2019年 06月 30日
『アベル・サンチェス』ミゲル・デ・ウナムーノ著、富田広樹訳、幻戯書房、2019年6月、本体3,000円、四六変上製264頁、ISBN978-4-86488-171-5 『フェリシア、私の愚行録』ネルシア著、福井寧訳、幻戯書房、2019年6月、本体3,600円、四六変上製496頁、ISBN978-4-86488-172-2 ★幻戯書房の世界文学シリーズ「ルリユール叢書」の第1回配本2点が発売となりました。「幻戯書房NEWS」ブログでも公開されている「発刊の言」には「〈ルリユール叢書〉は、どこかの書棚でよき隣人として一所に集う──私たち人間が希望しながらも容易に実現しえない、異文化・異言語・異人同士が寛容と友愛で結びあうユートピアのような──〈文芸の共和国〉を目指します」と謳われています。刊行予定のラインナップは戦後の各社の世界文学シリーズのどれにも似ていません。新しい景色、こうした驚きこそを待っていた読者もいらっしゃるのではないでしょうか。古典の新訳も素晴らしいですが、未訳に留まっている作品も膨大にあります。未知のものに挑戦する姿勢を出版人は失ってはならないと感じるだけに、今回のシリーズには(新訳を含みますが)非常に意欲的なものを感じます。46判より左右が短いスマートな判型、色鮮やかな表紙、カバー、オビで、天地が短かめのカバーの上部に、表紙へ箔押しされた叢書名とシンボルマークが覗くのも美しいです。書斎に加えたくなるコレクションとなるはずです。 ★『アベル・サンチェス』は『Abel Sánchez』(segunda edición, Madrid: Renacimiento, 1928)の全訳。ミゲル・デ・ウナムーノ(Miguel de Unamuno y Jugo, 1864-1936)はスペイン出身の思想家であり作家。訳書には『ウナムーノ著作集』全5巻(法政大学出版局、1972~1975年)のほか、複数の日本語訳がありますが、今回刊行された本作は以下の帯文にある通り初訳です。「20世紀スペインを代表する情熱の哲学者が現代に甦らせたカインとアベルの物語。魂の闇の臨床記録。本邦初訳」。「そうです、私は人間の自由を信じないのです。そして自由を信じないものは自由ではありません。そう、私はそうではないのです! 自由であるとは、自由であると信じることだ!」(98頁)。 ★『フェリシア、私の愚行録』は『Félicia ou Mes Fredaines, orné de figures en taille-douce』(Paris: Cazin, 1782)の訳書。ネルシア(André-Robert Andréa de Nerciat, 1739-1800)はフランスの小説家。前世紀にアポリネールによりフランス国立図書館の名高い禁書保管庫「地獄〔ランフェール〕」から再発見されたのが本作で、禁書時代にはかの文豪スタンダールが夢中になったと言います。ネルシアの作品が日本語訳されるのは初めて。帯文はこうです。「好事家泣かせの放蕩三昧!! 不道徳の廉で禁書となった、ほしいままにする少女の、18世紀フランスの痛快無比な〈反恋愛〉リベルタン小説。本邦初訳」。「心は冷え切っていたものの官能はそうではなく、はけ口が必要だったのです。肉体は絶対に自分の権利を諦めないものなのですね。/これが真実なんです。この真実の前では私の人間としての自尊心も形なしで、辛い犠牲を強いられたのです」(366頁)。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『vanitas No. 006』蘆田裕史/水野大二郎責任編集、アダチプレス、2019年6月、本体1,800円、四六判変型256頁、ISBN978-4-908251-11-5 『現代思想2019年7月号 特集=考現学とはなにか――今和次郎から路上観察学、そして〈暮らし〉の時代へ』青土社、2019年6月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1383-7 『民主主義は不可能なのか?――コモンセンスが崩壊した世界で』宮台真司/苅部直/渡辺靖著、週刊読書人、2019年7月、本体2,400円、四六判並製394+xviii頁、ISBN978-4-924671-39-3 『福島原発集団訴訟の判決を巡って――民衆の視座から』前田朗/黒澤知弘/小出裕章/崎山比早子/村田弘/佐藤嘉幸著、読書人ブックレット、2019年7月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-924671-40-9 『中村桂子コレクション(1)ひらく――生命科学から生命誌へ』中村桂子著、鷲谷いづみ解説、藤原書店、2019年6月、本体2,600円、四六変上製288頁、ISBN978-4-86578-226-4 『書物のエスプリ』山田登世子著、藤原書店、2019年6月、本体2,800円、四六変上製328頁、ISBN978-4-86578-229-5 『金時鐘コレクション(IV)「猪飼野」を生きるひとびと――『猪飼野詩集』ほか未刊詩篇、エッセイ』金時鐘著、冨山一郎解説、藤原書店、2019年6月、本体4,800円、四六変上製440頁、ISBN978-4-86578-214-1 『対ロ交渉学――歴史・比較・展望』木村汎著、藤原書店、2019年6月、本体4,800円、A5上製672頁、ISBN978-4-86578-228-8 ★『vanitas No. 006』の特集は「ファッションの教育・研究・批評」。蘆田裕史さんと水野大二郎さんによる責任編集。水野さんによる「introduction」は誌名のリンク先でお読みいただけます。曰く「近年「デザイン」の複雑化が盛んに議論されるにつれ、ファッション産業の周縁から新たな批評空間や研究的実践、実験的教育の萌芽が散見されるようになりました。今号の特集は、この萌芽を多様な側面から明らかにしていくことを目的に新井茂晃氏、井上雅人氏、Cecilia Raspanti氏、Dehlia Hannah氏へのインタビュー、そして現在ファッション産業に携わる方々との匿名座談会を行いました。さらに、本号の特集としてブックガイドを作成しました。ファッション史からウェアラブルテクノロジーまで、書籍、論文問わず幅広く参考となるテクストを選定しています。また、定例である論文とエッセイでは、藤嶋陽子氏、鹿野祐嗣氏、難波優輝氏、川崎和也氏、糸数かれん氏、安齋詩歩子氏、および本誌編集部・太田知也のテクストを掲載し、引き続き多角的にファッション批評の基盤構築を試みました」。 ★『現代思想2019年7月号』の特集は「考現学とはなにか」。