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2007年 03月 25日 ( 2 )


2007年 03月 25日

今週の注目新刊(第91回:07年3月25日)

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アルトー後期集成(1)
アントナン・アルトー(1896-1948):著 宇野邦一+岡本健:訳
河出書房新社 07年3月 4,410円 46判上製390頁 ISBN978-4-309-70531-6
■帯文より:20世紀、もっとも激烈に世界と闘い、いまだ来るべき巨星でありつづけるアルトー。その思考を爆発させた奇跡的な後期テクスト群をはじめて集成。メキシコのタラウマラ族との出会いを通じた極限的な実験の記録にして代表作のひとつ「タラウマラ」、身体の地獄めぐりのような試練をしるす「アルトー・ル・モモ」をはじめ、「アンリ・パリゾーへのロデーズからの手紙」など重要テクストを集成。「この『後期集成』によって、私たちは初めてアルトーの思考=生殖の過程を目撃することになる」(宇野邦一)。

ソシュール 一般言語学講義――コンスタンタンのノート
フェルディナン・ド・ソシュール:著 影浦峡+田中久美子:訳
東京大学出版会 07年3月 3,150円 A5判上製228頁 ISBN978-4-13-080250-5
●ソシュールが1910年から1911年にかけてジュネーヴ大学で行った一般言語学をめぐる第三回目の講義を、聴講生エミール・コンスタンタンの原ノートから起稿し訳出。原ノート全10冊のうち、第1冊から第3冊目の途中まで、さらに、第7冊から第10冊目までを翻訳。解題は、石
田英敬「新しい世紀のソシュール」。

ニーチェ詩集
フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900):著 河内信弘:訳
書肆山田 07年3月 3,990円 A5判314頁 ISBN978-4-87995-700-9
■帯文より:トリノの広場で鞭打たれる馬に駆け寄って狂気の闇に落ちていったニーチェ。自分の中を嵐になってさまようものを追い求め、自ら駆り立てる。その彼が抱く静謐な言葉。

スピノザ エチカ抄
ベネディクトゥス・デ・スピノザ:著 佐藤一郎:編訳
みすず書房 07年3月 2,940円 46判310頁
●ちょうど中公クラシックスでも工藤喜作訳「エティカ」が新書化されたばかり。

外注される戦争--民間軍事会社の正体
菅原出(1969-):著
草思社 07年3月 1,680円 46判261頁
●まさに儲かっている産業なわけで。

菜根譚 決定版
洪自誠:著 守屋洋:訳著
PHP研究所 07年4月 1,680円 46判369頁
●「菜根譚」は私にとって座右の書のひとつ。岩波文庫版と講談社学術文庫版を就寝前によく併読しています。ちょうどもう一冊、また別の角度から新しく読みたかったところでした。遠くない将来、文庫化されるかもしれませんが、それはそれで歓迎です。

若い読者のためのメルヘン
ヴィンフリート・フロイント:著 木下康光:訳
中央公論美術出版 07年3月 3,780円 A5判244頁
●民話や神話の原基としてのメルヘン。

世界の神話文化図鑑
セルジウス・ゴロウィン+ミルチャ・エリアーデ+ジョゼフ・キャンベル:著 上田浩二+渡辺真理:訳
東洋書林 07年3月 15,750円 A4変形判上製304頁 ISBN978-4-88721-709-6
■版元紹介文より:宇宙の創造、文化の起源――想像力を刺激する神話の旅へ。神話は、民族の世界観を映す、豊かなイメージの宝庫。神話研究の第一人者たちのガイドで、各地の神話をテーマごとに紹介。豊富な図版とともに全世界の神話を俯瞰する1冊。

