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2018年 06月 28日

ブックフェア&イベント@紀伊國屋書店新宿本店:ファム・コン・ティエン『深淵の沈黙』

弊社刊『ブランショ政治論集』や『間章著作集(Ⅰ)時代の未明から来たるべきものへ』を出品させていただいているブックフェアをご紹介します。

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◎ブックフェア「いまだ夜深き時代、『深淵の沈黙』を読む」野平宗弘選

会期:2018年6月13日(水)~7月上旬
場所:紀伊國屋書店新宿本店【3階人文】I-28棚
内容:戦争時代の反抗者、ファム・コン・ティエンの初邦訳であり、そして年間ベスト級の衝撃作『深淵の沈黙』。訳者の野平宗弘さんによる選書フェアで、野平さん執筆の1万字におよぶ解説冊子も無料配布。

◎トークイベント「「ベトナムのランボオ」ファム・コン・ティエンの破壊思想と叛逆の人生」野平宗弘さん×真島一郞さん

日時:2018年7月5日(木)19:00開演
会場:紀伊國屋書店新宿本店9階イベントスペース
料金:500円
受付:先着50名様、電話予約受付03-3354-0131(新宿本店代表番号:10:00~21:00)

内容:1960年代のベトナム戦争のさなか、南ベトナムの文壇に現れて以降、過激な言動、ハチャメチャな生き方で話題をさらい、良識ある大人たちからは煙たがられたものの、悩める若者の代弁者として圧倒的な支持を受けていた、詩人にして思想家のファム・コン・ティエン。ヘンリー・ミラーからは早熟のフランス詩人A.ランボオの生まれ変わりとも評された、その生き方、言動、思想は、時代が変わっても、異なる地域においてであっても、鋭敏な若者たちの感性を挑発し続けてやむことはない。本トークイベントでは、社会人類学者の真島一郞さんと、『深淵の沈黙』(1967年刊)の世界初の訳書を上梓した野平宗弘さんの二氏が登壇し、「世界の夜」の時代にあってなお己を貫き生きたティエンの人生と、本書で展開された思想を中心に紹介しながら、今なお失せないその魅力と思想的可能性に迫る。講演終了後、サイン会を行います。書籍は会場で販売いたします。

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by urag | 2018-06-28 15:02 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 26日

本日取次搬入:岡田温司『アガンベンの身振り』、シリーズ「哲学への扉」第二弾

シリーズ「哲学への扉」第二弾となる、岡田温司さんの『アガンベンの身振り』は、日販、トーハン、大阪屋栗田、ともに本日6月26日搬入です。書店さんには明日以降、順次配本となります。店頭発売開始は今週後半以降かと思われます。取扱書店については、当ブログコメント欄、Eメール、電話、FAX、ツイッター等でお問い合わせください。地域を限定していただければお答えします。
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by urag | 2018-06-26 11:58 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 24日

注目新刊:ポムゼル『ゲッベルスと私』、『ライプニッツ著作集』第Ⅱ期完結、ほか

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ゲッベルスと私――ナチ宣伝相秘書の独白』ブルンヒルデ・ポムゼル/トーレ・D・ハンゼン著、石田勇治監修、森内薫/赤坂桃子訳、紀伊國屋書店、2018年6月、本体1,900円、B6判上製268頁、ISBN978-4-314-01160-0
腸と脳――体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』エムラン・メイヤー著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2018年6月、本体2,200円、B6判上製328頁、ISBN978-4-314-01157-0
塗りつぶされた町――ヴィクトリア期英国のスラムに生きる』サラ・ワイズ著、栗原泉訳、紀伊國屋書店、2018年6月、本体2,700円、B6判上製464頁、ISBN978-4-314-01161-7
ライプニッツ著作集 第Ⅱ期[3]技術・医学・社会システム――豊饒な社会の実現に向けて』G・W・ライプニッツ著、酒井潔/佐々木能章監修、佐々木能章ほか訳、工作舎、2018年6月、本体9,000円、A5判上製528頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-494-1
ミクロログス(音楽小論) 全訳と解説』グイド・ダレッツォ著、中世ルネサンス音楽史研究会訳、春秋社、2018年6月、本体4,800円、A5判上製312頁、ISBN978-4-393-93213-1
寛容についての手紙』ジョン・ロック著、加藤節/李静和訳、岩波文庫、2018年6月、本体660円、192頁、ISBN978-4-00-340078-4
第七の十字架(上)』アンナ・ゼーガース著、山下肇/新村浩訳、岩波文庫、2018年6月、本体920円、336頁、ISBN978-4-00-324731-0
エコラリアス――言語の忘却について』ダニエル・ヘラー=ローゼン著、関口涼子訳、みすず書房、2018年6月、本体4,600円、四六判上製336頁、ISBN978-4-622-08709-0
リヒテンベルクの雑記帳』ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク著、宮田眞治訳、作品社、2018年5月、本体4,800円、四六判上製668頁、ISBN978-4-86182-690-0

★今月の紀伊國屋書店さんの新刊3点はいずれも粒揃い。『ゲッベルスと私』は、ナチスの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルス(1897-1945)の秘書を務めた女性、ブルンヒルデ・ポムゼル(Brunhilde Pomsel, 1911-2017)へのインタヴューを収録した『Ein Deutsches Leben : Was uns die Geschichte von Goebbels' Sekretärin für die Gegenwart lehrt mit Brunhilde Pomsel』(Europa-Verlag, 2017)の訳書。インタヴュワーは4人の映画監督で、まえがきと解説を政治学者、社会学者、経済ジャーナリストなどの肩書をもつ専門家ハンゼンが書いています。現在、同名のドキュメンタリー映画が岩波ホールなどで今月津16日より順次公開中。逝去する約3年前の103歳の折、彼女は70年近く前の暗い時代について語りました。帯文には「その発言は、ハンナ・アーレントのいう“悪の凡庸さ”を想起させる」とあります。


★彼女は敗戦になるまでユダヤ人の虐殺を知らず、彼女自身、ユダヤ人に対する嫌悪もなく、交際していたユダヤ人男性との間には子供が生まれるはずでした(悲しい出来事の後、彼女は終生独身を貫きます)。彼女は自分の愚かさを認めつつ、政治に無関心のままナチスのもとで働くことになったこと、ヒトラー就任直後は「ただただ新しい希望に満ちていた」こと、「最初のころはすべてが順調で、みんなのお給料が上がった」こと、「宣伝省はとても良い職場」で「すべてが快適で居心地がよく、身なりの良い人ばかりで、みんな親切だった」こと、「少しだけエリートになった気分」だったこと、ゲッベルスが「卓越した役者」だったこと、彼の自殺後は「すべてが終わった」と思ったこと、それでも自殺しようとはならなかったこと、ソ連兵による抑留後に虐殺の事実を知って愕然としたものの、自分は直接は関与しておらず「私個人の罪では断じてない」と感じたこと、等々が赤裸々に語られます。たちまち付箋だらけになるほど、強く惹き込まれる問題作です。かつてアイヒマン裁判を扱ったブローマン/シヴァンの『不服従を讃えて』(産業図書、2000年)を読んだ時の戦慄が甦りました。アイヒマンもそうでしたが、ポムゼルも勤勉な人物でした。

★「もし仮に私が宣伝省にいなくても、歴史の歯車はおそらく同じように回っていたわ。あれは、私一人が左右できるようなことではまったくなかったのだから」(163頁)。「ナチスが権力を握ったあとでは、国中がまるでガラスのドームに閉じ込められたようだった。私たち自身がみな、巨大な強制収容所の中にいたのよ。ヒトラーが権力を手にしたあとでは、すべてがもう遅かった。そして人々はみな、それぞれ乗り越えなければならないものごとを抱えており、ユダヤ人の迫害だけを考えているわけにはいかなかった。ほかにもたくさんの問題があった。〔…〕だからといってすべてが許されるわけではないけれど」(172頁)。

