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2018年 12月 17日

ナツメ書店(福岡)さんで弊社本を扱っていただいています

福岡のナツメ書店さんではながらく弊社刊のガシェ『いまだない世界を求めて』と、ドアノー『不完全なレンズで』を販売していただいています。特定の本を幾度となく補充して平積みでじっくり売ってくださるブレないスタンスには驚嘆するばかりです。現在の店舗は築100年の元時計店を改装したもので、カフェを併設。JR香椎線「西戸崎駅」より徒歩5分です。

ナツメ書店さんは一般社団法人リノベーションまちづくりセンターの書店事業として2014年12月に北九州市小倉北区魚町3-3-12 中屋ビル1F-4に所在する店舗6坪で書籍販売をスタートし、その後昨春(2017年3月末)に閉店。昨秋(2017年10月)より福岡市東区西戸崎1-6-21に移転しリニューアルオープンされました。現在は個人経営のブックカフェです。

お近くへお越しの折はどうぞお立ち寄りください。

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# by urag | 2018-12-17 10:46 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2018年 12月 16日

注目新刊:ヴィトゲンシュタイン『小学生のための正書法辞典』講談社学術文庫、ほか

★皆様いかがお過ごしでしょうか。私は風邪をひきました。今回の新刊ご紹介はそんなわけで書名を列記するものの、数点について追記するのみで失礼いたします。まずは、最近出会った新刊から。

秘教講義 1』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2018年11月、本体4,800円、四六判上製592頁、ISBN978-4-393-32547-6
秘教講義 2』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2018年12月、本体4,800円、四六判上製488頁、ISBN978-4-393-32548-3
朝鮮文化史――歴史の幕あけから現代まで』キース・プラット著、宋恵媛訳、人文書院、2018年12月、本体6,200円、4-6判上製488頁、ISBN978-4-409-51079-7
薩長同盟論――幕末史の再構築』町田明広著、人文書院、2018年12月、本体2,200円、4-6判並製270頁、ISBN978-4-409-52074-1
大政翼賛会のメディアミックス――「翼賛一家」と参加するファシズム』大塚英志著、平凡社、2018年12月、本体2,500円、4-6判並製304頁、ISBN978-4-582-45453-6
ぼくの伯父さん――長谷川四郎物語』福島紀幸著、河出書房新社、2018年12月、本体4,400円、46変形判上製568頁、ISBN978-4-309-02748-7
トランスヒューマニズム――人間強化の欲望から不死の夢まで』マーク・オコネル著、松浦俊輔訳、作品社、2018年11月、本体2,400円、46判並製299+xi頁、ISBN978-4-86182-721-1

★シュタイナー『秘教講義』は第1巻が『霊学自由大学第一学級のための秘教講義』(全19講:ドルナハ:1924年2月15日~8月2日)で、巻頭には第2講から第19講までの美麗な黒板絵をカラーで収録しています。第2巻は『霊学自由大学第一学級のための秘教再講義』(全7講:ドルナハ:1924年9月6日~20日)と、各都市で行われた『霊学自由大学第一学級のための秘教講義』(2講:プラハ:1924年4月3日~5日、1講:ベルン:1924年4月17日、1講:ロンドン:1924年8月27日)を収め、付録として1923年と1924年の「クリスマス会議」より3講義と、訳者の高橋さんによる「「シュタイナー秘教講義」の読み方(第1講を例に)」が配されています。解説は飯塚立人さんがお書きになっています。「本書は人智学の奥義書である。ここにはシュタイナー最晩年の秘教学級〔…〕の講義が収められている。この秘教講義は、長らく非公開であった。それはシュタイナーが、許可した人しかこの学級に参加させず、参加者にはマントラ以外のノートを八日以内に破棄するように指示した、いわば忘却されることを前提とした、その場限りの講義であったからである。シュタイナーは、マントラが外部の人の手に渡ると、その効力は失われる、と述べている」(解説、445頁)。

★「なぜそのように特別な配慮がなされてきたのか。それはこの第一学級の秘教講義が、まず人間の魂の権力衝動との対峙を、必須の課題としているからである。そして秘教学級は、徹底した内面へのひとり旅であり、その旅は境域における守護霊との対話を通して導かれていくからである」(同、447頁)。「暗い霊界の原野を前にして、存在の深淵の縁(ふち)に立ちながら、霊界の使者は力強い創造の言葉を発する。「見よ、われこそは認識のただひとつの門である。」」(ドルハナ講義第1講、15頁)。

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★次にここ最近で注目している新刊を列記します。

新版 アリストテレス全集(20)著作断片集2』國方栄二訳、2018年11月、本体6,000円、A5判上製函入512頁、ISBN978-4-00-092790-1
人間知性研究』デイヴィッド・ヒューム著、神野慧一郎/中才敏郎訳、近代社会思想コレクション24:京都大学学術出版会、2018年12月、本体3,600円、四六判上製374頁、ISBN978-4-8140-0178-1
小学生のための正書法辞典』ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著、丘沢静也/荻原耕平訳、講談社学術文庫、2018年12月、本体1,110円、280頁、ISBN978-4-06-514094-9
漂巽紀畧 全現代語訳』ジョン万次郎述、河田小龍記、北代淳二監修、谷村鯛夢訳、講談社学術文庫、2018年12月、本体800円、178頁、ISBN978-4-06-514262-2
靖献遺言』浅見絅斎著、近藤啓吾訳注、講談社学術文庫、2018年12月、本体1,790円、560頁、ISBN978-4-06-514027-7
物語批判序説』蓮實重彦著、講談社文芸文庫、2018年12月、本体2,100円、352頁、ISBN978-4-06-514065-9
ラフォルグ抄』ジュール・ラフォルグ著、吉田健一訳、講談社文芸文庫、2018年12月、: 本体2,100円、368頁、ISBN978-4-06-514038-3
マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』丸山俊一/NHK「欲望の時代の哲学」制作班著、NHK出版新書、2018年12月、本体820円、240頁、ISBN978-4-14-088569-7
オカルティズム――非理性のヨーロッパ』大野英士著、講談社選書メチエ、2018年12月、本体1,900円、320頁、ISBN978-4-06-514260-8
記憶術全史――ムネモシュネの饗宴』桑木野幸司著、2018年12月、本体2,000円、352頁、ISBN978-4-06-514026-0

★『新版 アリストテレス全集(20)著作断片集2』は全20巻+別巻のうちの第18回配本。収録作品は書名のリンク先でご確認いただけます。そのほとんどは他の著者が伝えている断片です。散逸したか詳細不明となっている著作へのアリストテレス自身の言及も収めます。そうした著作のひとつ『哲学について』をめぐってはフィロンが『世界の永遠性について』の中で、アリストテレスの発言として次のような言葉を伝えています。「昔は、大風やとてつもない嵐が来たり、時の経過やしかるべき手入れを怠ったりすると、自分の家が倒れやしないかと心配したものだが、今は、議論で全宇宙を破滅させる人間のおかげで、もっと大きな恐怖がのしかかっている」(164頁)。付属ずる月報18によれば、次回配本は来春、第11巻『動物の発生について』。本巻で残る1冊、第14巻『形而上学』も来年刊行とのことです。別巻『総索引』には「用語集」も収録されると再告知されています。

★『小学生のための正書法辞典』はヴィトゲンシュタインが生前刊行した二冊のうちの一冊の初訳。もう一冊は『論理哲学論考』ですが、この主著が刊行されるまでに紆余曲折を経たのに比べて、『小学生のための正書法辞典』は比較的スムースに出版できたようです。その経緯や、教師としてのヴィトゲンシュタインの工夫は、巻頭の丘沢さんによる解説に詳しいです。またこの解説では、現代社会から見てほとんどアウトな体罰教師ぶりや、アスペルガー症候群の観点から見たこの哲学者像についても語られます。後者は福本修さんの論考「「心の理論」仮説と『哲学探究』――アスペルガー症候群〔から/を〕見たウィトゲンシュタイン」(『imago』1996年10月号「特集=自閉症」所収、144~163頁)を参考にされています。単語帳という簡素な体裁の本書を文庫で出版するというのは、なかなかハードルが高かったろうと想像します。

★ちなみに講談社さんは「講談社学術文庫大文字版オンデマンド」を既刊書600点以上で開始されました。同文庫は1976年創刊で、総刊行点数約2600点に上ります。投げ込みチラシには真っ先に天野貞祐訳『純粋理性批判』が記載されていて驚愕したのですが、ウェブにはまだ掲出されていないようです。書目は毎月追加されるようなので、推移を注視したいと思います。

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# by urag | 2018-12-16 17:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 12月 13日

『現代詩手帖』2018年12月号のアンケート「今年度の収穫」に弊社本2点

『現代詩手帖』2018年12月号のアンケート「今年度の収穫」で、詩人の石田瑞穂さんが弊社の今年の新刊、ナンシーの芸術論『ミューズたち』と、メニングハウスのヘルダーリン論『生のなかば』を挙げて下さいました(155頁)。この二冊を挙げていただくのはとても嬉しいです。ありがとうございます。

# by urag | 2018-12-13 16:31 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2018年 12月 13日

ブックツリー「哲学読書室」に2本の選書リスト追加

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、堀之内出版編集担当の小林えみさんの選書リスト「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」と、拙選書リスト「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。


