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2025年 09月 28日

注目新刊:リンス『危険な言語』国書刊行会、ほか

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★まず注目の文庫新刊既刊を列記します。

論語』鶴ヶ谷真一(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年9月、本体1,600円、文庫判688頁、ISBN978-4-334-10774-1
シッダールタ』ヘッセ(著)、酒寄進一(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年9月、本体900円、文庫判256頁、ISBN978-4-334-10773-4
催眠術の日本近代』一柳廣孝(著)、法蔵館文庫、2025年9月、本体1,100円、文庫判272頁、ISBN978-4-8318-2707-4
古代中国の性生活――先史から明代まで』R・H・ファン・フーリック(著)、松平いを子(訳)、講談社学術文庫、2025年9月、本体2,600円、A6判640頁、ISBN978-4-06-540922-0
完訳 カーマ・スートラ』ヴァーツヤーヤナ(著)、岩本裕(訳)、平凡社ライブラリー、2025年9月、本体1,900円、B6変型判並製368頁、ISBN9784582769982
障害文学短編集』W・フォークナー/ギャスケル/ほか(著)、石塚久郎(監訳)、平凡社ライブラリー、2025年9月、本体2,000円、B6変型判並製328頁、ISBN9784582769975
雪女・吸血鬼短編小説集――ラフカディオ・ハーンと怪奇譚』ラフカディオ・ハーン/アーサー・コナン・ドイル/ほか(著)、下楠昌哉(編訳)、平凡社ライブラリー、2025年8月、本体1,900円、B6変型判並製328頁、ISBN9784582769951
怪談 決定版』ラフカディオ・ハーン(著)、池田雅之(編訳)角川ソフィア文庫、2025年8月、本体1,300円、文庫判608頁、ISBN978-4-04-400856-7
東の国から――新しい日本における幻想と研究』ラフカディオ・ハーン(著)、平井呈一(訳)、西成彦(解説)、岩波文庫、2025年9月、本体1160円、文庫判444頁、ISBN978-4-00-322446-5
骨董――さまざまの蜘蛛の巣のかかった日本の奇事珍談』ラフカディオ・ハーン(作)、平井呈一(訳)、円城塔(解説)、岩波文庫、2025年8月改版(1940年初版)、本体720円、文庫判238頁、ISBN978-4-00-322449-6
心――日本の内面生活の暗示と影響』ラフカディオ・ハーン(著)、平井呈一(訳)、岩波文庫、2025年8月60刷(1951年初版、1977年改版)、本体910円、文庫判322頁、ISBN978-4-00-322442-7
夜叉ヶ池・天守物語』泉鏡花(作)、澁澤龍彦(解説)、吉田昌志(解説)、岩波文庫、2025年9月改版(1984年初版)、本体520円、文庫判162頁、ISBN978-4-00-360061-0
パイドン――魂の不死について』プラトン(著)、岩田靖夫(訳)、篠沢和久(解説)、岩波文庫、2025年9月改版(1998年初版)、本体850円、文庫判254頁、ISBN978-4-00-336029-3
佐藤一斎 言志四録』山田準/五弓安二郎(訳註)、岩波文庫、2025年7月16刷(1935年初版)、本体1,370円、文庫判444頁、ISBN978-4-00-330311-5

★光文社古典新訳文庫9月新刊より2点。『論語』は、同文庫で中江兆民の現代語訳を手がけられたエッセイストで編集者の鶴ヶ谷真一(つるがや・しんいち, 1946-)さんによる新訳。現代語訳、読み下し文、返り点付き漢文、訳注で構成。巻頭には訳者まえがき、文中各所にコラム的位置づけの補注、巻末には訳者解説と、年譜、地図、索引が配されています。付属の栞は本書の主な登場人物を紹介したもの。度忘れちがちな人物名を思い出すために便利です。『シッダールタ』は、同文庫でヘッセ、ビュルガー、ゲーテの新訳を手がけられてきた酒寄進一(さかより・しんいち, 1958-)さんによる新訳。釈迦と同名の主人公なので誤解されがちですが、釈迦を描いた伝記的物語ではなく、むしろ釈迦と距離を取る人物の遍歴を描いた創作です。帯に2025年11月15日から世田谷パブリックシアターなどで上演される舞台の宣伝帯が巻かれています。主演は草彅剛さん。

