事件です。7月10日付の「
文化通信」に小さいながらも衝撃的な記事が載っていました。「明屋書店中野ブロードウェイ店、700万円被害、運送業者が返品を横流し」。一行記事は、「文化通信」のサイトの「
出版業界ヘッドライン」のバックナンバーで確認できます。
事件の詳細はこうです。
中野ブロードウェイの
3Fに入居している明屋(「はるや」と読みます)書店から取次の日販に返品されたはずの本が、出入りの運送業者によって無断で「大手新古書店の高田馬場店」へ売り飛ばされていたというのです。昨秋から今春までの半年間で、ダンボール100個分が返品の荷物の中からちょこちょこと間引きされて、日販には届かず新古書店に売られていた模様です。
運転手が白状したところの「大手新古書店の高田馬場店」というのは、有名なあそこしかありえないような気がするのですが、名前は伏せておきましょう。ダンボール一個につき数十冊は梱包されているでしょうから、数千冊規模の被害かと推測できます。おそらく平均単価が安いため、総額では700万円ということなのだと思います。新古書店に横流ししたとして、被害額の1割前後でしか売れなかったことでしょう。それでも数十万円に達していたかもしれません。
「文化通信」の記事によれば、明屋書店中野ブロードウェイ店は伝票レスでの返品が実施されており、日販の返品入帳額が少ないことに書店側が気づいて事件が発覚したとのことです。
伝票を起さずに返品できる「無伝返品」の盲点を突いた悪事と言えるでしょうか。取次は合理化のためにこの返品システムを推進しているわけですが、これではちっとも合理化にはなりません。いくらの値段のどの本を何冊返して総額何円の返品なのか、書店側で以前のようにきっちり押さえておかないと、取次が起算した通りの額を鵜呑みにして精算することになってしまうのではないでしょうか。お互いの信頼関係に基づいた上での伝票レスのはずなのに、返品システムの足元を揺るがすような事件が起きてしまいました。
この事件はすでに業界内のあちこちで話題になっていて、疑わしい「事故例」が他県の他取次帳合書店でも起きているということが界隈では語られています。ということは、ひょっとすると、こうした「間引き横流し」事件があちこちで起きているかもしれないという推測も可能でしょう。検品した結果、伝票と冊数が整合しないという例は、取次=版元間の返品でもたまに起きます。まさか返品だけでなく、新刊配本の際にも起きうることかもしれないと考えると恐いです。
ちなみに、
発売前の新刊がなぜか新古書店に並んでいるという事例を目撃された方もいます。これは業界的に言えばまず、発売前の見本段階で献本された関係者が早々にその本を売り飛ばしたという可能性が考えられます。不要な献本を整理するのは業界人にとってはやむをえないことなのかもしれませんが、もし発売前に売り飛ばす人がいるとしたら、それは実にマズいことです。
無伝返品は取次が返品処理システムに膨大な費用をかけて着実に進歩させていく中で可能になってきたもので、取次各社はこのシステムに大きな自負を持っているはずです。どこの運送業者が今回の事件に絡んでいるかは明らかにされていませんが、幾多の運送業者の中には取次のグループ内部の会社もあるわけですから、まずは関連会社における業務倫理および風紀の再確認が必要でしょう。場合によっては綱紀粛正が急務ともなりうるでしょう。