2009年 09月 06日
「近刊チェック」の前口上として、前回に引き続きここ一カ月の新刊を振り返ってみますが、長くなるので、「近刊チェック」そのものとは別にアップします。 ◎09年8月新刊より ■哲学・思想 『哲学者たちの死に方』サイモン・クリッチリー/杉本隆久+國領佳樹:訳 河出書房新社 3,150円 『ドゥルーズとガタリ 交差的評伝』フランソワ・ドス/杉村昌昭:訳 河出書房新社 7,245円 『ナラティヴの権利――戸惑いの生へ向けて』ホミ・K・バーバ/磯前順一ほか:訳 みすず書房 4,410円 『カール・フィリップ・モーリッツ――美意識の諸相と展開』山本惇二 鳥影社 3,780円 『怠惰への讃歌』バートランド・ラッセル/柿村峻+堀秀彦:訳 平凡社ライブラリー 1,365円 『重力と恩寵〔新版〕』シモーヌ・ヴェーユ/渡辺義愛:訳 春秋社 2,625円 『学問の春――〈知と遊び〉の10講義』山口昌男 平凡社新書 798円 まず河出の2点が「読み物」としては秀逸です。どちらも堅苦しい感じはなく、興味津津に読めます。クリッチリー(1960-)の新刊は、『ヨーロッパ大陸の哲学』(佐藤透訳、岩波書店、04年06月)に続く待望の日本語訳第二弾。 原題を直訳すると『死せる哲学者たちの書』。古代から現代までの西洋の哲学者の死にざまや、死に対する彼らの思想をめぐって論じている軽妙なエッセイ集です。古代から現代までと言っても中世やルネサンス期をすっとばすようなことはなく、好感が持てます。中国古典の思想家や日本の栄西などの禅についても取り上げていますが、それは本書のごく一部に留まります(そのことが本書の魅力を減じているということはありません)。登場する哲学者は約190名。その末尾には著者自身もちゃっかり連なっており、一種の「オチ」になっていて笑えます。論じる対象によって長短様々ですし、言及の仕方も一様ではないので、それぞれの哲学者像が興味深いですが、印象的な言葉を一言だけ引用しておきます。「私たちを悩ませ、はるか遠くから私たちに思案を要請するという仕方で、彼ら〔哲学者〕は私の内に生き続けているのである。〔…〕あなたが死者と交信したいなら、本を読むことだ」(341頁、デリダをめぐる文末に)。 フランス現代思想史の名手ドス(あるいはドッスとも。1950-)の新刊は、これまた間違いなく面白い評伝です。単独著の日本語訳には『構造主義の歴史』(上下巻、清水正・佐山一・仲沢紀雄訳、国文社、09年9月-10月)、『意味の支配――人文科学の人間化』(仲沢紀雄訳、国文社、03年5月)があります。いずれも大著ですが、なかなか読ませますし、なにより情報が満載で、構造主義以降のフランス現代思想を知る上での基本的文献だと思います。今回のドゥルーズ/ガタリ伝も長編で、日本の読者の大半は本書で初めて知るエピソードが多々あるだろうと思います。読後には、ドゥルーズ/ガタリの著書の読み方というかアプローチや視線が多少なりとも変わるのではないでしょうか。二人をめぐる思想の星座が見えてくる、ぜひお薦めしたい一冊です。 ちなみに河出の新刊では、クリストファー・レーン『乱造される心の病』というのも今月出ていて、向精神薬の巨大利権に迫る、実に興味深い本でした。以前『ビッグ・ファーマ――製薬会社の真実』(マーシャ・エンジェル著、篠原出版新社、05年11月)という怖い本が出ていましたが、新型インフルエンザとその治療薬が国民に知れ渡っている今こそ、こうした製薬会社や医療産業の素顔を知っておくべきなのかもしれません。 バーバの新刊は、日本語版オリジナルのアンソロジー。これは実に画期的です。というのも、バーバの単独著はなぜか今なお『文化の場所』(本橋哲也ほか訳、法政大学出版局、05年2月)のみだったからです。日本語訳が一冊だけしかない、という意味ではありません。原著自体が一冊しか出ていないのです。そこにこのオリジナル・アンソロジーの登場。もちろんバーバのお墨付きです。収録されているのは「ナラティヴの権利」「アウラとアゴラ――他者との交渉に開かれた陶酔、そして隙間から語ること」「冗談はさておいて――自己批判的な共同体の理念について」「散種するネイション――時間、ナラティヴ、そして近代ネイションの余白」「振り返りつつ、前に進む――ヴァナキュラー・コスモポリタニズムに関する覚書」「アイデンティティのはざまで」「理論を生き延びていく」の7本。