★小レーベルながら注目書を続々と刊行している法蔵館文庫の9月新刊では『催眠術の日本近代』に注目。青弓社から1997年に諸版、2006年に復刊された単行本の文庫化。著者は東京女子大学特任教授の一柳廣孝(いちやなぎ・ひろたか, 1959-)さん。帯文に曰く「〈科学・宗教〉と〈オカルト〉の交差点に乱れ咲く催眠術の熱狂と盛衰」。「催眠術の登場――合理と非合理のはざまで」「催眠術ブームの背景」「変質する催眠術」「霊術の時代」の四部構成。詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★ファン・フーリック『古代中国の性生活』とヴァーツヤーヤナ『完訳 カーマ・スートラ』は併読をお薦めしたい新刊。『古代中国の性生活』はせりか書房1988年に刊行された訳書の文庫化。オランダの外交官で漢学者のローバート(ローベルトとも)・ハンス・ファン・フーリック(Robert Hans van Gulik, 1910-1967)の著書『Sexual Life in Ancient China: A Preliminary Survey of Chinese sex and Society from ca, 1500 B.C. till 1644 A.D.』(Brill, 1961)の全訳です。訳者がすでに逝去されているため、訳文の改訂はなし。文庫版解説は早稲田大学文学学術院教授の柿沼陽平さんによる「中国性愛史研究の先駆者」です。『完訳 カーマ・スートラ』は、東洋文庫(1998年刊)からのスイッチ。こちらも訳者は逝去されています。巻頭の編集部特記によれば「底本の明らかな誤りは修正し、漢字やかな遣い、またサンスクリット語のカタカナ表記についても一般的な表記にあらためました」とのことです。

★平凡社ライブラリーの最近のアンソロジー本から2点。『障害文学短編集』は、以下の8篇を収録。エリザベス・ギャスケル「ペン・モーファの泉」石塚久郎訳、D・H・ロレンス「盲目の男」大久保譲訳、アーネスト・ヘミングウェイ「世慣れた男」石塚久郎訳、ユードラ・ウェルティ「鍵」ハーン小路恭子訳、フラナリー・オコナー「足の不自由な者は先に入ってよい」馬上紗矢香訳、ウィリアム・フォークナー「脚」岡田大樹訳、ジャック・ロンドン「ヨダレ病棟できいた話」大久保譲訳、キャサリン・アン・ポーター「あの子」石塚久郎訳。平凡社ウェブサイトでは同ライブラリーの関連書として、2016年『病短編小説集』、2020年『医療短編小説集』、2021年『疫病短編小説集』を掲出しています。

★『雪女・吸血鬼短編小説集』では、抄訳2篇を含む13編の翻訳を収録。「ラフカディオ・ハーンと同時代の作家たちが紡ぐ、雪妖と吸血鬼の恐ろしくも美しい物語」(帯文より)。ハーンの作品4篇とハーンによるゴーティエの英訳からの重訳1篇、そのほかエリザベス・ギャスケル、アルジャーノン・ブラックウッド、E・F・ベンスン、アーサー・コナン・ドイル、ジェレマイア・カーティン、ブラム・ストーカー、F・ マリオン・クローフォード、フレデリック・カウルズの作品を収録。ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』は部分訳です。その他の作品名は書名のリンク先でご確認いただけます。

★ハーン(小泉八雲)の関連文庫が相次いでいるのは、NHKの朝の連続テレビ小説『ばけばけ』の影響です。「ヒロイン〈松野トキ〉の夫〈ヘブン〉はラフカディオ・ハーン(小泉八雲)がモデル」と、岩波文庫の関連新刊の帯文に書かれています。以下の新刊既刊文庫にはすべての帯に『ばけばけ』の名前が載っています。池田雅之編訳『怪談 決定版』は『怪談』完訳に加えて『骨董』『日本おとぎ話集』『影』『霊の日本』などから主要作品をまとめたもの。『東の国から』は旧版上下巻(1952年)を改版合本したもの。巻末解説に西成彦さんによる「「西洋と東洋とのあいだをつなぐ知的共感」を夢見て」が加わっています。『骨董』は1940年旧版の改版。円城塔さんの解説が加えられています。『心』は1977年改版の重版ですので、解説などは加わっていません。