★彼女が語ったことの中でもっとも説得的であるがゆえに恐ろしい言葉があります。「悪は存在するわ。悪魔は存在する。神は存在しない。だけど悪魔は存在する。正義なんて存在しない。正義なんてものはないわ」(146頁)。これは章ごとの扉に引用されている発言のひとつなのですが、この言葉だけが本文中には見当たりません。しかし映画においては確かに収められているそうで、版元さんの情報によれば本書149頁の第2段落(「私は抑留を解かれたあとで初めて…」)の後に150頁最終行からの段落(「強制収容所が存在することは…」)が続き、その後にガス室の映像が流れて「悪は存在するわ。何と言えばいいのか分からないけれど。神は存在しない。だけど悪魔は…」と続くとのことです。あまりにショッキングな証言のために、書籍版の本文からは削除され、かろうじて扉にのみ残されたのでしょうか。なお、映画と書籍は別々に再構成されており、まったく同一の内容というわけではないとも聞いています。

★正義をめぐってはこんな発言もあります。「正義なんて存在しない〔…〕司法にだって、正義は存在しない。第一に、あらゆるものごとについての意見は変化する。それも、つねに変化するものだわ」(175頁)。百年以上生きたことの重みがここに表れている気がします。ちなみに今月の岩波文庫ではアンナ・ゼーガースの『第七の十字架〔Das siebte Kreuz〕』上巻が発売されています。ナチスの強制収容所から脱走した七人をめぐる物語で、亡命先のフランスで執筆され、1942年にアメリカで縮約版が刊行され、その後ドイツでも刊行されました。親本は1952年、筑摩書房より刊行。巻末の編集付記によれば「文庫収録にあたり、山下肇氏子息の山下萬里氏の協力を得、訳語・訳文・表記の現代化の観点から若干の調整と、注記の追加等を行なった」とのことです。

★紀伊國屋書店さんの今月新刊はほかに2点あります。『腸と脳』はドイツ出身の胃腸病理学者で現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授を務める研究者による話題書『The Mind-Gut Connection: How the Hidden Conversation Within Our Bodies Impacts Our Mood, Our Choices, and Our Overall Health』(Harper Wave, 2016)の全訳です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきによれば本書の際立った特徴は、腸と腸内のマイクロバイオータと脳・心・情動の関係に大きな比重が置かれている点で、「過敏性腸症候群(IBS)、うつ病、不安障害、自閉症、さらにはパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患などの脳や心の病気に、腸やマイクロバイオータの異常が関連しうることが詳述されており、そこに心身の疾病に対する新たな視点を読み取ることができる」とのことです。福土審『内臓感覚――脳と腸の不思議な関係』(NHKブックス、2007年)をその昔興味深く読んだ方は本書でその知見を新たにされるかと思います。

★もう一点、『塗りつぶされた町』は『The Blackest Streets: The Life and Death of a Victorian Slum』(Vintage Books, 2009)の翻訳。19世紀末のロンドンの一角に存在したスラム街「ニコル」の誕生と消滅をつぶさに描いたユニークな歴史書。東京ドームの1.3倍ほどの地域に集合住宅と作業場と家畜小屋がひしめき、そこに6000人ほどが住んでいたといいます。住民の8割は子供だったそうで、貧しい人々を「救う」ために活動した聖職者や篤志家、革命家、さらには同地区で暮らした犯罪者や在野の統計学者など、様々な人物が登場します。「社会ののけ者の最下層を生みだしたとして、福祉国家を指弾する専門家は多い。だが、ちょっと待って欲しい。19世紀におびただしい数の貧困者が生まれたのは、人びとがなんの手助けも得られず、独力で何とかやっていくしかない状態に置かれたからにほかならない。この歴史的事実に目を向けてほしい。本書がそのきっかけとなってくれれば幸いである」(404頁)と著者は書いています。著者ワイズはカリフォルニア大学ロンドン研究センターで19世紀英国の社会史を講じているそうです。

★『ライプニッツ著作集 第Ⅱ期[3]技術・医学・社会システム』は著作集第Ⅱ期の完結編となる第3巻。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。様々な同時代の思想家と交流した知識人であり、広範囲な学問領域を開拓した先進的理論家で、さらに宮廷顧問官として社会貢献にも邁進したライプニッツ(1646-1716)の、実践家としての信念がよく表れている一冊ではないかと思います。個人的には第3部「社会システム」に収められている「図書館改革案」(山根雄一郎訳解説)と「図書館計画」(上野ふき訳解説)に惹かれます。後者はさらに「ヴォルフェンビュッテル公爵殿下への図書館運営の提言」と「ライプニッツの図書館配列案――諸学の分類に従ってより広くより集約的に配置されるべき」から成り、分類の中には「図書館学」もあって、「図書館に関する文書、普遍的な宝庫のために」と特記されています。2期全13巻完結にあたり、巻末の総解説「《実践を伴う理論》の真骨頂」で佐々木能章さんは次のように書かれています。「『ライプニッツ著作集』全13巻はライプニッツの業績を広くカバーするものとなった。もちろんライプニッツが書き残したもののすべてからすれば、これでもまだ一部でしかないのだが、多岐にわたる業績を見渡すことは十分に可能であろう」。このままずっと翻訳が続いていずれ第Ⅲ期が始まることをつい夢見てしまうのは私だけでしょうか。なお第3巻の特別付録として「『ライプニッツ著作集』第Ⅰ期・第Ⅱ期収載全著作・書簡年譜」が付属しています。

★ここ最近、『ライプニッツ著作集』だけでなく古典ものの翻訳が充実しています。ライプニッツの同時代人ロック(1632-1704)の『寛容についての手紙』は、1689年に刊行されたラテン語版テキストをウィリアム・ポップルが英訳して序言を付し同年に出版した『A Letter Concerning Toleration』の全訳。凡例によれば、1689年の初版を底本としつつ、1690年に刊行された第二版での修正を加味したとのことです。訳者お二人によるあとがきには「両名が『手紙』を翻訳した意図のなかには、野沢先生も心を痛めておられた現代世界を覆う不寛容な状況へのささやかな抵抗の意志を示すことも含まれている」と記されています。『ピエール・ベール著作集』の個人全訳で著名な野沢協さんとお二人との交流をきっかけに生まれたのが今回の訳書なのだそうです。『手紙』の既訳には、生松敬三訳(ポップル訳からの翻訳;『世界の名著27』所収、1968年)、平野耿訳(ラテン語版からの翻訳;朝日出版社、1971年)、野沢協訳(フランス語訳からの翻訳、『ピエール・ベール関連資料集 補巻』所収、2015年)があります。

★18世紀ドイツのゲッティンゲン大学実験自然学教授リヒテンベルク(1742-1799)が20代から50代まで35年にわたって書き残してきたノート群から抜粋し翻訳した『リヒテンベルクの雑記帳』が先月刊行されました。底本は1980年と1991年に刊行されたプロミース版2巻本。「リヒテンベルクが取り上げた分野や主題をできるだけ網羅することを目指し」たものとのことで600頁以上ある大冊ですが「これでも全体に比すればわずかなもの」だそうです。「アフォリズム文学の嚆矢」(帯文より)として知られているのは周知の通り。カネッティが「世界文学におけるもっとも豊かな書物」と呼んだように、論及される主題は実に多種多様です。例えば飲酒については、ワインをグラスに5、6杯飲めば「目に力を与え、魂を心地よく満たすにはこれ以上のものはない」(B159、356~357頁)と述べ、人生の憂鬱な隘路に新しい展望を拓いて心を解放する、その効用を記しています。よりコンパクトな抜粋本としては池内紀編訳『リヒテンベルク先生の控え帖』(平凡社ライブラリー、1996年)がありましたが、現在は品切。

★『ミクロログス(音楽小論)』は「ドレミの始祖」として知られる11世紀イタリアのグイド・ダレッツォ(アレッツォのグイド)の主著で中世ヨーロッパの音楽理論書として高名な論考の全訳。関連文書3篇の翻訳(「韻文規則」「アンティフォナリウム序文」「未知の聖歌に関するミカエルへの書簡」)に加え、7本の解説論文を併載しており、充実しています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。少年たちに聖歌を教えることを目的とした『ミクロログス』は難解な理論的説明を避け、「歌い手たちに役立つと信じるいくつかの事柄を可能な限り簡潔に述べ〔…〕歌唱にあまり役立たず、議論されてもいても理解できないような音楽[の問題]については言及しない」(7頁)という立場を取っています。佐野隆さんによる解題では本書を「包括的な音楽実践の手引書としては最初期の著作であり、その実用性、有用性のため後の時代に大きな影響を与えることになる」と説明されています(97頁)。

