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2008年 09月 10日

今週の注目新刊:ジョン・ダン『自殺論』英宝社

今週の注目新刊:ジョン・ダン『自殺論』英宝社_a0018105_23515356.jpg自殺論
ジョン・ダン:著 E・W・サリヴァン:編 吉田幸子・久野幸子・岡村眞紀子・齊藤美和:訳
英宝社 08年7月 3,990円 46判上製カバー装334頁 ISBN978-4-269-81043-3

■帯文より:ヨーロッパの自殺観の再検討。ダンは自殺を断罪する法の矛盾を、自然法、国法・教会法、神の法に則して論証し、法の不寛容を暴く。英国初期近代ヒューマニズムの顕現。本邦初訳。

★原書は、1647年に公刊されたBiathanatosです。副題は「自己殺害は本質的には罪ではない、ゆえに、それは無罪にはなりえないという逆説、もしくは論考の表明」となっています。本書は三部構成で、訳者解説を参照すると主要な議論は次の通りです。第一部:自然法の本質は自己保存だが、自然界にはそれに反する例もある。古代ギリシア=ローマ時代における「高貴な死」としての自殺は、自己保存が自然法の絶対命令でないことの証明である。第二部:キリスト教の絶対唯一性が暗に否定される。古代ローマにおける奴隷と兵士の自殺の禁止は、自殺が罪であることの証明ではない。人間は極限状況において他者のために命を捨てることがあるし、生贄や殉死を容認する宗教がある。第三部:聖書の検討。他者のために命を捨てるのは最高の愛であり、キリストにおける死の選択は愛の行為である。

★上記のように骨子だけを取り出すとなんとなく味気ない印象があるかもしれませんが、カトリックの家に生まれ、後年イングランド国教会の司祭となったダンは、本書で古代ギリシア=ローマ時代の哲学者から中世の神学者にいたる様々な議論を参照しつつ、従来の自殺=罪という定式に論難を試みており、歴史的に価値のある著作となっていると思います。

★本書は、紹介が遅くなってしまったのですが、先月中旬頃、紀伊國屋書店新宿本店人文売場の古典哲学棚の平台に積まれているのを発見して購入しました。ダンは詩人ですし、英宝社は英語教材中心の版元さんだし、分類コードは下二桁が「98」=小説以外の外国文学ですので、こういう新刊は書店さんの仕入ではたいてい外国文学売場に仕分けるだろうと思います。それが人文書売場の哲学思想書コーナーにあるというのが幸いでした。出会いに感謝です。

★ジョン・ダン(John Donne, 1572-1631)既訳書
1947年『ダン抒情詩選』松浦嘉一訳 新月社
1968年『ジョン・ダン詩集』星野徹訳 思潮社
1969年「唄とソネット」 『世界名詩集(1)』所収 篠田一士ほか訳 平凡社
1970年『エレジー・唄とソネット』河村錠一郎訳 現代思潮社
1991年『ジョン・ダン抒情詩集』長谷安生訳 成美堂
1995年『対訳 ジョン・ダン詩集』湯浅信之編訳 岩波書店
1996年『ジョン・ダン全詩集』湯浅信之訳 名古屋大学出版会

★なお、『現代革命の系譜――その比較社会学的研究序説』(中央大学出版部、1978年)や『政治思想の未来』(みすず書房、1983年)、『ジョン・ロック――信仰・哲学・政治』(岩波書店、1987年)といった訳書があるジョン・ダンは別人です。上記書の著者ジョン・ダン(John Montfort Dunn, 1940-)は、ケンブリッジ大学名誉教授で政治理論家。ちょうど昨日(9月9日)が誕生日でした。千葉大学大学院の客員教授を務めたこともあったようです。

by urag | 2008-09-10 23:32 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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