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2008年 06月 15日

【公開版】今週の注目新刊(第2回[第151回]:08年6月15日)

磯崎新の「都庁」――戦後日本最大のコンペ
平松剛(1969-):著
文藝春秋 08年6月 2,300円 46判並製480頁 ISBN978-4-16-370290-2
■版元紹介文より:85年、新宿新都庁舎コンペ(設計競技)。建築界の天皇・丹下健三に、弟子の磯崎が挑み、敗れた「幻の」都庁をめぐるノンフィクション。
■帯文より:なみいる構想案の中で提出された、たったひとつの「低層案」。「ぶっちぎりで勝とう! ぶっちぎりで勝とう!」 連呼する建築界の天皇・丹下健三。そのかつての師に、腰痛・腹痛・大スランプ中、満身創痍の磯崎新が、戦いを挑んだ! 1985年、バブル前夜の東京で行われた新宿の新都庁舎案コンペ。磯崎新が提出した幻の「低層案」、そのキーワードは「広場」と「錯綜体」だった……。
★実現しないからこそ面白いというか、面白いからこそ実現しないというか。時代はニューアカ全盛期です。磯崎さんの建築思想には国内外のポストモダンの哲学者たちの影響を読み取ることができるでしょう。この長編の著者はかつて『光の教会――安藤忠雄の現場』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。キャッチーな筆致で興味深く、グイグイ読ませます。書名のリンク先で冒頭部分の立ち読みが可能。

イタリア現代思想への招待
岡田温司:著
講談社選書メチエ 08年6月 1,575円 46判並製229頁 ISBN978-4-06-258416-6
■帯文より:アガンベン、ネグリ、カッチャーリ……生政治、帝国、ゾーエー/ビオス……いまなぜイタリアなのか?
■版元紹介文より:ジョルジョ・アガンベン、ウンベルト・エーコ、アントニオ・ネグリ、マッシモ・カッチャーリ……。いまや世界の現代思想のシーンは、イタリアの思想家たちを抜きにしては語れない。ジル・ドゥルーズやジャック・デリダらフランスの巨星たちがあいついでこの世を去ったあと、なぜ、イタリア思想の重要性に注目が集まるのか。現代思想の最尖端で、いま何が問題なのか、そしてどのような可能性があるのか。哲学、美学、政治学、社会学、宗教学、女性学など幅広い分野での彼らの刺激的な仕事を、明快な筆致で紹介する。
★「ラチオ」誌連載全四回が待望の単行本化です。新規で10本の「補遺コラム」が随所に追加挿入されています。帯文にある思想家のほか、いくつもの固有名が挙がっており、それらをすべてピックアップするのは無理なのですが、連載とセットで翻訳された思想家たちを挙げると、以下の7名になります。ロベルト・エスポジト(1950-)、ジョルジョ・アガンベン(1942-)、マッシモ・カッチャーリ(1944-)、サルヴァトーレ・ナトーリ(1946-)、ジャンニ・ヴァッティモ(1936-)、マリオ・ペルニオーラ(1941-)、ジャンニ・カルキア(1947-2000)。
★上記のほかにはどういった思想家がこんにち注目されているのでしょうか。たとえば英語圏で出版された次の三冊などがガイド兼アンソロジーとして役に立つと思います。

"Contemporary Italian Philosophy: Crossing the Borders of Ethics, Politics, and Religion", edited by Silvia Benso and Brian Schroeder, translated by Silvia Benso, State University of New York Press, 2007.昨年刊行されたこの本に論文が掲載されているのは、以下の16名です。
Remo Bodei, Massimo Cacciari, Giovanni Ferretti, Sergio Givone, Giacomo Marramao, Virgilio Melchiorre, Luisa Muraro, Salvatore Natoli, Marco Maria Olivetti, Pier Aldo Rovatti, Mario Ruggenini, Emanuele Severino, Carlo Sini, Gianni Vattimo, Salvatore Veca, Vincenzo Vitiello.
「ラチオ」誌登場済は、カッチャーリ、ナトーリ、ヴァッティモの三人です。このほかには「弱い思想」のピエル・アルド・ロヴァッティ(1942-)あたりが日本でも知られている人物でしょうね。

"Recoding Metaphysics: The New Italian Philosophy", edited by Giovanna Borradori, Northwestern University Press, 1989.
編者のボッラドッリ女史は、911をめぐるデリダとハーバーマスの「共著」(『テロルの時代と哲学の使命』岩波書店)をプロデュースしたことで日本でも有名。やや古い本ですが、扱われている人物が厳選されているのが良いです。全8名。
Umberto Eco, Gianni Vattimo, Aldo G. Gargani, Mario Perniola, Pier Aldo Rovatti, Franco Rella, Massimo Cacciari, Emanuele Severino.
前出書16名のうち、重なっているのは、カッチャーリ、ヴァッティモ、ロヴァッティ、エマヌエーレ・セヴェリーノ(1929-)の4名です。「ラチオ」陣営のペルニオーラもいますし、日本では紹介が早かった秀才ウンベルト・エーコ(1932-)の名も見えます。興味深いのは、欧米や日本で人気のネグリやアガンベンがいないことです。彼らの名前は、哲学ではなく政治思想の文脈で、以下の有名なアンソロジーに出てきます。

