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2025年 10月 20日

注目新刊:サッカー『この惑星の塵のなかで』、ALT236『リミナルスペース』、ほか

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★注目の新刊および既刊を列記します。

この惑星の塵のなかで――哲学のホラー』ユージーン・サッカー(著)、浅沼光樹(訳)、青土社、2025年10月、本体3,000円、ISBN978-4-7917-7739-6
リミナルスペース――新しい恐怖の美学』ALT236(著)、佐野ゆか(訳)、フィルムアート社、2025年9月、本体3,400円、B5変形判並製192頁、ISBN978-4-8459-2400-4
詳解 ラカン『サントーム』――ジョイス・結び目・精神病』原和之/荒谷大輔/福田大輔/今関裕太(著)、福村出版、2025年9月、本体7,000円、A5判上製448頁、ISBN978-4-571-24132-1

★『この惑星の塵のなかで』は、米国の作家で哲学者、ニュースクール大学教授のユージーン・サッカー(タッカーとも;Eugene Thacker)の著書『In the Dust of This Planet. Horror of Philosophy, vol. 1』(Zero Books, 2011)の全訳。サッカーの著書ではこれまでに論考の翻訳がありましたが、書籍の全訳は初めてです。帯文に曰く「本書は、私たちが思考の彼方へと逃れ去る世界を思考するための手段として、ホラーというジャンルに目を向ける。ブラックメタルからラヴクラフト、さらには伊藤潤二の漫画まで——さまざまな作品を媒体としながら謎めいた奇才によって提唱される、独自の宇宙的悲観主義」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。本書は「哲学のホラー」3部作の第1作で第2作が『Starry Speculative Corpse』、第3作が『Tentacles Longer Than Night』、ともにZero Booksから2015年4月に刊行されています。

★「「思考不可能な世界」という主題を通して哲学とホラーの関係を探るのが本書の目的である。具体的には、哲学と超自然的ホラーというジャンルとの関係を探究しようと思っている。ただしここでの哲学は、、隣接する多くの分野(魔学、オカルト主義、神秘主義)と重なり合うものであり、また超自然的ホラーというジャンルは、小説、映画、マンガ、音楽、その他のメディアをまたいで現れるものである。〔…〕私が言わんとしているのは〔…ホラーの哲学ではなく〕哲学のホラーなのである。〈哲学のホラー〉とは、哲学の限界と制限があらわになる瞬間を、つまり思考がみずからの可能性の地平に謎めいた仕方で直面する瞬間を取り押さえることである。こうすれば思考不可能なものが思考される」(序章「不可知の雲」8頁)。

★「アグリッパにとって人類は世界の知識を獲得できるだけでなく、オカルト的実践によって「万物の造り主」との高次の「合一」に至ることもできる。しかし宗教と科学の覇権のいずれかを盲信し、両者のあいだをまるで精神分裂病のように揺れ動くしかない時代――それが現代であるなら、残されているのは〈世界が隠されていること〉しかない。つまり、これを拠り所にして人間的なものに対して全面的に無人格的「抵抗」を繰り広げるしかないのである。〔…〕伝統的なオカルト哲学の歴史的起源はルネサンスの人文主義〔ヒューマニズム〕にある。これに対して新しい〔現代の〕オカルト哲学は反人間主義的〔アンチヒューマニスト〕である。なぜならそれは、人間でないものを思想の限界としてあらわにすることを方法としているからである」(第二章「オカルト哲学に関する六つの読書」79~80頁)。




★『リミナルスペース』は、フランスの映像作家でユーチューバーのALT236(Quentin Boëton, 1980-)の著書『Liminal : les nouveaux espaces de l'angoisse』(Gallimard, 2023)の訳書。帯文に曰く「人の気配のない地下鉄の通路や駅のコンコース、空港のターミナル、寂れたショッピングモール、夜の遊園地……。日常で目にする光景の中に、不穏さ、そして抗いがたい魅力を見出す「リミナルスペース」は、インターネットを中心に爆発的に広がった、2020年代を代表する美学的ミームである。不確かで、奇妙で、人工的で、憂鬱で、懐かしい。新しい「恐怖の美学」の誕生の過程とその影響を体系的に掘り下げる、リミナルスペース解体新書」。主に前世紀から現在に至るまでの建築、絵画、写真、映画、ゲーム、音楽、廃墟、仮想空間、ホラー動画、都市伝説など、豊富な歴史的事例に言及し、多数のカラー図版とともに、リミナルなものの美学を探索しています。版元さんの特設サイトはこちら

★序文にはこう書かれています。「恐怖は人類と同時に誕生した。ずっと陰に隠れて決して適応をやめず、人類と共に進化してきた。〔…〕本書で扱われるホラーは、これまでのホラーとは正反対で、過剰な演出よりも空虚さを好み、露骨な演技よりも示唆を選び、他の何よりも謎を促す。「リミナルスペース」は、昨日今日始まったものではなく、徐々にきわめて革新的で現代的な新大陸になっていった。美学的な物語の分野を切り拓き、今では当初の定義を超えて、意図的に不安を誘うビジョンという、より大きな分野へと開かれている」(9頁)。