★『エコラリアス』はアガンベンの英訳者として名高いヘラー=ローゼン(Daniel heller-Roazen, 1974-)の2冊目の著書(2005年)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。伊藤達也さんによる巻末解説「ダニエル・ヘラー=ローゼンとは何者か?」での説明の文言を借りると、エコラリアスとは「エコー(反響)とラリア(話)」の複数形で「反響言語」を意味し、「本書では喃語反復、他者の言葉の繰り返し、死語の残存など、かなり広い意味で用いられ」ています。伊藤さんはこうも評しておられます。「本書を構成する21の章は、医学、文学、言語学、哲学、宗教学など様々なテキストの読みを通じて、一つの大きな寓話を幾重にも変奏する。その寓話とは、言語を忘却することで人は言語を獲得し、そのようにして獲得された言語は他の言語の痕跡を谺として残存させるというものである。〔…〕哲学者ヘラー=ローゼンは言語学についても極めて正確な知識を持っており〔…〕彼は明らかに新しい時代の哲学者、書き手だ」(261頁)。

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吉本隆明全集16[1977-1979]』晶文社、2018年7月、本体6,500円、A5判変型上製582頁、ISBN978-4-7949-7116-6
市場のことば、本の声』宇田智子著、晶文社、2018年6月、本体1,600円、四六判上製240頁、ISBN978-4-7949-7024-4
これからの本屋読本』内沼晋太郎著、NHK出版、2018年5月、本体1,600円、四六変型判並製320頁、ISBN978-4-14-081741-4

★『吉本隆明全集16[1977-1979]』はまもなく発売(7月3日発売予定)。全38巻別巻1のうちの第17回配本で、帯文に曰く「100名にも及ぶ詩人の分析から“戦後の感性”の源泉を明らかにした『戦後詩史論』。夭逝や自死を余儀なくされた詩人たちに忍び寄る“季節の病像”を捉えた『吉本隆明歳時記』を収録」と。この2作のほかに、単行本未収録2篇を含む、同時期の詩や評論、エッセイなどが併載されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。『吉本隆明歳時記』は四季に分かれ、中原中也、梶井基次郎、堀辰雄、立原道造、嘉村礒多、葛西善蔵、正宗白鳥、牧野信一、宮沢賢治、長塚節、などを取り上げます。同時期発表のエッセイでは、昼となく夜となく不躾かつ脅迫的な電話を自宅に掛けてくる見知らぬ男の話「狂人」や、「本を読むことは悪いことをすることとよく似ていた」と書いて少年の頃の記憶をたどる「本を読まなかった」、小学生高学年の折に塾通いを強いられたことによって遊び友達の輪から離れた体験を「現在もわたしを規定している」と明かした「別れ」など、著者の日常生活を垣間見る短文の好篇が興味を惹きます。付属する「月報17」は、長谷川宏「思考の楽しさ」、荒川洋治「詩の時代」、ハルノ宵子「銀河飛行船の夜」を掲載。ハルノさんの寄稿は家族の特異体質について書いたもの。「話半分で読み飛ばしていただいて構わないが、うちの家族は全員“スピリチュアル”な人々だった。〔…〕現代的な表現をするなら、一種の“高機能自閉症”だ」。「論理とスピリチュアルは、決して相反するものではない」とも書いておられます。次回配本は9月下旬予定、第17巻とのことです。

★晶文社さんの今月新刊では、宇田智子さんのエッセイ集『市場のことば、本の声』が素晴らしいです。直近の約5年間に各誌で発表されてきたものに加筆修正を施し一冊にまとめたもの。帯文に「気鋭のエッセイスト」とあって、ついにこうした冠がと感慨深くなるのは新刊書店員時代の宇田さんのことを思い出すからですが、彼女の味わい深い文章はまさにエッセイスト、今や作家のそれだと感じます。特に、文章の終わり方、閉じ方(綴じ方)を心得ているという点がそう感じさせる理由なのかもしれないと思います。微妙に開いたままにして、読み手にその後を想像して味わう自由を渡してくれる、そういうやさしさを感じます。宇田さんと同じ1980年生まれの内沼晋太郎さんも今月、『これからの本屋読本』というこれまでの総決算となるような著書を上梓されています。一軒家の本屋の屋根に見えるような斜めに裁断された造本が面白いです。内沼さんの魅力はご自身が蓄積してきたノウハウを広く共有することに何のためらいもないところで、そうした「オープンソース」ぶりがこれから書店を新たに立ち上げようとしている多くの人々への知恵と励ましになってきたのだと思います。このお二人がいるだけで救われているものが確実にある、と感じます。

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by urag | 2018-06-24 23:55 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 20日

リレー講義「世界と出版文化」@東京外国語大学

本日(2018年6月20日)は、東京外国語大学府中キャンパスにお邪魔し、同大学出版会さんご企画のリレー講義「世界と出版文化」にて、「越境を企画する――汎編集論的転回と出版界の現在」と題して発表させていただきました。出版社の仕事や業界三者(出版社・取次・書店)の現状と最新動向、さらに、モノとしての書物の肉体性に私がこだわりたい理由や、私自身の就活・転職・独立の体験談などもお話しいたしました。熱心な御清聴、まことにありがとうございました。聴講生の皆さんのレスポンスシートはすべて拝読させていただきました。多数ご質問をいただいたので、ただいま回答を準備中です。近日中にお渡しできるようにしたいと思います。またどこかで皆さんとお目に掛かれることを楽しみにしております。

2010年7月07日「出版社のつくりかた――月曜社の10年」
2011年6月15日「人文書出版における編集の役割」
2012年6月06日「人文書出版における編集の役割」
2013年5月15日「知の編集――現代の思想空間をめぐって」
2014年7月09日「編集とは何か」
2015年6月06日「編集とは何か――その一時代の終わりと始まり」
2016年5月25日「編集と独立」
2017年4月19日「人文系零細出版社の理想と現実」
2018年6月20日「越境を企画する――汎編集論的転回と出版界の現在」

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by urag | 2018-06-20 18:15 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 18日

リレー講義「文化を職業にする」@明星大学

先週土曜日(2018年6月16日)は、明星大学日野キャンパスにお邪魔し、人文学部共通科目「自己と社会Ⅱ:文化を職業にする」というリレー講義で発表させていただきました。今年はテーマを「出版社とは:仕事、現在、未来」と題し、出版社の編集の仕事、営業の仕事、さらに出版界の変化(出版社・取次・書店)についてお話ししました。ご清聴いただきありがとうございました。担当教官の小林一岳先生に深謝申し上げます。受講された皆さんから頂戴したご質問に対し、ひとつひとつ回答を書きましたので、いずれ皆さんのお手元に配付されることと思います。また皆さんとお目に掛かってお話をする機会があれば幸いです。

◎「文化を職業にする」@明星大学
2012年6月16日「文化を職業にする」
2013年6月15日「独立系出版社の仕事」
2014年6月07日「変貌する出版界と独立系出版社の仕事」
2015年6月13日「独立系出版社の挑戦」
2016年6月11日「出版界の現在と独立系出版社」
2017年6月17日「出版社の仕事と出版界の現在」
2018年6月16日「出版社とは:仕事、現在、未来」

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なお、同大学では資料図書館の貴重書コレクション展「コペルニクスとガリレオ ―近代天文学の夜明け」が9月29日まで開催中で、じっくり見学してきました。事前予約制で学外でも入場無料。コペルニクス、ガリレオ、ケプラー、ニュートンなどの典籍が公開されています。動画資料「ガリレオ裁判」も必見でした。お土産に、コペルニクスとガリレオの肖像と名言が印刷されている紙製のブックカバーや、ガリレオの栞などが配布されています。これはなかなか素敵でした。