"Radical Thought in Italy: A Potential Politics" edited by Paolo Virno and Michael Hardt, University of Minnesota Press, 2006.
編者はパオロ・ヴィルノ(1952-)とマイケル・ハートの両氏です。論文が掲載されているのは以下の11名。
Giorgio Agamben, Massimo De Carolis, Alisa Del Re, Augusto Illuminati, Maurizio Lazzarato, Antonio Negri, Franco Piperno, Marco Revelli, Rossana Rossanda, Carlo Vercellone, Adelino Zanini.
哲学を扱う上記二書と重複している思想家は一人もいませんが、運動系においては重要な本です。マウリツィオ・ラッツァラート(1955-)はご存知のようにまもなく洛北出版さんから『出来事のポリティクス』が翻訳出版されます。なお、この『イタリアのラディカル思想』とペアで購読したほうがいい本に以下のものがあります。

"Autonomia: Post-Political Politics", edited by Sylvère Lotringer and Christian Marazzi, Semiotext(e)/MIT Press, 2007.
初版が刊行されたのは1980年です。数多くの運動家たちが登場しますが、『イタリアのラディカル思想』と重複するのは、ネグリ、ヴィルノ、フランコ・ピペルノ(1943-)くらいです。ただ、哲学系で紹介されてきたカッチャーリが登場しますし(当たり前です、彼は政治家でもあるのですから)、運動系ではマリオ・トロンティ(1931-)やセルジョ・ボローニャ(1937-)、オレステ・スカルツォーネ(1947-)、BIFOことフランコ・ベラルディ(1949-)、ルーチョ・カステラーノ(1949-1994)等々が登場しますし、ノーベル文学賞受賞者のダリオ・フォ(1926-)、フランス系のドゥルーズ、ガタリ、ヴィリリオ、ドゥボール、アリエズ、ヴィヴィオルカも出てきます。ヨーロッパ現代思想のアメリカへの導入紹介の大立役者、シルヴェール・ロトランジェが編者をつとめるだけあって、さすがの目配りです。ロトランジェとともに編者に名を連ねているのは、日本でも近年『ソックスの場所』が注目されているクリスチャン・マラッツィ(1951-)。

こうして見ていると、状況論的にはまず運動系の思想家たちがこの先も、積極的に紹介されていく気がしますが、哲学系の著者筋もどんどん紹介されていくと良いですね。名前が複数書目で挙がっている、ヴァッティモ、ロヴァッティ、セヴェリーノ、ナトーリなどの単行本未訳組とか。

★ちなみに岡田温司さんはまもなく平凡社さんからも新刊を刊行されます。ぜひ併読したい本です。

フロイトのイタリア――旅・芸術・精神分析
岡田温司:著
平凡社 近刊 予価3150円 A5判304頁 ISBN978-4-582-70279-8
■版元紹介文より:フロイトは大のイタリア通であった。本書は彼のイタリア体験を膨大な書簡等から再構成、精神分析理論に刻印された長靴の半島の楔を明かす刺激的な一書。上質のイタリア案内でもある。

ローマ建国以来の歴史(3)イタリア半島の征服(1)
リウィウス:著 毛利晶:訳
西洋古典叢書:京都大学学術出版会 08年6月 3,255円 46判上製288頁 
ISBN978-4-87698-176-2
■版元紹介文より:ローマ世界最大の歴史家リウィウスは、ローマ建国からアウグストゥス帝治世(前9年)までの数百年の歴史を扱った『ローマ建国以来の歴史』全142巻を著わした。本書は、ガリア人によるローマ占拠という災厄から立ち直ったローマが周辺諸国を征服し覇権を築き上げるまでの歴史を、臨場感あふれる記述によって描く。(全14冊)
■版元紹介文より:古代ローマ最大の歴史家ティトゥス・リウィウスは、約40年間の歳月を費やして、ローマ建国者ロムルス(前753年)からティベリウス帝の弟ドルススの死(前9年)までに及ぶ『ローマ建国以来の歴史』142巻を著わした。このうち現存するのは35巻とわずかな断片である。このうち本書は、原著の第6巻から第8巻第24章までを収録。ガリア人によるローマ占拠(前390年)という災厄から立ち直ったローマが周辺諸国を征服し、ラティウム=カンパニア地域に覇権を築き上げるまでの歴史を編年体で描く。単に事実に即して歴史を編纂したものではなく、文学的資質に富んだ臨場感あふれる記述になっている。
★古代ローマ帝国が興味深いのは、東西南北を結ぶ世界帝国として、こんにちのグローバル化した世界と様々な点で比較が可能な歴史を有していること、また、その末期の政治体制の腐敗と爛熟がしばしば現代社会のそれと似ていること、等々の理由が思い浮かびます。その建国時を知る一級資料が本書です。岩波文庫では『ローマ建国史』として上巻が昨春刊行されました(鈴木一州訳)。こちらではリーウィウスと表記されています。今後平行して二つの翻訳を読めるようになるわけで、楽しみです。
★ほとんど同時期に刊行された古典の翻訳と言えば、ここ十数年では、バッハオーフェンの『母権論』(みすず書房/白水社)やシュレーバーの『回想録』(筑摩書房/平凡社)がありました。版元営業にとってみると致命的な重複のように思えなくもなく、懐具合が気になる読者にとってみるとどちらを買えばいいのか迷うわけですが、両方買って比べながら読むと非常に面白いのです。図書館にしてみても、両方買い揃えるのは稀なのかもしれませんが、ベストセラーの副本をたくさん買うより、こういう古典ものの比べ読みを利用者に推奨する方が粋な気がしますけれど。
★なお、ローマものでは、こんな新刊もあります。 C・サッルスティウス・クリスプス『カティリーナの陰謀』合阪學+鷲田睦朗:訳・註解、大阪大学出版会、08年5月、2,520円、 A5判171頁、ISBN978-4-87259-274-0。著者はカエサルのもとアフリカ=ノウァ属州の総督もつとめた散文家。

