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2017年 09月 10日

注目新刊:千葉雅也『動きすぎてはいけない』が文庫化、ほか

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世界最古の物語――バビロニア・ハッティ・カナアン』Th・H・ガスター著、矢島文夫訳、東洋文庫884、2017年9月、B6変型判上製函入322頁、ISBN978-4-582-80884-1
絵ときSF もしもの世界 復刻版』日下実男著、復刊ドットコム、2017年9月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5526-6
1990年代論』大澤聡編著、河出ブックス、2017年9月、本体1,800円、B6判並製336頁、ISBN978-4-309-62506-5
動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』千葉雅也著、河出文庫、2017年9月、本体1,000円、480頁、ISBN978-4-309-41562-8
吉本隆明全集13[1972-1976]』吉本隆明著、晶文社、2017年9月、本体6,800円、A5判変型上製706頁、ISBN978-4-7949-7113-5

★ガスター『世界最古の物語』は東洋文庫第884弾。現代教養文庫版(1973年、社会思想社)の再刊です。訳者は2006年に死去されており、巻末の著者紹介「セオドア・ヘルツル・ガスター」は池田裕さんが執筆されています。本書はエリアーデの序文(仏訳版より)のほか、副題にある三地域の古い神話や説話を収録しています。ハッティというのはヒッタイトのこと。こうした基本書の復刊は見逃せません。東洋文庫の次回配本は11月、『漢京識略』とのことです。

★『絵ときSF もしもの世界 復刻版』は学研「ジュニアチャンピオンコース」の復刊第2弾。親本は1973年刊行。税別3700円とお高いですが、ど真ん中世代である40代後半から50代前半の大人にとっては思い出を買う値段として考えれば安いものです。巻頭カラー劇画「生きていた石像」(画=田中善之助)のインパクトといい、数々の「もしも」の恐ろしさやワクワク感といい、人知を超えたものへの感性をくすぐられた70年代サブカルチャーの「昭和遺産」とも言うべきものを感じます。続刊が楽しみです。

★『1990年代論』は大澤さんの説明によれば「1990年代の日本社会を多角的に検討したアンソロジー」で「社会問題編」と「文化状況編」の二部構成。10本ずつの論考とエッセイで「政治や社会、運動、宗教から、マンガやアニメ、ゲーム、音楽にいたるまで、実に多岐にわたる合計20のジャンルの考察」を読むことができます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「巻頭にはノンジャンルの総合的な共同討議を、各パートの締めくくりにはインタビューを掲載」し、巻末には年表とブックガイドが配されています。

★『動きすぎてはいけない』は2013年に刊行された千葉さんのデビュー作の待望の文庫化です。文庫化にあたり巻末に、大阪大学特任助教の小倉拓也さんによる「文庫版解説 読解の手引」(456~475頁)が付されています。帯文はこうです「接続過剰〔つながりすぎ〕の世界に風穴を開ける「切断の哲学」」と。「世界の本当の姿は〔・・・〕渾然一体のめちゃくちゃではない。切断された、区別された、分離された、複数のめちゃくちゃによるコラージュである。世界には、いたるところに、非意味的切断が走っている」(68頁)。

★『吉本隆明全集13[1972-1976]』はまもなく発売。第Ⅱ期の第2回配本で通算では第14回配本。帯文に曰く「はじめて海外の文学者たちを論じた『書物の解体学』、長くその資質にひかれて論じてきた「島尾敏雄」のほか、1972年から1976年の間に発表された詩や散文を収録」と。単行本未収録は二篇とのことで、巻末解題に「本全集にはじめて収録された」とある、「高村光太郎の存在」(筑摩書房版『高村光太郎全集』第二刷内容見本;『吉本隆明資料集93』にも収録)と、第12巻の補遺「掛率増加のお知らせ」(『試行』取扱書店向け文書、1972年)のことかと思われます。付属の「月報14」は、宇佐美斉「並みの下の思想を」、橋爪大三郎「気配りのひとの気骨」、ハルノ宵子「党派ぎらい」を掲載。「父に刷り込まれたのは、「群れるな。ひとりが一番強い」なのだ」というハルノさんの証言が印象的です。次回配本は12月、第14巻とのことです。

