドルノとパウル・ツェランのあいだの関係について」〕の翻訳、それに私の論考〔「アドルノとツェラン――両者の往復書簡を手がかりとして」〕を合わせて一書としたもの」で、「翻訳部分は最初、大阪で刊行されている詩誌『イリプスⅡnd』(澪標)の第21号(2017年2月)、第22号(2017年6月)、第23号(2017年10月)、第24号(2018年3月)に掲載されたものに修正を施したもの」とのことです。書店店頭で見つけるまでに半年もかかってしまいましたが、店頭になければ見逃していたかもしれず、リアル書店のありがたみを再認識しました。

★このほか最近では以下の新刊との出逢いがありました。『バビロンの路上で』のみまもなく発売で、ほかは発売済です。

バビロンの路上で――律法に抗う散歩者の夢想』マニュエル・ヤン(著)、以文社、2024年6月、本体2,700円、四六判並製288頁、ISBN978-4-7531-0386-7
アートの潜勢力』岡田温司(著)、共和国、2024年6月、本体2,700円、四六変形判上製280頁、ISBN978-4-907986-94-0
ラテンアメリカ文学を旅する58章』久野量一/松本健二(編著)、エリア・スタディーズ:明石書店、2024年5月、本体2,000円、4-6判並製376頁、ISBN978-4-7503-5775-1
天皇論――「象徴」と絶対的保守主義』子安宣邦(著)、作品社、2024年5月、本体2,700円、46判上製160頁、ISBN978-4-86793-034-2
シーア派――起源と行動原理』平野貴大(著)、作品社、2024年5月、本体2,700円、46判並製352頁、ISBN978-4-86182-983-3
哲学者カフカ入門講義』仲正昌樹(著)、作品社、2024年5月、本体2,000円、46判並製272頁、ISBN978-4-86793-027-4

★『バビロンの路上で』は、日本女子大学人間社会学部准教授のマニュエル・ヤン(Muanuel Yang, 1974-)さんが新教出版社の月刊誌『福音と世界』で連載した「バビロンの路上で Conjectures of a Son of a Preacher Man」全24回分を加筆改稿して1冊としたもの。巻頭には栗原康さんによる解説「「謎のアメリカ人」マニュエル・ヤン小伝」が配されています。「霊と肉、求道と背徳の狭間を自己破壊的に歩き抜く、異邦の歴史学者が語る現代の福音書にして、ラディカル・オートバイオグラフィ」(帯文より)。担当編集者は新教出版社から今年、以文社に移籍した堀真悟さんです。

★『アートの潜勢力』は、京都大学名誉教授で京都精華大学特任教授の岡田温司さんが2012年から2023年にかけて各種媒体で発表してきた文章に加筆修正し、書き下ろし数篇を加えて1冊にまとめたもの。「近現代のアート/アーティストを《思想》として読みとき、時代に対峙させる精緻な批評的エッセイ集」(帯文より)。「開かれとしてのモダニズム」「アナクロニーとしての批評」「アントロポセン下のアート」の3部構成で16篇が収められています。「振り返ってみるにわたしはこれまでずっと、花田清輝と林達夫に少しでも追いつこうとして文章を書いてきたような気がしている」(9頁)。

★『ラテンアメリカ文学を旅する58章』は「15世紀にコロンブスがアメリカ大陸を発見してから、現代までを文学の視点から概観し、ラテンアメリカ文学の多様性を描き出す珠玉の入門書」(版元紹介文より)。第35章「ジョージ・ラミングと新しさの予感――『私の肌の砦のなかで』について」は、ラミング『私の肌の砦のなかで』(月曜社、2019年)の訳者、吉田裕さんが担当された章。「主人公が言及する「物事」や「感情」こそが、カリブ文学にとっての資源であり足場であるのだろう」(212頁)。

★作品社の新刊より3点。子安宣邦『天皇論』は「本居宣長、津田左右吉近を手掛かりに、近世から登場した天皇制の言説を丁寧に追いながら、現代天皇制の本質に迫る。日本思想史の大家、ライフワーク」(帯文より)。「私がいま本書でしていることは18世紀徳川時代の宣長による〈天皇語〉の語り出しに遡ってなされる〈天皇的日本〉の批判である。〔…〕「何がどのように言い出され、語り出されたのか」という〈言説の批判的分析〉を思想史の方法として私はもってきた。本書はこの言説論的立場からする私の思想史的作業の恐らく最後の作品であるだろう。宣長から始まった私の思想史的作業は宣長をもって終えることになるようだ。これも天皇制国家日本で思想史的作業をするものの負わざるをえない当然の帰結であるだろう」(序言、3~4頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★『シーア派』は、「イラン一国の枠に収まらないそのグローバルな実態。特に信仰と世界観を深掘り、「何を考え」、「いかに形成され」、「他派・他宗教とどう向き合ってきたか」という問いに答える。唯一の本格的入門書」(帯文より)。「シーア派思想史」「シーア派の教義」「シーア派の他者観」の3部構成。著者の平野貴大(ひらの・たかひろ, 1991-)さんは筑波大学人文社会系助教。単独著は本書が初めてとなるようです。

★『哲学者カフカ入門講義』は、仲正昌樹さんの連続講義全6回(読書人隣り、2020年10月~2021年9月)に大幅加筆したもの。「講義内容に即した会場からの質問も、編集のうえ収録」したとのことです。「ドゥルーズ+ガタリ、ベンヤミン、アドルノなど、哲学/現代思想の諸理論の視座から、カフカの主要作品を精読し、解釈を加えることを通して、世界を見る時の「自分」の視線の動きを変調させるやり方を学ぶ」(帯文より)。カフカは今年没後100年で様々な新刊が出ていますね。


# by urag | 2024-06-16 19:44 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 06月 10日

注目文庫の既刊と新刊(主に2024年4月~6月)

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★注目文庫の既刊と新刊を列記します。これらのほかに、単行本や新書でもそれぞれ注目の既刊と新刊を記したかったのですが、文庫だけでも分量が多いので、単行本や新書は他日を期すとします。