藤森照信さんと中谷礼仁さんによる討議「あたかも数千年後のまなざしで――考現学と〈モノ〉への問い」を皮切りに、18本の論考を収録。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。版元紹介文に曰く「モノへのまなざしが描き出す〈暮らし〉の思想。道行くひとの靴や軒先のランプ、ハリガミからカケ茶碗まで……さまざまな〈モノ〉へのまなざしを通じて私たちの日常生活のかたちを描き出す、考現学という営み。今和次郎にはじまり現在へといたる多様な実践の系譜から、その尽きせぬ深さとひろがりをさぐり、アクチュアルな思想としての可能性を浮き彫りにする」とあります。次号(8月号)の特集は「アインシュタイン」と予告されています。 ★読書人さんからまもなく発売予定の7月新刊が2点あります。まず『民主主義は不可能なのか?』は、2009年から2018年にかけて「週刊読書人」の年末回顧特集号に掲載された鼎談10本をまとめたもの。巻末の「「あとがき」にかえて」は今年3月に収録された11番目の対談です。「まえがき」で苅部さんはこう述べておられます。「本書の題名にした「民主主義は不可能なのか?」は、とりあげた多くの問題のなかでも、特に継続しながら話したものを拾っている。これも当初からかんがえていたわけではないが、多くの場合、鼎談がこの主題に収斂していったのは、やはり現代の日本と世界が抱えている根本的な問題のありかを示しているのだろう」(10頁)。平成の最後の10年間を振り返るうえで重要な参照項となるのではないかと思われます。なお、注は来月に初めての評論集『「差別はいけない」とみんないうけれど。』を平凡社から上梓する批評家の綿野恵太さんが担当されたとのことです。 ★次に『福島原発集団訴訟の判決を巡って』は、2019年4月20日に新横浜の「スペース・オルタ」で開催されたシンポジウム「福島原発集団訴訟の判決を巡って――民衆の視座から」の記録。目次は以下の通りです。 まえがき|前田朗 1 判決の法的問題点|黒澤知弘 2 巨大な危険を内包した原発、それを安全だと言った嘘|小出裕章 3 しきい値なし直線(LNT)モデルを社会通念に!|崎山比早子 4 原発訴訟をめぐって――民衆法廷を|村田弘 5 なぜ原発裁判で否認が続くのか|佐藤嘉幸 6 質疑応答 あとがき|佐藤嘉幸 巻末史料1 原子力発電所を問う民衆法廷 第一~九回法廷での決定と勧告(主文抜粋) 巻末史料2 原子力発電所を問う民衆法廷・判決(主文要約、第十回東京最終法廷) ★藤原書店さんの6月新刊は4点。『中村桂子コレクション(1)ひらく』は「中村桂子コレクション――いのち愛づる生命誌」全8巻の第2回配本。第Ⅰ部「生命科学から生命誌へ」は1998年から2002年のあいだに各媒体に発表された短文9本を初めてまとめたもの。第Ⅱ部「生命誌の扉をひらく」は1990年に哲学書房より刊行された単行本の再録。本書全体への「はじめに」と「あとがき」は今回新たに加えられたもの。巻末解説「生きものの知恵に学ぶ」は鷲谷いづみさんによるもの。投げ込みの「月報1」には末盛千枝子、藤森照信、毛利衛、梶田真章、の4氏が寄稿しておられます。次回配本は第4巻「はぐくむ――生命誌と子どもたち」の予定。 ★『書物のエスプリ』は山田登世子さんの単行本未収録論考集の最終となる第4弾。巻末の山田鋭夫さんによる「編集後記」によれば「書物をめぐるエッセイおよび書評を中心とするもの」であり、帯文では「古典から新刊まで様々な本を切り口に、水、ブランド、モード、エロスなど著者ならではのテーマを横断的に語る「エッセイ篇」と、四半世紀にわたり各紙誌に寄せた約120本を集めた「書評篇」」と説明されています。エッセイ篇は「活字逍遥」、書評篇は「書物に抱かれて」と題されています。山田さんの「編集後記」には「収録にあたり、明らかな誤字や誤記は訂正し、固有名詞の表記は極力統一した。また用字もできるだけ統一した」とも特記されています。 ★『金時鐘コレクション(IV)「猪飼野」を生きるひとびと』は同コレクション全12巻の第5回配本。帯文に曰く「1973年2月1日を期してなくなった、日本最大の在日朝鮮人の集住地、大阪「猪飼野」に暮らす人々を描いた連作『猪飼野詩集』(1978年)ほか。作品の背景をつぶさに語る著者インタビューを収録」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。冨山一郎さんによる解説「暴力的状況で確保される言葉の在処――『猪飼野詩集』を読む」、浅見洋子さんによる解題「猪飼野詩集、細見和之さんによる解題補遺「「猪飼野」を生きるひとびと」が付され、投げ込みの「月報5」には、登尾明彦、藤石貴代、丁章、呉世宗、の4氏が寄稿されています。次回配本は第10巻「真の連帯への問いかけ――「朝鮮人の人間としての復元」ほか:講演集Ⅰ」の予定。 ★『対ロ交渉学』はロシア研究に長年携わってきた木村汎(きむら・ひろし:1936-)さんの最新著。3部構成の大著で、第Ⅰ部「交渉の一般理論――米欧諸国での発展」では国際社会における外交交渉の基礎を扱い、第Ⅱ部「ロシア式交渉――なぜ、特異なのか」ではロシア式の外交交渉の特徴を分析。第Ⅲ部「日本式交渉――なぜ、ユニークなのか」ではロシア式交渉法に対する日本側の対抗法について論じています。大阪で今月行われた「G20」への参加のために訪日する直前に、プーチン大統領は英紙「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューに対し「自由主義は廃れた」、さらには「現在は(国際的な)秩序が全くないように見える」などと述べたことがニュースになりましたが(例えば日経新聞2019年6月28日記事「プーチン氏「自由主義は廃れた」 FTインタビュー」)、日ロ関係やプーチンの思考回路には無関心ではいられない状況が続いており、関連書も含めて読者の注目を浴びそうです。木村さんは藤原書店より『プーチン――人間的考察』『プーチン――内政的考察』『プーチン――外交的考察』という3部作を2015年から2018年にかけて上梓されています。 +++
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by urag
| 2019-06-30 23:19
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2019年 06月 26日
