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ウラゲツ☆ブログ

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2020年 12月 31日

月曜社最新情報まとめ(ブログの最新エントリーは当記事の次からです)

◆公式ウェブサイト・オリジナルコンテンツ
◎2011年6月28日~:ルソー「化学教程」翻訳プロジェクト。

◆最新刊と近刊(書籍の発売日は、取次への搬入日であり、書店店頭発売日ではありません)
◎2019年8月7日発売:久保明教『ブルーノ・ラトゥールの取説』本体1,800円、シリーズ〈哲学への扉〉第3回配本。
◎2019年8月7日発売:新井俊春『名人農家が教える有機栽培の技術』本体2,700円。
◎2019年5月23日発売:『森山大道写真集成(4)光と影』本体6,000円。
◎2019年5月14日発売:ジョージ・ラミング『私の肌の砦のなかで』本体3,800円、叢書・エクリチュールの冒険第13回配本。
◎2019年4月26日発売:『表象13:ファッション批評の可能性』本体2,000円。
◎2019年3月22日発売:ロザリンド・E・クラウス『視覚的無意識』本体4,500円。
 志賀信夫氏書評「テキストの迷宮が絵画とは何かを問いかける」(「週刊読書人」2019年5月31日号)
 暮沢剛巳氏書評「グリーンバーグのモダニズム美術論の批判的克服、ある種の「親殺し」の書――ようやく実現した待望の邦訳の出版を素直に喜びたい」(「図書新聞」2019年6月15日号)
◎2019年3月6日発売:筧菜奈子『ジャクソン・ポロック研究』本体4,000円、シリーズ・古典転生第19回配本、本巻18。
 中島水緒氏短評(「美術手帖」2019年6月号「BOOK」欄)
◎2019年2月22日発売:ハナ・ロスチャイルド『パノニカ――ジャズ男爵夫人の謎を追う』本体2,700円。
 宮下志朗氏短評(「読売新聞」2019年5月5日付書評欄)
◎2019年2月20日発売:十和田市現代美術館編『毛利悠子 ただし抵抗はあるものとする』本体2,200円。
◎2019年2月18日発売:須藤温子『エリアス・カネッティ――生涯と著作』本体3,500円、シリーズ・古典転生第18回配本、本巻17。
◎2019年2月1日発売:松江泰治『JP-34』本体3600円。
◎2018年12月17日発売:『森山大道写真集成(1)にっぽん劇場写真帖』本体6,000円。
◎2018年10月5日発売:東琢磨ほか編『忘却の記憶 広島』本体2,400円。
 好井裕明氏書評「読み応えのあるヒロシマ論――「記憶」の「劣化」を防ぐために」(「週刊読書人」12月8日号)
 渡邊英理氏書評「「忘却の口」=他なる記憶の穴へとはいりこむ――「信頼」への「信頼」を忘れていたかもしれないことに、わたしたちは本書を通じて気づくことができる」(「図書新聞」2019年1月19日号)
◎2018年10月1日発売:AYUO『OUTSIDE SOCIETY』本体2,000円。
 松山晋也氏書評「稀有な体験を糧に唯一無二の視点からの優れた音楽論」(「intoxicate」#137(2018 December)O-CHA-NO-MA REVIEW「BOOK」欄)

◆重版情報
◎2019年5月10日:甲斐義明編訳『写真の理論』2刷。
◎2019年7月26日:ロザリンド・E・クラウス『視覚的無意識』2刷。

◆販売情報(重版・品切・サイン本、等々)
◎品切重版検討中:『ミクロコスモス第1集』2刷、ユンガー『パリ日記』2刷、ギルロイ『ブラック・アトランティック』4刷、バトラー『権力の心的な生』新版。
◎品切重版未定:『舞台芸術05』『舞台芸術08』『表象01』『表象02』『表象04』『表象05』『表象08』『表象09』、毛利嘉孝『文化=政治』、クリフォード『ルーツ』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』、ハーマッハー『他自律』、ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』、片山廣子『燈火節:随筆小説集成』『新編燈火節』、竹内てるよ『静かなる夜明け』、ブランショ『書物の不在 初版朱色本』『書物の不在 第二版鉄色本』『謎の男トマ 初版本』、高柳昌行『汎音楽論集』、大里俊晴『マイナー音楽のために』、大竹伸朗『ネオンと絵具箱』、森山大道写真集『新宿』『新宿+』『大阪+』『オン・ザ・ロード』『何かへの旅』、森山大道フォトボックス『NOVEMBRE』、やなぎみわ作品集『WHITE CASKET』、川田喜久治写真集『地図』、遠藤水城編『曽根裕|Perfect Moment』、熊木裕高写真集『吠えない犬』、瀬戸正人写真集『picnic』、菱田雄介写真集『ある日、』。※書店からの返品で在庫がまれに生じる場合があります。直接、弊社までお電話かメールなどでお尋ね下さい。

◆出版=書店業界情報:リンクまとめ
◎業界紙系:「新文化 ニュースフラッシュ」「文化通信
◎一般紙系:Yahoo!ニュース「出版業界」「電子書籍」「アマゾン
◎話題系:フレッシュアイニュース「出版不況」「電子書籍」「書店経営
◎新刊書店系:日書連 全国書店新聞
◎雑談&裏話:5ちゃんねる 一般書籍

※このブログの最新記事は当エントリーより下段をご覧ください。 
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# by urag | 2020-12-31 23:59 | ご挨拶 | Trackback(1) | Comments(21)
2019年 08月 24日

閉店後

こんな話を書店さんから聞いたことがあります。

ある日の閉店後、担当フロアで私は上司と二人で残業していました。棚をいじっていると、背を向けていたバックヤードに上司が入った気配がして、物音がします。しばらくして、上司から私のピッチに在庫の問い合わせが入り、近くにいるのになあ、と思いながらバックヤードに入りました。誰もいません。「あれ、課長、いまどこにいますか」「えっ、地下だけど」。バックヤードには窓がなく、狭くて薄暗く閉塞感があります。私が仕事をしているフロアでは、バックヤードから明らかに物音がするけど誰もいないということが良くあります。古いビルの店なので、ネズミかもしれないし、あるいは配管の音でしょうか。嫌な感じです。

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# by urag | 2019-08-24 14:11 | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 18日

注目新刊:千葉雅也「デッドライン」(『新潮』9月号)、ほか

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★同じ時期に刊行された新刊書籍どうしには、偶然とも必然とも言いがたい響き合いが生じるときがあります。それは隠された鍵であり、もともと著者が外部へと向けて風穴を開けていることの証左でもあれば、読者側が磁場を作動させてしまう場合もあります。今回の場合、千葉雅也さん、中沢新一さん、サミュエル・ベケットのテクストに、互いを引き寄せ合う何かを感じました。

デッドライン」千葉雅也著、『新潮』2019年9月号所収、新潮社、2019年8月(本体907円、A5判並製396頁、雑誌04901-09)、7~77頁
レンマ学』中沢新一著、講談社、2019年8月、本体2,700円、四六変型判上製482頁、ISBN978-4-06-517098-4
マロウン死す』サミュエル・ベケット著、宇野邦一訳、河出書房新社、2019年8月、本体2,700円、46判上製212頁、ISBN978-4-309-20779-7

★千葉雅也さんの初めての小説作品「デッドライン」が文芸誌「新潮」2019年9月号に掲載されています。目次に記載されている紹介文は以下の通りです。「線上で僕は悩む。動物になることと女性になることとの間で。哲学者から小説家への鮮やかな生成変化。21世紀の『仮面の告白』、誕生!【230枚】」。作品名のリンク先で最初の一部を立ち読みすることができます。とても第一作とは思えないほどの見事な、魅力的な作品です。デビュー作『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社、2013年;河出文庫、2017年)の前日譚として読むことができます。この作品の魅力と仕掛けは、おそらく千葉さんの人生の振り幅の分だけ存在しており、既刊書で表出されてきた様々な側面は今回の小説と見事に連環しているように思われます。この作品は時間軸に沿って展開するというよりは、過去と現在と未来が折りたたまれた水晶を覗き込むような印象を読者に与えます。60頁から61頁に掛けては、主人公の僕が語る物語の海面がめくれ上がるようにして友人知子が主語として浮上する場面があります。この何気ない特別さ。本作が三島由紀夫にとっての『仮面の告白』に似た意義を帯びるとすれば、千葉さんにとって「デッドライン」はひとつの「生の回復術」たりうるでしょうか。第二作が今から待望されるのも当然だろうと感じる快作です。