サラゴサ手稿〈上〉』ヤン・ポトツキ(著)、工藤幸雄(訳)、創元ライブラリ、2024年5月、本体1,200円、文庫判382頁、ISBN978-4-488-07059-5
言葉というもの』吉田健一(著)、平凡社ライブラリー、2024年5月、本体1,700円、B6変型判並製256頁、ISBN978-4-582-76968-5
帝国の慰安婦――植民地支配と記憶の闘い
』朴裕河(著)、朝日文庫、2024年6月、本体980円、A6判376頁、ISBN978-4-02-262098-9
播磨国風土記 全訳注』秋本吉徳(訳注)、鉄野昌弘(補)、講談社学術文庫、2024年5月、本体1,410円、A6判360頁、ISBN978-4-06-531932-1
エディット・シュタインと読む聖書』フランシスコ・ハビエル・サンチョ・フェルミン(著)、伊達カルメル会(訳)、聖母文庫、2023年10月、本体700円、文庫判302頁、ISBN978-4-88216-386-2
カフカ断片集――海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ』フランツ・カフカ(著)、頭木弘樹(編訳)、新潮文庫、2024年5月、本体630円、文庫判224頁、ISBN978-4-10-207107-6
決定版カフカ短編集』フランツ・カフカ(著)、頭木弘樹(編)、新潮文庫、2024年4月、文庫判256頁、ISBN978-4-10-207106-9
ササッサ谷の怪――コナン・ドイル奇譚集』コナン・ドイル(著)、小池滋(監訳)、北原尚彦(編)、中公文庫、2024年5月、本体900円、文庫判352頁、ISBN978-4-12-207522-1
無意味なものと不気味なもの』春日武彦(著)、中公文庫、2024年5月、本体920円、文庫判352頁、ISBN978-4-12-207514-6
霊界――五十年の記録』長田幹彦(著)、河出文庫、2024年6月、本体720円、文庫判224頁、ISBN978-4-309-42111-7
日本怪奇物語』富岡直方(著)、河出文庫、2024年6月、本体900円、文庫判320頁、ISBN978-4-309-42112-4
勝手に生きろ!』チャールズ・ブコウスキー(著)、都甲幸治(訳)、河出文庫、2024年5月、本体950円、文庫判288頁、ISBN978-4-309-46803-7
過去と思索(一)』ゲルツェン(著)、金子幸彦/長縄光男(訳)、岩波文庫、2024年5月、本体1,370円、文庫判510頁、ISBN978-4-00-386040-3
過去と思索(二)』ゲルツェン(著)、金子幸彦/長縄光男(訳)、岩波文庫、2024年5月、本体1,370円、文庫判500頁、ISBN978-4-00-386041-0
道徳形而上学の基礎づけ』カント(著)、大橋容一郎(訳)、岩波文庫、2024年4月、本体780円、文庫判230頁、ISBN978-4-00-386039-7
人倫の形而上学 第二部 徳論の形而上学的原理』カント(著)、宮村悠介(訳)、岩波文庫、2024年4月、本体1,160円、文庫判430頁、ISBN978-4-00-336265-5
孝経・曾子』末永高康(訳注)、岩波文庫、2024年4月、本体850円、文庫判244頁、ISBN978-4-00-332119-5

★創元ライブラリより1点。『サラゴサ手稿〈上〉』は全三巻予定の上巻。中巻は今月(2024年6月)まもなく発売で、下巻は7月刊行予定。「真正完全版とは異なる版の全訳」(帯文背より)、「真正完全版では削除された逸話も多く、物語の配列も大きく異なる真贋入り交じった妖しい世界」(帯文表1より)、「真正完全版で削除された逸話を多く収録し、物語の配列も異なる、異本の工藤幸雄訳」(カバー表4紹介文)、「2008年刊の仏語決定版以前の異本にポーランド語版も参照しての翻訳。決定版の61日に対し、66日の物語で挿話にも異同がある」(投げ込みチラシ「編集部PICKUP」宣伝文より)。「本書は、訳者校正の途中だった遺稿を整理したものである」(カバー表3「訳者紹介」より)。本扉裏(目次手前)の底本表示は「主たる底本、Manuscrit trouvé à Saragosse de Jean Potocki, première édition intégrale établiée par René Radrizzani, José Corti, 1989」とあります。

★真正完全版というのは、ルーヴァンのPeeters Publishersから2006年に刊行された『ポトツキ著作集』(Jean Potocki - Œuvres)の第IV-1巻『Manuscrit trouvé à Saragosse (version de 1810)』のことかと思われます。ちなみにこの1810年版とは別に1804年版が同著作集第IV-2巻として同年に刊行されました。いずれもFrançois RossetとDominique Triaireの共編。これら2点はそれぞれ文庫版として2008年にGF(Garnier-Flammarion)で再刊(1810年版1804年版)となっています。『サラゴサ手稿』(上中下巻、畑浩一郎訳、岩波文庫、2022~2023年)の訳者の畑さんが「好書好日」2023年2月15日付記事「幻の奇書「サラゴサ手稿」訳者・畑浩一郎さんインタビュー 著者も作品も数奇な運命、長編小説を全訳」の写真で手にされているのはGFの1810年版で、畑訳の原著表記には「Jean Potocki, MANUSCRIT TROUVÉ À SARAGOSSE (version de 1810)」と記載されていますし、げんに全61日分の物語が収められていますから、底本は1810年版と見ていいのでしょう。

★今回の工藤訳は、もともとは国書刊行会の「世界幻想文学大系」第19巻として1980年に刊行されていた『サラゴサ手稿』が出発点でした(版元サイトでは1986年刊とされていますが、現物の奥付の記載を優先します)。この国書刊行会版の底本は、物語14日分を収めたロジェ・カイヨワ編『Manuscrit trouvé à Saragosse』(nrf : Gallimard, 1958)と巻末解説に記されています。カイヨワ版には『サラゴサ手稿』のうち「ジプシー酋長の話だけをむりにまとめた」という『アバドロ、イスパニア物語』が併録され、カイヨワによる序文も添えられていますが、これらは国書刊行会版では訳出されていません(1967年に刊行されたnrfの原著新版ではカイヨワは新しい序文を書いています)。ちなみに工藤訳では一連の「ジプシー酋長の話」は国書刊行会版では「ジプシーの酋長、パンデソウナの物語」と訳され、今回の創元ライブラリ版では「ヒターノの親方、パンデソウナの物語」と訳されています。岩波文庫版の畑訳では「ジプシーの族長パンデソウナの物語」。

★国書刊行会版の刊行時にはホセ・コルティ版は未刊でしたが、工藤さんは生涯にわたって『サラゴサ手稿』と関わってきたのだろうと想像できます。上巻には特に解説は付されていませんが、おそらくは下巻で出版までの経緯を明かす何かしらの説明が記されることを期待したいです。ここまでの整理をまとめると、『サラゴサ手稿』1810年版全61話を畑さんが訳した岩波文庫全3巻に続き、別ヴァージョンである『サラゴサ手稿』全66話を工藤さんが訳した創元ライブラリ全3巻が刊行される、という理解で良いかと思われます(ただし、工藤訳全66話の主な底本であるホセ・コルティ1989年版と、ペータース2006年/フラマリオン2008年版とは編者が違うので、1804年版に準じるだろう各原書でどのていどの異同があるのかないのかが気になります)。いずれにせよ、わずか2年のうちに2つのヴァージョンの翻訳が出るというのは奇跡的ではないでしょうか。