★ロザリンド・E・クラウスさん(著書:『視覚的無意識』、共著:『アンフォルム』) ★イヴ=アラン・ボワさん(共著:『アンフォルム』) ★小西信之さん(共訳:クラウス『視覚的無意識』) ★近藤學さん(共訳:クラウス/ボワ『アンフォルム』) ★甲斐義明さん(編訳:『写真の理論』) ★筧菜奈子さん(著書:『ジャクソン・ポロック研究』) 東京書籍さんから今月、『ART SINCE 1900』が刊行されました。884点にも及ぶ図版と、「オクトーバー」誌の中心メンバーであり美術史家・美術批評家の5氏による書き下ろし解説により、1900年から2015年までのアートシーンをまとめた大冊です。クラウスさんとボワさんは共著者、小西さんと近藤さんは日本語版の編集委員、甲斐さんと筧さんは訳者として参加されています。A4変型判で900頁近い大きな本で、カラー図版多数。これで本体12,000円というのは驚異的というほかはないです。この値段のまま重版するのはけっこうハードルが高そうなので、品切にならないうちに購入した方が良いと思われます。あと、本屋さんの店頭で買う場合は、手荷物が少ない時の方がいいです。猛烈に重い本なので。輸送用保護ケースあり。ケースは交換不可です。 ART SINCE 1900――図鑑1900年以後の芸術 ハル・フォスター/ロザリンド・E・クラウス/イヴ-アラン・ボワ/べンジャミン・H・D・ブークロー/デイヴィッド ジョーズリット著 尾崎信一郎/金井直/小西信之/近藤学編 東京書籍 2019年6月 本体12,000円 A4変型896頁 ISBN:978-4-487-81035-2 帯文(表4)より:英語圏を中心に絶大な影響力を誇る「オクトーバー派」。その中心メンバーである、ハル・フォスター、ロザリンド・E・クラウス、イヴ‐アラン・ボワ、ベンジャミン・H・D・ブークロー、デイヴィッド・ジョーズリットが書き下ろした渾身の美術史。/世界各国で反響を呼んだ大著 “ART SINCE 1900” の全訳。/ピカソ、マティス、デュシャン、ポロック、ウォーホル、具体美術協会、草間彌生、デイミアン・ハースト、アイ・ウェイウェイなどの芸術家・グループ、キュビズム、バウハウス、抽象表現主義、ミニマリズムなどの運動・動向、モダニズム、ポストモダニズム、カルチュラル・スタディーズ、ポストコロニアリズムなどの思潮・思想を800を超える作品図版とともに取り上げながら明快に論じる。グローバルな視点、ユニークな論点、最先端の理論、そして歴史的な網羅性。/20世紀から現在までのアートを知るための必要なすべてを備えた決定的な名著。 主要目次: ART SINCE 1900[日本語版] 刊行にあたって|近藤学 本書の構成/翻訳体制について/凡例(表記について/記号や約物について) 本書の使い方 まえがき――読者のためのガイド Introductions 1 モダニズムにおける精神分析、方法としての精神分析|フォスター 2 芸術の社会史――モデルとコンセプト|ブークロー 3 フォーマリズムと構造主義|ボワ 4 ポスト構造主義と脱構築|クラウス 5 グローバル化、ネットワーク、形式としてのアグリゲイト|ジョーズリット 1900-1909 1910-1919 1920-1929 1930-1939 1940-1944 座談会1:20世紀なかばにおける芸術 1945-1949 1950-1959 1960-1969 1970-1979 1980-1989 1990-1999 2000-2015 座談会2:コンテンポラリーアートの窮状 用語集 参考文献 図版クレジット 索引 +++
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by urag
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2019年 06月 25日
「図書新聞」2019年6月29日号に、弊社3月刊、筧菜奈子『ジャクソン・ポロック研究――その作品における形象と装飾性』の書評「ポロック芸術の再解釈を果敢に試みる――ポロックの装飾性の研究はさらなる発展の可能性を感じさせる」が掲載されました。評者は多摩美術大学准教授の大島徹也さんです。「本書はそれら〔ポロック作品の諸側面〕のうちの重要な二つ〔形象と装飾性〕に鋭くメスを入れた注目作である」。「刺激的なポロック研究書を書き上げた著者の情熱と努力は尊い」と評していただきました。
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by urag
| 2019-06-25 17:19
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2019年 06月 23日
『テーマパーク化する地球』東浩紀著、ゲンロン、2019年6月、本体2,300円、四六判上製408頁、ISBN978-4-907188-31-3 『ハイデガー=レーヴィット往復書簡 1919–1973』マルティン・ハイデガー/カール・レーヴィット著、アルフレート・デンカー編、後藤嘉也/小松恵一訳、法政大学出版局、2019年6月、本体4,000円、四六判上製360頁、ISBN978-4-588-01094-1 『宗教社会学論集 第1巻(上)緒言/プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神/プロテスタント諸信団と資本主義の精神』マックス・ヴェーバー著、戸田聡訳、北海道大学出版会、2019年5月、本体5,400円、A5判上製452頁、ISBN978-4-8329-2517-5 『ショーペンハウアーとともに』ミシェル・ウエルベック著、アガト・ノヴァック=ルシュヴァリエ序文、澤田直訳、国書刊行会、2019年6月、本体2,300円、A5変型判152頁、ISBN978-4-336-06355-7 『アナーキストの銀行家――フェルナンド・ペソア短編集』フェルナンド・ペソア著、近藤紀子訳、彩流社、2019年6月、本体2,000円、四六判上製183頁、ISBN978-4-7791-2599-7 ★『テーマパーク化する地球』は「ゲンロン叢書」の第3弾。「2011年3月の東日本大震災以降、ぼくが書き溜めてきた原稿から時事性の高いものを除き、批評と社会の関係を考察したものを中心に集めた評論集である。再録にあたってはほとんどの原稿に加筆修正を施した。修正が多すぎて書き下ろしに近いものもある。関連インタヴューもふたつ収録した」(あとがきより)。「テーマパーク化する地球」「慰霊と記憶」「批評とはなにかⅠ」「誤配たち」「批評とはなにかⅡ」の4部構成で、巻末の「あとがき」を除き47本が収録されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。2月に河出書房新社より上梓された文芸エッセイ集『ゆるく考える』の姉妹編とも言えます。もっとも注目したいのは最後の論考「運営と制作の一致、あるいは等価交換の外部について」です。