★「いま僕の円環はほどけ、僕は振動する線になって伸びていく。上昇し下降し、ある高さに留まり、途切れては再開する。/僕はときに向こうへと飛び越えそうになりながらも、線の手前でただ自転していた。そのバランスが崩れた。それが崩れた先でできることは何か。それは今度は、僕自身が線と一致することだ。外から与えられた線に対して程よい距離を測り続けるのではなく。泳ぎを楽しむ魚のすばやいカーブのような線になる。/僕は線になる。/自分自身が、自分のデッドラインになるのだ」(77頁)。音楽的という以上にこれは音楽なのでしょう。

★『レンマ学』はあとがきによれば、「『チベットのモーツァルト』に始まる三十年以上も続けられてきた私の探究のたどりついたひとつの山頂を示している」もので、「『レンマ学』の第一部をなす」、いわば到達であると同時に始まりでもある一書です。「その間に続けられたさまざまな訓練、読書、旅、問題の所在場所の位置測定、登頂ルートの検討と決定、装備の点検などをへて、私は一人でベースキャンプを出て山頂に向かった。しかしヒマラヤ地帯を歩いた経験からよく知っているのだが、山頂と思ってたどり着いてみると、そのむこうにはさらに巨大な山塊が聳えているのである。本書がたどりついた山頂なども、もっと巨大な山塊の小さな前山にすぎないのであろう。この「あとがき」を書いていても、私には自分の前にくっきりとその姿をあらわしているその「類推の山」(ドーマル)が見えている。この山は知的世界のグーグル地図にもまだ載っていない。しかもその山は想像以上に遠くにある」(457頁)。「とりとめもないほどに多様に思われたさまざまな助走路が、この道のまわりに集合して意味ありげな枝道として互いに結び合うようになった。私は日本人による創造を待っている新しい知的体系というものを探し求め続けてきたが、それに確実に手を掛けたという実感をこの時〔2016年度の南方熊楠賞授賞式講演の準備中〕持つことができた」(458頁)。

★「対称性が働きだすと、ロゴス的知性のつくりだしている「全順序」の構造は壊れてしまう。意識的思考にとってきわめて重要な時間における順序構造が壊れると、過去、現在、未来という時間の線形秩序が壊れてしまう〔…〕。無意識がむき出しの状態で意識を働きを圧倒しだすと、空間の中の点の順序も失われてくる。そうなると空間性じたいが失われていく。運動は時間の中で起こる空間的な場所の置き換えであるから、空間と時間が対称性無意識の働きによって失われると、運動そのものも消えていくことになる」(174頁)。

★『マロウン死す』(原著1951年刊)は、『モロイ』(こちらも原著1951年刊)に続く、ベケット没後30年個人訳三部作小説の第2弾。帯文に曰く「黒いユーモア、根深いペシミズム、そして小鳥の歌のような祈り――「小説三部作」の2作め」。投げ込み栞には、高橋悠治さんによる「声は色褪せ」と、金氏徹平さんによる「風のない夜は、私にとってまた別の風」、の2篇を収めています。宇野さんは訳者あとがきで次のように述べています。「『モロイ』に続けて書かれる『マロウン死す』で、物語を位置づける時空の観念は、もっと不連続で、しばしば唐突に切断される。基底の時間は、話者が自分の死に挑む時間に設定されている。その話者はおよそ三万日生きたとか、年齢は九十あるいは四、五十代であるとも、いい加減に書かれる。時間の観念などないに等しいが、死または終わりの観念ならば確かにある。しかし死はもちろん体験しえない出来事である(それなら生は体験しうるのか?という問いが当然わきあがってくる)。語り手の思考は、体験しえない死をめぐり、死の前のそのまた前の時間のなかにあるしかない。〔…〕〈臨死〉の時間を引き延ばし、加工し、仮構することができるのはベケットの言葉、語り手に託された思考だけである」(198頁)。

★ベケットは末尾付近でこう書いています。「この陰鬱な体たちの絡みあい、それが彼らだ。闇のなかでもはや彼らはひとつのかたまりにすぎない。黙ったまま、ほとんど見えない。たぶんたがいにしがみついている、頭はケープのなかで何も見えない。彼らは湾の遠くにいる、レミュエルはもう漕ぐのをやめ、オールは水のなかを滑っていくだけだ。夜は不条理にちりばめられ」(191頁)。この場面の、死の影をまとった暗さと、千葉さんの「デッドライン」の冒頭と末尾で描かれる、男たちの活力に満ち溢れた肉体と動きを包む闇の暗さとの、対比あるいは表裏一体。

★このほか、以下の新刊と既刊に注目しました。ヴァシェ、ペソア、レーヴィは、彼らが実存主義と分類されることはないかもしれませんが、生の苦悩と死を見つめた思索者であり書き手として、広い意味で20世紀の実存思想の星座を輝かせる、不可欠の存在ではないかと感じます。

戦時の手紙――ジャック・ヴァシェ大全』ジャック・ヴァシェ著、原智広訳、河出書房新社、2019年8月、本体3,400円、46判上製248頁、ISBN978-4-309-20778-0
不安の書【増補版】』フェルナンド・ペソア著、高橋都彦訳、彩流社、2019年8月、本体5,200円、四六判上製688頁、ISBN978-4-7791-2604-8
プリーモ・レーヴィ全詩集――予期せぬ時に』プリーモ・レーヴィ著、竹山博英訳、岩波書店、 2019年7月、本体2,800円、四六判上製272頁、ISBN978-4-00-061353-8
ラカン――反哲学3 セミネール 1994-1995』アラン・バディウ著、ヴェロニク・ピノー校訂、原和之訳、法政大学出版局、2019年8月、本体3,600円、四六判上製356頁、ISBN978-4-588-01100-9

★『戦時の手紙』はまもなく発売。既訳には『戦場からの手紙』(神戸仁彦訳、ゴルゴオン社、1972年;夢魔社発行、牧神社発売、1974年;村松書館、1975年)などがありましたが、久しぶりの新訳です。帯文はこうです。「シュルレアリスム誕生の霊媒者にして永遠の反抗者、23歳で自殺した伝説の詩人ジャック・ヴァシェ、100年目に降臨」。100年目というのはヴァシェ(Jacques Vaché, 1895-1919)の没年から数えてです。ヴァシェの手紙は今回初めての「ほぼ全訳」とのこと。目次は以下の通り。

はじめに|原智広
戦時の手紙 1915-1918
 ジャンヌ・デリアンの証言|ジャンヌ・デリアン
 アンドレ・ブルトンの証言|アンドレ・ブルトン
 手紙|ジャック・ヴァシェ
 小説「血濡れの象徴」|ジャック・ヴァシェ
 詩「蒼白なアセチレン」|ジャック・ヴァシェ
自殺に関するアンケート|「シュルレアリスム革命」誌2号、1925年、バンジャマン・ペレ/ピエール・ナヴィル編集
ジャック・ヴァシェの召喚|原智広
ジャック・ヴァシェ年譜
ジャック・ヴァシェに関する書籍
あとがき|原智広

★「自殺に関するアンケート」(141~191頁)は初訳です。問いはこうでした。「自殺はひとつの解決であるか?」。回答者は以下の通り。フランシス・ジャム、ジョゼフ・フロリアン、ピエール・ルヴェルディ、レオン・ピエール=クイント、アンドレ・ルベー、モーリス・ダヴィド、フェルディナンド・ディヴォワール、M・J・ポトー教授、ゴロディシュ博士、ギヨ・ド・セ、ジョルジュ・フレスト、レオン・ウェルト、ルイ・ド・リュシー、ルイ・バストール、ジョルジュ=ミシェル、ポール・ブラッシュ、ピエール・ド・マソ、ジョルジュ・デュヴォー、L・P、クロード・ジョンキエール、ポール・レシュ、フロリアン=パルマンティエ、フェルナンド・グレーグ、ミシェル・コルデー、ミシェル・アルノー、ボニオ博士、レオン・バランジェ、ジョルジュ・ポルティ、マルセル・ジュアンドー、ジャン・ポーラン、モーリス・ド・フルーリー博士、ポール・ルセーヌ教授、クレマン・ヴォーテル、ジャック・ヴァシェ、エ・ラッブ、バンジャマン・コンスタン、ジェローム・カルタン、セナンクール・オーベルマン、フィリップ・カザノヴァ、イヴ・グジャン、アンドレ・ビアーヌ、マキシム・アレクサンドル、アンドレ・ブルトン、アントナン・アルトー、ヴィクトール・マルグリット、ジョルジュ・ベシエール、ピエール・ナヴィル、ルネ・クルヴェル、M・E・テスト氏、アルノルト・バーグレイ、マルセル・ノル。アルトーの回答の出だしが印象的です。「いいえ、自殺は未だひとつの仮説にすぎない」(169頁)。

