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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 1084 )


2019年 12月 01日

注目新刊:『ライプニッツ著作集 第I期 新装版』全10巻完結、ほか

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ライプニッツ著作集 第I期 新装版[1]論理学』G・W・ライプニッツ著、澤口昭聿訳、工作舎、2019年11月、本体10,000円、A5判上製416頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-514-6
私たちが、地球に住めなくなる前に――宇宙物理学者からみた人類の未来』マーティン・リース著、塩原通緒訳、作品社、2019年11月、本体2,200円、四六判並製256頁、ISBN978-4-86182-777-8
源氏物語といけばな――源氏流いけばなの軌跡』岩坪健著、平凡社、2019年11月、本体1,000円、A5判並製96頁、ISBN978-4-582-36460-6
江戸水没――寛政改革の水害対策』渡辺浩一著、平凡社、2019年11月、本体1,000円、A5判並製84頁、ISBN978-4-582-36461-3
弔いにみる世界の死生観』小西賢吾/山田孝子編、英明企画編集、2019年11月、本体1,000円、A5判並製176頁、ISBN978-4-909151-05-6
松本悲歌 普及版』松本圭二著、航思社、2019年12月、本体2,800円、A5判並製168頁、ISBN978-4-906738-41-0
完全版 韓国・フェミニズム・日本』斎藤真理子責任編集、河出書房新社、2019年12月、本体1,600円、A5判並製192頁、ISBN978-4-309-02837-8
都市と文明――文化・技術革新・都市秩序 第1分冊』ピーター・ホール著、佐々木雅幸監訳、藤原書店、2019年11月、本体6,500円、A5上製672頁+口絵16頁、ISBN978-4-86578-249-3
ベルク「風土学」とは何か――近代「知性」の超克』オギュスタン・ベルク/川勝平太著、藤原書店、2019年11月、本体3,000円、四六変型上製296頁、ISBN978-4-86578-248-6
大陸主義アメリカの外交理念』チャールズ・A・ビーアド著、開米潤訳、藤原書店、2019年11月、本体2,800円、四六上製264頁、ISBN978-4-86578-247-9
崩壊した「中国システム」とEUシステム――主権・民主主義・健全な経済政策』荻野文隆編、藤原書店、本体3,600円、四六判上製408頁、ISBN978-4-86578-235-6

★『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[1]論理学』は『ライプニッツ著作集 第I期 新装版』全10巻の最終回配本。第I期全10巻と第II期全3巻が美本で購入できるタイミングというのがまさしく「今」であることを銘記したいと思います。第I期第1巻では「結合法論(抄)」「普遍的記号法の原理」「普遍的計算の試論」「概念と真理の解析についての一般的研究」などを収録。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。帯文はこうです。「アルス・コンビナトリアとは? 普遍学構想の原点」。

★『私たちが、地球に住めなくなる前に』は、英国の宇宙物理学者、天文学者のマーティン・リース(Martin Rees, 1942-)の著書『On the Future: Prospects for Humanity』(Princeton University Press, 2018)の訳書。帯文にはロジャー・ペンローズ、イーロン・マスク、エリック・シュミットの各氏の推薦文が掲出されています。人類の未来をめぐり「希望と恐れと推測」(12頁)を提示する本書は、12年前に訳出された『今世紀で人類は終わる?』(堀千恵子訳、草思社、2007年;原著『Our Final Century?』2003年)のアップデート版と見て良いようです。

★『源氏物語といけばな』『江戸水没』は「ブックレット〈書物をひらく〉」の第20巻と第21巻。『源氏物語といけばな』は、『源氏物語』54帖にちなんで54通りの活け方を秘伝したという、18世紀後半の江戸に始まった源氏流いけばなを紹介するもの。『江戸水没』は、18世紀半ば以降の100年間に江戸を襲った水害とその対策をめぐり、人為的自然・自然現象・人間、の三者の関係を考察した災害歴史学の試み。後者は特に、台風19号の記憶も新しい現在、注目を浴びるのではないかと思われます。

★『弔いにみる世界の死生観』はシリーズ「比較文化学への誘い」の第5弾。「日本、ヨーロッパ、アフリカ、インド、中央アジア、東南アジア、ミクロネシア、極北地域などの各地について仏教、イスラーム、キリスト教等の教義に基づく弔いのありようと死生観・来世観を比較して観察」(版元紹介文より)し、その共通性と差異を考察したアンソロジー。3篇の座談会と4篇の論考をまとめています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『松本悲歌 普及版』は詩人でフィルム・アーキヴィストの松本圭二(まつもと・けいじ:1965-)さんの最新詩作品。「萩原朔太郎賞受賞以後の到達点」と帯文にあります。受賞は2006年であり、本書の巻頭には「松本悲歌/2006-2019/松本圭二」とシンプルに記されているほかは、まえがきもあとがきもありません。周知の通り、航思社さんでは松本さんの詩作品、小説、批評・エッセイなどを集成した「松本圭二セレクション」全9巻(2017年~2018年)を刊行されており、その継続的伴走には目を瞠るものがあります。

★『完全版 韓国・フェミニズム・日本』は、「文藝」2019年秋季号での特集を増補し単行本化した決定版。新たにイ・ラン、ユン・イヒョン、パク・ミンジョンらの小説や、ファン・ジョンウン、チェ・ウニョンらの書き下ろしエッセイ、さらに倉本さおり、豊﨑由美、ひらりさ、MOMENT JOONらによるエッセイと、江南亜美子の論考、責任編集を担当する斎藤真理子によるブックリスト、などが追加されています(以上敬称略)。ブックガイド、キーワード集、文学マップなども充実。来春には『日韓小説集(仮)』の発売も控えているそうです。

★藤原書店さんの11月新刊は4点。『都市と文明』は英国の都市計画家、地理学者のピーター・ホール(Sir Peter Geoffrey Hall, 1932-2014)の大著『Cities in Civilization: Culture, Technology, and Urban Order』London: Weidenfeld & Nicolson; New York: Pantheon Books, 1998)の訳書。全3分冊で、第Ⅰ分冊には第Ⅰ部「文化の坩堝としての都市」の第8章「創造性の鍵」までを収録。巻頭の「日本の読者へ」は、2004年2月8日の来日講演を要約したもの。大家でありながら、ホールの訳書は意外にも本書が初めてのようです。

★『ベルク「風土学」とは何か』は、フランスの地理学者オギュスタン・ベルク(Augustin Berque, 1942-)さんが2018年にコスモス国際賞を受賞した際の記念講演「持続可能性の風土学的基盤」と、静岡県知事の川勝平太(かわかつ・へいた:1948-)さんとの対談「翻訳と通態の存在論」を中心として、ベルクさんによるはしがきと序論、川勝さんによる書き下ろし論考とあとがきを加えて編まれた一冊。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★『大陸主義アメリカの外交理念』はアメリカの歴史家チャールズ・A・ビーアド(Charles Austin Beard, 1874-1948)の著書『A Foreign Policy for America』(Knopf, 1940)の全訳。「外交政策の性格」「アメリカの大陸主義」「アメリカの帝国主義」「国際主義の政策」「アメリカの大陸主義の粘り強さ」の全5章。アメリカの大陸主義(Continental Americanism)とは「南北アメリカ大陸に利害関係を集中させること」(26頁)であり、帝国主義や国際主義に抗する不介入的平和主義として著者は評価しています。

★『崩壊した「中国システム」とEUシステム』はフランスの政治家フランソワ・アスリノ(François Asselineau, 1957-)氏の来日(2018年10月)の記録をまとめたもの。「EU離脱を目指すフランスの政治運動の理念と分析を通して、フランスとヨーロッパさらには日本の現状と未来を展望することができる分析を提供」(399頁)すべく編まれたもの。アスリノ氏へのインタヴューや講演のほか、政治家や学者・識者らとの対談が収められています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★11月新刊の投げ込み冊子である月刊「機」2019年11月号(332号)によれば、藤原書店さんはいよいよ来月、ブルデューの『世界の悲惨』(全3巻)の第1分冊と、バディウの主著『存在と出来事』(藤本一勇訳)を刊行するとのことです。『存在と出来事』の個人完訳にはただただ驚くばかりで、理系出身の藤本さんならではの労作ではないかと想像します。たいへん楽しみです。

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by urag | 2019-12-01 23:41 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 11月 24日

注目新刊:宇野邦一さん個人訳「ベケット没後30年小説三部作」完結、ほか

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くたばれインターネット』ジャレット・コベック著、浅倉卓弥訳、ele-king books:Pヴァイン、2019年11月、本体2,600円、ISBN978-4-909483-43-0
名づけられないもの』サミュエル・ベケット著、宇野邦一訳、河出書房新社、2019年11月、本体2,800円、46判上製262頁、ISBN978-4-309-20787-2
呪われた詩人たち』ポール・ヴェルレーヌ著、倉片健作訳、ルリユール叢書:幻戯書房、2019年11月、本体3,200円、四六変上製280頁、ISBN978-4-86488-184-5
アムール・ジョーヌ』トリスタン・コルビエール著、小澤真訳、ルリユール叢書:幻戯書房、2019年11月、本体5,600円、四六変上製544頁、ISBN978-4-86488-185-2
『アレ Vol.7:休――rest, break, in-active』アレ★Club、2019年11月、本体1,400円、A5判並製272頁、ISDN278-4-572741-07-0
東アジアのイノベーション――企業成長を支え、起業を生む〈エコシステム〉』木村公一朗編、作品社、2019年11月、本体2,600円、ISBN978-4-86182-783-9
アルジェリア、シャラ通りの小さな書店』カウテル・アディミ著、平田紀之訳、作品社、2019年11月、本体2,200円、46判上製248頁、ISBN978-4-86182-784-6
小尾俊人日誌 1965-1985』小尾俊人著、中央公論新社、2019年11月、本体3,200円、四六判上製304頁、ISBN978-4-12-005251-4
歴史探究のヨーロッパ――修道制を駆逐する啓蒙主義』佐藤彰一著、中公新書、2019年11月、本体900円、新書判288頁、ISBN978-4-12-102567-8
スピノザ――〈触発の思考〉』浅野俊哉著、明石書店、2019年11月、本体3,000円、4-6判上製384頁、ISBN978-4-7503-4911-4
北斎――十八世紀の日本美術』エドモン・ド・ゴンクール著、隠岐由紀子訳、東洋文庫:平凡社、2019年11月、本体3,200円、B6変判上製函入372頁、ISBN978-4-582-80897-1

