05年5月の創刊時に拙ブログでも取り上げたことのある、森開社の文芸誌「L'EVOCATION(レヴォカシオン)」の4月号が今月発売されました。今回も限定300部でナンバリング付き。夭折詩人小特輯、と銘打たれており、千田光(1908-1935)、左川ちか(1911-1936)、小方又星(生没年未詳)、山中富美子(1912-1936)、辻野久憲(1907-1937)らの詩作品や訳詩を読むことができます。
このほか、土屋和之氏の訳で「エリザ・メルクール詩篇」、岩田駿一氏の訳で「マラルメ散文詩篇」、さらに、小野夕馥、白鳥友彦、白鳥環の各氏による散文詩篇が収録されています。
L'EVOCATIONは、ネット専門古書店の「
古書肆マルドロール」や、神保町の
田村書店などで購入できます。バックナンバーは創刊号が品切れですが、2号と3号がわずかに残っているようです(マルドロールでは2号は品切)。
森開社は1973年に小野夕馥さんにより設立された伝説的な出版社です。仏文学を中心に単行本や季刊誌「森」、「ラフォーレ」などを刊行、味わい深い文学作品や詩を洒脱な装丁で飾って小部数限定出版を一貫して続けてきた、玄人好みの版元です。熱心なコレクターがあちこちにいらっしゃいます。
80年代前半からでしょうか、徐々に刊行ペースが落ち、90年代以降はまさに伝説と化した出版社として、知る人ぞ知る存在になりました。そもそも森開社の書籍と雑誌は、書籍コードや雑誌コードが付されておらず、取次による流通に頼ったことはなかったのではないかと推測できます。森開社の本は公立図書館にも置いてないことが多いようで、国会図書館にはなんと1点しか収蔵されていません。国会図書館は、版元側が主体的に納品していない本をトーハンや日販を通じて発注しますから、この二大取次で調達できなければ基本的にあきらめてしまうのでしょう。
ISBNやJANコードを取得して取次経由で全国の書店に配本しないと、市場から書物とみなされなかったり、半年に一冊以上刊行しない出版社は一人前に見なされないような風潮が巷ではすっかり定着しています。しかし、森開社さんの活動はそうした世間体や市場原理によりかからなくても出版活動はできるし、読者は獲得できるのだということを教えてくれている気がします。森開社さんは創業当時からずっとオルタナティヴな出版社であり続けているのですね。
森開社さんは現在、「レヴォカシオン」誌のほかに、単行本でピエエル・ルイス詩集『秘稿 女』(白鳥友彦訳)を限定520部で発売中です。送料別で7000円也。販売取り扱いは、神保町の田村書店。近刊に、『千田光全詩集』、『ヴィリエ・ド・リラダン移入翻訳文献書誌』、『仏蘭西小浪漫派詩人抄』、『白鳥環詩集』などが予告されています。
70年代から80年代前半までの森開社さんの古書が、上記の古書肆マルドロールで地味にじっくり長期間にわたって販売されています。つい先週まで、ヤフオクに複数出品している方もおられましたね。グーグルなどにキャッシュが残っていると思います。