
河出文庫からクロソウスキーの『かくも不吉な欲望』の新訳が出ます。今週木曜日、11月6日発売。写真右が新訳、左は現代思潮社版の4刷(85年2月)。
かくも不吉な欲望
ピエール・クロソウスキー(1905-2001):著 大森晋輔(1975-)+松本潤一郎(1974-):訳
河出文庫 08年11月 本体1,500円 文庫判336頁 ISBN978-4-309-46312-4
■カバー裏紹介文より:バタイユ、ブランショらとともに、二十世紀フランスの文学・思想シーンで異彩を放ち続ける巨星クロソウスキーの主著を、新鋭たちが40年目の新訳。ドゥルーズに決定的な影響を与えたふたつのニーチェ論をはじめ、ブランショ、バタイユ、ジッド論などを集成。神学を基礎にすえつつ、霊と肉を奇妙な仕方で錯綜させる「不吉」な思考がいま甦る。
■原書:
Un si funeste désir, Paris: Gallimard, 1963.
■目次:
I. ニーチェの『悦ばしき知識』におけるいくつかの基礎的主題について
II. ジッド、デュ・ボス、悪魔〔デモン〕
III. クローデルとジッドの往復書簡の余白に
IV. バルベー・ドールヴィイ『妻帯司祭』への序文
V. ジョルジュ・バタイユのミサ(『C神父』について)
VI. 言語、沈黙、共産主義
VII. モーリス・ブランショについて
VIII. ニーチェ、多神教、パロディ
註
訳者あとがき
★本邦初訳は、小島俊明さんによるもので、1969年に現代思潮社から刊行されました。現在でも、現代思潮新社から
発売されています。「かくも不吉な欲望」とは、ヴェルギリウスの『アエネーイス』第六巻から採られています。アポロン神の巫女シビュラの導きにより冥府に下ったアエネーアースが、レーテーの川のほとりで死霊たちが大群をなして飛び交っているのを見て、亡き父であるアンキーセスの影にこう尋ねます(岩波文庫版と、西洋古典叢書版を引用します)、
おおわが父よ高邁な、霊であってもあるものは、
ここから地上に登り行き、再びあんなおぞましい
肉体つけるを考えて、一体よろしいのでしょうか。
地上の光をう、あわれな彼らの欲望の、
狂気のさまは何でしょう。
(泉井久之助訳、『アエネーイス』上巻、岩波文庫、1976年、407-408頁)
父よ、では、ここから地上に向かう霊もあると考えるべきなのですか。
崇高な霊魂がふたたび鈍重な肉体へと戻るのですか。
なんと哀れな。それほど忌まわしい命の光への欲望とは何でしょうか。
(岡道男・高橋宏幸訳、『アエネーイス』、京都大学学術出版会、2001年、284頁)
o pater, anne aliquas ad caelum hinc ire putandum est
sublimis animas iterumque ad tarda reverti
corpora? quae lucis miseris tam dira cupido?
★河出文庫ではこれまでに、クロソウスキーの『ロベルトは今夜』が刊行されています。文庫版『ロベルトは今夜』では、「歓待の掟」三部作のうち、「ナントの勅令破棄」と「ロベルトは今夜」が収録されています。第三部の「プロンプター」は分量が多いので、併録されていませんが、そのうち単独で文庫化されるでしょうか。あるいは、「歓待の掟」三部作が全部収録された文庫も出るといいですね。