★『くたばれインターネット』は、トルコ系移民の子孫だというアメリカの作家ジャレット・コベック(Jarett Kobek)が自ら立ち上げた出版社「We Heard You Like Books」で2016年に出版した『i hate the internet』の翻訳。「ツイッター時代のヴォネガット」と「タイムズ」誌で賞賛されたベストセラーです。政治家、アーティスト、作家、実業家、等々、あらゆるセレブたち(巨大ネット通販の創業者を含む)をこき下ろしつつ、小説という一般概念なぞぶっ壊しかねないテンションで疾走する、ネット時代の自称「ひどい小説」。

★「ネットというものは、文化のような顔をしてやってきた技術革新の生み出した、知性の封建制度以外の何ものでもない」(33頁)。「今やアメリカ文学の担う役割というものは奴隷労働者を搾取することである。あなたが今お読みになっているこの本がまさにその好例となる」(32頁)。「無関係なごわごわとした手触りの悪い中身が次から次へと現れてくるコンピューターネットワークの姿をまねたひどい小説を書くしかない」(34頁)。「ガーディアン」紙が「文化的な診断による怒りのコメディ」と評したのは的確であるように思われます。

★『名づけられないもの』は宇野邦一さんによる「ベケット没後30年個人訳小説三部作」の第3弾完結編。「『モロイ』、『マロウン死す』に続いてベケットが欠いた作品『名づけられないもの』は、前の二作にもまして法外な作品である。もはや「あらすじ」を言うことなどほとんど不可能、無意味であり、どういう作品なのか、はたして小説であるのか、それだって明言することは難しい」と宇野さんは訳者あとがきで書いておられます。原著は『L'Innommable』(Minuit, 1953/2004)で、既訳には安藤元雄訳と岩崎力訳があります。

★「もうあなたに言ったとおり、私は進退窮まっていますが、この最後の仕事にいちばんこだわっています。ここからぬけ出ようとしても、出られないでいます」とベケットはジェローム・ランドン宛ての1951年9月10日付の手紙に書いたといいます。「言葉があるかぎりそれを言わなくてはならない〔…〕奇妙な罰、奇妙な過失〔…〕言葉は私をたぶん私の物語の限界まで連れて行った、私の物語に向けて開く扉の前に」(237頁)。同書の「栞」の中で詩人の吉増剛造さんは「“巨大な吐息”なのだ、ベケットは」と綴っておられます。

★『呪われた詩人たち』は、幻戯書房のシリーズ「ルリユール叢書」の第3回配本。「コルビエール、ランボー、マラルメらを世に知らしめ、同時代人の蒙を開き、次代に甚大な影響をもたらした詩人ヴェルレーヌによる画期的評論」(帯文より)。原著『Les Poètes maudits』は初版が1884年、新版が1888年に刊行。既存の抄訳には鈴木信太郎訳『呪はれた詩人達』(創元社、1951年)などがありますが、初版の「緒言」を併せて訳出した全訳は本書が初めてです。論じられている対象は、上記3名のほか、デボルド=ヴァルモール、ヴィリエ・ド・リラダン、哀れなルリアンの計6名。最後のルリアンというのはほかならぬヴェルレーヌ自身のこと。

★『アムール・ジョーヌ』は同じくルリユール叢書第3回配本の2点目。「中原中也の愛した呪われた詩人コルビエールと海の男の子守唄……。中也はコルビエールに何を見たのか。解答は、その詩のなかに。あの名高き『黄色い恋』の、全訳完全版」(帯文より)。トリスタン・コルビエール(Tristan Corbière, 1845–1875)はフランスの詩人で、本書の原著『Les Amours jaunes』(1873年)は29歳で夭折した彼が自費出版したただひとつの詩集です。既存の抄訳には中原中也訳や篠田一士訳などがあります。なお今回の完訳版では「アルモールの海岸」の章でロマナン版(1935年)掲載の挿絵の数々を収めています。

★『アレ Vol.7』は本日11月24日に第29回「文学フリマ東京」にて発売開始。特集は「休」。発行元紹介文によれば「寝る」や「暇を持て余す」といった静的なものから「レジャー」や「アクティビティ」といった動的なものまで包含する「休む・休み」という行為・概念について、様々な角度から考察を試み」るもの。巻頭を飾るのは國分功一郎さんへのインタビュー「これからの「休み」を哲学する」(8~33頁)。特集頁掉尾を飾る佐藤克文さんへのインタビュー「「バイオロギング」から見えてくる動物の休息」(170~196頁)も要注目です。

★『東アジアのイノベーション』は、巻末謝辞によればJETROアジア経済研究所で2017年4月から2019年3月まで実施した「アジアの企業とイノベーション」研究会の成果。「本書では、東アジアのなかでも起業の話題が増えたシンガポールや台湾、中国を対象に、起業を通じたイノベーションを支える環境がどのように発展してきたのかを紹介する」(ii頁)。主要目次は以下の通り。

はじめに
序章 東アジア経済の変化:イノベーションの新たな担い手|木村公一朗・牧兼充
 コラム(1)韓国のスタートアップ|安倍誠
第1章 大学の起業家育成:シンガポール国立大学の事例|福島路
 コラム(2)タイのエコシステムの現状と今後の展望|越陽二郎
第2章 「シリコンバレー志向型政策」の展開:台湾の事例|川上桃子
 コラム(3)シリコンバレーとアジアをつなぐ移民起業家たち|川上桃子
第3章 ベンチャーキャピタル:中国の事例|丁可
 コラム(4)中国「政府引導基金」の実態|丁可
第4章 コワーキングスペース:中国「衆創空間」の事例|伊藤亜聖
 コラム(5)中国のスタートアップの特許|木村公一朗
第5章 大学のスタートアップ支援:中国・清華大学の事例|周少丹・林幸秀
 コラム(6)日本のエコシステムとディープテック|伊藤毅
第6章 オープンソースとマスイノベーション:メイカー向けハードウェア・スタートアップの事例|高須正和
 コラム(7)スタートアップ・コミュニティにおける成功者の役割|福嶋路
第7章 シェアリング・エコノミー:中国の事例|丸川知雄
 コラム(8)スター・サイエンティストが拓く日本のエコシステム|牧兼充
終章 起業を通じたイノベーションの今後|木村公一朗
謝辞
エコシステムの構成要素
索引

★『アルジェリア、シャラ通りの小さな書店』は、アルジェリア出身でパリ在住の作家カウテル・アディミ(Kaouther Adimi, 1986-)による長篇小説第3作『Nos Richesses』(Seuil, 2017)の全訳。訳者あとがきによれば本書は「1930年代半ばにアルジェに書店兼出版社を開き、以後30年以上にわたり多くの優れた文学書を世に出した実在の伝説的出版人の波乱に満ちた半生を描く」もの。伝説の出版人というのは、エドモン・シャルロ(Edmond Charlot, 1915-2004)のこと。カミュ、グルニエ、ヴェルコール、サン=テグジュペリ、ジャン・ジオノ、アンリ・ボスコ、等々、多くの作家が登場します。

★『小尾俊人日誌 1965-1985』は、みすず書房創業者で編集者の小尾俊人(おび・としと:1922-2011)さんの日誌150冊からその核心部分を翻刻したもの。思想史家の市村弘正(いちむら・ひろまさ:1945-)さんと、みすず書房の編集者をお務めだった加藤敬事(かとう・けいじ:1940-)さんが編纂され、「まえおき」「おわりに」、そして解説対談「『小尾俊人日誌』の時代」を担当されています。丸山眞男さんや藤田省三さんらとの浅からぬ関係など、戦後思想史の貴重な証言となっており、業界人必読です。

★『歴史探究のヨーロッパ』は、2014年刊『禁欲のヨーロッパ』、2016年刊『贖罪のヨーロッパ』、2017年刊『剣と清貧のヨーロッパ』、2018年『宣教のヨーロッパ』と続いてきた西洋中世史家の佐藤彰一(さとう・しょういち:1945-)さんによる、西欧の修道院および修道制の歴史をめぐる一連の著書の第5作。「人文主義から啓蒙主義へ、キリスト教文明の転機」と帯文にあります。「方法的懐疑の思想が知識人の世界を席巻し、それが導きの糸となって、啓蒙思想の君臨が始まる。啓蒙思想は考証学的歴史を駆逐し、考証を欠いた歴史、というより正確には歴史人類学、歴史社会学を前面に押し出すことになった。啓蒙史学と呼ばれる潮流から生まれたモンテスキューの『法の精神』やルソーの『社会契約論』はそうした一例であるし、その延長線上にあるマルクス主義歴史学と称されるものも同じである」(239~240頁)。主要目次は以下の通り。

はじめに
第一章 人文主義と宗教論争
第二章 ブールジュ学派の射程――歴史と法学
第三章 サン・モール会の誕生と発展
第四章 ジャン・マビヨンとその時代
第五章 修史事業の展開
第六章 デカルトかライプニッツか
第七章 考証学(エリュデシオン)の挫折
第八章 啓蒙と功利主義の展開と修道制
終章 ヨーロッパ修道制の歴史的意義
あとがき
参考文献
索引(事項・人名)

