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2008年 06月 15日

【公開版】今週の注目新刊(第2回[第151回]:08年6月15日)

磯崎新の「都庁」――戦後日本最大のコンペ
平松剛(1969-):著
文藝春秋 08年6月 2,300円 46判並製480頁 ISBN978-4-16-370290-2
■版元紹介文より:85年、新宿新都庁舎コンペ(設計競技)。建築界の天皇・丹下健三に、弟子の磯崎が挑み、敗れた「幻の」都庁をめぐるノンフィクション。
■帯文より:なみいる構想案の中で提出された、たったひとつの「低層案」。「ぶっちぎりで勝とう! ぶっちぎりで勝とう!」 連呼する建築界の天皇・丹下健三。そのかつての師に、腰痛・腹痛・大スランプ中、満身創痍の磯崎新が、戦いを挑んだ! 1985年、バブル前夜の東京で行われた新宿の新都庁舎案コンペ。磯崎新が提出した幻の「低層案」、そのキーワードは「広場」と「錯綜体」だった……。
★実現しないからこそ面白いというか、面白いからこそ実現しないというか。時代はニューアカ全盛期です。磯崎さんの建築思想には国内外のポストモダンの哲学者たちの影響を読み取ることができるでしょう。この長編の著者はかつて『光の教会――安藤忠雄の現場』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。キャッチーな筆致で興味深く、グイグイ読ませます。書名のリンク先で冒頭部分の立ち読みが可能。

イタリア現代思想への招待
岡田温司:著
講談社選書メチエ 08年6月 1,575円 46判並製229頁 ISBN978-4-06-258416-6
■帯文より:アガンベン、ネグリ、カッチャーリ……生政治、帝国、ゾーエー/ビオス……いまなぜイタリアなのか?
■版元紹介文より:ジョルジョ・アガンベン、ウンベルト・エーコ、アントニオ・ネグリ、マッシモ・カッチャーリ……。いまや世界の現代思想のシーンは、イタリアの思想家たちを抜きにしては語れない。ジル・ドゥルーズやジャック・デリダらフランスの巨星たちがあいついでこの世を去ったあと、なぜ、イタリア思想の重要性に注目が集まるのか。現代思想の最尖端で、いま何が問題なのか、そしてどのような可能性があるのか。哲学、美学、政治学、社会学、宗教学、女性学など幅広い分野での彼らの刺激的な仕事を、明快な筆致で紹介する。
★「ラチオ」誌連載全四回が待望の単行本化です。新規で10本の「補遺コラム」が随所に追加挿入されています。帯文にある思想家のほか、いくつもの固有名が挙がっており、それらをすべてピックアップするのは無理なのですが、連載とセットで翻訳された思想家たちを挙げると、以下の7名になります。ロベルト・エスポジト(1950-)、ジョルジョ・アガンベン(1942-)、マッシモ・カッチャーリ(1944-)、サルヴァトーレ・ナトーリ(1946-)、ジャンニ・ヴァッティモ(1936-)、マリオ・ペルニオーラ(1941-)、ジャンニ・カルキア(1947-2000)。
★上記のほかにはどういった思想家がこんにち注目されているのでしょうか。たとえば英語圏で出版された次の三冊などがガイド兼アンソロジーとして役に立つと思います。

"Contemporary Italian Philosophy: Crossing the Borders of Ethics, Politics, and Religion", edited by Silvia Benso and Brian Schroeder, translated by Silvia Benso, State University of New York Press, 2007.昨年刊行されたこの本に論文が掲載されているのは、以下の16名です。
Remo Bodei, Massimo Cacciari, Giovanni Ferretti, Sergio Givone, Giacomo Marramao, Virgilio Melchiorre, Luisa Muraro, Salvatore Natoli, Marco Maria Olivetti, Pier Aldo Rovatti, Mario Ruggenini, Emanuele Severino, Carlo Sini, Gianni Vattimo, Salvatore Veca, Vincenzo Vitiello.
「ラチオ」誌登場済は、カッチャーリ、ナトーリ、ヴァッティモの三人です。このほかには「弱い思想」のピエル・アルド・ロヴァッティ(1942-)あたりが日本でも知られている人物でしょうね。