これはゲンロンの活動を振り返った回想録であるとともに、ゲンロンを「人間が人間であるために、等価交換の外部を回復するためのプロジェクト」として改めて規定する原理的なテクストです。運営と制作の一致をめぐる問題は、出版界においてもっとも根本的なものであり、今までも、そしてこれからも問われ続けるものです。このテクストは出版人や書店人にとっての仕事論として読むことができる、非常に示唆に富んだ一篇です。 ★『ハイデガー=レーヴィット往復書簡 1919–1973』は、アルフレート・デンカーの編纂と註解による、2017年にカール・アルバー社から刊行された『ハイデガー書簡集』第Ⅱ-2巻の翻訳。補遺として、ニーチェの妹エリザーベトがレーヴィットに宛てた書簡、レーヴィットの教授資格論文に対するハイデガーの所見、ナチス政権期のハイデガーのローマ講演に際したレーヴィットのイタリア日記、トートナウベルクの山小屋帖へのレーヴィットの1924年の書き込み、なども収められています。帯文に曰く「ナチス政権期の政治的断絶を明確に刻印しながらも、73年のレーヴィットの死まで続いた120通を超える往復書簡群は、時代の証言であると同時に、世界大戦期を生きた師弟の運命的な抗争、そして不可能な友愛を示す稀有のドキュメントである」。収録されている書簡の大半は1920年代に交わされたものです。 ★『宗教社会学論集 第1巻(上)』は、戸田聡さん単独による新訳『宗教社会学論集』全4巻の第1巻2分冊のうちの上巻。「緒言」「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」「プロテスタント諸信団と資本主義の精神」を収録。第1巻の巻末には、「今なぜ新訳が必要か――訳者あとがきに代えて」と題し、「なぜ『宗教社会学論集』が改めて翻訳されるべきか」「『宗教社会学論集』日本語訳の今日的意義」「本翻訳の特色」という3部構成で新訳の意義が説明されています。戸田さんは北海道大学大学院文学研究科准教授で、ご専門は古代キリスト教史、古典文献学。「筆者が今回の翻訳で目指しているのは、どちらかと言えば直訳的・逐語訳的な翻訳であり、つまりヴェーバーの議論を極力正確に写し取ることによって、ヴェーバーがどういう概念(群)を駆使して思考していたかを日本語の訳文上で可能なかぎり明確にすることである」(331頁)。周知の通り、本書に収められている『プロ倫』は今まで幾度となく訳されてきた古典的名著です。 ★なお、下巻は2020年3月刊行予定で、「諸々の世界宗教の経済倫理」の第Ⅰ部を収録。第2巻は同書第Ⅱ部、第3巻は同書第Ⅲ部と「宗教社会学論集 補遺 ファリサイは」を収録予定。 ★『ショーペンハウアーとともに』は『En présence de Schopenhauer』(L'Herne, 2017)の全訳。フランスの作家ウエルベック(Michel Houellebecq, 1958-)は20代後半に図書館でショーペンハウアーの『幸福について』を借り、「重大な発見」をしたと気付きます。「私はすでにボードレール、ドストエフスキー、ロートレアモン、ヴェルレーヌ、ほとんどすべてのロマン主義作家を読み終わっていたし、多くのSFも知っていた。聖書、パスカルの『パンセ』、クリフォード・D・シマックの『都市』、トーマス・マンの『魔の山』などは、もっと前に読んでいた。私は詩作に励んでもいた。すでに一度目の読書ではなく、再読の時期にいる気がしていた。少なくとも、文学発見の第一サイクルは終えたつもりでいたのだ。ところが、一瞬にしてすべてが崩れ去った」(26頁)。「私の知る限りでは、いかなる哲学者もアルトゥール・ショーペンハウアーほどすぐさま心地よく元気づけてくれる読書を提供してくれる者はいない」(30頁)。 ★「私は、自分の気に入ったいくつかのくだりを通して、なぜショーペンハウアーの知的な態度が、私にとっては来るべきあらゆる哲学の模範であり続けるのか、また、たとえ彼と意見が一致しない場合であっても、彼に対して深い感謝の気持ちを感じずにはいられないのかを示したいと思う」(30~31頁)。ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』と『幸福について』から言葉が引かれ、ウエルベックによるコメントが加えられています。水戸部功さんによる瀟洒な装幀は、プレゼントとしても最適の美しさではないかと思います。序文を寄せたアガト・ノヴァック=ルシュヴァリエはパリ・ナンテール大学准教授。専門はフランス19世紀文学ですが、ウエルベックの研究者でもあります。 ★『アナーキストの銀行家』は日本語版オリジナル編集の短編集。短編集『Contos Escolhidos』(Assírio & Alvim, 2016)と、『O Banqueiro Anarquista』(Assírio & Alvim, 1999)から以下の8篇を収録したもの「独創的な晩餐」「忘却の街道」「たいしたポルトガル人」「夫たち」「手紙」「狩」「アナーキストの銀行家」「アナーキストの銀行家・補遺」。表題作「アナーキストの銀行家」は1922年、本名で発表された「珍しい作品」。「アナーキストが銀行家に、銀行家がアナーキストになる、そこにはペソア流の皮肉なパラドックスがあると同時に、政情不安が高まる当時のポルトガルの社会、強大化する金(かね)の専制とそれに対するイデオロギーの空洞化が映し出されている」(9頁)と訳者は紹介しています。「その意味でこの作品は、当時のポルトガル社会の、さらには極度なまでの経済優先社会に生きる現代のわたしたち自身の、苦く皮肉な肖像となっている」(同頁)。 ★続いて、注目している文庫と新書の新刊を列記します。 『新訳 不安の概念』セーレン・キルケゴール著、村上恭一訳、平凡社ライブラリー、2019年6月、本体1,800円、B6変判並製416頁、ISBN978-4-582-76882-4 『デモクラシーか 資本主義か――危機のなかのヨーロッパ』J・ハーバーマス著、三島憲一訳、岩波現代文庫、2019年6月、本体1,300円、文庫判viii+312頁、ISBN978-4-00-600406-4 『クーデターの技術』クルツィオ・マラパルテ著、手塚和彰/鈴木純訳、中公文庫、2019年6月、本体1,200円、文庫判448頁、ISBN978-4-12-206751-6 『モナリザの微笑――ハクスレー傑作選』オルダス・ハクスレー著、行方昭夫訳、講談社文芸文庫、2019年6月、本体1,600円、A6判288頁、ISBN978-4-06-516280-4 『プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第Ⅰ編 物体の運動』アイザック・ニュートン著、中野猿人訳、ブルーバックス、2019年6月、本体1,500円、新書判448頁、ISBN978-4-06-516387-0 『ブレードランナー証言録』ハンプトン・ファンチャー/マイケル・グリーン/渡辺信一郎/ポール・M・サモン著、大野和基編訳、インターナショナル新書、2019年6月、本体780円、新書判176頁、ISBN978-4-7976-8039-3 ★『新訳 不安の概念』はライブラリー版オリジナルの新訳。