★『スピノザ――〈触発の思考〉』はまもなく発売。『スピノザ――共同性のポリティクス』(洛北出版、2006年)につぐ、浅野俊哉(あさの・としや:1962-)さんによるスピノザ論の第二書。『思想』誌やお勤め先の関東学院大学法学部の各種紀要に2007年から2019年にわたって発表されてきた7篇の論考に巻頭の「はじめに」を加えて収録。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。思想史上の「異物」としてのスピノザが後世にもたらした触発=変様(アフェクチオ)を辿る力作。

★『北斎』はフランスの作家で評論家のエドモン・ド・ゴンクール(Edmond de Goncourt, 1822-1896)による最晩年の著書『Hokousaï : l'art japonais au XVIIIe siècle』(1896年)の全訳。帯文に曰く「今では世界的に著名な北斎を、1世紀以上前に評価し愛して書かれた名著」と。全60章。第1章の書き出しはこうです。「地球上には、過去に決別したあらゆる才能に対する不公平な評価というものが存在する!」(21頁)。本書と双璧を成すゴンクールの『歌麿』は同じく隠岐由紀子(おき・ゆきこ:1949-)さんによって東洋文庫より2005年に刊行されています。

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by urag | 2019-11-24 23:46 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 11月 20日

ブックツリー「哲学読書室」に築地正明さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『わたしたちがこの世界を信じる理由――『シネマ』からのドゥルーズ入門』(河出書房新社、2019年11月)の著者、築地正明さんによるコメント付き選書リストが掲載されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。

◎哲学読書室
1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!
48)斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さん選書「マルクスと環境危機とエコ社会主義
49)木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さん選書「いまさら〈近代〉について考えるための5冊
50)筧菜奈子(かけい・ななこ:1986-)さん選書「抽象絵画を理解するにうってつけの5冊
51)西山雄二(にしやま・ゆうじ:1971-)さん選書「フランスにおける動物論の展開
52)山下壮起(やました・そうき:1981-)さん選書「アフリカ的霊性からヒップホップを考える
53)綿野恵太(わたの・けいた:1988-)さん選書「「ポリティカル・コレクトネス」を再考するための5冊
54)久保明教(くぼ・あきのり:1978-)さん選書「文系的思考をその根っこから科学技術へと開くために
55)築地正明(つきじ・まさあき:1981-)さん選書「信仰について考える。ベルクソンとドゥルーズと共に

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by urag | 2019-11-20 18:05 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 11月 17日

注目新刊:ハラリ第3作『21 Lessons』河出書房新社、ほか

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21 Lessons――21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社、2019年11月、本体2,400円、46判上製472頁、ISBN978-4-309-22788-7
オリジン・ストーリー ――138億年全史』デイヴィッド・クリスチャン著、柴田裕之訳、筑摩書房、2019年11月、本体2,200円、四六判並製416頁、ISBN978-4-480-85818-4
美味しい進化――食べ物と人類はどう進化してきたか』ジョナサン・シルバータウン著、熊井ひろ美訳、インターシフト発行、合同出版発売、2019年11月、本体2,400円、四六判上製336頁、ISBN978-4-7726-9566-4
河内音頭』鷲巣功著、ele-king books: Pヴァイン、2019年11月、本体3,000円、四六判上製304頁、ISBN978-4-909483-44-7
『テクストとしての都市 メキシコDF』柳原孝敦著、東京外国語大学出版会、2019年11月、本体1,900円、四六判変形並製272頁、ISBN978-4-904575-78-9

★『21 Lessons〔トゥエンティワン・レッスンズ〕』はまもなく発売。2014年『サピエンス全史』(邦訳上下巻、2016年)、2016年『ホモ・デウス』(邦訳上下巻、2018年)に続く、歴史学者ハラリ(Yuval Noah Harari, 1976-)の第3作『21 Lessons for the 21st Century』(Spiegel & Grau / Jonathan Cape, 2018)の全訳です。訳者あとがきによれば「原著刊行後に著者が行なった改訂や、日本語版用の加筆・変更を反映している」とのこと。「最初の拙著『サピエンス全史――文明の構造と人類の幸福』では、人間の過去を見渡し、ヒトという取るに足りない霊長類が地球という惑星の支配者となる過程を詳しく考察した。/第二作の『ホモ・デウス――テクノロジーとサピエンスの未来』では、生命の遠い将来を探究し、人間がいずれ神となる可能性や、知能と意識が最終的にどのような運命をたどるかについて、入念に考察した。/本書では、「今、ここ」にズームインしたいと思っている」(はじめに、7~8頁)。はじめに全文、推薦文、関連動画などをまとめた特設サイトが公開されています。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。本書が扱う21の主題は以下の通り。幻滅、雇用、自由、平等、コミュニティ、文明、ナショナリズム、宗教、移民、テロ、戦争、謙虚さ、神、世俗主義、無知、正義、ポスト・トゥルース、SF、教育、意味、瞑想。

★『オリジン・ストーリー』は発売済。『Origin Story: A Big History of Everything』(Little, Brown and Company, 2018)の訳書。ユヴァル・ノア・ハラリの訳書も手掛ける翻訳家の柴田裕之(しばた・やすし)さんによるもので、世界29カ国語に翻訳が決定しているというベストセラーの日本上陸です。まえがき全文、目次、推薦文、関連動画、関連イベントなどを紹介した特設ページが公開されています。「私たち現代人は慢性的な分裂と意味の欠如の状態に陥ることを運命づけられてはいない〔…〕。現代という創造的な大嵐の中で、新しいグローバルなオリジン・ストーリーが現れつつある。〔…〕入念に吟味された情報と知識から成るグローバルな遺産を拠り所にしており、世界中の人間の社会と文化を受け容れる、初めてのオリジン・ストーリーだ〔…〕。その創出は集団的でグローバルな事業であり、それはブエノスアイレスでも北京でも、ラゴスでもロンドンでも通用する物語であるべきだ」(まえがき、10頁)。著者のデイヴィッド・クリスチャン(David Christian, 1946-)はマッコーリー大学教授の歴史学者。同大学のビッグヒストリー研究所所長を務めています。

★『美味しい進化』はまもなく発売。『Dinner with Darwin: FOOD, DRINK, AND EVOLUTION』(The University of Chicago Press, 2017)の訳書。目次、第1章、解説は、書名のリンク先で立ち読みできます。帯文に曰く「進化美食学をご一緒に」。「さまざまな食べ物は進化の産物であるだけではなく、長い歴史の中で人間が選択・改良し進化させてきた賜物でもある。一方で、私たち自身も食べ物によって、脳や遺伝子が変わっている。人間が食べ物を変え、食べ物が人間を変えた――本書はそんな壮大な進化の物語を、料理の起源から未来の食べ物まで、知的栄養に富んだディナーとともに供してくれる」(巻末解説より)。著者のジョナサン・シルバータウン(Jonathan Silvertown)はエディンバラ大学教授。専門は進化生態学。著書の既訳に、『植物の個体群生態学 第2版』(河野昭一/大原雅/高田壮則訳、東海大学出版会、1992年)、『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』(寺町朋子訳、インターシフト、2016年)があります。

★『河内音頭』は書き下ろし。帯文(表4)に曰く「洋楽で育った著者が「音頭」に衝撃を受けて40年。日本の音楽文化論に一石を投じる快著、ついに登場」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「わたしにとっては、北米黒人達の生み出す音楽は圧倒的だった。〔…〕わたし達にはとても敵わないところに彼らの世界はあった。それを安易に真似して、表ヅラを誤魔化して過ぎていくこの国の音楽は、まったく情けなかった」(あとがき、287頁)。「それをひっくり返してくれたのが河内音頭だ。いきなりの実演で触れたこの生々しさ、独創性、真実味、説得力、そして同時代的な感性。これら全てがわたしの、それまでの、いい加減な音楽体験、知識、判断をぶっ飛ばした」(同頁)。河内音頭とその歴史、文化的背景をめぐる長年の体験と考察が本書に凝縮されています。鷲巣功(わしず・いさお:1954-)さんはライター、ラジオDJ、イベント制作、CDプロデュースなど多彩なご活躍で知られています。首都圏河内音頭推進協議会の議長をお務めです。

★『テクストとしての都市 メキシコDF』はシリーズ「テクストとしての都市」の第1弾。「文献を通じ、想像力を通じ、他者の記憶を通じ、都市の迷路に分け入り、過去を幻視しつつ、都市の現在を時空を超えて語る、渾身の紀行文学的都市論の誕生」(版元紹介文要旨)。写真や地図など、図版多数。カバーにはブックカフェ「ペンドゥロ」(「振り子」の意)の写真があしらわれています。同店については最終章「書店と図書館」に言及があります。巻頭のプロローグ「コンデサ」も、本屋(ロサリオ・カステリャーノス書店)での店員とのやりとりを記したもの。「本は世界であり、書店は世界である」(263頁)。執筆前の本書のことを「メキシコ市をめぐる集合的記憶の本」と表現した、著者の柳原孝敦(やなぎはら・たかあつ:1963-)さんは、東京外国語大学教授を経て現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。ご専門は専門は、スペイン語圏文学・思想文化論です。

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by urag | 2019-11-17 19:12 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 11月 10日

