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2019年 08月 04日 ( 1 )


2019年 08月 04日

注目新刊:ドゥンス・スコトゥス『存在の一義性』八木雄二訳注、ほか

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存在の一義性――ヨーロッパ中世の形而上学』ドゥンス・スコトゥス著、八木雄二訳註、知泉書館、2019年7月、本体7,000円、新書判上製816頁、ISBN978-4-86285-297-7
語源から哲学がわかる事典』山口裕之著、日本実業出版社、2019年7月、本体1,700円、A5変形判並製284頁、ISBN978-4-534-05707-5
稲生物怪録』東雅夫編、京極夏彦訳、角川ソフィア文庫、2019年7月、本体880円、文庫判272頁、ISBN978-4-04-400497-2
サンスクリット版全訳 維摩経 現代語訳』植木雅俊訳、角川ソフィア文庫、2019年7月、本体1,160円、文庫判400頁、ISBN978-4-04-400487-3

★『存在の一義性』は知泉学術叢書の第9弾。中世の神学者ドゥンス・スコトゥス(Johannes Duns Scotus, 1266?-1308)による未完の主著『命題集註解』のうち、「存在の一義性(Univocatio entis)」をめぐる第1巻第3区分第Ⅰ部「神の認識可能性」の第一問題から第四問題まで、また第1巻第8区分第Ⅰ部「神の単純性」の第一問題から第三問題までの、日本語訳と訳者解説を一冊としたもの。本文中では太字が訳文で、訳文の段落ごとに続く細字が訳者による解説です。巻末には訳者解題「スコトゥスにおける「存在の一義性」」と索引が付されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。現代思想にまで少なからぬ影響力を及ぼしているスコトゥスの探究をめぐり、八木さんによる詳しい訳解によってその意義が現代の読者にも改めて開示されることになりました。

★周知の通り『命題集註解』の既訳(抄訳)には、花井一典/山内志朗訳『存在の一義性――定本ペトルス・ロンバルドゥス命題註解』(第一巻第三篇第一部「神の認識可能性」第一問から第三問までと、第一巻第八篇第一部「神の単純性」第一問と第二問;中世哲学叢書1:哲学書房、1989年)や、八木雄二訳「命題集註解(オルディナティオ)第1巻」(第一巻第三区分第一部「神の認識可能性について」第四問;『中世思想原典集成(18)後期スコラ学』所収、平凡社、1998年)、渋谷克美訳「命題集註解(オルディナティオ)第2巻」(第二巻第三区分第一部「個体化の原理について」第一問から第六問まで;『中世思想原典集成(18)後期スコラ学』所収、平凡社、1998年)があります。また、筑波大学哲学研究会による「筑波哲学」第27号(2019年3月)には、『「命題集」註解(オルディナティオ)』第2巻第3区分第1部第7問題の試訳が本間裕之さんと石田隆太さんの共訳で掲載されています。

★『語源から哲学がわかる事典』は、語源と英語訳で西洋哲学のキーワードを学ぶ入門書。「本当の初心者にお勧めできる入門書になかなかめぐり会えなかった。そこで、それなら自分で書いてしまおうと思って書いたのが、この本である」(「はじめに」より)。主要目次は書名のリンク先でご覧いただけます。終章の後に続く「出典と余談、あるいはさらに詳しく知りたい人のための文献ガイド」の末尾付近にはこう書かれています。「知の体系が組み替えられたとき、新たな知の体系を持つ人にとって、旧世代の知は、間違っているというよりは、理解不能なものになるのである」(267頁)。「この本を読んで、他の知識体系を理解することの困難と面白さを知っていただき、「他文化を尊重する」とはどうすることなのかを考える手がかりにしていただくことができたなら、望外の喜びである」(同頁)。値段も本体1,700円とお得です。

