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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2009年 10月 13日

注目新刊:09年9月~10月発売分・人文書

技術への問い
M・ハイデッガー(1889-1976):著 関口浩:訳
平凡社 09年9月 本体2,800円 ISBN978-4-582-70228-6
■帯文より:現代技術の本質は集-立〔ゲシュテル〕にある!! 人間を閉じ込めるこの命運からの脱却は可能か?
●『芸術作品の根源』(平凡社、02年5月/平凡社ライブラリー、08年7月)に続く関口訳ハイデガー第二弾です。目次はbk1に詳細あり。本書は、技術論をテーマに5論考を収めていますが、54年にドイツで刊行された『講演と論文』から3作(53年「技術への問い」、53年「科学と省察」、36-46年「形而上学の超克」)を収め、さらに62年口述/89年刊行の「伝承された言語と技術的な言語」と、67年口述/83年刊行の「芸術の由来と思索の使命」を併録しています。
●「技術への問い」は、理想社版『ハイデッガー選集(18)技術論』(小島威彦ほか訳、65年9月)にも既訳があります。理想社版『技術論』は、62年に刊行された講演集『技術と転向』の全訳で、「技術への問い」と「転向」の2編とそれに先立つ「まえがき」を収録。さらに「日本の友に」と題された序文も添えられています。
●「集-立〔Gestell〕」という概念については、1949年の連続講演「有るといえるものへの観入」第2部(『ハイデッガー全集(79)ブレーメン講演とフライブルク講演』森一郎ほか訳、創文社、03年2月)もご参照ください。この訳書では「総かり立て体制」と訳されています。

精神分析講義――精神分析と人文諸科学について
ルイ・アルチュセール(1918-1990):著 オリヴィエ・コルペ+フランソワ・マトゥロン:編 信友建志+伊吹浩一:訳
作品社 09年9月 本体2,600円 ISBN978-4-86182-201-8
■帯文より:すべてはラカンとの出会いから始まった。当時学生だったフーコー、ブルデュー、デリダ、ドゥルーズを聞き手とし、精神分析を哲学の「問題」として問い、“思想”にまで昇華した記念碑的業績。「現代思想」誕生の息吹を伝える幻の講義録(1963-64年)本邦初訳!
●原書は96年刊。「人文諸科学における精神分析の場」と「精神分析と心理学」の2回の講義から成ります。信友さんによる訳者解説「欲望の空虚と痕跡――立ち止まるアルチュセール」のほか、宇波彰さんによる長編解説「アルチュセールのために」も併録されています。
●アルチュセール自身の関連論文をまとめた『フロイトとラカン――精神分析論集』(石田靖夫ほか訳、人文書院、01年5月)との併読をお薦めします。

ホワッチャドゥーイン、マーシャル・マクルーハン?――感性論的メディア論
門林岳史(1974-):著
NTT出版 09年9月 3,200円 ISBN978-4-7571-0265-1
■帯文より:メディア論・現代思想を更新する衝撃のデビュー作! 決定的なマクルーハンの真実が今、明かされる。
●博士論文に加筆。田中純さんから「マクルーハンを徹底解剖する精緻きわまりない読解がメディア論の「根源」を照射する」と絶賛され、水越伸さんからも「ついに亡霊マクルーハンの召還に成功! 数々のプローブをめぐる魔術的探求の成果」との賛辞を送られています。目次はbk1に詳細あり。

