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2020年 01月 13日 ( 1 )


2020年 01月 13日

注目新刊:モホイ=ナジ『ヴィジョン・イン・モーション』国書刊行会、ほか

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ヴィジョン・イン・モーション』ラースロー・モホイ=ナジ著、井口壽乃訳、国書刊行会、2019年12月、本体8,600円、A4変型判上製388頁、ISBN978-4-336-06370-0
グリッドシステム――グラフィックデザインのために』ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン著、古賀稔章訳、白井敬尚監修、ボーンデジタル、2019年11月、本体6,500円、A4判上製184頁、ISBN978-4-86246-448-4
ウェールズ語原典訳 マビノギオン』森野聡子編訳、原書房、2019年11月、本体5,000円、A5判上製560頁、ISBN978-4-562-05690-3
対抗言論――反ヘイトのための交差路 1号:ヘイトの時代に対抗する』杉田俊介/櫻井信栄編、川村湊編集協力、法政大学出版局、2019年12月、本体1,800円、A5判並製346頁、ISBN978-4-588-61611-2
文藝 2020年春季号 特集:中国・SF・革命』河出書房新社、2020年1月、本体1,350円、A5判並製520頁、ISBN978-4-309-97989-2
吉本隆明全集第21巻 1984-1987』吉本隆明著、晶文社、2020年1月、本体7,200円、A5判変型上製760頁、ISBN978-4-7949-7121-0

★『ヴィジョン・イン・モーション』と『グリッドシステム』は大型本。原著は前者が1947年刊、後者が1981年刊。前者は帯文に曰く「ヴァイマールとデッサウのバウハウスにおける基礎課程の教育方法を扱った著作『ザ・ニュー・ヴィジョン』刊行ののちアメリカに渡ったモホイ=ナジが、シカゴのデザイン研究所における教育活動を経て、より一般的な芸術と生活の関係について考察を深化させたデザイン哲学の記念碑的名著」。後者は「グラフィックデザイナー、タイポグラファ、展示デザイナーのための手引き」(カバーソデ紹介文より)であり「2次元、3次元を扱うデザイナーが彼あのデザインを構想し、構造化し、造形するうえで、より早く確実に、視覚的な問題へと対処し、その問題を解決することを可能にするための実用的な仕事上の道具を提供する」(「本書について」より)もの。良書とも図版多数です。

★モホイ=ナジ曰く「デザインすることは複雑で込み入った仕事である。それは、技術上、社会上、経済上の要求と生物学的必要性、そして素材や形、色彩、量感、空間による精神物理学的効果の統合である。つまり、関係性のなかで思考することである。デザイナーは中心と同じように周辺を、少なくとも生物学的意味において、一番近いものと一番遠いものを見なければならない。〔…〕デザインというものは分割できないものである」(42頁)。

★ミューラー=ブロックマン曰く「デザイナーの仕事は、数学的思考に基づいて明白でわかりやすく、即物的かつ機能的でなければならず、また、美的な質を備えていなければならない〔…〕。/構成的で、分析や再生産をすることが可能なデザインは、社会の美的価値観や時代の形や色の文化に影響を与えうるものであり、また、それを広めることができる。そして、即物的で、公共の利益に寄与し、良く構成された文化的なデザインは、民主的なふるまいの素地を養うのである」(10頁)。

★20世紀を、世界戦争後の近代主義の徹底と見ていいなら、それは「設計と制御としてのデザインの時代」であったと言えるのではないかと感じます。戦争の野蛮から立ち直るべく近代的価値を再確認したものの、一方でそれらの価値の徹底化によってすら克服しえない暗黒面も見えてきます。つまり設計と制御によっても野蛮は払しょくできず、争いは再び(相変わらず?)地上に蔓延します。そう確認したのが20世紀末であったように思います。21世紀は設計と制御が再度問われる「デザインの時代」もしくは〈デザイン・ポリティクス〉の時代、の続きですが、人工知能とロボティクスの進展によって、デザインが人間の手から離れることすらありうるのかもしれません。デザインと編集と人間について再考する必要があります。