注目新刊:築地正明『わたしたちがこの世界を信じる理由』河出書房新社、ほか

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わたしたちがこの世界を信じる理由――『シネマ』からのドゥルーズ入門』築地正明著、河出書房新社、2019年11月、本体2,700円、46判上製256頁、ISBN978-4-309-24936-0
柳田國男全自序集Ⅰ』柳田國男著、中公クラシックス、2019年11月、本体1,800円、新書判272頁、ISBN978-4-12-160184-1
柳田國男全自序集Ⅱ』柳田國男著、中公クラシックス、2019年11月、本体1,800円、新書判272頁、ISBN978-4-12-160185-8
窓展――窓をめぐるアートと建築の旅』東京国立近代美術館編、平凡社、2019年11月、本体2,500円、B5判並製206頁、ISBN978-4-582-20718-7

★『わたしたちがこの世界を信じる理由』はまもなく発売(14日予定)。築地正明(つきじ・まさあき:1981-)さんの初めての単独著です。宇野邦一さんは推薦文で「映画論をはるかに超えて『シネマ』の深さを探索する読みにうたれた」と評価されています。目次は以下の通り。


第一章 仮構作用と生
 一 巨人の製造
 二 ヒトラーと神話
 三 「仮構作用」のマイナーな使用法を発明すること
第二章 映画と二十世紀の戦争
 一 大戦という断絶
 二 断絶の内側で
 三 「記憶」概念の変容
 四 異常な運動
第三章 記憶と忘却、そして偽の力
 一 記憶と仮構
 二 言葉、偽の力と記憶
 三 有機的な体制と結晶的な体制
 四 「偽の力」の理論へ
第四章 真理批判――裁きと決別するために
 一 真正な語りと「判断の体系」
 二 ニーチェ主義――「裁きの体制」との戦い
 三 善悪の判断から、良いと悪いの評価へ
 四 超越的な裁きから内在的な正義へ
第五章 自由間接話法と物語行為
 一 新たな物語の構築へ向けて
 二 現実と虚構の対立を乗り越えるために
 三 現代映画の使命
第六章 民が欠けている
 一 何をもって「マイナー」と呼ぶか
 二 民が欠けているとは
 三 語る行為による抵抗
第七章 言葉とイマージュの考古学
 一 言語と非言語の境
 二 イマージュと言葉
 三 考古学
 四 抵抗――出来事を創造すること
第八章 精神の自動人形のゆくえ
 一 映画の自動運動
 二 精神の自動人形の二つの極み
 三 この世界を信じること
結論 この世界を信じる理由――ユーモアと生成

あとがき

★「序」の冒頭より引きます。「二十世紀後半を代表する哲学者のひとり、ジル・ドゥルーズ(1925-1995)は、もうひとりのフランスの哲学者アンリ・ベルクソンの主著、『物質と記憶』(1896年)に依拠して、『シネマ1』(1983年)と『シネマ2』(1985年)を書いた。タイトルが示すとおり、「映画」についての研究書である。しかしそれらは、極めて多彩な要素から成り立っており、「映画」という一ジャンルに関する考察と呼ぶには、あまりにも広範なテーマと問題群を扱っている。しかも驚くべきことに、『シネマ』において「映画」は、ほとんど「世界」の別名であるかのように、そして「映画」を論じることは、そのままこの「世界」について論じることでもあるかのように、論述が展開されているのである。とはいえ、ドゥルーズは「映画」と「世界」を同一視しようとしているわけでも、両者を単純に関連づけようとしているわけでもない。ドゥルーズはむしろ、両者の変更関係を、互いへの還元不可能性を強調する。そして映画の意義は、「イマージュ」を通じて、この「世界」を信じる理由を生み出すこと、創造することにあると述べることになるだろう。しかしそれには、もはや人々がこの世界を信じていない、という事態が前提となるはずである。すると、なぜそうなってしまったのかが、併せて問われなければならないだろう。この世界を信じるとは、そもそも何を意味し、どのような問題を孕んでいるのか。これらすべての問いは、二十世紀の映画史と世界史が交差しながら進展していく過程と、実は密接に関連している。ドゥルーズは、映画における古典時代を、主に第二次世界大戦よりも前に位置づけ、他方で大戦後の映画のあるものを、「現代映画」として規定している。そして両者のあいだには、深い亀裂が走っていると考えるのである」(7~8頁)。

★「戦争を境に、何かが決定的に変わってしまったのだとドゥルーズは見ていた。後でまた触れるが、ドゥルーズは『シネマ』全編を通じて、具体的な作品の比較考察によって、その〈何か〉を繰り返し描写している。/その一つに、それまで映画の主題として扱われることの非常に少なかった、「マイノリティ」の存在が、戦後になって次第に可視化されていったことが挙げられる」(9頁)。「注意すべきなのは、「マイノリティ」が、新たなファシストへと生成する危険を、常に伴った存在だという点である。〔…〕ドゥルーズによれば、革命家とテロリストとの、解放者とファシストとの見分けがつかなくさせる識別不可能性のグレー・ゾーンというものがあるのだ。おそらく「現代映画」の重要な意義のひとつは、そうしたことを身をもって証明してみせた点にある(ゴダール、ローシャ)。〔…〕ドゥルーズの読者は、彼のテクストを前にする時、この両義性のうちに身を置き、絶えずそのあいだを縫って進まなければならない」(10頁)。

★昨夏、福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さんが上梓したデビュー作『眼がスクリーンになるとき――ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』』(フィルムアート社、2018年7月)がやはり『シネマ』の鋭利な読解で話題を呼んだことは記憶に新しいです。今年もまた『シネマ』を契機にした新鋭のデビュー作が登場したことになります。なお、9月末に発売となった平倉圭(ひらくら・けい:1977-)さんの第2作『かたちは思考する――芸術制作の分析』(東京大学出版会、2019年9月)の第8章「普遍的生成変化の〈大地〉――ジル・ドゥルーズ『シネマ2*時間イメージ』」でも『シネマ』が扱われていることは周知の通りです。

★『柳田國男全自序集』全2巻は、明治35年の『最新産業組合通解』から昭和36年の『海上の道』までの序文、附記、解題、などをまとめた、オリジナル編集版。「著作活動60年、著書101冊/全業績を一望する自著解題」と帯文に謳われています。第Ⅰ巻巻頭の解説「柳田國男による柳田國男」は佐藤健二さんによるもの。「解説を書くために、あらためて柳田國男の自序を読んだ。そのいくつもが、ねたましいほどにうまい」(9頁)と佐藤さんは冒頭でお書きになっています。「序の文でありながら、それ自体がひとつの作品となって、主題の曲折を、叙情ゆたかに描き出している。構え組み立ての格調は高く、落ちついた声で低く語られる案外の一節が、世の風潮や無自覚への切れ味のよい論評としてひびく。なかなか、こういう序を書ける学者はいない」(同頁)。

★『窓展』は同名の展覧会(東京国立近代美術館、2019年11月1日~2020年2月2日;丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2020年7月11日~9月27日)の巡回展公式カタログ。同展はその名の通り、「マティスやクレーの絵画から現代美術まで、窓に関わる多様な美術作品を一堂に集め」たもの(主催者の「ご挨拶」より)。「また建築家の貴重なドローイングも展示し、ジャンルを横断して広がる窓の世界をご紹介します。東京国立近代美術館の前庭には建築家、藤本壮介の大型コンセプト・モデル〔「窓に住む家/窓のない家」〕も出現します」(同)。カタログは英文表記。一見、ごく平凡な主題のようにも思えますが、写真、油彩、水彩、版画、ドローイング、シルクスクリーン、ミクストメディア、動画、インスタレーション、等々、多彩な作品群には飽きることがありません。一冊の本として密度と美を備えつつまとまっていることにも魅了されました。巻頭に古代から現代に至るまでの「窓と建築の年表」、巻末には2篇の論考、蔵屋美香さんの「窓からの眺め、リミックス」と、五十嵐太郎さんの「ピクチャー=ウィンドウ論――絵画とは窓である」が掲載されています。

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by urag | 2019-11-10 19:10 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 11月 06日

注目新刊:ストーン『野蛮のハーモニー』、バトラー『分かれ道』

弊社が平素お世話になっている著訳者の皆様の最新刊をご紹介いたします。

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
イギリスの歴史学者ダン・ストーン(Dan Stone, 1971-)による論文8本を独自に編んだ日本語版オリジナル論文集の編訳『野蛮のハーモニー』を担当されました。みすず書房さんの今月の新刊です。なおストーンの訳書は『ホロコースト・スタディーズ――最新研究への手引き』(武井彩佳訳、白水社、2012年11月)に続く2点目となります。

野蛮のハーモニー ――ホロコースト史学論集
ダン・ストーン著 上村忠男編訳
みすず書房 2019年11月 本体5,600円 四六判上製296頁 ISBN978-4-622-08855-4
帯文より:「ここではなにもかもが可能である。これは野蛮のハーモニーである」。歴史の核心にある暗くて不透明なものをいかに語るか。方法論と思想史の最前線。

目次:
日本語版への序言  ダン・ストーン
第一章「アウシュヴィッツ・シンドローム」を超えて――冷戦後のホロコースト史学
第二章 ホロコーストと「人間」
第三章 物語理論とホロコースト史学
第四章 ホロコースト史学と文化史
第五章 ダン・ストーン編『ホロコーストと歴史の方法論』序論
第六章 過去を破門する?――ホロコースト史学における物語論と合理的構築主義
第七章 ゾンダーコマンドの撮った写真
第八章 野蛮のハーモニー――「アウシュヴィッツの巻物」をホロコースト史学のなかに位置づける
編訳者あとがき

★ジュディス・バトラーさん(著書:『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
2012年にコロンビア大学出版から上梓された『Parting Ways: Jewishness and the critique of Zionism』の訳書が先月発売となりました。

