人気ブログランキング | 話題のタグを見る

URGT-B(ウラゲツブログ)

urag.exblog.jp
ブログトップ
2008年 11月 16日

注目新刊:ミルグラム『服従の心理』新訳、河出書房新社より

前世紀の心理学史における記念碑的労作であるミルグラムの『服従の心理』の新訳が来週(08年11月20日)ついに刊行されます。

注目新刊:ミルグラム『服従の心理』新訳、河出書房新社より_a0018105_2333026.jpg服従の心理
スタンレー・ミルグラム(1933-1984):著 山形浩生(1964-):訳
河出書房新社 08年11月 本体3,200円 46判上製320頁 978-4-309-24454-9

■帯文より:権威が命令すれば、人は殺人さえ行うのか? 人間の隠された本性を科学的に実証し、世界を震撼させた通称〈アイヒマン実験〉――その衝撃の実験報告。心理学史上に輝く名著、待望の新訳版。

■原書:Stanley Milgram, Obedience to Authority: An Experimental View, Harper & Row, 1974.

■訳者あとがきより:本書は心理学史上に燦然と輝く命実験として知られる、通称アイヒマン実験についての報告である。……市井のごく一般の人々が、科学の実験の手伝いという名目を与えられると、自分からは決してやらないような残酷な仕打ちを他人に対して行ってしまう。……権威への盲従による弊害は〔戦後もなお〕一向にやむ気配がないのではないか? 本書はそう問いかけて終わる。

■本文より:忠誠、規律、自己犠牲といった、個人として大きく称揚される価値こそがまさに戦争という破壊的な制度上のエンジンを作り出し、人々を権威の悪意あるシステムに縛りつけるというのは、何とも皮肉なことである。/各個人は大なり小なり他人への破壊的な衝動の無制限な流れを抑えるための良心を持っている。だがその人が自分自身を組織構造に埋め込むと、自立的な人物にとってかわる新しい生物が生まれ、それは個人の道徳という制約にはとらわれず、人道的な抑制から解放され、権威からの懲罰しか気になけなくなる。(247頁)

■ジェローム・S・ブラナーによる、2004年版への序文より:ミルグラムは私のハーバード時代に院生の一人であり、私の持っていた講義でティーチングアシスタントを務めた――しかも非常に優秀だった。われわれは親友となった。彼についていつも私が(そして間違いなく他の多くの人々も)感心したのは、一見すると当たり前のことを、一見した凡庸性から救い出すときに見せる彼の喜びであり、見慣れたものを再び不思議なものに変える才能であった。それは詩人の才能であり、それが科学者の研究へのアプローチを形成するときには、それは驚異を生み出す――そして衝撃ももたらすことが多い。本書はその、見慣れたものを不思議なものにするという才能を如実に示すものである。

★アイヒマンとは、ナチス・ドイツにおいてユダヤ人を絶滅収容所に強制移送させた「現場責任者」、アドルフ・アイヒマンのことです。忠実に任務を果たした彼は、戦後南米でイスラエルの諜報機関に捕らえられ、翌年エルサレムの裁判で裁かれて絞首刑に処せられました。裁判の映像記録としては、『スペシャリスト』という長篇ドキュメンタリー映画があり、その関連書にブローマン+シヴァン『不服従を讃えて――「スペシャリスト」とアイヒマン裁判』(産業図書、2000年)があります。

★アイヒマン裁判の取材報告書であるアーレントの『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』(みすず書房)で、アーレントはアイヒマンが職務遂行に熱心な一官僚であることを「悪のバナリティ(=凡庸さ、陳腐さ)」として見出します。ミルグラムの実験は、この凡庸さが誰しもの心の中に実在するものであることを実証したものとして有名です。

★ミルグラムの生涯とアイヒマン実験については、今年初め(08年2月)に、トーマス・ブラス『服従実験とは何だったのか――スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』という研究書が誠信書房から刊行されています。

★訳者の山形さんがあとがきで、「ミルグラムの服従実験以外にも、各種の悪質な人身操作手法(そしてそれに対する防御法)が列挙されている」と奨めておられる参考書に、ロバート・チャルディーニ『影響力の武器――なぜ、人は動かされるのか〔第2版〕』(誠信書房、07年8月)があります。説得や洗脳についての研究書は様々ありますが、もっとも興味深い本は、過酷な洗脳実験を行った精神科医ドナルド・ユーイン・キャメロン(Donald Ewen Cameron: 1901-1967)をめぐる本ではないかと思います。

★キャメロンは日本ではライナス・ポーリングとの共著『がんとビタミンC』(共立出版、81年)が訳されています。彼のダークサイド、悪名高い洗脳実験(それは統合失調症の治療のために編み出されたものであったはずなのですが)については、ゴードン・トーマス『拷問と医者――人間の心をもてあそぶ人々』(朝日新聞社、91年)や、 ハービー・ワインスタイン『CIA洗脳実験室――父は人体実験の犠牲になった』(デジタルハリウッド出版局、00年4月)などの本があります。いずれも絶版なのが残念です。キャメロンの人体実験はさいきん刊行されたジョナサン・モレノ『操作される脳』(アスキー・メディアワークス、08年9月)でも、少しだけですけれども言及されていますし(136-138頁など)、ナオミ・クラインが『ショック・ドクトリン』で言及してもいます。

★キャメロンがCIAの協賛のもと、電気ショックや向精神薬によるマインド・コントロール術「精神操作 Psychic Driving」の研究していたのは、今から約半世紀も前のことです。興味のある方は、「MKウルトラ」というキーワードを検索してみてください。

by urag | 2008-11-16 02:30 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


<< 注目新刊:08年11月17日発売分      注目新刊:08年11月15日発売分 >>