★『ウェールズ語原典訳 マビノギオン』は「14世紀の写本に収録された11編の中世ウェールズの物語と中世ウェールズの伝説的詩人タリエシンの転生譚『タリエシン物語』をウェールズ語原典から訳出し、解説・訳注を付けたもの」(「まえがき」より)。この11編というのが『マビノギオン』のこと。すなわち「マビノギの四つの枝」(4編)、「三つのロマンス」(3編)、その他4編のウェールズ伝承物語(「スリーズとスレヴェリスの冒険」「ローマ皇帝マクセン公の夢」「キルフーフがオルウェンを手に入れたる次第」「フロナヴィの夢」)です。周知の通り原書房さんでは井辻朱美さん訳の『シャーロット・ゲスト版 マビノギオン――ケルト神話物語』を2003年に刊行しています。今回の原典訳では全体の3分の1強を、160頁を超える長篇解説、さらに訳注と参考文献が占めており、労作と言うべきかと思われます。なお、ウェールズ語原典からの既訳には、中野節子訳『マビノギオン――中世ウェールズ幻想物語集』(JULA出版局、2000年)があります。

★『対抗言論』は法政大学出版局さんから創刊された新雑誌。流通上はISBN付きの書籍で、年1回刊行。巻頭言に曰く「ヘイトに対抗するための雑誌」。70年代半ば生まれの2氏、批評家の杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さんと、日本文学研究者の櫻井信栄(さくらい・のぶひで:1974-)さんが編集委員を務めています。同誌はクラウドファンディングによって222名のパトロンを得たとのこと。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。巻末には、編集委員とスタッフが「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」と協力して作成した「反ヘイトを考えるためのブックリスト42」が掲出されています。一過性のフェアではなく、常設の「反ヘイト」棚が求められているのではないでしょうか。

★『文藝 2020年春季号』は特集「中国・SF・革命」。リニューアル第2号の2019年秋季号「「韓国・フェミニズム・日本」が3刷、続く冬季号が「詩(うた)・ラップ・ことば」が2刷ときて今回の「中国・SF・革命」も意欲的。中国の作家・閻連科(えん・れんか:1958-)さんは短編「村長が死んだ」が訳出され、平野啓一郎さんとの対談「海を越え爆発するリアリズム」が掲載。河出さんでは著書『日熄』(仮題)も近刊予定とのこと。このところウェブだけでなく紙媒体の各雑誌でも毎月のように新たなテクストを発表されている木澤佐登志さんは同号では、ニック・ドルナソのグラフィック・ノベル『サブリナ』(早川書房、2019年10月)への書評を寄せておられます。

★『吉本隆明全集第21巻 1984-1987』はまもなく発売となる、晶文社版全集の第22回配本。版元紹介文に曰く「「野生時代」の連作詩を組み替えてなった長編詩『記号の森の伝説歌』、柳田の新しい像を作り上げようと試みた「柳田国男論」、そして長い年月をかけてまとめられた西行と良寛についての二つの長篇評論を収録する。単行本未収録7篇」と。第Ⅳ部に収められた「『試行』の立場」は1987年10月に行われた講演録。横浜市教育文化センター文化事業課が主催した連続講演「書物の現在」のひとつで、吉本さんが主宰していた『試行』誌を例に、雑誌出版の困難について赤裸々に語っておられます(蓮實重彦・清水徹・浅沼圭司の3氏との共著で、書肆風の薔薇より『書物の現在』として89年に発売)。87年と言えばニューアカ・ブームの残光がまだまだ明るかった頃。それでもすでに厳しかった状況が言明されていて、80年代出版史の一面を垣間見せてもらえるだけでなく、現代の出版人がどう考えるべきかも、ヒントとして含まれていると感じます。

★「文化や教養の質が変わってきて、一見むつかしい本を読まなくてもその代わりに、読書以外の、映画や音楽などさまざまな文化のジャンル、その分野では感覚を磨いているわけです。だから、若い読者がむつかしいものはご免だといったとしても、彼らを馬鹿だと思ったら大間違いです。彼らは他の分野に関して、われわれが持っていなかったものを持っています。/要するに読書については、むつかしい本を読まなくなったかも知れないけれど、その分どこかで感覚や頭脳の磨き方を知っている筈なんです。だから、思想なんてお断りだと思っているというだけで、一概に馬鹿にしたり侮ってはいけないのであって、普通、反体制といわれている文学者とか、それらしき進歩的なことをいう人たちは「近ごろの若者には思想がなくなった、むつかしい本を読まなくなった、駄目になった」とかいいますが、それは大間違いです」(683~684頁)。