★ヴァシェは手紙でこう書いています。「薄汚い泥のような国家の統治は絶対的で、誰も反論を許さない。腐ったマヨネーズのような臭い、肢体から大量の腐った液体が滲み出る。少しでも耳を傾ければ、あなたたちの水面下では意味空疎な歌声が響き渡る、なんてひどい有様だ! どいつもこいつも綺麗ごとを歌っている。人々は瓦礫の中で片輪になりもがいている! 住居は粉々に潰され、人々は殺され、衰退している。これが進歩だって? 生活を改善するって? 火事の最中で火傷を負い、ひりひりする感じだ。見ろよ、こいつが「革命」ってやつさ! 実に見事なものだ。黙示録の契りの中で、よりよい都合がよりよい状況を生み出す、戦争という神像を崇めるものどもに天罰を下すために遣わされた仲介者が、あなたたちのおつむの中に湧いてくる、創世記に交わされた業という名の契りだ」(75頁)。訳者の原智広(はら・ともひろ:1985-)さんによる「ジャック・ヴァシェの召喚」はいわゆる訳者解説ではなく、ヴァシェの憑依によって成ったと言うべきテクストです。

★『不安の書【増補版】』は、2007年の新思索社版『不安の書』に、同書の底本であるクワドロス版(1986年)と重複していないピサロ校訂版(2010年)の断章6篇を選んで訳出し、増補分(621~633頁)として加え、合計466篇の断章を提示するもの。新思索社版は版元の廃業のため入手不可能になっていたので、今回の再刊は驚きであるとともに喜ばしいものとなりました。同書の抄訳版には、澤田直さん訳による『不穏の書、断章』(思潮社、2000年;新編、平凡社ライブラリー、2013年)があります。澤田さんは同書に添えた「止みがたき敗北への意志――ベルナルド・ソアレス著『不穏の書』解題」で、「ソアレスの反デカルト的言辞には、実存主義の背景にある世界への不安を先取りするものも見え隠れする」と指摘しておられます。

★「世界は感じない人間のものだ。実用的な人間になるための本質的な条件は感性に欠けていることだ。生活を実践する上で大切な資質は行動に導く資質、つまり意志だ。ところが、行動を妨げるものがふたつある。感性と、結局は感性をともなった思考に過ぎない分析的な思考だ。あらゆる行動はその性質上、外界に対する個性の投影であり、外界は大きく主要な部分が人間によって構成されているので、その個性の投影は、行動の仕方次第では、他人の進む道を横切ったりさえぎったり、他人を傷つけたり踏みつけたりすることになる。/したがって、行動するには、われわれは他人の個性、彼らの苦悩や喜びを容易に想像できないでいることが必要になる。共感する者は立ち止まってしまう。行動家は外界をもっぱら動かない物質――彼が踏みつけたり、道から取り除いたりする石のように、それ自身動かないものであれ、あるいは石のように取り除かれるか踏みつけられるかして抵抗するすべもないまま、石と同様に動かない人間であれ――そうした物質から構成されていると見なす。/実用的な人間の最高の例は、最高の行動集中力を持ち、しかもそれを最高に重要視するので、戦略家だ。人生はすべて戦争であり、したがって、戦闘は人生の総合だ」(断章103より、188~189頁)。

★私はペソアの中に、現代人の苦悩を見る思いがします。また、自分が考えてきたこと、書き記したこと、経験したことの原型と変奏を見出します。ペソアは現代人の隣人であり続け、『不安の書』はこれからも人々の共感のもとに読み継がれるに違いありません。おそらく本書は外国文学の棚に置かれるのでしょうけれども、カフカのアフォリズムやシオランの著書などと併せて、ペソアの思索は人文書の哲学思想棚においても、その一角を占めるにふさわしい深度を持っていると感じます。

★『プリーモ・レーヴィ全詩集』の原書である、生前最後の詩集『予期せぬ時に』は、まず1984年にガルツァンティ社から刊行され、1990年に同社から増補版が刊行されています。訳書ではこの増補版の全訳に加え、エイナウディ社版『プリーモ・レーヴィ全集』(1997年、2016年)に収められた、新たに見つかった詩3篇も併せて収録している、いわば特別版です。

★1984年10月29日の作品「ある谷」から印象的な前半部を引用します(137~138頁)。

私だけが知っているある谷がある。
そこには簡単にたどり着けない、
入り口に絶壁があり、
灌木が生い茂り、隠された徒渉場があり、流れは急で、
道は見分けがたい踏み跡になっている。
多くの地図にはその場所が出ていない。
そこに続く道は私一人で見つけた。
何年も費やし、
よくあるように、何度も間違えたが、
むだな時間にはならなかった。
私の前にだれが来たのか分からない、
一人か、何人か、あるいはだれも来なかったのか。
この問いは重要ではない。
岩の表面にしるしがある、
そのいくつかは美しいが、みな謎に包まれている、

★レーヴィ(Primo Michele Levi, 1919-1987)は、『予期せぬ時に』が刊行された1984年10月当時、評論家のアントニオ・アウディーノによるインタヴューに応えてこう発言しているそうです。「詩とは限界にまで凝縮された言語であり、意味論的に豊かで、わずかな言葉が多くの意味を持つ。〔…〕私は散文で書くものには、そのあらゆる言葉に責任を持てるが、詩ではそうできない。ある種の言い方をするなら、私は詩を興奮状態で書くと明言できるだろう」(訳者解説の引用より、214~215頁)。1981年には別の評論家ジュゼッペ・グラッサーノに答えて「私は詩をある方法に則って書くことはできない……それはまったく制御できない現象だ」(同、215頁)とも。ちなみに訳者解説では、レーヴィによるツェラン評にも言及されています。レーヴィはツェランに対し、こう書いているといいます。「意味不明な不完全な言語で、死にかけている、孤立した人が発するものだ。我々が死ぬ時はみながそうであるように。だが我々生者は孤立していないので、あたかも孤立しているように書くべきではない。我々は生きている限り責任を負っている。我々は書く言葉の一つ一つに責任を持つべきで、その言葉がきちんと目標に届くようにすべきなのだ」(レーヴィ「分かりにくく書くこと」)。

★竹山さんは次のように指摘します。「レーヴィはこうして詩の内容が読者に伝わるような書き方を理想として、詩作を進めたわけだが、実際に彼の詩がすべての人に分かりやすいかと言えば、必ずしもそうではない。彼は散文で使う言葉には責任を持てるが、詩ではそうできないと言っている。それは詩が理性で制御できないものを含んでいて、そうしたものは比喩や寓意を使って表現せざるを得ないからだ。この詩集では理性の人であるレーヴィが半分に裂かれ、制御できないもう一人の自分と向き合うさまを読むことができる」(218~219頁)。興味深いことに、レーヴィの詩はツェランより遥かに理解しにくいものとなっているように感じます。上記に引用した部分はまだ想い浮かべやすい方ですが、後半部まで読むと、前半部で示されたように感じたレーヴィの内面世界が結局のところ何を象徴しているのか、はっきりとは分からなくなります。それはレーヴィの意に反して極めて暗号的です。

