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2025年 10月 06日
★まもなく発売となるちくま学芸文庫の10月新刊6点を列記します。 『視線と差異――フェミニズムで読む美術史』グリゼルダ・ポロック(著)、萩原弘子(訳)、ちくま学芸文庫、2025年10月、本体1,700円、文庫判512頁、ISBN978-4-480-51231-4 『グアヤキ年代記――遊動狩人アチェの世界』ピエール・クラストル(著)、毬藻充(訳)、ちくま学芸文庫、2025年10月、本体1,800円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51323-6 『オートポイエーシス――生命システムとはなにか』H・R・マトゥラーナ/F・J・ヴァレラ(著)、河本英夫(訳)、ちくま学芸文庫、2025年10月、本体1,400円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-51324-3 『自由は進化する』ダニエル・C・デネット(著)、山形浩生(訳)、ちくま学芸文庫、2025年10月、本体1,800円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-51326-7 『仏教土着――その歴史と民俗』高取正男(著)、ちくま学芸文庫、2025年10月、本体1,200円、文庫判272頁、ISBN978-4-480-51336-6 ★『視線と差異』は、英国の美術史家グリゼルダ・ポロック(Griselda Pollock, 1949-)さんの著書『Vision and Difference: Femininity, Feminism, and Histories of Art』(Routledge, 1988)の訳書(新水社、1998年)の文庫化。再刊にあたり、原著2003年版所収の「「ラウトリッジ・クラシックス」版のための序文」が新たに訳出されて巻頭に収められています。文庫版訳者あとがきによれば、訳文や注は適宜修正されているとのことです。カバー表4紹介文に曰く「西洋近代芸術の歴史が記述・記録される過程において強力に働いてきたさまざまな偏りを明らかにし、その学としてのあり方自体に内在する権力構造と性差別を指摘する」と。ポロックの訳書には本書のほか、ロジカ・パーカーとの共著『女・アート・イデオロギー ――フェミニストが読みなおす芸術表現の歴史』(萩原弘子訳、新水社、1992年)があります。ウィルヘルム・ウーデの著書『ゴッホ』(坂上桂子訳、1997年)に作品解説を寄せているのもポロックです。 ★『グアヤキ年代記』は、フランスの人類学者ピエール・クラストル(Pierre Clastres, 1934-1977)の著書『Chronique des Indiens Guayaki : Ce que savent les Aché, chasseurs nomades du Paraguay』(Plon, 1972; Nouv. éd., 1985)の全訳書(現代企画室、2007年)の文庫化。訳者は逝去されているため大きな修正はありませんが、編集部による巻末特記によれば「ルビを補ったほか、明らかな誤りは適宜訂正した」とのことです。岡山大学准教授の松村圭一郎さんによる巻末解説「失われた世界から「人間」を問う」が新たに加わっています。本書は南米パラグアイの狩猟系先住民族グアヤキを調査して執筆されたもの。復讐殺人や食人習慣などの記述もあり、驚きを禁じえませんが、現代社会と異なる論理をもつ彼らの文化を分析した本書は、クラストル自身の『国家に抗する社会――政治親類学研究』(水声社、1987年)の着想元ともなっています。 ★『オートポイエーシス』は、チリの生物学者、H・R・マトゥラーナ(Humberto Maturana Romesín, 1928-2021)とF・J・ヴァレラ(Francisco Varela García, 1946-2001;バレーラとも)の共著『Autopoiesis and Cognition: The Realization of the Living』(Reidel, 1980)の全訳書(国文社、1991年)の文庫化。単行本版に収められていた第一部のスタフォード・ビアによる序文は割愛されています。