◎哲学読書室

1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-:堀之内出版編集担当)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-:月曜社取締役)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち

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# by urag | 2018-12-13 15:46 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 12月 12日

「週刊読書人」に『忘却の記憶 広島』の書評

「週刊読書人」12月8日号に弊社10月刊『忘却の記憶 広島』の書評「読み応えのあるヒロシマ論――「記憶」の「劣化」を防ぐために」が掲載されました。評者は好井裕明さんです。

「本書が意識的に語りだろうとする「記憶」の「ケア」という発想や実践が、とても興味深い。これまでのように直接被爆体験者の絶対性や神聖さ、真正性だけに頼っていても「被爆の記憶」の「鮮度」は保てないのだ。未発掘の資料を探求し分析したり、過去の作品を新たに読み解き、現在的な意義を確認する営みから新たな知見を創造し、その知見をもとに「記憶」に拡がっている細かい傷や裂け目が「修復」され、〝被爆をめぐる新たな意味〟を注入されることで「記憶」の〝瑞々しさ〟が回復し、「被爆の記憶」は現在や将来にとって意義あるものとして新たに息を吹き返す。その場合、従来絶対視され神聖化されていた人物や活動、実践もすべて、読み直しの対象となるだろう。本書に収められた戦後広島での「陳情書」分析や平和活動家森瀧市郎の戦前までさかのぼる思想的背景の解読、原爆資料館の蝋人形展示の変遷を読み直す論考などは、「被爆の記憶」を「ケア」する見事な実践なのである」と評していただきました。全文は記事名のリンク先からお読みいただけます。


# by urag | 2018-12-12 13:27 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2018年 12月 09日

注目新刊:熊野純彦訳『精神現象学』、サックス『アナログの逆襲』、ほか

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★まもなく発売となるちくま学芸文庫の12月新刊の5点6冊を取り上げます。

『精神現象学 上』G・W・F・ヘーゲル著、熊野純彦訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,700円、672頁、ISBN978-4-480-09701-9
『精神現象学 下』G・W・F・ヘーゲル著、熊野純彦訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,700円、624頁、ISBN978-4-480-09702-6
『帝国の陰謀』蓮實重彦著、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,000円、176頁、ISBN 978-4-480-09895-5
『仮面の道』クロード・レヴィ=ストロース著、山口昌男/渡辺守章/渡辺公三訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,400円、400頁、ISBN978-4-480-09647-0
『聖なる天蓋――神聖世界の社会学』ピーター・L・バーガー著、薗田稔訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,200円、352頁、ISBN978-4-480-09903-7
『数学的に考える――問題発見と分析の技法』キース・デブリン著、冨永星訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,000円、224頁、ISBN978-4-480-09898-6

★熊野純彦さんによる新訳『精神現象学』は、樫山欽四郎訳(上下巻、平凡社ライブラリー、1997年)に続く20年ぶりの文庫版です。樫山訳は親本が1966年の河出書房新社版で、それを出口純夫さんが改訳し補訂したのが平凡社ライブラリー版です。今回の新訳は訳者あとがきによれば、底本はラッソン/ホフマイスター版(樫山訳も同様)。グロックナー版、ズーアカンプ版、アカデミー版なども参照され、また2種類のフランス語訳(イポリット訳とヤルチック/ラバリエール訳)を常に参看したとのことです。本書の訳文の上段にはグロックナー版とホフマイスター版の原著頁数が振られ、下段にはスーアカンプ版とアカデミー版のそれが記されており、原書と照らし合わせるのに便利です。

★講義録や教科書を除き「ヘーゲルそのひとが、主要な著作として執筆し、刊行したのは『精神現象学』全一巻、ならびに『論理学』全二巻だけなのであり、その意味ではヘーゲル研究の進捗と現況にかかわりなく、『精神現象学』がこの哲学者の思考をとらえるうえで枢要なテクストでありつづけていることは、まちがいない」と熊野さんはお書きになっています。上巻が序文、序論、A「意識」、B「自己意識」、C(AA)「理性」を収録、下巻には(BB)「精神」、(CC)「宗教」、(DD)「絶対知」を収めています。下巻巻末にはフレーズ索引といって、語句ごとにそれを含む文章を並べた索引が付されています。

★蓮實重彦『帝国の陰謀』は1991年に日本文芸社より刊行された単行本の文庫化。新たに文庫版あとがきと、入江哲郎さんによる解説が付されています。「〔ルイ=ナポレオンすなわちナポレオン三世の異父弟〕ド・モルニーが遺した二つのテクストを読解し、マルクスが〔著書『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』で〕見落としたものを軽やかに描く、著者最初の書き下ろし作品」(カバー裏紹介文より)。文庫化にあたり、「必要最低限の加筆訂正」を施したとのことです。初版刊行当時を振り返って、蓮實さんは、本書を学術論文としてではなく、「できれば、文化的かつ政治的な「パンフレット」のようなものとして読まれてほしいというのが、著者の真摯な思いだったのです」としたためておられます。本書と同時期のフランス第二帝政期を背景にした1988年の著書『凡庸な芸術家の肖像――マクシム・デュ・カン論』は95年に上下巻でちくま学芸文庫にて文庫化された後、2015年に同じく上下巻で講談社文芸文庫として再文庫化されています。

★レヴィ=ストロース『仮面の道』は、まず原著の2巻本『La Voie des masques』がSkira社の「創造の小径」シリーズから1975年に刊行され、日本語訳が1977年に新潮社版「想像の小径」翻訳シリーズの一冊として出版されています。原著はその後1979年に増補改訂版がPlon社から全1巻で刊行されました。今回の文庫化は、この増補改訂版を底本とし、新潮社版を渡辺守章さんが全面改訳し、増補改訂版で新たに付された第2部「三つの小さな旅」を昨年末に逝去された渡辺公三さんが訳出されて、成ったものです。文庫版あとがきは「ちくま学芸文庫版『仮面の道』のための後書き」として、渡辺守章さんがお書きになっておられます。文庫で読めるレヴィ=ストロースの著書は意外と少なく、室淳介訳『悲しき南回帰線』(上下巻、講談社学術文庫、1985年)、西澤文昭訳『アスディワル武勲詩』(ちくま学芸文庫、2011年)に続いて今回がようやく3点目です。

★バーガー『聖なる天蓋』は『The Sacred Canopy: Elements of a Sociological Theory of Religion』(Doubleday, 1967)の全訳として1979年に新曜社から刊行された単行本の文庫化です。文庫版訳者あとがきによれば、「今回はほぼ原訳を活かして復刊」したとのことです。「あらゆる社会はその全過程を究極的に意味づける象徴の体系、「聖なる天蓋」をもつ。〔…〕現象学的社会学の視点から論じられた宗教社会学の古典的名著」(カバー裏紹介文より)。バーガーはオーストリア出身のアメリカの社会学者で、昨年死去しています。著書の文庫化は『社会学への招待』(水野節夫/村山研一訳、ちくま学芸文庫、2017年7月)に続いて2点目です。

★『数学的に考える』は英国生まれの数学者デブリン(Keith Devlin, 1947-)が2012年に自費出版したオンデマンド版の教科書『Introduction to Mathematical Thinking』の全訳で、文庫のための訳し下ろしです。巻頭の「はじめに」によれば、高校数学から大学数学に進む際の「移行講座」の教科書が一般的に高額すぎるため、廉価なオンデマンド版にしたとのこと。第1章「数学とは何か」、第2章「言葉を厳密に使う」、第3章「証明」、第4章「数を巡る成果の証明」の全4章立てで、補遺として「集合論」が付されています。「21世紀を生きるすべての人々にとって、数学的な思考をある程度できた方が有利なのだ。(数学的思考には、いずれも重要な能力である「論理的な思考」、「分析的な思考」、「量を用いた推論」が含まれる。)というわけでわたしはこの本を、分析的な思考力を高めたい、高める必要があると考えているすべての人にとって役立つものにしようと考えた」(4頁)と著者は書いています。ビジネス書としてどんどん売っていい商材だと思います。

★続いて角川ソフィア文庫の11月新刊から3点。

西田幾多郎――言語、貨幣、時計の成立の謎へ』永井均著、角川ソフィア文庫、2018年11月、本体760円、176頁、ISBN978-4-04-400184-1
よくわかる日蓮宗 重要経典付き』瓜生中著、角川ソフィア文庫、2018年11月、本体960円、304頁、ISBN978-4-04-400368-5
図説 日本未確認生物事典』笹間良彦著、角川ソフィア文庫、2018年11月、本体1,200円、480頁、ISBN978-4-04-400443-9

★永井均『西田幾多郎』は、2006年にNHK出版から刊行された『西田幾多郎――〈絶対無〉とは何か』に加筆修正し、文庫化したもの。巻末に文庫版付論として「時計の成立――死ぬことによって生まれる今と、生まれることによって死ぬ今」が新たに付されています。第一章「純粋経験――思う、ゆえに、思いあり」、第二章「場所――〈絶対無〉はどこにあるのか」、第三章「私と汝――私は殺されることによって生まれる」の三章立てで、小伝や読書案内が付されています。コンパクトな入門書です。巻頭の「まえがき」にはこうあります。「本書を読めば、西田幾多郎をまったく知らない方でも西田哲学の核心へとまっすぐに導かれる、と私は確信するが、それはじつは西田の核心ではななく私(永井)の核心なのかもしれない。それらを区別することは私にはできない」(12頁)。