★『ラカン』はバディウの講義録『Le Séminaire - Lacan : L'antiphilosophie 3 : 1994-1995』(Fayard, 2013)の全訳。書名にある通り、1994年から1995年にかけて、ラカンを講じた全9講の記録です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。バディウは巻頭の序文でこう書いています。「前世紀の50年代末以降、ラカンは私の知的道程の、必要不可欠でもあれば近づき難くもある道連れだった」(1頁)。そして第Ⅰ講冒頭ではこう宣言しています。「今年は、現代の反哲学について一昨年はじめた一連の講義の仕上げをしたいと思います。われわれは現代の反哲学を創始するニーチェの立場からはじめ、昨年はウィトゲンシュタインの立場を検討しました。そしてラカンで締めくくりということになります」(7頁)。講義の第一の課題は「どのような意味でラカンが反哲学者なのかを立証すること」であり、第二の課題は「ラカンが反哲学者というだけでなく、現代の反哲学の締め括りであると考えられうるのはなぜなのか、その理由を明らかにすること」だと表明されています。

★より大きな構想ではラカン論は次のようなバディウ自身の見取り図の中にあります。「1994~1995年度の〈セミネール〉は、最も著名な反哲学者をまさに取り上げた四部作に組み込まれている。この四部作を締めくくったのが反哲学の根本的な伝道者、すなわち聖パウロ〔『聖パウロ――普遍主義の基礎』河出書房新社、2004年〕であったのに対し、まず取り上げられたのは現代の反哲学者たち、つまりニーチェ(1992~1993年度)、ウィトゲンシュタイン(1993~1994年度)そしてラカンであり、これらの三人は古典的反哲学者の三人組、パスカル、ルソーそしてキルケゴールに対置されていた。この三人組については、おそらくいつかセミネールを行なうことになるだろう。彼らは十分それに値するし、そもそもすでに私の著作のなかで頻繁に召喚されている」(3頁)。訳者あとがきによれば、「ファイヤール社からはこの50年にわたるセミネールのうち、1983年から2013年までが順次刊行される予定であり、ラカンを取り上げた1994~1995年のセミネールは、その嚆矢として2013年に刊行されたものである」とのことです。なお、本書ではセミネール一覧も掲載されています。

★本書は、ラカンにとってのマルクスについて論及される第Ⅴ講、ジャン=クロード・ミルネールとのやり取りから成る第Ⅸ講、など、興味深い内容ばかりで、今まで日本語で読むことのできたラカン論の中でもっとも異色かつ明晰な切り口になっているように思われます。

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# by urag | 2019-08-18 18:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 14日

注目新刊:江川隆男『すべてはつねに別のものである』河出書房新社、ほか

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★江川隆男さん(訳書:ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』)
『アンチ・モラリア』(河出書房新社、2014年)に「つながるような論文、またこの書物の成果を部分的により展開した論文を集めたもの」(あとがきより)だという『すべてはつねに別のものである――〈身体ー戦争機械〉論』を河出書房新社さんより上梓されました。書名は、アントナン・アルトーのテクスト「なぜ私は病気なのか」(1947年;『アルトー後期集成Ⅲ』所収、河出書房新社、2007年)の末尾の2行「何も決定的ではない、/すべてはつねに別のものである」から採られているとのことです。

すべてはつねに別のものである――〈身体ー戦争機械〉論
江川隆男著
河出書房新社 2019年8月 本体2,900円 46判上製264頁 ISBN978-4-309-24921-6

目次:
序文
Ⅰ 現前と外部性――非-論理の革命的思考について(書き下ろし)
 序論――〈非-論理〉の唯物論はいかにして可能か
 [Ⅰ:問題提起] 発生する変形的諸要素
  ――どのように言語から媒介的特性を除去することができるか
 [Ⅱ:問題構成] 図表論的総合
  ――いかにして言語から言表作用を抽出することができるか
 [Ⅲ:問題実現] 観念の非-言語的力能
  ――身体の一属性として言表を作用させること
 結論に代えて――革命機械としての哲学
Ⅱ 哲学あるいは革命
 ニーチェの批判哲学――時間零度のエクリチュール(2008年)
 機械論〔マニシスム〕は何故そう呼ばれるのか
  ――フェリックス・ガタリ『アンチ・オイディプス草稿』(2010年)
 脱領土性並行論について――ガタリと哲学(2012年)
 〈脱-様相〉のアナーキズムについて(2015年)
 脱-様相と無-様相――様相中心主義批判(2015年)
 ディアグラムと身体
  ――図表論的〔ディアグラマティク〕思考の系譜について(2015年)
 破壊目的あるいは減算中継――能動的ニヒリズム宣言について(2016年)
 最小の三角回路について――哲学あるいは革命(2017年)
 論理学を消尽すること――ニーチェにおける〈矛盾-命令〉の彼岸(2018年)
 〈身体-戦争機械〉論について――実践から戦略へ(2019年)
あとがき

帯文より:スピノザとドゥルーズ=ガタリをつきぬける孤高の哲学者によるおそるべき触発。無-媒介、非-存在、非-論理、無-様相としての〈来るべき民衆〉を生成させる絶対的な〈外〉の哲学。

推薦文:次世代の哲学者から圧倒的支持! 近藤和敬氏「スピノザに導かれて進む内在主義の荒涼たる極北」。平尾昌宏氏「この明晰な狂人の言葉なき歌を作動させよ!」。堀千晶氏「自由意志を焼き尽くす《無調》の戦争機械=哲学」。小林卓也氏「乱流する〈反-思考〉がすべてを破壊し変形する」。

あとがきより:「『アンチ・モラリア』の出版前に書いた三論文と出版後に書いた七論文を選定し、それらを「第Ⅱ部」に纏め、また「第Ⅰ部」には書き下ろしのかなり長い論文を入れた。〔…〕第Ⅱ部の既発表の諸論文に関して言うと、若干の文字の修正以外、ほぼ手を加えていない。というのも、そられは、つねに完全性のなかで発表されたものだからである。〔…〕第Ⅰ部の「厳然と外部性」について言うと、このテーマは、ほぼ15年前から少しずつ考え続けてきたものである。この問題の部分がこうした著作において実現できたことを喜びに思っている」。

本文より:「哲学は、今日の人文科学と称されるものの一分野に絶対に収まる思考ではない。哲学は、一つの科学でも学問でもない。哲学は、同じ意味において絶対に形而上学ではない。哲学は、つねに価値転換と意味変形を使命としたむしろ〈反-思考〉それ自体である。その限り哲学は、つねに革命的思考を、すなわち非-加速的な系譜学的逆行を選択するであろう。哲学は、たしかに概念の形成を使命とするが、それ以上に概念を武器にするのである。哲学は、絶えず〈来るべき民衆〉が万民に放つ矢である」(「現前と外部性」86頁)。

★柏倉康夫さん(訳書:マラルメ『詩集』)
限定120部(番号入)の私家版として、アルベール・カミュ『結婚』の訳書を上梓されました。底本は1950年のガリマール版。「窪田啓作、高畠正明両氏の既訳があるが、あえて自分なりの翻訳をこころみた」(訳者あとがき)とのことです。フランス図書さんで販売されています。

結婚
アルベール・カミュ著 柏倉康夫訳
柏倉康夫発行 上野印刷所印刷 2019円7月 頒価本体1,000円 A5判並製90頁 ISBNなし

★川合全弘さん(訳書:ユンガー『追悼の政治』『労働者』『ユンガー政治評論選』)
京都産業大学法学会の紀要「産大法学」で、昨年から今年にかけて連載されていた論考「一軍人の戦後――岩畔豪雄と京都産業大学」が全3回で完結しました。岩畔豪雄(いわくろ・ひでお:1897-1970)は昭和期の陸軍少将で評論家。著書に『世紀の進軍シンガポール総攻撃――近衛歩兵第五連隊電撃戦記』(潮書房、1956年;光人社NF文庫、2000年)、『戦争史論』(恒星社厚生閣、1967年)、『科学時代から人間の時代へ』(理想社、1970年)、『昭和陸軍 謀略秘史』(日本経済新聞出版社、2015年)などがあります。川合さんの論考では、京都産業大学史の文脈の中で岩畔豪雄の事績を掘り起こしつつ、京産大への岩畔の寄与、とりわけ世界問題研究所の創設と、同所長在職中に書かれた二冊の大著『戦争史論』『科学時代から人間の時代へ』とを、「敗戦国日本の軍人による大戦省察の持続的努力の優れた成果として見直すこと」(上篇「はじめに」より)が試みられています。下篇では「岩畔の戦争概念を、近代兵学史上の三人の先行者、すなわちクラウゼヴィッツ、ルーデンドルフ、石原莞爾の戦争概念と比較することによって、それ独自の意義を解明」(下篇3頁)することも試みられています。