★巻頭には、ボルヘスやラヴクラフトを引用したエピグラフよりも先に「本書を読む際のBGMに最適なアルバムリスト」が掲出されていて、本書の内容にマッチした好印象を抱かせます。The CaretakerやAtrium Carceri、Aphex Twinsなど、お好きな方にはアルバム名がすぐに思い浮かぶであろう選曲です。ここには、読者によっては数少なくないリストが加わるかもしれません。たとえば、細野晴臣さんのカセットブック『花に水』(冬樹社、1984年;ビクターエンタテインメント、2020年)や、Braian Eno『Ambient 1: Music for Airports』(1979)等々、歴史を遡りたくなるでしょう。

★刊行記念として「偏在するリミナルスペース」という限定冊子が附属しています(初版限定かもしれません)。大森時生、梨、Chilla'S Art、星野太をはじめとする各氏のコメントや、美学がご専門の銭清弘さんの論考「リミナルスペースのなにが(私にとって)ノスタルジックなのか」や、フィルムアート社編集部によるブックガイド「リミナルスペースの想像力はどこから来てどこへゆくのか?」が掲載されています。銭さんの結語、「読者の皆さんにもぜひ、豊富な図版を眺めながらリミナルスペースなものをいろいろと連想してみてほしい。現実に戻ってこれる範囲で」という言葉が象徴的です。この場合、現実とはあるいは仮想現実のその先にある、映画『アヴァロン』が描くところのクラスSAとも言えるでしょうか。

★『詳解 ラカン『サントーム』』は、「フランスの精神分析家ジャック・ラカンが1975/76年度に行ったセミネール『サントーム』の解説」(はじめに、ix頁)。ラカンの講義録(セミネール)は順次、岩波書店から翻訳が刊行されていますが、『サントーム』すなわち講義録第23巻『Le Sinthome』(Seuil, 2005)はまだ日本語訳は出ていません。ラカンのセミネールは『エクリ』に比べれば理解しやすいかもしれませんが、それでも難解であることには変わりなく、そのためか本書のような解説書が日本でも生まれています。それが佐々木孝次さんの連作、『ラカン『アンコール』解説』(せりか書房、2013年)、『ラカン「レトゥルディ」読解――《大意》と《評釈》』(せりか書房、2015年)、『ラカン「リチュラテール」論――大意・評注・本論』(せりか書房、2017年)、そして、荒谷大輔、小長野航太、桑田光平、池松辰男の各氏による『ラカン『精神分析の四基本概念』解説』(せりか書房、2018年)です。

★「〔『サントーム』において〕ラカンはジョイスの作品やジョイス本人の伝記的事実を参照しつつ、そこにさまざまな仕方である種の「父性欠如」が指摘できることを確認したうえで、そこから生じえたはずの病理的な帰結が回避されるにあたり、ジョイスの文学的創造のはたしたであろう役割を強調する。ジョイスが各ものの中には、若いころの多少なりとも侵入的な経験を記した『エピファニー集』、『若き日の芸術家の肖像』で語られている一種の体感幻覚、また言語新作的な混乱と踵を接した『フィネガンズ・ウェイク』での言語実験など、精神病的なものへの接近とも見える契機を認めることができるが、にもかかわらずジョイスが狂気に陥ることがなかったとするなら、それは一体なぜなのか。ラカンはこの問いに対して、ジョイスが文学的エクリチュールをとおして〈父-の-名〉の別の仕方での利用をなしえたとするテーゼを掲げ、これをセミネールの議論を通じて示そうとすることになるだろう」(はじめに、x~xi頁)。

★第9講の質疑応答における印象的なやりとりを抜き出しておきます。おそらく質問者は日本人で、ラカンの講義からどのような印象を受け取ったのかはさだかではありませんが、印象的なくだりではあります。「次の質問はどうやら日本語で書かれていたようだが、翻訳してもらった「あなたは無政府主義者なのでしょうか」という問いにラカンは「ぜんぜん違います」とのみ答えている」(268頁)。

★最近出会いのあった新刊を列記します。

両インド史 西インド篇/中巻』ギヨーム=トマ・レーナル(著)、大津真作(訳)、法政大学出版局、2025年10月、本体24,000円、A5判上製貼箱入982頁、ISBN978-4-588-15059-3
絶対的内在とアナーキー ――ジョルジョ・アガンベンの政治哲学』長島皓平(著)、法政大学出版局、2025年10月、本体5,200円、A5判上製398頁、ISBN978-4-588-15144-6
宮沢賢治きのこ文学集成』宮沢賢治(著)、飯沢耕太郎(編)、作品社、2025年10月、本体2,700円、46判並製256頁、ISBN978-4-86793-117-2
最期は一日中抱っこさせて――短い命の輝かせ方』石井光太(著)、叢書クロニック:ライフサイエンス出版、2025年10月、本体2,000円、四六判並製292頁、ISBN978-4-89775-504-5
現代思想2025年11月臨時増刊号 特集=ラフカディオ・ハーン/小泉八雲』青土社、2025年10月、本体2,200円、A5判並製334頁、ISBN978-4-7917-1488-9

