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2018年 05月 06日 ( 1 )


2018年 05月 06日

注目新刊:フランソワ・マトゥロン『もはや書けなかった男』航思社、ほか

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もはや書けなかった男』フランソワ・マトゥロン著、市田良彦訳、航思社、2018年4月、本体2,200円、四六判並製200頁、ISBN978-4-906738-34-2
人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』三宅陽一郎著、BNN新社、2018年4月、本体2,500円、A5判並製384頁、ISBN978-4-8025-1080-6
黄金の華の秘密 新装版』C・G・ユング/R・ヴィルヘルム著、湯浅泰雄/定方昭夫訳、人文書院、2018年4月、本体2,800円、4-6判上製338頁、ISBN978-4-409-33057-9
フェレンツィの時代――精神分析を駆け抜けた生涯』森茂起著、人文書院、2018年4月、本体3,600円、4-6判上製240頁、ISBN978-4-409-34052-3
グローバル資本主義の形成と現在――いかにアメリカは、世界的覇権を構築してきたか』レオ・パニッチ&サム・ギンディン著、長原豊監訳、芳賀健一/沖公祐訳、作品社、2018年4月、本体3,800円、46判上製600頁、ISBN978-4-86182-694-8
友情の哲学――緩いつながりの思想』藤野寛著、作品社、2018年4月、本体1,800円、46判並製208頁、ISBN978-4-86182-692-4
生物模倣――自然界に学ぶイノベーションの現場から』アミーナ・カーン著、松浦俊輔訳、作品社、2018年5月、本体2,600円、46判並製376頁、ISBN978-4-86182-691-7

★『もはや書けなかった男』はアルチュセールの死後出版の編纂・校訂者で『ミュルティテュード(マルチチュード)』誌の編集委員を務めた哲学者フランソワ・マトゥロン(François Matheron, 1955-)による著書の、初めての日本語訳。フランス語版『L’homme qui ne savait plus écrire』(Zones/La Découverte, 2018)は3月に刊行されており、その出版に尽力し「あとがき」も著した盟友である市田良彦さん(本書においては「戦いの同伴者ヨシ」)が日本語訳を手掛けておられます。2005年の11月、家族との団らん中に脳卒中で倒れたマトゥロンが、リハビリ訓練中の翌年9月に書くことを薦められ、とはいえ文字通りの執筆が困難なため、テープレコーダーに録音し、のちに音声入力ソフトを使用してできあがったのが本書だそうです。人の名前を忘れ、排泄を含めて自身のことがどんどんままならなくなる中での自画像であり、その合間にアルチュセールやスピノザをめぐる思索の軌跡が刻まれます。糞尿まみれの拷問のような日々には絶句するばかりです。

★壊れていく伴侶を日々支えることによって深く疲弊していくマトゥロン夫人キャロルとの関係がありのままに描かれている一方で、ひどい鬱状態のために2016年には「あの」サンタンヌ病院に搬送されたマトゥロンが、アルチュセールとの符合をめぐってヨシとやりとりをしたエピソード(「最初に読まれるべき訳者あとがき」)に厚い友情を感じます。また、本書巻末に収められたネグリからのメッセージにも友愛が溢れています。父親であるスピノザ学者アレクサンドル・マトゥロン(Alexandre Matheron, 1926-)が、息子に代わってアルチュセール本の校正を手伝ったというくだりにも胸を打たれました。アレクサンドルは息子が倒れた一年後に同じく脳卒中を患ったことがあるそうです。

★三宅陽一郎『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』は2016年に出版された西洋哲学篇の続編で、「人工知能の足元を支える哲学を探求する」という名目で行われた「人工知能のための哲学塾」の成果です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「東洋哲学篇は僕にとって未来にあたります。なぜなら、東洋哲学篇はこれから僕自身も進むべき人工知能の新しい方向を示した場であるからです。知能を作るためには、人類の持つあらゆる叡智を結集・結晶せねばなりません。西洋から発祥した人工知能の方向がやがて行き詰まりを迎えるときには、東洋の示す人工知能が新しい活路を示さねばなりません」と、三宅さんは「はじめに」でお書きになっています。荘子、井筒俊彦、道元、龍樹、鈴木大拙、等々がゲーム開発におけるキャラクターAIのために参照される様は非常に興味深く、科学・哲学・工学の交差点にあるという人工知能の議論への関心は、本書の登場によっていっそう高まるのではないかと予感します。

★続いて人文書院さんの新刊2点。『黄金の華の秘密』は1980年の初版刊行以来、版を重ねオンデマンドでもロングセラーを続けてきた古典の、新装再刊です。原著は1929年刊で、道教の文献『太乙金華宗旨』と『慧命経』のヴィルヘルムによるドイツ語訳に、ユングが長大な注解を添えたもの。ユングのマンダラ論、原型論、個性化論を理解するうえで欠かせない必読書です。長い年月を掛けてユングの著作の重版や新装版を刊行し続けておられる人文書院さんに敬意を表したいです。