◎今週の「別腹」

文庫新刊は別腹ですよね? ジャン=リュック・ナンシー『神的な様々の場』大西雅一郎訳、ちくま学芸文庫。親本は松籟社。講談社学術文庫が今月はいいですね、『榎本武揚シベリア日記』、大隅和雄『事典の語る日本の歴史』、佐藤弘夫『日蓮「立正安国論」全訳注』など。佐藤弘夫(1953-)さんは、『偽書の精神史』 『霊場の思想』『起請文の精神史』『神国日本』など、次々と注目の概説書を上梓してこられた日本史家。国内外の情勢にゆれる現代日本で、「立正安国論」を読み直すというのはタイミング的になかなかいいところを狙っておられると思います。

別腹、とは言えない高額書ですが、東京書籍さんの『禅の思想辞典』(田上太秀+石井修道:編著、12,600円)はぜひ中身をじっくり見たい辞典です。2000項目、590頁。

by urag | 2008-06-15 03:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2008年 06月 13日

NHK「クローズアップ現代」ディレクター寺岡環さん講演

私も以前お世話になったことがある「でるべん」さんから、タイムリーなイベントのお知らせをいただきましたので、ご紹介します。満席必至なので、お早めにお申し込みを。【6月16日追記:予約多数により締切!とのことです。やっぱり早かった。】
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◎【緊急企画】でるべんの会6月勉強会 『ランキング依存が止まらない~出版不況の裏側』のウラ側――NHK「クローズアップ現代」ディレクターに聞く

NHK「クローズアップ現代」の特集「ランキング依存が止まらない」が、6月4日の放送以降、出版業界の内外で反響をよんでいます。

この番組では「本が売れない」といわれる背景に「ランキング」があり、これに購買動機を左右される人が多いこと、ランキング下位の本は書店の返品も早くなり、どうしても寿命が短くなること、書店側のおすすめをアピールする「本屋大賞」すら、大賞作品と2位以下では売行きに極端な差が出ること――などを伝えています。出版関係者からは否定的な感想もありますが、一般読者からは「参考になった」との感想も多いようです。

制作者側は、どのような意図で取材を進め、取材を通じて出版業界の現状にどんな感想を抱いたのでしょうか。番組を企画・制作したNHKのディレクター・寺岡環氏を招き、話をうかがいます。聞き手は、今回の勉強会の提案者でもある、出版業界紙「新文化」の石橋毅史氏が務めます。番組を見逃した方も、ぜひご参加ください。

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku2008/0806-1.html#wed

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■日時:6月26日(木)19:00~20:50(*受付は18:30から)
■会場:水道橋・貸会議室「内海」
→ http://www.kaigishitsu.co.jp/access/index.html
※終了後、近辺で懇親会を予定しております

■テーマ:『ランキング依存が止まらない~出版不況の裏側』のウラ側――NHK「クローズアップ現代」ディレクターに聞く

■講師:寺岡環(NHK「クローズアップ現代」ディレクター)

■当日のタイムスケジュール(仮)
    18:30~   受付開始
    19:00~   開始 → 講師紹介、導入
              → 講演、質疑応答
    ~20:50   終了 → 片付け
    21:00頃から 懇親会開始

■勉強会参加料 1,000円(予定)
■懇親会参加料 4,000円(予定)

※当勉強会では、会場費負担のために皆様から若干の参加料を徴収しております。なにとぞご容赦ください。

■予約お申し込み
下記の受付フォームにて承ります。
http://my.formman.com/form/pc/IuZ3mlXvML915uvE/

※席に限りがございますので、お早めにお申し込みください。
※上記のフォームが開けない方、あるいはその他のお問い合わせが有る方は、以下のメールにて承ります。 deruben@excite.co.jp

【6月16日追記:予約多数により締切!とのことです。やっぱり早かった。】
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by urag | 2008-06-13 11:50 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2008年 06月 09日

グールド『人間の測りまちがい』(河出文庫)より

河出文庫の今月の新刊、グールド『人間の測りまちがい』より

1967年の夏、ユダヤ人街での大暴動の後、三人の医者が有名な『アメリカ医学協会誌』に手紙を書き送っている(ショロバー、1979年に引用)。

「何百万というスラム街の住民のうちわずかな人たちが暴動にかかわったこと、また、これらの暴徒のごく一部が放火、狙撃、暴行をほしいままにしたことを認識する必要がある。が、もし、スラムの状況だけが暴動を起こさせ、その発端となったのであれば、どうしてスラムの大多数の住民が(自らの)押さえ切れない暴力の誘惑に抵抗できたのだろうか。平和を好む彼らの隣人たちと違った何かが、この暴動に加わったスラムの住民にはあるのだろうか」

我々は自分の専門分野から物事を一般化する傾向がある。この三人の医者たちは精神外科医である。しかし、絶望的になり、落胆しきった人々の暴力行為をどんな根拠で彼らの脳の機能障害に結びつけるのだろうか。いっぽうで、国会議員や大統領の汚職や暴力については同じような考え方をしようとしないではないか。人間集団はいろいろな行為に対してかなり変化に富んだ対応をするものである。ある人はするが、ある人はしないというこの単純な事実こそが、行為者の脳の特定の場所に位置づけられる特別な病理的異常が存在する証拠などないことを示している。我々は暴力に対する根拠のない思弁、つまり犠牲者を非難する決定論哲学に従う思弁に注意を集中させようではないか。それよりも、まず、《ゲットーを築き、そこの失業者の心を徐々に弱めるような迫害》の排除に努めようではないか。

