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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 1030 )


2019年 04月 22日

注目新刊:ライプニッツ『モナドロジー』岩波文庫新訳、ほか

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モナドロジー 他二篇』ライプニッツ著、谷川多佳子/岡部英男訳、岩波文庫、2019年4月、本体780円、文庫判256頁、ISBN978-4-00-336169-6
運命論を哲学する』入不二基義/森岡正博著、2019年4月、本体1,800円、4-6判上製304頁、ISBN978-4-7503-4826-1
脳のリズム』ジェルジ・ブザーキ著、渡部喬光監訳、谷垣暁美訳、みすず書房、2019年4月、本体5,200円、ISBN978-4-622-08791-5

★『モナドロジー 他二篇』は岩波文庫では、1951年の河野与一訳『単子論』以来の新訳。旧訳本に収められていたのは、以下の諸篇です。1695年「実体の本性及び実態の交通並びに精神物体間に存する結合に就いての新説」(およびその最初の草稿、フシェの異議、それに対するライプニッツの備考、新説の第一解明、第二解明、第三解明抜萃)、1714年の「理性に基づく自然及び恩恵の原理」、同年の「単子論」、さらに付録として、1684年の「認識、真理、観念に関する考察」、1694年の「第一哲学の改善と実体概念」、1697年の「事象の根本的生産」、1698年の「自然そのもの」でした。

★今回の新訳に収録されているのは、「モナドロジー」、「理性に基づく自然と恩寵の原理」、「実体の本性と実体間の交渉ならびに魂と身体のあいだにある結合についての新説」の3篇と、以下の付録の諸篇です。「物体と原動力の本性について」(抄訳、1702年5月)、「ゾフィー宛書簡」(1696年11月4日)、「ゾフィー・シャルロッテ宛書簡」(1704年5月8日)、「生命の原理と形成的自然についての考察、予定調和の説の著者による」(1705年5月)、「コスト宛書簡」(1707年12月19日)、「ブルゲ宛書簡」(1714年12月)、「ダンジクール宛書簡」(1716年9月11日)。底本はゲルハルト版『ライプニッツ哲学著作集』。

★「モナドロジー」より。「1 私たちがここで論じるモナドとは、複合体のなかに入る単純な実体に他ならない。単純とは部分がないことだ」(11頁)。「5〔…〕単純な実体が自然的に生じることがあるとは、どうしても考えられない。単純な実体は、複合によってつくることはできないからだ」(14頁)。「6 かくしてモナドは、生じるのも滅びるのも、一挙になされるほかない、と言ってよい。〔…〕けれども複合されたものは、部分部分で生じる、もしくは滅びる」(同頁)。「7〔…〕モナドには、何かものが入ったり出たりできるような窓がない。〔…〕」(15頁)。「3〔…〕モナドは、自然の真の原子であり、ひとことで言えば事物の要素である」(13頁)。「11〔…〕モナドの自然的変化は内的原理から来る〔…〕。外的原因はモナドの内部に作用することができないからである」(18頁)。「12 しかしまた、変化の原理のほかに、変化するものの細部があり、それが単純な実体の、いわば特殊化と多様性を与えているにちがいない」(19頁)。「13 この細部は、一なるもの、すなわち単純なもののなかに、多を含んでいるはずだ。〔…〕単純な実体のなかには、部分はないけれども、いろいろな変状や関係があるにちがいない」(同頁)。

★「14 一なるもの、すなわち単純な実体のなかで、他を含み、これを表現する推移的な状態がいわゆる表象にほかならない。これは意識される表象ないし意識とはしっかり区別されねばならない。〔…〕」(20頁)。ここで言う表象(perception)は、訳注によれば「表出(expression)」や「表現(representation)」とほぼ同義、とあります。あらわれ、とでも受け取った方が理解しやすそうです。「15 一つの表象から別の表象への変化ないし推移を起こす内的原理の働きを欲求と名づけることができる。〔…〕」(21頁)。「16 私たちの意識するどんなに小さな思考でもその対象のなかに多を含んでいるのを見いだすとき、私たちは自身で、単純な実体のなかに多様性を経験する。したがって、魂が単純な実体であることを認める人はすべて、モナドのなかにこの多を認めなければならない。〔…〕」(22頁)。以下略。

★「モナドロジー」の新本で入手可能な既訳には、「モナドロジー」清水富雄/竹田篤司訳(『モナドロジー/形而上学叙説』所収、中公クラシックス、2005年)、「モナドロジー(哲学の原理)」西谷裕作訳(『ライプニッツ著作集 第Ⅰ期第9巻 後期哲学』所収、工作舎、1989年)があります。

★訳者あとがきの次の説明が印象的です。「ライプニッツには精神の共同体、精神の共和国という理念が見られる。ライプニッツは数学や力学で顕著な業績のある自然科学者であったが、また文献学者・歴史家でもあり、過去の遺産も信頼した。知は、人類全体の事象であり、あらゆる時代のものである「精神の共和国」の所産である。精神が神とつながり、そうして諸精神が結びつきあうイメージは主要テクストで示されているが、「精神の共和国」という表現が書簡などにも見られる」(246頁)。

★『運命論を哲学する』は、「現代日本哲学に新たなページをきりひらく本格哲学入門シリーズ」と謳う「現代哲学ラボ・シリーズ」の第1巻。「これがJ-哲学だ」と帯文にあります。J-哲学とは「日本語をベースとした、オリジナルな世界哲学」とのことです。森岡正博さんによる「全巻のためのまえがき」には、「J-哲学」あるいは「J-フィロソフィー」について「ちょうど「J-ポップ」や「J-文学」があるように、日本から自生的に出てきて国際的な潮流に寄与しする哲学という意味」(ii頁)と説明されています。「「日本哲学」と言わないのは、この言葉が、鎌倉新仏教から京都学派までの日本の哲学を研究対象とする学術を指して、すでに国内外の学会で使用されているからである」(ii~iii頁)。「欧州大陸や英米の哲学を輸入紹介することをもって「哲学」と呼ぶ慣習はまだ続いている。私たちは、それらとは異なった道筋を開きたい」(i頁)。

★もともと「現代哲学ラボ」は森岡さんと田中さをりさん(『哲楽』編集人)が世話人をつとめた全4回の連続討論会企画(2015~2016年)で、これは電子書籍として刊行済。これに著者の皆さんが大幅加筆したのが、「現代哲学ラボ・シリーズ」です。森岡さんによる「第1巻のまえがき」によれば、本書は著者二名が運命論と現実性を「徹底的に掘り下げる」もの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。続刊予定は、第2巻が永井均さんと森岡さんによる『私と今を哲学する』、第3巻が永井/入不二/森岡の3氏による『現実性を哲学する』、第4巻が加藤秀一さんと森岡さんによる『生命の価値を哲学する』です。

★『脳のリズム』は『Rhythms of the Brain』(Oxford University Press, 2006)の訳書。カバー表4の紹介文から引いておきます。「「脳は予測装置であり、その予測能力は、絶え間なく生成しているさまざまなリズムから生じる。」〔…本書は〕それまで“ノイズ”にすぎないとされていた脳内リズム現象の見方を一変させ、すでに現代の古典となっている。〔…〕脳内のリズム現象は私たちの認知機能の中核を担っている。脳の中では振動子としてのニューロンが集団的に同期しつつ、f分の1揺らぎ、時間窓によるスイッチング、確率共振といった特性を利用しながら、思考や記憶などの複雑かつ統合された能力を創発するシンフォニーを奏でているのだ」。目次詳細は書名のリンク先とご覧ください。

