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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2008年 08月 26日

近刊チェック《知の近未来》:08年8月25日

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■「近刊チェック《知の近未来》」/ 五月
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思潮社の月刊誌「現代詩手帖」で、特集号「ブランショ 生誕100年:つぎの百年の文学のために」が刊行され、さらに78年刊行の特集号「ブランショ 不可能性の彼方へ」も復刊された。以前から意外に思っていたのだが、思潮社はウェブサイトを開設していないようである。そんなわけで、僭越ながら拙ブログに目次をアップした。http://urag.exblog.jp/7414984/

生誕百年特集号によれば、ブランショの『終わりなき対話』『災禍のエクリチュール』が筑摩書房より近刊予定と記されている。筑摩書房のウェブサイトの「これから出る本:翌月刊行予定の書籍」には記載されていないから、近刊とはいえ、いま少し先の話のようではある。

さて、来月刊行される各社の新刊で気になったタイトルは以下の通りだった。

08年09月
03日 ジョージ・ソロス『ソロスの警告』講談社 1,575円
04日 グラハム・ハンコック『異次元の刻印:人類史の裂け目あるいは宗教の起源』上下巻 バジリコ 各1,680円
08日 ウルリッヒ・ベック『ナショナリズムの超克:グローバル時代の世界政治経済学』NTT出版 3,990円
09日 エイモス・ラポポート『文化・建築・環境デザイン』彰国社 1,890円
09日 三浦展『格差社会のサバイバル術』学研新書 798円
12日 フィリップ・シャルリエ『死体が語る歴史:古病理学が明かす世界』河出書房新社 2,940円
18日 J-B・ポンタリス『彼女たち』みすず書房 2,730円
22日 ジョナサン・B・タッカー『神経ガス戦争の世界史』みすず書房 6,825円
22日 エリザベス・ヤング=ブルーエル『なぜアーレントが重要なのか』みすず書房 3,780円
24日 工藤員功編『絵引 民具の事典』河出書房新社 6,825円
26日 フランシス・コリンズ『ゲノムと聖書:科学者、〈神〉について考える』NTT出版 2,520円

今月は情報が少なかったのが残念だ。ソロスの新刊は全米ベストセラーの緊急出版だそうで、取次各社が利用している版元紹介文によれば、「市場主義経済への過度の依存が危機的状況を生み出した。迫り来る最悪の危機に処方箋はあるか」とソロスは警告しているそうである。投資家が言うから説得力があるのか、それとも戦略的な煽りなのか。どちらも感心できないが、彼のレトリックをよく分析する必要がある。

ハンコックの大著は徳間書店から9月上旬に刊行されるゼカリヤ・シッチンの『宇宙人遭遇への超扉:まもなく人類の始祖アヌンナキが戻ってくる』や、10月1日発売予定と聞く、ラズロ+カリバン『コスモス』(講談社)と並んで、宗教書ないし精神世界の棚を賑わせてくれるだろう。

むろん、ハンコックとシッチン、ラズロを一緒くたにするために並べているのではない。90年代のバブル崩壊以後、衰退の一途を辿っていたはずの精神世界棚が、00年代において徐々に息を吹き返しつつあるように私には見える。混乱の続く国内外の情勢が、終末ないしその反転としての霊的進化(そしてその過程で明らかになるとされる人類の諸々の「始原」)に対する関心を、衆人の深層心理において誘発しつつあるのだろうか。

虚構と真実を弁別することはますます難しくなる。大衆を混乱させることは、大衆を支配することをいっそう容易にする。私はそれを先月の記事で、「不安の戦略」と呼んだ。この戦略に関するかぎり、日本はアメリカに遅れをとっているように見える。

情報が真実かどうかが問題なのではなく、相手を混乱させるのが目的であるこの戦略への免疫力を各自が高めなければならない。「不安の戦略」がやっかいなのは、プレイヤーとプランナーが必ずしも同一ではないところである。陰謀史観に毒されることなく、プランナーの正体を見極めるのは難しい。

人間の霊的進化を信じるある種の「業界」では、マヤ暦終焉の「2012年」がノストラダムス系の終末予言「1999年」に取って代わる人類の一大転換期と目されている。ネット内外でのその喧伝はますます面白おかしく、かまびすしくなっているから、ひょっとすると、一般読者のレベルでもたとえば「アセンション」説が浸透する可能性があるかもしれない。世紀末は過ぎたはずだが、私たちは依然として危機の時代のさなかにいる。私たちが危機を感知するのは正しい。しかし問題は危機の複合的構造を解きほぐすことなのだ。

