2006年 05月 21日
テクストとコンテクスト J・ハーバーマス著 佐藤嘉一+井上純一+赤井正二+出口剛司+斎藤真緒訳 晃洋書房 06年5月刊 2,940円 A5判232頁 ISBN:4-7710-1751-4 ●帯文を参照したと思しいbk1の内容紹介によれば、「『コミュニケーション行為の理論』(全3巻、未来社)から『事実性と妥当性』(未来社)への思想の深化と平行して行われた、ドイツの思想的モデルネ(ジンメル、ハイデガー)との格闘、そして訣別の軌跡」とのこと。bk1では収録論文情報を得ることもできます。議論の俎上に上っているのは、パース、フッサール、ハイデガー、ヴィトゲンシュタイン、ホルクハイマー、アルフレート・シュミット、ジンメル、ミッチャーリッヒなど。 法・権利・正義の哲学:『法の哲学』第五回講義録 1822/23年冬学期,ベルリン――K.W.L.ハイゼ手稿 E.シルバッハによる編集と序文 G・W・F・ヘーゲル著 尼寺義弘訳 晃洋書房 06年5月刊 2,205円 46判145+10頁 ISBN:4-7710-1739-5 ■版元紹介文より:法・権利・正義に基づく自由概念の展開。ヘーゲル研究・解説に不可欠の必読の書である。 ●ハイゼによる、ヘーゲル法哲学講義ノート。第1部「抽象法〔不法〕」、第2部「道徳〔故意と責務/意図と福祉/善と良心〕」、第3部「人倫態〔家族/市民社会/国家〕」。近代以前の人物でヘーゲルほど新訳が継続的に出版される哲学者はいないのではないかと思います。2000年以降の新訳は以下の通りで、これに旧訳の再刊を含めるともっと多くなります。 『イェーナ体系構想――精神哲学草稿1(1803-04年)・精神哲学草稿2(1805-06年) 』加藤尚武監訳/法政大学出版局/99年12月刊 『ヘーゲル批評集 II』海老沢善一訳編/梓出版社/00年3月刊 『法哲学講義』長谷川宏訳/作品社/00年4月刊 『精神現象学』牧野紀之訳/未知谷/01年9月刊 『宗教哲学講義』山崎純訳/創文社/01年11月刊 『自然法および国家学に関する講義:1817/18冬学期講義,ハイデルベルク 1818/19冬学期序説(付録),ベルリン――法学部学生P.ヴァンネンマン手稿』 尼寺義弘訳/晃洋書房/02年3月刊 『論理学――哲学の集大成・要綱 第一部』長谷川宏訳/作品社/02年4月刊 『ヘーゲル法哲学講義録 1819/20』ディーター・ヘンリッヒ編/中村浩爾+牧野広義+形野清貴+田中幸世訳/法律文化社/02年8月刊 『論理学(1832)――存在論 その1』西村左右光訳/ウインかもがわ/02年12月刊 『自然法および国家法:『法の哲学』第二回講義録 1818/19冬学期,ベルリン―― C.G.ホーマイヤー手稿』尼寺義弘訳/晃洋書房/03年3月刊 『論理科学――エンツュクロぺディー 第1篇』大北恭宏訳/文芸社/04年4月刊 『ヘーゲル「新プラトン主義哲学」註解――新版『哲学史講義』より 』山口誠一+伊藤功著/ 知泉書館/05年1月刊 『自然哲学――哲学の集大成・要綱 第二部』長谷川宏訳/作品社/05年2月刊 『ヘーゲル教授殿の講義による法の哲学 I: 『法の哲学』第五回講義録 1822/23冬学期,ベルリン――H.G.ホトー手稿』/尼寺義弘訳/晃洋書房/05年3月刊 『初期ヘーゲル哲学の軌跡――断片・講義・書評』寄川条路編訳/ナカニシヤ出版/06年1月刊 『精神哲学――哲学の集大成・要綱 第三部』長谷川宏訳/作品社/06年4月刊 こうしてみると『法哲学講義』と『エンツュクロペディー』の翻訳が多いことにあらためて気づかされます。西洋哲学史においてヘーゲルはその最高峰に位置しますが、登攀を果敢に目指す研究者は大学人か在野かを問わず、他の哲学者に比べてやはり多いのでしょうか。訳文や解釈をめぐる対立も折々に見られる気がします。 