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2025年 10月 13日
![]() ★最近出逢った新刊を列記します。 『哲学は何ではないのか――差異のエチカ』江川隆男(著)、ちくま新書、2025年10月、本体1,200円、新書判368頁、ISBN978-4-480-07708-0 『カトリーヌ・マラブーの哲学――脱構築の可塑性』西山雄二(編著)、カトリーヌ・マラブーほか(著)、読書人、2025年10月、本体2,200円、新書判432頁、ISBN978-4-924671-97-3 『土と生命の46億年史――土と進化の謎に迫る』藤井一至(著)、ブルーバックス、2024年12月、本体1,200円、新書判272頁、ISBN978-4-06-537838-0 『文藝 2025年冬季号』河出書房新社、2025年10月、本体1,400円、A5判並製472頁、雑誌07821-11 『バタイユとアナーキズム――アナーキーな、あまりにアナーキーな』酒井健(著)、法政大学出版局、2025年10月、本体3,800円、四六判上製382頁、ISBN978-4-588-13045-8 『コーヒーと内戦――エルサルバドル ヒル家三代の物語』川島良彰/山下加夏(著)、平凡社、2025年9月、本体3,200円、4-6判上製308頁、ISBN978-4-582-83991-3 『思想のエチカ――哲学・政治著作集Ⅰ』市田良彦(著)、航思社、2025年10月、本体3,600円、四六判並製464頁、ISBN978-4-906738-55-7 『ポスト68年のエチカ――哲学・政治著作集Ⅱ』市田良彦(著)、航思社、2025年10月、本体3,600円、四六判並製460頁、ISBN978-4-906738-56-4 ★『哲学は何ではないのか』は、立教大学特別専任教授の江川隆男(えがわ・たかお, 1958-)さんによる初めての新書。あとがきによれば「昨年の四月に『内在性の哲学』(月曜社)という大部の哲学書を出版した後、差異の哲学にかんする新書を成立させたいとの強い思いからその執筆に取り掛かりました」とのこと。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。webちくまでは「序論」の立ち読みができます。以下、本書より引きます。 ★「本書では、近代の意識中心主義的な人間の理解に対して、未来の人間の存在の様式として思考の重要性を提起する。人間は、けっしてこの地球上の生命の最終形態などではない」(序論、8頁)。「積極的な差異の概念を欲望し、それを形成すること、差異の肯定の仕方を問題提起」する(同、9頁)。「差異の哲学は、人間がもつ傲慢さを打ち砕くことにあると言える。差異についての哲学は、人類においてもっとも重要な思考様式を言語化しうるものである。それは、異なるものを否定するのではなく、それらを相互に肯定する多様性の考え方の基本である」(同、7頁)。「本書は、とりわけドゥルーズの差異の哲学を提示し、それが含むスピノザ主義の延長線上での言説から成立している」(第八章、340頁)。「哲学とは、つねに別の仕方で思考することにある。その限りで哲学は、未知の非規定的な或るものを対照性とした観念を有することができるのである」(結論、348頁)。「哲学とは、つねに既存の意味を変形し、価値を転換することに配慮する思考様式のことである」(同、351頁)。 ★『カトリーヌ・マラブーの哲学』は、日本語版独自論集。フランスの哲学者カトリーヌ・マラブー(Catherine Malabou, 1959-)さんの2004年来日講演2本と対話1本を収録した第I部、マラブーをめぐる日本の研究者の論考2本とそれに対するマラブーの応答、さらに日本の研究者7氏による共同討論をまとめた第II部、近年のマラブー自身の論考5本を掲出した第III部、日本の研究者による論考2本と留学記1本を提示した第IV部の、全4部構成です。巻頭には編者の西山雄二さんによるマラブーの人と思想の紹介が配されています。巻末にはマラブーの文献目録あり。執筆者はカトリーヌ・マラブー、西山雄二、栗原康、郷原佳以、中村彩、星野太、佐藤朋子、宮﨑裕助、小川歩人、藤本一勇、増田一夫、鵜飼哲、飯盛元章、吉松覚、タスク・ミヤギ、の15氏。翻訳には黒木秀房、桐谷慧、関大聡、渡名喜庸哲、馬場智一、小原拓磨、中谷碩岐、北川光恵、の8氏が関わっておられます。 ★西山さんの巻頭文から引きます。「マラブーは旅が好きな学生だったが、1982年、大学生のときに遠路遥々日本まで旅行した。愛読書の『ヒロシマ・モナムール』(マルグリット・デュラス)に感化されて、東京から広島まで足を延ばした。若きマラブーは閉所恐怖症で、閉じた空間で不安になって、どこかに出口を探してしまうという心理に陥りがちだったが、日本滞在中に決定的な経験をする。ある禅寺を訪れた際、庭のなかにある暗い地下室で夥しい数の仏像で覆われた壁を鑑賞して彼女は感銘を受けたのだ。そのとき、「壁がみずからを否定する光景を目の当たりにし」て、閉域が自己否定する運動を体感する。のちに彼女はこの経験から可塑性概念のひとつの着想を得たとさえ語っている」(7頁)。 ★『土と生命の46億年史』は、累計発行部数7万部を突破した話題作。昨年12月に刊行され、全国紙や雑誌、ラジオなどで次々に取り上げられ今年9月に8刷に達したとのことです。第41回講談社科学出版賞受賞作。特大帯に掲出された紹介文によれば「「生命」と「土」だけは、人類には作れない。謎に包まれた土から、地球と進化の壮大な物語が始まる。河合隼雄学芸賞〔『土 地球最後のナゾ――100億人を養う土壌を求めて』光文社新書、2018年〕を受賞した土の研究者による渾身作」。