★このほか岩波文庫の改版2点と重版1点に注目。泉鏡花『夜叉ヶ池・天守物語』は1984年初版の改版。初版の澁澤龍彦さんの解説を再録し、さらに昭和女子大学大学院教授の吉田昌志さんによる解説が加わっています。プラトン『パイドン』岩田靖夫訳は、1998年初版の改版。 東北大学教授の篠沢和久さんによる解説が加わっています。山田準/五弓安二郎訳註『佐藤一斎 言志四録』は1935年初版の16刷。周知の通り同書には川上正光さんによる全訳注本全4巻(講談社学術文庫、1978~1981年)があり、漢文と読み下しのほか、現代語訳、語義、付記などで構成され、理解を深めることができますが、全1冊で持ち歩きたい場合は、読み下しと語註のみの岩波版も良いと思います(より正確に言えば、原文は後半にまとめて掲載されています)。例えば「暗夜に坐するものは體軀を忘れ、明晝に行く者は、形影を辨ず」(言志晩錄、八一、岩波文庫167頁)には現代語訳も語註もありませんが、思いを巡らすうちに佐藤一斎の言葉が胸に沁み込んでいく心地がします。『言志四録』は人生の道往きが深まるほどに親しみを覚え、学びが深まる一書ではないかと思います。

★このほか最近では以下の新刊との出逢いがありました。

危険な言語――エスペラント弾圧と迫害の歴史』ウルリッヒ・リンス(著)、石川尚志/佐々木照央/相川拓也/吉田奈緒子/臼井裕之(訳)、2025年9月、本体3,600円、A5判上製496頁、ISBN978-4-336-07790-5
カウンセリングとは何か――変化するということ』東畑開人(著)、講談社現代新書、2025年9月、本体1,400円、新書判448頁、ISBN978-4-06-541195-7
戦後日本のインテリジェンスとグランド・ストラテジー ――吉田ドクトリンから安倍ドクトリンへ』ブラッド・ウィリアムズ(著)、小谷賢/佐藤智美(訳)、作品社、2025年9月、本体3,200円、四六判並製368頁、ISBN978-4-86793-107-3
現代思想2025年10月号 特集=学問の危機――制度と現場から考える』青土社、2025年9月、本体1,800円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1487-2
アレ Vol.14 特集:見える、隠れる』アレ★Club、2025年8月、本体1,500円、A5判並製230頁、ISDN278-4-572741-14-8

★『危険な言語』は、ドイツの歴史学者でエスペランティストのウルリッヒ・リンス(Ulrich Lins, 1943-)の著書『La Danĝera Lingvo: studo pri la persekutoj kontraŭ Esperanto』(2016年)の全訳。訳者あとがきによれば、日本語訳版では「はじめに」と第3章末尾の「ソ連――希望と疑いの間で」は著者による改稿版から訳されているとのことです。また、エスペラント語原書にはない事項索引が訳者によって作成されています。帯文に曰く「帝政ロシアのユダヤ人ザメンホフが考案した国際語エスペランは、ロシアや欧州各国で受容されていく一方で、疑念と反発を招き、とりわけヒトラーとスターリンの独裁下で苛烈な弾圧にさらされる。エスペラント運動がたどった苦難と再生の道のりと、この言語の理念に魅せられた話者たちの運命を克明に描いた、エスペラント史の最重要文献」。以下にナチス・ドイツによるエスペラント運動の排斥の実態のほんの一部を本文より引用しますが、過去のこととは思えない嫌な空気感が伝わってきます。国家主義の高まりが私たちの生きる現代でも暗い影を広げつつあるからでしょうか。

★「ハイドリヒはドイツのエスペラント運動内のマルクス主義分子の存在をわざと誇張することで、自らの望みをより速やかに実現しようとした。保守的な官僚機構が(そしておそらくは宣伝省さえも)まだ乗り気でなかった仕事、つまりエスペラント運動の完全粉砕である。ハイドリヒが工作員を通じてGEA〔ドイツ・エスペラント協会〕の内部機構と、大部分は政治に関心がないGEA会員の心理状態について、よく把握していたことは疑いがない。GEAで比較的大勢のマルクス主義者が活動していようがいまいが、彼の信念に本質的影響と与えはしなかった。エスペラントはユダヤ人が発明したものであり、したがって根絶やしにすべきだ、との信念は揺るがなかったのだ。彼にとってすべての活動的なエスペランティストは、国家の敵以外の何者でもない。1935年6月に彼が書いているとおり、「すべての民族と人種のための世界語を宣伝するなどという、まったくもって余計で、国民的立場からは激しく拒絶すべき事柄」に関心を持つのは、そうした輩だけだからだ。エスペラント運動を破壊すべし、とハイドリヒがあくまで主張したのはまた、国家内部におけるゲシュタポと親衛隊の地位を強化する闘争の一環だったとも考えられよう」(109頁)。

