社会法則/モナド論と社会学
ガブリエル・タルド(1843-1904):著 村澤真保呂(1968-)+信友建志(1973-): 訳
河出書房新社 08年12月 本体3,800円 46判上製268頁 978-4-309-24459-4
■帯文より:あらゆる事物は社会であり、あらゆる現象は社会的事実である。タルドが主要著作をみずから要約した『社会法則』、その特異な方法論をあきらかにした『モナド論と社会学』。ますます新しい「無限小」の社会学者タルドのエッセンス。
★まもなく発売開始(08年12月19日)です。『模倣の法則』につづくタルド新訳第二弾。帯文にある通り、『社会法則』はタルド社会学の要約で、『模倣の法則』『普遍的対立』『社会論理』の主題を要約し、三著作の緊密な関連を明らかにしたものです。タルドを読み始めるにはこの『社会法則』から読み始めるのが一番だと思います。
★『社会法則』は1897年の連続講義がもとになっていますが、全く古さを感じさせません。フランスではドゥルーズの弟子のエリック・アリエズが監修したタルド著作集が90年代末から刊行されていますし、今回の新刊の訳者の一人である村澤さんはタルドに影響を受けているマウリツィオ・ラッツァラートの『出来事のポリティクス』を今年六月に洛北出版から刊行されています。
★写真の左側は昭和18年(1943年)1月に創元社から刊行された、小林珍雄訳『社会法則』です。当時は初版5000部も刷っていたことが奥付で分かります。私が本書を購読したのは20年近く前の学生時代のことです。当時は新刊書店で入手できるタルドの訳書は『
世論と群集』(未來社)しかありませんでしたし、地元の図書館にはもとより置いてありませんでしたから、あとは古本屋を探すしかありませんでした。創元社版『社会法則』は古い本でしたが、とても刺激的な内容で、むしろ時代を超えた新鮮味を感じました。たとえば社会のダイナミズムを捉えた次のような一節(引用は河出版新訳からです)。
★「したがって、差異が増大していくと述べるのは真実ではない。というのも、新しい差異が出現するたびに、古い差異は消えていくからである。このような考察を念頭におくと、(かりに共通の尺度がない事物を合計することができたとして)「世界全体における差異の総和は増大していく」という考えにはまったく根拠がないことになる。むしろこの世界に起こっているのは、たんなる差異の増大よりも、はるかに重大な事実である。すなわち、差異そのものの差異化である。この世界では変化そのものが変化に向かっており、ある意味でわれわれは、むきだしの差異――けばけばしい原色のような――がちりばめられた時代から、繊細な差異が調和する時代へと導かれているのである」(120頁)。
★創元社版小林訳と比べると、いっそう理解しやすい訳文になっていて、好感を持ちました。併録されている「モナド論と社会学」は初訳です。訳者解説によれば、「タルドの著作のなかでもっとも原理的な内容であり、本書によって『模倣の法則』や『社会法則』をよりよく理解することができる〔中略〕。実際、『社会法則』の終わりのほうで展開されるタルドの思想的原理は、本書をそのまま参照したものであり、その意味では本書と『社会法則』は表と裏の関係になっている」(258頁)とのことです。確かに、例えば次のような一節が眼に留まります。
★「諸科学から社会学的精神を抽出することは、とりわけ私が戦っている偏見から諸科学を救い出すことになるのだ。そのとき人々は、この偉大で美しい差異化の原理を理解しなければならない理由を知ることになるだろう。おめでたいことにスペンサーは、この差異化の原理を拡大しても、それをふさわしい仕方で普遍的調和の原理と和解させようとはしなかったのである」(181頁)。
★こうも書かれています、「存在すること、それは差異化することである」。「差異は宇宙の始まり〔アルファ〕であり、終わり〔オメガ〕である」(ともに184頁)。タルドは20世紀後半に欧米で花開くことになる「差異の哲学」の先駆者だと言えるだろうと思います。願わくば今後もタルドの新訳が進み、新しい読者と出会い続けることを期待してやみません。