★平凡社ライブラリーより1点。『言葉というもの』は、筑摩書房より1975年に刊行された単行本『言葉といふもの』の文庫化。巻頭特記によれば「表記は原則として旧字は新字に、歴史的かなづかいは現代かなづかいに改め、読みにくいと思われる漢字には適宜ふりがなをつけています」とのこと。「言葉抜きの現実などというものはない――古今東西の作品を横断し、文学とはなにか、言葉とはなにかを解き明かす」(帯文より)。ライブラリー版解説は、宮﨑智之さんによる「吉田健一の「言葉」の新しさ」。平凡社ライブラリーでの吉田健一さんの書目には、2007年『シェイクスピア/シェイクスピア詩集』、2021年『吉田健一随筆集』中村光夫編、2022年『本が語ってくれること』、2023年『余生の文学』があります。

★朝日文庫より1点。朴裕河『帝国の慰安婦』は2014年に朝日新聞出版より刊行された単行本の文庫化。著者による「文庫版あとがき」と、高橋源一郎さんによる解説「記憶の主人になるために」が加わっています。「韓国語版が元慰安婦たちの名誉を棄損するとして訴えられてから、ちょうど10年になります。/最高裁が(高等裁判所の)有罪判決を無罪趣旨で差し戻してのち、2024年4月12日の差し戻し審でようやく無罪判決を受け、刑事訴訟は終了しました。そうした節目にこの文庫本を出せることを大変嬉しく思います。〔…〕巨額の損害賠償を求められている民事裁判はまだ進行中で、民事が終われば「朝鮮人慰安婦の苦痛が日本人娼妓の苦痛と基本的には異ならない」など34箇所を削除した改訂版を出すことを余儀なくされた仮処分をめぐる審理が始まります。〔…〕日本語版は、翻訳ではなく日本語で書いた独立版だったため、裁判の影響を受けないで済みました。日本語版を底本として中国・繁体字版を出せたのも、今年の夏、英語版(ともに翻訳書)を出せるようになったのも、その結果です」(「文庫版あとがき」より)。

★高橋さんの解説は、もともと「朝日新聞」2014年11月27日付「論壇時評」に掲載され、のちに『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新書、2015年)に収録された文章を転載したもの。「遥か昔に、植民地支配と戦争は終わった。だが、それは、ほんとうに、遠い「過去」の話だろうか。違う。戦争を招いた、偏見や頑迷さが、いまもわたしたちの中で生きているのなら、その「過去」もまた生きているのである」(363頁)。

★講談社学術文庫より1点。『播磨国風土記 全訳注』は、同文庫のための訳し下ろし。補注と補説を担当した鉄野昌弘さんによる「解説」によれば、「2022年4月21日、秋本吉徳氏は急逝した。遺品の中に当国風土記注釈の手書き原稿があり、訓読文・現代語訳は完成していたが、後半部分の注釈・解説に欠ける部分があった。〔…〕一読して、残された訓読文・現代語訳・注・各節の解説に訳注者独自の見解が表れており、刊行に値すると考えて、補注・補説、そしてこの解説を加える次第である」とのことです。秋元さんは鉄野さんの高校時代の恩師です。なお秋本さんによる風土記の既訳には『風土記(一)全訳注――常陸国風土記』(講談社学術文庫、1979年;改題新装版『常陸国風土記 全訳注』、講談社学術文庫、2001年)があります。

★聖母文庫より1点。発売後10カ月近く後になって書店店頭でようやく見つけた『エディット・シュタインと読む聖書』は、洗足カルメル会士の司祭サンチョ・フェルミン(Francisco Javier Sancho Fermín, 1966-)さんの著書『La Biblia con ojos de mujer: Edith Stein y sus claves para escuchar la Palabra』(Editorial Monte Carmelo, 2001/2011/2014)の訳書。著者による「日本語版によせて」と、上智大学神学部教授の片山はるひさんによる「推薦のことば」、伊達カルメル会修道院による「終わりにあたって」が加えられています。

★「アウシュビッツのガス室での彼女の殉教は人生においてどんな困難や予期せぬ出来事があろうと、神は決して私たちを見捨てず、いつもそのみ手で私たちを導いてくださることを意味しているのです」(「日本語版によせて」12頁)。「本書を貫いているエディットの聖書理解は、聖書を単なるテクストとして客観的に分析するのではなく、つねに自分自身の個人史、そして彼女の生きた社会・政治的状況と重ねて読み解いていく手法です。その基盤には、彼女が「感情移入」と呼ぶ、聖書解釈の方法があります。これは、彼女がフッサールの現象学から学んだ手法をもとに、発展させた方法です。それは、聖書の文字の上っ面ではなく、内面へと入り込み、その意味を生きることによって自分のものとし、ついには聖化されてゆくための方法です」(「推薦のことば」16頁)。

★新潮文庫より2点。カフカ没後100年ということで、2冊刊行されています。『カフカ断片集』は文庫版オリジナルの訳し下ろし。頭木弘樹さんによる編訳で、有名な「法の前に」をはじめ、130篇を収録。巻頭にブランショの言葉が掲げられ、巻末には頭木さんによるカフカ紹介文と編訳者解説「断片に魅せられて」が配されています。ブランショの言葉というのは「カフカの主要な物語は断片であり、その作品の全体がひとつの断片である」。粟津則雄訳『カフカ論』(筑摩叢書、1970年)から採られているようです。一方の『決定版カフカ短編集』は、頭木さんが既訳15篇を新潮社版『決定版カフカ全集』から選んで1冊としたもの。巻末には編者解説「決定版というふたつの意味」が置かれています。それぞれの目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★中公文庫より2点。コナン・ドイル『ササッサ谷の怪』は、編者解説によれば「《コナン・ドイル未紹介作品集》『ササッサ谷の怪』『真夜中の客』『最後の手段』(中央公論社《C★NOVELS》、1982~1983年)収録作から精選して1冊にしたもの」とのこと。帯文に曰く「知られざる名短篇全14篇」「著者幻のデビュー作〔ササッサ谷の怪〕から、最後の小説〔最後の手段〕まで」と。春日武彦『無意味なものと不気味なもの』は、同名の単行本(文藝春秋、2007年)の文庫化。「心がざわつく小説案内」(帯文)です。「文庫版◆まえがき」、第16章「入り込んでくる人――庄野潤三『黒い牧師』」、「文庫版◆あとがき」、朝宮運河さんによる解説「〈恐怖以前〉の展示室」が加わっています。