★理化学研究所・脳神経科学研究センターの渡部喬光さんは「監訳者あとがき」でこう書いています。「この本は、およそ過去40年に渡って海馬神経科学の最前線をひた走り、今も論文を出し続ける大御所電気生理屋さんの思想書・予言書だと思って、刺激され、訝しがり、楽しむのが生産的な姿勢だと個人的には思っている」。著者のブザーキ(György Buzáki, 1949-)はハンガリー出身で、現在はニューヨーク大学神経科学研究所ビッグス教授。研究しておられるのは脳内の振動現象、睡眠、記憶とのことです。Györgyはforvoで現地の発音を確認するかぎりでは、ジェルジというよりかはジョルジュ(時にはギョルギュ)に近く、最近ではリゲティの名前もジョルジュとしている例を見かけます。ルカーチは訳書がいずれも古めのためかジェルジないしドイツ風にゲオルク表記。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

執念深い貧乏性』栗原康著、文藝春秋、2019年4月、本体1,800円、四六判並製280頁、ISBN978-4-16-390934-9
天皇制と闘うとはどういうことか』菅孝行著、航思社、2019年4月、本体3,200円、四六判上製346頁、ISBN978-4-906738-37-3
吉本隆明全集19[1982-1984]』吉本隆明著。晶文社、2019年4月、本体7,000円、A5判変型上製692頁。ISBN978‐4‐7949‐7119-7
評伝ジャン・ユスターシュ――映画は人生のように』須藤健太郎著、共和国、2019年4月、本体3,600円、菊変型判並製412頁、ISBN978-4-907986-54-4
美しく呪われた人たち』F・スコット・フィッツジェラルド著、上岡伸雄訳、作品社、2019年4月、本体3,200円、46判上製484頁、ISBN978-4-86182-737-2

★『執念深い貧乏性』は、「文學界」2017年5月号から2018年4月号までの全12回の連載をまとめたもの。新たに加えられた巻末の「おわりに」は天皇制への言及をめぐる某出版社(?)との攻防が暴露されており、ある意味で今までの栗原さんの著書の中でもっとも攻めている内容となっています。「天皇制ってなんですか? それは純然たる統治だ、よりよい統治を呼び起こす装置みたいなもんだ。それこそいま天皇のことをマジで神だなんておもっているやるはほとんどいないとおもうし、わたくしどもはヘイカの赤子でございますっておもっているやつもまれだとおもう。なのに、なんで天皇がいたらあたまをさげてしまうんか、ヘイカとよんでしまうのか、たわいのない批判を自主規制しようとしてしまうのか。それは真理をもとめるこころがあるからだ。ぜったいにただしいなにかにすがりたいっておもっているからだ。どうしたらいいか。まずはここからはじめよう。くたばれ、天皇制。われわれは真理に反対する。ただしいことはダサいとおもえ」(258~259頁)。残尿感に始まり下剤に終わる本書の自由さ。

★『天皇制と闘うとはどういうことか』は、某社より刊行予定だった『天皇制論集第二巻 現代反天皇制運動の理論』が原型だそうです。同時に編著『叢書ヒドラ 批評と運動Ⅱ』の入稿済原稿もⅢ~Ⅴ号も流れたのだとか。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「天皇制は、人の上に人をつくり、人の下に人をつくる。頂点に神聖の極致の存在を生み出し、大局に汚穢と卑賤の極致の存在を生む。つまり、絶対的な差別を生む。天皇制国家の観念体系の目的は、資本制による近代化の推進であるが、一見古代律令制の遺制のような観念とそれに基づく差別は、近代化と矛盾するどころか、資本制の支配を補完する機能を担ってきた。天皇制下の「四民平等」は差別構造を資本制的蓄積に適合させるための近代化の機能を果たした。戦後憲法14条の「法の下の平等」も、それだけでは空文であり、戦前よりも洗練された収奪の装置として、一見遺制的な観念に依拠した近代の差別構造は延命した。天皇を聖の極限とする差別の観念体系は、平等意識の暗渠を生み出した。それは差別する側に「外部」不在の、鈍感な自己――平等のつもりの差別――絶対化が生まれた。それは内部の異端に対する徹底的な抑圧と、外部に対する徹底的な排外主義と暴力行使の正当化を誘導する」(19~20頁)。

★『吉本隆明全集19[1982-1984]』は第20回配本。第Ⅰ部の『マス・イメージ論』、第Ⅱ部の「「反核」運動の思想批判」「反核運動の思想批判 番外」「情況への発言――「反核」問題をめぐって――」といった『「反核」異論』に収録された評論や講演、第Ⅲ部の『野生時代』連載詩篇、第Ⅳ部の評論、第Ⅴ部のアンケート、推薦文、あとがきなどから、ニューアカ・ブーム勃興期に吉本さんが論じ、綴り、語っていたことが一望できます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「核エネルギイの問題は、石油、石炭からは次元のすすんだ物質エネルギイを、科学が解放したことを問題の本質とする。政治闘争はこの科学の物質会報の意味を包括することはできない。既成左翼が「反原発」というときほとんどが、科学技術にたいする意識しない反動的な倫理を含んでいる。それだけではなく「科学」と「政治」の混同を含んでいる」(「「反核」運動の思想批判」299頁)。月報20は、小池昌代「父の内なる言語」、島亨「「軒遊び」と「生命呼吸」のこと」、ハルノ宵子「境界を越える」を掲載。島亨さんは出版社「言叢社」の編集者。次回配本は8月、第20巻とのことです。

★『評伝ジャン・ユスターシュ』はパリ第三大学に提出した博士論文『ジャン・ユスターシュ――生成と制作』の日本語訳全面改稿版。「映画を生き、愛し、時代との結託を拒むその稀有な生に魅せられた気鋭の批評家による、世界初の本格的な評伝」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻頭の序によれば、著者は作品を見直し、文献を読み、視聴覚資料をチェックし、未公刊資料を掘り起こし、関係者の証言を集め、脚本や製作資料や監督の手になる文書も細かく分析したそうです。「目標は、可能なかぎり資料に裏打ちされた方法で、彼の辿った行程を復元すること。完成された作品を外側から眺めて分析するのではなく、作られていく渦中に入り込み、内側から作品に触れること。創造のプロセスを辿り直すこと」(8頁)。本書の刊行を記念して、十数年ぶりのリバイバル上映会が以下の通り行われます。

◎ジャン・ユスターシュ「映画は人生のように」
日時:2019年4月27日(土)~5月9日(木)
場所:ユーロスペース(渋谷)

日時:5月11日(土)12日(日)18日(土)19日(日)
場所:アンスティチュ・フランセ東京(飯田橋)

★『美しく呪われた人たち』は1922年の『The Beautiful and Damned』の初訳。デビュー作『楽園のこちら側』(1920年;朝比奈武訳、花泉社、2016年)と『グレート・ギャツビー』(1925年、諸訳あり)との間に刊行された長編第2作です。帯文に曰く「刹那的に生きる「失われた世代」の若者たちを絢爛たる文体で描き、栄光のさなかにありながら自らの転落を予期したかのような恐るべき傑作」と。これで生前に刊行された長編小説4作(4作目は1934年の『夜はやさし』、死去の翌年である1941年に出版された未完の遺作『ラスト・タイクーン』を含めると5作)はすべて翻訳されたことになります。なお同書の刊行を記念して、以下のイベントが行われます。

◎上岡伸雄×宮脇俊文「“狂騒の20年代”とF・スコット・フィッツジェラルドの世界」
日時:2019年5月9日19:30~21:00
場所:ブックス青いカバ(文京区本駒込2-28-24)
料金:1000円
定員:20名
予約:電話03-6883-4507

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by urag | 2019-04-22 03:33 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 04月 15日