巻末には訳者による長編解題「ポストコロニアリズムという言説――ホミ・バーバ その戦略と臨界点」が配されており、バーバの思想的スタンスが丁寧に解説されていて、必読です。 なお、バーバの続刊として、みすず書房では09年10月9日に『エドワード・サイード――対話は続く』(上村忠男+八木久美子+粟屋利江:訳)を刊行予定とのことです。 ラッセルの親本は、1958年刊の角川文庫です。今回、経済学者の塩野谷祐一さんが解説を添えられています。ヴェーユの新版は、生誕百周年記念の新組。『学問の春』は、97年に札幌大学文化学部で行われた山口さんの講義「文化学総論(ホンジンガ『ホモ・ルーデンス』を読む」の記録をもとにしたものとのこと。前後しますが、山本さんのモーリッツ研究は貴重です。帯文には「本邦初の本格的モーリッツ研究書」とあり、モーリッツが「ゲーテの芸術論に多大な感化を与え」たとあります。モーリッツ(Karl Philipp Moritz)は18世紀ドイツの文筆家で、いわゆる「疾風怒濤」期に属しています。日本語訳には、古い本ですが、『ギリシア・ローマ神話』(藤田五郎訳、みすず書房、1946年)がかつてありました。 ■科学・思想 『理性への回帰』スティーヴン・トゥールミン/藤村龍雄:訳 法政大学出版局 4,410円 『考える寄生体――戦略・進化・選択』マーリーン・ズック/藤原多伽夫:訳 東洋書林 3,360円 『セックス・アンド・デス――生物学の哲学への招待』K・ステレルニー+P・E・グリフィス/太田紘史ほか訳 春秋社 4,935円 『イルカ――生態、六感、人との関わり』村山司 中公新書 777円 『建築する動物たち――ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで』マイク・ハンセル 青土社 2,520円 『量子テレポーテーション――瞬間移動は可能なのか?』古澤明 ブルーバックス(講談社) 840円 『脳の饗宴』茂木健一郎 青土社 1,470円 『チューリングを受け継ぐ――論理と生命と死』星野力 勁草書房 2,730円 『通信の数学的理論』クロード・シャノン+ワレン・ウィーバー/植松友彦:訳 ちくま学芸文庫 1,260円 『歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン ハヤカワ文庫NF 882円 トゥールミン(1922-)は英米語圏の科学哲学界の重鎮ですが、なぜか日本の読書界ではさほど注意を払われていない感じがします。単独著の既訳には、『科学哲学』(藤川吉美訳、東京図書、1971年)、『科学哲学へのいざない』(藤川吉美訳、東京図書、1976年)、『ポストモダン科学と宇宙論』(宇野正宏訳、地人書館、91年10月)、『近代とは何か』(藤村龍雄・新井浩子訳、法政大学出版局、01年12月)などがありますが、一番読まれたのはアラン・ジャニクとの共著『ウィトゲンシュタインのウィーン』(藤村龍雄訳、TBSブリタニカ、1978年/92年;平凡社ライブラリー、01年3月)かもしれません。平凡社ライブラリー版が現在品切なのが残念。今回の新刊は再び藤村龍雄さんによる訳業。版元ウェブサイトの内容紹介によれば、「近代の学問世界を支配した数学的・科学的合理性(ラショナリティ)は、その行き過ぎた理論偏重のゆえに、人間の具体的現実への理に適った態度(リーズナブルネス)を軽視させることとなった。世界の根源的不確実性を排除せず、歴史と経験を重視し、つねに知的活動の根拠を問う実務家的道理性への回帰こそがいま求められている。名著『近代とは何か』に続く、科学哲学の枠を超えた重要な文明史的提言」とあります。 行動生態学者ズックの新刊は、昨年の『性淘汰――ヒトは動物の性から何を学べるのか』(佐藤恵子訳、白揚社、08年10月)に続く第二弾。硬質な理論書ではなく、語り口はあくまでも柔らかいですし、書き方も魅力的です。