★「判り易いように表現するとは、判り易い言葉で、という意味では決してないのです。易しい言葉を使えば判り易く表現したことになるかというと、そうではないのです。つまり、むつかしい本は読まなくなったが、絵画や音楽、映画や映像という部分ではものすごく鋭敏な、幅広い感覚を持っている人たちに訴えられるような文章で、なおかつ内容の高度な文章を書けるかどうかという課題が、必ずある筈なんです。つまり、言葉を易しくすればいいというのは単なる啓蒙主義にすぎません。もっと悪くいえば、大衆を馬鹿にしていることにもなります。馬鹿にするやり方が啓蒙主義なんです。/ぼくがいってるのは、むつかしい本は読まなくなったかもしれないけれど、他の分野では、ものすごい、かつてなかったような鋭敏な感覚、鋭敏な鑑賞力を持っている人たちに応えられるような文章で、高度な内容を書けるかどうかという課題がこっちにもある筈じゃないか、と反省する必要があるんじゃないかということです」(684頁)。引き受け方として真っ当なご意見であり、ぐうの音もでません。

★付属の「月報22」は、川本三郎さんによる「知識人嫌いの知識人」、石森洋さんによる「ご近所の吉本さん」、ハルノ宵子さんによる「幻の機械」の3篇を収録。末尾の「編集部より」には、昨秋発売された第20巻の解題についての修正が特記されています。

注目新刊:モホイ=ナジ『ヴィジョン・イン・モーション』国書刊行会、ほか_a0018105_03130002.jpg

★続いて文庫の注目新刊を列記します。

アラバスターの壺/女王の瞳――ルゴーネス幻想短編集』レオポルド・ルゴーネス著、大西亮訳、光文社古典新訳文庫、2020年1月、本体1,060円、文庫判336頁、ISBN978-4-334-75418-1
完全な真空』スタニスワフ・レム著、沼野充義/工藤幸雄/長谷見一雄訳、河出文庫、2020年1月、本体1,250円、文庫判384頁、ISBN978-4-309-46499-2
山峡奇談』志村有弘編訳、河出文庫、2020年1月、本体760円、文庫判256頁、ISBN978-4-309-41729-5
増補 責任という虚構』小坂井敏晶著、ちくま学芸文庫、2020年1月、本体1,600円、文庫判544頁、ISBN978-4-480-09953-2
〈ひと〉の現象学』鷲田清一著、ちくま学芸文庫、2020年1月、本体1,200円、文庫判304頁、ISBN 978-4-480-09965-5
ヨーロッパとイスラーム世界』R・W・サザン著、鈴木利章訳、ちくま学芸文庫、2020年1月、本体1,100円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-09956-3
線型代数――生態と意味』森毅著、ちくま学芸文庫、2020年1月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-09966-2

★『アラバスターの壺/女王の瞳』はアルゼンチンの作家ルゴーネス(Leopoldo Lugones, 1874-1938)の初文庫化。オリジナル編集で18篇を収録(詳細は書名のリンク先)。目次を見比べる限り、国書刊行会の「バベルの図書館」(現在は「新編バベルの図書館」に再編、第6巻「ラテンアメリカ・中国・アラビア編」に収録)に収められた7篇とはほとんど重複していないようです。帯文に曰く「ボルヘス、コルタサルと並ぶラプラタの幻想文学の巨匠が描く、面妖・回帰の世界へようこそ」。

★『完全な真空』は、国書刊行会「文学の冒険」シリーズで1989年に刊行された、ポーランドのSF作家レム(Stanisław Herman Lem, 1921-2006)による架空本の書評集(原著は71年刊)の文庫化。巻末には共訳者の沼野さんによる「レムの架空図書館――三十年後の解説」が新たに付されています。河出文庫でのレム本は本書が初めて。