シークレット・ミュージアム--猥褻と検閲の近代
ウォルター・ケンドリック(1947-1998):著 大浦康介:監修 大浦庸介+河田学:訳
平凡社 07年3月 4,830円 A5判上製420頁 ISBN978-4-582-47347-6
■帯文より:「何を」ではなく、「誰に」見せてはいけないのか? ポルノグラフィーを政治文化のひとつとして捉え、その思考構造の歴史をはじめて浮き彫りにした、画期的な文学・思想・歴史研究。近代のポルノグラフィーの歴史を主に検閲の観点からたどった名著。

キルケゴール教会闘争の研究
大谷愛人:著
勁草書房 07年3月 15,750円 A5判1169+8頁 ISBN978-4-326-10170-2

京都の平熱--哲学者の都市案内
鷲田清一:著 鈴木理策:写真
講談社 07年3月 1,785円 46判254頁

バルタザール・グラシアンの賢人の知恵
バルタザール・グラシアン(1601-1658):著 斎藤慎子:訳
ディスカヴァー・トゥエンティワン 06年12月 1,785円 ISBN4-88759-516-6
●これも刊行当時は見逃していた本。この、17世紀スペインのイエズス会士はなぜか、英語圏で自己啓発系著者として人気で、日本でも90年代に立て続けに3冊邦訳されたことがありました。92年12月『バルタザールの悪の自分学』(三笠書房)、93年6月『賢者の教え--せち辛い人生をいかに生きぬくか』(経済界)、94年5月『バルタサル・グラシアンの成功の哲学--人生を磨く永遠の知恵』(ダイヤモンド社)。
●自己啓発系の訳され方や売られ方とは異なるグラシアンを読みたい方は、筑摩書房の『澁澤龍彦文学館(2)バロックの箱』所収の、桑名一博訳「神託必携・処世知の技(抄)」をどうぞ。

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◎注目の新書・文庫

何も起こりはしなかった--劇の言葉、政治の言葉
ハロルド・ピンター(1930-):著 喜志哲雄(1935-):編訳
集英社新書 07年3月 840円 新書判222頁 ISBN978-4-08-720384-4
●著者は周知の通りイギリスの劇作家で、05年度にノーベル賞を受賞している。彼のアメリカ批判は激烈だ。活字から怒りのエネルギーがにじみ出てくるのを感じる。

ウェブ人間論
梅田望夫(1960-)+平野啓一郎(1975-):著
新潮新書 06年12月 714円 新書判203頁 ISBN4-10-610193-9
●図らずも見過ごしてしまっていた本。やはり本はリアル書店の店頭で探すに限りますね。

新古今和歌集 (上下)
久保田淳:訳注
角川ソフィア文庫 07年3月 各980円 文庫判488頁/474頁

by urag | 2007-03-25 23:52 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2007年 03月 25日

尊敬する書店員Aさんのこと。絶望にどこまでも抵抗する、勇気の人。

本日25日配信の「[本]のメルマガ」280号に寄稿した拙文を転載します。

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■「ユートピアの探求」/ 五月
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「一万円以上のお買い上げですので、宅配が無料でご利用いただけますが、いかがでしょうか」。いつもはすぐにでも読みたいからどんなに重くても持ち帰るのだけれど、その日の買い物に急ぎのものはなかったので、宅配してもらうことにした。レジの脇のサービスカウンターに座り、伝票に住所を書く。その時までまったく気づかなかったのだけれど、いつもお世話になっている当該書店の店員Aさんが私のすぐ隣の席で接客をしていた。

Aさんは男性客の購入した自由価格本の値札シールを丁寧に剥がして、カバーに消しゴムをかけているところだった。男性客の世間話を立ったまま聞きながら、Aさんはにこやかに消しゴムをかけている。自由価格本はセール品であり、そもそも綺麗な状態のものを期待するような商品ではない。値札を剥がしたり消しゴムをかけるのは購入者自身が持ち帰った後に自分の望むようにやればいい。それを書店員がやっているということは、恐らく何かしらの要望を訴えられたのだろう。

