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2023年 08月 27日

注目新刊:東浩紀『訂正可能性の哲学』ゲンロン、ほか

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訂正可能性の哲学』東浩紀(著)、ゲンロン叢書:ゲンロン、2023年8月、本体2,600円、四六判並製360頁、ISBN978-4-907188-50-4
シラー戯曲傑作選 メアリー・ステュアート』フリードリヒ・シラー(著)、津﨑正行(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2023年8月、本体3,900円、四六変型判上製408頁、ISBN978-4-86488-280-4
シラー戯曲傑作選 ドン・カルロス――スペインの王子』フリードリヒ・シラー(著)、青木敦子(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2023年8月、本体5,200円、四六変型判上製544頁、ISBN978-4-86488-281-1
尹致昊日記(4)1895–1896年』尹致昊(著)、木下隆男(訳注)、東洋文庫:平凡社、2023年8月、本体4,000円、B6変型判上製函入436頁、ISBN978-4-582-80915-2

★『訂正可能性の哲学』はまもなく発売。ゲンロン叢書の第14弾です。第71回毎日出版文化賞受賞作『観光客の哲学』(初版、2017年4月;増補版、2023年6月)の続編。発売前からSNSでトレンド入りするなど、大きな話題を呼んでいます。2部9章構成。目次詳細を以下に転記しておきます。

第1部 家族と訂正可能性
 第1章 家族的なものとその敵
 第2章 訂正可能性の共同体
 第3章 家族と観光客
 第4章 持続する公共性
第2部 一般意志再考
 第5章 人工知能民主主義
 第6章 一般意志という謎
 第7章 ビッグデータと「私」の問題
 第8章 自然と訂正可能性
 第9章 対話、結社、民主主義
おわりに
文献一覧
索引

★第1部と第2部第7章までは、2021年から2022年にかけて『ゲンロン』誌や『文藝春秋』誌で発表されてきたものに大幅な加筆修正を施したもの。第2部第8~9章は書き下ろしです。「ぼくの最初の本『存在論的、郵便的』は、いまから四半世紀前、1998年に出版されている。〔…〕そこにはすでに、「ひとは何故哲学をするのか。僕は途中から半ば本気で、その大きな問題について考え始めていた」と記している。〔…〕いまは、かつての問いに明確な答えを与えることができる。それが本書である。/本書はその意味では、52歳のぼくから27歳のぼくに宛てた長い手紙でもある」(「おわりに」より、346~347頁)。

★以下、東さん自身の言葉で語られる本書のポイントを引用します。「第一部では、保守とリベラルの対立を超え、より柔軟に共同体の構成原理について語るためには、「家族」と「訂正可能性」の概念を新しく設立することが重要であることを示す。〔…〕問題設定は2017年に出版した『観光客の哲学』という著作を引き継いでいる。〔…〕ぼくはいまの政治は、世界的にも国内的にも、また古典的な政治においてもネットの争いにおいても、「友」と「敵」の観念的な対立に支配されていると考えている。したがって、その対立を抜け出すことが決定的に重要である」(第1章6頁)。

★「第一部の議論は、〔…〕現実の変化に対する哲学からの応答でもある。家族という言葉は、辞書のなかでも、哲学の議論においても、おそろしく古いまま残されている。だから家族に議論しようとすると、その言葉を記すだけで復古主義的に響き、新しい現実に対応できない。その罠を逃れるためには、まずは家族という言葉そのものをアップデートしなければならないのだ」(第3章78頁)。「家族とは閉じた共同体だと考えられてきた。けれども本論では、家族を、閉ざされた人間関係ではなく、訂正可能性に支えられる持続的な共同体を意味するものとして再定義したい」(第3章76頁)。