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by urag | 2018-06-18 18:15 | ご挨拶 | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 17日

注目新刊:戦慄のオニール『数学破壊兵器』の訳書がインターシフトより、ほか

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『自然―HAPAX9』夜光社、2018年6月、本体1,100円、四六判変形156頁、ISBN978-4-906944-14-9
『サラム ひと』崔真碩著、民衆詩叢書1:夜光社、2018年6月、1,100円、四六判変形122頁、ISBN978-4-906944-15-6
子午線:原理・形態・批評6』書肆子午線、2018年6月、本体2,400円、B5変形判324頁、ISBN978-4-908568-13-8
チビクロ――松本圭二セレクション第9巻(エッセイ&批評)』松本圭二著、航思社、2018年6月、本体3,400円、四六判上製368頁、ISBN978-4-906738-33-5
今宵はなんという夢見る夜――金子光晴と森三千代』柏倉康夫著、左右社、2018年6月、本体4,200円、四六判並製416頁、ISBN978-4-86528-201-6
あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール著、久保尚子訳、インターシフト発行、合同出版発売、本体1,850円、四六判並製336頁、ISBN978-4-7726-9560-2
哲学者190人の死にかた』サイモン・クリッチリー著、杉本隆久/國領佳樹訳、河出書房新社、2018年6月、本体2,400円、46判奈美氏江376頁、ISBN978-4-309-24870-7
周作人読書雑記3』周作人著、中島長文訳注、東洋文庫889:平凡社、2018年6月、本体3,300円、B6変判上製函入442頁、ISBN978-4-582-80889-6
近世金沢の銀座商人――魚問屋、のこぎり商い、薬種業、そして銀座役』中野節子著、平凡社選書234:平凡社、2018年6月、本体2,800円、4-6判上製240頁、ISBN978-4-582-84234-0
有職装束大全』八條忠基著、平凡社、2018年6月、本体6,800円、B5判上製320頁、ISBN978-4-582-12432-3

★夜光社さんの6月新刊2点。『HAPAX6』は「自然」がテーマ。高祖岩三郎さん、白石嘉治さん、森元斎さんらによる10篇のテクストを掲載。収録作の一覧は版元ウェブサイトでご覧いただけます。HAPAX bisによる「二月某日の疲れをもよおさせる議論」はあたかも同誌の編集会議や勉強会を覗くような印象があって非常に興味深いです。ダニエル・コルソン(Daniel Colson, 1944-)による『アナキズム哲学小辞典――プルードンからドゥルーズまで』(Petit lexique philosophique de l'anarchisme. De Proudhon à Deleuze, Le Livre de Poche / Librairie Générale Française, 2001)から、「外の力能」という項目が全訳されていますが、同辞典はいずれ夜光社さんから全訳が出るとのことです。

★『サラム ひと』は、夜光社さんの新シリーズ「民衆詩叢書」の第一弾。広島大学大学院総合科学研究科の准教授にして文学者の崔真碩(ちぇ・じんそく:1973-)さんが2015年から2016年にかけて各誌で発表してきた詩と散文9篇に加筆修正を施し、3篇の新作とともに一冊としたもの。行友太郎さんによる解説「崔真碩同志の思想」が巻末に付されています。書名にもなっている「サラム ひと」の「サラム」とは「朝鮮語で人の意」(18頁)。崔さんは「私がこの名前に込めているのは、朝鮮人と日本人の共生だ。朝鮮と日本は共に在る、運命共同体。共生のための名前。祈りとしての〈サラム ひと〉」(80頁)と書いています。

★なお、夜光社さんでは今月、『共犯者たち』上映シンポ実行委員会発行の『政治権力VSメディア――映画『共犯者たち』の世界』と、アジア女性資料センター発行の『女たちの21世紀 no.94 特集 生活から問う改憲と天皇制』も発売されるとのことです。どちらの概要も、ツバメ出版流通さんのウェブサイトで公開されているPDFにて確認することができます。

★『子午線:原理・形態・批評6』は、前号より約1年半ぶりの最新号。究極Q太郎さんへのロング・インタヴュー「政治性と主観性/運動することと詩を書くこと」、稲川方人さん、松本圭二さん、森本孝徳さんの三氏による連続討議「現代詩の「墓標」」の第一回となる「60年代詩」、さらに詩人にして校正者の安里미겔(あさと・ミゲル:1969-)さんによる作品三作、大杉重男さんら4氏による批評4篇、藤本哲明さんら3氏による詩3篇などが掲載されています。究極さんと安里さんの二人の磁場が強烈です。書店員の皆さんはご存知かと思いますが、『子午線』はツバメ出版流通さんで扱われています。

★『チビクロ』は航思社さんの「松本圭二セレクション」の最終回配本となる第9巻。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「詩/文学」「詩/映画」「映画/フィルム」の三章立てで、帯文に曰く「大岡信、稲川方人、岡田隆彦、絓秀実、渡部直己、イーストウッド、ヴェンダース、ゴダールを相手に、何をどのように論じたのか。著者30歳から書きつづってきたエッセイ&批評の集大成」と。付属する栞には、山本均「資本主義とオルタナティヴ」、坂口一直「松本圭二の思い出」、そして著者解題が掲載されています。どの巻もそうでしたが、栞の妙味には抗いがたいものがあります。

★柏倉康夫『今宵はなんという夢見る夜』は、詩人の金子光晴(1895-1975)さんと作家の森三千代(1901-1977)さんのそれぞれの作品を読み解くとともに、約4年間の海外放浪を含む、二人が過ごした日々を鮮やかに描いた評伝です。書名は森さんの『インドシナ詩集』所収の作品「星座」からの引用。著者の柏倉さんは「まえがき」でこう書いておられます。「彼ら二人の心のうちで繰り広げられた愛と嫉妬の劇は、金子光晴という希有の詩人の形成を解く鍵でもある」。「〔森の作品を〕合わせ鏡として参照することにより、金子の「自伝」が含む虚構の部分を照らしだすことができる」。

★オニール『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』はまもなく発売。『Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy』(Crown, 2016)の訳書です。数々の海外メディアで年間ベストブックに選ばれており、新井紀子さん(『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』)や、ユヴァル・ノア・ハラリさん(『サピエンス全史』)も絶賛されている問題作。版元ウェブサイトで目次と「はじめに」「解説」のPDFが公開されています。「はじめに」で著者は次のように述べています。少し長いですが、重要なので引用してご紹介します。

★「そう、ビックデータ経済の到来である。これにより、目覚ましい経済発展が見込まれた。コンピュータープログラムを使えば、ほんの1、2秒のあいだに数千件もの履歴書やローン申込書を処理し、分類し、有望な順に並べた候補者リストを作成することができる。時間の節約になるだけでなく、公正で客観的な資料としてリストを売ることもできる。偏見をもつ人間が大量の書類に目を通すのではなく、ただの機械が血の通わない数字を淡々と処理するのだから。2010年ごろには、人事部門での数学の存在感はこれまでになく高まり、大きな期待をもって迎え入れられた。/でも、私には弱点が見えていた。数学の力で動くアプリケーションがデータ経済を動かすといっても、そのアプリケーションは、人間の選択のうえに築き上げられている。そして人間は過ちを犯す生き物だ。モデルを作成する際、作り手は、最善の意図を込め、良かれと思って選択を重ねたかもしれない。それでもやはり、作り手の先入観、誤解、バイアス(偏見)はソフトウェアのコードに入り込むものだ。そうやって作られたソフトウェアシステムで、私たちの生活は管理されつつある。神々と同じで、こうした数理モデルは実体が見えにくい。どのような仕組みで動いているのかは、この分野の最高指導者に相当する人々――数学者やコンピューターサイエンティスト――にしかわからない。モデルによって審判が下されれば、たとえそれが誤りであろうと有害であろうと、私たちは抵抗することも抗議することもできない。しかも、そのような審判には、貧しい者や社会で虐げられている者を罰し、豊かな者をより豊かにするような傾向がある。/私は、そのような有害なモデルを「数学破壊兵器(Weapons of Math Destruction:WMD)」と呼ぶことにした」(8~9頁)。