月曜社5月新刊:ジョージ・ラミング『私の肌の砦のなかで』吉田裕訳

2018年5月15日取次搬入予定 *外国文学/カリブ文学

私の肌の砦のなかで
ジョージ・ラミング[著] 吉田裕[訳]
月曜社 2019年5月 本体:3,800円 46判並製480頁 ISBN: 978-4-86503-075-4 C0097

アマゾン・ジャパンで予約受付中

「明日、ぼくは旅立つ。似たような人間が出会い、陽気に遊んだりするのだろうが、人はけっして君のことを知ることはない、自分の肌の砦のどこかに隠れた、その君を知ることはないだろう」。時は第二次大戦中。少年の成長、そして旅立ちが、動乱に揺れるカリブ海の島バルバドスの命運と重なる。彼はなぜ土地から離れなければならなかったのか。生まれた場所から移動することで初めて知ることとは。エドワード・サイードやスチュアート・ホールも重視するポストコロニアル思想の原点にして、カリブ文学の古典的傑作。バルバドス出身の作家ジョージ・ラミングの小説、初めての全訳。【叢書・エクリチュールの冒険、第13回配本】

ジョージ・ラミング(George Lamming)1927年、バルバドス生まれ。1953年、小説『私の肌の砦のなかで』でデビュー。その他の作品に小説『成熟と無垢について』(1958年)、小説『冒険の季節』(1960年)、批評集『故国喪失の喜び』(1960年)などがある。現在までに計6冊の小説、1冊の批評集を出版。最も重要なカリブ文学の作家のひとり。

吉田裕(よしだ・ゆたか)1980年、岐阜生まれ。東京理科大学専任講師。専門はカリブ文学及び思想、ポストコロニアル研究、文化研究。訳書にノーム・チョムスキー『複雑化する世界、単純化する欲望――核戦争と破滅に向かう環境世界』(花伝社、2014年)、ニコラス・ロイル『デリダと文学』(共訳、月曜社、2014年)、ポール・ビュール『革命の芸術家――C・L・R・ジェームズの肖像』(共訳、こぶし書房、2014年)など。

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by urag | 2019-04-15 10:20 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 04月 14日

注目新刊:『よくわかる哲学・思想』『現代思想43のキーワード』、ほか

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アンコール』ジャック・ラカン著、藤田博史/片山文保訳、講談社選書メチエ、2019年4月、本体1,950円、四六判並製272頁、ISBN978-4-06-515340-6
閨房の哲学』マルキ・ド・サド著、秋吉良人訳、講談社学術文庫、2019年4月、本体1,260円、A6判並製344頁、ISBN978-4-06-515341-3
完訳 ブッダチャリタ』梶山雄一/小林信彦/立川武蔵/御牧克己訳注、講談社学術文庫、2019年4月、本体1,650円、A6判並製512頁、ISBN978-4-06-515342-0
女について』ショーペンハウェル著、石井立訳、東海林ユキエ画、明月堂出版、2019年4月、本体1,500円、四六判並製124頁、ISBN978-4-903145-65-5

★『アンコール』はラカンのセミネール第20巻(1972~73年度)。原著は1975年刊。帯文に「最重要セミネール、ついに全訳」とあるようにたいへん名高い講義録です。「「愛」という重要なテーマが根底に据えられ、「女の享楽」という問題とともに、精神分析は新たな次元に飛翔する」(カバー表4紹介文より)。目次は書名のリンク先をご覧ください。今回の訳書での訳者自身による記述は凡例のみで、訳者あとがきはありません。ラカンのセミネールは岩波書店から出版されるものと思っていましたが、どういった事情でメチエでの刊行に至ったのか。それについては、版元ウェブサイトの内容紹介で次のように明かされていました。

★「セミネールの日本語訳は、1987年から着手されたが、パリ・フロイト派創設の時期にあたる1963-64年度の『精神分析の四基本概念』までの時期のものに限定されている上、価格も高く、また現在では入手できなくなっているものも多い。/そうした状況の中、選書メチエの1冊として、最も名高い『アンコール』をお届けする。これは1972-73年度のセミネールであり、既存の邦訳からはうかがうことのできない後期ラカンの真髄が語られている」。とすると、セミネール全27巻予定のうち、岩波書店から刊行されるのは第11巻までで未訳は第6巻と第9巻の2点ということになります。第12巻以降では『アンコール』が初訳となりますが、果たして今後残りの巻は訳出されるのでしょうか。

★なお、関連書として『ラカン『アンコール』解説』(佐々木孝次/荒谷大輔/小長野航太/林行秀著、せりか書房、2013年8月)が刊行されています。また『アンコール』の訳者である藤田さんと片山さんによるラカンの共訳書としては『テレヴィジオン』(青土社、1992年;改訳版、講談社学術文庫、2016年)があります。

★『閨房の哲学』は文庫オリジナルの新訳。凡例によれば、底本は最新のプレイヤード版(1998年)で、「明らかな誤植などは断りなく訂正した」とのことです。かの著名な作中作「フランス人よ、共和主義者になりたいなら、もうひとがんばりだ」は「第五の対話」に出てきます(194~260頁)。同書は今まで幾度となく翻訳されてきましたが、現在入手可能な既訳には澁澤龍彦訳『閨房哲学』(電子版、河出文庫、1992年)、佐藤晴夫訳『閨房の哲学』(未知谷、1992年)、小西茂也訳『閨房哲学』(一穂社、2007年)、関谷一彦訳『閨房哲学』(人文書院、2014年)などがあります。今回新訳を手掛けられた秋吉良人さんは澁澤訳を参照されたそうです。「実に数十年ぶりに手にとって、初めて全体を原文と突き合わせながら読んだ。教えられるところも多々あったし、日本語の達者さには改めて舌を巻いた。ただ、翻訳に誤訳はつきものとはいえ、ほぼ毎頁に誤訳を見つけるに至って、学生時代に愛読し、人にも勧めてきただけに、正直まいった」と、訳者解説で率直に綴っておられます。講談社の各種文庫でサドの翻訳が出るのは実に本書が初めてになります。

★『完訳 ブッダチャリタ』は1985年12月に講談社のシリーズ「原始仏典」の第10巻として刊行された『ブッダチャリタ』の文庫化。ブッダの生涯を描いた古典的名著です。アシュヴァゴーシャによるサンスクリット語原文の前半14章に加え、欠落した後半14章をチベット訳、漢訳を参照し再現して、全28章を翻訳したとのことです。巻末の「学術文庫版解説」は、東京大学東洋文化研究所教授は馬場紀寿さんによるもの。

★このほか4月の講談社学術文庫では、豊永武盛『あいうえおの起源――身体からのコトバ発生論』、長沢利明『江戸東京の庶民信仰』、奥富敬之『名字の歴史学』が刊行されており、いずれも大いに気になるものの、財布と相談して後日購読を期すこととしました。

★『女について』は石井立(いしい・たつ:1923-1964)さんの既訳(「女について」、『女について』所収、角川文庫、1952年)を現代表記に改めて、当時の訳者解説とともに収録し、さらに東海林ユキエさんによる挿画と四コマ漫画と「はじめに」、横山茂彦さんによる解説「ショーペンハウェルの『女について』」、そして東海林さんと横山さんによる「おまけ対談 挿画と造本について――東海林ユキエさんと鍋を囲んで語る(訊き手=横山茂彦)」を新規に加えたものです。なお、横山さんの解説には、シラーの詩「女性たちの品位」が引かれています。生涯独身だったショーペンハウアーの毒舌をどう読むか、挑戦的な復刊です。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