★角川ソフィア文庫の7月新刊より2点。『稲生物怪録』は巻頭カラーで堀田家本「稲生物怪録絵巻」を収め、続いて京極夏彦さんによる現代語訳で「武太夫槌を得る――三次実録物語」、東雅夫さんによる現代語訳と註の「稲生物怪録」、同じく東さんによる「解説」を配し、巻末にはピーター・バナードさんによる英文の紹介文「An Account of the Ino Hauntings: A Brief Introduction」が掲載されています。京極さんの現代語訳は初出は1999年の「怪」誌春号。その後、東さんによるアンソロジー本に再掲載され、今回の文庫収録にあたり加筆修正が施されたとのことです。東さんの現代語訳や解説、バナードさんの英文テクストは書き下ろし。絵巻の素晴らしさは言うまでもありません。絵と言葉によって描かれた怪異の数々は夏の読書にぴったりです。

★『サンスクリット版全訳 維摩経 現代語訳』は、2011年に岩波書店から刊行された『梵漢和対照・現代語訳 維摩経』のうち、梵漢部分を除いて現代語訳を残し、膨大な注釈は仏教用語の解説と重大な校訂についての注記のみを残し、文庫化したもの。あとがきによれば、単行本版は「サンスクリット語と対照させて現代語訳したものであることから、日本語として理解できるぎりぎりの範囲内でサンスクリット語のニュアンスを残して訳した」が、それに対して今回の文庫版は「日本語らしい文章に努めて、相当に手を入れた」とのことです。植木さんは同じく岩波書店から親本が出ている『法華経』の文庫版を角川ソフィア文庫で昨夏上梓されています(『サンスクリット版縮訳 法華経 現代語訳』)。

★また最近では以下の新刊との出会いがありました。

完全版 自由論――現在性の系譜学』酒井隆史著、河出文庫、2019年8月、本体1,800円、文庫判632頁、ISBN978-4-309-41704-2
『HAPAX 11 闘争の言説』HAPAX編、夜光社、2019年7月、本体1,500円、四六判変形204頁、ISBN978-4-906944-18-7
カール・ポランニー伝』ギャレス・デイル著、若森みどり/若森章孝/太田仁樹訳、2019年7月、本体4,500円、4-6判上製536頁、ISBN978-4-582-82488-9
ぱくりぱくられし』木皿泉著、紀伊國屋書店、2019年8月、本体1,400円、B6判並製244頁、ISBN978-4-314-01168-6
幕末未完の革命――水戸藩の叛乱と内戦』長崎浩著、作品社、2019年7月、本体2,800円、四六判上製352頁、ISBN978-4-86182-763-1
増補新版 モデルネの葛藤』仲正昌樹著、作品社、2019年7月、本体5,800円、A5判上製480頁、ISBN978-4-86182-756-3
現代思想2019年8月号 特集=アインシュタイン――量子情報・重力波・ブラックホール…生誕140周年』青土社、2019年7月、本体1,400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1384-4
現代思想2019年8月臨時増刊号 総特集=万葉集を読む』青土社、2019年7月、本体2,200円、A5変型判並製278頁、ISBN978-4-7917-1385-1

★『完全版 自由論』はまもなく発売。2001年に青土社より刊行された単行本の文庫化。巻末特記によれば「文庫化にあたり加筆修正するとともに、補章を追加」したとあります。補章は4篇から成ります(460~587頁)。2001年「『自由論』韓国語版の序文」、補論1として2005年「鋳造と転調」、補論2として2011年「「しがみつく者たち」に」(初出では「しがみつくもののために」)、そして書き下ろしの「統治、内戦、真理――『自由論』への18年後の自注」です。巻末解説は、『不穏なるものたちの存在論』『無謀なるものたちの共同体』などの著書がある李珍景(イ・ジンギョン)さんが「人工知能資本主義時代の統治技術――酒井隆史『自由論』に寄せて」(影本剛訳)というテクストを寄稿しておられます。「文庫版あとがき」によれば、「目に余る表現、あきらかに誤訳であったところ、より適切な訳語をおもわれるものがあったところなどのほか、手直しは最小にとどめた」。「いま付け足したいことはおおよそ「統治、内戦、真理」〔509~587頁〕に括りだした」。

