2008年 11月 06日
![]() 第一印象は、「新宿の目」からとても近いように感じる、ということです。正直に言えば、西口に開店したところで、駅の反対側の紀伊國屋書店新宿本店やジュンク堂書店新宿店に対抗することにはならないのではないか、という疑念が開店前はあったのですが、実際に現地付近を歩いて見ると、都庁や京王プラザホテル、センタービルへと通じる中央通地下通路から入れるので、集客について天候に左右されることはなさそうです。 数年前、東京駅丸の内出口側に丸善丸の内本店ができた時、駅の反対側の八重洲BC本店は、丸の内側からの集客を実質的に断ち切られるリスクを負いました。それと同じように、今回の新宿戦争においては、西口の客の流れは、駅向こうの紀伊國屋新宿本店やジュンク堂新宿店には届かなくなる可能性があるように思います。特に雑誌、文庫新書などを主に購読するライトユーザーは、わざわざ駅の反対側へ出向く必要を感じなくなるでしょう。 ブックファースト新宿店のフロア構成について簡単に説明します。店舗面積は1,090坪で、B1FとB2F書籍雑誌売場がメインになっています。チェーン内での位置づけは、旧渋谷店に取って代わる「旗艦店」とのことです。 1Fにはカフェ&ギャラリーの「Blue Square Cafe」があります。ここではトークイベントも開催可能で、プレス用内覧日には、「インターネット時代のリアル書店」と題して、ハックネットの安岡洋一さん、バッハの幅允孝さん、シブヤ・パブリッシング・ブックセラーズの福井盛太さん、そして、ブックファースト新宿店店長の梶野光弘さんら4人による記念トークショーがありました。イベントスペースはさほど広くはなく、ジュンク堂書店新宿店とあまり変わりありません。つまり、椅子を30~40脚ほど並べればいっぱい、という印象。 記念トークショーは、店長以外は独立系の若手書店人ばかりなので、なぜナショナルチェーンの旗艦店の開店でこの面子なのだろう、と不思議に思いましたが、この人たちが話すならぜひ聞きたい、と思っていたのは私だけではないでしょう。実際、同業他社のとある書店員さんは、なぜこのトークイベントがクローズド(非公開)なのか、しきりに残念がっていました。TV番組「情熱大陸」を見て以来、幅さんのファンが業界内にとても増えている昨今ですから。 安岡さんのマシンガントークに幅さんと福井さんが絶妙なレスポンスを入れ、書店員暦24年の店長は発言数は少ないながら要所を締めるといった内容でした。安岡さんは、ライブラリー的要素を書店に取り入れることや24時間営業化についてお話になり、幅さんは人と本が出会いにくい時代に、本の面白さを分かりやすく伝えることの大切さについて訴えられました。福井さんは、本の面白さを伝える「語り部」が必要、と仰っていました。 お三方に共通しているのは、本に興味を持っていなかった人たちにいかにして本に出会ってもらうか、という問題意識であり、それぞれがエヴァンジェリスト(福井さんの言うところの「語り部」)です。特に安岡さんや幅さんは、「客が本屋に来ないなら、客のいる場所に本を持っていこう」という発想で仕事をされてきた方々です。これは業界の従来の枠組では「外商」に近い発想ですが、外商が出先で法人や個人を相手に本を売るのとは違って、ブック・コーディネーターの方々は、業界外の法人と組んで、本屋ではない場所に書棚を作ったり、売場をつくったり、図書室を作ったりするのです。ブック・コーディネーターについてはいずれ別稿で再説するつもりです。 いずれにせよ、私は安岡さんや幅さんを呼ぶならば、彼らが手がける売場やコーナー(ショップインショップやボックスインボックスの形態)があったほうがいいのに、と強く思ったし、彼らもやりたいという意欲を示していたのですが、そういうことはなさそうです。トークだけなんて、もったいないなあ。120人体制の現在の新宿店も十分立派ではありますが、阪急ほどの大資本がもし本気で「新しい書店」を作りたいのならば、次のような挑戦をすべきではないかと思います。 すなわち、安岡洋一、幅允孝、江口宏志、内沼晋太郎といった選書とショップ作りのプロがコーディネートするそれぞれ独立した売場から成る「本屋横丁」ないし「群島モデル」をつくり、さらに、「本の街」を作りたいと本気で願っている北尾トロさんのようなベテランに、店舗を単なる売場ではなく「コミュニティ」として機能させるためのディレクションをお願いする、というような挑戦です。もっとモード学園と協業できるような観点もあるほうがいいのではないか、とも思います。 こうした「構想」はつきないので、フロア構成に話を戻します。B1FはAからDの四つのゾーンに分かれています。中央通地下通路から店内に入るとまずそこはAゾーンで、和洋雑誌を豊富に取り揃えた「Tokyo Magazine Center」になります。これは旧渋谷店で好評を博したコーナーの拡大復活版です。