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2005年 11月 20日
![]() ルートヴィッヒ・ウィトゲンシュタイン著 イルゼ・ゾマヴィラ編 鬼界彰夫訳 講談社 05年11月 本体2,000円 A5判323頁 ISBN4-06-212957-4 ■帯文より:真の信仰を希求する魂の記録! 死後42年たって新発見された幻の日記。『論考』から『探究』へ――大哲学者が書き残した、自らの思考の大転換、宗教的体験、そして苛烈な内面の劇! "隠された意味" は何か!? ■原書:"Denkbewegungen: Tagebucher 1930-1932, 1936-1937", edited by Ilse Somavilla, Haymon Verlag, 1997. ■目次より: はじめに(訳者) 編者序 編集ノート 謝辞 凡例 第一部 一九三〇-一九三一 第二部 一九三六-一九三七 コメンタール(編者) コメンタールで使用された参考文献と略号 人名索引 訳者解説「隠された意味へ――ウィトゲンシュタイン『哲学宗教日記』(MS183) 訳者あとがき ●発見された「日記」はもともとは、ウィトゲンシュタインの姉であるマルガレーテ・ストロンボーが所有していたもので、ウィトゲンシュタインの死後、彼の親友であるコーダー夫妻にゆだねられ、現在はコーダー夫妻の子息と息女が所有しているのだそうです。 ●訳者の鬼界さんと言えば、近年見ないほど分厚い新書『ウィトゲンシュタインはこう考えた』(講談社現代新書、2003年)を刊行された研究者の方です。新書執筆中から読み始めていた日記にほれ込んで、今回の出版と相成ったそうです。 ●講談社でなければA5判上製本で300頁以上ある学術書をたったの2000円では刊行できないでしょう。見事なブックデザインは古平正義さんによるもの。ジャケ買いもありでしょう。 ●ウィトゲンシュタイン(1889-1951)の赤裸々な肉声が読み取れます。プライドの高さを自覚しながらも、「私の頭脳は本当に鈍くしか動かない。残念だ」(1937年4月2日)等とたびたびぼやいています。 ●彼は師匠であるラッセルのもとを訪れては野獣のように部屋をぐるぐる回ってああでもないこうでもないと深刻になったり、授業でも何かを教えるというよりは「自分の思索の現場」をそのまま授業にしていたそうですし、全然頭が働かないときは自分のことを馬鹿げていると罵ってしばし授業中に沈黙することもあった、とどこかで読んだ気がします。彼はひとつひとつののことでとことん悩み、とことん考え抜いたからこそ、骨太な思想を残したのではないかと思えます。 ●この日記では、人間関係についても率直に語っています。彼は同性愛者だったであろうことが知られていますが、年下の女性への恋心を告白してもいます。 ●また、早世した天才肌の哲学者ラムジー(1903-1930)については音楽の趣味で話が合うこともあるが、好きになれない人物だと書いています。「私は何かがはっきりするまで異常なほど長い時間がかかる」(1930年5月1日)と告白するウィトゲンシュタインにとって、年若いラムジーの徹底的に明敏な知性は冷淡なものとして映ったようです。 ●彼がラムジー(訳書に『ラムジー哲学論文集』勁草書房がある)と出会ったのは、親友の経済学者ケインズの自宅だったそうです。ケインズと言えば、今月、中公クラシックスの新刊で『貨幣改革論・若き日の信条』が刊行されました。『世界の名著』の焼き直しですが、今後もどんどん再刊してほしいものです。 ●ウィトゲンシュタインは経済学者と相性がよかったのでしょうか。ケインズだけでなく、彼はピエロ・スラッファともつきあいがありました。スラッファ(1898-1983)はリカードウ全集の編者であり、グラムシの親友で、ケインズの招きでケンブリッジ大学トリニティ・カレッジにおいて教鞭を執った人物です。ラムジーとも親交があり、『商品による商品の生産』(有斐閣、1962年)の序文には彼への謝辞を認めることができます。同書と『経済学における古典と近代』(有斐閣、1956年)はどちらもオンデマンド版が現在も購入可能です。 エーテル界へのキリストの出現 ルドルフ・シュタイナー著 西川隆範訳 アルテ(発行) 星雲社(発売) 05年10月 本体2,000円 46判190頁 ISBN4-434-06973-X ■帯文より:人類は再びキリストを体験できるか? 秘められたキリスト再臨の真相をシュタイナーが解き明かす! 【講説】 理趣経―― 『理趣釈』併録 宮坂宥勝著 四季社 05年10月 本体6,800円 A5判305頁 ISBN4-88405-345-1 ■帯文より:宮坂猊下、渾身の講伝。現場で使われる原典を収録。事相、教相両面にまたがる教法を講伝という。『理趣経』は古来唯授一人の秘法とされ、講伝部における教法で伝えられる。 ●真言宗で用いられる密教経典のひとつである『理趣経』は、男女の愛の営みが清らかなものであることを説いた教典として認知されている節があるようで、それがかの「立川流」の教えと実践と結びついているわけですが、別に単なる快楽賛美の書ではありません。内面の境地を説いているわけなので、良からぬ動機で本書を購入しても肩透かしを食らうだけです。 ●同著者が注釈および現代語訳を手がけた『仏教経典選(8)密教経典』(筑摩書房、1986年)では、「理趣経」および「理趣釈」のほかに「大日経住心品」と「大日経疏(抄録)」が収録されていましたが、長らく入手困難な状態が続いているだけに、本書の刊行は待望されていたものと思われます。ちなみに筑摩書房の『仏教経典選』は全14巻が予告されていましたが、6点が刊行されたのみで途絶。再編集して文庫化したらいいのにと思います。 