たとえば第五章「セックスでうつる病気」や第七章「メスに選ばれる条件」などは、見当違いの興味から読み始めてもきっと後悔しないほど、生物の不思議を堪能できると思います。先ほども言及した昨今の新型インフルエンザへの理解をより深めるためには、本書の第十章「新興感染症の真実」などを読むといいと思います。 『セックス・アンド・デス』はズックの本に比べると内容が硬いですが、随所に読書案内がちりばめられていて、生物学を哲学的に料理し考察してみたい人にはもってこいです。帯には「現代哲学の新機軸〈生物学の哲学〉の全貌!」と謳われています。本書の版元、春秋社では今春、エリオット・ソーバー『進化論の射程――生物学の哲学入門』(松本俊吉ほか訳、春秋社、09年4月)という本も刊行しており、このジャンルを強力にプッシュしておられる様子。なお、『進化論の射程』は同社の充実したシリーズ「現代哲学への招待」の一冊で、本書に続くシリーズ最新刊は、8月に刊行された、中山康雄『現代唯名論の構築――歴史の哲学への応用』です。さらに春秋社では同月に『ハイエク全集』第II期第7巻『思想史論集』が出ていて、まさに強力な新刊の連打でした。 ブキャナン(1961-)の文庫新刊は「数理を愉しむ」シリーズの一冊。帯文には「なぜ株式市場は暴落するのか? なぜ地震予知は失敗しつづけるのか?」とあって、つい手にとってみたくなりますよね。親本は『歴史の方程式――科学は大事件を予知できるか』(早川書房、03年11月)。数ヶ月前に刊行されたブキャナンの別の新刊が『人は原子、世界は物理法則で動く――社会物理学で読み解く人間行動』(阪本芳久訳、白揚社、09年6月)なので、この二冊は題名が呼応していて覚えやすいと思います。内容的には、数式の羅列で読者を煙に巻くということはない一般向けの啓蒙書なので、通勤電車で読んで「べき乗則」について理解を深める楽しみがあると思います。なお、ブキャナンの既訳書には上記のほかに、『複雑な世界、単純な法則――ネットワーク科学の最前線』(阪本芳久訳、草思社、05年3月)があります。 ■歴史・思想 『銅鐸の祭と倭国の文化――古代伝承文化の研究』三浦茂久 作品社 4,830円 『戦後日本スタディーズ(1)40・50年代』岩崎稔ほか:編 紀伊國屋書店 2,520円 『本居宣長の大東亜戦争』田中康二 ぺりかん社 5,040円 『ノモンハン事件――機密文書「検閲月報」が明かす虚実』小林英夫 平凡社新書 798円 『労働力動員と強制連行』西成田豊 日本史リブレット(山川出版社) 840円 『敗戦と赤線――国策売春の時代』加藤政洋 光文社新書 798円 『京の花街ものがたり』加藤政洋 角川選書(角川学芸出版) 1,575円 『写真で見る日本陸軍兵営の食事』藤田昌雄 光人社 1,890円 『「村山談話」とは何か』村山富市+佐高信 角川oneテーマ21 740円 『アレン・ダレス――原爆・天皇制・終戦をめぐる暗闘』有馬哲夫 講談社 1,995円 『中国共産党「天皇工作」秘録』城山英巳 文春新書 798円 『毛沢東は生きている――中国共産党の暴虐と闘う人々のドラマ』上下巻 フィリップ・P・パン/烏賀陽正弘:訳 PHP研究所 1,680円 『スィンティ女性三代記(上)私たちはこの世に存在すべきではなかった』ルードウィク・ラーハ:編著/金子マーティン:訳 凱風社 2,625円 『スィンティ女性三代記(下)『スィンティ女性三代記(上)』を読み解く』金子マーティン 凱風社 3,675円 『世界史的考察』ヤーコプ・ブルクハルト/新井靖一:訳 ちくま学芸文庫 1,575円 『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』上下巻 ハワード・ジン あすなろ書房 各1,575円 『ファウスト伝説――悪魔と魔法の西洋文化史』溝井裕一 文理閣 2,625円 『ユリ・ゲラーがやってきた――40年代の昭和』鴨下信一 文春新書 851円 三浦茂久さんの新刊は、昨秋の素晴らしいデビュー作『古代日本の月信仰と再生思想』(作品社、08年10月)に続く第二弾。川村湊さんがこう絶賛されています、「語源俗解や言霊論に陥らない著者の古代語探索の背後には、折口学にも似た、コトバそのものに“耳を澄ます”深い古代的感性と、近代的な論理がある」(帯文より)。