★河出文庫より3点。長田幹彦『霊界』は、1959年に大法輪閣から刊行された『霊界五十年』の改題文庫化。帯文に曰く「文豪の、心霊実話怪談集」。東雅夫さんによる巻末解説「「視る人」の心霊実話」には「怪談系の古典的名著を、折にふれ復刊している河出書房新社のラインナップに、このほど衝撃的な一冊が加わることになった」とあります。富岡直方『日本怪奇物語』は、巻末特記によれば「『日本怪奇物語――明治大正昭和篇』(二松堂書店、1935年2月刊)を、新字新仮名遣いに改めたものである。巻末の長田幹彦「稀にみる奇書は、同年刊行の『江戸時代篇』の序を改題したものである。なお、文中の〔 〕内に異議なった現在の地名表記などについては、同内容書『日本猟奇史』の国書刊行会による復刊(明治時代篇/大正・昭和篇、2008年刊)の編註も参考にさせていただいた」とのこと。長田さんによれば「私は富岡とは、小学校時代からの悪たれ友達である」(315頁)。帯文によれば「恐怖・戦慄・猟奇、近代の怪奇実話集、全185篇ここに集結。当時の新聞・雑誌・伝聞記録から。実話の宝庫集」。

★チャールズ・ブコウスキー『勝手に生きろ!』は、1996年に学習研究社から刊行された単行本を河出文庫で2007年に再刊したものの新装版。巻末に「ブコウスキーの危険な魔力――『勝手に生きろ!』新装版訳者あとがき」が加わっています。原著『Factotum』は1975年刊。文庫で読める都甲幸治さん訳のブコウスキー作品には『郵便局』(光文社古典新訳文庫、2022年)があります。

★岩波文庫より5点。ゲルツェン『過去と思索』は全7巻予定で、第一巻と第二巻が同時発売。凡例によれば「本書の基になっているのは金子幸彦と長縄光男の共訳による筑摩書房版『過去と思索』全三巻(1998~1999年)である。これを本文庫に収録するにあたり、長縄が改めて全巻を原文と逐一照合しつつ点検し、適宜これに修正・改訳を施した」とのこと。「流刑囚が見たロシアの現実。自伝文学の大傑作、刊行開始。ゲルツェン・リバイバル」(第2巻帯文より)。金子単独訳には、世界古典文庫版全3巻(1947~1950年)、筑摩書房全2巻(『世界文學大系』第82/83巻、1964/1966年)がありました。この大系版全2巻本を「大幅に改訳し、未刊の新訳を加えた初の完訳」が筑摩版共訳全3巻本で、そのさらなる全面改訂版が今回の岩波文庫全7巻である、ということになりますね。なお、岩波文庫では長縄さんによる新訳で3月に『ロシアの革命思想――その歴史的展開』を発売しています。旧訳である金子幸彦訳『ロシヤにおける革命思想の発達について』(岩波文庫、1950年;第10刷改訳1974年;第13刷復刊1990年;第14刷新装2002年)は絶版。

★カント『道徳形而上学の基礎づけ』大橋容一郎訳は、同文庫の篠田英雄訳『道徳形而上学原論』(1960年;改訳第20刷1976年)以来の新訳。「カント哲学の導入にして近代倫理の基本書」(帯文より)。篠田訳は2022年に第79刷を数えるロングセラーでした。カント『人倫の形而上学 第二部 徳論の形而上学的原理』は宮村悠介訳で、『第一部 法論の形而上学的原理』(熊野純彦訳、2024年1月)と対になるもの。「カントが最後にたどりついた〈自由の形而上学〉とは」(帯文より)。いずれもカント生誕300年を記念した新訳です。『道徳形而上学の基礎づけ』は近年、中山元訳(光文社古典新訳文庫、2012年)や、御子柴善之訳(人文書院、2022年) などの新訳が刊行されています。

★『孝経・曾子』末永高康訳注は、同文庫の武内義雄/坂本良太郎訳注『孝経・曾子』(1940年;第6刷復刊2012年)以来の84年ぶりの新版。旧版では白文に語注と訓読という構成でしたが、新版はそれに現代語訳が加わっています。「『論語』とともに読み継がれた儒家の経典。孔子と曾子が「孝」について論じた『孝経』と曾子の言行録『曾子』の、近年の新出土資料も踏まえた厳密な考証に基づく原文・訓読・注・現代語訳」(帯文より)。文庫で読める『孝経』には本書のほか、加地伸行訳注『孝経 全訳注』(講談社学術文庫、2007年6月)や、竹内弘行訳注『孝経』(タチバナ教養文庫、2007年4月)があります。


# by urag | 2024-06-10 01:07 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 06月 02日

注目新刊:宮﨑裕助編『25年後の東浩紀』読書人、ほか

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★まもなく発売となるちくま学芸文庫の6月新刊4点を列記します。

『価値の社会学』作田啓一(著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,800円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-51241-3
『沖縄戦記 鉄の暴風』沖縄タイムス社(編著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,600円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-51244-4
『時間と死――不在と無のあいだで』中島義道(著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,100円、文庫判224頁、ISBN978-4-480-51245-1
『ポパー〔第2版〕』小河原誠(著)、ちくま学芸文庫、2024年6月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-51249-9

★『価値の社会学』は、社会学者の作田啓一(さくた・けいいち, 1922-2016)さんが1972年に岩波書店から上梓した単行本(2001年に再刊)の文庫化。価値に関する一般理論をまとめた第一編「社会的価値の理論」と、理論をもとに日本社会を分析した第二篇「日本社会の価値体系」の二部構成です。編集部の巻末特記によれば「明らかな誤りは正し、固有名詞の表記も一部今日通例のものにした」とのことです。巻末には、東京大学教授の出口剛司さんによる解説「作田啓一『価値の社会学』に寄せて」が加わっています。作田さんの著書の文庫化は今回が初めてとのことで、意外に思います。

★『沖縄戦記 鉄の暴風』は、1950年に朝日新聞社および沖縄タイムス社から刊行され、1970年の第2版以降は沖縄タイムス社より版を重ねたロングセラーを文庫化したもの。沖縄戦の実態を生存者より聞き書きした記録です。文庫化にあたり、巻頭に沖縄タイムス社による「ちくま学芸文庫版『鉄の暴風』まえがき」が、巻末には沖縄国際大学名誉教授の石原昌家さんによる解説「新聞人が遺した警鐘を、いま再び打ち鳴らす――戦後八〇年を目前に」が加えられています。