★先月刊行の単行本の中からいくつか振り返ります。

全体主義の起原(1)反ユダヤ主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、みすず書房、本体4,500円、四六判上製360頁、ISBN978-4-622-08625-3
全体主義の起原(2)帝国主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大島通義/大島かおり訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六版上製424頁、ISBN978-4-622-08626-0
全体主義の起原(3)全体主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎/大島かおり/矢野久美子訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六判上製512頁、ISBN978-4-622-08627-7
エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、山田正行解説、みすず書房、2017年8月、本体4,400円、四六判上製488頁、ISBN978-4-622-08628-4
アイヒマン調書――ホロコーストを可能にした男』ヨッヘン・フォン・ラング編、小俣和一郎訳、岩波現代文庫、2017年8月、本体1,460円、448頁、ISBN978-4-00-600367-8
日本の科学 近代への道しるべ』山田慶兒著、藤原書店、2017年8月、本体4,600円、A5判上製312頁、ISBN978-4-86578-136-6

★アーレントの代表作でありロングセラーである二著四冊が、判型をA5判並製から四六判上製に変更し、訳文を見直した新版として刊行されました。まず『全体主義の起原』は、最新の研究成果を踏まえて全文の見直し作業に取り組まれたのは山田正行さんで、新たに訳出された「初版まえがき」(1951年)と「新版への解説」を矢野久美子さんが担当されています。『エルサレムのアイヒマン』も全文見直しを山田さんが担当され、さらに「新版への解説」や年譜作成も手掛けておられるとのことです。この二作については版元さんのウェブサイトで「新版刊行にあたって」という挨拶文が公開されています。二作とも旧版はフランクル『夜と霧』の場合のように販売を今後も継続するわけではないようなので、対照用に旧版を買っておくなら今のうちに店頭をチェックされた方が良いです。また、岩波現代文庫では同月に、アイヒマンへの長編インタヴューである『アイヒマン調書』が文庫化されており、この機会にあらためて併読しておきたいところです。

★『日本の科学』は、科学史家の山田慶兒(やまだ・けいじ:1932-:京都大学名誉教授)さんによる論文や講演をまとめたもの。「受容史だけではない日本の科学史へのまなざし」(帯文より)のもと、日本独自の近代科学の特殊性をたどった論文集です。一九九四年から二〇〇六年までに執筆され、あるいは発表されたもののほか、未発表や書き下ろしも含まれています。目次を以下に列記しておきます。▼が英文のみ発表済だったもの、▲が未発表、◆が書き下ろしです。

はじめに ◆
Ⅰ 二つの展望
 十八、九世紀の日本と近代科学・技術 ▼
 日本と中国、知的位相の逆転のもたらしたもの ▲
Ⅱ 科学の出発 
 飛鳥の天文学的時空――キトラ『天文図』
 日本医学事始――『医心方』
Ⅲ 科学の日本化
 医学において古学とはなんであったか――山脇東洋
 反科学としての古方派医学――香川修庵・吉益東洞
 現代日本において学問はいかにして可能か――富永仲基
Ⅳ 科学の変容
 中国の「洋学」と日本――『天経或問』
 幕府天文方と十七、八世紀フランス天文学――『ラランデ暦書管見』
 見ることと見えたもの――『欧米回覧実記』他
〈補論〉浅井周伯養志堂の医学講義――松岡玄達の受講ノート ◆
あとがき ◆

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by urag | 2017-09-10 10:16 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 06日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

