花のノートルダム
ジャン・ジュネ(1910-1986):著 鈴木創士(1954-):訳
河出文庫 本体1,200円 文庫判408頁 978-4-309-46313-1
■カバー紹介文より:「ジュネという爆弾。その本はここにある」(コクトー)。「泥棒」として社会の底辺を彷徨していたジュネは、獄中で書いたこの一作で「作家」に変身した。神話的な殺人者・花のノートルダムをはじめ汚辱に塗れた「ごろつき」たちの生と死を燦然たる文体によって奇蹟に変えた希代の名作が全く新しい訳文によって甦る。
■原著:Jean Genet,
Notre-Dame-des-Fleurs, Paris, 1948.
★堀口大学(1892-1981)による初訳(単行本1953年、全集版67年、文庫版69年、すべて新潮社)からはや半世紀、ついに新訳が出ました。獄中で執筆された彼の最初の小説です。写真下段右がこのたびの河出文庫版、左が新潮文庫版です。そして上段は、ジュネの小説同様に怪物的な、サルトルのジュネ論『聖ジュネ』(全二巻、新潮文庫、白井浩司・平井啓之訳、1971年)※です。新潮文庫の『花のノートルダム』と『聖ジュネ』は現在入手不能。
ジュネの小説や戯曲は『ジャン・ジュネ全集』(全4巻、新潮社、初版1967-68年/再版1992年)に収められており、中でも『花のノートルダム』『ブレストの乱暴者』『葬儀』は河出文庫で、『泥棒日記』が新潮文庫で入手できますが、彼の晩年の政治的活動を知るためには、『恋する虜』や『公然たる敵』といった著書を読まねばなりません。『恋する虜』は人文書院版が来年には復刊されると聞きますし、『公然たる敵』は弊社から刊行予定です。また、ジュネの伝記としては、エドマンド・ホワイトによる『
ジュネ伝』(全二巻、河出書房新社、2003年)が高名です。
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※『聖ジュネ』は原著が1952年刊で、日本語訳としてはいずれも白井浩司・平井啓之訳の、初訳単行本『殉教と反抗』(全二巻、新潮社、1958年)もサルトル全集版『聖ジュネ』(全二巻、人文書院、1966年)も、文庫版『聖ジュネ』(全二巻、新潮文庫、1971年)が刊行されていますが、残念ながらすべて絶版で、古書市場でも探すのが非常に面倒な本の類です。『存在と無』(全三巻、ちくま学芸文庫、2007-08年)や『弁証法的理性批判』(全三巻、人文書院、1962-1973年)などの哲学的代表作に対し、『聖ジュネ』は『家の馬鹿息子』(訳書第三巻まで刊行、人文書院、1983-2006年)と並ぶ文芸批評の代表作です。いずれも浩瀚かつ難解ですが、やはり代表作は文庫本で読めるようになるといいなと思います。