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2008年 09月 30日

注目新刊:エマニュエル・レヴィナス『困難な自由』国文社

注目新刊:エマニュエル・レヴィナス『困難な自由』国文社_a0018105_4493646.jpg困難な自由――ユダヤ教についての試論
エマニュエル・レヴィナス:著 内田樹:訳
国文社 08年9月 本体4000円 四六判上製カバー装394頁 ISBN978-4-7720-0524-1

帯文&版元紹介文より:第二次世界大戦直後、東欧のユダヤ人共同体がほぼ全滅し、同化の進んだ西欧のユダヤ人たちも自失状態の中で「ユダヤ人であること」に積極的な理由を見いだせずにいたまさにその時、「今ここでユダヤ人であることの意味とは何か?」という問いに、正面から哲学者レヴィナスが正面から応えようとした論文集。待望の完訳。

★本書の底本は、抄訳版(国文社、1985年)と同じく、1963年版です。訳者あとがきに「遠からず他の出版社から出るはずの76年版の全訳」という記述があります。76年版というのは、1976年に刊行された著者自身による校訂版のことで、63年版に収録された論文のうち8篇が削除され(今回の63年全訳版ではこの8篇も訳出)、入れ替わりに10篇が追加されています。

★内田さんは訳者あとがきで「このような名著については複数の翻訳が平行して存在することはよいことだと思う」とお書きになっています。個人的に私も同感です。むろん、出版人の一般的な立場からすれば、他社と重複するのは商売上の競合でありデメリットもなくはないですが、一読者として言えば、複数の翻訳を比べ読むのは非常に興味深いことですし、原文解釈への大きなステップにもなります(なお、76年版は弊社から出るのではありません)。

★内田さんは同じく訳者あとがきで、著者と会った時の思い出を感動的な筆致で次のように綴られています。「書物を通じて構築した人物像と、実際に身近に接した人物とでは立体感に千里の隔たりがあるというのはほんとうである。わたし自身、レヴィナス先生と会うまで、その「倫理」なるものが観念的な構築物ではないかという一抹の不安をぬぐえずにいた。けれども、レヴィナス先生との出会いはわたしのなかにある不安を一掃した。この人の語るすべての言葉は、思考の深層から、その経験の沖積土から湧き上がってきたものだということをわたしはそのとき確信したのである」(389頁)。

★本書の目次は以下の通りです。85年の抄訳版に収録されていた論文には◆印を付します。むろん、今回出版された完訳版は、抄訳版を改訳していますから、論文の訳題は必ずしも同じではありません。抄訳版での訳題が異なる場合は◆印のあとに記すようにしました。抄訳版には完訳版で同定できない二篇の論文が収録されています。第一部の「ユダヤ主義」と、第四部の「「二つの世界のあいだで」――フランツ・ローゼンツヴァイクの道」です。これらは原書初版63年版ではなくておそらく原書改訂版76年版以降の収録作でしょうか。前者の初出は71年の百科事典、後者は59年の講演かと。さらに言えば、63年版と76年版の「署名/自署」は内容が(改訂されていて)異なるのですが、抄訳版と完訳版のそれらも異なっています。つまり、抄訳版は初版63年版を底本としているのではなくて(抄訳版の訳者あとがきにはそう書いてあるものの)、改訂版76年版の抄訳なのではないかとも推測できるかもしれません。しかしそれぞれの原書と訳文を仔細に付き合わせたわけではありませんし、万が一上記の推測通りであったとしても、もはや時効かと思います。なお、76年版において削除された8篇については▲印を付します。

まえがき
第一部 悲愴の彼方
 倫理と霊性 ◆
 成人の宗教 ◆成年者の宗教
 パリサイ人は不在 ◆
 ユダヤ教と女性的なるもの ◆ユダヤ教と女性的なもの
 レオン・ブランシュヴィックの日記
 西欧的存在
 身分証明書
 聖櫃とミイラ
第二部 注解 ◆註解
 メシア的テクスト ◆
第三部 論争
 場所とユートピア ◆
 エドモン・フレグ『さまよえるユダヤ人が語るイエス』の新版
 スピノザ裁判
 人格かそれとも予表か ◆位格と予示
 イスラエルへの声 ◆
 『聖書』に反対するシモーヌ・ヴェイユ ◆シモーヌ・ヴェイユ、反聖書
 神よりもトーラーを愛す ◆神よりもトーラを愛す
 同罪刑法 ◆
 シュトルートホーフについて
 忍耐の美徳 ◆
第四部 開放 ◆開口
 今日のユダヤ思想 ◆今日のユダヤ教思想
 宗教と寛容
 イスラエルと普遍救済説 ◆イスラエルと普遍救済論
 一神教と言語
 ユダヤ教とキリスト教の友愛
第五部 大いなる賭け
 ジュネーヴ一九五五年の精神について ▲
 語る自由
 原則と顔 ▲
 中ソ論争と弁証法 ▲
第六部 隔絶
 ユダヤ教と現代
 イスラエル国とイスラエルの宗教
 歴史の意味
 明と暗
 ハイデガー、ガガーリン、そしてわたしたち
 独占的に
第七部 この場所で、今
 いかにしてユダヤ教は可能か?
 西欧におけるユダヤ教育の現実的問題 ▲
 今日の同化
 私人のユダヤ教 ▲
 ユダヤ人教育についての省察
 十年の教育 ▲
 青年の運動 ▲
 ヘブライ的ユマニスムのために
 ユダヤ教の高等教育がわたしたちには必要なわけ ▲
第八部 署名 ◆自署
 署名 ◆自署
訳者あとがき

注目新刊:エマニュエル・レヴィナス『困難な自由』国文社_a0018105_3314348.jpg★内田樹さんがお訳しになったレヴィナスのユダヤ教論は本書のほかに『タルムード四講話』(87年)と『タルムード新五講話――神聖から聖潔へ』(90年)があって、どちらも国文社から刊行されています。国文社ウェブサイトによれば、前者は残念ながら品切のようですが、後者は在庫ありとなっています。

by urag | 2008-09-30 04:22 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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