★『HAPAX 11 闘争の言説』は発売済。収録された14編は以下の通り。

釡ヶ崎の外の友人たちへ――新たな無産者たちの共生の試みのために|釡ヶ崎コミューン
釡ヶ崎センター占拠の二四日間とその後|釡ヶ崎コミューン
共に居ることの曖昧な厚み――京都大学当局による吉田寮退去通告に抗して|笠木丈
砕かれた「きずな」のために|霊長類同盟
イエローベスト・ダイアリー|ロナ・ロリマー
ジレ・ジョーヌについての覚え書き|白石嘉治
リスト|ベラ・ブラヴォ
『ギリシャ刑務所からの手記』のために|二人のギリシャのアナキスト
傷だらけのアナキズム|アリエル・イスラ+高祖岩三郎
コミューンは外部である――存在の闇と離脱の政治学|李珍景 インタビュー
都市のエレメントを破壊する――アナロギアと自然のアナキズム|村澤真保呂 インタビュー
日本イデオローグ批判|小泉義之
すべてを肯定に変える|彫真悟
日常と革命を短絡させるためのノート、あるいはわれわれは何と闘うのか、何を闘うのか|気象観測協会

★特筆したいのは、二つのインタビュー。李珍景さんと村澤真保呂さんのもの。それぞれの半生を振り返る私的な来歴を知ることができ、とても興味深いです。李さんの特定頁における特定文字のシール張りは、単純な事故によるものなのかもしれませんが、手張り作業の生々しい痕跡といい、思いがけない立体感を生み出しています。村澤さんの回想は折々に凄まじい部分があって惹き込まれます(とりわけ院生時代の「転移」のお話)。村澤さんの言葉から印象的なものを一つだけ抜き出してみます。

★「さっきの作田〔啓一〕さんの言葉に戻るけれど、ぼくを再出発させてくれた彼の言葉「きみがなくしたものは、世界がなくしたものじゃないかな」っていうのは、だいぶあとから気づいたんだけれど、じつは問いじゃなくて答えだったんですね。つまりわたしに起こっていることは世界に起こっていることだ、っていう大前提こそがうしなわれたものだったわけです。でも完全にうしなわれているわけではなくて、やっぱりどこかに残ってる。自分の苦しみは世界の苦しみだ、だから世界を苦しみから解放しなければならない、その情動がなくちゃ革命なんかおこらない。あるいは、世界はわたしをつうじてなにがおこっているかを伝えている。これこそ中井久夫さんのいう徴候的知であり、アニミズムやシャーマニズム、人文的知性の根底にある認識ですよね。統合失調症の妄想や幻覚についても、おなじことがいえるんですけれど」(148~149頁)。

★『カール・ポランニー伝』は『Karl Polanyi: A Life on the Left』(Columbia University Press, 2016)の全訳。「本書におけるポランニー像は、整然と体系的に統一された思想と理論を形成した社会科学者というよりも、「変貌自在で矛盾する諸側面から構成され」ている」(「訳者あとがき」より)。「本書の独創性は、市場社会の危機と時代の変化に立ち向かいながら人間の自由と民主主義を実現する新しい共同性を探究しつづけた、ポランニーの著作や政治的活動に見られるある種の「錯綜」と「一貫性のなさ(矛盾)」を浮き彫りにし、そのことによって、ポランニーの二重運動論や「埋め込み」命題のなかに「矛盾と緊張」が内在していることを鮮明にした点にある」(同)。二重運動というのは「市場経済の人間や自然に対する破壊的影響と、それに対抗する社会の自己防衛の対立」(同)のこと。また、埋め込み命題というのは、「社会的制約から切り離され自立して拡張運動を遂げてきた経済領域を「再び社会に埋め込む」ことの重要性」(同)のこと。著者のデイル(Gareth Dale)は、ロンドンのブルネル大学上級講師で、政治学と国際関係論を教えているとのことです。多数の著書がありますが、訳書は今回が初めて。目次を以下に列記しておきます。

謝辞
序文
第一章 東西のサロンで
第二章 戦争の十字架を背負って
第三章 赤いウィーンの勝利と悲劇
第四章 挑戦と応戦
第五章 大変動とその起源
第六章 「不正義と非人道的行為」
第七章 存在の不確かさ
エピローグ 社会主義の失われた世界
訳者解説
訳者あとがき
原註
索引(人名・事項)