★『両インド史 西インド篇/中巻』は、フランスのイエズス会士でジャーナリストのギヨーム=トマ・レーナル(Guillaume-Thomas Raynal, 1713-1796)が1770年にディドロらの執筆協力を得て匿名で出版し、改訂増補を重ねて「飛ぶように売れた」という伝説の大著『両インドにおけるヨーロッパ人の植民と貿易の哲学的・政治的歴史』(L'Histoire philosophique et politique des établissements et du commerce des Européens dans les deux Indes;第3版、1780年)の翻訳。全5巻中の第4巻です。これまでに刊行されたのは、2009年6月「東インド篇/上巻」、2011年5月「東インド篇/下巻」、2015年9月「西インド篇/上巻」、そして今回の2025年10月「西インド篇/中巻」。

★版元紹介文や著者略歴の文言を借りると『両インド史』は「ヨーロッパ諸国の植民地主義や奴隷貿易の歴史的展開を批判的に省察し」「「大革命の父」と賞讃され」たと言います。「ディドロも数多くの部分を補足執筆した本書第4巻目は、植民地と貿易利権をめぐる「文明」諸国間の競合や戦争を背景に、アフリカから西インド諸島への黒人奴隷貿易、宗主国と植民地との支配関係、中米カリブ海地域をはじめとする開発・商取引状況など広大な事象に論及する諸篇を収録」とのこと。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。訳者の大津真作(おおつ・しんさく, 1945-)さんは甲南大学名誉教授。ご専門は西欧社会思想史で、法政大学出版局ではエドガール・モラン『方法』(全5巻、1984~2006年)など、多数の訳書を上梓しておられます。

★『絶対的内在とアナーキー』は、立命館大学専門研究員の長島皓平(ながしま・こうへい, 1994-)さんが慶應義塾大学大学院法学研究科に提出した博士論文「存在・政治・神学――ジョルジョ・アガンベンの政治哲学」に加筆修正を施したもの。「存在論的政治から出発したアガンベンの政治哲学が、政治神学への取り組みを通じて絶対的内在のアナキズムへと至った過程を明らかにし」(結語、348頁)、「生政治的主権から統治機械、さらにその動力源たる典礼権力論へと権力理解を展開するなかで、統治不可能な生の形式に立脚しつつ、権力の無根拠を明るみに出す様態的存在論の政治」(同)を提示するものです。「存在・政治・神学──アガンベンの深化と変化」「資本主義・民主主義・脱構成──アガンベンのアクチュアリティ」の二部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★『宮沢賢治きのこ文学集成』は、評論家の飯沢耕太郎(いいざわ・こうたろう, 1954-)さんが賢治の文学作品のなかから、きのこにまつわる短歌4首、詩6編、小説/童話11本を選んで1冊にまとめたもの。『泉鏡花きのこ文学集成』(2024年5月)に続く、「きのこ文学」シリーズの第2弾となります。巻末には飯沢さんによる編者解説「きのこ文学者としての宮沢賢治」が付されています。「きのこは彼にとって、自然という不可思議で、不可知で、常に新たな驚きを与えてくれる対象の、大いなる分身だったのではないだろうか。きのこを通じて物事を見直し、新たな認識を見出すことの喜びを、彼のきのこ文学作品からは常に感じ取ることができる」(252頁)。

★『最期は一日中抱っこさせて』は、叢書クロニックの最新刊。ノンフィクション・ライターの石井光太(いしい・こうた, 1977-)さんが難病児童の医療にたずさわる7氏にインタビューした記録をまとめたもの。7氏というのは登場順に、森田優子(シャイン・オン・キッズ)、田村亜紀子(チャイルド・ケモ・ハウス)、副島賢和(昭和医科大学病院さいかち学級)、高橋真理子(星つむぎの村)、松井秀文(ゴールドリボン・ネットワーク)、吉岡春菜(ジャパンハート)、市川雅子(TSURUMIこどもホスピス)。「彼らは決して潤沢ではない予算をやりくりし、日の当たりにくい地味で手のかかる活動を黙々と続けている。そういう人たちの思いや行動が正当に評価されない世の中であってはならない」(あとがき、290頁)。

★『現代思想2025年11月臨時増刊号』は、特集「ラフカディオ・ハーン/小泉八雲」。2025年度下半期のNHK朝の連続ドラマ小説『ばけばけ』のスタートに合わせて、ハーンの文庫新刊が続いていますが、青土社では「ユリイカ」ではなく「現代思想」での臨時増刊号というのがポイント。2本の討議と24編の論考を収めます。平藤喜久子、三浦佑之、宇野邦一、兵藤裕己の4氏は討議と論考の両方で参加されています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。



by urag | 2025-10-20 03:28 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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