思索日記 II 1953-1973 ハンナ・アーレント著 ウルズラ・ルッツ+インゲボルク・ノルトマン編 青木隆嘉訳 法政大学出版局 06年5月刊 6300円 46判534頁 ISBN:4-588-00842-0 ■版元紹介文より:アーレントが思想的に最も多産な時期(50年代前半)から晩年の1973年まで、27冊のノートに書きつづけられた厖大な日記の完結篇。過去の概念や観念をそれぞれの構造から取り出し、現代の問題に移しかえて対話させる試みであるとともに、活動的生活と観想的生活を包括する独自の思考の所産を記録した稀有のドキュメント。「カント・ノート」および編者による詳細な解題と総索引を付す。全2巻完結。 ヴァルター・ベンヤミン T・W・アドルノ著 大久保健治訳 河出書房新社 06年5月刊 2,940円 46判249頁 ISBN:4-309-24380-0 ●新装復刊です。十年ぶりでしょうか。先のフーコー『知の考古学』もそうですが、名著古典の類を定期的に復刊してくださるのはとても有難いことです。ただ、そろそろフーコーもアドルノも河出文庫版で欲しいかなという気がしたりして。同社から刊行されていたアドルノの『三つのヘーゲル研究』はちくま学術文庫で再刊されています。同社のアドルノ本はこのほかに『美の理論』と『美の理論 補遺』がありましたが、いまやこの2点は古書市場でしか手に入らないですし、高額本です。2冊を合本して再刊、とか、そんなあたりを希望していところですね。 神国論の系譜 鍛代敏雄(1959-)著 法蔵館 06年5月刊 1,890円 46判201頁 ISBN:4-8318-7470-1 ■版元紹介文より:なぜ、天下人は「神」になったのか? 信長は生きて神体を宣言し、秀吉は豊国大明神、家康は日光東照大権現として祀られた。古代から近世初頭にいたる「神国」について記述された史料を探索し、神国論の政治思想史的な意義とその展開を明らかにした意欲作。 ある大学人の回想録――ヴィクトリア朝オクスフォードの内側 マーク・パティソン著 舟川一彦訳 上智大学出版=発行 ぎょうせい=発売 06年3月 2,200円 A5判284+5頁 ISBN:4-324-07846-7 ■版元紹介文より:十九世紀オクスフォードの改革を主導した名物大学人の回想録。当時の大学世界の内幕を赤裸々に暴くとともに、世俗化された近代的大学の創造に伴う産みの苦しみを描き、現代の大学を取り巻く諸問題のルーツを示唆する忘れられた名著。 一八世紀哲学者の楽園 カール・ベッカー著 小林章夫訳 上智大学出版=発行 ぎょうせい=発売 06年3月 1,500円 A5判163+4頁 ISBN:4-324-07845-9 ■版元紹介文より:20世紀初頭アメリカの進歩的歴史家、カール・ベッカーの代表作を初めて紹介。モダニズムの時代にふさわしい、啓蒙主義を通じての「中世との連続」を再考させる不朽の哲学書。18世紀を風靡した啓蒙主義を分析し、現代に位置付けした好著。 ●上記2点はいずれも「19世紀から20世紀後半までに出版された書物の中から、英米の優れた著作を日本で初めて紹介する」という趣旨のシリーズ「SUPモダン・クラシックス叢書」の第1回配本。オンライン書店で正確に出版社名が記されていない場合が複数あるためと、ウェブサイトが検索しにくいためか、存在感があやふやな「上智大学出版」。欧文表記ではSophia University Press (SUP)。1999年設立。SUPというと、研究者はたいていStanford University Pressのほうを思い浮かべると思うのですがまあそれはいいとして。ベッカーは同姓同名の著者がいるけれど、同一人物なのかどうかイマイチよくわからない。地味だけれども必ずチェックしておきたいシリーズです。 