「銅鐸伝承の発掘」「銅鐸伝承と八朔の祭」「和数詞の成り立ち」「タナバタ(棚機・七夕)とは」「倭とは「渡り」の意である」「内国(ウツクニ)は国名の一つ」「新嘗の原義とオシモノ(酒)」「ツミ・ツチ・ツツという霊格」「オホアナムチとスクナヒコナ」「古代采女とヲナリ」の全十章。古代日本像の復元に向かう終わりなき探究の豊饒さに驚かされます。 紀伊國屋書店の『戦後スタディーズ』全三巻はこの第一巻の刊行でめでたく完結です。第一巻の目玉となるインタビューは三本。井上ひさし「東京裁判三部作と日本国憲法」、金石範「四・三事件と文学的想像力」、無着成恭「『山びこ学校』から戦後日本を読む」、です。いずれも歴史の底知れない重力とそれを伝える作家の真摯さを感じ取れる良いインタビューだと思います。 ■政治・思想 『金融危機後の世界』ジャック・アタリ/林昌宏:訳 作品社 2,310円 『〔新版〕ブランドなんか、いらない』ナオミ・クライン/松島聖子:訳 大月書店 3,675円 『エコ社会主義とは何か』ジョエル・コヴェル/戸田清:訳 緑風出版 3,570円 『税を直す』立岩真也 青土社 2,310円 『ガンジーの危険な平和憲法案』C・ダグラス・ラミス 集英社新書 714円 『アジアは変わるのか〔改訂版〕』松井孝典+松本健一:編著 ウェッジ 1,470円 『イスラームはなぜ敵とされたのか――憎悪の系譜学』臼杵陽 青土社 2,520円 『冬の兵士――イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』反戦イラク帰還兵の会+アーロン・グランツ/TUP:訳 岩波書店 1,995円 『ナショナリズム論・入門』大澤真幸+姜尚中:編 有斐閣 2,310円 上記の新刊は全部、国会議員全員に読むことを義務付けたい本ばかりです。ジャック・アタリ(1943-)の新刊は、前著『21世紀の歴史』を大ヒットさせた作品社から。「アタリは、ブリリアントかつ挑発的に、金融危機後の世界を見通す。世界のすべての指導者が読むべきである」(ヘンリー・キッシンジャー)、「緻密な現実分析と歴史を見通すダイナミズム。欧州最高の知的成果の一つである」(アルビン・トフラー)といった絶賛の声が上がっています。目次は以下の通りです。 〔日本語版序文〕日本経済は“危機”から脱出できるのか?――「失われた10年から「世界金融危機」へ、そして…… 〔序文〕金融危機後、世界はどうなるのか?――安易な楽観論では「21世紀の歴史」を見通すことはできない 〔第1章〕資本主義の歴史は、金融危機の歴史である――いかに世界は危機を乗り越えてきたのか? 〔第2章〕史上初の世界金融危機は、こうして勃発した 〔第3章〕資本主義が消滅しそうになった日――ドキュメント:世界金融危機 〔第4章〕金融危機後の世界――世界は大恐慌へ突入するのか? 〔第5章〕なぜ金融危機は起こったのか?――市場と民主主義の蜜月の終焉 〔第6章〕金融資本主義への処方箋――緊急プログラム 〔第7章〕“21世紀の歴史”と金融危機 『21世紀の歴史』の姉妹編といっていいだろう本書は、17世紀のジェノヴァから20世紀前半のアメリカの大恐慌までの金融危機の歴史をひもとき、さらに、2007年2月から2009年4月までの未曾有の経済危機を細かく追っています。そして、あたかも危機が過ぎ去りつつあるような世間の錯覚に警告を発し、今後の更なる危機とそれへの対処法について明快に述べています。「現在の金融危機を速やかに押し止めたとしても(おそらく無理であろうが)、経済危機に突入することは不可避である。早急に、地球規模の大型プログラムを打ち出すことができなければ、この経済危機により、企業・消費者・サラリーマン・預金者・債務者・国家の大部分は、根源的かつ継続的な苦難の道を歩むことになるだろう」(181頁)。市場はグローバル化しているのに、法整備がそれに追いついていない(グローバル化していない)ことを鋭く指摘して、金融資本主義や市場民主主義の歪みを正すことの必要性を強く説いています。論旨は至極明晰で、シンプルです。