★次に、森茂起『フェレンツィの時代』はハンガリーの精神分析家、フェレンツィ・シャーンドル(Ferenczi Sándor, 1873-1933)をめぐる、おそらく日本初の専門研究書です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書では幼少期から時系列的に出来事を追うのではなく「フェレンツィの生涯から日付を特定できるいくつかの瞬間を取り上げ、そこに至る過程を振り返る叙述を大幅に取り入れ」(あとがきより)、「ある特定の場所である時代のある瞬間を生きたフェレンツィの姿を描き出し」(同)ています。著者の森さんによるフェレンツィの訳書、『臨床日記』(みすず書房、2000年)も新装版が本書と同じく4月に発売されており、フェレンツィと往復書簡を交わしていたゲオルク・グロデックの著書『エスの本――ある女友達への精神分析の手紙』(岸田秀/山下公子訳、誠信書房、1991年)も、同月に講談社学術文庫の一冊として再刊されています。

★最後に作品社さんの新刊3点。まず、パニッチ&ギンディン『グローバル資本主義の形成と現在』は、『The Making of Global Capitalism: The Political Economy of American Empire』(Verso, 2012)の全訳。マルクスおよびマルクス主義をめぐる革新的な研究に対して毎年贈られるドイッチャー賞(the Deutscher Memorial Prize)を2013年に受賞しています。監訳者の長原さんによれば本書は、アメリカの帝国的発展こそがグローバル資本主義の形成過程にほかならないことを実証した同時代史の書であり、現状分析の書でもある、と紹介しておられます。また、サスキア・サッセンやナオミ・クライン、デヴィッド・ハーヴェイをはじめとする多くの識者から「偉大な一書」「必要不可欠な書」「すべての人びとが読むべき一書」等々という賛辞が寄せられています。アメリカとの付き合いに様々な困難と課題が付きまとう日本においても参考になる本ではないでしょうか。目次は以下の通りです。

まえがき
序文 方法論的視点
第Ⅰ部 新たなアメリカ帝国へのプレリュード
 第1章 アメリカ資本主義の遺伝子
 第2章 アメリカ国家の能力――第一次世界大戦からニューディールまで
第Ⅱ部 グローバル資本主義というプロジェクト
 第3章 新たなアメリカ帝国を計画する
 第4章 グローバル資本主義の船出
第Ⅲ部 グローバル資本主義への移行
 第5章 成功の矛盾
 第6章 危機を貫く構造的な力
第Ⅳ部 グローバル資本主義の実現
 第7章 帝国的力能の更新
 第8章 グローバル資本主義の統合
第Ⅴ部 グローバル資本主義の支配
 第9章 法の支配――グローバル化を統治する
 第10章 帝国の新たな挑戦――危機を管理する
第Ⅵ部 グローバル資本主義の21世紀
 第11章 自分の姿に似せた世界
 第12章 アメリカの危機、世界の危機
結論
[日本語版解説]忖度〔ぼうりょく〕を制度化する非公式帝国アメリカ――相対的脱領土〔グローバリゼーション〕化装置(長原豊)

★次に、藤野寛『友情の哲学』はこんにちもっとも困難であろう問いと向き合った好著。「本書では、理想主義にも冷笑主義にも陥ることなく友情について考えることが試みられる。そういう方向性を採るように促されるのは、友情をめぐる21世紀の現実によってである。より具体的に言えば、高齢化社会、セクシュアリティ、家族、ジェンダー、SNSをめぐる私たちの現実だ」(プロローグより)。アクセル・ホネットの承認論を導きの糸とし、アリストテレス、モンテーニュ、カント、ニーチェ、フーコーらの議論を振り返りつつ、アレクサンダー・ネハマス(Alexander Nehamas, 1946-)や、ヤノーシュ・ショービン(Janosch Schobin, 1981-)らの友情(Freundschaft)論も参照しつつ、平易な言葉で「友情の原理」(第Ⅰ部)と「変化の中の友情」(第Ⅱ部)が掘り下げられます。恋愛でも博愛でもない友情の中間的性格や緩さの再発見は、超高齢社会に突入して久しい日本の現状と未来を考える上で欠かせない視点ではないかと感じます。

★カーン『生物模倣』は明日5月7日取次搬入となる新刊で、『Adapt: How Humans Are Tapping into Nature's Secrets to Design and Build a Better Future』(St. Martin's Press, 2017)の翻訳。「ロサンゼルス・タイムズ」紙のサイエンスライターによる「生物に着想を得たデザイン(biologically inspired design)」をめぐる一冊。「本書では、生物学から学ぼうと集まり、私たちの技術開発能力の限界を超えようとしている様々な分野の科学者と出会う。極微の世界(光合成の化学)からきわめて大きな世界(生態系の原理)まで見て回る。そこで話を、材料科学、運動の力学、システムの基礎構造、持続可能性という四つのテーマに分けることにする。各章では、自然がどのように今の科学技術の上を行っているかを人々が調べるうちに、いくつかの新発見がなされ、またさらに現われようとしている分野を見ていく。本書全体で、そうした例やさらにその先を見て、自然の新機軸を人間の科学技術向上にあてはめることで、ものごとを大きくするのではなく、良くすることが可能になる様子を探る」(プロローグより)と。目次詳細は書名のリンク先でご覧になれます。

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by urag | 2018-05-06 23:00 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)