"Recoding Metaphysics: The New Italian Philosophy", edited by Giovanna Borradori, Northwestern University Press, 1989.
編者のボッラドッリ女史は、911をめぐるデリダとハーバーマスの「共著」(『テロルの時代と哲学の使命』岩波書店)をプロデュースしたことで日本でも有名。やや古い本ですが、扱われている人物が厳選されているのが良いです。全8名。
Umberto Eco, Gianni Vattimo, Aldo G. Gargani, Mario Perniola, Pier Aldo Rovatti, Franco Rella, Massimo Cacciari, Emanuele Severino.
前出書16名のうち、重なっているのは、カッチャーリ、ヴァッティモ、ロヴァッティ、エマヌエーレ・セヴェリーノ(1929-)の4名です。「ラチオ」陣営のペルニオーラもいますし、日本では紹介が早かった秀才ウンベルト・エーコ(1932-)の名も見えます。興味深いのは、欧米や日本で人気のネグリやアガンベンがいないことです。彼らの名前は、哲学ではなく政治思想の文脈で、以下の有名なアンソロジーに出てきます。

"Radical Thought in Italy: A Potential Politics" edited by Paolo Virno and Michael Hardt, University of Minnesota Press, 2006.
編者はパオロ・ヴィルノ(1952-)とマイケル・ハートの両氏です。論文が掲載されているのは以下の11名。
Giorgio Agamben, Massimo De Carolis, Alisa Del Re, Augusto Illuminati, Maurizio Lazzarato, Antonio Negri, Franco Piperno, Marco Revelli, Rossana Rossanda, Carlo Vercellone, Adelino Zanini.
哲学を扱う上記二書と重複している思想家は一人もいませんが、運動系においては重要な本です。マウリツィオ・ラッツァラート(1955-)はご存知のようにまもなく洛北出版さんから『出来事のポリティクス』が翻訳出版されます。なお、この『イタリアのラディカル思想』とペアで購読したほうがいい本に以下のものがあります。

"Autonomia: Post-Political Politics", edited by Sylvère Lotringer and Christian Marazzi, Semiotext(e)/MIT Press, 2007.
初版が刊行されたのは1980年です。数多くの運動家たちが登場しますが、『イタリアのラディカル思想』と重複するのは、ネグリ、ヴィルノ、フランコ・ピペルノ(1943-)くらいです。ただ、哲学系で紹介されてきたカッチャーリが登場しますし(当たり前です、彼は政治家でもあるのですから)、運動系ではマリオ・トロンティ(1931-)やセルジョ・ボローニャ(1937-)、オレステ・スカルツォーネ(1947-)、BIFOことフランコ・ベラルディ(1949-)、ルーチョ・カステラーノ(1949-1994)等々が登場しますし、ノーベル文学賞受賞者のダリオ・フォ(1926-)、フランス系のドゥルーズ、ガタリ、ヴィリリオ、ドゥボール、アリエズ、ヴィヴィオルカも出てきます。ヨーロッパ現代思想のアメリカへの導入紹介の大立役者、シルヴェール・ロトランジェが編者をつとめるだけあって、さすがの目配りです。ロトランジェとともに編者に名を連ねているのは、日本でも近年『ソックスの場所』が注目されているクリスチャン・マラッツィ(1951-)。

こうして見ていると、状況論的にはまず運動系の思想家たちがこの先も、積極的に紹介されていく気がしますが、哲学系の著者筋もどんどん紹介されていくと良いですね。名前が複数書目で挙がっている、ヴァッティモ、ロヴァッティ、セヴェリーノ、ナトーリなどの単行本未訳組とか。

★ちなみに岡田温司さんはまもなく平凡社さんからも新刊を刊行されます。ぜひ併読したい本です。

フロイトのイタリア――旅・芸術・精神分析
岡田温司:著
平凡社 近刊 予価3150円 A5判304頁 ISBN978-4-582-70279-8
■版元紹介文より:フロイトは大のイタリア通であった。本書は彼のイタリア体験を膨大な書簡等から再構成、精神分析理論に刻印された長靴の半島の楔を明かす刺激的な一書。上質のイタリア案内でもある。