巻末に「文庫版への訳者あとがき」が加えられていますが、訳文改訂については言及されていません。帯文に曰く「新たなシステム論の基本形。生命に固有のダイナミクスからは何が生じているのか。他分野に絶大な影響を与え続けている独創的構想」。ちくま学芸文庫での著者二名の共著の既刊書には『知恵の樹』(管啓次郎訳、1997年)があります。 ★『自由は進化する』は、米国の哲学者ダニエル・C・デネット(Daniel Clement Dennett III, 1942-2024)の著書『Freedom Evolves』(Viking Press, 2003)の全訳書(NTT出版、2005年)の文庫化。巻末に文庫版訳者あとがきが加わっています。それによれば訳文は改訂されているとのことです。カバー表4紹介文に曰く「世界は決定論的に定まっているものではないのか、生物の行為は遺伝子やミームに操られているだけなのではないか等々、新たな反対意見を丁寧に検証しつつ、徹底した自然主義の立場から、自由意志の存在を導き出す。心の哲学の隆盛のなかにあってマイルストーンともなった一冊」。ちくま学芸文庫ではデネットの既訳書に『心はどこにあるのか』(土屋俊訳、2016年)があります。 ★『仏教土着』は、歴史学者で民俗学者の高取正男(たかとり・まさお, 1926-1981)さんの著書(NHKブックス、1973年)の文庫化。阿満利麿さんによる巻末解説「仏教いまだ土着せず」が加わっています。カバー表4紹介文に曰く「日本仏教の異端である薩摩のカヤカベ教が伝える親鸞のミイラ言説や、湯殿山の即身仏ミイラ信仰などに注目。そこから逆に照射される日本仏教の「正統」と、その正統に同化されなかった日本仏教の「影」の信仰とを対比させることで、仏教土着の一方で日本人が持ち続けた民俗信仰の問題を掘り下げて考察する」。ちくま学芸文庫での著者の既刊書には『宗教以前』(橋本峰雄共著、2010年)、『日本的思考の原型――民俗学の視角』(2021年)、『民俗のこころ』(2023年)があります。 ★以下は、3社の新刊を取り上げ、代表で各社1点ずつご紹介します。まずは作品社さんの9~10月新刊より3点。 『インド映画はなぜ踊るのか』高倉嘉男(著)、作品社、2025年10月、本体2,700円、四六判並製400頁、ISBN978-4-86793-109-7 『覚鑁――奈良・平安・鎌倉仏教の包越者、密教の革新者』吉田宏晢(著)、作品社、2025年9月、本体1,800円、46判並製208頁、ISBN978-4-86793-110-3 『三浦綾子の園――北海国の恩寵』南富鎭(著)、作品社、2025年9月、本体2,400円、46判上製208頁、ISBN978-4-86793-111-0 ★『覚鑁』は、真言宗中興の祖で新義真言宗の始祖である覚鑁(かくばん, 1095-1143)をめぐって、真言宗智山派管長にまもなく就任される吉田宏晢(よしだ・ひろあき, 1935-)さんが1988年から2004年にかけて各媒体で発表してきた論考に書き下ろしのはしがきとあとがきを加えて一冊にまとめたもの。「覚鑁――真言密教と浄土教」「覚鑁をめぐって」「空海と覚鑁」の三部構成。第一部第一章「出生と出家修行」では、覚鑁が虚空蔵菩薩求聞持法に九回も挑戦し、29歳の折の九度目にしてついに修行の成果を得たことが紹介されています。宗祖空海が実践し、他宗では日蓮が修したとも伝わるこの求聞持法は、驚異的な記憶力を獲得する修行法で、その過酷さがこんにちに至るまで知られています。作品社で刊行された吉田さんの著書には『やさしい密教――「川崎大師だより」より』(2025年4月)や、廣松渉さんとの対談『新版 仏教徒事的世界観』(2023年8月)があります。 ★藤原書店さんの9月新刊より3点。 『首都圏は米軍の「訓練場」』毎日新聞取材班/大場弘行(著)、藤原書店、2025年9月、本体2,500円、四六判並製328頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-473-2 『ハルビンの詩がきこえる〈新版〉』加藤淑子(著)、加藤登紀子(編/新版まえがき)、藤原書店、2025年9月、本体2,600円、A5変型判並製272頁+口絵8頁、ISBN978-4-86578-474-9 『玉井義臣の全仕事 あしなが運動六十年(6)活字の力と共に六十年』玉井義臣(著)、藤原書店、2025年9月、本体10,000円、A5判上製856頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-472-5 ★『首都圏は米軍の「訓練場」』は、日米地位協定をめぐる毎日新聞の記事をまとめた書籍『特権を問う――ドキュメント・日米地位協定』(毎日新聞出版、2022年)のうち「首都圏上空の米軍機の活動実態を扱った内容を、その後の取材内容も含めて大幅に加筆したもの」(プロローグより)。