★『時間と死』は、哲学者の中島義道(なかじま・よしみち, 1946-)さんが2016年にぷねうま舎から刊行した著書の文庫化。「本書は、今年〔2016年〕2月に刊行した『不在の哲学』(ちくま学芸文庫)の続篇とも言うべきものであり、〈いま〉しかないのではないか、それ以外に、未来が、とりわけ過去があるかのような気がするのは、大掛かりなトリックなのではないか、すなわち138億年・100億後年以上に及ぶ「客観的世界は丸ごと仮象なのではないか……、ここ20年ほど考えてきたこうした想念を言語化したものである。もしそうなら、私が死ぬことの過酷さはずいぶん軽減されるであろう。私は広大な宇宙「から」消滅するのではなくなるであろう。私はただそのつどの〈いま〉から消えるだけなのであり、それは日々刻々生じていることにすぎないのだ」(あとがき、215~216頁)。

★「客観的世界が丸ごと仮象であるとしたら、少なくとも私が死ぬことは、私が客観的世界のうちで死ぬこと、客観的世界から消滅することではないことになる。その場合、私の死にいかなる意味を付与することができようか。いかなる意味も付与することはできないのである」(はじめに、15~16頁)。

★巻末の「文庫版へのあとがき」には、昨春に脳出血で倒れ、現在は自宅でリハビリ生活を続けているご自身の、確信のさらなる変化が綴られています。発売前のネタバレになってしまうので引用はやめておきますが、「時間と死」をめぐる中島さんの思索に新たな地平が現れつつあるのが垣間見えます。

★『ポパー〔第2版〕』は、科学哲学者の小河原誠(こがわら・まこと, 1947-)さんが講談社のシリーズ「現代思想の冒険者たち」の1冊として1997年に上梓した『ポパー ――批判的合理主義』の改訂版です。巻頭の「第2版序」によれば「改訂にあたっては全体の構成には手をつけず、基本的に誤記や表現などの修正をおこない、また若干の補足を加えて読みやすくすることに努めた。〔…〕旧版では、種々の事情から引用箇所は明示していなかったが、本版では明示した」とのことです。巻末には事項と人命を合わせた索引が配されています。

★続いて、最近出会いのあった新刊を列記します。

25年後の東浩紀――『存在論的、郵便的』から『訂正可能性の哲学』へ』宮﨑裕助(編著)、東浩紀/大畑浩志/小川歩人/佐藤嘉幸/清水知子/檜垣立哉/森脇透青/吉松覚(著)、読書人、2024年5月、本体1,500円、新書判並製368頁、ISBN978-4-924671-65-2
『アレ Vol.13 娯楽の苦楽』アレ★Club、2024年5月、本体1,500円、A5判並製266頁、ISDN278-4-572741-13-1
橋本治「再読」ノート』仲俣暁生(著)、破船房、2024年4月、本体1,400円、B6判並製80頁、ISBNなし
宇宙開発の思想史――ロシア宇宙主義からイーロン・マスクまで』フレッド・シャーメン(著)、ないとうふみこ(訳)、作品社、2024年5月、本体2,700円、四六判並製288頁、ISBN978-4-86793-036-6
泉鏡花きのこ文学集成』泉鏡花(著)、飯沢耕太郎(編)、作品社、2024年5月、本体2,700円、46判並製256頁、ISBN978-4-86793-032-8
自由主義憲法――草案と義解』倉山満(著)、藤原書店、2024年5月、本体2,600円、四六判並製384頁、ISBN978-4-86578-424-4
玉井義臣の全仕事――あしなが運動六十年(2)交通遺児育英会の設立と挫折 1969–1994』玉井義臣(著)、藤原書店、2024年5月、本体8,000円、A5判上製584頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-426-8
人種の母胎――性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜』エルザ・ドルラン(著)、ファヨル入江容子(訳)、人文書院、2024年6月、本体5,000円、四六判上製412頁、ISBN978-4-409-04127-7
セクシュアリティの性売買――世界に広がる女性搾取』キャスリン・バリー(著)、井上太一(訳)、人文書院、2024年5月、本体5,000円、四六判並製420頁、ISBN978-4-409-24161-5
マリア=テレジア――「国母」の素顔(上)』バルバラ・シュトルベルク=リーリンガー(著)、山下泰生/伊藤惟/根本峻瑠(訳)、人文書院、2024年5月、本体7,500円、A5判上製442頁、ISBN978-4-409-51101-5
マリア=テレジア――「国母」の素顔(下)』バルバラ・シュトルベルク=リーリンガー(著)、山下泰生/伊藤惟/根本峻瑠(訳)、人文書院、2024年5月、本体7,500円、A5判上製460頁、ISBN978-4-409-51102-2

★『25年後の東浩紀』は、編者の宮﨑さんによる「はじめに」によれば本書は、2023年9月2日に専修大学神田キャンパスで開催された脱構築研究会シンポジウム「25年後の『存在論的、郵便的』から『訂正可能性の哲学』へ――東浩紀氏とのディスカッション」の記録をもとに編まれたもの。第1部「シンポジウム・新世代セッション」と第2部「シンポジウム・同世代/先行世代セッション」は、当日の発表と質疑応答の順序をそのまま再現。第3部「『存在論的、郵便的』解説篇」は同作の議論を一通りたどり直すための森脇透青さんと小川歩人さんによる解説で、第4部「『存在論的、郵便的』読解篇」は編者の宮﨑さんが「シンポジウム」の討議を経てあらためて同作を読み、その論点を検討し直すもの」。充実の一冊です。

★『アレ Vol.13』の特集は「娯楽の苦楽」。哲学者の檜垣立哉(ひがき・たつや, 1964-)さんへのインタヴュー「競馬から考える、偶然性と向き合うこと」、動物商で動物園園長でもある白輪剛史(しらわ・つよし, 1969-)さんへのインタヴュー「動物商と動物園」をはじめ、「漫画、イマーシブシアター、VTuber、プリキュア、バー、銃火器、日本語ラップ、楽器店、果ては趣味を持てないことまで様々なコンテンツを扱っている」(巻頭言より)。今号も充実した誌面となっています。第四期スタートとのことで、「今期は特に「現代社会」を意識した、読者が比較的とっつきやすいテーマを中心に取り上げていく予定」(同)と予告されています。