分かれ道――ユダヤ性とシオニズム批判
ジュディス・バトラー著 大橋洋一/岸まどか訳
青土社 2019年10月 本体3,800円 46判上製488+viii頁 ISBN978-4-7917-7079-3
帯文より:もうひとつの可能性をさぐる。ユダヤ人であることと、シオニズムを批判することは両立しえないのか。ユダヤ性とは何かを徹底的に主題化しつつ、パレスチナ・イスラエル問題の核心にせまる。レヴィナス、ベンヤミン、アーレント、サイードの思想を読みとき、現代を代表する思想家が、いま私たちのとるべき道を模索する。

目次:
はじめに――自己からの離脱、エグザイル、そしてシオニズム批判
第1章 不可能で必要な責務――サイード、レヴィナス、そして倫理的要請
第2章 殺すことができない――レヴィナス対レヴィナス
第3章 ヴァルター・ベンヤミンと暴力批判論
第4章 閃いているもの――ベンヤミンのメシア的政治
第5章 ユダヤ教はシオニズムか――あるいはアーレントと国民国家批判
第6章 複数的なるものの苦境――アーレントにおける共生と主権
第7章 現在のためのプリーモ・レーヴィ
第8章 「エグザイルなくして、私たちはどうしたらよいだろう」――サイードとダルウィーシュが未来に語りかける
原注
略号一覧
謝辞
訳者解説(岸まどか)
訳者あとがき(大橋洋一)
索引

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by urag | 2019-11-06 18:29 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 11月 04日

注目新刊:ちくま学芸文庫2019年11月新刊5点、ほか

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★まもなく発売(11月7日)となるちくま学芸文庫の11月新刊5点を列記します。

『法の原理――自然法と政治的な法の原理』トマス・ホッブズ著、高野清弘訳、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09952-5
『ドゥルーズ――解けない問いを生きる【増補新版】』檜垣立哉著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,100円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09958-7
『釈尊の生涯』高楠順次郎著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09955-6
『日本の神話』筑紫申真著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,200円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-09957-0
『河童の日本史』中村禎里著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09959-4

★『法の原理』は、2016年に行路社より刊行された単行本の文庫化。1889年のテニエス版からの翻訳。訳者の高野清弘(たかの・きよひろ:1947-2017)さんは一昨年逝去されており、文庫化にあたって巻末解説は成蹊大学名誉教授の加藤節さんが「高野清弘氏のホッブズ研究に寄せて」と題した一文を寄せておられます。加藤さんが数々のジョン・ロックの訳書を上梓されてきたことは周知の通り。解説では戦後日本におけるホッブズ研究の変遷に触れておられます。ちくま学芸文庫でホッブズの訳書が刊行されるのは今回が初めて。

★親本が刊行された同じ年に岩波文庫より田中浩/重森臣広/新井明訳『法の原理――人間の本性と政治体』も出版されているものの、現在品切。アマゾンのマケプレなどで新本が高値になっていますが、どうしても急ぎで岩波文庫版が欲しいという方はhontoでの同書の店舗検索結果をご覧ください。複数の文教堂に在庫がまだあることになっています。岩波文庫や岩波現代文庫は実際、文教堂に在庫が残っていることがままあり、穴場です。

★『ドゥルーズ【増補新版】』は、日本放送出版協会(現:NHK出版)のシリーズ「哲学のエッセンス」を第一部とし、文庫化にあたって第二部を新たに書き下ろしたもの。親本は今も電子書籍が購入できるので、追加された第二部の方の主要目次を以下に列記しておきます。Ⅰ「マイノリティとテクノロジー」、Ⅱ「自然について――『千のプラトー』」、Ⅲ「マイナーサイエンス/マイナーテクノロジー」、Ⅳ「金属と治金術師」、Ⅴ「徒党集団――マイノリティの存在様態」、Ⅵ「マイノリティと政治」、結論「生命の政治倫理学へ」。巻末の文庫版あとがきにはこう書かれています。「やはり私には、ドゥルーズのポジティヴィストとしてのありようを強調し、そこで生命の新しさを希求するひととして描きだすことこそが重要におもえたのである。この主題がテクノロジーやマイノリティに連関することはいうまでもない。あくまでもポジティヴであることは、新しさを生み出す仕組みとしてのテクノロジーと、それ自身としての新しさの萌芽であるともいえるマイノリティにおいて、一層輝きを放つものでもあるからだ」(263頁)。檜垣立哉(ひがき・たつや:1964-)さんによる本書以外のドゥルーズ論には『ドゥルーズ入門』(ちくま新書、2009年)や、『瞬間と永遠――ジル・ドゥルーズの時間論』(岩波書店、2010年)があります。

★『釈尊の生涯』は大雄閣より1936年に刊行された単行本の文庫化。かつては教育新潮社版『高楠順次郎全集』第5巻(1979年)に収録されたこともあります。文庫化にあたり、巻末には武蔵野大学教授で仏教学がご専門の石上和敬さんによる文庫版解説「高楠順次郎の生涯及び本書の企図」が加えられています。石上さんは本書の特徴を2点挙げておられます。「人間釈尊の姿を描き出すことに注力し」「神々の登場や神通力のような超人的能力の描写を極力そぎ落としていること」、そして「一般読者への教化という側面を重視し」「重要エピソードごとに、インドの仏教彫刻の写真や当時の仏教画家たちの挿画をふんだんに掲載し」たり、「釈尊の教説の要諦などを列挙している」と。高楠順次郎(たかくす・じゅんじろう:1866-1945)さんは仏教学者。近年では『仏教の根本思想』(1931年)と『仏教の真髄(抄録)』(1940年)を一冊にまとめた『インド思想から仏教へ――仏教の根本思想とその真髄』が書肆心水から2017年に刊行されています。

★『日本の神話』は河出書房新社より1964年に刊行された単行本の文庫化。文庫版解説「海から来る神に日本神話の原像を見る試み」は、北海道大学教授で日本古典文化論を講じておられる金沢英之さんがお書きになっています。「本書は内容的にも前著『アマテラスの誕生』で示された方法と結論を受けつぎ、展開したものとなっている」と解説されています。筑紫申真(つくし・のぶざね:1920-1973)さんは、在野の民俗学者。主著の『アマテラスの誕生』(角川新書、1962年;秀英出版、1971年;講談社学術文庫、2002年)はロングセラーとして知られています。

★『河童の日本史』は、1996年に日本エディタースクール出版部より刊行された単行本の文庫化。巻末に小松和彦さんによる「文庫解説」が付されています。曰く「本書は、近世の関連文献を広く渉猟し、今日の河童のイメージがいかにして形成されたかを徹底的に考察した労作で、「日本史」と題されているが、正確には「近世における河童イメージの形成・変遷史」というべき内容となっている。20年以上も前の作品でありながら、現在でもまったく新鮮さを失っていない」と。中村禎里(なかむら・ていり:1932-2014)さんは生物史家。ご専門は科学史、民俗生物学で、ちくま学芸文庫では2013年に『生物学の歴史』が刊行されています。

★このほか最近では以下の新刊に注目しています。

全品現代語訳 大日経・金剛頂経』大角修訳・解説、角川ソフィア文庫、2019年10月、本体1,160円、文庫判416頁、ISBN978-4-04-400481-1
最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』イアン・マカルマン著、藤田真利子訳、草思社文庫、2019年10月、本体1,200円、文庫判408頁、ISBN978-4-7942-2417-0
とはずがたり』後深草院二条著、佐々木和歌子訳、光文社古典新訳文庫、2019年10月、本体1,160円、文庫判488頁、ISBN978-4-334-75411-2
龍蜂集』泉鏡花著、澁澤龍彦編、山尾悠子解説、小村雪岱装釘装画、国書刊行会、2019年10月、本体8,800円、菊判上製函入504頁、ISBN978-4-336-06545-2
『サテン オパール 白い錬金術――ジョイス・マンスール詩集』松本完治訳、山下陽子挿画、エディション・イレーヌ、2019年5月、本体3,250円、A5変形判函入384頁(挿画4点)、ISBN978-4-9909157-5-9

★『全品現代語訳 大日経・金剛頂経』は、2018年3月刊『全品現代語訳 法華経』、2018年10月刊『全文現代語訳 浄土三部経』に続く、大角修(おおかど・おさむ:1949-)さんによる現代語訳仏典第3弾。第一部は善無畏訳「大毘盧遮那成仏神変加持経」を「大正新脩大蔵経テキストデータベース」の漢文より読み下し、現代語訳に改めたもの。第二部は不空訳「金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経」を同データベース漢文より読み下して現代語訳。「ただし、意味のとりにくい箇所はチベット版、サンスクリット版により適宜、語句を補足した」と特記されています。語注、図版、コラム多数。巻末には伝法や仏事、印契等を説く「密教の小事典」も付いています。「真言密教の根本経典全品を、一冊で読む・知る・学ぶ」と帯文に謳われています。

★『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』は2004年刊単行本の文庫化。原書は『The Last Alchemist: Count Cagliostro, Master of Magic in the Age of Reason』(Harper, 2003)です。主要目次は以下の通り。プロローグ「バルサモの家」、1「フリーメイソン」、2「降霊術師」、3「シャーマン」、4「コプト」、5「預言者」、6「回春剤」、7「異端」、エピローグ「不死」。新たに「文庫版あとがき」が追加されています。著者のマカルマン(Iain McCalman, 1947-)はオーストラリアの歴史家で、シドニー大学歴史学特任教授。カリオストロ伯爵の紹介書では、種村季弘さんのロングセラー『山師カリオストロの大冒険』(中央公論社、1978年;中公文庫、1985年;河出文庫、1998年;岩波現代文庫、2003年)が有名です。

