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2026年 07月 06日

注目新刊:ちくま学芸文庫7月新刊、ほか

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★まず、まもなく発売となるちくま学芸文庫の7月新刊6点を列記します。

昭和十年代の陸軍と政治――軍部大臣現役武官制の虚像と実像』筒井清忠(著)、ちくま学芸文庫、2026年7月、本体1,600円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-51392-2
10万年の世界経済史』グレゴリー・クラーク(著)、久保恵美子(訳)、ちくま学芸文庫、2026年7月、本体2,100円、文庫判640頁、ISBN978-4-480-51387-8
『観無量寿経』講義』阿満利麿(著)、ちくま学芸文庫、本体1,400円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-51386-1
世界論』ルネ・デカルト(著)、山田弘明(訳)、ちくま学芸文庫、2026年7月、本体1,400円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51385-4
『ボヴァリー夫人』論〔増補決定版〕(上)』蓮實重彦(著)、ちくま学芸文庫、2026年7月、本体1,900円、文庫判624頁、ISBN978-4-480-51376-2
『ボヴァリー夫人』論〔増補決定版〕(下)』蓮實重彦(著)、ちくま学芸文庫、2026年7月、本体1,900円、文庫判624頁、ISBN978-4-480-51377-9

★『昭和十年代の陸軍と政治』は、2007年に岩波文庫から上梓された、歴史社会学者の筒井清忠(つつい・きよただ, 1948-)さんの単著の文庫化。帯文に曰く「陸軍の暴走は軍部大臣現役武官制によるのか? 昭和史の定説を覆す画期的研究」。「昭和十年代の陸軍と政治の関係について初めて本格的研究を行ったのが本書である。/現代、日本の政治と軍事を巡る状況は以前に比べさらに厳しい状況となっており、そうであればこそ戦前の日本の陸軍と政治の関係がどのようなものであったのかをよく知る必要は一層高まっているといえよう。その意味では本書の存在意義はますます高くなってきたと思われる」(ちくま学芸文庫版へのあとがき)。

★『10万年の世界経済史』は、2009年に日経BP社から上下巻で刊行されたものの合本文庫化。英国生まれの計量経済史家グレゴリー・クラーク(Gregory Clark, 1957-)の著書『A Farewell to Alms:A Brief Economic History of the World』(Princeton University Press, 2007)の訳書。カバー表4紹介文に曰く「世界経済史を包括的な視座のもとに一望し、多様な統計データを駆使することで、産業革命をもたらした真の要因を浮き彫りにしていく。経済発展とその不均衡を作り出す根本原理に迫る壮大な試み」。巻末解説は、小野塚知二さんが寄せておられます。

★『『観無量寿経』講義』は、明治学院大学名誉教授の阿満利麿(あま・としまろ, 1939-)さんによる、文庫オリジナルの書き下ろし。版元紹介文に曰く「「凡夫」のための教え。浄土教の根本経典として、日本仏教に絶大な影響を与えた『観無量寿経』。平易な現代語訳とわかりやすい解説で明快な読み方を示した決定版入門書」。「『観無量寿経』の魅力」「『観無量寿経』を読む」「法然と『観無量寿経』」「座談会 『観無量寿経』を語る」の4章立て。座談会には「連続無窮の会」同人の4氏が参加されています。

★「ある夜、法然上人は夢をご覧になった。〔…紫雲〕の中から、黒い衣を着た僧侶が一人現れ〔…〕この僧を仰ぎ見ると、上半身は普通の僧の姿だが、下半身は金色で、仏のようであった。〔…僧は上人にこう答えた〕あなたが専修念仏を広めていることが尊いから来たのだ、と。そこでまた問うた、専修念仏の人はみな浄土に往生しておられますか、と。そして、その答えを得ない内に、突如として、夢から覚めた」(「法然上人御夢想記」意訳より、266~267頁)。

★『世界論』は、ルネ・デカルトが1633年にほぼ完成させたは「同年のガリレイ事件のために直前で出版が取りやめとなった」(訳者まえがき)という著書『世界論あるいは光論』の文庫オリジナルの新訳。底本はアダン/タヌリ版『デカルト全集(11)』1996年。「最近の英仏の新研究と既存の邦訳を参照し、裨益されるところ大であった」(同)とのことです。帯文に曰く「註解・資料・解説を完備した新訳。デカルト哲学の起点となった思索の全貌」。付録として『世界論』と密接に関連する5つのテクストが収録されています。「『屈折光学』第二講「屈折について」」「『方法序説』第五部(部分)」「メルセンヌ宛等書簡」「『哲学原理』(概要)」「バイエ『デカルト氏の生涯』(部分)」。文庫版で読める『世界論』(『宇宙論』とも訳されたことがあります)は、本書が初めてです。  