★訳者あとがきの印象的な一節も引いておきます。「昨今のパレスチナ・ガザの惨状についての報に接するたびに、本書に描かれたユダヤ人ザメンホフの思想的転回を想起せざるをえない。すなわち、若きザメンホフがロシア帝国でのポグロムに衝撃を受け、パレスチナにユダヤ人国家を構想するシオニズムを経て、最終的にはユダヤ・ナショナリズムを脱却し、「ホマラニスモ(人類人主義)」に至る、思想的遍歴の意味である」(379頁)。なお、本書の初期ヴァージョンの翻訳は、栗栖継訳『危険な言語――迫害のなかのエスペラント』(岩波新書、1975年)として刊行されたことがあります。

★『カウンセリングとは何か』は、臨床心理士の東畑開人(とうはた・かいと, 1983-)さんご自身の言葉によれば「20年越しの謎解きの総決算です。30年読み継がれる本にするべく書きました」とのこと。「カウンセリングとは何か。心とは何か。心の問題とは何か。心が変化するということはいかにしてなされるのか。/大づかみで、全体を俯瞰し、そして原理を抽出するような知的作業が必要です。各論たちを俯瞰して、原論を生み出さねばならない」(まえがき、9頁)。「具体的な話を通じて、カウンセリングの原理、そして人間の心というものの普遍的な働きを取り出そうとするところにこの本の特徴があります。個別から普遍へ、実務から原理へ至ろうとするのが「臨床の知」の伝統です」(同、11頁)。「心とは何か、心はどこにあるのか、心は何のためにあるのか。心について深く考える人文的な知と教養になるこをを目指して、この本は書かれました」(同、13頁)。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。カウンセリングの実例も書かれており、第4章には過酷な場面があるので、少々覚悟する必要があります。

★『戦後日本のインテリジェンスとグランド・ストラテジー』は、香港城市大学准教授のブラッド・ウィリアムズ(Bradley Rowland Williams)の著書『Japanese foreign intelligence and grand strategy: from the cold war to the Abe era』(Georgetown University Press, 2021)の訳書。日本の対外情報システムの変遷をめぐり、「「吉田ドクトリン」と近年登場した「安倍ドクトリン」という二つの〈グランド・ストラテジー〉を取り上げ、そこに埋め込まれた規範が、戦後日本のインテリジェンスに及ぼした影響を、機密解除されたCIA資料や文献、広範なフィールドワークやインタビューをもとに、歴史的過程を仔細に検証しすることで明らかにする」(版元紹介文より)。目次詳細は版元ドットコムの個別商品頁に掲出されています。

★『現代思想2025年10月号』は、特集「学問の危機――制度と現場から考える」。版元紹介文に曰く「本特集では学問とは何かという根本的な問いをあらためて見つめ直しながら、大学のあり方、そしてそこにとどまらない知のゆくえを問う」。阿部幸大さんと永井玲衣さんによる討議「大学の内と外から」のほか、隠岐さや香さんを含む16氏による論考が掲載されています。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。同誌の次号は、11月臨時増刊号(特集=ラフカディオ・ハーン/小泉八雲)および11月号(特集=「終末論」を考える)です。

★『アレ Vol.14』は、特集「見える、隠れる」。巻頭言によれば「今号では〔…〕「見ることの多層性」について考えてみたい。あらかじめ重要な点を述べておくと、ただ見えるだけの世界が全てではないが、その隠された裏側だけが真理というわけでもない、ということである。〔…〕インタビュー記事では、哲学者の村上靖彦先生に、「現象学」という手法を基軸に、精神疾患や社会的弱者との向き合い方を伺い、人文地理学者の湯澤規子先生には、社会から隠される「ウンコ」を出発点に、生きることの全体性についてお聞きした。さらに他の特集記事では、現場、美容医療、追悼、隣町、電波、在日コリアンなどについて扱っている」。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。また、同誌の扱い書店や通販、電子版の販売については「ジャンル不定カルチャー誌『アレ』委託・通販情報」をご覧ください。


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by urag | 2025-09-28 21:33 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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