2008年 09月 09日
フェヒナー博士の 死後の世界は実在します グスタフ・フェヒナー(1801-1887):著 服部千佳子:訳 成甲書房 08年9月 1470円 46判上製156頁 ISBN978-4-88086-234-7 ![]() ■帯文(裏表紙側)より:死後の世界は存在するのか? もし存在するなら、どのような世界なのか? フェヒナー博士は170年前にこの大問題を考察し、その答えをこの小さな本にまとめた。博士は驚くべき明快さと確かな根拠をもって、「死は生命の一つの過程であり、死は形を変えた誕生、すなわち、物質界への誕生ではなく、霊界への誕生だ」と説いた。本書は非宗教的かつ経験主義的な立場から死後の世界を考察、古典として現在も読みつがれている超ロングセラーである。 ■著者紹介文より:グスタフ・テオドール・フェヒナー(Gustav Theodor Fechner, 1801-1887)19世紀を代表するドイツの物理学者・哲学者。刺激に関する感覚の定式「ヴェーバー=フェヒナーの法則」の考案者であり、また、宇宙を意識的な存在として見る「昼の見方」、無生物として見る「夜の見方」を提唱、その発想に基づいて構想された身体と精神の関係を探究する精神物理学は大きな反響を巻き起こした。 ■底本:「本書の第一版は1836年、ドイツ国内にて刊行された。訳出にあたっては、1904年刊のリトル・ブラウン社(在ボストン)の英訳版〔The Little Book of Life after Death〕を定本〔ママ〕とした。この版は現在もなお欧米で幅広く読まれる驚異的なロングセラー書籍となっている」。 ★初の日本語版と謳われていますが、少しおせっかいを言えば、フェヒナーのくだんの著書Das Büchlein vom Leben nach dem Tode(死後の生命についての小冊)には数種類の古い既訳があります。というか、フェヒナーはこればっかり繰り返し訳されています。 『死後の生活 附録:フエヒネルの生活及び哲学』フエヒネル:著 平田元吉(1874-1942):訳 丙午出版社 1910年・明治43年 242頁 〔同社より1924年・大正13年に新版発行、277頁、著者名表記は「フェヒネル」〕 『死んだら如何なるか』フエツヒネル:著 田宮馨:訳 帝国神秘会 1916年・大正15年 192頁 『死後の生存』フェヒネル:著 佐久間政一:訳 北隆館 1948年・昭和23年 134頁 「霊魂不滅の理説」、『宇宙光明の哲学・霊魂不滅の理説』所収 フェヒネル:著 上田光雄:訳 光の書房 1948年・昭和23年 390頁 ★このうち、『死後の生活』1910年版と1924年新版は、国会図書館の「近代デジタルライブラリー」により、オンラインでスキャン画像を読むことができます。署名と著者名で検索し、個別の書誌情報のページから「本文をみる」へ飛べます。訳者による長編の著者紹介「フェヒネルの生活及び哲学」が付されているのが分かります。 ★上記四点は古書市場ではめったに見かけず、たまに出てきても通常は非常に高額なので、国会図書館でお世話になったほうが早いです。私は帝国神秘会版と北隆館版を見たことがないですが、訳題から察しておそらく同一内容の本の訳書と見ていいでしょう。底本は、丙午出版社では明記されてはいませんけれど、序文(成甲書房版では「あとがき」)を始めとする本文内容や、フェヒナー紹介の詳細さ、そして私の手元にある訳書(『宇宙光明の哲学・霊魂不滅の理説』)との内容の対比から判断して、ドイツ語原書版を使用したものと思われます。帝国神秘会版と北隆館版はそれぞれ国会図書館へ出向いてマイクロフィッシュで閲覧して確認するしかありません。 ★写真の右側は、その昔幸運にも購入することができた『宇宙光明の哲学・霊魂不滅の理説』で、本書はドイツ語原書から訳されています。「宇宙光明の哲学」というのは、Die Tagesansicht gegenüber der Nachtansicht(暗黒観に対する光明観)の抄訳です。国会図書館ではこの版もマイクロフィッシュ化されていますが、帝国神秘会版と北隆館版同様、まだオンラインでは読めません。 ★今回の成甲書房版は英訳からの重訳になります。丙午出版社版『死後の生活』や光の書房版「霊魂不滅の理説」と内容を比べると、英訳版はドイツ語版を一部省略していることがわかります。たとえば英訳版第11章は途中で終わっていますし、ごく短い第12章は省略されています。その分読みやすく簡潔にはなってはいますが、いささか味わいが減じられているのも確かです。ただ、英訳版にはアメリカの哲学者ウィリアム・ジェイムズの「解説」が付されており、それが今回の訳書で読めるのは嬉しいところです。 ★ジェイムズはこう評しています。「フェヒナー博士の頭脳は・・・複雑多岐にわたって組織された真実の交差点のような存在である。・・・フェヒナーの理論を理解するには、多くの困難がつきまとう。彼がいかに複雑な思考をもってその理論を理解したか、いかなる精妙さをもってその理論を発見したかについてはまさに称賛を禁じえない」。 ★フェヒナーは博学なだけでなく卓越した観察力と想像力の持ち主だったことがジェイムズに称賛されています。