ベックの新刊『ナショナリズムの超克』は私たちに危機の複合的構造の一端を透視させるいくつかの視点を与えるだろう。版元紹介文によれば本書の内容は以下の通りである。「ナショナリズムでも理想主義でもない、グローバル時代にふさわしい新たな政治経済学とは何か? リスク社会論(原子力発電、核兵器、食品工学、公害、地球環境問題など、科学の発展ゆえに全世界をも脅かすレベルのリスクを抱えるにいたった現代社会を背景にした概念)で知られる著者が、『〈帝国〉』(ネグリ=ハート)、『文明の衝突』(ハンチントン)を超えて提唱する21世紀の新しい社会理論」。

英米語圏では、ハンコックの上記新刊のような本がある一方で、生物学者ドーキンスの『神は妄想である:宗教との決別』(早川書房、07年05月)がベストセラーになったりもする。神への探求が従来の神学からはみ出したり、あるいは神学の科学的否定に行き着いたりするのとは別に、コリンズの新刊『ゲノムと聖書』は「無神論者の家庭に育った科学者でありながら、後にクリスチャンとなるまでの自身の葛藤にみちた体験をまじえつつ、科学的真理と信仰的真理との追及は矛盾するものではなく、人間が豊かな世界を築いていくために必要な営みであると説く」(版元紹介文より)。

日本人にはおよそ理解しにくい姿勢かもしれないが、コリンズから学ぶべきことはあるのではないか(私はここでいわゆるクリスチャン・サイエンスを支持しているのではない)。近年における、スピリチュアルなものへの関心の高まりにもかかわらず、信仰の問題について、現代の日本人は依然としてほとんど無知のままではないかと私は恐れる。

発売日不詳だが、9月の新刊予定には以下の書目もある。

赤羽正春『熊』法政大学出版局 3,675円
野沢協監訳『啓蒙の地下文書(1)』法政大学出版局 24,150円
E・バリバール『真理の場所/真理の名前』法政大学出版局 2,415円
G・バシュラール『水と夢:物質的想像力試論』法政大学出版局 4,410円
シセラ・ボク『共通価値:文明の衝突を超えて』法政大学出版局 2,625円
G・ドゥルーズ『シネマ(1)運動イメージ』法政大学出版局 3,990円
A・ネグリ『野生のアノマリー:スピノザの形而上学と政治における権力』作品社 3,150円
サルダー+ヴァン・ルーン『メディア・スタディーズ INTRODUCING』作品社 1,680円
キャサリン・アシェンバーグ『図説 不潔の歴史』原書房 3,360円
大澤真幸編『アキハバラ発〈00年代〉への問い』岩波書店 1,575円
蓮實重彦『映画論講義』東京大学出版会 2,730円
富樫康明『著作権110番:著作権関連事件簿』日本地域社会研究所 2,100円
ヒヨコ舎編『本棚2』アスペクト 1,785円

赤羽さんの新刊は「ものと人間の文化史」シリーズからの一冊。地味な叢書かもしれないが、主題ごとに掘り下げた味わい深い魅力がある。野沢協さんはピエール・ベールの個人訳著作集などの実績で高名。バシュラールは及川馥さんによる新訳。初訳は小浜俊郎と桜木泰行の両氏による共訳で、『水と夢:物質の想像力についての試論』として国文社より69年08月に刊行されていたから、約40年ぶりの新訳となる。なお、及川さんによるバシュラールの訳書には、『夢想の詩学』(ちくま学芸文庫)、『エチュード』(法政大学出版局)、『科学的精神の形成』(共訳、国文社)、『近似的認識試論』(共訳、国文社)、『大地と意志の夢想』(思潮社)がある。

ドゥルーズやネグリの新刊は9月でいよいよ確定のようだが、もし遅延してもじっと待つしかあるまい。この二点とデリダの『ならず者たち』(みすず書房より刊行予定)は、西欧現代思想の中でも記念碑的作品の部類に入るから、刊行を楽しみにしている読者はそれなりにいるはずだ。

最後に、8月予定と聞いていたが、まだ未刊らしい書目の中から気になる本をピックアップする。

大島建彦『疫神と福神』三弥井書店 2,940円
サマンサ・パワー『破壊:アメリカとジェノサイドの世紀』毎日新聞社 3.990円
ロルフ・ユッセラー『ビジネスとしての戦争:民間軍事会社が民主主義を殺す(仮)』日本経済評論社 2,940円
福田和也『日本を変えた怪物列伝(仮)』角川春樹事務所 1,785円

パワーとユッセラーの近刊が特に楽しみだ。福田さんは今月大著『昭和天皇』(第一部、第二部、文藝春秋)を刊行したばかり。福田さんはかつて『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』という啓蒙書をPHP研究所から01年06月に出していて、私も当時驚嘆しつつ読んだけれど、真似は到底できないのだった。


◎五月(ごがつ):某出版社取締役。近刊情報をご提供は ggt0711【アットマーク】gmail.com までお願いします。

by urag | 2008-08-26 03:22 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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