ルバイヤート――中世ペルシアで生まれた四行詩集 オマル・ハイヤーム著 エドワード・フィッツジェラルド英訳 竹友藻風訳 ロナルド・バルフォア絵 マール社 05年11月 本体1,800円 A5判127頁 ISBN4-8373-0430-3 ●中世ペルシア文学の至宝を作家のフィッツジェラルド(1809-1883)が訳し、それを上田敏の弟子筋の高名な英文学者であり詩人である竹友藻風(竹友乕雄:1891-1954)が日本語訳したもの。挿絵を寄せているバルフォアも、有名なイラストレーター。古い訳ですが、十分味わえます。原典に忠実な翻訳を求めている方は他書を当たるといいでしょう。 自然の占有――ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化 ポーラ・フィンドレン著 伊藤博明+石井朗訳 ありな書房 05年11月 本体8,800円 A5判782頁 ISBN4-7566-0588-5 ■帯文より:アリストテレスの動物誌を権威/規範とし、プリニウスの博物誌を精読/校訂し、ガレノス/ディオスコリデスの薬学理論を実験/検証する、ルネサンスの収集家アルドロヴァンディからバロックの発明/創出家キルヒャーに至る、イタリアを中心部隊に勃興しつつあった初期近代の西欧科学文化の壮大なるパラダイムを、蒐集と博物学とミュージアム形成を通して追う! ■目次より: 謝辞 プロローグ 第1部 ミュージアムの位置づけ 第1章 「閉ざされた小部屋の中の驚異の世界」 第2部 自然の実験室 第3部 交換の経済学 エピローグ 古いものと新しいもの 原註 文献一覧 解説『自然の占有』の位置づけ 人名/著作名索引 観察者の系譜――視覚空間の変容とモダニティ ジョナサン・クレーリー著 遠藤知巳訳 以文社 05年11月 本体3,200円 46判309頁 ISBN4-7531-0245-9 ■帯文より:〈視覚の近代〉の成立に決定的な役割を果たした〈観察者〉の誕生。身体は、どのように社会的、リビドー的、テクノロジー敵な装置の一要素に組み込まれようとしているのか? 視覚文化の根本に迫る記念碑的名著 ●金沢市の出版社で今はなき「十月社」から本書が刊行されたのは97年11月のこと。このたびめでたく再刊されました。先日久しぶりの訳書『知覚の宙吊り』も平凡社から刊行されたばかりです。十月社の高他毅さんはいまどうされているのでしょうか。当時私は作品社営業部にいて、お手紙のやりとりをさせていただいたことがありました・・・。 ニュルンベルク・インタビュー(上・下) レオン・ゴールデンソーン(1911-)著 ロバート・ジェラトリー編/序文 小林等+高橋早苗+浅岡政子訳 河出書房新社 05年11月 本体各2,400円 46判上380頁/下368頁 ISBN4-309-22440-7/4-309-22441-5 ■版元紹介文より:ナチスの戦犯を裁いたニュルンベルク裁判から六十年。十二名が絞首刑になったこの裁判中に、アメリカの精神科医が三十三名に及ぶナチス幹部の被告や証人に個別インタビューをしていた。初めて明かされる衝撃の声に潜むもの。 ユーゴ内戦後の女たち――その闘いと学び ドラガナ・ポポヴィッチ+ダニサ・マルコヴィッチ著 北嶋貴美子著 柘植書房新社 05年11月 本体2,000円 46判231頁 ISBN4-8068-0523-8 ●ベオグラード大学の獣医学の教員を勤める傍ら、フェミニスト活動家であり、作家でもある著者たちによる論文集で、セルビアの教育とジェンダーをめぐる諸問題を扱っているようです。版元のウェブサイトがなかなか更新されないようでもったいないことです。 チョムスキー、民意と人権を語る ノーム・チョムスキー著 岡崎玲子=聞き手 鈴木主税=論文翻訳 集英社新書(集英社) 05年11月 本体680円 新書判183頁 ISBN4-08-720319-0 ●「レイコ突撃インタビュー」と銘打たれたオリジナル・インタビュー本です。チョムスキーの論考「アメリカによる力の支配」を併録しています。レイコさんというのは、2001年に若干16歳で新書デビューを飾った女性(1985年生まれ)で、『レイコ@チョート校』や『9・11ジェネレーション』(いずれも集英社新書)をすでに刊行しています。 以上です。(H)
by urag
| 2005-11-20 21:10
| 本のコンシェルジュ
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Comments(2)
>授業でも何かを教えるというよりは「自分の思索の現場」をそのまま授業にしていたそうですし、全然頭が働かないときは自分のことを馬鹿げていると罵ってしばし授業中に沈黙することもあった、とどこかで読んだ気がします。
との部分、ノーマン・マルコム『ウィトゲンシュタイン 天才哲学者の思い出』(平凡社ライブラリー)じゃないでしょうか。というのも、ぼくも同様の内容を読んだ記憶があり、正直ぼくが読んだウィトゲンシュタイン関連の本といえば、恥ずかしながらこれ一冊だけなので。 日記好きなので、読んでみようと思います。
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uchinumaさんこんにちは。コメントありがとうございます。中公クラシックスの『論理哲学論』に付された野家啓一さんの解説「二十世紀の天才哲学者」でも同様の記述があって、ウィトゲンシュタインの弟子であるマルコムの回想録などを参照したものと思われます。ウィトゲンシュタインの内面的「激しさ」には人を惹き付ける何かがありますよね。
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