2017年10月27日(金)オープン
丸善横浜みなとみらい店:300坪(書籍270坪)
神奈川県横浜市西区みなとみらい2-3-2 みなとみらい東急スクエア 3F
トーハン帳合。弊社へのご発注は芸術書と人文書の主要商品。取次さんの出品依頼書によれば、横浜高速鉄道みなとみらい線の「みなとみらい駅」直結の複合施設であるクイーンスクエア横浜内の「クイーンズスクエア横浜アット!」と「クイーンズイースト」の両ショッピングセンターが統合され、「楽しさ」や「くつろぎ」など非日常感の提供をコンセプトにした「みなとみらい東急スクエア」にリニューアルされ、丸善がその中に入る、ということだそうです。営業時間は10時~21時。弊社商品の場合、近隣では桜木町駅の紀伊國屋書店みなとみらい店さんで新刊を扱っていただくことがありましたが、既刊を含めると弊社の商品の扱い点数がより多いのは丸善さんということになりそうです。

みなとみらい東急スクエアについての東急の4月26日付プレスリリースをおさらいしておくと、「ベイエリアの景観や開放感を求めて、観光やショッピングなど、みなとみらい地区を訪れるお客さまに、“楽しさ”や“くつろぎ”など非日常感を提供するというコンセプトのもと、より多くの世代のお客さまにお越 しいただけるよう、東急スクエアブランドの新たなショッピングセンターへと生まれ変わります。なお、営業面積は約25,000㎡となる予定で、東急スクエアブランドとしては青葉台東急スクエアに次ぐ規模となります」とのこと。ちなみに青葉台東急スクエアのSouth-1別館3~4Fにはブックファースト青葉台店が入っているのは周知の通り。こちらは青葉台地区最大級(530坪・40万冊)の品揃え。

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言うまでもありませんが、弊社の本を扱って下さる新規店さんはごく一部のお店で、世間では各地に新しい本屋さんが生まれています。日本全国書店・古本屋チェーンマップさんの「新規開店店舗一覧」や、開店閉店.comさんの「書店・文具」部門をご覧ください。閉店情報にいささか驚いているのは、9月24日閉店予定の書原仙川店さん(トーハン帳合)です。弊社の本を扱って下さる本屋さんがまたひとつ・・・という。なお、八重洲ブックセンターさんは8月31日に日比谷シャンテ店、9月30日に恵比寿三越店を閉店とのこと。両店ともトーハン帳合です。チェーン店の経営スリム化は避けられない時代なのかもしれません。

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by urag | 2017-09-06 00:45 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 05日

注目新刊:ミリアム・ブラトゥ・ハンセン『映画と経験』法政大学出版局

弊社出版物でお世話になっている訳者先生の最近のご活躍をご紹介します。

★竹峰義和さん(共訳:シュティーグラー『写真の映像』)
法政大学出版局さんから先月、下記の共訳書を上梓されました。シカゴ大学英文科教授だったMiriam Bratu Hansen (1949-2011)の主著にして遺作である『Cinema and Experience: Siegfried Kracauer, Walter Benjamin, and Theodor W. Adorno』(University of California Press, 2011)の完訳です。目次詳細は訳書名のリンク先をご覧ください。

映画と経験――クラカウアー、ベンヤミン、アドルノ
ミリアム・ブラトゥ・ハンセン著 竹峰義和/滝浪佑紀訳
法政大学出版局 2017年8月 本体6,800円 四六判上製698頁 ISBN978-4-588-01065-1

帯文より:思考の星座は、映画とともに煌めく。クラカウアー、ベンヤミン、アドルノは、映画とは何かよりはむしろ、映画は「何をするのか」という問いを立てる。いまだに予感しえない未来を生じさせる試みのなかで、映画という媒体、映画館という場がもつ可能性を追究する。映画を観る公衆の生きた経験についての思考を、批判理論と映画の交点で炸裂させる。

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by urag | 2017-09-05 23:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 04日