(スティーヴン・J・グールド『人間の測りまちがい』上巻、河出文庫、08年6月刊、274-275頁)

by urag | 2008-06-09 18:28 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2008年 06月 08日

【公開版】今週の注目新刊(第150回:08年6月8日)

07年11月25日付の第125回以降、長らく非公開にしていた毎週日曜日の「今週の注目新刊」が08年6月8日で150回目を迎えました。非公開にしたのは、書誌情報のコピーペーストを見やすいように整理し、さらにそれに備忘録(コメント)をつけるというのが、結構手間と時間の掛かる作業だったからで、その後はあくまでも個人的な雑多な情報収集として、非公開で毎週続けていました。それでも「この本は」と思える新刊についてはその都度取り上げてきましたが、言及したかったけれど書かずじまいだった本も色々あり、内心忸怩たるものがありました。

業界ではここ十数年来ずっと「さいきん面白い新刊ないよね」といったネガティブな会話があちこちで交わされている気がしています。でもそういう風に悟り澄ました業界人が本当に本を探しているかと言うとそうでもない。むしろ探していないし、新刊の洪水的物量を前にただただ辟易してしまって、好奇心を持ったり感動したりすることを忘れて(あるいは面倒くさがって)しまっているだけに見えます。本を作ったり売ったりする人間が本に対する情熱を失って、本を単なる紙の束のように扱い、好奇心や感動を人に伝えることをおっくうがるならば、この業界に未来はないんじゃないか。そんな風に思って、私は出版社を転々とするサラリーマン時代から、自社本他社本に関わりなく、いい本だな、注目書だな、と思える本について同業者や書店員さんと情報交換をし、数々の他社本を勝手に販促してきました。

そうした私のスタンスは、ある種の人々からは嫌われてきました。自社本の平積み注文をとってくるのが営業の仕事だ、他社本にかかずらっている暇はない、というストロングスタイルの営業マンや経営者から、幾度も嫌味を言われました。全然めげなかったけどね。だって、本屋さんという空間は、新刊旧刊関係なく、一冊ずつ差されている書棚が活き活きしてこそ面白い場になるのだから、平積み受注ばかりが営業の仕事じゃないと思う。ま、そんなことわざわざ言わなくても当たり前と言えば当たり前か。でも当たり前じゃない会社もある。書物は他の書物との関係性の中でこそ生きたり死んだりするのだから、書棚構成に手間ひまかけること(=編集)が販売においては重要だと思うのだけれど、そんなこと余計なお世話だ、と言う人は実際にいるようですし。

まあいいんです。私は出版人である前に、この本が面白かった、等々と屈託なく言える、一素人、一読書人としての自分のままでいたい(何なんだこの青臭い信仰告白は)。ともあれ、収集した新刊情報をすべて整理しようとすると大変なので、せめて毎週のベスト3冊を挙げてみようと思い立ちました。始める以上は、できる限り続けようと思います(非公開版も別途続けます)。

◎今週の注目新刊ベスト3

美学綱要
ベネデット・クローチェ:著 細井雄介:訳
中央公論美術出版 08年5月刊 4,200円 A5判カバー装190頁 ISBN:978-4-8055-0575-5
版元紹介文より:実在は精神によって想像と知性を動機づけられる「精神の哲学」を説いて、20世紀に多大な影響をもたらしたイタリアの美学者クローチェ(1866-1952)の主要論考である「美学綱要」「純粋直覚」「美学」を収録。その方法論を駆使して美術史のみならず文芸研究にも独創的な見解を残し、純粋直覚を精髄とする芸術の解読を究極的に言語化した欧米美学界の巨人の労作。
★三年前に、『エステティカ――イタリアの美学 クローチェ&パレイゾン』(山田忠彰編訳、ナカニシヤ出版、05年5月)という素晴らしい本が刊行された折に拙ブログで色々書きましたが、古典の新訳・初訳というのはいつの日も嬉しいものです。光文社古典新訳文庫の人文社会系の書目が今ひとつ物足りない気がする一読者としての自分としては、「こういうものにチャレンジしないのかねえ」と思わず嘆息しますが、いっぽうで一出版人としては「それはどたい無理だろうけどね、採算が読めないから」と諦めたりします。それでも心の底では「チャレンジしてくれよ」と叫んでいます。弊社のような零細版元では文庫創刊は無理なだけに。毎月何点も出すというハードルが編集的に越えられないし、書店さんの棚に割り込むのが営業的に難しいし、取次に卸す正味が書籍よりさらに安くなるのが経営的に厳しいから(たいそうネガティブ)。

禁断の市場――フラクタルでみるリスクとリターン
ベノワ・B・マンデルブロ+リチャード・L・ハドソン:著 高安秀樹:監訳 雨宮絵理ほか:訳
東洋経済新報社 08年6月 2,520円 46判上製440頁 ISBN:978-4-492-65417-0
版元紹介文より:市場は効率的ではなく、金融工学の前提である正規分布ではなく、ベキ分布で動いていることを明らかにした「フラクタル金融理論」の提唱者が示す、社会・金融への新しい視点。
★名著『フラクタル幾何学』(日経サイエンス社、85年1月、絶版)のマンデルブロ先生の本当に久しぶりの邦訳新刊。経済分野でのご帰還は象徴的「事件」のような気がします。『フラクタル幾何学』はちくま学芸文庫Math&Scienceシリーズで復刊されてもいいくらいの古典だと思いますがどうでしょうか。