★『よくわかる日蓮宗』は瓜生中さんによる「よくわかる××宗」シリーズの最新刊で書き下ろし。目次詳細は書名のリンク先の「試し読み」でご覧いただけますが、章立てのみ確認しておくと、第一章「日蓮宗の基礎知識」、第二章「日蓮宗の主な経典」、第三章「日蓮の生涯と思想」、第四章「日蓮以降の日蓮宗」、第五章「日蓮宗の主要寺院」となっており、付録として「日蓮宗の年中行事と尊像」が配されています。同シリーズではこれまでに、浄土真宗、曹洞宗、真言宗、浄土集、などが出ています。

★笹間良彦『図説 日本未確認生物事典』は1994年に柏書房より刊行された同名単行本の文庫化。巻末に新たに湯本豪一さんによる解説が付されています。天狗、鬼、雪女、河童などを扱う「擬人的妖怪編」、霊亀などを扱う「魚と亀の変化(へんげ)」、龍やおろちなどを扱う「龍蛇類の変化」、きつね、むじな、ねこまた、ばくなどを扱う「獣類の変化」、ぬえや鳳凰などを扱う「鳥類の変化」、ひきがえる、おおむかで、つちぐもなどを扱う「湿性類の変化」の6部門。全部で114種類の妖怪や幻獣が、歴史的な文物から採られた図版とともに、古典的文献からの引用を交えて解説されています。

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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。

アナログの逆襲――ポストデジタル経済へ、ビジネスと発想はこう変わる』デイビッド・サックス著、加藤万里子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2018年12月、本体2,100円、四六判並製400頁、ISBN978-4-7726-9562-6
生命科学の未来――がん免疫治療と獲得免疫』本庶佑著、藤原書店、2018年12月、本体2,200円、B6変型判上製240頁、ISBN978-4-86578-202-8
オリンピックVS便乗商法――まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』友利昴著、作品社、2018年11月、本体2,400円、46判並製309+17頁、ISBN 978-4-86182-726-6
ポストモダン・ニヒリズム』仲正昌樹著、作品社、2018年11月、本体2,600円、46判上製320頁、ISBN978-4-86182-718-1
プラグマティズムの格率――パースとプラグマティズム』クリストファー・フックウェイ著、村中達矢/加藤隆文/佐々木崇/石田正人訳、春秋社、2018年11月、本体5,000円、四六判上製536頁、ISBN978-4-393-32362-5
聖書の情景』深井智朗著、春秋社、2018年11月、本体2,000円、四六判上製240頁、ISBN978-4-393-32378-6
カタストロフと美術のちから』森美術館編、平凡社、2018年11月、本体3,200円、A4変判並製208頁、ISBN978-4-582-20714-9

★サックス『アナログの逆襲』は『The Revenge of Analog: Real Things and Why They Matter』(PublicAffairs, 2016)の訳書です。著者のサックス(David Sax, 1979-)はカナダのジャーナリスト。書名のリンク先で目次とはじめにと日本語版解説を見ることができますが、とても興味深い内容なので、以下にも目次を転記しておきます。

はじめに――ポストデジタル経済へ
PART 1 アナログな「モノ」の逆襲
第1章 レコードの逆襲
第2章 紙の逆襲
第3章 フィルムの逆襲
第4章 ボードゲームの逆襲
PART 2 アナログな「発想」の逆襲
第5章 プリントの逆襲
第6章 リアル店舗の逆襲
第7章 仕事の逆襲
第8章 教育の逆襲
第9章 デジタルの先端にあるアナログ
おわりに 夏の逆襲

★「本書では、アナログの逆襲がどのように起きているかを二部に分けて探求している。/第1部の「アナログな「モノ」の逆襲」では、レコード、紙製品、フィルム、ボードゲームという新市場を考察し、時代に合わなくなったと言われたアナログ製品の製造・販売企業が、消費者の根本的な欲求を引き出して成功している例を紹介する。/第2部の「アナログな「発想」の逆襲」では、出版、小売、製造、教育業界、シリコンバレーの教訓をもとに、デジタル重視の経済のなかでアナログな発想が持つ革新的かつ破壊的な可能性とその恩恵を実証する」(19~20頁)。

★「重要なのは、デジタルかアナログのどちらかを選ぶことではない。私たちはデジタルの使用を通して、このように物事を極度に単純化する考え方に慣れてしまった。つまり、一かゼロか、黒か白か、サムスンかアップルか、という誤った二者択一だ。現実世界は、黒か白ではなく、グレーですらない。色とりどりで、触れたときの感覚に同じものはひとつもない。そこに、豊かな感情が幾重にも折り重なっている。そのなかで人間は、思ってもみない匂いに驚いたり、奇妙な味に顔をしかめながら、完全ではないことを大いに楽しんでいる。最高のアイデアはこの複雑さから紡ぎ出されるが、デジタル・テクノロジーにはまだそれを十分に再現する能力がない。いま、この現実世界がかつてなく重要になっている。/アナログの逆襲はこのごちゃまぜの現実のなせる業だ。テクノロジーの挑戦を受けながらも、そこから力を引き出している。テクノロジーにはひとつひとつ役割があり、生み出す結果もさまざまだ。アナログの逆襲から見えてくるのは、過去と共存しながらテクノロジーの未来を築く新しいポストデジタル経済である」(20頁)。


★本庶佑『生命科学の未来』は緊急出版。「免疫学との出会い、生物が免疫の多様化を実現する仕組みを解明した画期的研究、ノーベル賞受賞をもたらした抗体の発見に至る軌跡、そして、生命科学が世界的に注目されているなかでの基礎研究への投資の重要性など」(カバーソデ紹介文より)を、本庶さん自身が語ったもの。序は「序 ノーベル生理学・医学賞受賞にあたって」と題された挨拶文です。続く「PD‐1抗体発見への道のり――獲得免疫の驚くべき幸運とがん免疫治療」は、2016年11月11日に行われた京都賞受賞記念講演。「幸福の生物学」は2007年4月22日に行われた稲盛財団の第11回盛和スカラーズソサエティ総会講演。最後の「生命科学の未来」は、2014年4月8日に収録され『環』58号に掲載された、本庶さんと静岡県知事・川勝平太さんの対談です。

★次に作品社さんの新刊2点。友利昴『オリンピックVS便乗商法』はオリンピックの独占的商業利用権について教えてくれる一冊。「今や善良な市民であっても、オリンピックを利用しようとすれば、そのやり方次第では、誰もがIOC以下、オリンピック関連組織からのクレームにさらされる危険がある。〔…〕恐ろしいことに、本書で紹介するように、既に実例は多数存在するのだ」(3頁)。本書は「オリンピック組織が、これまでどのようなアプローチで自己の利益を拡大してきたのか、そのために他人がどのような犠牲を強いられてきたのかをできるだけ多くの具体例を紹介しながら総括し、それらを教訓として、正当行為に対するクレームや規制に、われわれはどのように向き合うべきかを考察している」(3~4頁)。「これは何もオリンピックに限った問題ではない。〔…〕あらゆる事業者にとって、市場競争において他人を排除し、自らの権利と利益の最大化を目指すことは自然な欲求であることから、こうしたアプローチは他のあらゆる産業においても波及し得るものである」(4頁)。

★仲正昌樹『ポストモダン・ニヒリズム』は1997年から2009年にかけて各媒体で発表されてきた論考12本をまとめ、書き下ろしの「ハーバーマスとデリダ――「言語行為」と「エクリチュール」をめぐるモダン/ポストモダンの鬩(せめ)ぎ合い」を加えたもの。この書き下ろしでは、ハーバーマスとデリダの対決だけでなく、サールとデリダの論争も論及されています。「「エクリチュール」と「コミュニケーション」の関係をめぐる問題は取り残されてしまった感が強い。〔…〕発話行為に伴う「力」に関心を持つ哲学者・社会学者は、[ハーバーマス+サールvs.デリダ]論争で提起されたものの、クリアにならなかった諸論点について、彼らのあとを引き継いで考え続けるべきだろう」(296頁)。

★続いて春秋社さんの新刊2点。フックウェイ『プラグマティズムの格率』は『The Pragmatic Maxim: Essays on Peirce and pragmatism』(Oxford University Press, 2012)の全訳。序文によれば本書は15年にわたる著者のパース哲学研究のうちの「いくらかを披露するもの」であり、『パース』(1985年、未訳)および『真理、合理性、そしてプラグマティズム』(2000年)に収録された著作を発展させたもの、とのこと。著者のフックウェイ(Christopher Hookway, 1949-)はイギリスを代表するパース哲学研究者で、シェフィールド大学名誉教授。既訳書には『クワイン――言語・経験・実在』(浜野研三訳、勁草書房、1998年)があります。2点目となる今回の訳書の目次を以下に列記しておきます。