★『とはずがたり』佐々木和歌子さん訳は、文庫では次田香澄さんによる全訳注本(上下巻、講談社学術文庫、1987年)や、瀬戸内晴美さんによる現代語訳(新潮文庫、1988年)以来となる新訳かと思います。帯文に曰く「14歳で後宮へ、院の寵愛、貴族との情事、そして出家……。宮廷のアイドルの「死ぬばかりに悲しき」物語」と。「スピード感を損なわないように〔…〕歯切れよく訳したつもり」という今回の現代語訳は、瑞々しい文体で活きいきと物語を蘇らせています。なお、いがらしゆみこさんによる漫画版が中公文庫の「マンガ日本の古典」シリーズの一冊(2000年)として現在も入手可能です。

★『龍蜂集』は国書刊行会さんによる鏡花没後80年記念出版である「澁澤龍彦 泉鏡花セレクション」全4巻の第1回配本(第Ⅰ巻)。版元さんのウェブサイト上で公開されている内容見本PDFによれば、「澁澤龍彦の生前、1970年代前半に企画されながらも、惜しくも実現を見ずに終った幻の選集が、半世紀の歳月を経てついに刊行。/我が国における最高最大の幻想作家・泉鏡花の膨大多彩な作品群から、澁澤龍彦ならではの鑑識眼が選び抜いた、小説・戯曲約50篇を4巻で構成。/各巻の解説は、鏡花作品をこよなく愛し、2018年には泉鏡花文学賞を受賞した山尾悠子が担当。各巻に、解説者が特に選んだ一作品も増補追加する。/各巻の装釘は、名匠・小村雪岱の鏡花本4冊をあたうかぎり再現した。表紙や本扉はもちろんのこと、見返しも雪岱描き下ろしの絵を用いた、美麗な豪華愛蔵版」。菊判上製貼函入本の圧倒的存在感は、出版不況を吹き飛ばすかのような威容です。小村雪岱の装釘と装画を最大限に活かした造本設計は柳川貴代さんによるもの。

★第Ⅰ巻『龍蜂集(りゅうほうしゅう)』では「春昼」「山吹」「酸漿」「蛇くひ」など、全21篇を収録。詳細は書名のリンク先か先述の内容見本をご覧ください。新字体旧仮名遣い総ルビは、これがもし活版印刷だったならとつい妄想してしまいますが、そればかりは高望みが過ぎるでしょうか。付属の月報1には、作家の谷崎由依さんによる「胚胎されるもののかたち」と、日本文学研究者の田中励儀さんによる「澁澤・三島・鏡花・柳田」が掲載されています。続刊予定は2020年1月に第Ⅱ巻『銀燭集(ぎんしょくしゅう)』です。3か月ごとの配本予定で、第Ⅲ巻『新柳集(しんりゅうしゅう)』、第Ⅳ巻『雨談集(うだんしゅう)』と続きます。

★美麗な造本と言えば、今春刊行された既刊書ではありますが、京都の出版社エディション・イレーヌさんの函入本『サテン オパール 白い錬金術――ジョイス・マンスール詩集』に言及しておきたいです。真っ白い縦長の函に真っ白い帯、書籍本体は表紙が山下陽子さんによる黒を基調としたモノクロ作品をあしらい、銀箔の欧文表記が施されています。白と黒の対比が実に美しい一冊です。『叫び』1953年、『裂け目』1955年、『猛禽』1960年、『白い方形』1965年、の4つの詩集に収められた全323編から半数強となる172篇を精選して訳出したもの。巻末に訳者解説「死と愛とエロスの深淵に――ジョイス・マンスールの人と生涯」を配し、解説の前後には12頁にわたる著者の写真が収められています。

★この本の特装本限定30部が、2019年12月上旬刊行予定だと聞いています。造本設計は普及版と同じく佐野裕哉さんによるもので、訳者画家署名・記番入、予定価格5万円程度とのことです。仕様は、染め布クロス装函(本繻子の布[タンタンピース]使用)+箔押し、版画一葉入(イタリア製[ファブリアーノ・ロサスピーナ]紙使用)フォリオケース入、等と聞いています。詳細は版元名のリンク先(新刊書籍案内での本書紹介の最下段)をご覧ください。

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by urag | 2019-11-04 23:16 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 10月 28日

注目新刊:ヴィリリオ/ロトランジェ『黄昏の夜明け』新評論、ほか

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黄昏の夜明け――光速度社会の両義的現実と人類史の「今」』ポール・ヴィリリオ/シルヴェール・ロトランジェ著、土屋進訳、新評論、2019年10月、本体2,700円、四六判上製272頁、ISBN978-4-7948-1126-4
道徳について――人間本性論3』ヒューム著、神野慧一郎/林誓雄訳、京都大学学術出版会、2019年10月、本体3,500円、四六上製320頁、ISBN978-4-8140-0244-3
なぜ歴史を学ぶのか』リン・ハント著、長谷川貴彦訳、岩波書店、2019年10月、本体1,600円、B6判並製144頁、ISBN978-4-00-024179-3

★『黄昏の夜明け』は『Crepuscular Dawn』(Semiotext(e), 2002)の全訳。ロトランジェとの対話本の訳書は『純粋戦争』(細川周平訳、UPU、1987年;Pure War, Semiotext(e), 1983)以来のものですが、今回も息の合ったスリリングなやりとりで現代文明の病理を透視し、暗い予感へと読者をいざないます(字が似ていますが、「黄金の夜明け団」とは無関係)。ヴィリリオの警告してきた未来から私たちは今なお脱出できていません。『純粋戦争』の原書はその後、新版が98年と2008年に刊行され、もはや歴史の1頁になっていますが、個人的には『純粋戦争』は最新版を元に増補版が出るべきだと思っています。

★『道徳について』はシリーズ「近代社会思想コレクション」の第27弾で、ヒュームの主著『人間本性論』第3巻の新訳。底本は2007年刊のノートン版。セルビー・ビッグバンの頁数が本文下段の余白に記されています。訳者あとがきによれば、新訳の続刊は別の訳者によって進められているようです。なお今月は、法政大学出版局さんから既訳第3巻の普及版が発売されたばかりです。

★『なぜ歴史を学ぶのか』はアメリカの歴史家リン・ハント(Lynn Hunt, 1945-)による『History: Why It Matters』(Polity Press, 2018)の訳書。訳者あとがきによれば、ポリティの新シリーズ「Why It Matters」の第1回配本だそうで、ハーヴァード大のジル・レポー教授(Jill Lepore, 1966-;レポアとも)は本書を「E・H・カーの『歴史とは何か』の21世紀版である」と評しているとのこと。周知の通り『歴史とは何か』は1962年の訳書刊行以来、岩波新書のロングセラーとなっています。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

新しい思考』フランツ・ローゼンツヴァイク著、村岡晋一/田中直美編訳、法政大学出版局、2019年10月、本体4,800円、四六判上製520頁、ISBN978-4-588-01104-7
現代思想2019年11月号 特集=反出生主義を考える――「生まれてこないほうが良かった」という思想』青土社、2019年10月、本体1,400円、ISBN978-4-7917-1388-2
情動はこうしてつくられる――脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』リサ・フェルドマン・バレット著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2019年10月、本体3,200円、四六判上製620頁、ISBN978-4-314-01169-3
聖者のレッスン――東京大学映画講義』四方田犬彦著、河出書房新社、2019年10月、本体4,800円、46変形判上製352頁、ISBN978-4-309-25643-6
北斎 視覚のマジック――小布施・北斎館名品集』北斎館編、平凡社、2019年10月、本体2,800円、A4判並製176頁、ISBN978-4-582-66218-4
生き延びるためのアディクション――嵐の後を生きる「彼女たち」へのソーシャルワーク』大嶋栄子著、金剛出版、2019年10月、本体3,600円、A5判並製288頁、ISBN978-4-7724-1727-3
治療共同体実践ガイド――トラウマティックな共同体から回復の共同体へ』藤岡淳子編著、金剛出版、2019年10月、本体3,400円、A5判並製264頁、ISBN978-4-7724-1722-8
この社会で働くのはなぜ苦しいのか――現代の労働をめぐる社会学/精神分析』樫村愛子著、作品社、2019年10月、本体2,400円、四六判並製260頁、ISBN978-4-86182-776-1
オランダの文豪が見た大正の日本』ルイ・クペールス著、國森由美子訳、作品社、2019年10月、本体2,600円、46判上製360頁、ISBN978-4-86182-769-3
経済的理性の狂気――グローバル経済の行方を〈資本論〉で読み解く』デヴィッド・ハーヴェイ著、大屋定晴監訳、作品社、2019年9月、本体2,800円、四六判上製328頁、ISBN978-4-86182-760-0
全著作〈森繁久彌コレクション〉 第1巻 道――自伝』森繁久彌著、鹿島茂解説、藤原書店、2019年10月、本体2,800円、四六判上製640頁、ISBN978-4-86578-244-8
中村桂子コレクション いのち愛づる生命誌(Ⅳ)はぐくむ――生命誌と子どもたち』中村桂子著、高村薫解説、藤原書店、2019年10月、本体2,800円、四六変判上製296頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-245-5
“フランスかぶれ”ニッポン』橘木俊詔著、藤原書店、2019年10月、本体2,800円、四六判上製336頁+口絵8頁、ISBN978-4-86578-246-2

★『新しい思考』は日本版独自編集の論文集。帯文に曰く「主著『救済の星』刊行後に執筆した主要なテキストを中心に収録」とのこと。共訳者の村岡晋一さんはこれまでも『救済の星』(共訳、みすず書房、2009年)をはじめ、『健康な悟性と病的な悟性』(作品社、2011年)、『ヘーゲルと国家』(共訳、作品社、2015年)など、ローゼンツヴァイクの訳書を手掛けてきた第一人者です。今回の論文集では、「『救済の星』について」「自由ユダヤ学舎と教育について」「翻訳について」「人について」の4部構成で、計20本のテクストが収録されています。