万物の歴史〔新装版〕ケン・ウィルバー(1949-):著 大野純一:訳
春秋社 09年9月 本体4,000円 ISBN978-4-393-36054-5
■帯文より:〈個人/集団〉の〈内面/外面〉という四象限の区別を用いて、人類を含む万物の歩みをたどり、これから人類が進むべき道筋を示すウィルバーの名著、待望の復刊!
●原書は96年刊、日本語訳初版刊行は96年12月です。ウィルバーの主著と言っていいであろう『進化の構造』(全2巻、松永太郎訳、春秋社、98年5-6月)の要約版で、対話形式で書かれています。春秋社さんから刊行されているウィルバーの既訳書には、先述の『進化の構造』のほか、『意識のスペクトル』(全2巻、吉福伸逸ほか訳、85年)、『アートマン・プロジェクト――精神発達のトランスパーソナル理論』(吉福伸逸ほか訳、86年/新装版97年)、『グレース&グリット――愛と魂の軌跡』(全2巻、伊東宏太郎訳、99年)、『科学と宗教の統合』(吉田豊訳、00年)、『統合心理学への道――「知」の眼から「観想」の眼へ』(松永太郎訳、04年)、『存在することのシンプルな感覚』(松永太郎訳、05年)、『インテグラル・スピリチュアリティ』(松永太郎訳、08年)がありますが、最後の2点を除いてすべて品切。順次復刊されていくといいですね。
●ウィルバー初心者の方に個人的にお薦めしたいのは、『無境界――自己成長のセラピー論』(吉福伸逸訳、平河出版社、86年6月)です。日本は当時「ニューエイジ・サイエンス」ブームのただなか(それは「ニューアカ」ブームと同時代なのです)にあって、C+Fコミュニケーションズ編著『パラダイム・ブック――新しい世界観、新時代のコンセプトを求めて』(日本実業出版社、86年3月)や、里深文彦編著『ニューサイエンス入門――現代科学のキーワード』(洋泉社、86年6月)といった非「理系人間」にも親切なガイドブックが売れていました。文系における「ニューアカデミズム」ブームと同様に、既成の学問体系を解体して大胆に軽やかに乗り越える、という時代の知のニーズに適っていたのではないかと思います。もはやそういう時代は去った、と言い捨てるのは簡単ですが、ウィルバーのように時代の変化の荒波に適応しつつも抗いつつ今なお活動を続けている人物だっているわけで、単純な回顧話に終わるものではないと思うのです。不況であればあるほど活性化する、亜流のスクラップ&ビルドであふれかえった遠浅のビジネス系自己啓発本ブームに比べるなら、私は80年代の「ニューサイエンス」本のほうが見るべき議論は多いし、当時刊行され、今なお重版され続けている書目を再読するほうがマシだと思っています。などと書いていたら、野村総合研究所の此本臣吾さんという方が5年前に「ニューサイエンスが意味するもの」というコラムの末尾に「20年前にニューサイエンスで議論されていたことは、今なお新鮮さを失ってはいない」とあるのを発見して、共感を覚えたのでした。ちなみに90年代以降(特にゼロ年代の十年間)に「ニューエイジ」を自称する部類の商売本については、どちらかと言えば警戒心をもって接したほうがいいと思っています。

