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2018年 04月 01日 ( 1 )


2018年 04月 01日

注目新刊:「中世思想原典集成」第II期刊行開始、ほか

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中世思想原典集成[第Ⅱ期]1 トマス・アクィナス 真理論 上』上智大学中世思想研究所編訳/監修、山本耕平訳、平凡社、2018年3月、本体15,000円、A5判上製954頁、ISBN978-4-582-73434-8
中世思想原典集成[第Ⅱ期]2 トマス・アクィナス 真理論 下』上智大学中世思想研究所編訳/監修、山本耕平訳、平凡社、2018年3月、本体15,000円、A5判上製1010頁、ISBN978-4-582-73435-5
吉本隆明全集15[1974-1978]』吉本隆明著、晶文社、2018年4月、本体6,500円、A5判変型上製646頁、ISBN978-4-7949-7115-9
ルトワックの“クーデター入門”』エドワード・ルトワック著、奥山真司監訳、芙蓉書房出版、2018年3月、本体2,500円、4-6判並製336頁、ISBN978-4-8295-0727-8

★『中世思想原典集成[第Ⅱ期]』が刊行開始となりました。第1回配本は『トマス・アクィナス 真理論』上下巻です。2巻合計で税込32,400円というしんどさですが、合わせて2000頁近い大冊です。現在は版元品切となっている第Ⅰ期第14巻の「トマス・アクィナス」はこれまた850頁以上の大部で1993年に刊行され当時消費税3%の折に税込6800円(本体6,602円)で、2009年までに4刷を数えていました(本体価格は10,000円に上昇)。高額な神学書が4刷というだけでもすごいことです。今般完訳された、若き日のトマスによる連続討論集『真理論〔Quaestiones disputatae de veritate〕』全29問は、かつて抄訳では花井一典(はない・かずのり:1950-2010)訳が1990年に哲学書房の「中世哲学叢書」第2巻『真理論』として、第1問「真理について」のみ訳出されていました(なお花井訳では『ペトルス・ロンバルドゥス命題集註解』第1巻第19篇第5問の翻訳も併載されていました)。今回の新訳はもともと訳者の山本さんが聖カタリナ女子大学の各種紀要に2002年から2012年にかけて発表した訳文に加筆訂正したもの。上下巻の目次を列記しておきます。

◆上巻
総序(稲垣良典)
真理論(山本耕平訳)
第一問題 真理について
第二問題 神の知について
第三問題 イデアについて
第四問題 言葉について
第五問題 摂理について
第六問題 予定について
第七問題 生命〔いのち〕の書について
第八問題 天使の認識について
第九問題 天使の知の伝達について
第一〇問題 精神について
第一一問題 教師について
第一二問題 予言について
第一三問題 脱魂について

◆下巻
第一四問題 信仰について
第一五問題 上位の理性と下位の理性について
第一六問題 良知について
第一七問題 良心について
第一八問題 無垢の状態での最初の人間の認識について
第一九問題 死後の魂の認識について
第二〇問題 キリストの魂の知について
第二一問題 善きものについて
第二二問題 善きものへの欲求について
第二三問題 神の意志について
第二四問題 自由決定力について
第二五問題 感能について
第二六問題 魂の情念について
第二七問題 恩寵について
第二八問題 罪人の義化について
第二九問題 キリストの恩寵について
索引(聖句引照索引、人名・固有名索引)

★総序で稲垣さんはこうお書きになっておられます。「トマスが本書で論じている問題の多くはすでに全訳されている『神学大全』においても考察の対象となっており、読者はそれらの箇所を比較検討することによって絶えざる「運動の内に」あったトマスの知的探求に親密に触れることができるであろう。そして、そのことによって「神とは何であるか」という問いを中心に置いてトマスがその全生涯を懸けて行ったとされる知的探求は、現代のわれわれにとって何か縁遠い、重大な関心の対象とはなりえないものではなく、実は人間が人間として善く生きるために必要な知恵の探究であることが明らかになることを期待したい」(25頁)。ちなみに稲垣さんは自らの著書である、講談社「人類の知的遺産」シリーズ第20巻『トマス・アクィナス』(1979年)において、『真理論』第一問第一項をお訳しになったことがおありです。