「ふらんす」に、金澤忠信『ソシュールの政治的言説』の書評

白水社さんの月刊誌「ふらんす」2017年9月号で、弊社6月刊の金澤忠信『ソシュールの政治的言説』について、加賀野井秀一さんが書評「〈一般言語学〉から遠く離れて」を寄せて下さっています。「金澤氏は10世紀の小新聞・雑誌にいたるまで実に丹念に追跡して」いると評して下さいました。また同書評では同月刊の金澤さん訳によるソシュール『伝説・神話研究』と、7月刊のロゴザンスキー『我と肉』(松葉祥一ほか訳)にも言及して下さり、弊社について「敢闘賞もの」とのお言葉を頂戴しました。『我と肉』は同誌の情報コーナー「さえら」でも書誌情報をご掲載いただいています。加賀野井先生、白水社さん、ありがとうございます。





by urag | 2017-09-04 18:12 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 03日

注目新刊:『魅了されたニューロン』『禁書』、ほか

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魅了されたニューロン――脳と音楽をめぐる対話』P・ブーレーズ/J-P・シャンジュー/P・マヌリ著、笠羽映子訳、法政大学出版局、2017年8月、本体3,600円、四六判上製358頁、ISBN978-4-588-41032-1
禁書――グーテンベルクから百科全書まで』マリオ・インフェリーゼ著、湯上良訳、法政大学出版局、2018年8月、本体2,500円、四六判上製204頁、ISBN978-4-588-35233-1

★『魅了されたニューロン』は『Les Neurones enchantés: Le cerveau et la musique』(Odile Jacob, 2014)の全訳。作曲家ブーレーズ(Pierre Boulez, 1925-2016)と、神経生物学者シャンジュー(Jean-Pierre Changeux, 1936-)、作曲家マヌリ(Philippe Manoury, 1952-)による鼎談本。第一章「音楽とは何か?」、第二章「「美」のパラドックスと芸術の規則」、第三章「耳から脳へ──音楽の生理学」、第四章「作曲家の頭の中のダーウィン」、第五章「音楽創造における意識と無・意識」、第六章「音楽的創造と科学的創造」、第七章「音楽を学ぶ」、の全七章構成です。

★シャンジューは一時期、作曲家アンドレ・ジョリヴェ(André Jolivet, 1905-1974)に作曲を習っていた(24頁)と明かしており、ブーレーズに次々と興味深い質問をぶつけています。マヌリはしばしば緊張感あふれるブーレーズとシャンジューの間(あいだ)をところどころで巧みに取り持っていて、二人の時折沈思する間(ま)をうまく引き受けているように思えます。二人の距離感が一気に縮まるように見える瞬間が最初に到来するのはようやく第二章の途中になってからです。次のようなやりとりがあります(75~77頁)。

シャンジュー:革新はあなたの作品の根本的な要素であるように思われますが、作曲家としてのあなたの広範なキャリアを通じて、あなたがつねにとりわけ革新に腐心してこられたのは、どのような理由のためなのですか?

ブーレーズ:それは生物学的必要だと言いましょうか。〔・・・〕まったく単純にいつも同じ動作を繰り返すことはできないのです。それは自分自身に対する不快感の問題です。「もうそれはすでにやった」とそこで考えるわけです。

シャンジュー:問題になるのは、不快感、あるいは退屈、疲労ですか?

ブーレーズ:不快感ですね。それがしまいには耐えがたくなるのです。〔・・・〕偶発事を予期し、それを活用すべきです。予想外の何かが眠りを妨げにきて、反応を促すのです。「おや、その通りだ、私はそんなことを考えたことがなかった」と思うわけです。〔・・・〕新しいものを捕まえ、それを飼いならす必要があります。作曲家は言ってみれば捕食者です。〔・・・〕それらのものと自分との間に突如現実性が生じるのですが、後になるともはやその現実性は理解できないので、それをまさにその時に捉えなければならないのです。自分が何をしたかを意識しているとはいえ、後戻りすることはできません。〔・・・〕。

シャンジュー:そうした革新は科学的進歩と比べられるでしょうか?