ぐちゃぐちゃと議論をかき混ぜてうやむやにするのが得意な政治家や経済評論家はあっけにとられることでしょう。本書の結論部分にある「忘却されがちな、四つのシンプルな真理」はこれまたびっくりするくらいストレートな良識の表現なのですが、この四つの真理(ぜひ本書を読んで確認してください)を分かっているつもりで実際は貫徹できずに虚飾をまとい続けているからこそ、人間というのは進歩しないわけですね。 なんとタイミングがいいというか、アタリ氏は9月16日から17日に来日し、記者会見や講演会を行うそうです。 9月16日13:30~14:30会見スピーチ「日本の歴史的な政権交代と金融危機後の経済展望」@東京日仏学院エスパス・イマージュ 9月16日17:00~19:00講演会「金融危機後の世界」@早稲田大学14号館102教室 9月17日08:00~10:00朝食会スピーチ「金融危機後の世界と日本のゆくえ」@日本経済研究センター主催・都内某所 9月17日14:00~15:30講演会「現在の世界的な危機状況と未来への影響」@経済同友会主催・都内某所 これらの内容はいずれテレビや雑誌の報道などで概要が分かるのかもしれません。今年5月にNHKで二夜連続のインタビュー特番が放映されたこともありましたし。 次にナオミ・クライン(1970-)の名著『NO LOGO』の新版が出たことに注目です。帯文にはベストセラー新書『貧困大国アメリカ』の著者、堤美果さんが推薦文を寄せておられます。曰く「私のもっとも尊敬するジャーナリストが書いた、世界を飲み込む多国籍企業に抵抗する最強の戦略バイブル」。本訳書の初版はもともと2001年に、はまの出版から刊行されていました。今回の新版では、2008年に「ガーディアン」紙に発表された論文"Free Market Ideology is Far from Finished"を「市場主義の終焉?――日本語版新版によせて」として本書冒頭に収録し、巻末には2007年の講演"Lost World"を「「もうひとつの世界」の実現をめざして」と題し、補論として併録しています。訳者の松島さんは本書のほかに、クラインの訳書では『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』(はまの出版、2003年)を手掛けておられます。なお、クラインの最新著にして話題書の『ショック・ドクトリン』は岩波書店から刊行される予定だそうです。岩波ねえ……。 ■都市・思想 『負の資産で街がよみがえる――縮小都市のクリエーティブ戦略』三宅理一 学芸出版社 2,310円 『創造するアジア都市』橋爪紳也 NTT出版 1,785円 『アフリカ・ブラックロード』嵐よういち 彩図社 1,260円 建築史家の三宅理一さんの新刊は、使われなくなった建築物の創造的再利用を訴えるもの。帯文に曰く「街の「負の資産」を「正の資産」に逆転。空洞化した木密地区、空き家、廃校を活用しクリエーションとイノベーションの生まれる街へ」。木密地区とは、木造住宅が密集する市街地のこと。個人的にはこうした意見は大いに賛成。ちなみに今月下旬にはこんな新刊が出るようです。『それでも、「木密」に住みつづけたい!――路地裏で安全に暮らすための防災まちづくりの極意の詳細』(後藤治・関沢愛・三浦卓也・村上正浩著、彰国社、09年9月)。 嵐よういちさんは『海外ブラックロード』『海外ブラックロード 危険度倍増版』『海外ブラックロード 最狂バックパッカー版』『海外ブラックマップ』『アジア・ブラックロード』『南米ブラックロード』などを刊行している「危険な旅」のスペシャリスト。彩図社にはこのジャンルの本がほかにもあって、平間康人さんの『アジア「裏」旅行 180日間激闘編』『アフリカ「裏」旅行――サハラ砂漠を縦断せよ』、岡本まいさんの『女ひとり世界危険地帯を行く』『「危ない」世界の歩き方』、大井優子さんの『世界恐怖旅行』、等々の「裏ガイド本」があります。
by urag
| 2009-09-06 04:02
| 本のコンシェルジュ
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