★『現代思想2019年11月号』は反出生主義をめぐる特集号。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。巻頭の森岡正博さんと戸谷洋志さんによる討議「生きることの意味を問う哲学」の最後の方で森岡さんは次のように発言されています。「ベネターはショーペンハウアーの子どもであり、ショーペンハウアーは古代インド、ウパニシャッドとブッダの子どもであるわけです」(19頁)。『生まれてこない方が良かった』(すずさわ書店、2017年)の著者であるベネター(David Benatar, 1966-)の論考「考え得るすべての害悪――反出生主義への更なる擁護」も小島和男さんによって訳出されています(40~83頁)。

★『情動はこうしてつくられる』は、英語圏でベストセラーとなった『How Emotions Are Made: The Secret Life of the Brain』(Houghton Mifflin Harcourt, 2017)の全訳。著者のバレット(Lisa Feldman Barrett, 1963-)はノースイースタン大学心理学部教授。彼女独自の構成主義的情動理論(theory of constructed emotion)が説明されている本書は「身体疾患や精神疾患の治療、人間関係、子育て、そして究極的には人間の本性についての社会的通念の大幅な見直しを求める」(15頁)もの。訳者あとがきによれば、彼女の研究成果はFBIでも活用されているとのことです。



★『聖者のレッスン』は、東京大学文学部宗教学科において2016年度後期に全13回にわたり行われた講義「聖者の表象」をもとに全体を「濃縮」(後書き、343頁)した一冊。カトリックの聖人や東アジアの宗教的指導者、絶滅収容所などの映画的表象を取り上げ、自由で不安な戒律なき時代を生きるヒントを探っておられます。これが「最終講義」だと四方田さんは後書きで述懐されています。

★『北斎 視覚のマジック』は、同名の展覧会(すみだ北斎美術館、2019年11月19日~2020年1月19日)での展示作を中心として編集されたもので、同展図録であり、北斎館の公式図録でもあるとのこと。祭屋台天井絵、肉筆画、摺物、錦絵、版本などの画業を網羅した約150点がオールカラーで収録されています。凡庸な言い方で恐縮ですが、何度見てもやはり圧倒されます。

★金剛出版さんの10月新刊より2点。『生き延びるためのアディクション』は「女性依存症者に共通する四つの嗜癖行動パターンと三つの回復過程モデル」(版元紹介文より)を手がかりにした、「暴力・貧困・スティグマに絡めとられた“彼女たち”の生活を取り戻すための援助論」(帯文より)。著者の大嶋栄子(おおしま・えいこ:1958-)さんはNPO法人リカバリーの代表。『治療共同体実践ガイド』は「長きにわたる治療共同体の歴史・理念を跡づける理論的考察から、〔…〕精神科医療・司法領域・福祉領域の実践レポート、さらに治療共同体をサポートしてきた支援者たちによる回復の物語の記録まで、これまで十分には語られてこなかった治療共同体の方法論と新たな応用可能性を探る」もの(カバーソデ紹介文より)。編著者の藤岡淳子(ふじおか・じゅんこ)さんは大阪大学大学院人間科学研究科教授で一般社団法人もふもふネットの代表です。

★作品社さんの9~10月新刊より3点。『経済的理性の狂気』は『Marx, Capital and the Madness of Economic Reason』(Profile Books, 2017)の全訳。「グローバル資本主義が嘆かわしい状態にあって、理解しづらい軌道をたどっていることを考えると、マルクスが何とかして解明せんとしたものを再検討することは時宜にかなっているように思われる」(11頁)。「マルクスの資本の概念とその運動法則とされるものとを、どのように理解すべきなのか。理解できるとすれば、われわれは現状の窮地をどのように把握できるのか。これらが本書で検討する課題である」(15頁)。『オランダの文豪が見た大正の日本』はオランダの作家クペールス(Louis Couperus, 1863-1923)の紀行文『Nippon』(1925年)の訳書。1922年(大正11年)の春から夏にかけて5か月間、長崎、神戸、京都、箱根、東京、日光を旅行した記録で、ノスタルジックな写真70点も収録されています。箱根では富士屋ホテルに宿泊。『この社会で働くのはなぜ苦しいのか』は2010年から2017年にかけて『現代思想』誌などに寄稿してきた論考に書き落ろしを加えた一冊。単独著としては『臨床社会学ならこう考える――生き延びるための理論と実践』(青土社、2009年)以来の久しぶりのものです。

★藤原書店さんの10月新刊は3点。『道――自伝』は『全著作〈森繁久彌コレクション〉』全5巻の第1回配本となる第1巻。「道」の字はカバー表1の「自伝」の上に大きく空押し加工されています。自伝においては満州でソ連兵と対峙する場面など、読んでいる方も生きた心地がしませんが、歴史の一証言として読む価値があります。付属の「月報1」では、草笛光子、山藤章二、加藤登紀子、西郷輝彦の各氏の談話と寄稿が読めます。草笛さんはこうした著作集がなぜ今までなかったのか、とご立腹のご様子。『はぐくむ』は「中村桂子コレクション」全8巻の第3回配本。収録作品は書名のリンク先でご確認いただけます。付属の「月報3」には米本昌平、樺山紘一、玄侑宗久、上田美佐子の各氏が寄稿。『“フランスかぶれ”ニッポン』は京都大学名誉教授で経済学者の橘木俊詔(たちばなき・としあき:1943-)さんによるフランス論であり、フランス文化が近現代日本に与えたインパクトを分析する一書。

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by urag | 2019-10-28 03:11 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 10月 21日

月曜社2019年11月新刊:カール・ヤスパース『ニーチェ』佐藤真理人訳

2019年11月15日取次搬入予定*人文/ドイツ近現代哲学

ニーチェーー彼の〈哲学すること〉の理解への導き
カール・ヤスパース[著] 佐藤真理人[訳]
月曜社 2019年11月 本体:8,400円 A5判上製840頁 ISBN: 978-4-86503-081-5 C1010

アマゾン・ジャパンにて予約受付中

内容:後世における数々の誤解に抗し、うわべの姿を払拭してその哲学の内実を浮かび上がらせる、大著の半世紀ぶりの新訳。限界と根源とへと突き進んだ人間存在そのものの一つの運命がここにひもとかれる。ニーチェの引用をグロイター社の新ニーチェ全集と照合させた労作。(既訳:『ニーチェ』上下巻、草薙正夫訳、理想社版『ヤスパース選集』第18~19巻、1966~1967年)【シリーズ・古典転生、第20回配本、本巻19】

主要目次:第一版の序文|第二版と第三版の序文|序論|第一部 ニーチェの生|第二部 ニーチェの根本思想|第三部 実存の全体におけるニーチェの思惟様式|年譜|著作遺稿年表|書誌|訳者あとがき|索引(人名・事項)

原著:Nietzsche: Einführung in das Verständnis seines Philosophierens, De Gruyter, 3te Aufl., 1950 (1936).

カール・ヤスパース(Karl Jaspers, 1883-1969)ドイツの哲学者。精神病理学者として出発し、大きな業績を残す。心理学を経て哲学に転じ、広く深い哲学史的知識を下地として、キルケゴールとニーチェの強い影響の下に、『哲学』(全3巻、1932年)によって実存哲学を大成した。現在、スイス・シュヴァーベ社からヤスパース全集が刊行中である。

佐藤真理人(さとう・まりと、1948-)哲学研究者。早稲田大学名誉教授。主な研究分野は独仏実存哲学。近年の著訳書にミケル・デュフレンヌ/ポール・リクール『カール・ヤスパースと実存哲学』(月曜社、2013年)、『交域する哲学』(共著、月曜社、2018年)がある。

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by urag | 2019-10-21 12:39 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 10月 20日

注目新刊:ユング『分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』みすず書房、ほか

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分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』カール・グスタフ・ユング著、ソヌ・シャムダサーニ/ウィリアム・マガイアー編、横山博監訳、大塚紳一郎/河合麻衣子/小林泰斗訳、みすず書房、2019年10月、本体3,600円、四六判296頁、ISBN978-4-622-08843-1
人種と歴史/人種と文化』クロード・レヴィ=ストロース著、ミシェル・イザール序文、渡辺公三/三保元/福田素子訳、みすず書房、2019年10月、本体3,600円、四六判上製152頁、ISBN 978-4-622-08850-9
AI以後――変貌するテクノロジーの危機と希望』丸山俊一/NHK取材班編著、NHK出版新書、2019年10月、本体800円、新書判208頁、ISBN978-4-14-088603-8
キリスト教の合理性』ジョン・ロック著、加藤節訳、岩波文庫、2019年10月、本体1,010円、文庫判400頁、ISBN978-4-00-340079-1
柄谷行人浅田彰全対話』柄谷行人/浅田彰著、講談社文芸文庫、2019年10月、本体1,800円、A6判256頁、ISBN978-4-06-517527-9

★『分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』は『分析心理学セミナー1925――ユング心理学のはじまり』(河合俊雄監訳、猪股剛/小木曽由佳/宮澤淳滋/鹿野友章訳、創元社、2019年6月)と同じ原書(1989/2012年)の新訳。訳者あとがきによれば諸事情があったようで、非独占の形態で版権を取得され、創元社版との共存が果たされました。読者にとってみれば二書を読み比べる中で得るものがあるはずですし、歓迎したいと思います。個人的にはむしろこの二書を併せてご購読いただくことをお薦めしたいです。ここでは出版社の視点から、帯文を比べてみます。目次はそれぞれの書名のリンク先でご確認いただけます。

創元社版:『赤の書』はこうして分析心理学になった! 心理学は、「人生を豊かにする」学問である――ユングが生き生きと語りだしたみずからの心理学の生成過程とは? 世界が待ち望んだユング心理学の新しい入門書。