ブーレーズ:問題になっているのは革新であって、進歩ではありません。モーツァルトより私たちが進歩するということはありません。けれども、革新という意味で、新しさの重要性を強調するということであなたにまったく同意します。言い換えれば、いくつかの恒常性とともに行動範囲が変わるのです。

★こうしたやりとりのあとブーレーズはこう答えます。「芸術的な創作活動においては、進歩はなく、あるのは、とくに西洋においてですが、絶えず変形している文法的規則に応じた視点の変化です。それらの発展的変遷は人為的ではなく、育まれるのだとでも言えるでしょう。それらは、個々人の行為であり、個々人は個人として自己を表現することを望み、むろん、それらを取り巻く世界と繋がってはいますが、自分を取り巻く世界を、個人として表現します」(78頁)。

★本書にはこのほかにも興味深いやりとりがあちこちに見いだされ、シャンジューの人間観や文明観、そしてブーレーズの音楽観を読み取ることができます。ブーレーズの音楽観の一端は例えば次のような発言にも表れているかもしれません。「音楽は非物質的であり、あるいはもっと正確には、売ったり買ったりでき、自宅の壁に掛けたり、ナイトテーブルに置いておける物のかたちで提供されません〔・・・〕。音楽の市場は存在せず、したがって金銭的な投機もありません。〔・・・〕それは音楽の唯一の利点なのです。音楽はたしかに投機から守られています。投機はずっと後になって、まず自筆譜に、第二に入場者数、興行成績に関わることに介入してくるだけです。ヴァーグナーの作品を上演すれば、ホールは満杯になりますし、新作初演をやろうとすると、ホールの三分の二は空席です。したがって、作品はあるがままの存在、つまり新しさへの侵入なのですから、作品が損をするだろうという意味でも競争はありません。けれども〔・・・〕目下話題の出来事なら、人々は押し寄せます。重要なのは当節の流行であり、流行に賛成であるか反対であるかなのです。流行に適った何かを提供すれば、公衆は好奇心からやって来ます。もしそれが流行に逆らう何かだったり、一層難しく、取っつきにくい何がだったりすれば、公衆は、新しさを怖れるので、やって来ません。そして新しさに対する恐れは新しさに対する欲求よりもはるかに大きいのです」(70頁)。

★シャンジューとの対比から見て、ブーレーズの言葉は折々に厳しく、安易な協調や楽観を退けます。時に冷徹なリアリズムに響くブーレーズの最晩年の言葉は、どれも印象的です。

★『禁書』は、『I libri proibiti da Gutenberg all'Encyclopédie』(Laterza, 1999)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきの文言を借りると本書は「主にトレント公会議前後から本格的に始まった禁書目録の作成や対応を通して、統治する側の論理と統制の組織化、そして管理に対する人々の対策や統制の網の目を逃れていく方法について、イタリア半島のみならず広くヨーロッパ社会の地域ごとの事情を解き明かした歴史書である。第一章の「出版規制」では、出版物の管理・監督について主に検閲という観点から明らかにし、第二章の「文化追放」では、各地域に対して個別に作成され、適用された禁書目録の内容について扱い、第三章の「検閲の限界」では、検閲制度では、検閲制度の限界と十六世紀末以降の時代の変化を指摘し、第四章の「絶対主義と検閲」では、教会主導から国家による統制への変化、そして出版の自由へといたる時代の流れを扱う。全章を通じてイタリア半島の諸国家の事情だけでなく、ヨーロッパ各国の状況について比較・検討を行っている」ものです。