歴史学事典 (15) コミュニケーション
樺山紘一:責任編集
弘文堂 08年6月 16,800円 A5判720頁 ISBN:978-4-335-21045-7
版元紹介文より:歴史学事典【全15巻】、完結! コミュニケーションという、かたちのないものを歴史学はどのように定義するのか。人間と表現、情報とメディア、交通と移動など、コミュニケーションは、現代世界を左右する重要テーマです。古代の絵文字から21世紀最先端のコンピュータ世界まで、人間の営みに深く関わるコミュニケーション。その概念を、新しい歴史学が、大項目主義の広い視野でとらえる。【本事典の構成】【1】人間:(1)音声 (2)記号 (3)移動 (4)社交 [項目例]音楽・数字・絵文字・旅・離散・教育/学校・祈り…など。【2】表現:(1)動作 (2)言語 (3)文字 (4)図像 [項目例]舞踊/舞踏・英語・漢字・書・絵画・楽譜・地図・漫画…など。【3】情報:(1)知識 (2)記述 (3)複製 (4)広知 [項目例]コンピュータ・翻訳・公文書・印刷・写本・広告・宣伝…など。【4】媒体:(1)交通 (2)交換 (3)通信 (4)出版 [項目例]馬・道路・市場・映画・電信/電話・郵便・新聞・読書…など。
★ちょうど発売されたばかりの「インターコミュニケーション」終刊号で、山本貴光さんが「コミュニケーションの思想――バベルの塔からバベルの図書館へ」という年表付の論考を寄せていらっしゃって、興味深く拝読していたところでした。山本さん、すげえの出たよ。高額でも目をつぶって買っておかねばならない本というのがありますが、まさにこれもその一つでしょうね。

by urag | 2008-06-08 02:42 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
2008年 06月 07日

REMO / CULTURAL TYPHOON / WINC

G8洞爺湖サミット開催日が迫る中、海外から第一線の活動家や思想家たちが大挙来日します。マイケル・ハート(『ドゥルーズの哲学』法政大学出版局)、マウリツィオ・ラッツァラート(『出来事のポリティクス』洛北出版)、デヴィッド・グレーバー(『アナーキスト人類学のための断章』以文社)、デヴィッド・ソルニット(レベッカ・ソルニットの兄)、ジム・フレミング(Autonomediaの編集者)、フランコ・ベラルディ(bifo)、マリーナ・シトリンなどなど。イベント情報を以下にまとめます。

*******

◎「もうひとつのメディア」のための集い Alternative Media Gathering 08 ~芸術、研究、労働の不安定を希望に。希望を文化に。文化を生活に。生活を運動に!

NPO法人 記録と表現とメディアのための組織 [remo]
tel+fax: 06-6320-6443
533-0033 大阪市東淀川区東中島4-4-4-1F

内容:remo では、これまでの5年間を通じて、韓国のメディアクト、スペインのラス・アゲンシアス、ラテンアメリカのラジオ活動、「パブリックアクセスの母」ディーディー・ハレック、マイクロFMの粉川哲夫をはじめとしたメディア実践家を世界各地から招き「もうひとつのメディア」のための集い(Alternative Media Gathering)を継続してきました。

このたびは大学・研究機関の協力によって海外から著名な実践家や研究者を招き、あらためて、「表現・出版・社会・メディア」といった多角的な視点から〈オルタナティヴ〉を考えるシリーズを開催いたします。今回どんなゲストが来日されるのか、また追ってプロフィールやイベントの詳細をお伝えいたします。今回はそのプレ企画として、かれらを迎えるためのインフォツアーそして読書会のご案内です。是非ご参加ください。

★08年6月7日(土)「インフォツアーからキャンプへ:映像のオルタナティヴ」→終了

★08年6月14(土)14:00-18:00「読書会のオルタナティヴ」
海外からのゲストの思考を学び、共有し、わたしたちの「道具」として身につける明日のための読書会。参加無料、お問い合せ:sagrada☆remo.or.jp(櫻田/☆を@に)。

文献:マウリツィオ・ラッツァラート他「マルチチュードの政治」(『現代思想』03年2月号 特集:『帝国』を読む)、ジム・フレミング+酒井隆史「ポスト・アウトノミアのメディア状況」(『インパクション』第147号(05年6月)特集:現代日本における文化戦争)、フランコ・ベラルディ(bifo)「今日オートノミーとはなんであるか?」(「VOL ZINE」No.3)、デヴィッド・グレーバー「前衛主義のたそがれ」(『VOL』03(08年6月)特集:反資本主義/アート)、ほか。
報告者:募集中!(希望者にはあらかじめ資料のコピーを送付いたします)
会場:remo

★08年6月21日(土)「もうひとつのメディア」のためのパーティ 11:00-21:00
第一部「表現のオルタナティヴ」
ゲスト:マリーナ・シトリン+デヴィッド・ソルニット+デヴィッド・グレーバー+高祖岩三郎
第二部「出版のオルタナティヴ」(16:00~19:00)
ゲスト:ジム・フレミング、VOL、ココルーム文庫、洛北出版、indymedia japan、フリーターズフリー、キョートット、ほか。