精神の自由ということ――神なき時代の哲学
アンドレ・コント=スポンヴィル(1952-):著 小須田健+C・カンタン:訳
紀伊國屋書店 09年10月 本体2,000円 ISBN978-4-314-01058-0
■帯文より:「文明の衝突」と「宗教の回帰」の時代に、なにを信じて、生きればいいのか。人びとが人生の意味を求めてさまざまに彷徨する現代。〈宗教〉に倚ることなく、いかにして誠実に、そして自由に生きることが可能か――自ら無神論者であることを選んだフランス哲学の旗手が問いかける。
●原著『無神論の精神――神なき精神性へ向けて』は06年刊。まず最初に気をつけなければいけないのは、本書で言う「宗教」や「神」というのは一般的な日本人がぼんやりと思い浮かべる際の日本特有のイメージのものとは違うということです。本書で言うそれらは第一義的にはキリスト教のそれです。コント=スポンヴィルの言う「無神論」は日本人の言う「無宗教」とは違います。そんなわけで、本書は無宗教の日本人が「宗教なんてインチキだ」と溜飲を下げるための本ではないし、信仰を持っている日本人が「無神論とはけしからん」と怒りながら素通りすればいい本でもないです。ではどんな本なのか。その答えは本書のキーワード「精神性〔スピリチュアリテ〕」にあります。
●「訳者あとがき」にはこう書かれています。「私たちは、宗教および信仰というものとのつきあいかたをじっくり考えなおさなければならない時代に突入しているということだ。自分は無宗教だからという口実をもちだして、思考停止に陥ることはもはや許されない。スピリチュアリティとは、だから信仰の脇に置かれた口直しの添え物などではない。それは、二一世紀における私たちの宗教とのかかわりかたを根本から考えなおすためのまたとない視角なのだ」(288頁)。「ぜひみなさんには本書を手にとってゆっくり味読してもらいたい。抹香臭い宗教臭などとは無縁な、すがすがしい一陣の風が部屋のなかを駆け抜けてゆくのが感じられることだろう」(291頁)。
●スピリチュアリティというカタカナ語はこんにちではずいぶんと手あかにまみれた言葉になってしまいましたが、現代人が黙過すべきではないその「深さ」について、本書は肩ひじ張らず素朴に語っています。精神性でも霊性でもタマシイでも何とでも言い換えていいのです。「スピリチュアリティ」という言葉のうんざりするほどの通俗性にもかかわらず、私はそこから大事な何ものかを今なお聞き取っています。

近代政治の脱構築――共同体・免疫・生政治
ロベルト・エスポジト(1950-):著 岡田温司:訳
講談社選書メチエ 09年10月 本体1,800円 ISBN978-4-06-258451-7
■帯文より:政治哲学の可能性をきりひらく! イタリア現代思想の旗手・エスポジトの思考とは。
●先日書いた通り、本書は昨年刊行されたTermini della politica. Comunità, immunità, biopoliticaの翻訳であることを確認しました。冒頭には訳者の岡田さんによる懇切丁寧な序文「ナポリ発、全人類へ――ロベルト・エスポジトの思想圏」が併載されており、原著にあったティモシー・キャンベルの序論は省かれています。「訳者あとがき」によれば、講談社選書メチエでは、エスポジトの『三人称――生の政治と非人称の哲学』(エイナウディ、07年)も刊行する予定だそうで、うれしい限りです。

Commonwealth
Michael Hardt & Antonio Negri, Belknap Press, 2009, ISBN978-0-674-03511-9
●ついに先月、ハート&ネグリの「帝国」三部作の第三部が刊行されました。第一部『帝国』(00年/日本語訳03年)と同じ、ハーヴァード大学出版(正確にはその一部門のベルクナップ出版)からの上梓です。第二部『マルチチュード』(04年/日本語訳05年)がペンギンから出された時には、今後はどんどん大手出版社に持って行かれちゃうのかなと危惧しましたが、元のさやに戻って少しほっとしています(ハーヴァードだって実際はずいぶんと権威的な版元ですけれども)。
●Commonwealthはどう訳すのが適当でしょうか。共和国、連邦、連合体、民主国家……。日本語の来歴に因る印象を考慮すると、後半の訳語のほうが「クニ」臭くなくていいような気もしますが。common wealthという風に分割して書かれている個所もあるので、「共有財産としての民主的連合共同体」といったところが私のイメージです。
●目次についてはハーヴァード大学出版のウェブサイトに詳細が載っています。本文は冒頭16頁まで同大学出版のサイトで読めますし、Googleブックスではさらに色んな頁を読むことができます。
●カバーにはナオミ・クラインとフレドリック・ジェイムソンの推薦文が寄せられています。はっきり言って、かなりの絶賛調に響きます。こんな感じ。

Everyone seems to agree that our economic system is broken, yet the debate about alternatives remains oppressively narrow. Hardt and Negri explode this claustrophobic debate, taking readers to the deepest roots of our current crises and proposing radical, and deeply human, solutions. There has never been a better time
for this book. — Naomi Klein