目次:
日本語版に寄せて
序文
初出一覧
パースのテクストとその略号の一覧
序論 プラグマティズムの格率、科学の方法、表象
第1章 パースと懐疑論
第2章 可謬主義と探求の目標
第3章 真理・実在・収束
第4章 疑問表現と制御不可能なアブダクション
第5章 規範的論理学と心理学――心理主義を拒絶するパース
第6章 〈関係の形式〉――パースと数学的構造主義
第7章 「一種の合成写真」――プラグマティズム、観念、図式論
第8章 プラグマティズムと所与――C・I・ルイス、クワイン、パース
第9章 プラグマティズムの原理――パースの定式化と事例
第10章 論理的原理と哲学的態度――ジェイムズのプラグマティズムに対するパースの態度
第11章 いかにしてパースはプラグマティズムの格率を擁護したか
解説(佐々木崇/加藤隆文)
訳者あとがき(村中達矢)
文献表
人名索引

★深井智朗『聖書の情景』は聖書に登場する人物から26人を選んで紹介するエッセイ集。26人を掲載順に列記すると、アダム、バラバ、カイン、ダビデ、エステル、フェリクス、ギデオン、ヘロデ、イザヤ、イスカリオテのユダ、ヨブの娘ケツィア、ラザロ、モーセ、ノア、オバデア、ペトロ、キリニウス、ルツ、サロメ、トマス、ウジヤ、イサクの父アブラハム(Vater von Isaak)、ワシュティ、クセルクセス=アハシュエロス、あなた(You)、ザアカイ。お気づきかと思いますが、アルファベット26文字を表しています。「あなた」は苦肉の策というよりは、本質的な一章を成しています。「自分のための言葉だと知るときに、その言葉は生命を持つようになります。/聖書で語られる「あなた」が、「私」なのだと分かるとき、聖書の言葉が生きた言葉になります。そして私たちを聖書の中へと、神が聖書を通して語ろうとする世界へと誘います。八木重吉が言うように、ことばのうちがわにはいりこむ、のです」(203頁)。個人的には「ユダ」の善人ぶりへの言及が、現代人への強い戒めとして印象に残りました。

★『カタストロフと美術のちから』は、六本木ヒルズの森美術館が15周年記念展として好評開催中の「カタストロフと美術のちから展」(2018年10月6日~2019年1月20日)の図録を兼ねた書籍です。印象深かった作品は、ヘルムット・スタラーツさんやシヴァ・アフマディさんの絵画、武田慎平さんと米田知子さんの写真です。同書には論考として、星野太さんによる「疚しさについて――カタストロフと崇高」、J・J・チャールズワースさんによる「カタストロフは常に他人事か」、ゲリット・ヤスパー・シェンクさんによる「災害のイメージ――災害体験のアートとメディア化」などが掲載されています。

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# by urag | 2018-12-09 23:40 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 12月 07日

月曜社は2018年12月7日に、創業19年目を迎えました

月曜社は2018年12月7日に、創業19年目を迎えました。皆様のご愛顧に深く御礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。19年目の新刊1冊目は『森山大道写真集成』全5巻の第1回配本(第1巻)、『にっぽん劇場写真帖』となります。日販、トーハン、大阪屋栗田、ともに17日(月)取次搬入です。書店さんの店頭には20日頃から順次並び始める予定です(地域差や時間差があります)。サイン本を展開する書店さんもありますので、追ってツイッターで告知させていただきます。

# by urag | 2018-12-07 13:19 | ご挨拶 | Trackback | Comments(0)
2018年 12月 02日

注目新刊:『HAPAX 10 ニーチェ』夜光社、ほか

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HAPAX 10 ニーチェ』夜光社、2018年11月、本体1,500円、四六判変形218頁、ISBN978-4-906944-16-3
現代思想2018年12月号 特集=図書館の未来』青土社、2018年11月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1374-5

★『HAPAX』の記念すべき第10号はニーチェ特集で、今までで最大のヴォリュームです。特集への寄稿者は、鈴木創士、榎並重行(インタヴュー)、江川隆男、馬研究会、無回転R求道者達、混世博戯党、world's forgotten boy、ダニエル・コルソン、山本さつき、白石嘉治、の各面々。マルクスでもフロイトでもなくニーチェというのが絶妙です。特集の最初の頁には「ニーチェこそはアナーキーの極限であり、それ自身、たえざる蜂起であるからだ」と趣旨が述べられています。また、表紙ではHAPAXの二つ目のAとNietzscheのzのみが赤く塗られていて、ニーチェをめぐる思考の運動が示すふり幅の広さ(Aからzまで)を表しているかのようです。もっとも多くページが割かれているのは『ニーチェって何?――こんなことをいった人だ 』(新書y、2000年)や『ニーチェのように考えること――雷鳴の轟きの下で』(河出書房新社、2012年)の著者、榎並重行(えなみ・しげゆき:1949-)さんへの今年5月ないし6月に行われたHAPAX誌によるロング・インタヴュー「耳障りな声で――ある快楽懐疑者からの挨拶」。なお巻頭には「二人のギリシャのアナキスト」の談話とフランスの「革命的官能委員会」の論考を翻訳。ヨーロッパのアクティヴィズムの息遣いに触れることができます。

★なお、夜光社さんが6月に創刊した「民衆詩叢書」の第1弾、崔真碩『サラム ひと』の朗読ライブが以下の通り開催されるとのことです。

◎アサイラム ひと――詩集『サラム ひと』朗読ライブ
朗読と音楽:チェ・アンド・ザ・ヤコーシャ・ゴースト・ブルース・バンド/崔真碩(野戦之月)/行友太郎(中国文芸研究会)/相澤虎之助(空族)
日時:2018年12月15日(土曜日)午後5時開演
場所:イレギュラー・リズム・アサイラム(新宿区新宿1-30-12-302)
料金:投げ銭

★『現代思想』2018年12月号の特集は「図書館の未来」。同誌が「図書館」を特集名に冠するのはおそらく初めてのことではないでしょうか。「大学」について盛んに言及してきた同誌にとってみれば遅かれ早かれ着手しなければならなかった主題ではあるはずでしたから、注目すべき特集号です。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。個人的に特に興味深かったのは、新出「“公共”図書館の行方」、呑海沙織「多様性を許容する図書館――認知症にやさしい図書館について考える」、福島幸宏「これからの図書館員像――情報の専門家/地域の専門家として」など。福島さんは論考の末尾でこう述べておられます。「この特集全体が全力で主張しているように、「図書館の未来」は今の路線の先にはないことだけははっきりしている。「〈図書館員〉の未来」もまた同様であり、10年先の状況はだれにも不明である」。結論ありきではない各現場の苦闘と呻吟と希望を垣間見ることのできる良い特集号だと感じました。

★続いてここ最近に出会った新刊を列記します。

静寂と沈黙の歴史――ルネサンスから現代まで』アラン・コルバン著、小倉孝誠/中川真知子訳、藤原書店、2018年11月、本体2,600円、四六変判上製224頁、ISBN978-4-86578-199-1
都市のエクスタシー』山田登世子著、藤原書店、2018年11月、本体2,800円、四六判上製328頁、ISBN978-4-86578-200-4
メディア都市パリ』山田登世子著、藤原書店、2018年11月、本体2,500円、四六判上製320頁、ISBN978-4-86578-201-1
芸の心――能狂言 終わりなき道』野村四郎/山本東次郎著、笠井賢一編、藤原書店、2018年11月、本体2,800円、四六判上製240頁、ISBN978-4-86578-198-4
新装版 古代エジプト語基本単語集――初めてのヒエログリフ』西村洋子編著、平凡社、2018年11月、本体2,800円、A5判並製260頁、ISBN978-4-582-12727-0

★藤原書店さんの11月新刊は4点。コルバン『静寂と沈黙の歴史』は『Histoire du silence : De la Renaissance à nos jours』(Albin Michel, 2016)の全訳。「本書において、かつての静寂をよびおこし、静寂の探求、その手触り、規律、戦略、豊かさのありさまを描き出し、沈黙の言葉の力について述べることは、静黙することを、すなわち己であることを学び直すのに役立つかもしれない」(13頁)とコルバンは述べています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。訳者によれば本書は同氏が訳した『音の風景』(藤原書店、1997年)と対をなす姉妹篇と言えるだろうとのことです。本書の締めくくりとして、19世紀フランスの詩人ルコント・ド・リールの詩篇「世を破壊せん」が引かれているのが印象的です。

★山田登世子さんの2点『都市のエクスタシー』『メディア都市パリ』は、前者が8月刊『モードの誘惑』に続く単行本未収録論考集の第2弾。「異郷プロムナード」「メディア都市」「わたしの部屋」「世相を読む 2010-2016」「人物論」の5部構成。「日経新聞」夕刊に2000年の夏から冬にかけて連載された「プロムナード」や、「中日新聞」に2010年から2016年にかけて連載された「中日新聞を読んで」がまとまっているほか、様々な媒体で発表された論考やエッセイを読むことができます。人物論では、内田義彦、阿久悠、今村仁司、中沢新一、今福龍太の各氏が論じられています。内田さんをめぐっては6篇。