★「本書で論じる数学破壊兵器の多くは〔…〕フィードバックがないまま〔誤りから学習することなく〕有害な分析を続けている。自分勝手に「事実」を規定し、その事実を利用して、自分の出した結果を正当化する。このようなたぐいのモデルは自己永続的であり、きわめて破壊的だ。そして、そのようなモデルが世間にはあふれている」(14~15頁)。「スコアによって現実が作られていくのだ」(15頁)。「AI・ビッグデータには、大勢の熱烈な支持者がいる。だが、私は違う。本書では、世間の流れに逆らい、数学破壊兵器によって生じた損害や数学破壊兵器によって延々と生み出される不正行為に注目し、鋭く切り込んでいく。大学への進学、お金の借り入れ、刑務所行きの判決、職探しや昇進など、人生の重要な瞬間に有害な影響を受けた人々の事例を数多く見ていくことになる。あらゆる生活領域で、独裁的に罰を振りかざす「秘密のモデル」による支配が進みつつあることに、あなたも気づくだろう。/それでは、AI・ビッグデータの暗黒面を覗いてみよう」(24~25頁)。怖いです。


★クリッチリー『哲学者190人の死にかた』は、2009年に河出書房新社さんが刊行した『哲学者たちの死に方』を一部改訂し、改題新装したもの。原書は『The Book of Dead Philosophers』(Granta Books, 2008)すなわち『死せる哲学者たちの書』。ギリシア・ローマの古典時代から、中世、ルネサンス、近世、近代、20世紀に至るまで数多くの哲学者や、中国古典、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、そして科学者や文学者を含む思想家を数多く取り上げており、ユニークな列伝となっています。

★平凡社さんの今月新刊より3点。『周作人読書雑記3』は全5巻のうちの第3巻。性・女性、子ども・童話、日本文学、西洋文学、言語、の分類で84篇を収録。童話では『アンデルセン童話集』『ワイルド童話集』『不思議の国のアリス』など、日本文学では小林一茶『おらが春』、中勘助『銀の匙』など、西洋文学では『イソップ寓話』や『クォ・ヴァディス』など。

★中野節子『近世金沢の銀座商人』は近世前期の金沢城下の商人・福久屋(石黒氏)について、90年代に発見された石黒家伝来の覚書や日記といった文書群を読み解き、商売やその成長、奉公人、交友関係、銀座役(銀の秤量・封包〔ふうづつみ〕・両替・為替を監督する町役人)としての立場、藩権力との関係、などを丹念に描出したもの。「藩が権力を維持したのは結局は経済の根幹を握っていた商人たちがいたからであった。〔…〕福久屋はいわばそれら商人の代表であった。しかし、商人たちは藩権力に近寄りすぎるとまま危機を招くことになる。その一つの例を福久屋の事例が物語っているのである」(234頁)。

★八條忠基『有職装束大全』は、奈良・平安時代以降、朝廷や公家社会、武家の儀式などで用いられ、こんにちでも皇室行事や神社の祭式などで着用されている衣装「有職装束(ゆうそくしょうぞく)」の数々を、カラー写真で着用例を紹介し、史料にもとづいて装束の歴史と種類、構成具、色彩と文様を解説したもの。特に、位階に応じた当色(とうじき)や、禁色(きんじき)と忌色(いみじき)、季節に応じた重ね色目(いろめ)や女房装束の襲色目(かさねいろめ)、織色目や文様などの美しい資料は、デザインの参考になり、興味深いです。

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by urag | 2018-06-17 23:44 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 12日

荒木優太『仮説的偶然文学論』出版記念イベント情報2本

先月発売いたしました、荒木優太『仮説的偶然文学論』の出版記念イベントの情報をまとめます。話をじっくり聞きたい方は吉川さんとのB&Bでの対談を、荒木さんご本人とお話をしたい方は代官山蔦屋での人文カフェをお薦めします。

◎荒木優太×吉川浩満「クリナメンズ作戦会議

日時:2018年7月7日(土)19:00~21:00 (18:30開場)
場所:本屋B&B(世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F)
料金:前売1,500yen + 1 drink order / 当日店頭2,000yen + 1 drink order

内容:古代ギリシャの原子論者は、物体をつくる最小単位の原子(アトム)が雨みたいに上から下へと同じ速度で垂直落下していたはずだ、と考えた。けれども、それじゃ原子は他の原子と出会えずに物体になれない。そこで、エピクロスという人は、落下する原子自体のなかに必然のコースから外れて傾く力、すなわちクリナメンがあるといって古い仮説を修正した。正規ルートから逸脱するからこそ偶然の出会いがある。人生だって同じ。博打上等。レールに乗った将来なんて糞くらえ、盗んだバイクで走り出せ。が、とはいえ、道を踏み外すのは恐ろしい。できればみんな傾奇者クリナメンズになんかなりたくない。魅惑的でありながら恐ろしくもある偶然の傾きを的確にウェルカムするにはどうしたらいいのか?『理不尽な進化――遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社)にて進化を司る「偶発性」の容赦なさと、それに避けがたくくっついている人間の形而上学的感覚をえぐりだし、Twitterアカウントその名も@clnmnをもつ稀代の論客・吉川浩満さん。そんな吉川さんに、学界の傾奇者こと荒木優太さんが新刊『仮説的偶然文学論』(月曜社)を片手に立ち向かいます! 傾いて偏ってるヤツも傾いて偏ってないヤツも、乞うご期待。

◎第4回代官山人文カフェ:荒木優太「人生を左右しない偶然について考えよう

日時:2018年7月20日(金)19:00~
場所:代官山蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
問い合わせ先:電話03-3770-2525
料金:コーヒー1杯付イベント参加券(1,000円/税込)をご予約頂いた先着50名様に参加券をお渡しいたします。

内容:「代官山人文カフェ」人文書の様々なテーマについてコーヒーを片手に語り合い、いっしょに考える。話を聴いて新たな視点を得たり、思考を深める。第4回テーマは「人生を左右しない偶然について考えよう」。偶然の出会いや事故によって人生は劇的に変わる...のですが、それ以上に私たちの日常は何気ない偶然の連続でできあがってもいます。今朝の電車が少し遅れたのも偶然、昼間訪れたコンビニのバイトがいつもと違う青年に変わっていたのも偶然、いまあなたがこの文章を読んでいるのもきっと偶然。偶然偶然、偶然ばっかり。それになのに私たちは、ある偶然を「運命だ!」「奇跡だ!」と騒ぎ立てる一方で、そうではない偶然はまるで当たり前のことのように無視してすごします。この区別のメカニズムを、荒木優太さんは最新著『仮説的偶然文学論』のなかで「偶然のフィルタリング」と呼んでいます。そもそも偶然を表象するということはどういうことなのでしょう? ちょっと印象に残ってる偶然エピソードを胸に、ぜひお立ち寄りください。

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by urag | 2018-06-12 08:41 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 10日

注目新刊:ジェノスコのガタリ論、クリステヴァのボーヴォワール論、ほか

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フェリックス・ガタリ――危機の世紀を予見した思想家』ギャリー・ジェノスコ著、杉村昌昭/松田正貴訳、法政大学出版局、2018年6月、本体3,500円、四六判上製348頁、ISBN978-4-588-01080-4
ボーヴォワール』ジュリア・クリステヴァ著、栗脇永翔/中村彩訳、法政大学出版局、2018年5月、本体2,700円、四六判上製286頁、ISBN978-4-588-01079-8
ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』奥野克巳著、亜紀書房、2018年5月、本体1,800円、四六判並製352頁、ISBN978-4-7505-1532-8
ソウル・ハンターズ――シベリア・ユカギールのアニミズムの人類学』レーン・ウィラースレフ著、奥野克巳/近藤祉秋/古川不可知訳、亜紀書房、2018年3月、本体3,200円、四六判上製384頁、ISBN978-4-7505-1541-0