★『橋本治「再読」ノート』は、文筆家で編集者の仲俣暁生(なかまた・あきお, 1964-)さんにおる個人出版プロジェクトである「破船房(はせんぼう)」の刊行物の第2弾。仲俣さん自身による紹介文によれば「橋本の旧著を再読し、その思想をあらためて捉え直そうとした」もので、「回顧的なものではな」く、「むしろ未来を、つまり「これから何をしたらよいか」を志向するもの」。取り上げられるのは以下の著書です。『浮上せよと活字は言う』(増補版、平凡社ライブラリー、品切)、『江戸にフランス革命を!』(新装版、青土社)、『宗教なんか怖くない!』(ちくま文庫、電子版あり)、『貧乏は正しい!』(全5巻、小学館文庫、電子版あり)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(新潮文庫)、『ぼくたちの近代史』(河出文庫、品切)、『小林秀雄の恵み』(新潮文庫、電子版あり)など。橋本治の魅力が生き生きと甦る、親しみやすい本です。初刷500部は完売で、2刷500部もそろそろなくなりそうだと聞いています。

★作品社の新刊より2点。『宇宙開発の思想史』は、モーガン州立大学建築・計画学部准教授で建築と都市デザインが専門の研究者フレッド・シャーメン(Fred Scharmen)による『Space Forces: A Critical History of Life in Outer Space』(Verso, 2021)の訳書。「宇宙科学と空想科学を縦横に行き来し、「宇宙進出=新たな世界の創造」をめぐる歴史上の7つのパラダイムを検証する」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ロシア宇宙主義をめぐっては最近類書が立て続けに刊行されており、書店さんでのコーナー作りには絶好の機会と言ってよいと思います。

★『泉鏡花きのこ文学集成』は、写真評論家できのこ文学研究家の飯沢耕太郎(いいざわ・こうたろう, 1954-)さんの編纂による1冊。「“世界に冠たる「きのこ文学」作家”泉鏡花の8作品を集成。『原色日本菌類図鑑』より、190種以上のきのこ図版を収録。その魅力を説く「編者解説 きのこ文学者としての泉鏡花」付」(帯文より)。8篇は総ルビが付されており朗読したくなります。カラー図版はいずれも美しく印象的。飯沢さんはきのこ文学をめぐる編著書を多数手がけられているのは周知の通りです。中でも『きのこ文学名作選』(港の人、2010年)や『きのこ漫画名作選』(ele-king books、2016年)は美麗な造本も相俟って話題となりました。

★藤原書店の5月新刊は2点。『自由主義憲法』は「旧知の浜田聡参議院議員より、「自分として、独自の憲法草案を持っておきたいので、作成してほしい」との依頼があり、作成したのが本書で提示する「自由主義憲法草案」です」(はじめに、1頁)とのこと。浜田議員による跋文が巻末に掲出されています。「私の仕事は、真の憲法論議を広げていくことです。/たった一人でも、やれることはあやってきました。そして数年前とは違う環境になってきました。/国民全体の議論に広がった時、日本人の多くの人が、日本とは何か、自由とは何か、生活を守るとは何か、について考えるのではないかと思います」(跋、371頁)とのこと。

★『玉井義臣の全仕事――あしなが運動六十年』は全4巻別巻1で構成。その第1回配本が今回の第Ⅱ巻。帯文に曰く「生涯を遺児救済運動に捧げてきた稀有の社会運動家の軌跡」。「交通遺児育英運動から、病気・災害遺児支援にも活動を広げた疾風怒濤の時代。会機関紙に22年間連載した、子どもたちへの熱いメッセージ全228回を収録」と。付属の月報は、岡嶋信治「交通評論家 玉井義臣先生との出逢い」のほか、あしなが奨学生、同卒業生、遺児の母親の声を掲載。次回配本は第Ⅲ巻『あしなが育英会の誕生と発展 1994-2024』と予告されています。

★人文書院の新刊より3点4冊。『人種の母胎』はまもなく発売。フランス・エピステモロジーの学統を引く哲学者エルザ・ドルラン(Elsa Dorlin, 1974-)による『La Matrice de la race. Généalogie sexuelle et coloniale de la Nation française』(Édition la découverte, 2006/2009)の全訳。訳者によれば「本書はドルランが、フーコーはフェミニズム認識論(フェミニスト哲学)の立場から2000年以降のフランスにける新たなフェミニズムの潮流において、強固な思想的支柱となる重要な哲学者の一人としての地位を明確に徴づけた書物である」(訳者あとがき、382頁)。

★ドルランは巻頭のプロローグでこう書いています。「本書はおもに性差別と人種差別のカテゴリーシステムの歴史性に着目する。単なる表象ではなく、思考カテゴリー、インテリジビリティ〔了解度〕のスキーム、支配者たちの合理性それ自体が論じられる。したがって、本書はコレット・ギヨマンによって開始された支配に関する認識論を引き継ぐと同時に、二つの指針によってそれを刷新しようとするものである。/第一の指針は、「性〔セックス〕」と「人種」という両カテゴリーが類比関係〔アナロジー〕では扱われないというものである。〔…〕第二の指針は、性差別と人種差別を生み出した支配者たちの合理性に焦点を当てる一方で、こうした合理性の峻厳な論理や最適な機能性よりも、それが被る危機に主に関心を寄せることにある」(10頁)。

★言及されているコレット・ギヨマン(Colette Guillaumin, 1934-2017)はフランスの社会学者。ドルランの著書で参照されている代表作『人種差別主義イデオロギー』(1972/2002年)は未訳です。

★『セクシュアリティの性売買』は発売済。米国の社会学者キャスリン・バリー(Kathleen Barry, 1941-)による『The Prostitution of Sexuality』(New York University Press, 1995)の訳書。帯文に曰く「性売買の実態と、廃絶への具体的構想――搾取と暴力にまみれた性売買の実態を国際規模の調査で明らかにし、その背後にあるメカニズムを父権的権力の問題として理論的に抉り出した、ラディカル・フェミニズムの名著。女性の自己選択と売買相互の同意を強調するセックスワーク論を批判し、独自の性売買廃絶主義により全女性の解放を力強く構想する」。バリーの既訳書には『性の植民地――女の性は奪われている』(田中和子訳、時事通信社、1984年)があります。

★『マリア=テレジア』は発売済。ドイツの歴史学者バルバラ・シュトルベルク=リーリンガー(Barbara Stollberg-Rilinger, 1955-)による『Maria Theresia. Die Kaiserin in ihrer Zeit. Eine Biographie』(C. H. Beck, 2019)の全訳。 帯文によれば「女傑、美女、慈母としての伝統的神話を解体する、ポスト英雄時代の新たな一代記。死後、何世代にもわたって美化され、偶像化されたマリア=テレジアの生涯を膨大な史料に基づいて再構築し、ヨーロッパ近代史の中に再び位置づける」(上巻)。「知られざる「ハプスブルクの女帝」の全貌に迫る、第一人者による圧巻の評伝。「帝国の女主人」として、男性政治の歴史からは特例とされ、フェミニズム研究の範疇からも除外されていたマリア=テレジア、その実像を解き明かす」(下巻)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