現代思想2019年5月臨時増刊号 総特集=現代思想43のキーワード』青土社、2019年4月、本体1,500円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1380-6
よくわかる哲学・思想』納富信留/檜垣立哉/柏端達也編、ミネルヴァ書房、2019年4月、本体2,400円、B5判並製232頁、ISBN978-4-623-08410-4
〈自閉症学〉のすすめ――オーティズム・スタディーズの時代』野尻英一/高瀬堅吉/松本卓也編著、ミネルヴァ書房、2019年4月、本体2,000円、4-6判並製392頁、ISBN978-4-623-08648-1
文化人類学の思考法』松村圭一郎/中川理/石井美保編、世界思想社、2019年4月、本体1,800円、4-6判並製224頁、ISBN978-4-7907-1733-1
世界思想 46号 2019春 特集:ジェンダー』世界思想社編集部編、世界思想社、2019年4月、非売品、A5判並製88頁
統べるもの/叛くもの――統治とキリスト教の異同をめぐって』新教出版社編集部編、新教出版社、2019年3月、本体2,200円、四六判並製216頁、ISBN978-4-400-31086-0

★優れたアンソロジーが目白押しです。まず『よくわかる哲学・思想』は西洋哲学史と日本におけるその需要、そして哲学の基礎的な諸テーマと現代の諸問題を、キーワードとキーパーソンで見開きごとに読み切る体裁の入門書です。書名のリンク先で公開されている目次を見ていただければわかるかと思いますが、ここ最近ではもっともバランスの取れた簡潔な入門書になっているという印象です。

★残りの5点はこの入門書に接続しうるぞれぞれに特異なブースターとなります。『現代思想43のキーワード』は一見雑然としたキーワード集に見えますけれども、その実像は、よくぞここまで「今」の諸相を手際よく集めたものだと感心するほかない、非常に意欲的な「ポスト人文学」の地図です。本書を売場構成の手本にするなら相当面白い実践となることでしょう。

★『よくわかる哲学・思想』と『現代思想43のキーワード』にもジェンダー関連のキーワードが複数出てきますが、『世界思想(46)ジェンダー』では「性と文化」「結婚と家事・育児」「職業と経済」をテーマに実力派の論客14名が寄稿。総論となる「ジェンダーとは何か」は伊藤公雄さんが執筆されています。これが無料のPR冊子だなんて、世界思想社さんは本当に毎年すごいことをやって下さいます。

★『現代思想43のキーワード』では「Anthropology & History」という枠で6つのキーワードが紹介されていますが、人類学の最前線は「ポスト人文学」のもっとも先鋭的な地平を描くものです。『文化人類学の思考法』は編者による序論「世界を考える道具をつくろう」と3部構成13本の論考からなるアンソロジーで、参考文献と「もっと学びたい人のためのブックガイド」、魅力的なコラムの数々を加えて、人類学の冒険へと読者をいざなってくれます。なお同書の刊行記念トークイベントとなる松村圭一郎×若林恵「いま、あたりまえの外へ」が今週土曜日4月20日18時より、青山ブックセンター本店の大教室で行われます。

★『〈自閉症学〉のすすめ』は、心理学、精神病理学/精神分析、哲学、文化人類学、社会学、法律、文学、生物学、認知科学、といった諸分野と連関する、こんにちもっとも注目が高まっているオーティズム・スタディーズの横断的射程を紹介する論文集です。國分功一郎×熊谷晋一郎×松本卓也の三氏による鼎談「今なぜ自閉症について考えるのか?──〈自閉症学〉の新たな可能性へ向けて」も必読です(ちなみに松本さんは『現代思想43のキーワード』で千葉雅也さんとも対談されています)。巻末に「自閉症当事者本リスト」あり。人文書でブックフェアをやるならこの本を中心としたフェアが一番やりがいがあるはずです。

★『統べるもの/叛くもの』は帯文に曰く「統治とキリスト教の関係にジェンダー/セクシュアリティ/クィアやアナーキーといった視点から切り込む」6本の論考と2本の鼎談を「身体・秩序・クィア」「自己・神・蜂起」の2部構成で収録。これらによって『現代思想43のキーワード』や『世界思想(46)ジェンダー』などと響きあうヴィヴィッドな政治的次元が開かれます。

★これら6点の編者や編集者、対談者が一堂に会したら相当面白い議論になるはずですが、そこまで都合のいいイベントはさすがにないでしょうから、これらがどのように互いに越境して交通するかを読み解くのは、ただ読者の特権というべきでしょう。互いに共鳴しあう集合知が短期間に集中して形を帯びたことに、人文書の新しい出発の予感を覚えます。

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by urag | 2019-04-14 22:50 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 04月 11日

ブックツリー「哲学読書室」に亀井大輔さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『デリダ 歴史の思考』(法政大学出版局、2019年1月)の著者、亀井大輔さんによるコメント付き選書リスト「「歴史の思考」へと誘う5冊」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。

◎哲学読書室

1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊

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by urag | 2019-04-11 14:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 04月 08日

注目新刊:ボテロ『都市盛衰原因論』、ニーチェ『偶像の黄昏』新訳、ほか

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都市盛衰原因論』ジョヴァンニ・ボテロ著、石黒盛久訳、水声社、2019年3月、本体3,000円、A5判上製216頁、ISBN978-4-8010-0401-6

★『都市盛衰原因論』は水声社の新シリーズ「イタリアルネサンス文学・哲学コレクション」(全6巻、澤井繁男責任編集)の第1回配本。16世紀後半から17世紀初頭のイタリアを生きた、聖職者で政治評論家のジョヴァンニ・ボテロ(Giovanni Botero, 1544-1617)による1588年の著書『Delle cause della grandezza e magnificenza delle città』を訳したもの。帯文の文言を借りると「東西の主要都市が栄える要因を地理条件と政治政策の面から考察し、領土の拡大ではなく交易を通じた富の増大が国家の繁栄をもたらすと説」いたもの。この著書の翌1589年に上梓された主著『国家理性論』は同じ訳者によって風行社より2015年に刊行されています。『都市盛衰原因論』はボテロ(ボッテーロ、とも)の訳書の2冊目となるものです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。表題作のほか、付録として「中立について」と「評判について」という2篇の論考が訳出されています。シリーズの第2回配本はタッソ『詩作論』(村瀬有司訳)で今月発売予定。その後、カンパネッラ、アレティーノ、ガリレイ、フィチーノと続きます。

★続いてちくま学芸文庫の4月新刊4点をご紹介します。

『孤島』ジャン・グルニエ著、井上究一郎訳、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,200円、240頁、ISBN978-4-480-09921-1
『論証のルールブック[第5版]』アンソニー・ウェストン著、古草秀子訳、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,000円、224頁、ISBN978-4-480-09924-2
『大嘗祭』真弓常忠著、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,200円、320頁、ISBN978-4-480-09919-8
『私の憲法勉強――嵐の中に立つ日本の基本法』中野好夫著、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,000円、256頁、ISBN978-4-480-09923-5

★『孤島』はジャン・グルニエ(Jean Grenier, 1898-1971)のエッセイ集。1968年に竹内書店より井上究一郎訳が刊行され(底本は1959年にカミュの序文を付して刊行された改版)、1979年に竹内書店新社より改訂版が刊行、1991年に筑摩叢書より改訳新版が出され、このたび文庫化されるものです。訳者は99年に逝去されており、巻末の特記によれば、本文中の誤りを適宜訂正したとのこと。新たに付された巻末解説「詩的霊感に満ちた導きの書」は松浦寿輝さんによるもの。グルニエの訳書はほとんどが国文社から刊行されています。文庫化は今回が初めてです。