今回の訳書をきっかけに、フェヒナーをドイツ語(ないしその翻訳)で読み直す機運が高まればいいなと思います。フェヒナーがいまどき翻訳されることはまずないだろう(だからこそ私自身にとっては実に取り組みがいがある)と長年思っていたので、今回の新刊には驚きました。 ★最後に、『宇宙光明の哲学・霊魂不滅の理説』の訳者である上田光雄さんによる「はしがき」(1948年3月)から、同書の内容とフェヒナー哲学についての説明を一部引用します。表記は一部現代風に改めています。 フェヒネルは生物のみならずさらに進んで無機物もまた精神を持っていると主張し、地球を含めた全天体が霊魂を持つと言うのだ。しかもこの地球の霊魂は人間の霊魂よりはるかに高次のものであって、全宇宙は最高の統一的組織体としてひとつの大きな霊魂であり、人間が死ねばこの宇宙霊の中に生きつづけると言う。この思想を詳細に説明したのが1851年に現れた『ゼンド・アヴェスタ――天国と彼岸の事物』と題する彼の主著である。そしてこの点から平易に死後の永世を説いた小冊子が本訳書の後部『霊魂不滅の理説』(1836年)である。これはいわば、プラトンの対話篇や、シュライエルマッヘルの独語録を思わせるような書物であってその内容はひとつの大きな思想的貯水池のような感を髣髴とさせる。本書は最初ミーゼス博士という匿名で出版したのだった。彼の37歳の時の作で、当時機械的唯物論やカント的懐疑論が世を風靡し、フェヒネルから見ればいわゆる暗黒観哲学が人間の精神の上に暗い影を投げていた頃だったので、彼は世をはばかって匿名としたのだが、晩年に彼の唯心論哲学が堂々と世に行われるに至って初めて本名を明らかにしたのである。 『霊魂不滅の理説』が出版されてから43年もたって、フェヒネルがもはや80歳に手が届く老境に入った頃、自然科学者としての彼の名声はますます喧伝されたのだが、しかしなおいわゆる暗黒観哲学が滔々として流布されているので、彼はそれら凡百の暗黒観哲学に対抗すべく老躯をさげて筆を執ったのが彼の最後の主著『宇宙光明の哲学』(暗黒観に対する光明観)(1879年)である。これは彼のもっとも円熟した思想の告白であって、彼の哲学的遺言とも言うべきものだ。
by urag
| 2008-09-09 04:10
| 本のコンシェルジュ
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Comments(6)
![]()
帯文より(裏表紙側)4行目「家庭」→「過程」でしょうか。
死は霊界への誕生だと思えば死ぬことは怖くないですね。でも死のうと思うと怖いのはどうしてなんでしょうか。このことについて参考になる文献があったら紹介してください。
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Kさんこんにちは。ご指摘ありがとうございます。仰せの通り誤変換で、訂正しました。明け方の打ち込みでモーローとしていたようです。死をめぐる心理については、たとえばフロイトの「快原理の彼岸」(岩波版全集第17巻所収)などはいかがでしょう。死への欲動(いわゆるタナトス)が論じられています。一方で心理学において死よりも誕生のトラウマについて語ったのはオットー・ランクでした(『誕生外傷』未訳)。あるいは歴史学の観点からはアリエスの『死を前にした人間』(みすず書房)、哲学の観点からはジャンケレヴィッチの『死』(みすず書房)など。この二人には上記以外にも死をめぐる著書が邦訳されています。民俗学者折口信夫の小説『死者の書』(中公文庫など)も面白いと思います。
人の存在目的・存在理由、他の誰でもないあなたや私がこの世界に必要な理由や死後の世界について、別の考察の例=一般法則論
フェヒナーのこのような本があると初めて知りました。 情報、有難うございます。 一般法則論者
一般法則論者さんこんにちは。ご丁寧なコメントをありがとうございます。こうした新刊情報がお役に立てると嬉しいです。
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丁寧なご返答ありがとうございました。参考にさせていただきます。ところでまったく違うことでうかがってみたいことがあります。取次が月曜社さんのような出版社様のお出しになっている専門書をパターンで書店に撒くことの是非についてご意見をいただけませんでしょうか。私が勤務している取次では、常備を入れている書店様に新刊の見計らい配本をしているようなのです。書店様からの事前予約以外に専門書を送りつけることの功罪についてコメントをいただけると幸いです。
Kさんこんにちは。見計らい配本にはもちろん長所も短所もありますよね。未受注店へのフォローという意味では版元にとって長所ですが、見計らいなど不要だ、という本屋さんの声もしばしば一般論としては聞きます。弊社の場合いわゆる「常備」はやっていませんから、人文や芸術の新刊を配本してもいいようなお店に見計らいを送品されているのだと思います。ミスマッチでなければ、版元にとっては見計らいも是ということになるのかなと。・・・この件はまたお目にかかる折にでも。
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