2007年 08月 16日
弊社の品切本がAMP(アマゾン・マーケット・プレイス)で高額になっていて、先日もお客様から『文化=政治』が2万円で出品されていてとても買えない、とのお叱りを頂戴いたしました。税込1680円の本が2万円。誰に話しても驚かれます。 弊社は『文化=政治』を重版したくないわけではありません。時事的な内容なので、アップデートが必要かもしれないと考えており、著者と編集担当者が折に触れて意見交換をしています。2万円ではとても買えないけれども、どうしても購読したい、というお客様は、メールなどで弊社営業部までお問い合わせください。ごくまれにですが、書店さんから返品されてくることがあります。 あちこちの書店さんを探し回っても買えないお客様がいらっしゃる一方で、在庫が残っていてそろそろ返品しようかと考えておられる書店さんもおられます。うまくいかないものです。サプライ・チェーン・マネジメントという手法が何年もから業界でも議論されていますが、出版=取次=書店業界はとてもそこまで到達するような状態ではないような気がします。 さて、本題です。弊社が7月末に刊行した最新刊の『ハワイ』が早くもAMPに出品されています。税込正価6300円のところ、5124円。出品者はwarehouse_deals_jpで、この出品者はほかならないアマゾンがAMPに出品する際に使っているIDです。つまり、アマゾン自身が定価ではなく値引き価格で本を売っているわけです(あくまでも事故品の再利用のためであって、品切本を高額で売りつけるためのものではないようです)。 もしアマゾンが「AMPは古書市場であり、再販制に左右されない」と強弁するとしても、問題の所在は変わらない気がします。 warehouse_deals_jpの存在は一昨年(2005年)から話題になっていました。敏感に反応されていたのは、いわゆる「せどらー」の方々。再販制に鑑みて問題があるのではないか、あの本はひょっとしてブックオフから仕入れているのか、あるいは直取引の版元の商品が安くなっているのか、等々の意見や疑問が見受けられます。 私の意見はこうです。再販制に照らしてみて、warehouse_deals_jpは問題がある。アマゾンの説明によれば、「Warehouse Dealsは、Amazon.com Int'l Sales, Inc.がマーケットプレイスに出品する際の別称であり、 Amazon.com グループの一部です。Warehouse Dealsは、返品された商品、軽微なキズのある商品等を、値引き価格でマーケットプレイスに出品しています。Warehouse Dealsが出品している商品については、Amazon.co.jpが発送やカスタマーサービス業務を行います」とのこと。 つまりお客様にお送りした商品が、何かしらの事故やミスでお客様にご満足いただける商品ではなくアマゾンに返品された場合、その商品を版元に返品するのではなく値引きして売っているのです。Warehouse Dealsに対するこれまでの全評価は27710件。少なくともこれでけの「販売実績」があるわけです。アマゾンの「特定商取引法に基づく表示」には「国内再販制度対象商品については定価販売」と明記してあります。Warehouse Dealsでやっていることと明確に矛盾していると思います。 こういうことはリアル書店ではできません。出版社が値引きに同意しているバーゲンブックのようなものでないかぎり、通常の商品を値引きして販売することは再販売価格維持制度のもとでは不可能なのです。それをなぜアマゾンが堂々とやっているのか? どれだけの出版社が疑問を呈してアマゾンを質してきたのか? 他社さんとアマゾンの取引がどうなっているのか私は知りませんので、ここではとやかく言いませんが、少なくとも弊社とアマゾンとの間においては直取引はないし、再販制を度外視するような取引協定もありませんし、アマゾンと取次との間においてもそういう取り決めはないと思います。 いくら出版社が直接アマゾンと再販契約書を交わしていないからと言って、なし崩し的にこう物事が進んでいいものだろうか。 商品を仕入れた以上、書店さんが責任をもって販売する、という姿勢は非常に素晴らしいものですし、そうであることが業界一般的には求められています。出版社に返品せずに、商品を再活用して売ろう、というアマゾンのスタンスには一商売人として共感できる部分があります。また、売れ残った本を値引きして販売することがもし出来るようになれば、とお考えになっている書店員さんが現実に業界内にいらっしゃる事実も認めねばなりません。 出版社としても、新品が汚損状態で戻ってくれば、その中にはもはや商品として再活用・再出荷できないものが出てきますから、「返本破棄」のリスクがある。それを考えれば、最後まで本を活用しようと考えている(?)アマゾンの姿勢はあっぱれでもあります。しかしだからと言って、再販制が無視されていいということではないのです。 再販制の恩恵は、日本国内のどこの新刊書店においても、あるいはいつでも、同じ価格で購入できるということです。山頂や海上、特定施設内などで缶ジュースが定価より高くなる、という事態と同じことが、書籍や雑誌、新聞では起こらないのです。これは素晴らしいことだと私は思いますし、これからも続いて欲しいものです。 (ちなみに、出版社は取次に対して「遠隔地返品手数料」や「書籍地方正味負担金」なるものを払っています。全国どこでもお客様は同じ値段で本を買えるにしても、実際に地方や遠隔地と商品をやり取りする場合、都心よりも運賃がかかるわけで、その費用を出版社も分かち合ってくれ、というものです。