2007年 04月 18日
![]() 思えば本年になってから、私にとってこれまで親しんできた著者が次々に亡くなりました。1月にラクー=ラバルトが逝去し、2月には池田晶子(1960-2007年2月23日)さんが、そして3月にはボードリヤール(Jean Baudrillard:July 29, 1929, Reims – March 6, 2007, Paris)が逝きました。それらの読書に積極的な接点はほとんどありませんが、それぞれから影響を受けたことは事実です。 歴史の詩学 藤本一勇:訳、本体3200円、46判上製214頁、ISBN978-4-89434-568-3 原著:"Poetique de l'histoire", Paris: Galilee, 2002. 目次:I 起源の舞台[1 ルソーを否認するハイデガー/2 ルソーの存在-技術論/3 ハイデガーはルソーの何を恐れたのか]◆II 先行的演劇[1 ルソーの引き裂かれた核心/2 ルソーの弁証法/3 芝居がかる死] 貧しさ 西山達也:訳、本体3200円、46判上製214頁、ISBN978-4-89434-569-0 原著:"Die Armut / La pauvrete", Strasbourg: Presses universitaires de Strasbourg, 2004. 目次:貧しさ(ハイデガー)/精神たちのコミュニズム(ヘルダーリン)/「貧しさ」を読む(ラクー=ラバルト)/ドイツ精神史におけるマルクス――ヘルダーリンとマルクス(ラクー=ラバルト、聞き手:浅利誠)/訳者解題 「貧しさ」――ある詩的断片の伝承をめぐって 目を惹くのは、本邦初訳となるハイデガーのテクスト「貧しさ」です。1943年から44年の間に書かれた草稿のひとつと目されており、教職停止直前の1945年6月に講演されたもの。この非常に微妙な日付前後のハイデガーの活動を思うとき、なぜこの時期にコミュニズムが語られたのか、熟読熟考が求められるテクストではあります。 「西洋は没落していないし、没落することなどありえない。というのも西洋はまだけっして興隆もしていないからである。この興隆の始まりは、むしろ、その諸民族が貧しさを知ることを学び、それによって貧しく〈存在〉しうるようになることのうちに存している。/貧しく〈ある〉ことにおいて、コミュニズムは回避されるのでも、迂回されるのでもなく、その本質へと乗り越えられてしまっているのである。このようにしてはじめて、我々は、真にコミュニズムを耐え抜くことができる。/道のりははるか遠い。……」(『貧しさ』24頁)。 この程度の短い引用ではハイデガーのテクストの全体像に代えることはとうていできませんが、ラクー=ラバルトの注釈やインタビューと併せ、濃密かつ緊張感のある一冊となっており、現代人が避けて通れない書物であると言えると思います。
by urag
| 2007-04-18 22:52
| 本のコンシェルジュ
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Comments(6)
![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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「全集未収録」と帯にありますが、『貧しさ』が収録予定の巻がいまだ刊行されていないだけの話ですし、また、清貧の思想や歴史の終わりを説いた書物ならばいざ知らず、「現代人が避けて通れない」とはいささか誇張も過ぎるのではないでしょうか。もちろん書物はいかようにも読まれますし、どう読もうと書物を手に取った人間の自由ですが、いたずらに喫緊性を煽って一哲学書のアクチュアリティを喧伝したりすることに、商業的なたくらみ以外のいったい何があるというのでしょう? 重要なのは、ハイデガーがヘルダーリンやマルクス、そしてルソーをいかに読み、あるいは読みそこない、そして、そのハイデガーをラクー=ラバルトがいかに読み、あるいは読みそこなうか、について考えることなのではないですか? これもまたひとつの読み、あるいは読みそこないでしかないわけですが。Tolle, lege!
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水埜さんこんにちは。コメントをありがとうございます。未収録というよりは正確には未刊行と言うのが正しいのでは、というのは確かにその通りですね。私はそこにツッコミを入れようとは思いませんでしたが。現代人が避けて通れないとは私は本当にそう思っていますよ。商業的なたくらみなどはありません。
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水埜さん、はじめまして。コメント興味深く拝読いたしました。Uragさん、ご無沙汰しております。
今回はサイトでのご紹介有難うございます。友人からサイトでとりあげていただいているとうかがい、遅まきながら訪問いたしました。 「現代人が避けて通れない」というUragさんの過分の御高評、単に(売り物としての)「書物」として「避けて通れない」かどうかのレベルでおっしゃられているのではないと確信しておりますが、そのように読んでしまうと、たしかに商業的云々に関する水埜さんの憤懣もごもっともではあるのでしょう。そのレベルは宙吊りにしたうえで、「貧しさ」という主題ないし論理について言えば、この主題を扱ったハイデガーのテクストが、それ自体ある種の「回避不可能性」を要求してくるのもまた事実なのではないでしょうか。 ![]()
今回翻訳した「貧しさ」は、ハイデガーの「必要」「窮境」(Not)をめぐる思考への導入であると同時に、単に、「必要」に〈ついて〉の考察なのではなく、「回避不可能性」そのものによって様態づけられた、いうなれば限りなく押し付けがましいテクスト、あるいは限りなく押し付けがましい状況そのものを押し付けてくるテクストになっているのではないかと思われるのです。この辺りが、Uragさんの指摘されている現代性とリンクしてくる部分かと私見しております。もちろん単に「現代性」というだけでは不十分ですし、またヘルダーリン/マルクス/ハイデガーのテクスチュアルな読解を要請するだけでも足りない、何か「過剰」なものを担保するのも、もちろん解釈ないし翻訳の営みなのですが。
ちなみに、ラクー=ラバルトは、ヘルダーリン/マルクス/ハイデガーという系譜に、今回同時に刊行された『歴史の詩学』で扱われているルソーも位置づけていて(『革命について』でアーレントが槍玉に挙げているのも、ルソー、マルクスといった「貧しさ」の思想家たちでした)、その意味で、同時刊行の二冊は、内容的にかなり重複しています。 ![]()
ルソーの被害妄想、ヘルダーリンの憤懣(怒り)、ハイデガーの押し付けがましさ、これらの主題を執拗に扱うラクー=ラバルトという思想家をトータルに堪能していただくためにも、できればもう少し廉価で二冊の訳書を提供できたらよかったなぁ、というのは、訳者としての率直なぼやきです。そういえばLignes 誌N°22 のラクー=ラバルト追悼号が出ましたね。『環』のラクー=ラバルト追討小特集でナンシー、バディウ、ドゥギーのものは訳されていますが、ほかにジュネット(!)なども稿を寄せていますね。
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