2008年 01月 01日
ドゥルーズ/ガタリの現在 小泉義之・鈴木泉・桧垣立哉:編 平凡社 08年1月刊 6,090円 A5判上製カバー装722頁 ISBN978-4-582-70273-6 帯文より:没後十年余りを経て、古典化の動きが著しいドゥルーズ/ガタリ。空疎な権威化や瑣末な文献学化という負の側面をはらみながらも、彼らの思考の引き延ばし、よりよき汎用化は着実に進行している。その哲学的・思想的到達点を測定すべく三十人超の研究者が協働、これからのD/G研究の出発点をしるす意欲的な論集。 前書きによれば、「05年7月から06年7月まで、約一年間をかけて集中的に行われたドゥルーズ&ガタリ研究会の成果」とのことです。この研究会の発起人である三氏が本書の編者となっています。素晴らしい執筆陣による圧巻の巨編です。注目の若手が多数参加しているので、あと二十年は本書を超える本は出ないように思えるほどです。 目次: 前書き (桧垣立哉) I ドゥルーズ――『意味の論理学』、『差異と反復』 意味と出来事と永遠と――ドゥルーズ『意味の論理学』から (上野修) 「出来事」の倫理としての「運命愛」――ドゥルーズ『意味の論理学』におけるストア派解釈 (近藤智彦) ただ流れる時間へ――いかにして辿りつけるか (郡司ペギオ幸夫・太田宏之・浦上大輔) 『差異と反復』における微分法の位置と役割 (近藤和敬) 「強度」概念再考――その内在的理解の深化に向けて (原一樹) II ドゥルーズ+ガタリへ 構造主義の臨界――ドゥルーズ・ラカン・ガタリ (美馬達哉) 器官なき身体とは何か――実在的区別の観点から (江川隆男) 機械は作動するか――ドゥルーズ/ガタリにおける機械の問題系 (廣瀬浩司) 表層・深層・抽象機械における言語――『意味の論理学』から『千のプラトー』へ (大山載吉) いつも「新しい」精神医療のために (三脇康生) III 『アンチ・オイディプス』、『千のプラトー』 資本主義のリビドー経済――ドゥルーズ=ガタリにおける「経済学批判」の可能性 (荒谷大輔) 器官なき身体から抵抗へ――『千のプラトー』における主体化と抵抗 (佐藤嘉幸) 公理と指令 (松本潤一郎) メキシコの一九六八年、あるいは「マイノリティへの生成変化」が残した問い (崎山政毅) ドゥルージアン/ガタリアン・アニマル――「リトルネロ」のプラトー探検 (遠藤彰) IV ドゥルーズ/ガタリ縦走 ドゥルーズ哲学における〈転回〉について――個体化論の転変 (桧垣立哉) 来たるべき民衆――科学と芸術のポテンシャル (小泉義之) V イマージュ/シネマ メディア・デザインへ向けての哲学とは何か?――デジタル環境における超越論的イメージの批判=危機 (瀧本雅志) ミュージカル映画における「世界の運動」――ドゥルーズ『シネマ』におけるハリウッド・ミュージカルの新たな位置付け (木村建哉) シネキャピタル、シネコミューン――普通のイメージたちによる「労働の拒否」 (廣瀬純) VI 哲学的系譜・遭遇 ドゥルーズ哲学のもう一つの系譜について (米虫正巳) 思考と哲学――ドゥルーズとハイデガーにおける (増田靖彦) ドゥルーズと現象学 出会いのための序章――「時間の三つの総合」と「差異による時間の総合」の接合部分 (杉本隆久) ドゥルーズとデリダ――概念をめぐって (藤本一勇) VII ドゥルーズ/ガタリ横断 シーニュとインタフェイス (本間直樹・森淳秀) 剥き出しの生と欲望する機械――ドゥルーズを通して見るアガンベン (高桑和巳) 家族写真、アメリカ、資本主義――ドゥルーズ/ガタリとともにダイアン・アーバスを (清水知子) ドゥルーズ/サイード――音楽の飛翔力と重力をめぐって (平井玄) 言語の流体力学――指令語の射程について (サドッホ) VIII 資料 ドゥルーズ/ガタリ研究・活用の現在 (鈴木泉) 後書きに代えて (鈴木泉) *** 気をつけなければならないのは、本書は「資本主義と分裂病」をはじめとする、チームワークとしての「ドゥルーズ=ガタリ」に重点が置かれているということです。鈴木さんによる後書きにあるように、編者はドゥルーズに偏るのではなく、ガタリの読解にも重点を置くべく常に配慮されたそうです。ただ、こうして本書を眺めてみると、それでもドゥルーズ寄りになってしまう傾向が強いように見えます。現時点では仕方のないことなのかもしれませんが、その意味で三脇さんの論文は非常に貴重だと思います。 ガタリの主要著書はほとんど翻訳されていますから、あとは新しい読者/書き手がどんどん補完していけばいいのかもしれません。04年にフランスで刊行された、ガタリの『アンチ・オイディプスのための文書』は、69年から72年にかけてドゥルーズに宛てて書かれた覚書や日誌などの集成ですが、このいわば「草稿」群とも呼ぶべきものがいずれ日本語に訳され、あるいはドゥルーズによる「アンチ・オイディプス」講義や「ミル・プラトー」講義も日本語で読めるようになれば、いっそう彼らの協働性が綿密に検討できるでしょう。むろん、「リゾーム」に書かれている彼らのスタンスを踏まえれば、ドゥルーズもガタリも共著の「解剖」などは望んでいないし、まったく重要視もしないでしょう。 そうであるにせよ、もしもガタリへの視線が薄くなってしまうとしたら、残念な話ではあります。本書の美しいカバーにはドゥルーズの講義風景であろう写真が使われていますが、ガタリの姿は見えません。承知の上でこうなっているのでしょうけれども、ガタリはどこ?と目を瞠らせます。裏返して言えば、ガタリがいずれ再び注目されるのを、ある意味で、本書は予示しているようにも思えます。
by urag
| 2008-01-01 01:44
| 本のコンシェルジュ
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Comments(2)
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mimizuku
at 2008-01-05 23:20
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はじめまして、西国分寺の書店に勤務しているものです。
小泉義之さんや、田中純さんの名前が載っているのを見て書かせていただきました。 カッチャーリの邦訳、二作目が貴社から刊行されるとのこと、楽しみにしております。イタリア現代思想はペルニオーラ『エニグマ』とアガンベンの『中味のない人間』を読んでから関心がわき、ネグりやアガンベンの著作を数点並べさせていただいてます。
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urag at 2008-01-08 19:31
mimizukuさん、こんにちは。コメントをありがとうございます。一版元としても、いつもお世話になっております。イタリア現代思想は仰せの通り、とても面白いです。現時点で紹介されている思想家は少ないので、粒揃いだと言ってもいいかもしれません。弊社は今後もイタリアの動向に注視していくつもりです。
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