★『『ボヴァリー夫人』論〔増補決定版〕』上下巻は、蓮實重彦(はすみ・しげひこ, 1936-)さんが2014年に筑摩書房から上梓した大著の文庫化。巻末特記によれば「文庫化にあたっては明らかな誤りを適宜正した」ほか、「下巻に論考を一篇加えた」とのこと。加わった一篇というのは補考「散文は生まれたばかりのものである――『ボヴァリー夫人』のテクストに挿入された「余白」についての考察」(下巻523~551頁)で、2023年3月に行われた国際シンポジウム「ロマン主義と第二帝政期の文学」におけるフランス語での発表を日本語に翻訳したもので、初出は『群像』誌2024年3月号です。本書が参照している山田ジャク訳『ボヴァリー夫人』(河出文庫、2009年)に蓮實さんが寄せた解説と今回の補考は同じ題名ですが、「何の関係もない」とのことです。

★「『ボヴァリー夫人』のテクストを批判的かつ分析的に記述し、そこに浮上する予期せぬ齟齬や照応を指摘し、その差異と類似とを意義深く共鳴させようとするテクストがこの書物だといってもよい。それが「テクストをめぐるテクスト」だという意味でなら、メタ=テクスト的ともいえる「批評的なエッセイ」が読まれようとしているのだといいかえてもよい」(序章「読むことの始まりにむけて」13頁)。「十二年前の著者が、まるで赤の他人のように感じられた瞬間がしばしばあった〔…〕おそらく、十二年前の著者もまた、書くことで、自分とは異なる何かへと変貌し尽くしていたからなのかもしれない」(文庫版あとがき、571頁)。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

ディドロ、驚くべき饒舌』ジャン・スタロバンスキー(著)、井田尚(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2026年6月、本体5,400円、四六判上製508頁、ISBN978-4-588-01203-7
芸術の発見――AI時代の生きる条件』岡﨑乾二郎(著)、2026年6月、本体2,600円、A5判並製216頁、ISBN978-4-8459-2533-9
クシシュトフ・ヴォディチコ――アンビヴァレントな記憶装置』瀧健太郎(著)、共和国、2026年7月、本体5,000円、A5変形判上製320頁、ISBN978-4-911729-00-7
刑務所の文章教室』大塚敦子(著)、紀伊國屋書店、2026年7月、本体2,000円、46判並製256頁、ISBN978-4-314-01216-4
最期の後藤新平――「国難」にどう立ち向かうか』後藤新平(著)、楠木賢道/伏見岳人(編・解説)、藤原書店、2026年6月、本体2,700円、B6変型判上製272頁、ISBN978-4-86578-500-5
ブローデル『地中海』入門〈新版〉』浜名優美(著)、藤原書店、2026年6月、本体2,800円、四六判並製320頁、ISBN978-4-86578-501-2
文藝 2026年秋季号』河出書房新社、2026年7月、本体1,400円、A5判並製520頁、雑誌07821-08

★『ディドロ、驚くべき饒舌』は、スイス生まれの批評家ジャン・スタロバンスキー(Jean Starobinski, 1920-2019)のディドロ論をまとめた『Diderot, un diable de ramage』(Gallimard, 2012)の訳書。「言葉の仕掛け」「『ラモーの甥』」「『ダランベールの夢』」「『運命論者ジャック』」「絵画」の5部構成。「ディドロの哲学的想像力は、鳥風琴と鳥のさえずりから、音の領域を離れることなく、考え得る空間全体の限界にまで達するのである。まるで、広大な世界の認識が視覚ではなく、むしろ聴覚の能力だけのものであるかのように!/ディドロは、自分が人間関係の中で耳に響くもの――音や騒音、どよめきやざわめき――にきわめて強く注意を引かれる理由となる様々な動機の理論を述べるのを怠らなかった」(序「おしゃべりと叫び声」13頁)。

★法政大学出版局さんの叢書・ウニベルシタスでのスタロバンスキーの既訳書を列記します。ディドロ論には本書のほかに『絵画を見るディドロ』があります。『フランス革命と芸術』『病のうちなる治療薬』は品切。

1989年08月『フランス革命と芸術―― 一七八九年理性の標章』井上尭裕訳
1993年09月『モンテスキュー ――その生涯と思想』古賀英三郎/高橋誠訳
1993年12月『病のうちなる治療薬――啓蒙の時代の人為に対する批判と正当化』小池健男/ 川那部保明訳
1995年06月『絵画を見るディドロ』小西嘉幸訳
2004年09月『作用と反作用――ある概念の生涯と冒険』井田尚訳
2019年12月『告発と誘惑――ジャン=ジャック・ルソー論』浜名優美/井上櫻子訳
2026年06月『ディドロ、驚くべき饒舌』井田尚訳