★「第二部では、現代世界が直面する民主主義の危機を概観したうえで、それを「訂正可能性」の論理を用いていかに克服するかを論じる。〔…〕2011年に刊行した『一般意志2.0』という著作の主題を引き継いでいる」(第5章138頁)。「2020年代のいま、日本でも世界でも、統治から不安定な人間を追放し、政治的な意思決定はアルゴリズムとビッグデータに任せたほうがいいという思想が台頭している。ぼくはそれを人工知能民主主義と名づけた。それがこの第二部の出発点だった。〔…〕人工知能民主主義は、一般意志〔人民の意志〕の観念を単純化して捉え、そこに付随するはずの「訂正可能性」の契機を消してしまう。そこに欠点があるというのがぼくの考えである」(第8章260頁)。

★「政治的正しさは、政治的な訂正可能性としてしかありえないのだ。/ぼくたちはつねに誤る。だからそれを正す。そしてまた誤る。その連鎖が生きるということであり、つくるということであり、責任を取るということだ。本書は、そんなおそろしくあたりまえな認識を、哲学や思想の言葉でガチガチになってしまったひとに思い出してもらうために書かれた書物でもある」(第9章343頁)。

★家族や民主主義という言葉は、政治や宗教、学問の世界で様々な立場から都合良く用いられてきましたが、本書の決定的な貢献はまさにその家族観や民主主義観にまつわるモヤモヤを解消するための手引きになるという点です。左右いずれかの陣営の問題ではなく、党派を超えた議論への糸口があるのではないかと感じます。



★『シラー戯曲傑作選』2点は、ルリユール叢書の第33回配本(46、47冊目)。同叢書では2021年10月に『ヴィルヘルム・テル』(本田博之訳)が刊行されており、今回の新刊は『シラー戯曲傑作選』の第2弾、第3弾となります。帯文の文言を借りると、『ドン・カルロス』は「前期シラーの自由概念の到達点となった、全五幕の長大な歴史悲劇」。『メアリー・ステュアート』は「メアリーの「精神的自由」という理念のドラマを、古典主義規範によって理性と感性の調和として厳密に構成した、全五幕の傑作悲劇」。『ドン・カルロス』の訳者、青木敦子(あおき・あつこ, 1957-)さんはさる6月に月曜社より訳書『シラー詩集』全2巻を上梓されています。

★ルリユール叢書の次回配本は9月刊、フランスの哲学者ガブリエル・マルセル(Gabriel Marcel, 1889–1973)の戯曲『稜線の路』の古川正樹さんによる初訳が予告されています。マルセルの戯曲の訳書が出るのは『マルセル著作集(7)』(春秋社、1970年)以来のことではないでしょうか。実に半世紀以上を経ての出版。 

★『尹致昊日記(4)』は、全15巻の第4巻。東洋文庫の第915番です。尹致昊(ユン・チホ, 1865-1945)は朝鮮の政治家。第4巻は1895~1896年の期間の日記で、帰国後の朝鮮における日々が綴られています。帯文に曰く「尹致昊が帰国した朝鮮は激動の最中にあった。親日政権による甲午改革の破綻、閔妃暗殺事件、高宗のロシア公使館移御。高宗の命を受けた尹致昊は、ニコライ二世戴冠式列席の旅に発つ」。東洋文庫次回配本は12月、『岳麓書院蔵秦簡「為獄等状四種」』。

★平凡社さんでは平凡社ライブラリーでまもなく、東雅夫編『龍潭譚/白鬼女物語――鏡花怪異小品集』、9月にソロー『コッド岬――浜辺の散策』齊藤昇訳、10月にハンス・ブルーメンベルク『真理のメタファーとしての光/コペルニクス的転回と宇宙における人間の位置づけ』村井則夫編訳、などが予定されています。『真理のメタファーとしての光』はかつて朝日出版社のエピステーメー叢書で『光の形而上学』(生松敬三/熊田陽一郎訳、1977年)として訳出されていたものですね。ドイツの思想史家ブルーメンベルク(Hans Blumenberg, 1920-1996)の初めての文庫化になります。喝采を送りたいです。