★『論証のルールブック[第5版]』は巻末特記によれば「2005年10月に刊行された『論理的に書くためのルールブック』(PHP研究所、原著第三版からの訳出)をもとに、2018年刊行の原著第五版に沿って、全面的な改訂を施したもの」。第三版と目次を見比べるだけでも主に第4章ルール17以降に手が加えられていることが分かります。取り上げられているルール(作法)はどれも重要なアドバイスばかり。学生からビジネスマンまで広く活用できる内容で、新春の読書に最適です。

★『大嘗祭(だいじょうさい)』は1988年に国書刊行会より刊行された単行本の文庫化。新たに文庫版あとがきが加えられています。カバー裏紹介文の文言を借りると「天皇の即位に伴う皇位継承儀礼のひとつである大嘗祭〔…〕。本書は歴史的史料を博捜して、大嘗祭を校正する儀礼である斎田点定(さいでんてんてい)、大嘗宮(だいじょうきゅう)の造営、大嘗宮の儀、廻立殿(かいりゅうでん)の儀等を詳述し、全体像を明らかにする」とのこと。改元が迫った今こそひもときたいです。

★『私の憲法勉強』は1965年9月に講談社現代新書の1冊として刊行されたものの文庫化。巻末特記によれば『中野好夫集Ⅲ』(筑摩書房、1984年)を参照しており、さらに「明らかな誤りは適宜訂正し、ルビも増やした。編集部による注は[ ]で示してある」とのことです。憲法改正問題をめぐり、「アメリカの押しつけ」論や「自主的憲法」議論を検証し、改憲論の欺瞞と問題点を率直に指摘されています。帯文には「素朴な感情論にのみこまれないために」とあります。今なお繰り返されている改憲論を冷静に分析するために必要な本です。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

偶像の黄昏』フリードリヒ・ニーチェ著、村井則夫訳、河出文庫、2019年4月、本体800円、232頁、ISBN978-4-309-46494-7
大英帝国は大食らい』リジー・コリンガム著、松本裕訳、河出書房新社、2019年3月、本体3,200円、46変形判上製448頁、ISBN978-4-309-22759-7
文藝 2019年夏季号/平成最終号』河出書房新社、2019年4月、本体1,380円、A5判並製504頁、ISBN978-4-309-97970-0
アンドレ・バザン研究 第3号』アンドレ・バザン研究会発行、2019年3月、A5判104頁、ISSN2432-9002

★『偶像の黄昏』はニーチェが精神に変調を来す直前の最晩年の書。コッリとモンティナーリの編纂によるグロイター社の批判校訂版全集第6巻からの新訳です。同じ批判校訂版からの既訳には白水社版『ニーチェ全集 第Ⅱ期第4巻』所収の西尾幹二訳「偶像の黄昏」(1987年、現在品切)があります。底本は異なりますが、文庫で現在も入手可能な既訳には、ちくま学芸文庫版『ニーチェ全集(14)』所収の原佑訳「偶像の黄昏」(1993年)があります。こちらは批判校訂版より古いクレーナー版からの翻訳。河出文庫ではこれまで、2012年に今回と同じく村井則夫さん訳で『喜ばしき知恵』、2015年に佐々木中さん訳『ツァラトゥストラかく語りき』、と2点の新訳を刊行済。ニーチェの新訳は光文社古典新訳文庫や講談社学術文庫などでも出ており、今後も点数が増える可能性がきっと高いでしょう。

★『大英帝国は大食らい』は『The Hungry Empire: How Britain's Quest for Food Shaped the Modern World』(The Bodley Head, 2017)の訳書。「近代世界の食習慣をかたちづくるうえで帝国が果たした役割を明らかに」するという本書は「イギリスの食糧探求がいかに大英帝国の誕生につながったかを語」り、「各章は特定の食事で始まり、その食事を可能にした歴史を掘り下げ」ています(「はじめに」より)。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。著者のコリンガムはイギリスの歴史家。河出書房新社ではこれまでに『インドカレー伝』(東郷えりか訳、2006年;河出文庫、2016年)や、『戦争と飢餓』(宇丹貴代実/黒輪篤嗣訳、2012年、品切)の2冊を刊行しており、本書が3冊目となります。

★『文藝 2019年夏季号/平成最終号』は「文芸再記号」を謳い文句に、新体制の編集部とアートディレクションおよびデザインに佐藤亜沙美さんを迎え、特集の再導入など、約20年ぶりに誌面リニューアルを行なったもの。個人的に注目しているのは、新連載のいとうせいこうさんの「福島モノローグ WITH COWS」や、岸政彦さんと柴崎友香さんの共作「大阪――地元を想像する/港へたどり着いた人たちの街で」、メイン特集「天皇・平成。文学」での、池澤夏樹さんと高橋源一郎さんの対談「なぜ今、天皇を書くのか」や、東浩紀さんのロングエッセイ「平成という病」、笠井叡さんのエッセイ「平成の時代に響く極上の声」、さらにリニューアル前から開始されている山本貴光さんの季評「文態百版」と「文芸的事象クロニクル 2018年12月~2019年2月」。

★「ぼくは平成の批評家だった。それは、平成の病を体現する批評家であることを意味していた。だからぼくは、自分の欲望に向きあわず、自分にはもっと大きなことができるはずだとばかり考えて、空回りを繰り返して四半世紀を過ごしてしまった。/ぼくは新元号では、そんな空回りをやめて、社会をよくすることなど考えず、地味にできることだけをやっていきたいと思う」(31頁)という東さんの発言は、他人事とは思えない何かを感じます。「その疲労は、きっと、ぼくと同世代の多くの日本人が共有しているはずだとも思うのだ」。その通りだと思います。

★『アンドレ・バザン研究』は山形大学人文社会科学部付属映像文化研究所内で2016年6月に発足したアンドレ・バザン研究会が発行する学術誌で、今般刊行される第3号は同会の2018年度の成果としてまとめられたもの。2018年はバザンの生誕100年であると同時に歿後60年で、昨年末来日したバザン研究の第一人者ダドリー・アンドルーさんの講演をもとにした論考や、野崎歓さん、三浦哲哉さんらの応答などが収められています。小特集は「映画とアダプテーション」。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。なお同誌は書店での一般発売はされないため、入手方法については後日同誌ブログにて告知があるとのことです。

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by urag | 2019-04-08 02:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 04月 04日

注目新刊:デリダ『プシュケーII』、ネグリ『デカルト・ポリティコ』、ほか

弊社出版物でお世話になっている著訳者の皆様のご活躍をご紹介します。

★ジャック・デリダさん(著書『条件なき大学』)
Psyché : inventions de l'autre, tome 2』(Galilée, 2003)の訳書がついに刊行されました。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。70年代後半から80年代の主要論考16篇を収録した第Ⅰ巻は2014年6月に刊行済です。

プシュケー――他なるものの発明(Ⅱ)
ジャック・デリダ著 藤本一勇訳
岩波書店 2019年3月 本体8,700円 A5判上製576頁 ISBN978-4-00-024690-3
帯文より:デリダが希望を込めた投壜通信。「ハイデガーの手」「いかに語らずにいられるか」「不時のアフォリズム」ほか、全12篇を収録。いかに脱構築を受け継ぐか。

★アントニオ・ネグリさん(著書『芸術とマルチチュード』)
ネグリさんの最初期作『Descartes politico o della ragionevole ideologia』(Feltrinelli, 1970)の訳書がこちらもついに刊行です。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。なお、manifestolibriから2007年に原著が復刊された際に付された新たな序文は訳出されていません。

デカルト・ポリティコ――政治的存在論について
アントニオ・ネグリ著 中村勝己/津崎良典訳
青土社 2019年4月 本体3200円 四六判上製254+134頁 ISBN978-4-7917-7149-3
帯文より:ネグリ思想の原点。世界を震撼させたベストセラー『〈帝国〉』『マルチチュード』へと連結する、ネグリの幻の出世作。不在とされたデカルトの政治思想を、彼の形而上学のなかに大胆に読み込んで抉り出し、哲学者デカルトによる〈ブルジョア〉即ち市民のための哲学的急進主義として甦生させる。ネグリの可能性が横溢する野心的論考。