「一軍人の戦後――岩畔豪雄と京都産業大学(上)」(「産大法学」第50巻第1・2号所収、京都産業大学法学会、2018年1月)
「一軍人の戦後――岩畔豪雄と京都産業大学(中)」(「産大法学」第51巻第1号所収、京都産業大学法学会、2018年4月)
「一軍人の戦後――岩畔豪雄と京都産業大学(下)」(「産大法学」第53巻第2号所収、京都産業大学法学会、2019年7月)

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# by urag | 2019-08-14 18:09 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 14日

9月新刊案内:『森山大道写真集成(2)狩人』

2019年9月12日取次搬入予定 *写真/芸術

森山大道写真集成②【第3回配本】
狩人
写真:森山大道 デザイン:町口覚
月曜社 2019年9月 本体価格5,000円 A4判変型[天地308mm×左右228mm×束15.5mm]上製角背128頁 ISBN:978-4-86503-083-9 C0072 重量: 950g

アマゾン・ジャパンにて予約受付中

内容:「三沢の犬」「何かへの旅」「国道シリーズ」など、森山の代表的なイメージ群を収めた1972年作品(中央公論社1972年、講談社、2011年)。「路上(On The Road)の記録でもある『狩人』は、いまのぼくの写真へと引き継がれた重要なポイントとなっている」(森山大道)。

シリーズ「森山大道写真集成」の特徴・・・印刷と装いを一新した決定版。初期の名作を初版当時の画像サイズのまま再現し、トリプルトーンの印刷で新生させる決定版シリーズ。写真家自身による当時の回想、撮影にまつわるエピソード、撮影場所など、貴重なコメントを付して、資料的な側面も充実。

既刊:
第1回配本:①にっぽん劇場写真帖(室町書房、1968年;フォトミュゼ/新潮社、1995年;講談社、2011年;月曜社、2018年12月)本体6,000円
第2回配本:④光と影(冬樹社、1982年;講談社、2009年;月曜社、2019年5月)本体6,000円

続刊予定:
第4回配本:③ 写真よさようなら(写真評論社、1972年;パワーショベル、2006年;講談社、2012年;月曜社、2019年冬予定)
第5回配本:⑤ 未刊行作品集(1964-1976年撮影、2020年春予定)

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# by urag | 2019-08-14 14:11 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 14日

9月新刊案内:山下純照 ・西洋比較演劇研究会編『西洋演劇論アンソロジー』

2019年9月11日取次搬入予定 *芸術/演劇

西洋演劇論アンソロジー
山下純照 ・西洋比較演劇研究会編
月曜社 2019年9月 本体価格3,600円 46判(天地190mm×左右130mm×束30mm)ソフトカバー装608頁 ISBN:978-4-86503-082-2 C0074

アマゾン・ジャパンで予約受付中

内容:ギリシア悲劇から20世紀のパフォーマンス・スタディーズまで、西洋演劇の歴史を形作る70人の思想家、劇作家、演出家たちの演劇論のエッセンスを、解説と原典抄訳で構成。演劇史を証言する貴重なドキュメントを集めた一大アーカイヴの誕生!

古代:プラトン/アリストテレス/ホラティウス/クインティリアヌス

16〜17世紀:ルドヴィーコ・カステルヴェトロ/ロペ・デ・ベガ/シェイクスピア/ベン・ジョンソン/ジャン・シャプラン/ドービニャック師/ピエール・コルネイユ/モリエール/ジョン・ドライデン/ボワロー

18世紀:ルイージ・リッコボーニ/ヴォルテール/フランチェスコ・リッコボーニ/ルソー/ディドロ/ギャリック/オリヴァー・ゴールドスミス/ノヴェール/レッシング/ゲーテ/シラー

19世紀:タルマ/クライスト/コールリッジ/チャールズ・ラム/ウィリアム・ハズリット/ヘーゲル/ユゴー/ワーグナー/ゾラ/サラ・ベルナール/ウィリアム・アーチャー/アンドレ・アントワーヌ/オットー・ブラーム

20世紀:アドルフ・アッピア/スタニスラフスキー/ゲオルク・フックス/マックス・ラインハルト/ホフマンスタール/ゴードン・クレイグ/マリネッティ/ピランデッロ/メイエルホリド/ニコライ・エヴレイノフ/タイーロフ/ブレヒト/インドジフ・ホンズル/ロルカ/アルトー/チェーホフ/ピスカートア/デュレンマット/ソンディ/ジャン・ジュネ/ロラン・バルト/マーティン・エスリン/エイベル/スーザン・ソンタグ/ミハイル・バフチン/グロトフスキ/ピーター・ブルック/ジャン・ヴィラール/ドルト/ボアール/シェクナー/バルバ

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# by urag | 2019-08-14 12:46 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 14日

保管:2018年6月~2018年8月既刊情報

岡田さんの『アガンベンの身振り』で予告されていた、アガンベンの自伝的エッセイ『書斎の自画像』は数か月以内に刊行できそうです。

◎2018年8月20日発売:エドワード・ブルワー=リットン『来るべき種族』本体2,400円、叢書・エクリチュールの冒険第12回配本。
 冬木糸一氏短評(「SFマガジン」2018年12月号「OVERSEAS」欄)
 宇佐和通氏特集記事「地底世界の奇書『来るべき種族』解読:ナチス・ドイツを動かしたヴリル伝説の聖典」(月刊「ムー」誌2019年1月号)
◎2018年8月16日発売:ステファヌ・マラルメ『詩集』本体2,200円、叢書・エクリチュールの冒険第11回配本。
 岡山茂氏書評「ジャーナリズムへと戻る回路――長年のマラルメ研究に一つの区切り」(「図書新聞」2018年12月8日号)
 立花史氏書評「「理解可能なマラルメ」を追求――一般読者に親しみやすい現代語訳を」(「週刊読書人」2018年10月12日号)
◎2018年6月27日発売:岡田温司『アガンベンの身振り』本体1,500円、哲学への扉第2回配本。




# by urag | 2019-08-14 12:23 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 12日

注目新刊:斎藤幸平氏によるハート、ガブリエル、メイソンへのインタヴュー集『未来への大分岐』、ほか

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未来への大分岐――資本主義の終わりか、人間の終焉か?』マイケル・ハート/マルクス・ガブリエル/ポール・メイソン著、斎藤幸平編、集英社新書、2019年8月、本体980円、新書判352頁、ISBN978-4-08-721088-0
国家活動の限界』ヴィルヘルム・フォン・フンボルト著、西村稔編訳、京都大学学術出版会、2019年8月、本体5,800円、四六上製696頁、ISBN978-4-8140-0237-5

★『未来への大分岐』は、デビュー作である著書『大洪水の前に――マルクスと惑星の物質代謝』(堀之内出版、2019年4月)が話題の斎藤幸平さんによる、知的刺激に満ちたインタヴュー集。全面帯ではマルクス・ガブリエルの名前と写真が一番大きく掲げられていますが、インタヴューは、マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソン、の順で掲載されています。斎藤さんは各氏の発言を尊重しつつ補足するとともに折々に鋭い質問を投げかけており、全体としてたいへん明快な内容になっています。「最悪の事態を避けるためには、資本主義そのものに挑まなければならない危機的段階にきているのではないか。それが本書の問題提起である」(「はじめに」より)。経済の危機、政治の危機、文化の危機、報道の危機、環境の危機、等々、様々な問題が地球規模で噴出している現在、本書の論点と主張には胸に響くものがあります。新書大賞の上位にランクインすることが予想されます。

★「現実が絶望的なものになり、残された時間がわずかになればなるほど、国家権力や最新技術を使い、上からの「効率的な」改革を求めたくなる。だが、この危機的な状況をつくっているのにもっとも積極的に荷担しているのが、国家権力であり、資本であり、最新技術である事実を忘れてはならない。/だとすれば、残された解放への道は、ポストキャピタリズムに向けた、人々の下からの集合的な力しかない。「社会運動・市民運動が大事」という左派の念仏が人々の心に届かなくなって久しい。けれども、大分岐の時代においてこそ、ニヒリズムを捨てて、民主的な決定を行う集団的能力を育む必要があるのである」(「おわりに」より)。ガブリエルも素晴らしいのですが、本書の眼目はむしろ、ハートとメイソンという異なるタイプのマルクス系左派と斎藤さんとのやりとりにあります。マルクスに対して食わず嫌いになっている読者にも薦めたい一冊です。