★後者『メディア都市パリ』は、1991年に青土社から単行本が刊行され、1995年にちくま学芸文庫の一冊として再刊されたものの、再度の単行本化。巻末の編集部付記には「文庫版の「後書き」と「解説」は収録していない」と特記されています。この文庫版解説というのは蓮實重彦さんによるもの。今回の藤原書店版の解説「『メディア都市パリ』――きまじめな解説」を書かれているのは、山田さんとも蓮實さんとも交友のある工藤庸子さん。工藤さんならでは視点からなされた、山田さんの「同時代的な〈批評〉の営み」に参画しようという秘かな野心」が本書に隠されている、との指摘は重要ではないでしょうか。工藤さんは羽鳥書店の「ハトリショテンだより」におけるウェブ連載「人文学の遠めがね」第14回「女のエクリチュール」(2018年11月2日)でも『メディア都市パリ』巻末の「ほんとうの後書き」(今回の藤原書店版にも収録)に言及されています。

★藤原書店さんの4点目『芸の心』は、観世流シテ方の野村四郎(のむら・しろう:1936-)さんと大蔵流狂言方の山本東次郎(やまもと・とうじろう:1937-)さんの対談本。編集部による「はじめに」に曰く「本書は、名実ともに現在の能界と狂言界を代表する訳者である〔…〕お二人が、三夜にわたって語り合った対話の記録である」と。2017年3月から同年4月にかけて収録。巻末には笠井賢一さんによる「補論 能・狂言の歴史」と「舞台作品解説」が付されているほか、家系図も掲載されています。山本さんは第三夜で「嫌いだった狂言が60歳近くになって大好きになり、いろんなことが見えてくるようになりました」(164頁)と発言されています。人生観というものが端的に表れた、味わい深い対談です。

★平凡社さんの新刊『新装版 古代エジプト語基本単語集』は1998年の初版、2004年の2刷を経ての新装版です。帯文に曰く「日本語で引ける初めての辞書」、「主要な文学作品や碑文に頻出する基本的な単語1324を収録」と。和文索引もあります。なお編著者の西村さんが運営するウェブサイト「古代エジプト史料館」は、Yahoo!ジオシティーズが2019年3月末でサービス提供終了のため閉鎖予定だとのことです。

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★続いてここ二か月ほどで注目してきた新刊をいくつか列記します。

制度とは何か──社会科学のための制度論』フランチェスコ・グァラ著、瀧澤弘和監訳、水野孝之訳、慶應義塾大学出版会、2018年11月、本体3,200円、四六判上製352頁、ISBN978-4-7664-2565-9
記憶の社会的枠組み』モーリス・アルヴァックス著、鈴木智之訳、ソシオロジー選書:青弓社、2018年11月、本体4,800円、A5判上製416頁、ISBN978-4-7872-3443-8
壁の向こうの住人たち――アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』A・R・ホックシールド著、布施由紀子訳、岩波書店、2018年10月、本体2,900円、四六並製464頁、ISBN978-4-00-061300-2
神学提要』トマス・アクィナス著、山口隆介訳、知泉学術叢書:知泉書館、2018年10/11月、本体6,000円、新書判上製522頁、ISBN978-4-86285-283-0

★『制度とは何か』は『Understanding Institutions: The Science and Philosophy of Living Together』(Princeton University Press, 2016)の全訳。イタリアの哲学者で実験経済学者のフランチェスコ・グァラ(Francesco Guala, 1970-)の、『科学哲学から見た実験経済学』(川越敏司訳、日本経済評論社、2013年;原書『The Methodology of Experimental Economics』Cambridge University Press, 2005)に続く、日本語訳第2弾です。目次と正誤表が書名のリンク先で公開されています。版元ウェブサイトでは未公開ですが、同所の冒頭には6頁にわたる「要旨付き目次」があり、全体を把握するのに便利です。著者はイントロダクションでこう述べます。「本書において、私は社会的存在論の分野における主要な伝統を統一する理論を提案し、この統一が意味するところを探究する。議論の途上において、私はもっぱら『人間の』社会性に焦点をあてる」(4頁)。「本書の大部分は、人間の制度とは何か、それらがどのように機能するか、なぜそれらは異なるのか、それらが私たちにとってどのような役に立つのかを理解することに焦点を当てている」(5頁)。哲学と社会科学の隔たりを埋める野心的な試みです。なお本書で言及されているジョン・R・サールの『社会的世界の制作――人間文明の構造』(三谷武司訳、勁草書房、2018年10月)は最近訳書が出たばかりで、先日当ブログでもご紹介しました。

★『記憶の社会的枠組み』は『Les cadres sociaux de la mémoire』(Librairie Félix Alcan, 1925)の全訳。底本はAlbin Michelより刊行された1994年版です。94版に加えられているジェラール・ナメールによる70頁に及ぶ「後記」は訳出されていませんが、訳者あとがきでその内容の一部が紹介されています。アルヴァックス(アルブヴァクスとも:Maurice Halbwachs, 1877-1945)はフランスの社会学者。「文学、心理学、哲学の領域で構成されてきた「記憶」への問いを、社会学のなかにはじめて明確な形で呼び込んだ」と訳者は紹介しています。また、訳者は本書について次のように説明しています。「記憶は個人心理のうちに閉じた現実ではなく、人々は他者との関係のなかで、社会集団の一員として過去を想起するのであり、記憶と想起の可能性は現在の社会生活の文脈に強く依存している。集団の生活のなかで想起される過去は、個人的事実としての記憶を構成するだけでなく、集団のメンバーによって「集合的記憶」として組織され、共同化されていく。「記憶の社会学」の起点となるこのテーゼを最初に打ち出した著作が『記憶の社会的枠組み』だった」(391頁)。本書にはベルクソンとの対決の痕跡が見られるとのことです。なおアルヴァックスの著書はこれまでに2点訳書が刊行されています。清水義弘訳『社会階級の心理学』(誠信書房、1958年)と、小関藤一郎訳『集合的記憶』(行路社、1989年)で、いずれも死後刊行の著作です。約30年ぶりとなる今回の訳書は生前に刊行されたもの。

★『壁の向こうの住人たち』は『Strangers in Their Own Land: Anger and Mourning on the American Right』(The New Press, 2016)の訳書。目次詳細と立ち読みPDFは書名のリンク先で公開されています。「アメリカ保守派の心へ向かう旅」(ix頁)である本書において、著者は保守派を支持する一般の人々を取材し、彼らの人生経験を取材します。「わたしたちは、川の“向こう側”の人に共感すれば明快な分析ができなくなると思い込んでいるが、それは誤りだ。ほんとうは、橋の向こう側に立ってこそ、真に重要な分析に取り掛かれるのだ」(xi頁)。「英語圏の文化のハーモニーに欠けている音を取り戻すべきだと思っている。米国が〔左派と右派に〕二極化し、わたしたちが単におたがいを知らないという実態だけが進んでいけば、嫌悪や軽蔑といった感情がやすやすと受け入れられるようになってしまうだろう」(同頁)。日本にとっても他人事ではない分析ではないでしょうか。帯文には朝日新聞ニューヨーク特派員の金成隆一さんのこんな推薦文が掲げられています。「読んでいて私は南部で取材した支持者の顔を次々と思い出した。トランプ誕生の土壌をこれほど深くえぐった作品を私は知らない」。ホックシールド(Arlie Russell Hochschild, 1940-)はアメリカの社会学者。感情社会学の先駆者で、著書に『セカンド・シフト 第二の勤務――アメリカ 共働き革命のいま』田中和子訳、朝日新聞社、1990年)、『管理される心――感情が商品になるとき』(石川准/室伏亜希訳、世界思想社、2000年)、『タイム・バインド――働く母親のワークライフバランス:仕事・家庭・子どもをめぐる真実』(坂口緑/中野聡子/両角道代訳、明石書店、2012年)などがあります。

★『神学提要』は『Compendium Theologiae ad fratrem Reginaldum socium suum carissimum』の訳書。底本は『Opuscula Theologica vol.I』(Marietti, 1954)所収の当該テキストです。「本書は、神が人間に特別な配慮をしていること、そして、天国での至福が本質的かつ絶大なものであること、聖書からの引用を重ねつつ縷々書き連ねる。そして、天国への希望がかなえられうることは、「明らかな実例によって示される」と言う。そして、その文を最後に執筆が途絶しているため、この実例が何であると本書が言おうとしていたのか、誰にも分らない。しかし、この文言によりトマスが、人間の希望がかなえられることに「明らかな実例」があると信じていたことが分かる」(478頁)と訳者は「解説」で説明しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお、同訳書は10月に第1刷が刊行され、11月に第2刷が発行されています。第1刷は先に引用した訳者解説が収録されていないので要注意です。なお、第1刷は書店ないし版元が第2刷に交換してくれる旨、版元から告知が出ています(私の場合は交換せず、両方購入しました)。『神学提要』はシリーズ「知泉学術叢書」の第5弾で、第4弾はJ-P・トレル『トマス・アクィナス 人と著作』(保井亮人訳、知泉学術叢書:知泉書館、2018年10月、本体6,500円、新書判上製760頁、ISBN978-4-86285-280-9;原著『 Initiation à Saint Thomas d'Aquin : Sa personne et son oeuvre』Cerf, 1993;第3版、2008年)でした。続刊予定として、同じくトレルの『トマス・アクィナス 霊性の大家』(原著1996年)や、マルティン・ルター『後期スコラ神学批判文書集』(金子晴勇訳)が予告されています。