底本はデンマーク語版著作全集第2版(1920~1930年)の第Ⅳ巻。『原典訳記念版 キェルケゴール著作全集』第3巻(2分冊、創言社、2010年)の下巻に収められた大谷長訳『不安の概念』以来の新訳となります。文庫版では久しく新訳はありませんでした。主要目次は以下の通りです。 序文 緒論 第一章 原罪の前提としての不安 第二章 現在の結果としての不安 第三章 罪意識を欠く罪の結果としての不安 第四章 罪の不安、あるいは個体における罪の結果としての不安 第五章 進行による救いの手としての不安 訳注 訳者解説 キルケゴールの『不安の概念』を読む――心理学の視点を顧慮しつつ 訳者あとがき ★文庫版で読める既訳としては、斎藤信治訳『不安の概念』(岩波文庫、1951年;改版、1979年)があります。このほか戦後に刊行された文庫版には、田淵義三郎訳『不安の概念』(中公文庫、1974年)もありますが、現在は品切。田淵訳は『世界の名著(40)』(中央公論社、1966年)に収録されていたものに「ところどころ訂正を加えたもの」(文庫版解説、256頁)。村上さんによる今回の新訳の前段には、大学書林から1985年に刊行された同書の対訳書がありました。 ★『デモクラシーか 資本主義か』は日本語版オリジナル編集による論文集。ハーバーマスが2007年から2018年にかけて発表してきた政治的エッセイやインタヴュー、全11篇をまとめたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。7篇は岩波書店の『世界』誌に訳載されたもので、以下の4篇は新訳。「テクノクラシーに飲み込まれながら」2013年、インタヴュー「民主主義のための両極化――右翼ポピュリズムを瓦解させるには」2016年、「強いヨーロッパのために――しかし,それはどういう意味だろうか」2014年、エピローグ「左翼ヨーロッパ主義者たちよ,どこに行った?」2018年。論文集『ああ、ヨーロッパ』(岩波書店、2010年、版元品切)の第9章「行き詰まったヨーロッパ統合」も再録されています。 ★『クーデターの技術』は2015年に中公選書の1冊として刊行されたものの文庫化。巻末に新たに付された鈴木純さんによる「訳者あとがき(二〇一九)」によれば、「文庫化に際しては、再度訳文を見直し、読者の理解を少しでも容易にするため、必要に応じて訳註を増やした」とのことです。また共訳者の手塚さんによる「文庫版のためのあとがき」には「文庫版出版については、共訳者の鈴木純氏の丹念な検討により、より完全な役になった」とのコメントがあります。イタリアの作家マラパルテ(Curzio Malaparte: Kurt Erich Suckert, 1898-1957)の著書の文庫化は今回が初めてです。 ★『モナリザの微笑』はオルダス・ハクスレー(ハクスリーとも:Aldous Leonard Huxley, 1894-1963)の日本版オリジナルの新訳短編集。収録作は5篇。「モナリザの微笑」「天才児」「小さなメキシコ帽」「半休日」「チョードロン」。「チョードロン」は初訳です。1930年の短編集『束の間のともしび』に収録されていた作品。『恋愛対位法』と『すばらしい新世界』の間に発表されたもので、「ハクスレーの特色である、百科全書的な博学、機知、軽妙で辛辣な風刺、痛烈な戯画、分析癖、現代的な不安と懐疑などのすべてを、この短編に見出すことができます」と訳者の行方さんは巻末解説「父方から科学者、母方からモラリストの知を受け両者の間に揺れた博識の作家」で紹介されています。 ★『プリンシピア――自然哲学の数学的原理 第Ⅰ編 物体の運動』は、1977年に講談社より刊行された単行本『プリンシピア――〈自然哲学の数学的原理〉』の新書化。『第Ⅱ編 抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動』が7月発売であることから、新書では全3編を3分冊で刊行する予定になるものと思われます。全3編の電子書籍は税込で7000円を超える値段なので、紙媒体の3分冊を買った方が安いです。訳者解説に曰く「本書の訳出にあたって訳者が手にすることのできたラテン語原書はただ初版本だけであった。しかし、幸いに第3版からの優れた英訳とされている〔…〕モット訳、カジョリ改訂の“Mathematical Principles of Natural Philosophy”を手にすることができたので、これを底本とし、前者と比較参照をしながら、原意を正確に伝えるよう最大の努力をした」と。ラテン語原典初版は1687年刊。原著第3版からのアンドリュー・モットによる最初の英訳版(1729年)をフローリアン・カジョリが再改訂した翻刻版(1934年)が中野訳の底本、ということかと思います。 ★なお、ラテン語原典からの日本語訳には、中央公論社版『世界の名著(26)ニュートン』(1971年;中公バックス版『世界の名著(31)』1979年)所収の、河辺六男訳『自然哲学の数学的諸原理』があります。巻頭解説「ニュートンの十五枚の肖像画」末尾の「後記」によれば、「この役のテキストとしてはPhilosophiæ Naturalis Principia Mathematica 第3版、トーマス・ル・スールとフランシス・ジャッキエーが注釈をつけた1760年ジュネーヴ版を使い、初版ロンドン版およびアンドリュース・モット訳フローリアン・カジョリ補訂の英訳を参照した。モットの英訳は、カジョリも特に第三篇では注意しているが、他の諸篇中でも説明的な文章が挿入され、ニュートンの簡勁な文体から離れている箇所が多々ある。古典の翻訳というとき、いろいろな考え方がありうるであろうが、ここではできるだけ原著の文体と数式の体裁を残すように心がけた。しかし数式のなかで現在まったく使われていない記法は現代風のものに改めた」(45頁)。訳文だけでも46判2段組500頁以上になるので、復刊のハードルは高いのかもしれませんが、中公クラシックスないし中公文庫で再刊される意義はあると思われます。 ★『ブレードランナー証言録』は、大野さんによる独占インタヴュー集。