★『国家活動の限界』は、「近代社会思想コレクション」の第26弾。『Ideen zu einem Versuch, die Grenzen der Wirksamkeit des Staats zu bestimmen』(『国家活動の限界を確定する試みのための思想』1792年)の全訳を第一部とし、第二部には関連テクスト4篇「国家体制についての理念――新フランス憲法を契機にして」、「ゲンツ宛フンボルト書簡」2通、「フォルスター宛フンボルト書簡」を収めています。続く第三部は「官僚制・国家試験・大学」と題して、「高等試験委員会の組織に関する鑑定書」「ベルリン大学設立の提議」「宗教・公教育局報告」「ベルリンの高等学問施設の内面的および外面的編制について」の4篇を収録し、第四部「参考資料 ドイツ憲法論」では1813年の「ドイツ憲法論」のほか、7篇の関連テクストを併録しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文ではヴィルヘルム・フォン・フンボルト(Friedrich Wilhelm Christian Karl Ferdinand Freiherr von Humboldt, 1767-1835)はこう紹介されています。「J.S.ミルが激賞した「教養」思想家、ベルリン大学創設に賭けた官僚、そして、ドイツ統一を目指した国政家」と。

★「人間の真の目的とは、自分の諸能力を最も均斉のとれた最高の形で一個の全体へと陶冶することにある。この陶冶のためには自由が第一の必須条件である。とはいえ、人間の諸能力が発展するためには、自由のほかにもなお、それと緊密に結びついているけれども、それとは別種のもの、すなわち状況の多様性が必要である。どれほど自由闊達で独立不羈の人であっても、画一的な状態に置かれると、みずからの陶冶を完成しにくくなる」(12頁)。「どんな人間を相手にするにせよ、一人の人間であるという権利を認めないような思想には、それだけですでにいささか人間性を貶めるようなところがある。何人も、もっと高い段階に進むことができないほど低い文化段階にいるわけではない」(92頁)。

★なおヴィルヘルム・フォン・フンボルトの著作の既訳書には80年代以降では、『言語と精神――カヴィ語研究序説』(亀山健吉訳、法政大学出版局、1984年)や、『人間形成と言語』(クレメンス・メンツェ編、クラウス・ルーメル/小笠原道雄/江島正子訳、以文社、1989年)、『双数について』(村岡晋一訳、新書館、2006年)などがあります。

★続いて、ちくま学芸文庫の8月新刊4点5冊を列記します。

交易の世界史――シュメールから現代まで(上)』ウィリアム・バーンスタイン著、鬼澤忍 訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,400円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-09936-5
交易の世界史――シュメールから現代まで(下)』ウィリアム・バーンスタイン著、鬼澤忍訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,400円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-09937-2
古代アテネ旅行ガイド―― 一日5ドラクマで行く』フィリップ・マティザック著、安原和見訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,200円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09939-6
賤民とは何か』喜田貞吉著、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,100円、文庫判240頁、ISBN:978-4-480-09934-1
現代語訳 藤氏家伝』沖森卓也/佐藤信/矢嶋泉訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体950円、文庫判144頁、ISBN978-4-480-09944-0

★『交易の世界史』上下巻は、2010年に日本経済新聞出版社より刊行された『華麗なる交易――貿易は世界をどう変えたか』の改題分冊文庫化。原書は『A Splendid Exchange: How Trade Shaped the World』(Atlantic Books, 2008)です。グローバリゼーションの起源から現在まで、古代から現代までを通覧する歴史書。下巻に収められた訳者あとがきは日付の新しいものになっていますが、訳文の改変等についての特記はありません。

★『古代アテネ旅行ガイド』は、文庫オリジナル。昨夏に同文庫で刊行された『古代ローマ旅行ガイド―― 一日5デナリで行く』(安原和見訳)の姉妹編です。タイムマシンに乗った気分で古代アテネの風物と文化を堪能することができる一冊。「そうだ、ソクラテスに会いに行こう。競技会を観戦→喜劇で大笑い→饗宴でワイン」という帯文が愉快です。図版多数。

★『賤民とは何か』は、2008年に河出書房新社より刊行された単行本の文庫化。巻末特記によれば、「文庫化に祭司、漢字の表記を改め、ルビ、送り仮名を補った。文章は著者が存命でないことと、執筆時の時代状況の観点から、そのままとした」。巻末には塩見鮮一郎さんによる解説「喜田貞吉――頑固者の賤民研究」が付されています。著者の喜田貞吉(きだ・さだきち:1871-1939)は歴史学者。青空文庫で多数の著作を読めますが、紙媒体の文庫版では今年5月に河出文庫より『被差別部落とは何か』が発売されています。

★『現代語訳 藤氏家伝』は文庫オリジナル。鎌足とその息子の貞慧、不比等の長男・武智麻呂、という三人の藤原氏の事績を伝える家史(奈良時代後半成立)です。「律令国家の形成期を理解するための重要伝記」と帯文にあります。現代語訳と原文に加え、佐藤信さんによる「解説」が巻末に付されています。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

街灯りとしての本屋――11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』田中佳祐著、竹田信弥構成、雷鳥社、2019年7月、本体1,600円、A5判並製160頁、ISBN978-4-8441-3758-0
マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界──人とその作品、継承者たち』山本博之編著、英明企画編集、2019年7月、本体2,500円、A5判並製480頁、ISBN978-4-909151-21-6
ねむらない樹 vol.3』書肆侃侃房、2019年8月、本体1,300円、A5判並製176頁、ISBN978-4-86385-370-6

★『街灯りとしての本屋』は11軒の素敵な書店を紹介する本。えほんやなずな(茨城・つくば)、クラリスブックス(東京・下北沢)、敷島書房(山梨・甲斐)、書肆スーベニア(東京・向島)、せんぱくBOOKBASE(千葉・松戸)、ひなた文庫(熊本・阿蘇)、双子のライオン堂(東京・赤坂)、Cat's Meow Books(東京・世田谷)、H.A.Bookstore(東京・蔵前)、Readin' Writin'(東京・田原町)、SUNNY BOY BOOKS(東京・学芸大学)。仲俣暁生さん、山本貴光さん、松井祐輔さん、田中圭祐さん(本書著者)、竹田信弥さん(本書構成)らによるコラムを併載。第二章「本屋の始め方」では「本屋を始めたい人のためのQ&A」や参考文献などが掲載されています。カラー写真多数。書店の間取り図もあり。編集後記によればすでに第2弾の企画もあるとのことです。

★『マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界』は英明企画編集さんのシリーズ「混成アジア映画の海」の第1弾。マレーシアの映画監督ヤスミン・アフマド(Yasmin Ahmad, 1958-2009)の諸作品を様々な角度から読み解く論文集です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。編者の山本さんは巻頭の「はじめに」でこう書いています。「ヤスミン作品を観ると、混成的なアジア世界を舞台に瑞々しい感性を持つ若本たちが織り成す切ない物語に心が打たれる。〔…〕ヤスミンは、映画を通じて「もう一つのマレーシア」を美しく描くことで、現実のマレーシア社会における心の救済を物語に託した」。なお、渋谷のシアター・イメージフォーラムでは8月23日(金)まで没後10周年記念「ヤスミン・アフマド特集」が上映されています。

★『ねむらない樹 vol.3』は第一特集が「映画と短歌」、第二特集「短歌の言葉と出会ったとき」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。木下龍也さんと町屋良平さんの対談「映画だからできること 短歌と小説にしかできないこと」で、ホラー映画ばかり見るという木下さんは『ノーカントリー』が好きで20回は見ていると町屋さんに話しながら、殺し屋シガーの「不気味さがたまらない。ああいう歌人になりたいですね」と仰っています。町屋さんは「どういう歌人なんでしょうか(笑)」と返します。話の続きは14頁で読むことができます。

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# by urag | 2019-08-12 20:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 05日