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# by urag | 2018-12-02 22:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 11月 30日

「図書新聞」にマラルメ『詩集』の書評

「図書新聞」2018年12月8日号に弊社8月刊、マラルメ『詩集』(柏倉康夫訳)についての書評「ジャーナリズムへと戻る回路――長年のマラルメ研究に一つの区切り」が掲載されました。評者は早稲田大学政治経済学術院の岡山茂教授です。

# by urag | 2018-11-30 23:28 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2018年 11月 25日

注目新刊:國分功一郎『100分 de 名著 スピノザ『エチカ』』、ほか

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★まずまもなく発売となる新刊の中から注目書をご紹介します。

デリダと死刑を考える』高桑和巳編著、鵜飼哲/江島泰子/梅田孝太/増田一夫/郷原佳以/石塚伸一著、白水社、2018年11月、本体3,000円、4-6判並製256頁、ISBN978-4-560-09671-0
アナザー・マルクス』マルチェロ・ムスト著、江原慶/結城剛志訳、堀之内出版、2018年11月、本体3,500円、四六判並製506頁、ISBN978-4-909237-37-8
資本主義の歴史――起源・拡大・現在』ユルゲン・コッカ著、山井敏章訳、人文書院、2018年12月、本体2,200円、4-6判並製230頁、ISBN978-4-409-51080-3
アートとは何か――芸術の存在論と目的論』アーサー・C・ダントー著、佐藤一進訳、人文書院、2018年11月、本体2,600円、4-6判並製240頁、ISBN978-4-409-10040-0
帰還――父と息子を分かつ国』ヒシャーム・マタール著、金原瑞人/野沢佳織訳、人文書院、2018年11月、本体3,200円、4-6判上製312頁、ISBN978-4-409-13041-4
昭和戦争史講義――ジブリ作品から歴史を学ぶ』一ノ瀬俊也著、人文書院、2018年11月、本体1,800円、4-6判並製242頁、ISBN978-4-409-52070-3

★『デリダと死刑を考える』は、2017年10月7日に慶應義塾大学日吉キャンパスで行われた同名シンポジウムの発表内容をもとにしつつ、新たに書き下ろされた論文集。デリダの講義録『死刑Ⅰ』(高桑和巳訳、白水社、2017年)をきっかけに編まれたものです。収録論考は6本。鵜飼哲「ギロチンの黄昏──デリダ死刑論におけるジュネとカミュ」、江島泰子「ヴィクトール・ユゴーの死刑廃止論、そしてバダンテール──デリダと考える」、梅田孝太「デリダの死刑論とニーチェ──有限性についての考察」、増田一夫「定言命法の裏帳簿──カントの死刑論を読むデリダ」、郷原佳以「ダイモーンを黙らせないために──デリダにおける「アリバイなき」死刑論の探求」、石塚伸一「デリダと死刑廃止運動──教祖の処刑の残虐性と異常性」。高桑さんはイントロとなる「はじめに」を書かれています。石塚論文ではオウムについて論及があります。つい先日発売となった論集『オウムと死刑』(河出書房新社、2018年11月)の重要な参照項になると思われます。

★ムスト『アナザー・マルクス』は、『Another Marx: Early Manuscripts to the International』(Bloomsbury, 2018)と『L'ultimo Marx: 1881-1883. Saggio di biografia intellettuale(The Last Marx, 1881-1883: An Intellectual Biography)』(Donzelli Editore, 2016)の二著を、著者による合本版原稿から訳出したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。マルチェロ・ムスト(Marcello Musto, 1976-)はイタリア生まれのマルクス研究者で、現在はトロントのヨーク大学准教授。単独著としては本書が初訳になります。『Another Marx』をめぐってはウォーラーステインやボブ・ジェソップ、ジョン・ベラミー・フォスターらが賞讃を寄せています(英語原文は本書の裏表紙に印刷され、訳文は書名のリンク先で公開中)。新しいマルクス=エンゲルス全集である新MEGA版の刊行によって刷新されつつあるマルクス像の諸側面に迫る本書は、マルクス研究の最先端から生まれた成果です。マルクス生誕200周年である2018年の掉尾を飾るにふさわしい新刊ではないでしょうか。

★人文書院さんの近日発売より4点に注目。コッカ『資本主義の歴史』は『Geschichte des Kapitalismus』の全訳。原著は初版が2013年にBeckより刊行されており、今回の底本となっている改訂版である第三版は2017年に刊行されています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。コッカ(Jürgen Heinz Kocka, 1941-)はドイツの歴史家で日本でもよく知られた碩学。帯文は次の通りです。「歴史学の大家による、厳密にして明晰、そして驚くほどコンパクトな資本主義通史。その起源から現代の金融資本主義に至る長大な歴史と、アダム・スミス、マルクス、ヴェーバーからシュンペーター、ポメランツに至る広範な分析理論までが一冊に凝縮。世界史的視野と、資本主義の本質に迫る深い考察が絡み合い、未来への展望をも示唆する名著。世界9か国で翻訳されたベストセラー。通史の決定版」。

★日本語版への序言でコッカはこう書いています。「資本主義をめぐる論争は、今日の世界の喫緊の諸問題――グローバル化、気候変動、貧困、社会的不平等、進歩の意味と進歩が人間にもたらすコスト――についての議論に扉を開きうる。近代、そしてそれがもたらすチャンスと危機を理解するには、資本主義の本質への洞察が不可欠である。資本主義の長期の歴史を知ることは、現在の資本主義を理解する助けとなる」(i頁)。

★「本書は、資本主義の諸定義、古代から現代にいたるその発展と批判のコンパクトな概観を提供する。そこで資本主義は、経済システム、あるいは、社会的・文化的・政治的諸条件ならびに諸帰結を伴う経済行為と理解されている。本書では、商人資本主義、農業資本主義、工業資本主義、金融資本主義というような資本主義のさまざまなタイプが区別される。資本主義は、イノベーションと成長の原動力として、しかしまた危機と搾取、疎外の源泉として議論される。資本主義における労働、市場と国家、企業家と企業、そしてここ数十年の間に進展した金融化などのテーマが論じられる。本書はまた、精神史・文化史のテーマとしての資本主義についても論じている。西洋における資本主義の展開が記述の前面に出てはいるが、しかし資本主義のグローバルな諸次元、グローバルな拡大も軽視されてはいない。とくに市場と国家の関係について、北米、ヨーロッパ、東アジアの状況の相違が明らかにされている」(ii-iii頁)。

★『アートとは何か』は美学・芸術論、歴史物語論、哲学といった幅広い分野で優れた業績を残したアメリカの学者ダントー(Arthur Coleman Danto, 1924-2013)の遺作『What Art Is』(Yale University Press, 2013)の全訳に、1984年の論考「The End of Art」の翻訳を併録したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著書は80年代から翻訳されていますが、芸術論関連のものはようやく近年になって訳されてきています。「アートワールド」(原著1964年;邦訳2015年、『分析美学基本論文集』所収、勁草書房)、『ありふれたものの変容――芸術の哲学』(原著1981年;邦訳2017年、慶應義塾大学出版会)『芸術の終焉のあと――現代芸術と歴史の境界』(原著1997年;邦訳2017年、三元社)などがそれで、今回訳出された「アートの終焉」(原著1984年)もまた、翻訳が望まれていたものです。訳者は本書を、欧米を中心とする古今の著名な芸術作品の数々を引きつつ、きわめて簡潔かつ強力に、明快な回答を試みた一書として高く評価しています。

★『帰還』はイギリス在住の作家マタール(Hisham Matar, 1970-)の回想録『The Return: Fathers, Sons, and the Land in Between』(Random House, 2016)の翻訳。「マタールが故国リビアに「帰還」した旅の記録であると同時に、そこへ至るまでの家族の歴史と、彼自身の心の軌跡を綴った作品である。ノンフィクションでありながら、ときに抒情的に、ときにシニカルに、ときに激しい憤りをこめて語られるストーリーは、美しい情景描写やリアルな人物描写ともあいまって、まるで小説のようでもある」と訳者は説明しています。反体制運動のリーダーだった父の行方を追う苦い体験が綴られた本書は、オバマ前大統領やカズオ・イシグロらから賞讃され、ピューリッツァー賞の伝記部門を2017年に受賞したのをはじめ、多くの文学賞を獲得しています。

★一ノ瀬俊也『昭和戦争史講義』はジブリの映画作品を読み解きつつ昭和期の戦争史を理解しようという試み。「風立ちぬ」2013年、「紅の豚」1992年、「火垂るの墓」1988年などが取り上げられます。これらの映画はフィクションであるわけですが、「過去/事実としての昭和史を学ぶ上での手がかりとなりそうな描写が、物語の各所にたくさんある」(11頁)と著者は指摘します。これらの「「歴史ファンタジー」〔…〕の空白や背景を、近現代の歴史資料を用いながら埋めたり書き込んでいくこと〔…〕。なぜ戦争は起こり、その結果どうなったのかを物語の展開に添って考えることで、過去の歴史と作品世界の両方をより深く、広く理解できるようになりたい」(13頁)と。全15講のうち、最終講では、「となりのトトロ」「コクリコ坂から」「平成狸合戦ぽんぽこ」などを用いて「戦後の1950年代後半から60年代を通じて起こった高度経済成長についてもふれ」(10頁)ています。

