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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2008年 11月 09日

注目近刊:レヴィナス『困難な自由』1976年版全訳、法政大学出版局より

取り上げるのが遅くなってしまいましたが、岩波書店の月刊誌「思想」08年10月号の「レオ・シュトラウスの思想」特集号に掲載された、フランツ・ローゼンツヴァイクのエッセイ「新しい思考――『救済の星』に対するいくつかの補足的な覚書」の翻訳の冒頭に置かれた合田正人さんによる「訳者解題」によれば、レヴィナスの『困難な自由』の1976年改訂版の全訳が、法政大学出版局より近刊とのことです。訳者は合田さんと三浦直希さん。同書は1963年初版の全訳が、内田樹さんの訳で国文社より先々月に刊行されたばかりです。76年版が正確にはいつ刊行されるのかは明記されていませんが、国文社版の訳者あとがきには「遠からず他の出版社から出るはず」と書かれていたので、そう遠くない将来だろうと思われます。

なお、合田さんの解題にはもうひとつビッグニュースがさりげなく書かれてありました。ローゼンツヴァイクの『救済の星』(『贖いの星』と訳されることもありました)が、「ようやく邦訳も出版されるとのこと」と書かれてあるのです。版元名は明かされていませんが、私の記憶ではみすず書房さんから刊行されるはずです。15年ほど前のことだったと記憶していますが、そういう予告をどこかで見たことがあります(どこでだったかは忘れてしまいましたが、信頼できる情報源だったことだけは憶えています)。さらに、ローゼンツヴァイクの上記エッセイの共訳者である佐藤貴史さんによる『フランツ・ローゼンツヴァイクの思想研究』が知泉書館から近刊であるそうです。たいへん楽しみです。

【09年2月6日追記:もっと早めに補足しておきたかったのですが、村岡晋一さんの『対話の哲学――ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜』(講談社選書メチエ、08年11月)というたいへん啓発的な本の「序章」にこう書かれています。「『救済の星』については、筆者を含めた共訳でみすず書房からまもなく刊行される予定である」(6頁)。さらにみすず書房ウェブサイトの「近刊情報」についに次のような予告も出ました。「2009年4月20日発行予定 『救済の星』 [著者] フランツ・ローゼンツヴァイク [訳者] 村岡晋一 [訳者] 細見和之 [訳者] 小須田健 A5判 タテ210mm×ヨコ148mm/700頁 定価 9,450円(本体9,000円) ISBN 978-4-622-07459-5」。安い本とは言いがたいけれどこれ以下の値段は難しいのでしょう。】

「思想」のシュトラウス特集号に掲載された、シュトラウス自身の論考6本についても特記しておきたいと思います。「スピノザの遺言」(佐藤貴志訳)、「マイモニデスとファーラービーの政治科学についての若干の指摘」(合田正人訳)、「ヘルマン・コーエン『理性の宗教』への導入的試論」(合田正人訳)、「ドイツのニヒリズムについて――1941年2月26日発表の講演」(國分功一郎訳)、「現代の危機」(國分功一郎訳)、「政治哲学の危機」(國分功一郎訳)。シュトラウスを敬愛してやまない私にとっては本当にありがたい特集号です。

シュトラウスは近年、アメリカにおける「ネオコン」の思想的源流とみなされることがありましたが、私にとってはまったく承服しがたい「誤解」に思えます。弟子のそのまた弟子の一部がネオコンであることは確かですが、彼らをシュトラウシアンとは呼びたくありません。同特集号では、卓抜なスピノザ論『スピノザ 共同性のポリティクス』(洛北出版)で知られる浅野俊哉さんが、シュトラウス思想において「アカデミックな作業への傾倒と、生臭い現実政治への忍びやかな影響力の行使」という二つの側面が両立しうるかという問いについて、「〈徳〉をめぐる係争――シュトラウスの政治思想とスピノザ」という興味深い一文を寄せておられます。

また、同特集号では、弊社刊A・ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』の訳者である大竹弘二さんが、「リベラリズム、ユダヤ人、古代人――レオ・シュトラウスにおける啓示の二義性」という論考を寄せられています。大竹さんの訳によるデュットマンの主著『思惟の記憶――ハイデガーとアドルノをめぐる試論』は弊社より近刊予定です。

蛇足ながら、「近刊」という言葉について。「近刊」は良く目にする言葉ではありますが、どれくらいの期間内に刊行されるのが近刊なのか、客観的な定義は現実的には「ない」ように思います。経験則としては、2~3ヶ月以内に刊行されるのが本当の近刊だろうと思いますが、実際は近刊と言ってもなかなか刊行されない(などと書くのは天に唾するようなものですが)ことがしばしば学術書の世界ではありますし、「永遠の近刊」のような本もあります(さらに自爆)。かつて同業の先輩から「遠刊」という言葉を聞いたことがあります。半ば冗談でしょうが、近刊とは言えない、というニュアンスは伝わってきます。刊行時期の遠近に拘らない言い方には「続刊」というのがあります。

by urag | 2008-11-09 23:43 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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