『ブレードランナー』脚本家ファンチャー、『ブレードランナー2049』脚本家グリーン、『ブレードランナー ブラックアウト2022』渡辺監督、『メイキング・オブ・ブレードランナー』(ソニーマガジンズ、1997年;ファイナル・カット版、ヴィレッジブックス、2007年;再版、2017年)の著者サモン、以上4氏へのインタヴューです。興味深いエピソードの中から1つだけ。『2049』が引用した文学作品にミルトン『失楽園』やナボコフ『青白い炎』(例のベースライン・テストでの「within cells interlinked」のくだりですね)などがありますが、ナボコフの引用はグリーンの発案によるもので、グリーンはこの本を何百回と読んできたそうです。ただし引用の意図は明かされていません。 ★最後に、最近では以下の新刊との出会いがありました。 『日本の民俗学』柳田國男著、中公文庫、2019年6月、本体1,200円、文庫判416頁、ISBN978-4-12-206749-3 『科学技術の現代史――システム、リスク、イノベーション』佐藤靖著、中公新書、2019年6月、本体820円、新書判240頁、ISBN978-4-12-102547-0 『いやな感じ』高見順著、共和国、2019年6月、本体2,700円、菊変型判並製424頁、ISBN978-4-907986-57-5 『海人――八重山の海を歩く』西野嘉憲写真、平凡社、2019年6月、本体5,900円、A4変判上製168頁、ISBN978-4-582-27830-9 『児玉源太郎』長南政義著、作品社、2019年6月、本体3,400円、46判上製448頁、ISBN 978-4-86182-752-5 ★『日本の民俗学』は中公文庫プレミアムの「日本再見」と題されたシリーズの一冊。中公文庫オリジナル編集版で、編集付記によれば「著者の民俗学の方法に関する論考を独自に編集し、折口信夫との対談、談話「村の信仰」を合わせて一冊にしたもの」。3部構成で第Ⅰ部「日本の民俗学」に「郷土研究ということ」「日本の民俗学」「Ethnologyとは何か」「郷土研究の将来」「国史と民俗学」「実験の史学」「現代科学ということ」「日本を知るために」の8篇の論考を収め、第Ⅱ部「柳田國男・折口信夫対談」に「日本人の神と霊魂の観念そのほか」「民俗学から民族学へ――日本民俗学の足跡を顧みて」の2本の対談、そして第Ⅲ部が「村の信仰――私の哲学」です。巻末解説は東京大学教授の佐藤健二さんがお書きになっています。 ★『科学技術の現代史』は「まえがき」に曰く「現代科学技術、すなわち第2次世界大戦から現在までの科学技術が、米国連邦政府との関わり合いのなかでどのように進化してきたかを追う。米国内外の政治・経済・社会の変動を反映して米国連邦政府の課題が移り変わるなか、現代科学技術も構造的な変化を遂げてきたことを明らかにする」(iii頁)と。主要目次は以下の通りです。 まえがき 序章 現代科学技術と国家 第1章 システムの巨大化・複雑化――東西冷戦と軍産複合体 第2章 崩れる権威、新たな潮流――デタント後の米国社会 第3章 産業競争力強化の時代へ――産学連携を特許重視政策 第4章 グローバル化とネットワーク化――連戦終結後 第5章 リスク・社会・エビデンス――財政再建とデータ志向 第6章 イノベーションか、退場か――21世紀、先進国の危機意識 終章 予測困難な時代へ あとがき 参考文献 科学技術の現代史関連年表 ★『いやな感じ』は1960~1963年にかけて「文學界」で連載され、同63年に単行本として出版された表題作小説に、「「いやな感じ」を終って」「革命的エネルギー――アナーキズムへの過小評価」「大魔王観音――北一輝」の三篇と、栗原康さんによる解説「いい感じ」、さらに版元である「共和国」の代表、下平尾直さんによる解題「『いやな感じ』とその周辺」を付して1冊としたものです。 「兄さんは、なんの商売?」〔…〕 「俺の商売か。さあ、なんていうかな」 と返事に窮した。俺はアナーキストだと、 誇らかに言いたいところだったが、〔…〕(29頁) 「あなたは失礼ですが、どういう方ですか」〔…〕 「俺は――僕は詩人だ」(291頁) 「奥さんですか」 「はい」〔…〕 「加柴四郎と言って、玉塚さんの昔の友人です」〔…〕 「詩人でいらっしゃいますか」 「いやあ……」(253頁) 「俺はお人よしか」 「加柴四郎は悪党でもなければ、お人よしでもない」 「じゃなんだ」 「根っからのアナーキストだ」(365頁) ★エッセイ「「いやな感じ」を終って」の末尾において著者は主人公の生きざまをめぐってこう述べています。「加柴四郎は私自身なのである。私が一時彼に似た生活をしていたことがあるという意味ではない。彼の人生と私の人生は具体的には違っていても、彼の運命は私の運命でもあり、昭和時代の日本人の運命でもあったのだ」(377頁)。投げ込みの「共和国急使」によれば、続刊予定に『ダダカンスケという詩人がいた(仮)』と『ルディ・ドゥチュケと戦後ドイツ』の2点が挙がっています。 ★『海人』は沖縄本島の南西約400kmに位置する八重山諸島の豊かな海とそこに生きる漁師の方々を20年間にわたり写してきた、たいへんに美しい写真集。西表島、石垣島、さらには尖閣諸島沖の貴重な写真まで、紺碧の世界に魅了されます。キャノンギャラリー銀座では2019年7月11日から17日まで本書の写真家の写真展「海人三郎」が開催されるとのことです。9月5日から11日まではキャノンギャラリー大阪で開催。 ★『児玉源太郎』は、明治の軍人・児玉源太郎(こだま・げんたろう:1852-1906)の多面的才能とその生涯をめぐり、2017年に公開された「児玉源太郎関係資料」を含む新史料を駆使して、「通説を再検証しつつ、軍事学的・戦史的視点を中心に描」(iii頁)いた評伝。「軍事指導者には、ただ将来の戦争像を洞察するにとどまらず、将来の戦争像に基づく改革策を政策として実現化するために必要な決断力・政策実現力・調整力が求められる」(同頁)と述べる著者は、児玉を「平時における飽くなき予言的改革者」(同頁)と評価しています。 +++
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| 2019-06-23 23:42
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2019年 06月 22日