★第Ⅱ期では月報は付属しないようです。今後の続刊予定は、第3巻が『カンタベリーのアンセルムス著作集・書簡集』(矢内義顕監修)、第4巻および第5巻が『ニコラウス・クザーヌス著作集』上下巻(八巻和彦監修)となる、と予告されています。前者は第Ⅰ期第7巻『前期スコラ学』(『モノロギオン』『プロスロギオン』『言の受肉に関する書簡(初稿)』『哲学論考断片(ランベス写本五九)』『瞑想』)に続く主要著作と書簡集・伝記の新訳で、後者は第Ⅰ期第17巻『中世末期の神秘思想』(『創造についての対話』『知恵に関する無学者の対話』『信仰の平和』『テオリアの最高段階について』)に収録されていない著作約20篇を全新訳する、とのことです。第Ⅰ期全21巻は目下のところ版元品切。再刊は困難なのかもしれませんが、類例のない一大コーパスなのでぜひ定期的には復刊していただきたいところです。

★『吉本隆明全集15[1974-1978]』はまもなく発売(4月6日取次搬入)となる第16回配本。帯文に曰く「著者の古典思想家論の集大成ともいえる『最後の親鸞』、その後の宗教論の礎となった『論註と喩』、ならびに『野性時代』連作の開始期の詩篇を収録」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。当時の様々な文章も収録されており、たとえば1977年8月13日付の「北日本新聞」に掲載されたエッセイ「戦争の夏の日」では敗戦戦後の著者が魚津市で経験した日常を垣間見ることができます。敗戦直後のことはこう振り返られています。「わたしが世界がひっくり返るほどの事態を感じているのに、なぜ空はこのように晴れ、北陸の海はこのように静かに、水はこのように暖かいのだろう。工場は昨日とおなじようになぜ在るのだろう。こういう疑問が頭の中をいつも渦巻いていた。私はこのときに感じたすべての疑問を、じぶんなりに解決しようとして生きてきたのではなかったか。その事をよく知るということがその事の解決であるということはありうる」(489頁)。

★このほか『映画芸術』1978年10月号に寄せた「宇宙フィクションについて」では著者が当時見たSF映画について論評しているのですが、次のようなくだりに出会うといささか驚きます。「わたしはここで観てきた宇宙もの映画を、出来ばえの順に、あるいは面白かった順に、あるいは感銘した順に並べてみたくなった。第1位『さらば宇宙戦艦ヤマト』、第2位『未知との遭遇』、第3位『惑星ソラリス』、第4位『スター・ウォーズ』、第5位『2001年宇宙の旅』」。これがもし並べ替えのクイズだったら、吉本マニア以外は正答を予想しがたいように思います。なぜこの順番なのでしょうか。おおよそ映画評論家の平均的文法とは無縁の視角がそこにはあります。その理由となる論評は同エッセイに書かれているので、ご興味のある方はぜひ本書現物をご覧ください。ちなみに小学生だった自分に当時尋ねたとしたら、タルコフスキーとキューブリックはまだ見ていなかったので、面白かった順番は吉本と同じように、『さらば宇宙戦艦ヤマト』『未知との遭遇』『スター・ウォーズ』の順で答えたかもしれません。この三本を一つの雑談の中で話せる大人など、子供にすぎない私にとってはいませんでしたが、いい歳になった今、そんな大人がいたのかもしれないことに気づいて驚きます。こんなおじさんが親戚にいたら面白かったかもなあと思うのです。