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★続いてここ最近の注目新刊を列記します。

100分 de 名著 スピノザ『エチカ』――「自由」に生きるとは何か』國分功一郎著、NHKテキスト:NHK出版、2018年12月、本体524円、A5判並製116頁、ISBN978-4-14-223093-8
ウンベルト・エーコの世界文明講義』ウンベルト・エーコ著、和田忠彦監訳、石田聖子/小久保真理江/柴田瑞枝/高田和広/横田さやか訳、河出書房新社、2018年11月、本体4,600円、46変形判上製440頁、ISBN978-4-309-20752-0』
国民論 他二篇』マルセル・モース著、森山工編訳、岩波文庫、2018年11月、本体900円、320頁、ISBN978-4-00-342282-3
中世の秋』上巻、ホイジンガ著、堀越孝一訳、中公文庫、2018年11月、本体各1,200円、464頁/480頁、ISBN978-4-12-206666-3
随筆 本が崩れる』草森紳一著、中公文庫、2018年11月、本体880円、312頁、ISBN978-4-12-206657-1
季刊iichiko 第140号:ラカンの剰余享楽/サントーム』文化科学高等研究院出版局、2018年10月、本体1,500円、A5判並製128頁、ISBN978-4-938710-39-2
くるみ割り人形』E・T・A・ホフマン作、サンナ・アンヌッカ絵、小宮由訳、アノニマ・スタジオ:KTC中央出版、2018年10月、本体2,600円、菊判変型上製96頁、ISBN978-4-87758-788-8

★國分功一郎『100分 de 名著 スピノザ『エチカ』』はNHK Eテレで来月放送予定のテレビ番組「100分 de 名著」のテキストです。目次は以下の通り。

[はじめに]ありえたかもしれない、もうひとつの近代
第1回:善意(12月3日放送/5日再放送)
第2回:本質(12月10日放送/12日再放送)
第3回:自由(12月17日放送/19日再放送)
第4回:真理(12月24日放送/26日再放送)

★「はじめに」で國分さんはこう書かれています。「現代へとつながる制度や学問がおよそ出そろい、ある一定の方向性が選択されたのが十七世紀なのです。/スピノザはそのように転換点となった世紀を生きた哲学者です。ただ、彼はほかの哲学者たちとは少し違っています。スピノザは近代哲学の成果を十分に吸収しつつも、その後近代が向かっていった方向とは別の方向を向きながら思索していたからです。やや象徴的に、スピノザの哲学は、「ありえたかもしれない、もうひとつの近代」を示す哲学であると言うことができます。/そのようにとらえる時、スピノザを読むことは、いま私たちが当たり前だと思っている物事や考え方が、決して当たり前ではないこと、別の在り方や考え方も充分にありうることを知る大きなきっかけとなるはずです」(5~6頁)。

★「スピノザを理解するには、考えを変えるのではなて、考え方を変える必要があるのです。そのことの意味を、全四回を通じて説明していきたいと思います。/番組とテキストは『エチカ』の主要な四つの概念を紹介する形で進めていきます。手元に『エチカ』があるとより分かりやすいかもしれませんが、必須ではありません。また哲学の前提知識も必要ありません」(7頁)。また、テキストの最後のまとめには次のような言葉があります。「スピノザは世の中の人がもっと自由に生きられるようにと願って『エチカ』を書いたのです」(115頁)。すでに準備済の書店さんもおいでになることと思いますが、来月はスピノザ周辺を中核とした「17世紀フェア」を店頭で行うにはもってこいのタイミングになると思います。

★『ウンベルト・エーコの世界文明講義』は『Sulle spalle dei giganti〔巨人の肩に乗って〕』(La Nave di Teseo, 2017)の翻訳。エーコが2001年から2015年にかけてイタリアの文化芸術祭「ミラネジアーナ・フェスティヴァル」において行ってきた講演・講義の記録です。美麗なカラー図版を100点以上収録。目次は以下の通りです。丸括弧内は発表年。

巨人の肩に乗って(2001年)
美しさ(2005年)
醜さ(2006年)
絶対と相対(2007年)
炎は美しい(2008年)
見えないもの:アンナ・カレーニナがベーカー街に住んでいたというのはなぜ偽りなのか(2009年)
パラドックスとアフォリズム(2010年)
間違いを言うこと、嘘をつくこと、偽造すること(2011年)
芸術における不完全のかたちについて(2012年)
秘密についてのいくらかの啓示(2013年)
陰謀(2015年)
聖なるものの表象(2009年?)

★東洋書林から刊行されているエーコの一連の編著書『美の歴史』原著2004年/邦訳2005年、『醜の歴史』原著2007年/邦訳2009年、『芸術の蒐集』原著2009年/邦訳2011年、『異世界の書』原著2013年/邦訳2015年、は、これらの講演と並行して上梓されており、関連性もあります。ちなみに河出文庫の今月新刊にはエーコの小説『ヌメロ・ゼロ』があります。

★モース『国民論 他二篇』は『贈与論』(吉田禎吾/江川純一訳、ちくま学芸文庫、2009年)、『贈与論 他二篇』(森山工訳、岩波文庫、2014年)に続く、文庫で読めるモースの著書の3点目。モースの社会主義思想家としての側面を示す3篇、「ボリシェヴィズムの社会学的評価」1924年、「国民論」1953~54年、「文明──要素と形態」1930年、を収録。いずれも本邦初訳で、日本語オリジナル編集です。「文明」はもともと1929年5月に行われたシンポジウムにおける口頭発表。訳者解説「国民の思想家としてのマルセル・モース」には本書編纂の意図が次のように明かされています。「民族学者・社会学者モースと、社会主義者であり、政治=社会論的な思想家でもあったモース。二人のモースはどのように交差していたのであろうか。本書は、第一次世界大戦後の欧州状況のなかでこの二人のモースが交差する、そのありようを示すと思われ、その観点から重要性を有すると考えられる論考を三篇選んだものである」。

★ホイジンガ『中世の秋』上下巻は、1976年刊行の文庫版上下巻の改版。中公文庫プレミアム「知の回廊」シリーズの最新刊。原著は1919年刊。帯文はこうです。「刊行から100年、流麗な筆致で語られる、ヨーロッパ中世に関する画期的研究書」。江藤淳さんの言葉が推薦文として帯裏に惹かれています。「歴史をある厳しい完了としてとらえること。しかもそれをささいな手がかりをたよりに内側からとらえること。それが『中世の秋』におけるホイジンガを支えた叡知である」。

★第一版緒言でホイジンガはこう書いています。「この書物は、十四、五世紀を、ルネサンスの告知とはみず、中世の終末とみようとする試みである。中世文化は、このとき、その生涯の最後の時を生き、あたかも思うがままに伸びひろがり終えた木のごとく、たわわに実をみのらせた。古い思考の諸形態がはびこり、生きた思想の核にのしかぶさり、これをつつむ、ここに、ひとつの豊かな文化が枯れしぼみ、死に硬直する――、これが、以下のページの主題である。この書物を書いていたとき、視線は、あたかも夕暮れの空の深みに吸い込まれているかのようであった。ただし、その空は血の色に赤く、どんよりと鉛色の雲が重苦しく、光はまがいでぎらぎらする」(9頁)。「あるうることなのだ。衰えゆくもの、すたれゆくもの、枯れゆくものにいつまでも目を奪われがちな人の著述には、ややもすれば濃すぎるほどに、死が、その影を落としている」(同頁)。

★巻末の編集付記によれば、上巻は同文庫23刷(2014年2月)を底本とし、中公クラシックス版第Ⅰ巻(2001年4月)を参照、下巻は同文庫18刷(2011年5月)を底本とし、中公クラシックス第Ⅱ巻(2001年5月)を参照したとのことです。旧版巻末の原注と訳注は各章末に移設されています。下巻巻末にはホイジンガの使用した各種年代記や日記など史料の紹介と、ホイジンガの誕生から逝去、没後数年までの年譜、参考文献、索引、訳者解説(旧版のまま)が収められています。来現1月には高橋英夫訳『ホモ・ルーデンス』の改版が同シリーズから発売予定とのことです。

★草森紳一『随筆 本が崩れる』は、文春新書の一冊として2005年に刊行されたものの文庫化で、加筆修正の入った二刷を底本としたとのこと。附録として新たに5篇「魔的なる奥野先生」「本棚は羞恥する」「白い書庫 顕と虚」「本の精霊」「本の行方」が増補されています。うずたかく積まれたり雪崩を起こしたりしている本の写真の数々は壮絶です。巻末解説は平山周吉さんによる、親愛の情に満ちた「六万二千冊の「蔵書にわれ困窮すの滑稽」」。