月曜社全点フェア@早稲田大学生協戸山店(2019年5月13日~6月21日)を記念しての二回にわたるイベントが無事終了しました。ご参加いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。また戸山店の皆様、フェアとイベントを企画して下さったMさんにも深謝申し上げます。どちらの会でも出版社への就職を目指す学生さんとの出会いがあり、とても嬉しかったです。またどこかでお目に掛かれますように。無料配布した資料2点(Mさんとの対話)についても思い出深いものとなりました。ありがとうございました。 ◉店頭にお邪魔します会 日時:2019年5月31日14時30分(3限目終わり)~ 場所:早稲田大学生協戸山店「月曜社全点フェア」棚前 出演:小林浩(月曜社取締役) ◉月曜社と本と夜 日時:2019年6月20日18時00分~ 場所:早稲田大学生協戸山店「月曜社全点フェア」棚前 出演:小林浩(月曜社取締役) ▲
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| 2019-06-22 10:51
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2019年 06月 19日
お仕事をご一緒したことはないものの常々その厳密な編集姿勢と緻密な編集論に触れるにつけ尊敬の念を抱き続けてきた先輩編集者が私にはいます。郡淳一郎さんです。その郡さんが折に触れて幾度となく紹介されてきた先達の言葉のひとつに次のものがあります。曰く、「出版は二重の断念の上に立った虚数の営為である。それ故、凡ゆる戦術を駆使し凡ゆるエネルギー回路を想定する自由をもつ」。その出典である、『逆説の對位法〔ディアレクティーク〕――八木俊樹全文集』(八木俊樹全文集刊行委員会、2003年)をようやく入手することができました。 A5判上製函入xviii+1286頁の大冊。装訂は石川九楊さんによるもの。ISBNはなし。凡例から引くと「本書は、第一に八木俊樹(以下著者という)が生前に公表した、論文(公表というのではないが、所謂修士論文も含める)、詩篇、時評、書評のすべて、種々の編集後記・あとがき等のすべて、また京都大学学術出版会に於ける活動の一端を示す、著者の手になる、京都大学学術出版会設立に関する報告書・出版編集に関する論稿・刊行図書帯文・刊行図書目録のすべて、更に著者が相手をつとめた対談、著者も加わった座談会の公表記録のすべてを、第二に、著者の手になると判断される遺稿のすべて、様々の研究会に提出されたレジュメ、ノート、原稿断片、メモ等、編集委員会で入手できたものすべてを、収録することを目指して編まれたものである」。主要目次は以下の通りです。 一、自體の呪縛と對位法 二、先験的誤謬の對位法 三、書-言語の對位法 四、編集後記等 五、京都大学学術出版会 六、日本トルコ文化協会 七、研究会レジュメ等 八、ノート 九、原稿断片 一〇、メモ 一一、私の計画 一二、年譜 先に引いた言葉は、第二部「先験的誤謬の對位法」に収められた、「出版――私の図式、又は若い編集者へ」(636~642頁)の最後の方に出てきます。「出版は二重の断念の上に立った虚数の営為である。それ故、凡ゆる戦術を駆使し凡ゆるエネルギー回路を想定する自由をもつ。そこに出版の政治が逆説的に存在する理由があるが、併し出版は殆ど失敗に終わる小さな革命の連続に於て成り立つ不連続であり、その事の決意の上に漸〔ようよ〕う己れの精神の様式〔スタイル〕と政治性を仮定できるものに過ぎない」(640頁)。 高密度な議論が展開されるこの文章の初出は『大学出版』第12号(1991年9月)とのこと。上記の文章には以下の一文が先行します。「彼らの流儀は、終点の不連続を縫合しようとする広告や宣伝〔パフォーマンス〕の先駆者という栄光を担ったが、紛れもなく彼らは、出版に於る政治というものを誤解し錯認していた」。「彼ら」が誰を指すかについては編者注が付されていますが、その種明かしはここでは止めておきます。 郡さんの引用に出会ってから私は『逆説の對位法』を探し求めましたが、新刊書店にも古書店にも扱いはなく、地元の図書館にも所蔵されていませんでした。その後も諦めきれず定期的にネット検索していたところ、リベラシオン社さんのウェブサイトでPDFが公開されていた「Alternative Systems Study Bulletin」メール版第26巻第1号(2018年6月5日)の中に、以下のような記述があることを発見しました。 『逆説の對位法――八木俊樹全文集』(A5版、1280頁、定価2万円)の入手方法。「下記振込先に、書名を記載の上、2万円を送ってください。振込先(郵便振替) 口座番号:01090-5-67283 口座名:資本論研究会。他金融機関からの振り込み 店名:109 当座:0067283」 そこで、「Alternative Systems Study Bulletin」の編集担当の榎原均さんにメールを差し上げ、在庫の確認をしたところ、まだある、と。その時は手元に軍資金がなかったのですが、ほどなくして某原稿料を使って購入することができました。戦後出版史における重要文献のずっしりとした重みを感じています。一般書店に流通しているものばかりが本じゃない、その事をくっきりと理解させてくれるその威容に圧倒されます。年譜によれば、八木俊樹さんは1943年6月14日に生まれ、1996年7月22日に死去。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。財団法人交詢社、株式会社社会思想社、序章社、さらに、桃山学院大学経済学部非常勤講師、関西人民学院講師、株式会社エスシイアイ取締役などを歴任し、1989年に京都大学学術出版会の事務局統括に。書学書道史学会の理事も務めておられました。 +++
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| 2019-06-19 20:36
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2019年 06月 19日
本日6月19日に、東京外国語大学出版会企画のリレー講義「世界と出版文化」にて「岐路に立つ出版界:小出版社から見た長期停滞と変化の現在」と題して発表させていただきました。御清聴ありがとうございました。聴講生の皆さんのレスポンスシートはすべて拝読させていただきました。ご質問を書いていただいた方にはただいま回答を準備中です。遠からずお渡しできるのではないかと思います。またどこかで皆さんとお目に掛かれることを楽しみにしております。 2010年7月07日「出版社のつくりかた――月曜社の10年」 2011年6月15日「人文書出版における編集の役割」 2012年6月06日「人文書出版における編集の役割」 2013年5月15日「知の編集――現代の思想空間をめぐって」 2014年7月09日「編集とは何か」 2015年6月06日「編集とは何か――その一時代の終わりと始まり」 2016年5月25日「編集と独立」 2017年4月19日「人文系零細出版社の理想と現実」 2018年6月20日「越境を企画する:汎編集論的転回と出版界の現在」 2019年6月19日「岐路に立つ出版界:小出版社から見た長期停滞と変化の現在」 +++