★情報統制や検閲や規制(自己規制を含む)が活きている現代社会の淵源を考える上で重要であるだけでなく、表現の自由や知る自由を獲得してきた歴史を振り返る上でも参照すべき基本書であると思われます。巻頭の「著者から日本の読者へ」で著者はこう書いています。「社会の全階層における書籍の伝播、購読と著述の増加、そしてラテン語に替わる各国の言語の確立は、社会と権力の間のこれまでとは異なる関係性の基盤を作り出します。十七世紀から十八世紀の間、読書を行う大衆は引き続き増加していきますが、彼らは統御に関する規定に従う姿勢をつねには見せていなかったのです。こうした状況は、活発な非合法市場のおかげでもあり、この市場はヨーロッパ中で組織され、枝分かれし、当局の課す購読に有効な形で代替となるものを提供できたのです。/著述と購読が自由でなければならないという考え方は、こうした背景から生まれ、発展しました。意見表明や表現の自由の権利が現代文明の主要原則の一つとなり始めたのは、まさにその瞬間であったのです」(vi頁)。著者のインフェリーゼ(Mario Infelise, 1952-)さんはイタリアの出版史家。ミラノ大学やヴェネツィア大学で教鞭を執られています。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

松本圭二セレクション(1)ロング・リリイフ』航思社、2017年9月、本体2,500円、四六判上製112頁、ISBN978-4-906738-25-0
松本圭二セレクション(3)詩篇アマータイム』航思社、2017年9月、本体2,600円、四六判上製106頁、ISBN978-4-906738-27-4
松本圭二セレクション(8)さらばボヘミヤン』航思社、2017年9月、本体2,400円、四六判上製236頁、ISBN978-4-906738-32-8
心は燃える』ル・クレジオ著、中地義和/鈴木雅生訳、作品社、2017年8月、本体2,000円、四六判上製198頁、ISBN978-4-86182-642-9
ヤングスキンズ』コリン・バレット著、田栗美奈子/下林悠治訳、作品社、2017年8月、本体2,400円、四六判上製292頁、ISBN978-4-86182-647-4
誰が何を論じているのか――現代日本の思想と状況』小熊英二著、新曜社、2017年8月、本体3,200円、四六判並製554頁、ISBN978-4-7885-1531-4
ワードマップ 現代現象学――経験から始める哲学入門』植村玄輝/八重樫徹/吉川孝編著、富山豊/森功次著、新曜社、2017年8月、本体2,800円、四六判並製318頁、ISBN 978-4-7885-1532-1
現代思想2017年9月号 特集=いまなぜ地政学か――新しい世界地図の描き方』青土社、2017年8月、本体1400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1352-3
現代思想2017年9月臨時増刊号 総特集=かこさとし――『だるまちゃん』『からすのパンやさん』から科学絵本、そしてあそびの大研究まで…広がり続ける表現の世界』青土社、2017年8月、本体1,800円、B5変型判並製284頁、ISBN978-4-7917-1351-6
現代思想2017年8月臨時増刊号 総特集=恐竜――古生物研究最前線』青土社、2017年7月、本体1,800円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1350-9
現代思想2017年8月号 特集=「コミュ障」の時代』青土社、2017年7月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1349-3

★まず航思社さんの新刊。『ロング・リリイフ』『詩篇アマータイム』『さらばボヘミヤン』は「松本圭二セレクション」の第1回配本(3冊同時発売)。同セレクションは月報付きで全9巻、隔月刊予定で、詩人でありフィルム・アーキヴィストの松本圭二(まつもと・けいじ:1965-)さんの詩集、小説、評論およびエッセイを集めた選集です。前田晃伸さんさんによる瀟洒な造本が際立っています。『ロング・リリイフ』(七月堂、1992年)、『詩篇アマータイム』(思潮社、2000年)の2点は詩集の再刊で、『さらばボヘミヤン』は表題作(『新潮』2009年7月号)、「タランチュラ」(『すばる』2011年12月号)、「ハリーの災難」(『すばる』2012年6月号)の3本をまとめた小説集です。出色なのは『詩篇アマータイム』で、著者解題の言葉を借りると「テクストを重層的に配置」した「交響楽のスコア」のような紙面は必見です。