★ジェノスコ『フェリックス・ガタリ』は『Félix Guattari: A Critical Introduction』(Pluto Press, 2009)の全訳。カナダのコミュニケーション理論・文化理論家ジェノスコ(Gary Genosko, 1959-)さんの著書が翻訳されるのは初めてのことです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。英語圏におけるガタリ(およびドゥルーズ/ガタリ)の研究者としても著名で、本書に遡る7年前には『Félix Guattari: An Aberrant Introduction』(Continuum Press, 2002)という著書も上梓されています。今回訳された著書についてジェノスコさん自身はこう述べています。「本書は批評的入門書であり、それぞれの章においてガタリの人生や思想のおもな特徴を中心に論じながら、彼の主要な政治-社会概念および実践について解説するものである。関係資料を数多く示しつつ、諸概念の解説を試みながら、それがいかに今日的意義を持つかを示す」(25頁)。

★また、ガタリを再読する意義については端的に次のように言明されています。「なぜいまガタリを読まなければならないのか。批判的な受容という文脈からは、次のような二重の理由があげられる。それは、共同で書いた著作のなかでガタリが寄与している部分を黙殺するような傾向を是正するためであり、藁人形論によってガタリの寄与をただ追い払おうとするような意見に与せず、ガタリ自身が書いたテクストを実際に読むためである。/この行き詰った状況を乗り越えることができれば、社会理論や政治理論のなかでいま行われている議論に対してガタリが何を提案しようとしていたのか、さらによく理解できるようになるだろう」(22頁)。

★本書の「結び」における、雑誌編集者としてのガタリの姿の描出は感動的です。「〔ガタリは〕異質混淆的な要素をひとつに集め、それを統一的な全体としてまとめることなく、それぞれまったく性質の異なった部分と部分のあいだに横断的な線を刻みこむ。/雑誌は、選択的でミクロ制度的なものであり、編集作業の動的編成によって生みだされる。それは、自らの計画を集団で実現し、新しい参照世界を創出し、芸術家のようなやり方で情動を生みだし、来たるべき読者や参加者に呼びかけるものである」(252~253頁)。ガタリ再評価の機運をもたらしてくれる実に啓発的な一書です。

★なお、ジェノスコさんは今月来日を果たされ、「カルチュラル・タイフーン2018」の以下のイベントに登壇されます。参加費は学生1,000円/一般3,000円とのことです。カルチュラル・スタディーズ学会およびカルチュラル・タイフーン2018大会委員会主催、龍谷大学国際社会文化研究所共催。

◎メインシンポジウム「情動化する社会の政治・経済・文化――グローバル資本主義に未来はあるか?」
日時:2018年6月23日(土)13時~15時30分
場所:龍谷大学大宮学舎・東黌101
パネリスト:ギャリー・ジェノスコ、ジョディ・ディーン、村澤真保呂、伊藤守
司会:杉村昌昭

◎ワークショップ「資本主義、メディア、ポピュリズム:フェリックス・ガタリ思想の現代性」
日時:2018年6月24日(日)17時15分~18時45分
場所:龍谷大学大宮学舎・東黌303
講演者:ギャリー・ジェノスコ

★クリステヴァ『ボーヴォワール』は『Beauvoir présente』(Fayard, 2016)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭の「人類学的=人間学的革命」で著者ご本人は次のように本書を紹介しています。「本書に収められたテクストは、恒常的に危機に見舞われるグローバル化した世界という文脈のなかで、ボーヴォワールの著作と彼女が女性の闘いに与えた多大な影響にささげられた様々な催しの際に発表されたものである。ここで私が提示するのはこの哲学者の複雑な仕事の網羅的な研究ではないし、また私は実存主義の潮流における彼女に位置づけにこれまで非常に関心をもってきたとはいえ、ここで示すのはその位置づけの評価でもない。〔…〕ここにあるのは、ひとつの基礎的な体験=実験が私の中に呼び起こす個人的な読解や称賛あるいは批判のコメントである。その体験=実験の機微とそこに含まれる現代性は、私たちに呼びかけ私たちを不意にとらえることをまだやめてはいない。/〔本書は〕この作家の書いたものを、(いま一度)読むように誘うものである」(8頁)。

★また、こうも書いています。「シモーヌ・ド・ボーヴォワールというあまりに頻繁に不要に批判されあるいは過小評価されている先駆者に対して私が恩義を表明し、『女の天才』三部作を彼女に捧げているということ」(25頁)。『女の天才』三部作というのは『ハンナ・アーレント』(松葉祥一ほか訳、作品社、2006年)と『メラニー・クライン』(松葉祥一ほか訳、作品社、2012年)、そして未訳のコレット論(2002年)のことです。さらに、2008年に設立された「女性の自由のためのシモーヌ・ド・ボーヴォワール賞」に関わったことについては、本書に収められているインタヴュー「ヒトは女に生まれる、しかし私は女になる」でこう答えています。「ボーヴォワールの生誕100周年の際に、フェミニストたちのあいだで意見が一致せず、私が頼まれてパリでの国際シンポジウムを引き受けることになりました。私はそれを記念した後にも何か残るものを作りたいと思ったのです。彼女が促進したこの真の人類学的=人間学的革命が人びとを扇動し続けるために。特に、人間=男性〔homme〕における主体に対して無関心であり、また女性における主体に対してはさらに無関心であると思われる他の文化において、それを続けるためです」(136頁)。

★そしてその直前には「『第二の性』は刊行から60年が経ち、もう時代遅れであると考える女性もいます」という質問に対し、「彼女たちは誤っています。『第二の性』を読んでいないのです。まずは読まねばなりません。そして次に各人が自分の体験を探らねばなりません」(同)と答えています。ボーヴォワール『第二の性』(〈1〉「事実と神話」、〈2〉「体験」上下巻)は新潮文庫で訳書が出ていますが、残念ながら現在品切。再刊が待たれていると思われます。

★奥野克巳『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』は、ボルネオ島の狩猟採集民「プナン」に密着し、そこでの見聞から考えたことを綴ったもの。マレーシア、インドネシア、ブルネイの三つの国から成るボルネオ島のうち、著者が訪れたのはマレーシアのサラワク州のブラガ川上流の居住地で、2006年から2017年までに通算600日を過ごしたそうです。帯文には探検家の関野吉晴さんの推薦文が記されています。曰く「この書を読み、生産、消費、効率至上主義の世界で疲弊した私は驚嘆し、覚醒し、生きることを根本から考えなおす契機を貰った」と。すでに本書は様々な反響を呼び起こしているようで、おそらくは2018年上半期を代表する話題書のひとつに数え挙げられるのではないかと思われます。

★たとえばこんな一節があります。「プナン語には、「貸す/借りる」という言葉がそもそもなかった〔…〕。プナンは肉であれ果物であれ帽子であれ時計であれ、何かものを欲する時には「ちょうだい」という言い回しを用いる。その時、そのものは、それを持たない相手に対して、惜しみなく分け与えられなければならない。寛大さはプナンにとって最大の美徳である」(191頁)。「そのようにして、ものは共同体内でぐるぐると循環し、場合によっては共同体の外部に流れていく。〔…〕プナンは、独占しようとする欲望を集合的に認めない。分け与えられたものは独り占めするのではなく、周囲にも分配するように方向づける。そうしたやり方が、プナンの共同体の中に広く浸透している。このような贈与交換の仕組みを、プナンはみなでつくり上げている。個人で独占所有するのではなく、みなで所有するという考え方とやり方こそが、プナンの共同体の中で取られなければならない個人の態度なのである」(192頁)。

★「共同体の中で最もみすぼらしいなりをした男こそが、そのグループのアド・ホックな(一時的な)リーダーなのである。なぜなら、彼は自らに贈与された財やお金を次から次へと周囲の人物に分け与えるため、自らは何も持たなくなってしまうからである。彼が人々から尊敬の的とされるのは、自らが贈与交換の通過点となり、ほとんど何も持たないからである。彼は、贈与されたものを、惜しみなく周囲にいる人々に与える。そして、尊敬を集めることによって、財やお金がますます彼のことに集まってくる。すると、彼は以前にもまして、ますます周囲に分け与えるのである。/プナン社会では、財やお金を蓄積し、私腹を肥やしたり、それらを自らのためだけに用立てたりしようとしない精神こそが尊ばれる。逆に言えば、財を独り占めしようとする精神性は蔑まれ、疎んじられる」(194~195頁)。「プナンはみな誰かの奴隷になることを嫌っている。アナキストのように」(195頁)。

