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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2008年 12月 05日

アガンベン+メルヴィル『バートルビー』、来週より重版出荷開始

アガンベンの論考にメルヴィル小説の新訳を附した『バートルビー』(05年7月刊)の重版が本日出来上がり、事前にご予約いただいた書店様には、8日(月)から取次搬入開始いたします。働くことを拒絶しながらも職場に居座り、やがて世界の片隅で餓死してしまう小説の主人公の生き様は、発表後150年を経た今もなお鮮烈です。昨今、小林多喜二の「蟹工船」がブームになりましたが、「蟹工船」に描かれた《抵抗と団結》への労働者の道のりとは違って、一生懸命自分の仕事に没頭していたバートルビーはある日突然、職場での簡単な手伝いを拒んだのをきっかけにして、やがて自分の職務そのものもやめてしまいます。その《拒絶と孤独》のありようというのは、現代人への黙示録のように映ります。

アガンベンはバートルビーをあらゆる可能性の全的回復者とみなします。アガンベンの議論というのは、現実として顕在化したものが世界のすべてなのではなく、現実の奥底にすでに潜在的に実在するものが確かにあって、いまだ到来していないけれども「存在しない」とまでは否定できない、というような、そうした物事について書いているように私個人は読みました。つまり、人間が本来持っている可能性というのは、《できない》という否定形としてよりも、「ないことが《できる》」という肯定においてこそ捉えることのできるものだ、とアガンベンは言っているように思います。「もうひとつの世界は可能だ」とでもいうような、ひとつの希望です。

バートルビーのような絶望の物語に、希望を読み解こうとしたアガンベンが、私にはとても重要に見えます。彼は皮肉を書いたのではないのです。絶望をそっくりそのままあらゆる希望へと反転させるということ。キリストでも救世主でもないバートルビーにおいてすら「すべての希望が担保されている」ということを、アガンベンは言いたかったのではないかと私は考えています。

書店様へ。弊社では重版および新刊のご案内をFAXないしEメールでご案内しています。「そんなのもらったことないけど、チェックしてやってもいいぞ」という書店様は、弊社へ電話、FAX、メールなどでお申し付け下さい。電話/FAX番号やメアドは、弊社の公式ウェブサイトに明記してあります。


メルヴィルの「バートルビー」は今世紀に入ってから映画で実写化されたことがありました。2001年のアメリカ映画で、ジョナサン・パーカー監督の「バートルビー」(83分)がそれです。上記映像はその予告編。クリスピン・グローヴァーが主人公バートルビーをつとめていて、まさに小説で描かれているような風貌で怪演しています。グローヴァーと言えば、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の気弱なお父さん役や「チャーリーズ・エンジェル」のマニアックな用心棒役で日本でも一般的に知られていると思います。映画を製作したパーカー・フィルム・カンパニーでは「バートルビー」のTシャツや奇妙なサントラの音楽CDを販売していて可笑しいです。弊社でもTシャツを作ろうかな、「I would prefer not to」っていう。

by urag | 2008-12-05 01:45 | Comments(0)


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