★宮﨑裕助さん(共訳:ド・マン『盲目と洞察』)
新潟大学大学院現代社会文化研究科/人文学部哲学・人間学部会による『知のトポス』第14号が刊行され、宮﨑さんは編集長として共訳と編集後記を寄せておられます。同号はいずれ「人間学ブログ NINGENGAKU Blog」にてPDFが各論文ごとに無償配布されるだろうと思われます。第14号の目次は以下の通りです。

スタンリー・カヴェル「近代哲学の美学的諸問題」宮﨑裕助/高畑菜子訳
ヨハネス・ローマン「西洋人と言語の関係(言述における意識と無意識的形式)〔一〕」阿部ふく子/渡邉京一郎訳
アレクサンドル・コイレ「ヘーゲルの言語と専門用語についてのノート」小原拓磨訳
ゲルハルト・クリューガー「カントの批判における哲学と道徳(五)」宮村悠介訳
編集後記

★立木康介さん(共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★廣瀬純さん(著書『絶望論』、共著『闘争のアサンブレア』、訳書:ヴィルノ『マルチチュードの文法』、共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★佐藤嘉幸さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
2018年5~6月にかけて京都大学人文科学研究所で開催された「人文研アカデミー連続セミナー〈68年5月〉と私たち」で発表された10名の論考を収録した論文集『〈68年5月〉と私たち』に寄稿されています。佐藤嘉幸さんは「ドゥルーズ=ガタリと〈68年5月〉(1)――『アンチ・オイディプス』、『千のプラトー』をめぐって」、廣瀬純さんは「ドゥルーズ=ガタリと〈68年5月〉(2)――「〈68年5月〉は起こらなかった」読解」、 編者をつとめる立木康介さんは「〈68年5月〉にラカンはなにを見たか」と「あとがき」を担当されています。なお、同書の巻頭には35頁にわたり、故・西川長夫さんが撮影された〈68年5月〉のカラー写真が多数収められています。

〈68年5月〉と私たち――「現代思想と政治」の系譜学
王寺賢太/立木康介編
読書人 2019年4月 本体3,600円 A5判上製324頁 ISBN978-4-924671-37-9
帯文より:「左派も、一枚岩ではない。別の未来を切り開くために、決して単純ではなかった歴史と理論の結び目に、もう一度立ち返らなければならない」(千葉雅也)。50年の時の隔たりと政治的・文化的流行の盛衰を超えて、〈68年5月〉の出来事と同時代の思想の双方に触発されながら、現在について考える―― 。2018年5月、京都大学人文科学研究所で行われた連続セミナー(全10回)の全記録。〈68年5月〉は今、私たちに何を問うているのか。フランス現代思想、政治、哲学、精神分析、歴史、エピステモロジー…… 、10名の論者が、それぞれの専門領域から思考する。

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by urag | 2019-04-04 18:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 03月 31日

注目新刊:エーディト・シュタイン『有限存在と永遠存在』水声社、ほか

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有限存在と永遠存在――存在の意味への登攀の試み』エーディト・シュタイン著、道躰章弘訳、水声社、2019年3月、本体8,000円、A5判上製602頁、ISBN978-4-8010-0420-7
新装版 ライプニッツ著作集 第I期[6]宗教哲学[弁神論]上』G・W・ライプニッツ著、佐々木能章訳、工作舎、2019年3月(初版1990年1月)、本体8,200円、A5判上製352頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-505-4 
新装版 ライプニッツ著作集 第I期[7]宗教哲学[弁神論]下』G・W・ライプニッツ著、佐々木能章訳、工作舎、2019年3月(初版1991年5月)、本体8,200円、A5判上製336頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-506-1
精神分析学入門』フロイト著、懸田克躬訳、中公文庫、2019年3月、本体1,500円、文庫判768頁、ISBN978-4-12-206720-2

★『有限存在と永遠存在』は、ブレスラウ(旧ドイツ帝国、現ポーランド)生まれ、フッサールに学んだユダヤ人哲学者で、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所のガス室で亡くなった修道女のエーディト・シュタイン(Edith Stein, 1891-1942)の主著『Endliches und ewiges Sein: Versuch eines Aufstiegs zum Sinn des Seins』(Nauwelaerts / Herder, 1950)の全訳。執筆されたのは1935年から36年にかけての時期ですが、当時の発禁処分により死後刊行となったものです。底本はヘルダー社の新版全集11巻および12巻の合本版(2013年版、初版は2006年)とのことです。主要目次は書名のリンク先をご覧ください。訳者後記の言葉を借りると本書は、現象学を用いつつ「神を意識する哲学を構築し」「全存在の知解性の根源たる「第一存在」の意味へ」と向かうことにより「有限と無限なる両原理を総合」しようとしたもの。訳者の道躰さんによるシュタインの訳書は『国家研究』(水声社、1997年)に続く2点目です。

★シュタインは『有限存在と永遠存在』の第1章「緒論――存在の問題」でこう書いています。「神は己れの叡智が良しとする範囲内で、己れの叡智に相応しい方法で、人間精神に己れを伝達する。範囲を拡げるか否かは神の意志次第である。人間の思考方法に適合した形で、つまり漸進的認識に合わせ、概念的・断定的把握に即して啓示を与える、人間を自然的思考方法から引き上げ、それとは似ても似つかぬ認識方法へと拉し去り、一目ですべてを把捉する神の視点に据える、いずれも神の裁量である。真理探究としての哲学の到達点とは他でもない、神的叡智である。神をも全被造物をも把握せしめる単一の視点である。被造の精神が(無論自力によらずして)到達し得る極致とは、神のお蔭で神との合一を現出する「至福の視点」である。神の恵与せる視点である。被造の精神は神の生命と共生し、かくて神的認識に参入するのである。地上に生を営む間は、神秘的視覚心像が、上記の至高の目的を達成するための最重要な手掛かりとなる。が、かかる至福の恩寵に頼らぬ予備段階もある。真の生きた信仰がそれである」(43~44頁)。

★偶然ではありますが、シュタインの『有限存在と永遠存在』が初訳されたのとほぼ同時期にライプニッツの『弁神論』上下巻が再刊されたのは読書界にとっては良い贈物です。この二作を並行して読むことは、西欧哲学の深淵を読者に覗かせるものとなるでしょう。

★『新装版 ライプニッツ著作集 第I期[6/7]宗教哲学[弁神論]上下』は、新装復刊の第4回配本。『弁神論(Essais de Théodicée)』は1710年にアムステルダムで刊行。本論の副題にある通り、「神の正義、人間の自由、悪の起源について」を主題として書かれており、フランスの同時代人ピエール・ベール(Pierre Bayle, 1647-1706)による大著『歴史批評辞典』や『田舎人の問いへの答え』(野沢協個人訳『ピエール・ベール著作集』第3~5巻、第7~8巻参照)への批判的検討を試みています。

★ライプニッツは序文と本論の間に置かれた「信仰と理性の一致についての緒論」でこう述べています。「理性が何らかの命題を破壊するなら、理性はその反対の命題を打ち建てるのである。反対しあう二つの名大を理性が同時に破壊しているように思えるときには、理性が進めるところまでわれわれが付いて行くなた、理性はわれわれに何か深いものを約束してくれる。ただしこのときには論争的な精神によって付いて行くのではなく、真理を求め洞見せんとする熱い願いをもって付いて行くのである。こうすれば必ず望外の成果を収めることになろう」(112頁)。