★付属の「月報16」は、佐々木幹郎「吉本さんとの出会い」、三砂ちづる「引き継ぐ課題」、ハルノ宵子「片棒」を掲載。次回配本は6月下旬、第16巻の予定とのことです。

★『ルトワックの“クーデター入門”』は、2016年に刊行された『Coup d'État: A Practical Handbook』の最新改訂版(Revised Edition)の全訳。原著初版は1968年に刊行されており、遠藤浩訳『クーデター入門――その攻防の技術』(徳間書店、1970年)が当時出版されています。実践論であるがゆえに危険視されかねない特異な一書であるものの、米国では1979年の旧改訂版以降はハーヴァード大学出版(!)から出版されています(初版も名門アルフレッド・クノプフ社から)。初版では英国の政治学者サミュエル・E・ファイナーによる序文が載っていますが、旧改訂版以降は米国の歴史学者ウォルター・ラカーによる序文に代わっています。最新改訂版は「2016年版へのまえがき」が追加され、そこでの記述を読む限りでは本書に細かい書き換えがあったことが窺われます(クノプフ版の著者まえがきはパリの五月革命への言及から始まっていますが、これもおそらくは旧改訂版から現在のヴァージョンに置き換えられたのだと思われます)。また、こうも書かれています。「初版が出てからほぼ50年がたつが、その間に私は本書がいくつかのクーデターで実際に使われたという報告を聞いたことがある」(9頁)。目次構成は初版より変わっていません。詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★今回新訳が出た最新改訂版(2016年版)では様々な情報のアップデートがありますが、一方で変わらないものもあります。新旧の状況が交差するのが次のような一節です。「個人の間をつなぐソーシャル・メディアや、より全般的にはインターネットの利用が広がっているにもかかわらず(ファイヤー・ウォールで完全にブロックされている場合は除く)、マスメディアの統制というのは、われわれがクーデター後に権威を確立する際の最も重要な武器であり続けている。したがって、主なマスメディアを抑えることは、われわれにとって死活的に重要な課題となる」(191頁)。この指摘が政府転覆を試みる側にとってだけでなく、政府側にとっても重要であることは言うまでもありません。SNSを含むメディアの掌握は力を求める者にとって欠かせないものであり、それらは「よく見かける」評論家たちの勤勉な工作によっても乗っ取られうるのだということによくよく注意しなければならないと感じます。

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★『中世思想原典集成[第Ⅱ期]』を刊行された平凡社さんでは以下の新刊も発売されています。

ザビエルの夢を紡ぐ――近代宣教師たちの日本語文学』郭南燕著、平凡社、2018年3月、本体4,000円、4-6判上製304頁、ISBN978-4-582-70358-0
周作人読書雑記2』周作人著、中島長文訳注、東洋文庫:平凡社、2018年3月、本体3,300円、B6変判函入436頁、ISBN978-4-582-80888-9
ジュニア地図帳 こども世界の旅 新訂第7版』高木実構成/文、花沢真一郎イラスト、平凡社、2018年3月、本体2,500円、A4判上製72頁、ISBN978-4-582-40743-3
ジュニア地図帳 こども日本の旅 新訂第7版』高木実構成/文、花沢真一郎イラスト、平凡社、2018年3月、本体2,500円、A4判上製72頁、ISBN978-4-582-40742-6
ジュニア地図帳 こども歴史の旅 新訂第4版』高木実構成/文、花沢真一郎ほかイラスト、平凡社、2018年3月、本体2,500円、A4判上製72頁、ISBN978-4-582-40744-0

★『ザビエルの夢を紡ぐ』はザビエルら5人の宣教師が日本文化に与えた様々な影響を考察したもの。著者の郭南燕(かく・なんえん:1962-)さんは上海生まれ、ご専門は日本文学、多言語多文化交流とのことで、著書に『志賀直哉で「世界文学」を読み解く』(作品社、2016年)があります。今回の新著は昨秋上梓された編著書『キリシタンが拓いた日本語文学――多言語多文化交流の淵源』(明石書店、2017年)に続き、「日本語文学」研究における宣教師の著作群の価値を明らかにすることが試みられています。目次を列記しておきます。

序章 日本へのザビエルの贈りもの
第1章 日本に情熱を燃やしたザビエル
第2章 ザビエルの予言へ呼応する近代宣教師たち
第3章 日本人に一生を捧げたヴィリオン神父
第4章 日本人を虜にしたカンドウ神父
第5章 私的な宣教者――ホイヴェルス神父
第6章 型破りの布教――ネラン神父
終章 日本人とともに日本文化を創る試み
あとがき
引用文献一覧
索引

★『周作人読書雑記2』は全5巻の第2回配本。東洋文庫第888巻です。第2巻は「民俗、故郷紹興周辺、その他の書をめぐる雑記」(帯文より)とのことで、「民俗」「越に関する書」「自然・動植物・医学」「絵画・工芸・金石」の4部構成。『遠野物語』『小さき者の声』など柳田國男の著作や、ファーブル『昆虫記』、『蘭学事始』などをめぐるエッセイ、全94篇が収められています。次回配本はふた月空いて6月、『周作人読書雑記3』とのことです。

★『ジュニア地図帳〔アトラス〕』新訂版3点「こども世界の旅」「こども日本の旅」「こども歴史の旅」は80年代後半に出版されて以来ロングセラーとなっている定番本の最新版。20代、30代の親御さんの中には子供の頃接したことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。懐かしさを感じさせるイラストに変わらない味わいを覚えます。

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by urag | 2018-04-01 23:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)