★6月22日(日)「学校のオルタナティヴ」(関連イベント@公園)資源再生アート・ワークショップ「青空大学―パペットをつくろう!」
ゲスト:デヴィッド・ソルニット、デヴィッド・グレーバー、ほか。

★6月23日(月)「労働・雇用・保障のオルタナティヴ」(関連イベント@立命館大学)
ゲスト:マウリツィオ・ラッツァラート

以下、7/11(金)社会のオルタナティヴ(予定)、7/12(土)メディアのオルタナティヴ(予定)ゲスト:フランコ・ベラルディ(bifo)ほか。

******

◎「労働・雇用・保障のオルタナティヴ」

日時:08年6月23日(月) 14時~18時
場所:立命館大学衣笠キャンパス学而館二階第二研究室

発表予定者:マウリツィオ・ラッツァラート、渡邉琢(かりん燈――万人の所得保障をめざす介助者の会)、橋口昌治(先端総合学術研究科院生/ユニオンぼちぼち)、中倉智徳(先端総合学術研究科院生)、ほか。
コメンテーター:酒井隆史(大阪府立大学)、廣瀬純(龍谷大学)、村澤真保呂(龍谷大学)

企画趣旨:失業・過労・不安定生活・貧困を乗り越えていく力として、人々は何を手にしているのか。人がもつ労働力以外の力を十分発揮できるような社会保障のあり方があるのではないか。本企画では、イタリア生まれにてフランス在住の気鋭の思想家であるマウリツィオ・ラッツァラート氏を招き、芸術活動に従事する非正規労働者(アンテルミタン)や不安定生活者(プレカリアート)による運動の現状、そして、万人への所得保証に関する議論やその理論的成果について伺う。さらに、日本の非正規労働者の組合活動家、障がい者の介助労働者、若手研究者を交えて、労働・雇用・保障に関するオルタナティヴのあり方について討論を行なう。

マウリツィオ・ラッツァラート(Maurizio Lazzarato):1955年、イタリア生まれ。社会学者、哲学者。現在はパリで働きながら、非物質的労働、社会運動などについて研究を行なっている。非常勤芸能従事者や不安定生活者などの活動に参加している。フランスにおけるガブリエル・タルド著作集発行の中心人物のひとりで、タルド研究者としても知られる。邦訳書には『出来事のポリティクス』(洛北出版、2008年6月下旬刊行予定)、邦訳論文には「マルチチュードと労働者階級――ラッツァラートからパオロ・ヴィルノへの問い」(『現代思想』2003年2月号所収)、「所得を保証すること――マルチチュードのための政治」(『VOL 02』2007年所収、以文社)等がある。

主催:立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点、院生プロジェクト「労働問題・不安定生活・保証所得をめぐる国際的研究」、立命館大学生存学研究センター
共催:龍谷大学国際社会文化研究所

お問い合わせ:中倉智徳 (先端総合学術研究科院生) so029997[at]ce.ritsumei.ac.jp *[at]を@に変えて送信ください。

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CULTURAL TYPHOON in Sendai

日時:08年6月27日、28日、29日
場所:せんだいメディアテーク

以下、弊社関連の著者を中心にセッションをピックアップします。

★6月28日(土)10:00-12:00 セッションb 「アートと政治」 chair:毛利嘉孝+吉澤弥生
★6月28日(土)13:00-15:30 セッションa 「都市と「空/間」」 chair:毛利嘉孝
★6月28日(土)13:00-15:30 セッションd 「グローバリゼーション・人権」 chair:本橋哲也

★メインセッション2 ◇ 「グローバル状況下の労働条件の再編とマルティテュード」
日時:6月28日(土) 16:00-18:30
場所:1F オープンスクエア

報告者:マイケル・ハート(デューク大学准教授、比較文学者・思想家)、アンドレイ・グルバチッチ(ニューカレッジ・オブ・カリフォルニア)、海妻径子(岩手大学 准教授、社会学者)、本橋哲也(東京経済大学教授、文学研究者)
司会者:岩崎稔(東京外語大学教授、哲学者)
通訳:高祖岩三郎、クッキー・チョウ

概要:非正規雇用の現実は、たんなる経済的な問題であるどころか、今日の社会文化状況の閉塞性にまるごと関わる象徴的な事態であり、新自由主義によって不可逆に再編されつつあるかに見える世界のもっとも脆弱な破断点である。そこにいかなる現実と未来が浮かび上がってくるのか。このセッションでは、『帝国』の共著者であるハート、21世紀の変革の可能性を説くグルバチッチ、労働現場の権力の輻輳性を凝視する海妻、そして批評とさまざまな現場をつないでいる本橋を招いて、労働現場の現実を切り口に、マルチチュードの希望を論じる。

★6月29日(日)10:00-12:00 セッションb 「東アジアのポピュラーカルチャー」 chair/com:毛利嘉孝
★6月29日(日)13:00-15:30 セッションd 「写真/映画/アニメ」 chair:上野俊哉
★6月29日(日)15:40-18:40 セッションd 「グローバリゼーションと音楽」 chair/com:毛利嘉孝

★メインセッション3 ◇ 「21世紀の美術と建築のあいだ~グローバリズムと情報技術」
日時:6月29 日(日) 13:00-15:30
場所:6F ギャラリーセッションブース

報告者:彦坂尚嘉(美術家、美術批評家)、毛利嘉孝(社会学者)、暮沢剛巳(美術評論家)、南泰裕(アトリエ・アンプレックス)、本江正成(東北大学准教授, IT コミュニケーションデザイン学)
司会者:五十嵐太郎(建築史、批評家)
コメンテータ:藤原えりみ(編集者)、新堀学(建築家)、橋本純(編集者)、伊藤憲夫(編集者)