チェコ・アヴァンギャルド――ブックデザインにみる文芸運動小史 西野嘉章著 平凡社 06年5月刊 3,570円 A5判296頁 ISBN4-582-83332-2 ■版元紹介文より:1920年代、欧州の「へそ」プラハに生じたダイナミックな前衛芸術の交流を俯瞰し、「日常生活のアート化」という試みに、今に至るチェコ・カルチャーの魅力の源流を探る。カラー96頁。 ●装釘・造本は浅井潔さんと著者の共作。残念なことに本書の刊行前にお亡くなりになったとのことです。本文組が浅井さんの最後の仕事。本文紙は藁半紙のような風合いの軽いもの。前半は別の紙でカラー図版が満載です。チェコの本はいずれも斬新なデザインで、非常に刺激的です。 ●個人的には、西野さんと浅井さんのコンビで一番素晴らしいと思っている本は、『装釘考』(玄風舎=発行、青木書店=発売、2000年)です。本文紙にやはり藁半紙に似た風合いのものを使用していて、函入本ながら、酸化は免れません。本文は活版で全部旧字を使用。全体的な美しさにうっとりします。 アイスペインティング ice painting 原田雅嗣(1962-)作 秋葉忠利+木幡和枝=寄稿 工作舎 06年5月刊 3990円 A4判上製120頁 ISBN4-87502-393-6 ■版元紹介文より:氷の上に描かれた色彩が、刻々と生成・増殖・分化・変化をくり返す。フラクタルな形態、ミクロとマクロの相似、有機的形態と幾何学的形態の融合。それは色彩との氷上コラボレーション。パフォーミングアーティスト・原田雅嗣、初のヴィジュアル作品集。 ●非常にカラフルで綺麗です。なんとも言えず不思議な世界。モルフォロジー愛好者には興味深い成果です。 ◎注目の新書・文庫 『インカ皇統記』は、80年代半ばに岩波書店の「大航海時代叢書エクストラ・シリーズ」で刊行された全2巻の文庫化。『文法の原理』はかつて岩波書店では半田一郎訳で単行本が出ていました。今回の新訳は全3巻。岩波文庫では同著者の『言語――その本質・発達・起源』の上巻が三宅鴻による訳で81年に刊行されていましたが、下巻が未刊だったと思います。このまま出ないのか・・・。出ないとなると、上巻も重版はしないでしょう。となると古書の値段も高くなると思われます。[5月26日追記:『文法の原理』の訳者あとがきによれば、下巻は「近刊」だそうです。とすればその折に上巻も重版されるはず。本当に近刊かなあ。] 審判 / カフカ著 / 池内紀訳 / 白水社uブックス / 1,260円 / ISBN:4560071543 インカ皇統記 1 / インカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベーガ著 / 牛島信明訳 / 岩波文庫 / 798円 / ISBN:4003348915 文法の原理 上 / イェスペルセン / 安藤貞雄訳 / 岩波文庫 / 903円 / ISBN:4003365739 黄金虫・アッシャー家の崩壊 / ポオ作 / 八木敏雄訳 / 岩波文庫 / 798円 / ISBN:4-00-323063-9 『黄金虫・アッシャー家の崩壊』の収録作は以下の11篇。「メッツェンガーシュタイン」「ボン=ボン」「息の紛失」「『ブラックウッド』誌流の作品の書き方・ある苦境」「リジーア」「アッシャー家の崩壊」「群集の人」「赤死病の仮面」「陥穽と振子」「黄金虫」「アモンティラードの酒樽」。ちなみに、同文庫から既刊の中野好夫訳『黒猫・モルグ街の殺人事件』の収録作は全7編で、「黒猫」「ウィリアム・ウィルソン」「裏切る心臓」「天邪鬼」「モルグ街の殺人事件」「マリ・ロジェエの迷宮事件」「盗まれた手紙」。ラカンの講義の題材としても有名なのは最後の「盗まれた手紙」。同文庫ではこのほか、加島祥造編訳の対訳版『ポー詩集』が刊行されています。
by urag
| 2006-05-21 10:22
| 本のコンシェルジュ
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