取次搬入日確定:月曜社8月刊2点『名人農家が教える有機栽培の技術』『ブルーノ・ラトゥールの取説』

月曜社8月新刊2点、新井俊春『名人農家が教える有機栽培の技術』と、久保明教『ブルーノ・ラトゥールの取説』の新刊配本分の取次搬入日が確定いたしました。日販、トーハン、大阪屋栗田、ともに8月7日(水)です。弊社ではパターン配本は行っておらず、店頭分として事前にご発注いただいた書店様にお送りしています。なお、受注締切後の店頭注文分や、客注の出荷は8月8日(木)より開始となります。8月10日から15日まで物流関係各社が休業していますので、新刊配本分の着店はおおよそ9日以降から順次で、お盆を挟んで19日の週の後半になる場合もあるかと思われます。締切後の店頭注文分と客注分の着店はお盆明けの20日以後順次となるのではないかと見込んでおります。どうぞよろしくお願いいたします。
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# by urag | 2019-08-05 15:49 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2019年 08月 04日

注目新刊:ドゥンス・スコトゥス『存在の一義性』八木雄二訳注、ほか

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存在の一義性――ヨーロッパ中世の形而上学』ドゥンス・スコトゥス著、八木雄二訳註、知泉書館、2019年7月、本体7,000円、新書判上製816頁、ISBN978-4-86285-297-7
語源から哲学がわかる事典』山口裕之著、日本実業出版社、2019年7月、本体1,700円、A5変形判並製284頁、ISBN978-4-534-05707-5
稲生物怪録』東雅夫編、京極夏彦訳、角川ソフィア文庫、2019年7月、本体880円、文庫判272頁、ISBN978-4-04-400497-2
サンスクリット版全訳 維摩経 現代語訳』植木雅俊訳、角川ソフィア文庫、2019年7月、本体1,160円、文庫判400頁、ISBN978-4-04-400487-3

★『存在の一義性』は知泉学術叢書の第9弾。中世の神学者ドゥンス・スコトゥス(Johannes Duns Scotus, 1266?-1308)による未完の主著『命題集註解』のうち、「存在の一義性(Univocatio entis)」をめぐる第1巻第3区分第Ⅰ部「神の認識可能性」の第一問題から第四問題まで、また第1巻第8区分第Ⅰ部「神の単純性」の第一問題から第三問題までの、日本語訳と訳者解説を一冊としたもの。本文中では太字が訳文で、訳文の段落ごとに続く細字が訳者による解説です。巻末には訳者解題「スコトゥスにおける「存在の一義性」」と索引が付されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。現代思想にまで少なからぬ影響力を及ぼしているスコトゥスの探究をめぐり、八木さんによる詳しい訳解によってその意義が現代の読者にも改めて開示されることになりました。

★周知の通り『命題集註解』の既訳(抄訳)には、花井一典/山内志朗訳『存在の一義性――定本ペトルス・ロンバルドゥス命題註解』(第一巻第三篇第一部「神の認識可能性」第一問から第三問までと、第一巻第八篇第一部「神の単純性」第一問と第二問;中世哲学叢書1:哲学書房、1989年)や、八木雄二訳「命題集註解(オルディナティオ)第1巻」(第一巻第三区分第一部「神の認識可能性について」第四問;『中世思想原典集成(18)後期スコラ学』所収、平凡社、1998年)、渋谷克美訳「命題集註解(オルディナティオ)第2巻」(第二巻第三区分第一部「個体化の原理について」第一問から第六問まで;『中世思想原典集成(18)後期スコラ学』所収、平凡社、1998年)があります。また、筑波大学哲学研究会による「筑波哲学」第27号(2019年3月)には、『「命題集」註解(オルディナティオ)』第2巻第3区分第1部第7問題の試訳が本間裕之さんと石田隆太さんの共訳で掲載されています。

★『語源から哲学がわかる事典』は、語源と英語訳で西洋哲学のキーワードを学ぶ入門書。「本当の初心者にお勧めできる入門書になかなかめぐり会えなかった。そこで、それなら自分で書いてしまおうと思って書いたのが、この本である」(「はじめに」より)。主要目次は書名のリンク先でご覧いただけます。終章の後に続く「出典と余談、あるいはさらに詳しく知りたい人のための文献ガイド」の末尾付近にはこう書かれています。「知の体系が組み替えられたとき、新たな知の体系を持つ人にとって、旧世代の知は、間違っているというよりは、理解不能なものになるのである」(267頁)。「この本を読んで、他の知識体系を理解することの困難と面白さを知っていただき、「他文化を尊重する」とはどうすることなのかを考える手がかりにしていただくことができたなら、望外の喜びである」(同頁)。値段も本体1,700円とお得です。

★角川ソフィア文庫の7月新刊より2点。『稲生物怪録』は巻頭カラーで堀田家本「稲生物怪録絵巻」を収め、続いて京極夏彦さんによる現代語訳で「武太夫槌を得る――三次実録物語」、東雅夫さんによる現代語訳と註の「稲生物怪録」、同じく東さんによる「解説」を配し、巻末にはピーター・バナードさんによる英文の紹介文「An Account of the Ino Hauntings: A Brief Introduction」が掲載されています。京極さんの現代語訳は初出は1999年の「怪」誌春号。その後、東さんによるアンソロジー本に再掲載され、今回の文庫収録にあたり加筆修正が施されたとのことです。東さんの現代語訳や解説、バナードさんの英文テクストは書き下ろし。絵巻の素晴らしさは言うまでもありません。絵と言葉によって描かれた怪異の数々は夏の読書にぴったりです。

★『サンスクリット版全訳 維摩経 現代語訳』は、2011年に岩波書店から刊行された『梵漢和対照・現代語訳 維摩経』のうち、梵漢部分を除いて現代語訳を残し、膨大な注釈は仏教用語の解説と重大な校訂についての注記のみを残し、文庫化したもの。あとがきによれば、単行本版は「サンスクリット語と対照させて現代語訳したものであることから、日本語として理解できるぎりぎりの範囲内でサンスクリット語のニュアンスを残して訳した」が、それに対して今回の文庫版は「日本語らしい文章に努めて、相当に手を入れた」とのことです。植木さんは同じく岩波書店から親本が出ている『法華経』の文庫版を角川ソフィア文庫で昨夏上梓されています(『サンスクリット版縮訳 法華経 現代語訳』)。

★また最近では以下の新刊との出会いがありました。

完全版 自由論――現在性の系譜学』酒井隆史著、河出文庫、2019年8月、本体1,800円、文庫判632頁、ISBN978-4-309-41704-2
『HAPAX 11 闘争の言説』HAPAX編、夜光社、2019年7月、本体1,500円、四六判変形204頁、ISBN978-4-906944-18-7
カール・ポランニー伝』ギャレス・デイル著、若森みどり/若森章孝/太田仁樹訳、2019年7月、本体4,500円、4-6判上製536頁、ISBN978-4-582-82488-9
ぱくりぱくられし』木皿泉著、紀伊國屋書店、2019年8月、本体1,400円、B6判並製244頁、ISBN978-4-314-01168-6
幕末未完の革命――水戸藩の叛乱と内戦』長崎浩著、作品社、2019年7月、本体2,800円、四六判上製352頁、ISBN978-4-86182-763-1
増補新版 モデルネの葛藤』仲正昌樹著、作品社、2019年7月、本体5,800円、A5判上製480頁、ISBN978-4-86182-756-3
現代思想2019年8月号 特集=アインシュタイン――量子情報・重力波・ブラックホール…生誕140周年』青土社、2019年7月、本体1,400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1384-4
現代思想2019年8月臨時増刊号 総特集=万葉集を読む』青土社、2019年7月、本体2,200円、A5変型判並製278頁、ISBN978-4-7917-1385-1

★『完全版 自由論』はまもなく発売。2001年に青土社より刊行された単行本の文庫化。巻末特記によれば「文庫化にあたり加筆修正するとともに、補章を追加」したとあります。補章は4篇から成ります(460~587頁)。2001年「『自由論』韓国語版の序文」、補論1として2005年「鋳造と転調」、補論2として2011年「「しがみつく者たち」に」(初出では「しがみつくもののために」)、そして書き下ろしの「統治、内戦、真理――『自由論』への18年後の自注」です。巻末解説は、『不穏なるものたちの存在論』『無謀なるものたちの共同体』などの著書がある李珍景(イ・ジンギョン)さんが「人工知能資本主義時代の統治技術――酒井隆史『自由論』に寄せて」(影本剛訳)というテクストを寄稿しておられます。「文庫版あとがき」によれば、「目に余る表現、あきらかに誤訳であったところ、より適切な訳語をおもわれるものがあったところなどのほか、手直しは最小にとどめた」。「いま付け足したいことはおおよそ「統治、内戦、真理」〔509~587頁〕に括りだした」。