講演概要: 20 世紀の日本の美術と建築を討議するアートスタディーズ(全20 回)は、第一期の12回を終え、次回は2000 年から時代を遡る第二期に入る。そこで折り返し地点として、2000 年~2010 年を対象とする番外編を行う。グローバリズムと情報技術の時代において、美術、建築、音楽、デザインはいかなる関係を結ぶかを討議する。

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◎WINC特別例会 マイケル・ハート講演「記憶と残像のない新自由主義空間」 通訳付

日時:6月27日(金)18:30~
場所:東京外国語大学研究講義1階101教室

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洛北出版の竹中さんから教えていただいた、ネグリやビフォ(フランコ・ベナルディ)、ラッツァラートの動画集 → http://www.mazine.ws/node/574

by urag | 2008-06-07 18:13 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2008年 06月 06日

「思想地図」創刊記念ブックフェア@新宿J&紀本

新宿のジュンク堂書店人文書売場と紀伊國屋書店本店人文書売場で、NHKブックス別冊「思想地図」創刊記念ブックフェアが開催されています。弊社の本も陳列されています。皆様にご高覧いただけたら幸いです。

◎『思想地図』とその周辺 ~ 70年以降生まれの思想家・アーティスト特集 ~

会期:08年6月1日(日)-6月30日(月)
場所:ジュンク堂書店新宿店7階人文書コーナー

内容:新創刊思想誌の執筆陣が若い(東浩紀1971年生、北田暁大1971年生を筆頭に執筆陣の大半が1970年以降生まれ)という点に着目し、70年以降生まれの思想家、アーティストを一堂に会して紹介。東氏のアニメ論は有名ですが、『らき☆すた』と「人文系の書籍」が同じ棚に並ぶ、興味深い品揃えになりました。

取り上げている思想家、作家一覧→
http://d.hatena.ne.jp/masayukisakane/20080530
※「他にも紹介したい作家がいるので会期中、随時入れ替え」を検討されているとの事。

ジュンク堂書店のフェア棚の写真
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a0018105_14113.jpg◎「じんぶんや」第四十一講:北田暁大選「『思想地図』特集・日本論」

会期:08年5月7日~7月6日
場所:紀伊國屋書店新宿本店 5Fカウンター前

★「日本論」ブックガイドに寄せて / 北田暁大
「日本とは何か」。このきわめて抽象的で不可解な問いに答えを与えていく作業が「日本論」である。かつて、少なくとも1980年代頃までの日本の言論空間では、この「日本論」が多く産み落とされ、そのなかのいくつかは、けっして小さくない社会的影響力を発揮した。戦後日本の思想地図を構想していくうえで、「日本論」の系譜を辿りなおしていくことは、現在の、そして未来の思想状況を考えていくうえで、きわめて重要な意味を持つはずだ。東浩紀・北田暁大編『思想地図vol.1』では、そうした問題意識に立ち、戦後・日本論に照準したブックガイドを掲載している。【・・・つづきはこちらからお読みいただけます】

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◎「思想地図」発刊記念シンポジウム「公共性とエリート主義」

日時:08年6月16日 19時開演(18:30開場)
会場:新宿・紀伊國屋サザンシアター(紀伊國屋書店新宿南店7F)
料金:1,000円(税込・全席指定)
電話予約:03-5361-3321

パネラー:東浩紀、北田暁大、姜尚中、宮台真司、鈴木謙介

by urag | 2008-06-06 16:17 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2008年 06月 05日

NHK「クローズアップ現代」08年6月4日:ランキング依存が止まらない~出版不況の裏側

同業者のMさんに教えていただいた、昨晩のNHK「クローズアップ現代」の出版不況特集への各種コメント。所用につき視聴できなかったのだけれど、色々と反響が出ている模様。

「空想書店 書肆紅屋」さんの6月4日投稿「今日の「クローズアップ現代」
「俺と100冊の成功本」さんの6月4日投稿「ランキング依存が止まらない~出版不況の裏側~ クローズアップ現代
「四国の星」さんの6月5日投稿「書籍購入パターンの変化と出版不況・・「クローズアップ現代」を見て
「INUTILE」さんの6月4日投稿「「クローズアップ現代」本のランキング依存
「TAKA@P.P.R.S!!!」さんの6月4日投稿「クローズアップ現代『ランキング依存が止まらない』を見て。

ひとこと言っておかなければならない。新刊を大量に出せば取次からの「内払い」で当面の糊口をしのげる、というのは、歴史ある一部の版元の話に過ぎない。弊社のような、比較的新しい零細版元は「内払い」などない。取次によっては委託手数料(いわゆる歩戻し)を配本の時点で直ちに計上されるし、さらにすべての取次において、注文条件の売上の30%が半年間支払いを保留される。実売とは無関係に新刊の内払いがある、既得権益の大きい大手版元と大違いである。新刊点数が増えるのは、新刊の短命化が止まらないからではある。短命化の複合的原因については説明にもっと時間を割く必要があるだろう。

Mさんによれば「旭川の「富貴堂」+「クローズアップ現代」や「本屋大賞」+「クローズアップ現代」で検索すればさらに出てきます」とのこと。ほほう。自分なりに「出版」「取次」「内払い」で検索をかけると、トップに「双風亭日乗」さんの過去のエントリーがヒットした。