★『ぱくりぱくられし』は、紀伊國屋書店のPR誌「scripta」で2012年から2019年にかけて連載された表題作と、「産経新聞」大阪本社版夕刊に2018年4月から9月にかけて週1回で連載された「嘘のない青い空」を一冊にまとめ、そこに「幻のデビュー作」である「け・へら・へら」のシナリオを加えたもの。「本書に出てくる本の引用はすべて弥生犬〔旦那さんの方。奥さんは縄文猫で、「ぱくりぱくられし」はこの二者が会話を交わしている体裁になっている〕が選んだものである。その選択は節操がなく、よく言えば偏見がなく多岐にわたっている。読み返してみると、脚本家としての、あるいは小説家としての木皿泉の源泉はここにあるのだなぁと改めて思う」と「あとがき」にあります。「今、苦しい思いをしているあなたへ。それは永遠には続かないから大丈夫。人はきっと変わることができるはず。この本で、私たちは、自分に向かって、世の中に向かって、そういうことを言いたかったのだと、このあとがきを書きながら今気づいた」(244頁)。

★作品社さんの7月新刊より2点。『幕末未完の革命』は「水戸の叛乱」と「水戸の内戦」の二部構成。『水戸市史』や『水戸藩史料』をひもとき、「政治思想の論評ではなく、歴史上の一ポリスの顛末を細部にわたって追跡するもの」(「あとがき」より)。「私の関心は〔…〕水戸藩という存在、危機に直面したポリスともいうべきこの集団の振舞い方に向けられている。/ことに安政の大獄の時期、多彩な人士による多様な言論を集めてこの反乱するポリスのビヘイビアを構成しようとした。加えて、藩の内部から言論を駆動する衝迫力として、郷村からの農民の蜂起を取り上げた。さらに、青年たちを走り出させた観念の起源を、会沢正志斎の水戸学に読もうとした。/その後の水戸の内戦は、こうして浮き彫りになる水戸の叛乱の不始末の結果である。そう見なして私は次に内戦における勝利者、門閥諸生派の信念と行動とを水戸のもう一つの過激派として追うことにした。革命と反革命、いずれにしても革命はその息子たちを喰らって進む」(「はじめに」より)。

★『増補新版 モデルネの葛藤』は、2001年に御茶の水書房より刊行された単行本に、3本の論考(1998年「〈絶対的自我〉の自己解体――フリードリッヒ・シュレーゲルのフィヒテ批判をめぐって」、2003年「フリードリッヒ・シュレーゲルの詩学における祖国的転回」、2006年「シェリングとマルクスを結ぶ「亡霊」たちの系譜」)を加筆訂正し、新たなあとがきを加えた増補版です。新たなあとがきでは、ドイツ・ロマン派の二面性(脱構築的ラディカルさと保守反動的な傾向)が言及されています。「問題は、近代合理主義を哲学的に超克しようとする試みが、不可避的に、新たな拠り所として、ナショナル・アイデンティティや民族としての歴史的連続性、幻想の中世のようなものに救いを求める傾向を助長し、自己に対する批判=批評性を失わせてしまうことになるのか、ということだ」(468頁)。「〔ドイツ・ロマン派は〕フランス革命とドイツ諸邦の敗戦、神聖ローマ帝国の解体という、ドイツ国民あるいは民族にとってのとてつもない危機の中で生まれてきたものである」(470頁)。

★青土社さんの月刊誌「現代思想」の最新号は、8月号と8月臨時増刊号の2点。前者は特集「アインシュタイン――量子情報・重力波・ブラックホール…生誕140周年」で後者は「万葉集を読む」。後者は通常号より天地が短く、左右が長い判型で存在感があります。内容紹介文や目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。来月末発売予定の通常号次号となる9月号の特集は「倫理学の論点23」。これは店頭のフェアに向いている内容ではないでしょうか。

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by urag | 2019-08-04 22:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)