著者の藤井一至(ふじい・かずみち, 1981-)さんは土壌学者。福島国際研究教育機構の土壌ホメオスタシス研究ユニット、ユニットリーダーを務めていらっしゃいます。 ★「私たち人類は土をフル活用して大繁栄を達成し、同時にそれを再生できない悩みを抱えてきた。「土が作れない」ということは重大事なのだ。「土とは何なのか?」「なぜ生命や土を作ることができないのか?」という本質的な問いをあいまいにしておくことはできない。46億年の地球史を追体験し、豊かな土と生命、文明を生み出したレシプを復元することがこの本の目的である。そこに、土を作り人類が持続的に暮らしていくヒントが埋もれているはずだ」(はじめに、5頁)。 ★『文藝 2025年冬季号』は、第62回文藝賞発表と2本の特集「山田詠美デビュー40周年 「女流」の矜持、文学の倫理」「再起動する日本語文学」を収録。受賞作は坂本湾(さかもと・わん, 1999-)さんの「BOXBOXBOXBOX」。坂本さんと対談した作家の小川哲(おがわ・さとし, 1986-)さんは冒頭でこう述べています。「周到でストイックな小説だと思いました。最初は、ブルーカラーの労働者を描くリアリズム小説かなと思って読み進めていたんですけど、「いやこれはちょっと違うぞ」という感じになって」(72頁)。坂本さんは高校生の頃の宅配所でのバイト経験をもとに本作を書いたとのこと。 ★坂本さんはこう述べます。「単純労働のつらさや、同じことを繰り返すうちにだんだん変になってしまうということは、ブルーカラーの労働に限らない普遍的な現象だと思うんです。「正気を保ったまま労働を続けることはこんなにも困難なのか」と思います。宅配所の作業員たちの行動をただリアルに描くだけでなく、それが人生の閉塞感とか生きづらさとか、あらゆる人が感じているであろう普遍的なものとして読めるように意識して書きました」(73頁)。 ★『バタイユとアナーキズム』は、法政大学名誉教授の酒井健(さかい・たかし, 1954-)さんによるウェブ連載「バタイユとアナーキズム」(全12回、法政大学出版局「別館note」、2024年7月~2025年6月)を中心に、過去の論考3本を改訂して加えたもの。「アナーキズムはよく無政府主義と訳されるが、アナーキーという言葉は元来、いかなる支配原理も否定するという意味である。/この意味でアアナーキズムの問題はバタイユの核心にあると前々から私は思っていた。バタイユだけでなく、フランス現代思想に共通する重要な問題だと思っていた」(まえがき、3頁)。 ★「本書は、政治に特化されがちなアナーキズムの問題を人の心の内部へ遡って、否定の情動と捉え直し、その広がりを中世から現代まで文化の所産に問いかけている」(同、7頁)。「身分の識別、数値目標、成果の有無等々、我々は、近代のこうした拘束的な見方に縛られながらも、その外に大切な生の気配を心と身体で感じとることができるはずなのだ。本書は、近代の支配原理を否定して〔豊穣なる〕空無の生へ達する感性に期待して書かれている。/「人間って、もうちょっとましだったのではなかろうか」と日々疑念に駆られておられるあなたにぜひとも読んでいただきたいのである」(同、8頁)。 ★『コーヒーと内戦』は、「コーヒー生産に革新をもたらしたジェームズ・ヒルの生涯とヒル家100年の物語。それは〔…〕エルサルバドルの内戦と復興の歴史そのもの」(帯文より)。著者の川島良彰さんはコーヒー豆の輸入・販売、カフェ及びフランチャイズ事業、コーヒー及びコーヒー豆に関するコンサルティングを手掛ける株式会社ミカフェートの代表取締役。山下加夏さんは同社のアドバイザーを務めておられます。お二人はヒル家に取材し、本書を執筆。川島さん曰く「この本では、コーヒーの価格がいかに世界を揺るがし、一国の歴史をほんろうしたかが語られます」(はじめに、11頁)。「ICO〔国際コーヒー機関、ロンドン〕が絶大な力を持っていた時代に起きた、エルサルバドルのコーヒー史のうえで封印されてきた驚くべき事実の一部を、この本は紹介します」(同、15頁)。 ★『思想のエチカ』『ポスト68年のエチカ』はまもなく発売。神戸大学名誉教授の市田良彦(いちだ・よしひこ, 1957-)さんが長年にわたり各媒体で発表されてきた論考を2冊にまとめた「哲学・政治著作集」です。第I巻『思想のエチカ』は「アルチュセール、フーコー、ネグリ、ランシエール、そしてフランス革命期の政治家サン=ジュスト……かれらとともに革命の(不)可能性とその条件を極限まで思考してきた社会思想史家の35年の軌跡。未公開講演録も収録」(帯文より)。第II巻『ポスト68年のエチカ』は「アルチュセールやドゥルーズ、フーコーらの「現代思想」と、60年安保から始まり全共闘、(連合)赤軍を経て現在にいたるまでの「ポスト68年」を一つのものとして根源的に追究してきた社会思想史家の40年の軌跡」(同)。収録作は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★「二巻構成の本書では、過去に出版された私の二冊の論集、『闘争の思考』(平凡社、1993年)と『存在論的政治――反乱・主体化・階級闘争』(航思社、2014年)には未収録の、それぞれ発表媒体を異にする独立した論考がまとめられている。口頭発表を含む発表時期は二冊の論集をまたいでつい最近にまで及ぶ。何冊かの書き下ろし単著とこの計四冊とで、およそ40年にわたる私の仕事はほぼ網羅されている」(まえがき、1頁)。
by urag
| 2025-10-13 14:13
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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