★『現代思想2023年9月号 特集=生活史/エスノグラフィー』は版元紹介文に曰く「人生=生活を聴き、見つめ、書き残すことの意味を問う」と。討議1本、論考16本。詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。先月末に62歳で逝去された社会学者の立岩真也(たていわ・しんや, 1960-2023)さんへの追悼文3篇も併載。川口有美子(かわぐち・ゆみこ, 1962-)さん、小松美彦(こまつ・よしひこ, 1955-)さん、美馬達哉(みま・たつや, 1966-)さんによるもの。立岩さんが編者をつとめる『生活史論集』(ナカニシヤ出版、2022年)や『東京の生活史』(筑摩書房、2021年;第76回毎日出版文化賞)、『大阪の生活史』(筑摩書房、近刊)などとともにひもときたいです。次号10月号の特集は「スピリチュアリティの現在(仮)」。

★なお青土社さんでは新入社員を募集中。条件は「新卒、既卒3年程度まで」で、履歴書と作文「青土社を志望する理由」800字を10月10日必着で郵送。詳細はこちら


# by urag | 2023-08-27 19:16 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2023年 08月 25日

サイン会

ある著者から聞いたの話です。

新作発売ごとに書店でサイン会を開いていました。そこに毎回「わたしのこと覚えてますか」と名乗ってくる方がいたんです。為書き不要というその人の顔は覚えましたが、名前は知らないんです。終了後に担当編集者が知っているかどうか尋ねると、「何回か見かけた気がします」と曖昧な返事。ある日、その編集者と打ち合わせをするために、行きつけの喫茶店へ先着してテーブルで待っていた際、「わたしのこと覚えてますか」と声を掛けられました。例の人です。たじろいでいるところに編集者が到着し、店から追い出してくれました。もしやずっとストーキングされていたのか、とすっかり気分が悪くなりました。しばらくは外出すらできずにいましたし、ゴミ出しにも気を遣いました。またどこかで出くわさないか心配です。次回作執筆も滞り、サイン会は当面できそうにありません。SNSのアカウントも削除しておきました。

【「営業夜話」はフィクションです。実在の店舗や会社、人物、事件に似ていることがあるかもしれませんが、それはあくまでも偶然でしょう。】

◉出版怪談「営業夜話
第1期全5話(2019年)・・・「閉店後」「ドミノ」「パートワーク」「ショタレ本」「コレクター」
第2期全5話(2022年)・・・「おーい」「僕のです」「センサーライト」「キッズコーナー」「館内放送」
第3期全5話(2023年)・・・「栞」「社長室」「ロッカールーム」「深夜の電話」「サイン会」

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# by urag | 2023-08-25 08:55 | 営業夜話 | Comments(0)
2023年 08月 24日

深夜の電話

ある編集プロダクションの方から聞いた話です。

勤務先の編プロが入居している古いマンションの一室での出来事です。締切間近で徹夜作業をしていたある晩、午前2時すぎに電話がかかってきました。取引先からだろうと思って受話器を取ると、「今から直接本を買いに行きたい」という個人の方でした。「うちは出版社じゃないんで」と断るものの、3時すぎに玄関の呼び鈴が鳴りました。さすがに無視しました。翌朝出社した社長にこの件を話しましたが、不機嫌な様子で取り合ってくれません。それを聞いていたある先輩が教えてくれました。「過去にも同じことが何度かあったんだけど、その以上のことはめったにないよ」。「めったに」なんですか、と驚いていると「夜中にチャイムが鳴っても出なくていい」と真顔で言います。「それと、深夜にコンビニに行く時も気を付けて。玄関先でばったり、ってこともある。社長が何度も警察に相談したおかげでめっきり来なくなってたのになあ」。