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| 2019-06-19 18:18
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2019年 06月 18日
★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』) イタリアの歴史学者カルロ・ギンズブルグ(Carlo Ginzburg, 1939-)の2015年の著書『Paura reverenza terrore』(『畏怖・崇敬・恐怖』)の訳書を先週上梓されました。「図像の発揮する政治的効果についての試論」と訳者あとがきで紹介されています。目次は書名のリンク先でご覧いただけます。 政治的イコノグラフィーについて カルロ・ギンズブルグ著 上村忠男訳 みすず書房 2019年6月 本体4,800円 四六判上製264頁 ISBN978-4-622-08815-8 帯文より:イメージには権力を発揮する仕掛けが隠されている。神聖さを利用する世俗画、戦争ポスター、《ゲルニカ》。政治の言語とイメージの嘘を明かす図像学的実験。 ★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』) 先月末発売となった月刊誌『現代思想』2019年6月号「特集=加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉」に掲載された、イギリス出身の哲学者レイ・ブラシエ(Ray Brassier, 1965-)さんの2014年の論考「さまよえる抽象」("Wandering Abstruction")の全訳を担当されています(78~99頁)。 星野さんによるブラシエ論文の日本語訳には「絶滅の真理」(『現代思想2015年9月号:絶滅――人間不在の世界』50~78頁)があり、また、星野さんによるブラシエ論には「暗き生――メイヤスー、ブラシエ、サッカー」(『現代思想2018年1月号:現代思想の総展望2018』164~175頁)。メイヤスー『亡霊のジレンマ――思弁的唯物論の展開』(青土社、2018年6月)と同じようにもう少し論文の本数が増えたらブラシエさんのオリジナル論文集ができそうですね。 +++
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| 2019-06-18 13:52
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2019年 06月 17日
★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』) 2010年から2019年にかけて各媒体や研究会等で発表されてきた17本の論文をまとめ、書き下ろしの「序」、さらに「あとがきと謝辞」を付した最新著が、青土社さんより発売となりました。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 〈内在の哲学〉へ――カヴァイエス・ドゥルーズ・スピノザ 近藤和敬著 青土社 2019年6月 本体3,600円 四六判上製494+vi頁 ISBN978-4-7917-7169-1 帯文より:絶望と勇気! 現代思想の次なる航海。我々が〈現在〉の外へ出るために、いま〈内在の哲学〉の哲学的基盤が必要とされている。カヴァイエス、シモンドン、ドゥルーズ、バディウ、メイヤスーらを射程に、エピステモロジー、シミュラークル論、プラトニスムといった複線を展開、「内在」と「外」、そして「脳」へと、哲学界の俊英が思考の臨界に迫る。 ★ジュディス・バトラーさん(著書:『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』) デビュー作にして代表作である『Subjects of Desire: Hegelian Reflections in Twentieth-Century France』(Columbia University Press, 1987/1999/2012)の日本語訳がついに刊行されました。書き下ろしの「日本語版への序文」も掲載されています。一般書店での発売はまもなくですが、堀之内出版さんの公式ストアではすでに購入可能です。目次詳細は版元ドットコムさんの単品頁でご覧いただけます。 欲望の主体――ヘーゲルと二〇世紀フランスにおけるポスト・ヘーゲル主義 ジュディス・バトラー著 大河内泰樹/岡崎佑香/岡崎龍/野尻英一訳 堀之内出版 2019年6月 本体4,000円 四六判上製492頁 ISBN978-4-909237-38-5 帯文より:「現代思想の源流としてのヘーゲルを別の仕方で読むこと。それは、全体化へと向かう単一の主体をずらし、変容を生み出す思想を可能にした。哲学のみならずさまざまな社会運動にも影響を与えつづけるバトラーの原点」(松本卓也)。 +++
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by urag
| 2019-06-17 15:47
| 本のコンシェルジュ
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2019年 06月 17日
「図書新聞」2019年6月22日号の1面に、弊社2月刊、須藤温子『エリアス・カネッティ――生涯と著作』の書評「死者たちの群衆の後に唯一者として「生き残る」――カネッティは実に多彩な思想的、芸術的問題と格闘していた」が掲載されました。評者は立教大学の古矢晋一さんです。「エリアス・カネッティの著作と生涯に含まれる魅力と問題を余すところなく描いている。本書全体の特徴は、作家とその作品を論じる際の絶妙なバランス感覚であろう。作品の内在的な解釈と同時に、同時代の言説との比較、周囲にいた作家や家族との関係、文学的評価の変遷と背景についても、先行研究を踏まえながら説得的かつ批判的に取り上げられている」と評していただきました。古矢先生、ありがとうございました。
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| 2019-06-17 14:42
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