みすず書房版:無意識との対決から超越機能へ。ユング自らが生き生きと語ったフロイト、『赤の書』、タイプ論。最良の手引きと呼ぶべき、ユング心理学誕生のドキュメンタリ。

★『赤の書』が創元社より、『ユング自伝』や『タイプ論』がみすず書房より、それぞれ刊行されており、二社にとって意義深い出版となっているのが分かります。ユングにはまだ未訳の著作が残っているので、「ユング・コレクション」の人文書院さんを含め、ぜひ各社さんのさらなるご尽力を期待したいと思います。

★『人種と歴史/人種と文化』は『Race et Histoire, Race et Culture』(Albin Michel / UNESCO, 2001)の全訳。『人種と歴史』は、原書がもともと「1952年、ユネスコの依頼で書かれた、人種差別の偏見とたたかう小冊子シリーズの一冊であり、キャンペーンの背景にはナチス・ドイツの人種理論の根絶という戦後の切迫した問題意識があった」(カバー表4紹介文より)と。既訳書としては、荒川幾男訳がみすず書房より1970年に刊行されています(2008年新装版を最後に品切)。今回の新訳は渡辺公三さんの遺稿であり、西成彦さんが校閲されたとのことです。『人種と文化』は既刊書『はるかなる視線(I)』(みすず書房、1986年)の第一章「人種と文化」を、訳者である三保さんの許諾のもとに再録したもの。編集部による巻末特記によれば「表記等を若干改めた箇所がある」そうです。荒川訳『人種と歴史』では巻末に、フランスの民族学者であり哲学者のジャン・プイヨン(Jean Pouillon, 1916-2002)による「クロード・レヴィ=ストロースの業績」が収められていましたが、今回の新訳では巻頭にフランスの人類学者であるミシェル・イザール(Michel Izard, 1931-2012)による「序文」が配されています。

★『AI以後』は帯文に曰く「世界の異能の知性が語る、人類とAIをめぐる最先端のビジョン」。今夏全5回でNHKEテレにて放送された「超AI入門特別編 世界の知性が語るパラダイム転換」の書籍化です。宇宙物理学者マックス・テグマーク、倫理学者ウェンデル・ウォラック、哲学者ダニエル・デネット、「WIRED」元編集長ケヴィン・ケリーへのインタヴューに、NHKのプロデューサー丸山俊一さんによる「終章」と「あとがきにかえて」を加えたもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。興味深い知見に満ちた一冊ですが、中でも印象的だったもののひとつがデネットの次の言葉でした。

★「AIが自律性を持てば、私たちに隠しごとをするようになるでしょう。自立したエージェントは他のエージェントに自分の考えていることを悟られないようにするからです。ですから意識を持った、独自の意識をもって会話することのできるAIをつくろうとするならば、「神が人間に言葉を与えたのは、互いの考えていることを隠すためである」という、かのタレーランの名言を思い出すべきです。この皮肉な言葉には深い示唆があります。意識を持ったAIが非常に率直で、誠実で、全く裏表のないものになることは期待できません。真の意識とは相反する性質だからです。そのため非常に気をつけなければなりません。/私たちは、同じ人間同士でさえ協力や善意を受けるのにずいぶんと苦労しています。そこに自律型エージェントというカテゴリーが加わったら、ますます面倒なことになります。人間より素早く考えることができ、人間との共通点もあまりないからです。それが、人間と同等、またはより賢い知的エージェントをつくることに非常に慎重であるべきだと私が考える主な理由です」(103~104頁)。

★『キリスト教の合理性』は『The Reasonableness of Christianity, as Delivered in the Scriptures』(原題:聖書に述べられたキリスト教の合理性)の新訳。既訳には『キリスト教の合理性・奇跡論』(服部知文訳、岬書房、1970年;改訂版、国文社、1980年)があります。「ロック晩年の重要作。〔…〕理神論への道を開いた、ヨーロッパの宗教思想史を語るうえで不可欠の書」と帯文に謳われています。巻末の訳者解説では「敬虔なキリスト教徒であったロックが、なぜ、晩年になって、キリスト教とは何かを問わなければならなかったか」に焦点があてられ、晩年のロックの思想が整理されています。岩波文庫での加藤さんによるロックの訳書は、2010年の『完訳 統治二論』と2018年の『寛容についての手紙』に続いて3点目となります。

★『柄谷行人浅田彰全対話』は、柄谷さんの『ダイアローグⅢ』(第三文明社、1987年)や『ダイアローグⅣ』(第三文明社、1991年)、浅田彰さんの『「歴史の終わり」を超えて』(小学館、1994年;中公文庫、1999年)に収録されたもののほか、単行本未収録の雑誌対談を加え、全6本を1冊にまとめたもの。お二人の他に鼎談者がいるような座談会は収録していません。巻末に、柄谷さんによる「浅田彰と私」という一文が添えられています。末尾に次のような印象的な言葉が刻まれています。「彼は私にとって最高のパートナーであった。漫才でいえば、私はボケで、彼はツッコミである。あらゆる面で助けられた。私が思いついた、いい加減な、あやふやでしかない考えが、彼の整理によって、見違えるようになったことも何度もある。また、アメリカでもフランスでも、彼の言語能力と当意即妙の判断力にどれだけ助けられたことだろう。/「批評空間」をやめて以後、私はまた、対談や座談会が苦手になった。その意味では、元の自分に戻ったといえるかもしれない」(243頁)。

★講談社文芸文庫での柄谷さんの「全対話」には、2011年の『柄谷行人中上健次全対話』、2013年の『柄谷行人蓮實重彦全対話』があり、講談社さんの単行本では2018年の『大江健三郎 柄谷行人 全対話――世界と日本と日本人』があります。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

現代思想からの動物論――戦争・主権・生政治』ディネシュ・J・ワディウェル著、井上太一訳、人文書院、2019年10月、本体3,500円、4-6判並製410頁、ISBN978-4-409-03105-6
多田尋子小説集 体温』多田尋子著、書誌汽水域、2019年10月、本体1,800円、四六判上製224頁、ISBN978-4-9908899-2-0

★『現代思想からの動物論』は、オランダの出版社Brillのシリーズ「Critical Animal Studies」で2015年に刊行された『The War against Animals』の全訳。ワディウェル(Dinesh Joseph Wadiwel)はオーストラリアの人権・社会法学者で、今回の訳書が日本初訳となります。帯文に曰く「あらゆる権力支配の基盤に、人間による動物支配をみる力作。人文学の動物論的転回」。「生政治」「征服」「私的支配」「主権」の4部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「本書の中で筆者は、人間と人外の力関係を規定する合理性を組織的次元で捉え、この関係を形づくる支配の様態と率直に向き合うことを試みる。人間と動物の政治関係を筆者は慎重に見取り図の形で示すが、この記述は私たち人間がみずからをどう見たがるかを離れ、私たちが自身らの支配する動物たちからどう見られているかを想像しようと努める。畢竟、暴力はそれを行使する者の視点からではなく、その威力を被る者の主体性を通してのみ理解しうる。〔…本書の原題〕『動物たちとの戦争』は最低でも、人間動物関係を親切、自然、ないし互恵的とみる主流言説の中和剤となる」(「日本語版まえがき」、2頁)。「世界規模でみれば、私たちの主要な動物利用の形態は、根深い敵意、暴力、支配の様態を映し出している」(同、3頁)。

★「本書の狙いは、理論的角度から人間動物関係をめぐる私たちの理解を揺さぶり問うた上で、この関係を彩る暴力の認識と克服へ向けた枠組みを示すことにあった。筆者が試みたのは以下のこととなる。/一、人間動物関係を戦争という観点から捉える。〔…〕二、動物たちとの戦争を目立って生政治的色彩の濃いものと理解する。〔…〕三、対動物戦争が継続的な日々の征服行為を伴うと認識する。〔…〕四、動物に対する人間の主権を概念化し、動物の主権に向けて考察を始める」(終章「停戦」、357~359頁)。「多くの人々は人間が動物たちに振るう暴力の広がりを直視または論評せず、大勢が楽しむ伴侶動物らとの関係は、愛と互恵と無支配に彩られているとみえる。が、本書は違う見方を示す」(「日本語版まえがき」、2頁)。日本においても本書の議論は様々な反響を呼ぶのではないかと予想できます。

★『多田尋子小説集 体温』は、書誌汽水域さんによる書籍第3弾。作家の多田尋子(ただ・ひろこ:1932-)さんの小説3編を収めた「ままならない大人の恋を描いた恋愛小説集」(カバー紹介文より)。「体温」(「群像」1991年6月号)、「秘密」(「群像」1992年10月号)、「単身者たち」(「海燕」1988年11月号)を収録(ちなみに講談社より1992年に刊行された作品集『体温』では「やさしい男」「焚火」「オンドルのある家」「体温」が収録されています)。新たに付された「あとがき」には自著の久しぶりの復刊に驚きを隠せない著者の心情が綴られています。投げ込みで「あなたの温もり、あなたとの距離」という11頁の冊子があり、大塚真祐子さん(三省堂書店成城店)、八木寧子さん(湘南蔦屋書店)と、発行者で書店員の北田博充さんのお三方による、本書をめぐるエッセイ3編が掲載されています。また、同名のチラシ(二子玉川・蔦屋家電にて無料配布中)では、多田作品との併読をお薦めする恋愛小説8作品を北田さんが紹介されています。多田さんは54歳から63歳までの活動期間中、芥川賞に歴代最多となる6度ノミネートされています。それから約4半世紀、書店員さんの努力によって名編が甦ったことは特筆に値すると思います。

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by urag | 2019-10-20 23:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)