★『山峡奇談』は、奈良時代から昭和までの「山」をめぐる不思議な話の数々、80篇強を集成したもの。「『諸国里人談』『奇談雑史』『怪談実話揃』などの奇譚の宝庫から蒐集し、現代語訳で届ける怪異集」(カバー裏紹介文より)。編訳者の相模女子大学名誉教授・志村有弘(しむら・くにひろ:1941-)さんは河出文庫でこれまで怪談ものを6点上梓されています。冬に読む怪談も格別ですね。

★ちくま学芸文庫さんの1月新刊は「Math & Science」シリーズ1点を含む4点。『増補 責任という虚構』は2008年に東京大学出版会より刊行された単行本の文庫化。巻末特記には「大幅な増補と改訂を行った」とあります。目次を見る限り全6章構成は変わっていないようですが、「結論に代えて」の後に「補考 近代の原罪――主体と普遍」(389~472頁)が加えられ、さらに「文庫版あとがき」と、尾崎一郎さんによる解説「虚構を暴き、虚構に生きる」が付されています。

★「文庫版あとがき」にはこう記されています。「「補考」で大澤真幸・河野哲也・古田徹也・國分功一郎・斎藤慶典諸氏の考究と対峙したおかげで、私論の立ち位置がより明確になった。どなたとも面識がないが、失礼を顧みず、比較対象に挙げさせていただいた」。小坂井敏晶(こざかい・としあき:1956-)さんは現在、パリ第八大学心理学部准教授。ちくま学芸文庫では主著のひとつ『民族という虚構』が増補されて2011年に文庫化されており、こちらの元本はフランス語でも刊行されていますが、『責任という虚構』のフランス語原稿は今なお出版されていません。その辺の事情も「文庫版あとがき」で明かされています。

★『〈ひと〉の現象学』は、筑摩書房より2013年に刊行された単行本の文庫化。巻末に「文庫版あとがき」が加えられています。「〈ひと〉の一生は一つの途ではない。つねに偶発的なものに突き動かされ、その存在の拠点すらずらされて、別の〈ひと〉との衝突や因縁、誘いやしがらみのなかで、何かになりゆくものだと思っている。〔…〕説明したり分析したりするよりも先に、何よりも丹念に、分厚く、記述することがたいせつだ」(288頁)。章立ては親本の書誌情報に記載されています。

★『ヨーロッパとイスラーム世界』は岩波書店の「岩波現代選書」の一冊として1980年に刊行されたものの文庫化。親本では著者名はサザーン(文庫ではサザン)、書名は『ヨーロッパとイスラム世界』で、イスラムがイスラームに変更されています。原著は『Western Views of Islam in the Middle Ages』(Harvard University Press, 1962)で、もともとは1961年にハーヴァード大学で行なわれた全3回の講義録です。「7世紀から宗教改革期まで、ヨーロッパの人々のイスラーム観〔の変遷〕」(カヴァー裏紹介文より)をめぐるもの。「文庫版訳者あとがき」と山本芳久さんによる解説「キリスト教とイスラム今日の相互理解の原点」が付されています。サザン(Sir Richard William Southern, 1912-2001)はイギリスの中世史家。近年の訳書に『カンタベリーのアンセルムス――風景の中の肖像』(矢内義顕訳、知泉書館、2015年;著者名表記は「サザーン」)などがあります。

★『線型代数』は1980年に日本評論社から刊行された単行本の文庫化。著者は2010年にお亡くなりになっており、追加テクストや文庫版解説はなし。「あとがき」によれば本書はもともと、『数学セミナー』誌上での連載「基礎講座 線型代数」(1979年5月~1980年8月)をまとめたもので、序論に代えて同じく『数学セミナー』1978年6月号掲載の「線型代数の“なぜ,なにを,いかに”」の前半を加えたもの、とのことです。語り口は柔らか。例えば「3次元空間の直線」には『聊斎志異』における鬼(ユーレイ)と聻(ユーレイのユーレイ)が譬えとして出てきます。

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by urag | 2020-01-13 23:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)