★本書の土台となったのは、亜紀書房のウェブマガジン「あき地」の連載「熱帯のニーチェ」(2016年5月~2017年8月)で、全16回の記事を14章に圧縮し、書き下ろしの2章を加えて改稿したそうです。ニーチェと何が関係しているのかは本書の「おわりに――熱帯のニーチェたち」に記されています。なお、本書の刊行を記念して以下のトークイベントが予定されています。

◎奥野克巳×宮台真司 対談「人間を超えて、社会学を超えて

日時:2018年07月12日(木) 19:00~21:00
会場:代官山蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
定員:70名
問い合わせ:電話03-3770-2525

内容:森の中で暮らしを立てる狩猟採集民とまじわって、「人間を超えた人類学」を模索する奥野さん。かたや、宮台さんは「社会学の終わり」を構想されています。閉塞感たれ込める今の社会に風穴をあけるには、どうすればいいのか。多自然主義やパースペクティヴィズムをめぐって、興味深い話が展開されること必至です。終了後はお二人のサイン会も行います。奮ってご参加ください。

★なお、奥野さんは同じく亜紀書房から3月に、国立デンマーク博物館館長で人類学者のレーン・ウィラースレフ(Rane Willerslev, 1971-)さんの2007年の著書『ソウル・ハンターズ』の共訳書を上梓されています。訳者解説では本書に対する評価を次のようにまとめておられます。

★「本書は、2000年代になって、ヴィヴェイロス・デ・カストロやフィリップ・デスコーラらによってはじめられた、いわゆる人類学の「存在論的転回」における重要著作のひとつに位置づけられる。存在論的転回とは、文化的存在としての人間を取り上げて、異文化の中にその多様なあり方を探ってきた文化相対主義/多文化主義を突破して、人間を取り巻く存在を人間同様の存在者と捉える(非西洋の人々の)「存在」をめぐる思考と実践を人類学の主題として切り拓いてきた知の運動である。ウィラースレフは「パースペクティヴィズム」という、ヴィヴェイロス・デ・カストロによって提唱された課題に挑み、それを抽象的な次元ではなく、自らも狩猟者として参与した経験と具体的な民族誌事例を用いながら、狩猟活動における獲物との実践的な関わりの中で、より精緻なものとして鍛え上げていった」(359頁)。このほかにも2点の評価が説明されていますが、どちらも人文書における書棚づくりのヒントになるはずです。

★奥野さんの著書の巻末広告には、近刊として共訳書が2点予告されています。モーテン・アクセル・ペデルセン『シャーマンくずれ――モンゴル北部の霊的世界と政治』と、ティム・インゴルド『なぜいま人類学か』です。非常に楽しみですね。

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★ちくま学芸文庫の6月8日発売の新刊は6点。

20世紀の歴史――両極端の時代(上)』エリック・ホブズボーム著、大井由紀訳、ちくま学芸文庫、2018年6月、本体1,700円、576頁、ISBN978-4-480-09866-5
古代ローマ旅行ガイド――一日5デナリで行く』フィリップ・マティザック著、安原和見訳、ちくま学芸文庫、2018年6月、本体1,200円、288頁、ISBN978-4-480-09871-9
ナショナリズムとは何か』アントニー・D・スミス著、庄司信訳、ちくま学芸文庫、2018年6月、本体1,300円、384頁、ISBN978-4-480-09873-3
バルトーク音楽論選』ベーラ・バルトーク著、伊東信宏/太田峰夫訳、ちくま学芸文庫、2018年6月、本体1,200円、288頁、ISBN978-4-480-09839-9
フランシス・ベイコン・インタヴュー』デイヴィッド・シルヴェスター著、小林等訳、ちくま学芸文庫、2018年6月、本体1,300円、320頁、ISBN978-4-480-09854-2
博徒の幕末維新』高橋敏著、ちくま学芸文庫、2018年6月、本体1,000円、256頁、ISBN978-4-480-09874-0

★ホブズボーム『20世紀の歴史――両極端の時代(上)』は、『The Age of Extremes』(Michael Joseph/Vintage Books, 1994)の新訳です。上巻には「序文と謝辞」、「20世紀を俯瞰する」、第Ⅰ部「破滅の時代」第1~7章と第Ⅱ部「黄金時代」第8~9章を収録。下巻は来月9日に発売予定です。同書は『20世紀の歴史――極端な時代』上下巻として、河合秀和さんによる訳書が三省堂から1996年に刊行されていましたが現在絶版。「自身の生涯と重ねながら著した20世紀史の傑作」(文庫版カヴァー紹介文より)であるだけに文庫で新訳が読めるようになるのは実に素晴らしいことです。なお、本書の類書でみすず書房さんより1981~1982年に刊行された『資本の時代 1848-1875』全2巻の新装版が同版元より7月9日に発売予定であるとのことです。

★マティザック『古代ローマ旅行ガイド』は『Ancient Rome on 5 Denarii a Day』(Thames & Hudson, 2007)の訳書。西暦200年頃(2000年ではありません)のローマをめぐる旅行ガイドで、交通から宿泊、食事、買物、観光名所まで、図版を多数掲載しつつ丁寧に紹介してくれます。巻末の「役に立つラテン語会話」では、ラテン語原文、訳文、カタカナによるラテン語文の音写がテーマごとに(酒場で、デートで、市場で、等々)収められていて、洒落が効いています。帯文に「驚愕のタイム・トラベル!」とあるようにこの一冊で空想旅行を堪能できる、親しみやすい歴史書となっています。

★スミス『ナショナリズムとは何か』は『Nationalism: Theory, Ideology, History』(Polity Press, 2001, 2nd edition, 2010)の全訳。概念、イデオロギー、パラダイム、理論、歴史、将来展望の全6章。序論で著者自身が述べている通り本書は「ナショナリズムの問題に馴染みの薄い読者や学生のみなさんに、ナショナリズムという概念についての入門書を提供する」もの。巻末には参考文献だけでなく、章ごとに纏められた読書案内も付されています。アントニー・D・スミス(Anthony David Stephen Smith, 1939-2016)はイギリスの歴史社会学者で、ナショナリズム研究の第一人者として著名。既訳書には『20世紀のナショナリズム』(巣山靖司監訳、法律文化社、1995年)、『ナショナリズムの生命力』(高柳先男訳、晶文社、1998年)、『ネイションとエスニシティ――歴史社会学的考察』(巣山靖司ほか訳、名古屋大学出版会、1999年)、『選ばれた民――ナショナル・アイデンティティ、宗教、歴史』(一条都子訳、青木書店、2007年)があります。

★ちなみに今月のちくま新書の新刊では、原田実さんによる『オカルト化する日本の教育――江戸しぐさと親学にひそむナショナリズム』という本が発売されているので、併読するのもいいかもしれません。

★『バルトーク音楽論選』は訳者解題に曰く「バルトークが書いたさまざまな文章を集め、代表的なものを訳出したもの」で、文庫オリジナル編集により、15篇を収録。類書には岩城肇編訳『バルトークの世界:自伝・民俗音楽・現代音楽論』(講談社、1976年)とその改題改訂版『バルトーク音楽論集』御茶の水書房、1988年)があり、これらはハンガリー語で1967年に出版された論集を底本としているとのことですが、今回の新たな選集ではバルトーク自身が書いた原文が独仏英などの言語である場合はそれぞれの言語から翻訳したとのことです。

★シルヴェスター『フランシス・ベイコン・インタヴュー』は、『肉への慈悲――フランシス・ベイコン・インタヴュー』(筑摩書房、1996年)の改訳改題文庫化です。ベイコンの絵画を多数掲載。再刊にあたり、「文庫版訳者あとがき」と、保坂健二朗さんによる解説が新たに付されています。インタヴュワーのデイヴィッド・シルヴェスター(David Sylvester, 1924-2001)はイギリス出身の美術評論家でありキュレーター。彼はベイコンの死後に『回想フランシス・ベイコン』(五十嵐賢一訳、書肆半日閑発行、三元社発売、2010年)という著書を上梓しています。今月22日にはみすず書房から著書『ジャコメッティ 彫刻と絵画』(武田昭彦訳)が発売予定となっています。