★『芸術の発見』は、造形作家で批評家の岡﨑乾二郎(おかざき・けんじろう, 1955-)さんによる書き下ろし。帯文に曰く「いま発見される芸術、古代の問答術、よく生きることの意味。AI終末論に対峙する希望の書。AIにつまずき、AIをつまずかせる──緊迫の応答」。「プロローグ」の立ち読みが可能です。また、刊行記念イベントとして、岡﨑さんと斎藤環さんによる「対話についての対話」が、代官山蔦屋書店3号館2階イベントスペースにて7月9日(木)19時から行われます。オンラインでも視聴可能とのことです。版元さんの告知によれば、岡﨑さんの編著書『芸術の設計──見る/作ることのアプリケーション』の増補改訂版が2026年秋に発売予定とのことです。

★『クシシュトフ・ヴォディチコ』は、東海大学准教授の瀧健太郎(たき・けんたろう, 1973-)さんによる2019年の博士論文「記憶のヴィークルとしてのアート・プロジェクト――クシシュトフ・ヴォディチコのアート戦略」をもとに、「大幅な改稿を施し、ヴォディチコの実践から理論を、また理論から将来の実践を誘発する読み物として、現代アートの戦略を解釈する目的で編まれた」(あとがき)とのこと。帯文に曰く「建造物や彫像にイメージを投影し、都市空間を変容させる〈パブリック・プロジェクション〉の創始者、クシシュトフ・ヴォデイチコ。一貫して政治や社会とアートの境界を揺さぶり、〈公共性〉から〈生存〉へ変転する異能のアーティストの全体像に肉薄する」。

★『刑務所の文章教室』は、刑務所での教育プログラムに長年たずさわってきたノンフィクション作家の大塚敦子(おおつか・あつこ, 1960-)さんが紀伊國屋書店のPR誌『scripta』に寄稿していた同名の連載を大幅加筆修正し、さらに書き下ろしを加えて1冊としたもの。帯文に曰く「窃盗、特殊詐欺、覚醒剤、殺人……受刑者たちは、どのような文章を紡ぎ、どのように変わっていったのか」。ブレイディみかこさんが推薦文を寄せています。曰く「人は言葉によって自らを知り、他者を知り、自分を外に出せるようになる。この教室で学びたくなる人はたくさんいるのではないか」。巻末には読者向けにまとめたという「一人でできる文章創作エクササイズ」も付されています。

★『最期の後藤新平』は、編集部による巻頭の「はしがき」によれば「1929年の最後の4か月間に発表された「挙国一致して国難を救え――昭和4年新年所感」(1929年1月、現代語訳・解説=楠木賢道)、「内政に関わる三提言――電力・生命保険・酒類の国有化についての「覚書」」(1929年1月16日、現代語訳・解説=楠木賢道)、「経済的国難来る――アメリカ資本の極東猛進に対して、いかなる対策があるのか」(1929年3月1日、現代語訳・解説=伏見岳人)、「市会議員選挙に付き東京市民に告ぐ――最後のラジオ演説」(1929年3月14日、解説=伏見岳人)の4篇を収録し、1920年代の後藤が繰り返し発信してきた「国難」というキーワードを手がかりに、最晩年の後藤の世界認識と、内政・外交の両面にたいする提言の核心に迫ることを試みた。さらに、それらの根底をなす、後藤の最も重要な思想が如実に語られた、「自治三訣 処世の心得」(1925年)を巻末に収録した」と。

★『ブローデル『地中海』入門〈新版〉』は、2000年に刊行された浜名優美(はまな・まさみ, 1947-2020)さんによる入門書の再刊。巻末には新たに、リュシアン・フェーヴルの書評「のびゆく本――『地中海』」が浜田道夫さんの訳で収録されています。フェーヴル曰く「〔1100ページの大冊『フェリーペ二世時代の地中海と地中海世界』を〕どこでもかわまない、どの章でもかまわないから、本書を開く。10行、20行あるいは30行を読んでみる。たちまちにしてその文章のもつ品位に心を打たれる。含蓄のある文体の個性的な力強さに心を打たれるのである」(256頁)。

★『文藝 2026年秋季号』は、第一特集が「失踪・家出・エスケープ」で短篇3本、短歌10首、エッセイおよび論考が7本に、ブックガイド「作家・書評家7人による人生を揺さぶる「失踪」文学3選」で構成。特集扉の口上に曰く「「いなくなること」をめぐる解放と喪失をさまざまな角度から見つめ、寄る辺ない生の持つ危ういエネルギーに光を当てる。そしてその先に、私たちをいまこの場所につなぎとめているものの輪郭を探ってみたい」。第二特集は「AIは中原昌也を拡張できるか」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

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by urag | 2026-07-06 03:12 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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