【「営業夜話」はフィクションです。実在の店舗や会社、人物、事件に似ていることがあるかもしれませんが、それはあくまでも偶然でしょう。】


# by urag | 2023-08-24 11:20 | 営業夜話 | Comments(0)
2023年 08月 23日

ロッカールーム

ある倉庫会社の方から聞いた話です。

高齢化が進む現場に待望の若い男性が入社しました。よく働いてくれ、構内の誰もが喜んでいました。みな親切に接していたはずだったのですが、一週間後に無断欠席が数日続いたのち、ロッカーのひとつに押し込まれるようにして亡くなっているのが見つかりました。「人間関係が難しかった」と遺書にあって、自殺という検視結果でした。しかしその遺書がひたいに貼り付けてあったという奇妙さもあって、社内では様々な噂が飛び交いました。同僚を失ったことに加えて悲しかったことがあります。新人を追い込んだ犯人がいるのではという猜疑心の高まりから、従業員が互いに陰口で過去の出来事を曝露しあうはめになったことです。なかでも目撃者が多かった、歓迎会での一件は問題視されました。酒が入っていたとはいえ、ある社員から男性への下品なからかいがあったのです。社員はその後自主退職。ロッカールームも取り壊されました。

【「営業夜話」はフィクションです。実在の店舗や会社、人物、事件に似ていることがあるかもしれませんが、それはあくまでも偶然です。】


# by urag | 2023-08-23 11:14 | 営業夜話 | Comments(0)
2023年 08月 22日

月曜社9月新刊:ダヴィッド・ラプジャード『壊れゆく世界の哲学――フィリップ・K・ディック論』

2023年09月25日取次搬入予定 *哲学思想・人文

壊れゆく世界の哲学――フィリップ・K・ディック論
ダヴィッド・ラプジャード[著] 堀千晶[訳]

月曜社 本体2,800円 46判(縦188×横125×束14mm、重量210g)並製224頁 ISBN:978-4-86503-173-7 C0010

ディックはこの世界とその終わりを先取りしていた。新人世、ポストヒューマニズム、多世界論など、あらゆる思想を越境して、ドゥルージアンがディックに挑む、この終わりゆく世界のための哲学の最前線。――世界はすでに崩壊し、これからも崩壊するだろう。そのとき、意識と世界の、生と死の、人間と機械の境界はどのように変化するのか――。

目次:
序 錯乱について
第1章 諸世界
第2章 因果
第3章 思考する事物
第4章 幻想的なもの
第5章 エントロピーと退行
第6章 世界を掌握する者たち
第7章 人工世界
第8章 デジタル人間(あるいはアンドロイドとは何か)
第9章 狩りとパラノイア
第10章 生と死のあいだで
第11章 ブリコラージュすること(あるいはランダムな変数)
書誌
原注
訳者解説 未来の記憶、ペシミズム、オプティミズム

原著:L’Altération des mondes : Version de Philip K. Dick, Minuit, 2021.

ダヴィッド・ラプジャード(David Lapoujade, 1964-)ドゥルーズの愛弟子。没後に刊行されたドゥルーズ『無人島』、『狂人の二つの体制』、『ドゥルーズ 書簡とその他のテクスト』(共に河出書房新社)の編者をつとめる。著書に、『ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動』(河出書房新社、2015年)、『ちいさな生存の美学』(月曜社、2022年)など。

堀千晶(ほり・ちあき, 1981-)著書『ドゥルーズ 思考の生態学』(月曜社、2022年)、『ドゥルーズ キーワード89』(共著、せりか書房)、『ドゥルーズと政治』(共著、以文社)、編著『ドゥルーズ 千の文学』(共編、せりか書房)、訳書、ダヴィッド・ラプジャード『ドゥルーズ 常軌を逸脱した運動』(河出書房新社)、『ちいさな生存の美学』(月曜社)、『ドゥルーズ 書簡その他』(共訳、河出書房新社)、ロベール・パンジェ『パッサカリア』(水声社)など。

アマゾン・ジャパンHMV&BOOKSにて予約受付中。

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# by urag | 2023-08-22 10:38 | 近刊情報 | Comments(0)