終始穏やかに対応しているAさんに、私は半ば胸を打たれる気がした。一人の購入者に尽くすというそのホスピタリティ。本当は分刻みで忙しい人だということを私は良く知ってる。なのにそのそぶりも見せない。一メートルと離れていない場所に座っていた私はその物静かな光景を前に感銘を噛み締め、ついに一言の挨拶もできないままその場を離れた。

Aさんから教えられたことは他にもある。「書店員は学者ではないから、学問について深く知らないのは仕方がない」という人が業界にはいる。これが一種の開き直りやエクスキューズに用いられる場合があって、それを言われて困らない版元営業マンはいないだろうと思う。会話がそこで途切れてしまうのが常なのだけれど、Aさんはその先の言葉を持っていた。

書店員は学者ではないから、学問について深く知らないのは仕方がない、しかし、書店員は「だから知らないままでいい」のではなくて、「知らないことを誰に聞けばいいか、何で調べればわかるのか、押さえておく」ことが重要なのだ。それがAさんの主張だった。私もまったく同感だった。「書店員」という言葉を「出版人」に置き換えても、この主張は真である。

Aさんは接客も書棚作りも一流だった。なによりも書店という場を熱愛する人だった。大学で哲学を学んだ自称ヘーゲリアンのAさんはキャリアを積むごとに、書棚をいじる仕事から引き離され、売場を統括する管理職になっていった。本好きの書店員にとって、棚に手を掛けられないのはとても辛いことだ。けれどもAさんはただの本好きではなく、書店という空間を愛していたから、管理職の仕事を黙々とこなし、なおかつバックヤードではなく接客の第一線にその身を晒していた。

毎日何千人という客が相手ではおそらく精神的にへとへとになるに違いない。それでもAさんはやはりレジに立っている。しかもこのレジがすごい。大書店はたいていフロアごとにレジがあるけれど、Aさんの勤める書店は、地下一階から九階までの全フロア分のレジを一階にのみ集中させているのだ。日本一広い書店の、日本一広いレジカウンターである。

普通の人だったら、そんな現場の責任者にはなりたくないだろうけれど、任命されたAさんの反応は逆だった。Aさんは当時を振り返ってこう述べている。

「二〇〇〇年末、ジュンク堂池袋本店の一階集中レジの完成を目の当たりにした時、「すごい舞台を与えてもらった」と、若かりし日に役者として臨んだ初日の舞台と同趣の感動を、ぼくは覚えました」(福嶋聡『希望の書店論』人文書院刊、217頁)。

なんという度量だろう。昨日、Aさん――福嶋聡さんはジュンク堂書店池袋本店副店長としての職務を終えた。来月からは大阪本店の店長として赴任するのだ。新著『希望の書店論』の刊行記念パーティを兼ねた、東京での壮行会では、多くの出版人が集った。

『希望の書店論』というタイトルは非常に象徴的だ。なぜならば福嶋さんは業界に垂れ込める絶望の暗雲と常に果敢に戦ってきた、戦おうとしてきた人だから。福嶋さんはこう書いている。

「今、〔書店業界が〕厳しい状況であることは、誰でも知っている。でも、「駄目だ、駄目だ」と言っていたって埒は開かんでしょう。出版物を扱うというのは、とても魅力的な仕事なのだから、なんとかいい方向に持っていこうよ、そのためには、「もう駄目だ」と言っちゃおしまいでしょうが」(同書、185頁)。

壮行会で福嶋さんは私の求めた同書に、こんな献辞を書いてくださった。

「哲学思想は永遠に不滅です」。

どこか冗談めいていて、どこか真剣で、どこか泣かせる。やれやれ、いくら書いても書き足りない。書こうとしてもすべてのことを明かせるわけでもない。あとは酒の席で話しますから、福嶋さん本人にでも、私にでも、今度声を掛けてください。

by urag | 2007-03-25 23:13 | 雑談 | Trackback(1) | Comments(0)