テイストとしてはカルチャー色やトレンド系がメインなので、たとえば「人文」雑誌のコーナーに行っても、さほど点数は取り揃えていませんが、まあこれは仕方ないかもしれません。 雑誌売場を左手に進むと新刊話題書を集めた「Advanced Stage」がありますが、ここは率直に言うと、私には面白味が感じられませんでした。ガラス張りの壁面に書棚を設置する什器というのは新しい印象があってとても綺麗ですが、同じ本を多面展開しすぎていて、ちょっとうんざりします。フラットな多面展開はやめて、常時入れ替えを行う多分野時事フェアコーナーとして実質化し、新刊旧刊に拘らない多品種を展開したほうがいい気がします。 ここを抜けてさらに左手奥に進むと、地図・旅行ガイドのコーナーを抜けて、文芸書とアート書を融合させたBゾーンに移ります。このカップリングは実にいいですね。アート書売場では、現在、森山大道フェアが行われており、弊社からもいくつか出品しています。めったに店頭に出さない『新宿』サイン本や、売り切れた『新宿+』初版本などです。売り物ではなく参考出品ですが、「新宿」ポスター2種類なども展示されています。とてもかっこいいですよ。 Bゾーンをぬけて螺旋階段のある通路を横切るとそこはCゾーンで、児童書や洋書、語学・学参が置かれています。児童書コーナーには知育用玩具も取り揃えてあって、好感が持てます。もう一度通路に出て、Aゾーンに戻り、地下通路側から見て雑誌売場を今度は右手奥に進むと、Dゾーンになり、広い文庫新書コーナーの奥にコミック売場、右手には趣味および生活系の実用書売場があります。これがB1Fの全景ですが、西口のライトユーザーは間違いなくこのフロアでたいていの用が済むはずです。 階下のB2Fは、ビジネス、政治社会、経済、金融、法律、資格就職を扱うEゾーンがあり、通路を挟んで人文・福祉教育のFゾーン、理工学、医学看護、コンピュータのGゾーンがあります。通路は螺旋階段も含め、ビル風が吹き込んでくる場所なので、冬場はちょっと嫌かもしれません。出入口が多いので、精算は各ゾーンごとになり、売場を横断して本を買いたいヘビーユーザーには面倒くさいかも。また、什器が入り組んでいて迷路のようになっており、B2Fでは同じブロックにあるEとGは内部では繋がっておらず、B1FではCがAやDと内部で繋がっていないのはやや不便かもしれません。 書棚のあいだの通路は広くてゆったりしていますが、棚の配置はところどころ迷路のようで、これまでの売場作りのセオリーである「見通しの良さ」をあえて犠牲にして、もともと特殊なビル自体の空間構造を最大限に生かそうとしているのは素晴らしいと思います。売場全体としては雰囲気がいいです。各分野を構成する棚のひとつひとつには新奇さはまだ感じられませんが、これは開店当初の新規店ではあるていど仕方のないことで、今後のさらなる棚編集による醸成を期待したいところです。 コクーンタワーでは、モード学園の生徒と入居する企業で働く人々をあわせると、総計で一万人にもなるそうです。これにあわせて西口のビジネスマンが大量に往来しますから、売上がどれくらいになるのかとても楽しみです。なお、店内の写真は業界紙「新文化」の記事でも見ることができます。 *** ブックファースト新宿店開店のニュースの陰になりがちでしたが、青山ブックセンターと流水書房がブックオフ傘下になることが確実になりました。「新文化」の11月4日付の記事「ブックオフ、新会社・青山ブックセンターを11月に設立」によれば、ブックオフは「取締役会で、民事再生手続き中の洋販ブックサービスから、青山ブックセンター(5店)と流水書房(7店)の12書店の事業を譲り受けることを決議。譲受価格は2億5000万円、譲受実行日は11月30日を予定」とのことです。昨今話題の小室哲哉氏の400曲が10億円で売られようとしていたことと比較すると、まあなんという「安さ」でしょうか。
by urag
| 2008-11-06 10:17
| 販売情報
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Comments(2)
![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
おおっ、秋嶋さんご無沙汰です。さすが秋嶋さんはブックファーストの色々な側面をよくご存知ですね。お世話になっている身としては口が裂けても「ハリボテ」とは言えませんが、トップダウンで決定されるはずの華麗な内装や宣伝戦略と、実質的な棚構成やイベントなどの現場運営とのあいだに多少のギャップがあるのは否めないと思います。僕としてはただ一言だけ言いたいと思います、「トップは現場の創意工夫にもっと注目して大事にして欲しい!」と。
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