2008年 02月 21日
アリストテレスの現象学的解釈――『存在と時間』への道 マルティン・ハイデガー:著 高田珠樹:訳 平凡社 08年2月 定価2,940円 46判上製カバー装232頁 ISBN978-4-582-70277-4 帯文より:『存在と時間』の原型となった若きハイデガーの幻の草稿「ナトルプ報告」、初の邦訳単行本化。「若きマルティン・ハイデガーの草稿、それも本人の偉大な活動の始まりを示す原稿が出てきたというのは、まことにひとつの事件というほかない。……このアリストテレス理解は真にひとつの革命を引き起こすことになった。アリストテレスが、われわれのいる場に立ち現われ、われわれに向かって本当に語り始めたのである」(ハンス=ゲオルク・ガダマー:本書より)。 底本:"Phänomenologische Interpretationen zu Aristoteles (Natorp-Brecht)", hrg. von Günther Neumann, Reclam, 2003. 目次: アリストテレスの現象学的解釈 序にかえて 解釈学的状況の提示 『ニコマコス倫理学』第六巻 『形而上学』第一巻の第一章と第二章 『自然学』第一巻から第五巻 〔第二部について、『形而上学』第七巻、第八巻、第九巻の解釈〕 ハイデガーの初期「神学」論文 (ハンス=ゲオルク・ガダマー) 編者あとがき (ギュンター・ノイマン) 付録『ナトルプ報告』の成立とその位置 (高田珠樹) 訳者あとがき *** 発売は来週月曜日、2月25日ごろのようです。「編者あとがき」や「付録」「訳者あとがき」を参照すると、本書の成立はおおよそ次のようになるかと思います。 新カント派の代表的哲学者の一人であるパウル・ナトルプの求めに応じて、マールブルク大学への就職のため自らの目下の研究内容を端的にまとめた「アリストテレス序論」、それが本書「ナトルプ報告」の名前の由来です。本稿は結局序論にとどまり、本編は執筆されませんでしたが、彼が試みた思索はやがて代表的著作『存在と時間』に結実します。その前哨地として長らく幻の草稿とされてきた「ナトルプ報告」が初めて公刊されたのは、ハイデガーの生誕百周年となる1989年でした。 高田珠樹さんによる初の日本語訳が発表されたのは、岩波書店の月刊誌「思想」813号(92年3月)でした。底本は89年に『ディルタイ年鑑』第6号に掲載されたいわゆる「ミッシュ・タイプ稿」です。「序論」はマールブルク大学に送付されると同時に、ゲッティンゲン大学のゲオルク・ミッシュのもとにも送られていたのでした。 「ナトルプ報告」には、ハイデガーの手元に残されていた、手書きの修正や加筆を含む「ハイデガー・タイプ稿」もあり、これが03年にレクラム文庫の元になっていて、ミッシュ稿との異同が注記されています。今回の単行本化においては、このレクラム文庫版を底本として改訳したとのことです。 本書に収録されたガダマーの論文の中で、彼は「ナトルプ報告」のインパクトをこう回想しています。「当時の読者にとって、このテクストの一文一文がどれほど新奇なものであったか、今日ではほとんど書きつくせそうにない。ハイデガー自身の面識を得て、彼から次第に何かを学ぶようになった後も、私は、その頃を思い出しては、ナトルプが、この大胆な思索の徒の語り口や文章に見られる伝統に逆らった一種独特の流儀にもかかわらず、その若き後学の天分を認めたのにはやはり敬服するほかないと密かに考えたものである」(111頁)。 かなり難解な著作であり、翻訳の苦労はつぶさに「訳者あとがき」に綴られています。「ナトルプ報告」は03年のレクラム版のあとに、05年にドイツ語版『ハイデガー全集』第62巻「存在論と論理学に関するアリストテレスの精選論文の現象学的解釈」に付録として収録されました。いずれは、創文社版『ハイデッガー全集』でも別訳が刊行されることになるのだろうと思います。創文社版では第62巻は、講義部門の初期フライブルク講義1919-1923のうち、1922年夏学期にあたり、邦訳題は「オントロギーと論理学に関するアリストテレスの精選諸論文の現象学的研究」と予告されています。
by urag
| 2008-02-21 22:33
| 本のコンシェルジュ
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Comments(3)
待ちに待った単行本翻訳です。
かつて『思想』で同じ訳者の翻訳を読みました。その時は、凝縮された「メモ書き」の印象が強く、難解と言うより、不親切な文章だと思いました。そして、こんな文書を受け入れたナトルプの懐の深さを感じました。 この文書は『存在と時間』と、いわゆる彼の後期思想が一定の連続性をもっていると考える論者の論拠となっています。それもあって、前期と後期の不連続を唱える現在の「日本のアカデミズムの主流」はあまり正面から取り上げようとはしませんでした。これほど重要な文書が単行本翻訳されない理由もこんなところにあるのかなとさえ思っていました。 いずれにせよ、この翻訳の刊行は歓迎です。
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urag at 2008-02-28 00:38
どらくまさん、こんにちは。コメントをありがとうございます。凝縮された「メモ書き」というのは的確な把握だと思います。講義録と比べればかなり読みにくいですよね。そういえば新書館の『シェリング講義』は長らく品切れですね。いま調べたらアマゾン・マーケットプレイスで二万四千円。やれやれです。
新書館『シェリング講義』品切れですか・・・。どうしたものか・・・いい訳なのに。
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