★高橋敏『博徒の幕末維新』は2004年にちくま新書として刊行されたものの文庫化。文庫化にあたり最小限の補正が加えられ、巻末に文庫版あとがきと鹿島茂さんによる解説「アウトローから見た全く別の歴史」が新たに収められています。「正史の檜舞台から抹殺排除されたアウトローの稗史の明治維新に光があてられても良いのではないのか。本書がその一助となればと思う」と文庫版あとがきで高橋さんはお書きになっておられます。鹿島さんは本書を「次郎長の最大のライバルだった黒駒勝蔵を最終的な射程におさめながら、竹居安五郎、勢力富五郎、武州石原村幸次郎、国定忠治らの「活躍」を歴史学のふるいにかけようとする試み」と紹介しておられます。

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★このほかここしばらくの新刊では以下の書目に注目しました。

ジークムント・フロイト伝――同時代のフロイト、現代のフロイト』エリザベト・ルディネスコ著、藤野邦夫訳、講談社、2018年5月、本体6,800円、A5判上製600頁、ISBN978-4-06-219988-9
ロラン・バルトによるロラン・バルト』ロラン・バルト著、石川美子訳、みすず書房、2018年5月、本体4,800円、四六判上製344頁、ISBN978-4-622-08691-8
絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ――文豪の名言対決』頭木弘樹編、草思社文庫、2018年6月、本体800円、304頁、ISBN978-4-7942-2336-4

★ルディネスコ『ジークムント・フロイト伝』は、同著者による『ジャック・ラカン伝』(河出書房新社、2001年)をお訳しになった藤野邦夫(ふじの・くにお:1935-)さんによる労作で、『Sigmund Freud en son temps et dans le nôtre』(Seuil, 2014;『同時代と現代のジークムント・フロイト』)の全訳です。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。「フロイトは無意識のなかで発見したことが、現実に人間たちにおこることをつねに先どりすると考えた。わたしはこの命題を逆転させ、フロイトが発見したと考えたことは、じっさいにはある社会、ある家庭環境、ある政治的状況の結果にほかならなかったことを示す方を選んだ」(10~11頁)。帯文には「(フロイトの生涯の)脱神話化を実現した」と謳われています。品切のラカン伝はそろそろどこかで文庫化されてほしいところです。


★『ロラン・バルトによるロラン・バルト』は『Roland Barthes』(Seuil, 1975)の新訳。初訳は佐藤信夫訳『彼自身によるロラン・バルト』(みすず書房、1978年)で、断章と写真による自伝的作品として有名です。こんな言葉があります。「美学とは、その形式が原因と目的から離れて、充分な価値をもつ体系を作り上げてゆくさまを見るという技術であるから、これほど政治に逆らうものがあるだろうか。さて、彼は美学的な反応をするこをとやめられなかった」(256頁、「悪しき政治的主体」より)。彼というのはもちろん彼自身、バルトのことです。「こういうわけで彼は、形式や言葉づかいや反復を〈見る〉という倒錯的な傾向のせいで、すこしずつ〈悪しき政治的主体〉になっていったのである」(258頁、同)。本書に対するバルト自身による書評「バルトの三乗」は『ロラン・バルト著作集(9)ロマネスクの誘惑』(みすず書房、2006年)で読むことができます。

★『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ』は、『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』を改題し大幅に加筆改訂したもの。互いを意識して書いたのかと思うくらい、対比が鮮やかな二人の文豪の名言の数々は、どちらかが間違っているというものではなく、同じような意見を言っていたり、希望と絶望が立場を逆転させたりすることもあります。15の対話の主題と各57編の言葉という構成は親本と変わりません。それぞれの言葉に頭木さんによるコメントが付されていて、見開きで名言とコメントを読み切れるようになっています。巻末の引用・参考文献も丁寧で、書店さんでのコーナーづくりにも応用できそうです。

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by urag | 2018-06-10 23:28 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 07日

6月末刊行予定:岡田温司『アガンベンの身振り』、シリーズ〈哲学への扉〉第2弾

2018年6月27日取次搬入予定26日取次搬入 *人文/哲学思想

アガンベンの身振り
岡田温司著
月曜社 2018年6月 本体:1,500円 B6変型判[180mm×114mm×12mm]並製176頁 ISBN 978-4-86503-058-7

アマゾン・ジャパンにて予約受付中

国境を越えて活躍するイタリアの哲学者、ジョルジョ・アガンベンとは何者か。20年にわたる〈ホモ・サケル〉計画が完結し――正確に言えば〈放棄〉され――、近年には初の自伝『書斎の自画像』が出版された。これらを機に、〈ホモ・サケル〉全4巻9分冊とはいったい何だったのかをあらためて振り返り、その他の著作も再読することによって、自伝におけるアガンベンの告白「わたしはエピゴーネンである」の真意を探るとともに、ドイツの哲学者(ハイデガー、ベンヤミン)やフランスの哲学者(フーコー、ドゥルーズ、デリダ)たちとの、屈折した特異な関係にも迫る。新シリーズ〈哲学への扉〉第2弾!

目次:
「ホモ・サケル」計画とは何か?
アガンベンはハイデガーをどのように読んでいるのか?
 はじめに
 1.「現存在」と「声」
 2.「芸術作品の根源」と「リズム」
 3.「存在の考古学」あるいは「様態論的存在論」
 4.人間/動物の彼岸へ――「無為」と「放下」
アガンベンの身振り――ハイデガーとベンヤミンのあいだで
 インファンティアと「言語活動の経験/実験」
 言語と政治の閾で――1980年代のアガンベン
 言語、暴力、共同体――ベンヤミンとハイデガーの出会いとすれ違い
 「~でないもののように(ホース・メー)」と「今の時Jetzt-Zeit」
 人類学機械とその停止
アガンベンとフランス現代思想
 はじめに
 「グラマトロジー」批判
 「決定不可能性」をめぐって
 「潜勢力」と「内在性」
 「生政治」と「生権力」
 「統治性」と「オイコノミア」
 おわりに
「人間とは映画を見に行く動物のことである」――アガンベンと映画
跋文
アガンベンの著作

岡田温司(おかだ・あつし:1954-)京都大学大学院教授。専門は西洋美術史。近年の著書に『アガンベン読解』(平凡社、2011年)、『イタリアン・セオリー』(中公叢書、2014年)、『イメージの根源へ――思考のイメージ論的転回』(人文書院、2014年)、『映画は絵画のように――静止・運動・時間』(岩波書店、2015年)、『天使とは何か――キューピッド、キリスト、悪魔』(中公新書、2016年)、『映画とキリスト』(みすず書房、2017年)など。

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by urag | 2018-06-07 09:59 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2018年 06月 06日

保管:2017年3月~6月の既刊情報

◎2017年6月2日発売:荒木経惟『私情写真論』本体1,500円
◎2017年5月30日発売:ソシュール『伝説・神話研究』本体3,400円、シリーズ・古典転生第15回配本。
 千野帽子氏書評「伝承に象徴の意図は存在しない――ストーリーの大筋から逸脱した無意味そうな細部に〈歴史的事実〉の痕跡を見ようとする」(「図書新聞」2017年12月02日号)
◎2017年5月15日発売:金澤忠信『ソシュールの政治的言説』本体3,000円、シリーズ・古典転生第14回配本。
 加賀野井秀一氏書評「〈一般言語学〉から遠く離れて」(「フランス」2017年9月号)
◎2017年5月12日発売:『鉄砲百合の射程距離』内田美紗[句]、森山大道[写真]、大竹昭子[編]、本体2,500円
◎2017年4月17日発売:『表象11:ポスト精神分析的主体の表象』本体2,000円。
◎2017年3月30日発売:上野俊哉『[増補新版]アーバン・トライバル・スタディーズ』本体3,000円。


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by urag | 2018-06-06 23:57 | 人文書既刊 | Trackback | Comments(0)