★『季刊iichiko』第140号は、特集「ラカンの剰余享楽/サントーム」。特集内の収録論考は以下の通り。新宮一成「剰余享楽のある風景――ヘーゲル、ラカン、マルクス」、上尾真道「サントームについて――ラカンとジョイスの出会いは何をもたらしたか」、河野一紀「ボロメオ的身体と他者たちとの紐帯」、山本哲士「「ではない」ことの存在:ラカン理論のsinthomeへ(1)」、岡田彩希子「生きることの空白と目覚め――ラカンの対象a概念と産出物としてのその運命」、古橋忠晃「ラカンの観点から見た、現代社会の病理の一つである「ひきこもり」について」、松本卓也「享楽社会とは何か?」。松本さんの論文は、ご自身の著書『人はみな妄想する』から『享楽社会論』への道のりを説明するとともに、フーコー、ドゥルーズ、ラカンの議論を援用し、享楽社会とは何かについてさらに掘り下げたもの。

★ホフマン『くるみ割り人形』は、フィンランドのアパレル企業「マリメッコ」のデザイナーをつとめるサンナ・アンヌッカの挿絵による絵本シリーズの第3弾。これまでに、アンデルセン『モミの木』が2013年に、同じくアンデルセンの『雪の女王』が2015年に刊行されています。原書は『The Nutcracker』(Hutchinson, 2017)です。アンヌッカのイラストはどれも美しいので、プレゼント向きでもあるでしょう。ディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」の世界観が好きな方はアンヌッカの絵本シリーズもきっと気に入るだろうと思います。

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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。

ライプニッツ著作集 第I期 新装版[4]認識論:人間知性新論 上』G・W・ライプニッツ著、谷川多佳子/福島清紀/岡部英男訳、工作舎、2018年11月、本体8500円、A5判上製344頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-498-9
ライプニッツ著作集 第I期 新装版[5]認識論:人間知性新論 下』G・W・ライプニッツ著、谷川多佳子/福島清紀/岡部英男訳、工作舎、2018年11月、本体9500円、A5判上製392頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-499-6
抽象の力――近代芸術の解析』岡﨑乾二郎著、亜紀書房、2018年11月、本体3,800円、A5判上製440頁、ISBN978-4-7505-1553-3
アメリカ』橋爪大三郎/大澤真幸著、河出新書、2018年11月、本体920円、352頁、ISBN978-4-309-63101-1
考える日本史』本郷和人著、河出新書、2018年11月、本体840円、256頁、ISBN978-4-309-63102-8
『歴史の中の感情――失われた名誉/創られた共感』ウーテ・フレーフェルト著、櫻井文子訳、東京外国語大学出版会、2018年11月、本体2,400円、四六判上製272頁、ISBN978-4-904575-69-7
百人一首に絵はあったか――定家が目指した秀歌撰』寺島恒世著、ブックレット〈書物をひらく〉16:平凡社、2018年11月、本体1,000円、A5判並製96頁、ISBN978-4-582-36456-9
歌枕の聖地――和歌の浦と玉津島』山本啓介著、ブックレット〈書物をひらく〉17:平凡社、2018年11月、A5判並製124頁、ISBN978-4-582-36457-6
ドイツ装甲部隊史――1916-1945』ヴァルター・ネーリング著、大木毅訳、作品社、本体5,800円、A5判上製512頁、ISBN978-4-86182-723-5

★新装版『ライプニッツ著作集 第I期』全10巻の第2回配本は、第4巻と第5巻の『人間知性新論』上下巻です。同書はジョン・ロックの『人間知性論』への反駁として書かれた対話篇で、ロックの立場を代弁するフィラレートと、ライプニッツの思考を開陳するテオフィルが議論を交わします。第4巻(上巻)には序文、第1部「生得的概念について」、第2部「観念について」を収め、巻末には谷川多佳子さんによる解説小論「微小表象の示唆――『人間知性新論』瞥見」と、人物相関図である「17・18世紀西欧思想関係図」が配しています。第5巻(下巻)には第3部「言葉について」、第4部「認識について」を収め、巻末には福島清紀さんによる「『人間知性新論』再興への一視点」と、岡部英男さんによる「観念と記号論的認識」の2篇の解説小論を併載するとともに、事項索引と人名索引を完備しています。なお現在、代官山蔦屋書店の人文書売場では訳者の福島清紀(ふくしま・きよのり:1949-2016)さんの遺著『寛容とは何か』(工作舎、2018年4月)を中心としたブックフェア「寛容から多様性を考える」が開催されています。

★岡﨑乾二郎『抽象の力』は前著『ルネサンス 経験の条件』(筑摩書房、2001年;文春学藝ライブラリー、2014年)以来、実に17年ぶりとなる単独著です。表題作は、2017年4月から6月にかけて豊田市美術館で開催された特別展「岡﨑乾二郎の認識 ― 抽象の力 ― 現実(concrete)展開する、抽象芸術の系譜」のカタログに掲載された論考を大幅に加筆修正したもの(第Ⅰ部「抽象の力 本論」)。続く第Ⅱ部「抽象の力 補論」には、書き下ろしの2篇(熊谷守一論、夏目漱石論)と内間安瑆論を含む全5篇を収め、第Ⅲ部「メタボリズム-自然弁証法」では白井晟一論3篇とイサム・ノグチ論を含む全5篇、第Ⅳ部「具体の批評」では美術評論家連盟による論集『美術批評と戦後美術』(ブリュッケ、2007年)に岡﨑さんが寄せた鋭利な論考「批評を招喚する」が加筆修正されて収められています。高階秀爾さんや浅田彰さんの推薦文は書名のリンク先でご覧いただけます。なお本書の続編がやはり「近代芸術の解析」という主題のもと、書き継がれていく予定だそうです。

★本書の刊行を記念して以下のトークイベントが予定されています。

岡﨑乾二郎『抽象の力(近代芸術の解析)』の解説と分析
日時:2018年12月1日(土)14:00–17:00(13:30開場、途中休憩あり)
会場:港まちポットラックビル 1F(愛知県名古屋市)
定員:80名(当日13:00から整理券を配布します)。

近代芸術はいかに展開したか?その根幹を把握する。
日時:2019年1月12日(土)14:00~15:30(13:30開場)
会場:青山ブックセンター本店大教室(東京都港区)
定員:110名(要予約)

★河出新書が約60年ぶりの再始動。第1回配本は橋爪大三郎さんと大澤真幸さんの対談本『アメリカ』と、テレビでよくお見かけする本郷和人さんの『考える日本史』。橋爪さんは日本がアメリカの本質を理解できていないと指摘します。対談ではキリスト教とプラグマティズムに焦点を絞って分析し、最後には人種差別、社会主義への嫌悪、そして日米関係にも切り込みます。本郷さんは編集部から出された8つのお題「信、血、恨、法、貧、戦、拠、、知」とご自身が提示した2つのお題「三、異」の合計10題をめぐって即興でお話しになっています。どちらも話し言葉に近いせいか読みやすいです。河出新書は不定期刊。続刊予定はプレスリリースの末尾で予告されています。

★フレーフェルト『歴史の中の感情』は『Emotions in History: Lost and Found』(Central European University Press, 2011)の翻訳。ブダペストの中央ヨーロッパ大学で2006年から毎年行われている、ナタリー・ゼーモン・デイヴィス記念講演の2009年における発表が本書のもととなっています。目次詳細は出版会のブログをご覧ください。フレーフェルト(Ute Frevert, 1954-)はドイツの歴史家。2008年、ベルリンのマックス・プランク人間発達研究所内に感情史研究センターを創設し、センター長を務めています。本書はそのセンターの最初期の成果でもあります。フレーフェルトの既訳には『ドイツ女性の社会史――200年の歩み』(若尾祐司ほか訳、晃洋書房、1900年)があるほか、直近では岩波書店の月刊誌『思想』2018年8月号(特集=感情の歴史学)において論文「屈辱の政治――近代史における恥と恥をかかせること」が翻訳されています。今回の新刊に解説「なぜ今、感情史なのか」を寄せておられる伊東剛史さんは『痛みと感情のイギリス史』(東京外国語大学出版会、2017年)という共編著を上梓されています。

★平凡社のブックレット「書物をひらく」の最新刊は2点同時発売。『百人一首に絵はあったか』は題名通り、現代人が競技かるたや坊主めくりなどで親しんでいるような歌仙絵を百人一首が成立当初から伴なっていたのかどうかに迫るもの。寺島さんの研究では絵が当初から存在した可能性が高いとのことです。『歌枕の聖地』は副題にある通り、和歌に長く詠まれてきた現・和歌山市の名所「和歌の浦と玉津島」の文学史をたどるもの。歴史的には地形の変化を経ながらも、上代、平安期、中世、戦国末期から近世まで、心の風景として詠み継がれたその歴史がひもとかれます。

★ネーリング『ドイツ装甲部隊史』は『Die Geschichte der deutschen Panzerwaffe. 1916–1945』(Propyläen-Verlag, 1969)のドイツ語原典からの初訳。類書は複数ありますが、装甲部隊の創設に尽力し第二次大戦の東部戦線において軍団長や司令官も務めたネーリング(Walther Nehring, 1892-1983)によるこの回想録は「本書を抜きにして戦車(パンツァー)を語れない不朽の古典」(帯文より)と目されているものです。第一部「新兵科線上に赴く」、第二部「第一次大戦後におけるドイツ装甲部隊の再建と組織――1926~1945年」、第三部「第二次世界大戦におけるドイツ装甲部隊――1939~1945年」の3部構成。職官表や命令書、報告書など、付録も充実。

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# by urag | 2018-11-25 23:52 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)