★『HAPAX 11 闘争の言説』は発売済。収録された14編は以下の通り。

釡ヶ崎の外の友人たちへ――新たな無産者たちの共生の試みのために|釡ヶ崎コミューン
釡ヶ崎センター占拠の二四日間とその後|釡ヶ崎コミューン
共に居ることの曖昧な厚み――京都大学当局による吉田寮退去通告に抗して|笠木丈
砕かれた「きずな」のために|霊長類同盟
イエローベスト・ダイアリー|ロナ・ロリマー
ジレ・ジョーヌについての覚え書き|白石嘉治
リスト|ベラ・ブラヴォ
『ギリシャ刑務所からの手記』のために|二人のギリシャのアナキスト
傷だらけのアナキズム|アリエル・イスラ+高祖岩三郎
コミューンは外部である――存在の闇と離脱の政治学|李珍景 インタビュー
都市のエレメントを破壊する――アナロギアと自然のアナキズム|村澤真保呂 インタビュー
日本イデオローグ批判|小泉義之
すべてを肯定に変える|彫真悟
日常と革命を短絡させるためのノート、あるいはわれわれは何と闘うのか、何を闘うのか|気象観測協会

★特筆したいのは、二つのインタビュー。李珍景さんと村澤真保呂さんのもの。それぞれの半生を振り返る私的な来歴を知ることができ、とても興味深いです。李さんの特定頁における特定文字のシール張りは、単純な事故によるものなのかもしれませんが、手張り作業の生々しい痕跡といい、思いがけない立体感を生み出しています。村澤さんの回想は折々に凄まじい部分があって惹き込まれます(とりわけ院生時代の「転移」のお話)。村澤さんの言葉から印象的なものを一つだけ抜き出してみます。

★「さっきの作田〔啓一〕さんの言葉に戻るけれど、ぼくを再出発させてくれた彼の言葉「きみがなくしたものは、世界がなくしたものじゃないかな」っていうのは、だいぶあとから気づいたんだけれど、じつは問いじゃなくて答えだったんですね。つまりわたしに起こっていることは世界に起こっていることだ、っていう大前提こそがうしなわれたものだったわけです。でも完全にうしなわれているわけではなくて、やっぱりどこかに残ってる。自分の苦しみは世界の苦しみだ、だから世界を苦しみから解放しなければならない、その情動がなくちゃ革命なんかおこらない。あるいは、世界はわたしをつうじてなにがおこっているかを伝えている。これこそ中井久夫さんのいう徴候的知であり、アニミズムやシャーマニズム、人文的知性の根底にある認識ですよね。統合失調症の妄想や幻覚についても、おなじことがいえるんですけれど」(148~149頁)。

★『カール・ポランニー伝』は『Karl Polanyi: A Life on the Left』(Columbia University Press, 2016)の全訳。「本書におけるポランニー像は、整然と体系的に統一された思想と理論を形成した社会科学者というよりも、「変貌自在で矛盾する諸側面から構成され」ている」(「訳者あとがき」より)。「本書の独創性は、市場社会の危機と時代の変化に立ち向かいながら人間の自由と民主主義を実現する新しい共同性を探究しつづけた、ポランニーの著作や政治的活動に見られるある種の「錯綜」と「一貫性のなさ(矛盾)」を浮き彫りにし、そのことによって、ポランニーの二重運動論や「埋め込み」命題のなかに「矛盾と緊張」が内在していることを鮮明にした点にある」(同)。二重運動というのは「市場経済の人間や自然に対する破壊的影響と、それに対抗する社会の自己防衛の対立」(同)のこと。また、埋め込み命題というのは、「社会的制約から切り離され自立して拡張運動を遂げてきた経済領域を「再び社会に埋め込む」ことの重要性」(同)のこと。著者のデイル(Gareth Dale)は、ロンドンのブルネル大学上級講師で、政治学と国際関係論を教えているとのことです。多数の著書がありますが、訳書は今回が初めて。目次を以下に列記しておきます。

謝辞
序文
第一章 東西のサロンで
第二章 戦争の十字架を背負って
第三章 赤いウィーンの勝利と悲劇
第四章 挑戦と応戦
第五章 大変動とその起源
第六章 「不正義と非人道的行為」
第七章 存在の不確かさ
エピローグ 社会主義の失われた世界
訳者解説
訳者あとがき
原註
索引(人名・事項)

★『ぱくりぱくられし』は、紀伊國屋書店のPR誌「scripta」で2012年から2019年にかけて連載された表題作と、「産経新聞」大阪本社版夕刊に2018年4月から9月にかけて週1回で連載された「嘘のない青い空」を一冊にまとめ、そこに「幻のデビュー作」である「け・へら・へら」のシナリオを加えたもの。「本書に出てくる本の引用はすべて弥生犬〔旦那さんの方。奥さんは縄文猫で、「ぱくりぱくられし」はこの二者が会話を交わしている体裁になっている〕が選んだものである。その選択は節操がなく、よく言えば偏見がなく多岐にわたっている。読み返してみると、脚本家としての、あるいは小説家としての木皿泉の源泉はここにあるのだなぁと改めて思う」と「あとがき」にあります。「今、苦しい思いをしているあなたへ。それは永遠には続かないから大丈夫。人はきっと変わることができるはず。この本で、私たちは、自分に向かって、世の中に向かって、そういうことを言いたかったのだと、このあとがきを書きながら今気づいた」(244頁)。

★作品社さんの7月新刊より2点。『幕末未完の革命』は「水戸の叛乱」と「水戸の内戦」の二部構成。『水戸市史』や『水戸藩史料』をひもとき、「政治思想の論評ではなく、歴史上の一ポリスの顛末を細部にわたって追跡するもの」(「あとがき」より)。「私の関心は〔…〕水戸藩という存在、危機に直面したポリスともいうべきこの集団の振舞い方に向けられている。/ことに安政の大獄の時期、多彩な人士による多様な言論を集めてこの反乱するポリスのビヘイビアを構成しようとした。加えて、藩の内部から言論を駆動する衝迫力として、郷村からの農民の蜂起を取り上げた。さらに、青年たちを走り出させた観念の起源を、会沢正志斎の水戸学に読もうとした。/その後の水戸の内戦は、こうして浮き彫りになる水戸の叛乱の不始末の結果である。そう見なして私は次に内戦における勝利者、門閥諸生派の信念と行動とを水戸のもう一つの過激派として追うことにした。革命と反革命、いずれにしても革命はその息子たちを喰らって進む」(「はじめに」より)。

★『増補新版 モデルネの葛藤』は、2001年に御茶の水書房より刊行された単行本に、3本の論考(1998年「〈絶対的自我〉の自己解体――フリードリッヒ・シュレーゲルのフィヒテ批判をめぐって」、2003年「フリードリッヒ・シュレーゲルの詩学における祖国的転回」、2006年「シェリングとマルクスを結ぶ「亡霊」たちの系譜」)を加筆訂正し、新たなあとがきを加えた増補版です。新たなあとがきでは、ドイツ・ロマン派の二面性(脱構築的ラディカルさと保守反動的な傾向)が言及されています。「問題は、近代合理主義を哲学的に超克しようとする試みが、不可避的に、新たな拠り所として、ナショナル・アイデンティティや民族としての歴史的連続性、幻想の中世のようなものに救いを求める傾向を助長し、自己に対する批判=批評性を失わせてしまうことになるのか、ということだ」(468頁)。「〔ドイツ・ロマン派は〕フランス革命とドイツ諸邦の敗戦、神聖ローマ帝国の解体という、ドイツ国民あるいは民族にとってのとてつもない危機の中で生まれてきたものである」(470頁)。

★青土社さんの月刊誌「現代思想」の最新号は、8月号と8月臨時増刊号の2点。前者は特集「アインシュタイン――量子情報・重力波・ブラックホール…生誕140周年」で後者は「万葉集を読む」。後者は通常号より天地が短く、左右が長い判型で存在感があります。内容紹介文や目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。来月末発売予定の通常号次号となる9月号の特集は「倫理学の論点23」。これは店頭のフェアに向いている内容ではないでしょうか。

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# by urag | 2019-08-04 22:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)