★さらにこうも書いています。「啓示的信仰に対する反論が現われたときには、神の栄光を保持し高めようという意図の下で、柔順にして情熱的な精神をもってすれば反論を突き返すことが十分にできる。そして神の正義に対する反論を巧みに一蹴できたなら、神の偉大さについて改めて驚嘆し、神の善意に心魅かれることであろう。これら神の正義、偉大さ、善意は、われわれには見えないが十分に確実な真の理性によって精神が高まるに応じて、それまで視覚によって欺かれていた見かけの理性という雲を突き抜けて行くようだ」(113頁)。

★「神の善意と正義とを論証的に確信しているならば、われわれの目に映じる偏狭な世界での冷酷さや不公正という現象は、無視できるのである。これまでわれわれを照らしていたのは自然の光と恩寵の光であったが、それに栄光の光を付け加えることはなかった。地上にはみかけの不公正があるが、われわれはそこに神の正義の真理が隠されていることを信じているし、知ってもいる。しかし正義という太陽がその真相を露わにするときには、われわれはその正義を目にすることであろう」(113~114頁)。

★『精神分析学入門』は中公文庫プレミアム「知の回廊」シリーズの最新刊。旧版は1973年刊。巻末の編集付記によれば、旧版29刷(2014年10月)を底本とし、中公クラシックス版『精神分析学入門』全2巻を参照したとのことで、新たに柄谷行人さんによるエッセイ「フロイトについて」(759~764頁)が追加されています。

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★また最近では次の新刊との出会いがありました。

イタリアン・セオリーの現在』ロベルト・テッロージ著、柱本元彦訳、平凡社、2019年3月、本体4,200円、4-6判上製464頁、ISBN978-4-582-70347-4
大清律・刑律――伝統中国の法的思考(2)』谷井俊仁/谷井陽子訳解、東洋文庫(894):平凡社、2019年3月、B6変判上製函入376頁、ISBN978-4-582-80894-0
〈後期〉ハイデガー入門講義』仲正昌樹著、作品社、2019年3月、本体2,000円、46判並製400頁、ISBN978-4-86182-739-6
黒人小屋通り』ジョゼフ・ゾベル著、松井裕史訳、作品社、2019年3月、本体2,600円、四六判上製296頁、ISBN978-4-86182-729-7

★まずは平凡社さんの3月新刊より2点。『イタリアン・セオリーの現在』はイタリアでキュレーターとして活躍し、現在はイタリアと日本の各大学で教鞭を執るロベルト・テッロージ(Roberto Terrosi, 1965-)さんによる2015年の書き下ろし作『Filosofia italiana contemporanea: Un'introduzione critica』の訳書。テッロージさんはイタリアの美学者マリオ・ペルニオーラ(Mario Perniola, 1941-2018)の弟子で、本書が初めての訳書となります。目次は以下に転記しておきます。

はじめに
序説
第一部 イタリアン・セオリー
 前史 1960・70年代のイタリア極左運動――イタリアのポストモダンとイタリアン・セオリーの文化的土壌
 イタリア・セオリー――鍵概念
 生政治
  ネグリの生政治
  アガンベンの生政治
  エスポジトの生政治
  生政治に関する結論
 共同体とコモン
  アガンベンの共同体
  エスポジトの共同体
  マルチチュードとしての共同体
  共同体に関する結論
 政治神学
  シュミット・リヴァイヴァル
  基本的概念
  討論
 身体の政治学とイタリアン・セオリーの背景
  剥き出しの生とペルソナ
  ネグリ工房
  ナポリの状況
インテルメッツォⅠ
 1990年代のテクノロジーの思想と哲学的人間学
  サイバーパンク
  ポストヒューマン
  哲学的人間学の再発見
第二部 イタリアのポストモダン
 イタリアのポストモダン誕生時の社会と文化
  ニーチェ・ルネサンス
  ヴァッティモとハイデガー主義
  主観なき主観主義
  資本主義の再編
  ポストモダンのベル・エポック
  弱い思考
  ラディカル・シック
  イタリアのメディア、そして記号学の短い黄金時代
  シミュラクル
  雑誌『アルファベータ』
  イタリアのポストモダンとアメリカのモストモダン
  ヴェルディリョーネ――八方美人的知識人から犯罪的知識人へ
 ポストモダンのテーマ
  美学
  解釈学
  ハイデガーの影響
  ニヒリズム
  古典文化への回帰
 ポストモダンの哲学者たちと神学文化
  教会とカトリック神学の状況
  カッチャーリの展開
  ヴァッティモとペルニオーラ
 フェミニズムの思想
 複雑系の科学認識論
インテルメッツォⅡ
 地方とメディア
  エンツォ・メランドリ
  ロベルト・ディオニジ
  「セヴェリーノ」のケース
  ウンベルト・ガリンベルディ
  アウトサイダー――マンリオ・ズガランブロの場合
第三部 アカデミズムの哲学
 イタリアのアカデミズムの状況
 現象学のハイデガー
  ミラノの現象学派
  受動的綜合
  神経現象学と鏡ニューロン
 イタリアの分析哲学
  新実在論
 科学史と認識論
 古代哲学
 アカデミズムの政治哲学
  マルクス主義
  超保守主義と秘教主義
  右翼思想
あとがき
引照・参考文献一覧
人名索引

★「第一部はいわゆるイタリアン・セオリーを扱う。つまり政治的または政治神学的な背景をもったあれらの哲学、アメリカをはじめ英語圏の国々で思いがけない流行現象を巻き起こした思想がテーマである。第二部はイタリアン・セオリーに先行するポストモダンの哲学、そして第三部はアカデミズムの哲学の特徴と主な潮流について述べる。さらにテクノロジーの思想に関する記述を追加した。これはとりわけ1990年代のイタリアに展開したものだが、ポストモダンやイタリアン・セオリーのような世界的影響力はもたなかった」(「はじめに」9頁)。

★イタリア現代思想の入門書には、岡田温司さんの二つの著書、『イタリア現代思想への招待』(講談社選書メチエ、2008年)、『イタリアン・セオリー』(中公叢書、2014年)などがありましたが、テッロージさんの新刊は新たな定番として認知されていくのではないでしょうか。本書の刊行は日本におけるイタリア現代思想の受容を新たなレベルに引き上げるものだと感じます。

★『大清律・刑律2』は全2巻の第2巻。中国清代の法典『大清律』巻18~28の「刑律」の本文と原註(いわゆる小註)の全訳。沈之奇『大清律輯註』での注釈に基づく解説を付しています。第2巻は、受贓篇、詐欺篇、犯姦篇、雑犯篇、捕亡篇、断獄篇を収録。巻末には訳註、改訂箇所一覧(雍正律、乾隆律)、参考文献、あとがき、索引が配されています。次回配本は2019年6月、『泰山』とのことです。

★次に作品社さんの3月新刊より2点。『〈後期〉ハイデガー入門講義』は2017年4月から11月にかけて読書人スタジオで行われた全7回の連続講義に加筆修正したもの。『形而上学入門』と『「ヒューマニズム」について』の読解を通じ、『存在と時間』以後の転回(ケーレ)を経た後期ハイデガーを解説しています。本書の冒頭で仲正さんはこう書いています。「近現代の哲学史の標準的教科書を書く場合〔…〕ハイデガーを省くことは困難だろう。ハイデガーを消せば、少なくとも、サルトル、メルロ=ポンティ、レヴィナス、アーレント、ハーバマス、デリダも消さざるを得なくなる。最近、天才哲学者として人気が出ているマルクス・ガブリエルを新たに書き加えるのも困難になるだろう」(1頁)。『ハイデガー哲学入門――『存在と時間』を読む』(講談社現代新書、2015年)に続く成果です。

