佐藤真監督による長編ドキュメンタリー映画「エドワード・サイード OUT OF PLACE」(
シグロ、2005年)の試写会に行って参りました。サイードゆかりの土地をめぐり、多くの人々にインタビューした作品です。
肉親や知人、友人が語る思い出話やサイード評、そして随所に散りばめられたサイードの著書からの朗読がそれぞれ印象的です。この映画はしかしサイード追悼に終始するのではなく、イスラエル/パレスチナの現在を生きる人々の様々な横顔に迫ろうともしています。
2時間17分という長いドキュメンタリーですが、じっくりと色々なことを考えさせてくれる貴重な時間を提供しているように思います。幼いエドワードが家族と映っている8ミリフィルムが折々に引用され、この映画があたかもサイードその人の記憶の一部であるかのような印象です。バレンボイムが演奏する、サイードに捧げるシューベルトのピアノ曲が、この映画を情感豊かに締めくくります。
来たる4月29日(土)には九段会館にて完成記念上映会が開かれるそうです。サイード夫人のマリアムさんが来日し、サイードと往復書簡を交わした作家の大江健三郎さんによる講演も行われます。開場が14:30、上映が15:00からで、18:00からサイード夫人の挨拶に続いて大江さんが「《後期スタイル》という思想――サイードを全体的に読む」と題した講演を行います。前売券が3,500円、当日券は4,000円。前売券はぴあやコンビニで扱っています。
そして5月16日(火)からは
アテネ・フランセ文化センターでロードショー開始。同月27日まで公開されるそうです。
さらに、この映画のシナリオ全編と、佐藤監督の製作ノート、本編でカットされたインタビューを収録した書籍『エドワード・サイード OUT OF PLACE』が4月下旬に
みすず書房さんから刊行されます。46判256頁で税込2100円。
映画の翻訳監修を担当された
中野真紀子さんをはじめ、多くの人々の協力のもとにこれらが作られています。日本人にとっては、サイードの息子さんのワディーさん、娘のナジュラさんの姿に接するのは初めてでしょうし、サイードの良き理解者だったバレンボイムやチョムスキー、コロンビア大学の同僚のヴィスワナサンらの登場も耳目を惹きます。
ぜひこの映画の公開と新刊の発売に併せて、書店さんでもブックフェアを開かれてみてはいかがでしょうか。なおみすず書房さんでは上記近刊のほかに、『故国喪失についての省察(1)』(大橋洋一訳、ISBN:4622072033)の刊行が予定されており、
紀伊國屋書店BOOKWEBでは予約が可能ですが、発売が遅れているようです。