赤坂プレスセンター、横田空域、日米合同委員会、などの実態もリポートされます。巻末には本書の関連年表(1889~2025年)と参考文献が付されています。日米合同委員会に出席していた外務省幹部OBは取材に答えてこう述べています。「外務省の人間は親米でなければならず、反米や非米では出世できないのです。〔…〕その結果として、地位協定は、本来なら見直して、ドイツのようにホスト国である日本側の顕現をもっと強めるべきなのに、何もしないという状況が固定化してしまったように思います」(293頁)。新政権誕生のこのタイミングで本書が店頭に並ぶ意義は大きいと思います。 ★人文書院さんの9月新刊5点を列記します。 『戦争映画の誕生――帝国日本の映像文化史』大月功雄(著)、人文書院、2025年9月、本体6,500円、A5判上製280頁、ISBN978-4-409-10048-6 『マルクス哲学入門――動乱の時代の批判的社会哲学』ミヒャエル・クヴァンテ(著)、桐原隆弘/後藤弘志/硲智樹(訳)、人文書院、2025年9月、本体2,800円、四六判並製240頁、ISBN978-4-409-03140-7 『顔を失った兵士たち――第一次世界大戦中のある形成外科医の闘い』リンジー・フィッツハリス(著)、西川美樹(訳)、北村陽子(解説)、2025年9月、本体3,800円、四六判並製324頁、ISBN978-4-409-51106-0 『リプロダクティブ・ジャスティス――交差性から読み解く性と生殖・再生産の歴史』ロレッタ・ロス/リッキー・ソリンジャー(著)、申琪榮/高橋麻美(監訳)、林美子/新山惟乃/大室恵美/花岡奈央/ミーシャ・ケード(訳)、人文書院、2025年9月、本体3,600円、四六判並製324頁、ISBN978-4-409-24174-5 『食権力の現代史――ナチス「飢餓計画」とその水脈』藤原辰史(著)、2025年9月、本体2,700円、四六判並製324頁、ISBN978-4-409-51108-4 ★『マルクス哲学入門』は、ドイツの哲学者ミヒャエル・クヴァンテ(Michael Quante, 1962-)の著書『Der unversöhnte Marx: Die Welt in Aufruhr』(mentis, 2018)の全訳に関連論文2編を加えたもの。原題は直訳すると「和解せざるマルクス――動乱の中の世界」。帯文に曰く「マルクスの思想を「善き生」への一貫した哲学的倫理構想として読む、ドイツ哲学界重鎮による本格的入門書。複雑なマルクス主義論争をくぐり抜け、社会への批判性と革命性を保持しつつマルクスの著作の深部に到達する画期的読解」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。下段に掲出するようにクヴァンテによるマルクス論の訳書は本書のほかに1点ありますが、訳者解説によれば今回の『入門』は一般読者向けで、既訳書は研究者向けとのことです。 ◉ミヒャエル・クヴァンテ単独著既訳 『ヘーゲルの行為概念――現代行為論との対話』高田純監訳、リベルタス出版、2011年 『人格――応用倫理学の基礎概念』後藤弘志訳、知泉書館、2013年 『ドイツ医療倫理学の最前線――人格の生と人間の死』高田純監訳、リベルタス出版、2014年 『人間の尊厳と人格の自律――生命科学と民主主義的価値』加藤泰史監訳、法政大学出版局、2015年 『精神の現実性――ヘーゲル研究』後藤弘志監訳、リベルタス出版、2018年 『カール・マルクスの哲学』大河内泰樹ほか訳、リベルタス出版、2019年 『人間の人格性と社会的コミットメント』後藤弘志編訳、リベルタス出版、2023年
by urag
| 2025-10-06 01:10
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