注目新刊:宮﨑裕助編『25年後の東浩紀』読書人、ほか_a0018105_23525563.jpg

# by urag | 2024-06-02 23:36 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 05月 26日

注目新刊:宮﨑裕助『読むことのエチカ』青土社、ほか

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★最初に、注目の新刊既刊を列記します。

嘘の真理〔ほんと〕』ジャン=リュック・ナンシー(著)、柿並良佑(訳)、講談社選書メチエ、2024年5月、本体1,500円、B6判上製120頁、ISBN978-4-06-534715-7
理性の呼び声――ウィトゲンシュタイン、懐疑論、道徳、悲劇』スタンリー・カヴェル(著)、荒畑靖宏(訳)、講談社選書メチエ、2024年5月、本体6,000円、B6判上製992頁、ISBN978-4-06-532809-5
近代出版研究 第3号 特集「近代出版 調べる技術」』近代出版研究所(発行)、晧星社、2024年4月、本体2,300円、A5判並製320頁、ISBN978-4-7744-0820-0

★講談社選書メチエのシリーズ内シリーズである「le livre」で初めてとなる翻訳書2点が同時発売されました。まず『嘘の真理〔ほんと〕』は、フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシー(Jean-Luc Nancy, 1940-2021)による『La vérité du mensonge』(Bayard, 2021)の全訳です。バイヤール社の「小さな講演会」からの一冊。同シリーズからはナンシーの『恋愛について』(メランベルジェ眞紀訳、新評論、2009年)も刊行されています。「ナンシーが「これまでで一番難しい」テーマ、〈嘘〉について語った楽しい哲学入門」(版元紹介文より)。ナンシーはこう書きます。「嘘は根本的に、まさしく他人への関係なのです」(33頁)。「嘘とは関係が断ち切られることです」(34頁)。「真理というのは、私が話すとき、私が他人の信頼を求めていて、その信頼がすぐに得られるということです。このような信頼が、私たちが人間であり、話す存在だという単純な事実に絶対必要な条件となっているのです」(35頁)。

★次に『理性の呼び声』は、米国の哲学者スタンリー・カヴェル(Stanley Cavell, 1926-2018)の学位論文がもとになっている代表作『The Claim of Reason: Wittgenstein, Skepticism, Morality, and Tragedy』(Oxford University Press, 1979; Reprinted with a new preface, 1999)の訳書。「ウィトゲンシュタインやオースティンの日常言語哲学から、ソローやシェイクスピアなどの文学、また映画、音楽をも横断し、これ以上なく透徹した論理と文体が、哲学の限界を切り開く。言語哲学、認識論、道徳理論を揺さぶり、大陸哲学と分析哲学を調和させ、哲学に人々の日常の「声」を呼びもどすとき、そこに立ち現れるものは何か。アメリカ哲学の巨人が遺した、哲学史に残る傑作」(カバー表4紹介文より)。メチエでもっとも分厚く、もっとも高額な書目となりました。

★『近代出版研究』第3号は、特集「近代出版 調べる技術」。版元紹介文によれば「出版業界紙、白ポスト、風俗壊乱絵葉書、新聞の欄外記事と版次、饅頭本、明治期のパブリッシャーズ・マーク、出版流通の社史、税関検閲、読書週間の起源、1980年代のカセットブックなどなど……これまでほとんど論じられなかった近代出版の様々なテーマを取り上げます。〔…〕稲岡勝(近代出版史)・田村俊作(図書館学)、安野一之(検閲研究)、安田理央(アダルトメディア研究)といった斯界の重鎮から、メディア史の大澤聡、大尾侑子、ライトノベル研究の山中智省、近代神道史の木村悠之介、都市計画論の辻原万規彦ら気鋭の学者、さらには戸家誠、神保町のオタ、松﨑貴之、雅子ユウ、松永弾正といった在野研究者まで、ユニークな執筆陣がまたもや揃いました」。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。今号も業界人必読ではないでしょうか。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

読むことのエチカ――ジャック・デリダとポール・ド・マン』宮﨑裕助(著)、青土社、2024年5月、本体3,600円、46判上製426頁+xxiv頁、ISBN978-4-7917-7645-0
現代思想+(現代思想2024年6月臨時増刊号)15歳からのブックガイド』青土社、2024年5月、本体1,800円、B5変型判並製182頁、ISBN978-4-7917-1465-0
現代思想2024年6月号 特集=〈友情〉の現在』青土社、2024年5月、本体1,600円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1466-7
言論統制――情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 増補版』佐藤卓己(著)、中公新書、2024年5月、本体1,500円、新書判592頁、ISBN978-4-12-102806-8
トロツキー・イン・ニューヨーク 1917――革命前夜の10週間』ケネス・D・アッカーマン(著)、森田成也(訳)、平凡社、2024年5月、本体6,500円、A5判上製456頁、ISBN978-4-582-44715-6
実録・苦海浄土』米本浩二(著)、河出書房新社、2024年5月、本体2,500円、46判上製228頁、ISBN978-4-309-03181-1
抒情の変容――フランス近現代詩の展望』廣田大地/中野芳彦/五味田泰/山口孝行/森田俊吾/中山慎太郎(著)、幻戯書房、2024年5月、本体4,300円、四六上製360頁、ISBN978-4-86488-298-9

★青土社新刊より3点。まず『読むことのエチカ』は、宮﨑裕助(みやざき・ゆうすけ, 1974-)さんが修士論文から四半世紀にわたる各媒体への寄稿や口頭発表に加筆修正を施して、書き下ろしの序論を加え、一冊にまとめたものです。カバー宣伝文に曰く「テクストという他者との遭遇。読むこと、見ること、書くこと、話すこと、聞くこと、判断すること。読み解くことの不可能性を前にしながら、わたしたちは日々テクストに向き合い、コミュニケーションをとり、生きている。ジャック・デリダとポール・ド・マンのテクストに真摯に向き合いながら織りなす、わたしたちの生と切っても切り離せない、「読むこと」の省察と実践」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★「本書のタイトルは、特定の倫理や規範を提案しようとするものではないし、なんらかの読書術を示そうとしているのでもない。それはむしろ、あらゆる規範的な法を宙吊りにする、読解不可能性の(法なき)法のまえでテクストに応答すること、そのような仕方で読むことの出来事に開かれてあろうとすることへの誘いを試みるものである」(序論、31頁)。「読解不可能性の法に触れてはじめて、テクストをそのつど一回一回の経験において読むことが問題になる。そのつどの一回的な行為、まさしくそのような特異性において読むことの経験が問題になるのである。そこに賭けられているのは、読むことの責任、テクストに応答する責任である。裏を返せば、そのような応答責任を負う可能性に開かれていることにこそ、読むことの自由があるのだ」(同)。「彼ら〔デリダとド・マン〕が遺したテクストに記された読解の身振りのなかから、読むことの新たなエチカを発明すること」(同、36頁)。