すべての出版社が公平に請求されているかどうかは正直なところよくわかりませんが、弊社は支払っています。) 再販制の恩恵はそのまま再販制の難点と表裏一体をなしています。つまり、和書は洋書のように値引き販売が原則的にできない。安くすれば本が売れるかというと、一概にそうは言えないのですが、安いほうを選択するというお客様もいらっしゃることでしょう。 この文章を書いているあいだ、私はなんだかとても胸元がむかむかして仕方ありませんでした。猛暑のせいでもあるでしょうし、世の中に暗いニュースが多いこともその一因ではあります。何か自分より大きな存在が大手を振って平気な顔で、私たちにとって理解に苦しむことを堂々とやっているとき、それは非常に不愉快だし、不気味だし、唖然とさせます。私にはアマゾンのやり方がどうにも腑に落ちないし、業界において再販制が有名無実化しつつあるのではないか、と危機感を覚えます。単純に「再販制撤廃に反対」しているのではありません。議論をつくさいないままにビジネスだけが先行していくかのような状態が不気味だと言っているのです。 こうしたアマゾンのやり方は、他書店さんにとっては「公正な取引」とは見えないのではないかという疑問を持っています。ところで参考までに、公正取引委員会の著作物再販協議会の最近の議事録はこちら→PDFファイル。協議会の会員には、小学館だとか、朝日新聞社だとか、社団法人日本文芸家協会の出版流通委員会委員長とか、そういうお歴々のお名前があります。
by urag
| 2007-08-16 12:34
| 雑談
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Comments(6)
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けん
at 2007-08-17 01:13
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出版社とは事情が異なるでしょうが、新聞ではすでに再販制は有名無実化しています。販売レベルでは一ヶ月無料等は当たり前で、過疎地では新聞代に輸送料金が上乗せされてるところもあります。現実と公式見解のズレがおおきくなっています。
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たむ
at 2007-08-17 07:42
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出版社が売り方にまで文句を言うってどうよ?!
本屋は比較的高い商品を買っても何のサービスもなし なんて客商売としておかしくない?せいぜい安く売るくら いはしてほしいね。ひとつ出版社がなくなれば他から新 しいのができるご時勢だからね。売り方に文句言ってる 暇があったら経営努力をしたほうがいいよ。内容で勝負 とか思ってるんじゃない?
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chloe
at 2007-08-17 12:22
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当たり前のことですが「出版界」は一枚岩ではありません。再販制度ひとつとっても単にその是非というよりその中間に無数の運用上の考え方があります。
出版社のあり方も同様で、貧乏を目指してるわけではないでしょうけれど、貧乏を引き受ける覚悟で“内容で勝負”する出版社もあっていいと思いますし、売り方(というよりその背景にあるものの考え方)に疑問を感じるのなら“文句”を言ってもいいと思います。 言わずもがなですが、そのことと“経営努力”とは二者択一の関係にはありません。
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urag at 2007-09-03 15:52
けんさんこんにちは。重要なコメントをありがとうございます。再販制が「有名無実化」してしまった新聞業界がもっとも再販制護持に積極的である(ようにふるまっている)というのは、非常に皮肉な話ですね。
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urag at 2007-09-03 16:02
たむさんこんにちは。問題は「売り方」ではなく、再販制を一企業として守っているかどうかなのです。「比較的高い商品」というのが具体的にいくら以上を指しておられるのか、また、「サービス」と仰る場合に何を想定していらっしゃるのかよくわかりませんが、ご不満をお持ちであるということなのでしょうね。なお、「内容で勝負」するのは当たり前の話です。自信過剰になってもいけませんが、そこで勝負しないならば出版稼業をやる意味はありません。
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urag at 2007-09-03 16:18
chloeさんこんにちは。久しぶりにコメントを寄せてくださってうれしいです。出版界が一枚岩ではないというのは確かにその通りです。書店さんの考え方も色々でしょう。一方で、今から11年前に深夜叢書社さんが吉本隆明さんの新刊を自由価格本で出したときに、大型チェーン書店はお互いに他店の価格設定を意識して結局はほとんど同じ値段になったという事例もありましたね。
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