★『黒人小屋通り』はフランス領マルチニック島(マルティニーク島とも)生まれの小説家ジョゼフ・ゾベル(joseph Zobel, 1915-2006)の自伝的小説『La Rue Cases-Nègres』(Éditions Présence Africaine, 1950)の訳書。1920年代から30年代前半のマルチニック島での植民地社会が少年の視点で描かれており、カリブ海文学の古典として高名。別刷付録として「マルチニック島詳細図」と「マルチニック島周辺地図」が付されています。同作品は1983年に映画化され日本でも1985年に『マルチニックの少年』として公開されていましたが、原作の日本語訳は初めてです。

★さらに次の書目との出会いもありました。年度末の忙しさから詳しくは言及できないのですが、書誌情報を列記します。

全ロック史』西崎憲著、人文書院、2019年2月、本体3,800円、A5判並製512頁、ISBN978-4-409-10041-7
皇室財産の政治史――明治二〇年代の御料地「処分」と宮中・府中』池田さなえ著、人文書院、2019年3月、本体6,800円、A5判上製444頁、ISBN978-4-409-52076-5
長崎の痕』大石芳野写真、藤原書店、2019年3月、本体4,200円、四六倍判変型並製288頁、ISBN978-4-86578-219-6
象徴でなかった天皇――明治史にみる統治と戦争の論理』岩井忠熊/広岩近広著、藤原書店、2019年3月、本体3,300円、四六並製304頁、ISBN978-4-86578-217-2
兜太 TOTA vol.2〈特集〉現役大往生』藤原書店、2019年3月、本体1,800円、A5並製192頁、ISBN978-4-86578-216-5
現実のクリストファー・ロビン――瀬戸夏子ノート2009-2017』瀬戸夏子著、書肆子午線、2019年3月、本体2,700円、四六判並製筒函入416頁、ISBN978-4-908568-20-6
現代思想2019年4月号 特集=新移民時代――入管法改正・技能実習生・外国人差別』青土社、2019年3月、本体1,400円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1379-0

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by urag | 2019-03-31 23:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 03月 29日

ブックツリー「哲学読書室」に久保田晃弘さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、ジェームズ・ブライドル『ニュー・ダーク・エイジーーテクノロジーと未来についての10の考察』(NTT出版、2018年11月)の訳者、久保田晃弘さんによるコメント付き選書リスト「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。

◎哲学読書室

1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?

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by urag | 2019-03-29 19:38 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 03月 28日

注目新刊:ele-king臨時増刊号『黄色いベスト運動』、岡田聡『ヤスパースとキリスト教』

弊社出版物でお世話になっている著訳者の皆様のご活躍をご紹介します。

★毛利嘉孝(著書:『文化=政治』、共訳:ギルロイ『ブラック・アトランティック』、クリフォード『ルーツ』)
★鵜飼哲(共訳:ジュネ『公然たる敵』)
★栗原康(寄稿:『多様体1』)
「eleking」誌の臨時増刊号2019 vo.l1『黄色いベスト運動』が今月発売となり、毛利さんが「「暴動」と新自由主義的グローバリズムの終焉──排他主義的極右勢力の台頭か、新しいコミュニズムか」と題したコラムを寄稿され(135~138頁)、鵜飼さんがセルジュ・カドリュッパニさんとの緊急討論「フランス「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」運動はどこに向かうのか?」を行ない(140~146頁)、栗原さんは白石嘉治さんと対談「黄色いベストはやさしい──問われているのは資本主義ではなく国家的なものである」を行なっています(147~154頁)。このほかにも、堀茂樹、松尾匡、國分功一郎の各氏へのインタヴューや、コリン・コバヤシさんらによる論考、『ル・モンド・ディプロマティーク』からの主要記事を掲載しています。目次詳細は誌名のリンク先でご確認下さい。

ele-king臨時増刊号 黄色いベスト運動──エリート支配に立ち向かう普通の人びと
ele-king編集部編
ele-king books: Pヴァイン 2019年3月 本体1,660円 A5判並製160頁 ISBN978-4-909483-25-6
帯文より:地方に暮らす “おじさん・おばさん” が起こした奇跡のムーヴメント、エスタブリッシュメントへの反撃。いま何が問題なのかを私たちにも教えてくれる、今世紀もっとも重要な社会運動の真相に迫る!

★岡田聡(訳書:シュスラー『ヤスパース入門』)
初めての単独著『ヤスパースとキリスト教』を今月上梓されました。巻頭の「はじめに」によれば、「2014年の博士論文「精神医学から哲学へいたるヤスパースの思索全体と根本態度」にもとづきつつ、精神医学に関する部分を切り離して、ヤスパースとキリスト教にかかわる部分に加筆、修正したものである」とのことです。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。

ヤスパースとキリスト教――二〇世紀ドイツ語圏のプロテスタント思想史において
岡田聡著
新教出版社 2019年3月 本体2,500円 四六判上製224頁 ISBN978-4-400-31088-4
帯文より:ヤスパース思想はキリスト教からいかなる影響を受けたのか、またキリスト教にいかなる影響を与えたのか。本書はこの課題を、ヤスパースとキリスト教との「近さ」と「遠さ」の間に探りつつ、ブルトマン、ブーリ、ティリッヒ、H・バルト、K・バルトらとの関係を通して明らかにする。
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by urag | 2019-03-28 23:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 03月 27日

ジョルジョ・アガンベン「ホモ・サケル」シリーズ

◎アガンベン「ホモ・サケル」シリーズ

I) Homo Sacer: Il potere sovrano e la nuda vita, Torino: Einaudi, 1995.『ホモ・サケル――主権権力と剥き出しの生』高桑和巳訳、以文社、2003年。

II, 1) Stato di eccezione, Torino: Bollati Boringhieri, 2003.『例外状態』上村忠男・中村勝己訳、未來社、2007年。

II, 2) Stasis: La guerra civile come paradigma politico, Torino: Bollati Boringhieri, 2015.『スタシス――政治的パラダイムとしての内戦』高桑和巳訳、青土社、2016年4月。

II, 3) Il sacramento del linguaggio: Archeologia del giuramento, Roma: Laterza, 2008.

II, 4) Il Regno e la Gloria: Per una genealogia teologica dell'economia e del governo, Vicenza: Neri Pozza, 2007, Torino: Bollati Boringhieri, 2009.『王国と栄光――オイコノミアと統治の神学的系譜学のために』高桑和巳訳、青土社、2010年。
※『王国と栄光』の原書は当初「ホモ・サケル」第II部第2巻として初版が2007年に刊行され、2009年に別の版元から図版が増補された新版が刊行された。日本語訳はこの新版を底本としている。2015年に新たに『スタシス』が第II部第2巻として刊行されるに伴い、『王国と栄光』は第II部第4巻に変更された。

II, 5) Opus Dei: Archeologia dell'ufficio, Torino: Bollati Boringhieri, 2012.『オプス・デイ』杉山博昭訳、以文社、近刊。

III) Quel che resta di Auschwitz: L'archivio e il testimone, Torino: Bollati Boringhieri, 1998.『アウシュヴィッツの残りのもの――アルシーヴと証人』上村忠男・廣石正和訳、月曜社、2001年。

IV, 1) Altissima povertà: Regole monastiche e forma di vita, Vicenza: Neri Pozza, 2011.『いと高き貧しさ――修道院規則と生の形式』上村忠男・太田綾子訳、みすず書房、2014年。

IV, 2) L'uso dei corpi, Vicenza: Neri Pozza, 2014.『身体の使用――脱構成的可能態の理論のために』上村忠男訳、みすず書房、2016年1月。

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by urag | 2019-03-27 18:17 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)