ローマ建国以来の歴史(3)イタリア半島の征服(1)
リウィウス:著 毛利晶:訳
西洋古典叢書:京都大学学術出版会 08年6月 3,255円 46判上製288頁 
ISBN978-4-87698-176-2
■版元紹介文より:ローマ世界最大の歴史家リウィウスは、ローマ建国からアウグストゥス帝治世(前9年)までの数百年の歴史を扱った『ローマ建国以来の歴史』全142巻を著わした。本書は、ガリア人によるローマ占拠という災厄から立ち直ったローマが周辺諸国を征服し覇権を築き上げるまでの歴史を、臨場感あふれる記述によって描く。(全14冊)
■版元紹介文より:古代ローマ最大の歴史家ティトゥス・リウィウスは、約40年間の歳月を費やして、ローマ建国者ロムルス(前753年)からティベリウス帝の弟ドルススの死(前9年)までに及ぶ『ローマ建国以来の歴史』142巻を著わした。このうち現存するのは35巻とわずかな断片である。このうち本書は、原著の第6巻から第8巻第24章までを収録。ガリア人によるローマ占拠(前390年)という災厄から立ち直ったローマが周辺諸国を征服し、ラティウム=カンパニア地域に覇権を築き上げるまでの歴史を編年体で描く。単に事実に即して歴史を編纂したものではなく、文学的資質に富んだ臨場感あふれる記述になっている。
★古代ローマ帝国が興味深いのは、東西南北を結ぶ世界帝国として、こんにちのグローバル化した世界と様々な点で比較が可能な歴史を有していること、また、その末期の政治体制の腐敗と爛熟がしばしば現代社会のそれと似ていること、等々の理由が思い浮かびます。その建国時を知る一級資料が本書です。岩波文庫では『ローマ建国史』として上巻が昨春刊行されました(鈴木一州訳)。こちらではリーウィウスと表記されています。今後平行して二つの翻訳を読めるようになるわけで、楽しみです。
★ほとんど同時期に刊行された古典の翻訳と言えば、ここ十数年では、バッハオーフェンの『母権論』(みすず書房/白水社)やシュレーバーの『回想録』(筑摩書房/平凡社)がありました。版元営業にとってみると致命的な重複のように思えなくもなく、懐具合が気になる読者にとってみるとどちらを買えばいいのか迷うわけですが、両方買って比べながら読むと非常に面白いのです。図書館にしてみても、両方買い揃えるのは稀なのかもしれませんが、ベストセラーの副本をたくさん買うより、こういう古典ものの比べ読みを利用者に推奨する方が粋な気がしますけれど。
★なお、ローマものでは、こんな新刊もあります。 C・サッルスティウス・クリスプス『カティリーナの陰謀』合阪學+鷲田睦朗:訳・註解、大阪大学出版会、08年5月、2,520円、 A5判171頁、ISBN978-4-87259-274-0。著者はカエサルのもとアフリカ=ノウァ属州の総督もつとめた散文家。

◎今週の「別腹」

文庫新刊は別腹ですよね? ジャン=リュック・ナンシー『神的な様々の場』大西雅一郎訳、ちくま学芸文庫。親本は松籟社。講談社学術文庫が今月はいいですね、『榎本武揚シベリア日記』、大隅和雄『事典の語る日本の歴史』、佐藤弘夫『日蓮「立正安国論」全訳注』など。佐藤弘夫(1953-)さんは、『偽書の精神史』 『霊場の思想』『起請文の精神史』『神国日本』など、次々と注目の概説書を上梓してこられた日本史家。国内外の情勢にゆれる現代日本で、「立正安国論」を読み直すというのはタイミング的になかなかいいところを狙っておられると思います。

別腹、とは言えない高額書ですが、東京書籍さんの『禅の思想辞典』(田上太秀+石井修道:編著、12,600円)はぜひ中身をじっくり見たい辞典です。2000項目、590頁。

by urag | 2008-06-15 03:59 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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