★次に作品社さんの新刊。『心は燃える』はル・クレジオの中短篇小説集『Cœur brûle et autres romances』(Gallimard, 2000)の全訳。「心は燃える」「冒険を探す」「孤独という名のホテル」「三つの冒険」「カリマ」「南の風」「宝物殿」の7本を収め、巻末に訳者による解題が付されています。『ヤングスキンズ』はアイルランド文学界の期待の新星だというバレット(Colin Barrett, 1982-)のデビュー作『Young Skins』(Stinging Fly Press, 2013)の翻訳。ガーディアン・ファーストブック賞、ルーニー賞、フランク・オコナー国際短編賞などを受賞している話題作で、帯文によれば「経済が崩壊し、人心が鬱屈したアイルランドの地方都市に暮らす無軌道な若者たちを、繊細かつ暴力的な筆致で描きだす、ニューウェイブ文学の傑作」と。カヴァーの個性的な装画は葉山禎治さんによるもの。

★続いて新曜社さんの新刊。『誰が何を論じているのか』は巻頭におかれた著者による「読者の方々へ」によれば、「私が本書に収録された論評を書いたのは、2013年4月から2016年3月である。私はこの時期、朝日新聞の論壇委員という仕事をしていた。この仕事のため、私のもとには、毎月毎週、朝日新聞社からさまざまな雑誌が送られてくる。それを読み、これはと思った論文をとりあげながら論評するのが論壇委員の仕事だ。〔・・・送られてくる様々な雑誌の〕ほぼ全てに目を通し、傍線を引き、付箋を貼り、切り抜き、メモをとる作業を、この六年ほど続けている。論評にとりあげたのは、そのなかのごく一部だ」。目次は書名のリンク先をご覧ください。

★『現代現象学』はシリーズ「ワードマップ」の最新刊で、まえがきによれば「第1部・基本編……現象学的哲学の基本的な発想や概念の解説」「第2部・応用編……哲学の諸問題に対する現象学からのアプローチの試み」という二部構成。同書の刊行を記念し、紀伊國屋書店新宿本店3階哲学思想書エンド台にてブックフェア「いまこそ事象そのものへ!――現象学からはじめる書棚散策」が先月より今月末まで開催中です。同書は新宿本店総合ランキング9位に入る売行で、フェア全体の売上も絶好調と仄聞しています。フェア用に作成された36頁もの力作ブックガイド(第一部「現象学:源流から現代へ」、第二部「哲学の古典的主題」、第三部「現代の哲学・諸学との接点」)が配布されています。ぜひ店頭にてご確認下さい。

★最後に青土社さんの月刊誌「現代思想」でのここ2ヶ月の間に発売された通常号2点と臨時増刊号2点。先日も言及した8月通常号「「コミュ障」の時代」は、國分功一郎さんと千葉雅也による討議「コミュニケーションにおける闇と超越」や、新連載として磯崎新さんによる「瓦礫(デブリ)の未来」などを掲載。8月臨時増刊号「恐竜」では、吉川浩満さんの「私の恐竜」、大橋完太郎さんの「怪物・化石・恐竜――フランスにおける近代自然史の展開から」などを掲載。9月臨時増刊号「かこさとし」では、國分功一郎さんによる、かこさとしさんへのインタビュー「学ぶこと、生きることの意味を求めて――子どもと社会のあいだから」をはじめ、中村桂子さんによる「生活の中での子どもをよく見て、子どもの声を聞く――加古里子さんと生命誌の出会い」、篠原雅武さんの「かこさとしにおける不信と怒り――「怒りの時代」を生き抜くために」などを掲載。9月通常号「いまなぜ地政学か」では、伊勢崎賢治さんと西谷修さんいよる討議「「非戦」のための地政学」や、中野剛志さんへのインタビュー「地政経済学の射程――グローバリゼーションの終焉以後を読み解く」などを掲載。10月通常号の特集は「ロシア革命」と予告されています。

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by urag | 2017-09-03 14:25 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)