★次に『現代思想+〔プラス〕』は、通常号よりひとまわり大きいサイズの新しい試み。誌名のロゴも今風に変わっています。編集後記には「プラス」シリーズについて特に言及はありませんが、版元ウェブサイトの内容紹介文には「考えることを人生にプラスする」とあります。その端緒となる「15歳からのブックガイド」は、32のキーワードを掲げ、それぞれに1冊ずつ寄稿者に本を紹介してもらうというもの。キーワードを列記しておきます。医療、歴史、政治、思想、法、多様性、フェミニズム コミュニケーション、家族、心、傷、哲学、宗教、文学、環境、占い、科学、数学、宇宙、自然、AI、言語、芸術、建築、ファッション、食、仕事、経済、身体、抵抗、古典、未来。
★最後に『現代思想2024年6月号』。特集は「〈友情〉の現在」です。版元紹介文に曰く「あいまいな〈友情〉のかたちを捉える。「家族」や「恋人」という枠組みには収まらないつながりが切実に考えられつつある今、〈友情〉はいかなる可能性もしくは問題を秘めているのか――。シスターフッドの再評価やホモソーシャルへの批判といった昨今の潮流に目を向けつつ、これまで見過ごされてきた関係のあり方や〈友情〉という概念そのものに正面から向き合いたい」と。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。大田ステファニー歓人さんが「現代思想」に寄稿するのは今回が初めてのようです。次号7月号の特集は「ノーバート・ウィーナー(仮)」改め「ウィーナーとサイバネティクスの未来」とのこと。

★『言論統制』は、カバーソデ紹介文によれば内容は以下の通り。「戦後のジャーナリズム研究で、鈴木庫三は最も悪名高い軍人である。戦時中、非協力的な出版社を恫喝し、用紙配給を盾に言論統制を行った張本人とされる。超人的な勉励の末、陸軍から東京帝国大学に派遣された鈴木は、戦争指導の柱となる国防国家の理論を生み出した教育将校でもあった。「悪名」成立のプロセスを追うと、通説を覆す事実が続出。言論弾圧史に大きな変更を迫った旧版に、その後発掘された新事実・新資料を増補」と。旧版は2004年刊。「はたして実在の鈴木庫三は本当に「知的ならざる軍人」だったのだろうか。鈴木庫三が残した膨大な著作、論文、日記、手稿から浮き上がるのは、それとはまったく異なる姿である」(序章、58頁)。なお、紹介文にある新資料については「増補版あとがき――言論弾圧史から言論統制史へ」に説明があります。

★『トロツキー・イン・ニューヨーク 1917』は、米国の作家、歴史家、法律家のケネス・D・アッカーマン(Kenneth D. Ackerman)の著書『Trotsky in New York, 1917: A Radical on the Eve of Revolution』(Counterpoint Press, 2016)の全訳。ただし凡例によれば献辞と謝辞は割愛とあります。版元紹介文に曰く「ロシア革命直前の1917年1~3月、第一次世界大戦参戦へと舵をきる米国ニューヨークにいたトロツキーの活動とその影響を、英・独スパイたちの暗躍を含め、生き生きと描く」と。帯には斎藤幸平さんの推薦文が載っています。「ロシア革命前夜に、トロツキーが資本主義の中心地ニューヨークで繰り広げる数奇な人生の一章は、まるで小説か映画のようで、ページをめくる手が止まらない」と。

★「日本語版序文」には次のように書かれています。「トロツキーがニューヨークを訪れたのは1917年初めのことで、歴史の主役になる直前のことだった。しかし、誰もがそのことを知らなかったようである。トロツキーは口止めしたり、自分を隠したりするような人ではなかったから〔…筆者にとって〕驚きだった。/トロツキーがニューヨークに滞在した約10週間という短い期間は、アメリカそのものが大きく変化しつつあった時期と重なっていた。その間に、第一次世界大戦への参戦という苦渋の決断がなされた。トロツキーはこの時期、古い政治的主流派の支配を脅かすことに時間を費やし、また、ヨーロッパ戦争へのアメリカの参加をめぐって世論が激しい議論をしているなか、大いに目立つ役回りを演じた。彼は、何十年にもわたってアメリカの左翼政治を形成することになる若い信奉者たちのグループを惹きつけた。この経験は、ロシアに帰国してからの数か月間において、レーニン、ロシア、革命に対するトロツキーのアプローチに一定の影響を与えたと思われる」(vi頁)。

★『実録・苦海浄土』は、帯文に曰く「石牟礼道子と渡辺京二、その後の世界を変えるふたりの闘争は、伝説の雑誌「熊本風土記」から始まった――知られざる『苦海浄土』誕生の秘密に迫るノンフィクション」と。元新聞記者で著述家の米本浩二(よねもと・こうじ, 1961-)さんは渡辺さんから資料の提供を受け、本書を執筆されました。最終章である第11章は、渡辺さんの逝去の一ヶ月前に米本さんがお聞きになった話を再構成して掲載しています。「石牟礼さんとの出会いは決定的だった。世界を見る目が変わったものね。世界、この世の中の実在、自然をふくんだ実在というものを見る目が、感じ方が、彼女に教えられて変わったと思います。あのひとと出会って心からよかったと思うね。食事づくり、原稿の清書、資料整理、部屋の掃除……。できるだけのことをしました」(199頁)。巻末には「熊本風土記」の総目次が付されています。

★『抒情の変容』は、仏文研究者6氏の論考を収めたフランス抒情詩論集。帯文に曰く「ボードレール、バンヴィル、ユゴー、ルヴェルディ、フォラン、レダ、エマーズら19世紀から21世紀までのフランス近現代詩をめぐり、「抒情詩(poésie lyrique)」「抒情性(lyrisme)」「抒情主体(sujet lyrique)」の三つの詩学概念を問う」と。「本書は、フランス抒情詩に関する最新の研究動向を専門家以外の方々にも分かりやすく紹介する入門書であるとともに、2018年に発足した「フランス抒情詩研究会」によるこれまでの研究の成果をまとめた第一弾の報告書でもある」(序文、5頁)。「今後も第二弾、第三弾と成果を上げていくことを目指したい」(同、10頁)とのことです。目次詳細は版元ブログ「幻戯書房NEWS」をご覧ください。


# by urag | 2024-05-26 22:49 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)