「双風亭日乗はてな出張所」さんの05年5月29日投稿「取次というブラックボックス

ほかにも色々な検索結果が。どうぞお試しあれ。

★「内払い」とは? 2ch「出版業界何でも質問・回答スレッド」220氏のコメント

220 名前: 素っ頓狂 投稿日: 02/03/24 04:06

>219
委託商品(特に新刊委託)について、取次→版元間の支払い条件は大別して2種類あります。「条件払い」と「精算払い」。出版社にとり、条件払いは有利で精算払いは不利です。これは版元が取次店といつ口座開設したかによります。

すなわちまだ出版界全体の出版点数が少なく、本の取り合いがあった時代(昭和30年代中頃まで)に取引を始めた版元の多くは支払い条件として条件払いの適用を受けている例が多く見受けられます(一般的に)。

「内払い」とは条件払いのことで、委託(新刊・長期)したときにその委託金額の何%を締め日の翌月に払ってもらえるか、という条件です。この支払い率は概算で言えば100%~10%まで細かく区切られています。またこの率は通常その版元の固定割合となっていますから、黙っていても対象商品に適用されますが、場合により取次店と条件交渉でアップすることも可能です(版元営業取次担当の仕事の一部)。

委託商品について100%全払いを受ける(翌月支払われる)羨ましい版元には音羽や一ツ橋があります。
【引用者注:音羽=講談社、一ツ橋=小学館。wikipedia「音羽グループ」「一ツ橋グループ」項目参照。ちなみに音羽の偉い人や一ツ橋の偉い人は二大取次(日販・トーハン)の大株主だと聞く。ということは(以下吐血)。ちなみに、音羽VS一ツ橋の近年の一例とか→「蛯原友里の記事から見える一ツ橋と音羽の仁義無き戦い」、逆に大同団結とか→「「少年サンデー」と「少年マガジン」共同でマンガ雑誌を出版、小学館と講談社が合意」】

昭和30年代後半以降に取引開設した殆どの版元は、委託商品の支払い条件が精算払いの適用を受けます。特に新刊委託品は6カ月据え置き7カ月目支払いが一般的です(注文品は翌月支払い)。誰か前の回答で委託精算期間が3カ月とありましたが、新刊委託で3カ月目の精算はありません。

新刊委託期間の建前は版元⇔取次間6カ月。取次⇔書店間105日(3カ月)となっていて、版元取次間は精算と返品期間の建前期間。取次書店間は返品受付期間(精算は即請求)となっています。

>218
長期委託は通常3カ月ではなく、通常6カ月です。6長(ろくちょう)と言います。3カ月の場合は通常延勘が一般的。3延(さんのべ)と言います。最近はバリエーションが多々あるようですが、昔からの慣行なら ろくちょう さんのべ です。

また取次が書店に出荷する条件は2種類しかないというのが建前です。委託、買切の2種類。注文という出荷形態は建前としてありません(実際はこのバリエーションで様々な条件がありますが、建前は2つです)。即ち、委託で出荷したものは、委託期間内のみ返品可能。それを過ぎれば返品不可(大嘘。大建前)。買切で出荷したものは、返品不可(版元4500社中どの版元が?) という次第です。(常備は出荷ではなく、貸し出し。版元在庫の書店移動。)

明治時代に「実業の日本社」が始めた委託販売は制度疲労を起し、昭和22~23年に岩波が始めた常備寄託制度も、崩壊し始めました。出版界全体の仕組みが完全な制度疲労を起こし、大きな変化の前触れを実感する今日この頃です。

***

◎NHK「クローズアップ現代」08年6月4日(水)放送 総合:午後7時30分~7時56分 BS2:午後8時34分~午後9時

ランキング依存が止まらない~出版不況の裏側~

このほど、出版社の倒産件数が15年ぶりの高水準を記録したことが明らかになった。かつて「声に出して読みたい日本語」などのベストセラーを生み出し、じっくりと本を育てることで定評のあった草思社も倒産。背景には、読者の本の選び方が劇的に変化していることがある。「売り上げランキング」をもとに本を選ぶ人が増加。売れる本への一極集中が顕著となり、書店ではランキングに入らない本は即座に返品することが常態化している。短期間で売り上げ実績をあげる必要に迫られた出版社は、出版点数を急激に増やし、本の寿命が短くなる事態を招いている。日本の出版界の根幹を揺るがし始めた読者の変化。その知られざる実態に迫る。スタジオゲスト:仲俣暁生さん(文芸評論家)

※ゲスト出演した仲俣暁生さんご自身が当該放送を見た感想→「海難記」08年6月5日の投稿「本の買い方のリテラシー

by urag | 2008-06-05 19:51 | 雑談 | Trackback(1) | Comments(0)
2008年 06月 05日

「論座」08年7月号に、『条件なき大学』書評

朝日新聞社の月刊誌「論座」08年7月号に、弊社より刊行しているデリダ『条件なき大学』の書評「人権思想と背馳する「教育の商品化」を考えるために」が掲載されました。評者は白石嘉治さんです。

「大学についての根源的な思考なしに、おそらく今日の危機をとらえることはできない。(・・・)訳者による充実した解説「ジャック・デリダと教育」が詳らかにするように、大学をめぐる思考はつねにデリダの実践と理論の核心にあった。(・・・)「条件なき大学」とは「教条的で不正なあらゆる我有化の権力に対する批判的抵抗――そして批判以上の抵抗――のための究極的な場であり続けなければならない」のである」、と評していただきました。白石さん、ありがとうございました。

by urag | 2008-06-05 19:16 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)