Commonwealth, last and richest of the Empire trilogy, is a powerful and ambitious reappropriation of the whole tradition of political theory for the Left. Clarifying Foucault's ambiguous notion of biopower, deepening the authors' own proposal for the notion of multitude, it offers an exhilarating summa of the forms and possibilities of resistance today. It is a politically as well as an intellectually invigorating achievement. — Fredric Jameson

●きっと日本語でも数年以内に読めるようになるでしょうが、本書の末尾(Instituting Happiness)は特に感動的だと思います。そこには長く続く不幸の時代、不正との終わりのない戦いの中にも絶えることのなかった笑いと歓びの力が描かれています。それは絶望をことごとく破壊する希望の力であり、あきらめない力です。彼らは冷笑家ではありません。彼らの笑顔はどこまでも快活で軽やかで力強く、人々を勇気づけようとします。引用したいところですが、今は時間が足りません。
●本書の「謝辞」に名前が出ている人々の中には、上記のクラインやジェイムソンのほか、日本で知られている人物では、クリスチャン・マラッツィ(『現代経済の大転換』青土社、09年3月)の名前が挙がっていました。ネグリの伴侶ジュディット・ルヴェルや、ハートの伴侶キャシー・ウィークスの名前も見えます。そして、唯一の日本人では、デューク大学の依田富子さんの名前がありました。『テクストへの性愛術』(高木信+安藤徹編、森話社、00年4月)に「性差・文字・国家」という論考を寄せておられる方がご当人だと思います。

***

最後に、人文書に分類するかどうかはわからないのですが、東洋書林の『世界の中の日本がわかるグローバル統計地図』(ドーリング+ニューマン+バーフォード著、猪口孝監修、09年10月)について特筆しておきたいと思います。これは、各種統計データを実際の土地の大きさに見立てて、世界地図を変形したもので、データの種類は実に366項目に上ります。冒頭の「陸地国土面積」データに基づく地図は、ふだん見ている通りの世界地図ですが、次の「総人口」を基にした世界地図ではいきなり日本が大きくなります。統計データごとに世界地図はみるみるいびつになり、輸入や輸出の統計データに基づく世界地図では時として日本はバカデカイ国になります。世界の不均衡がだれの目にも明らかになる、素晴らしく啓発的な本です。

インターネット全盛時代のこんにちでも、こうした統計資料本はどんなにかさばっても紙媒体のほうが私には扱いやすいです。たとえば今年刊行された書目の中では平凡社の『新訂版 昭和・平成史年表』や、『百貨便覧 五訂版』などは、視覚的にも工夫されており、パソコンのディスプレイで見るよりまだまだ閲覧しやすいです。こうした貴重な統計本が紙媒体から電子媒体にスイッチされたら、検索性においては多少便利かもしれませんが、頭と一緒に手を使いたい私にはやりきれません。

そんな素晴らしい本を出している東洋書林と平凡社の新刊で、くつろぎのひと時を与えてくれるのは、『パリ 地下都市の歴史』(リアー+ファイ著、古川まり訳、東洋書林、09年9月)と、『子不語(2)』(袁枚著、手代木公助訳、東洋文庫:平凡社、09年10月)です。前者は大都市足下の900年史(採石場、カタコンブ、下水道、地下鉄など)、後者は18世紀の怪談集で、どちらも「怖い」本なのですが、疲れた脳みその縮こまった想像力をほぐしてくれます。

by urag | 2009-10-13 01:35 | 本のコンシェルジュ | Comments(2)
Commented by 某書店員 at 2009-10-14 17:13 x
最新の千夜千冊のなかで『涜神』アガンベンが紹介されています。
Commented by urag at 2009-10-15 11:57
某書店員さん、ご教示ありがとうございます。まだ先の話だろうと思っていましたが、こんなに早く出るとは思いませんでした…


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