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2025年 09月 21日
★最近出会いのあった新刊を列記します。 『イプセン戯曲選 海の夫人/ヘッダ・ガーブレル』ヘンリック・イプセン(著)、アンネ・ランデ・ペータス/長島確(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2025年9月、本体4,200円、四六変形判ソフト上製392頁、ISBN978-4-86488-331-3 『ヴァイルビューの牧師 他六篇』スティーン・スティーンセン・ブリカー(著)、高藤直樹(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2025年9月、本体3,200円、四六変形判ソフト上製320頁、ISBN978-4-86488-332-0 『自由民主主義入門講義』仲正昌樹(著)、作品社、2025年9月、本体2,000円、46判並製272頁、ISBN978-4-86793-112-7 『慵斎叢話――朝鮮王朝前期の士大夫が綴る博学の書(1)』成俔(著)、野崎充彦(訳注)、東洋文庫:平凡社、2025年8月、本体4,200円、B6変型判上製函入352頁、ISBN978-4-582-80927-5 『悲劇とは何か』テリー・イーグルトン(著)、大橋洋一(訳)、平凡社、2025年8月、本体4,500円、4-6判上製320頁、ISBN978-4-582-70373-3 『原智広全集』イーケーステイス、2025年7月、本体27,272円、A5判上製716頁、ISBNなし ★『イプセン戯曲選 海の夫人/ヘッダ・ガーブレル』『ヴァイルビューの牧師 他六篇』は、幻戯書房「ルリユール叢書」の第50回配本となる、71冊目と72冊目。『イプセン戯曲選 海の夫人/ヘッダ・ガーブレル』は、ノルウェーの作家ヘンリック・イプセン(Henrik Ibsen, 1828-1906)の戯曲2篇の新訳。帯文に曰く「海に憧れながら元の生活から離れぬエレーダを描く『海の夫人』(1888年)。他人との関係を疎むヘッダの退屈な生を描く『ヘッダ・ガーブレル』(1890年)。「自己亡命」の終焉間際に書かれた、祖国への愛憎と望郷の狭間のイプセンの葛藤が〈居場所探し〉として結晶化した、リアリズム期の傑作戯曲2篇」。訳者あとがきによれば、いずれも新国立劇場の依頼により訳出され、『ヘッダ・ガーブレル』が2010年、『海の婦人』が2015年に上演されたとのことです。 ★『ヴァイルビューの牧師 他六篇』は、デンマークの作家スティーン・スティーンセン・ブリカー(Steen Steensen Blicher, 1782–1848)が短篇7篇「ヴァイルビューの牧師」「靴下商」「ああ! 何という変わりよう!」「ある教会書記の日記」「三前夜祭」「遅い目覚め」「大荒地の古伝説」を収録。主に1820年代に発表されたものです。帯文に曰く「デンマーク辺境の荒地を描いてアンデルセンやキェルケゴールを魅了し、19世紀前半の〈デンマーク黄金時代〉に詩的リアリズム文学を大成したスティーン・スティーンセン・ブリカー。表題作はじめ『ある教会書記の日記』など、人間の避けられぬ悲運や孤独を描いた全7篇の傑作短編集」。表題作「ヴァイルビューの牧師」(1892年)は「現代にそのまま通じる〈犯罪スリラー小説〉の最古の作品の一つとしても名高い」(訳者あとがき)と。短篇がまとめられるのは日本で初めてかと思われます。 ★『自由民主主義入門講義』は、法哲学者の仲正昌樹(なかまさ・まさき, 1963-)が2021年11月から2022年6月にかけて「読書人隣り」で行った全6回の連続講義に加筆修正したもの。第1回「民主主義的な統治と個人の自由の間――コンスタン「近代人の自由と古代人の自由」」、第2回専制政治は可能か?――コンスタン「征服の精神と簒奪」」、第3回「多数派の専制――トクヴィル『アメリカのデモクラシー』第一巻第一部から第二部まで」、第4回「デモクラシーの危機とは?――トクヴィル『アメリカのデモクラシー』第二巻第一部から第四部まで」、第5回「「他者危害原理」と「思想の自由市場」――ミル『自由論』前半」、第6回「多様性、効率と自由の原理のバランス――ミル『自由論』後半」。各回の質疑応答を併録し、巻末にはブックガイドや年表も配されています。 ★平凡社8月新刊より2点。『慵斎叢話(ようさいそうわ)』は、東洋文庫の第927巻。李氏朝鮮前期の士大夫、成俔(せいけん, 1439-1504)の随筆集の全訳で、全3巻予定の第1巻です。原著の巻一(全19話)、巻二(全33話)、巻三(全45話)を収録。帯文に曰く「15世紀の朝鮮王朝をいきた通儒・成俔が描く、新羅から高麗、当代に至る人物や官界の逸話、儀礼や習俗に関する記録と考察、鬼神譚や笑話などを収めた朝鮮随筆文学の白眉」と。第2巻は10月発売予定です。なお近年の現代語既訳には梅山秀幸訳(作品社、2013年)があります。今回の新訳を手がけられた朝鮮文学研究者の野崎充彦(のざき・みつひこ, 1955-)さんは5年前に『慵斎叢話――15世紀朝鮮奇譚の世界』(集英社新書、2020年)という一書を上梓されています。 ★『悲劇とは何か』は、英国の批評家テリー・イーグルトン(Terry Eagleton, 1943-)の著書『Tragedy』 (Yale University Press, 2020)の全訳。帯文に曰く「『オイディプス王』からシェイクスピア、アリストテレスからニーチェまで、西欧における悲劇の系譜をたどりながら、近代の条件を問い直す。構想50年、現代批評の新たな地平へ」。「悲劇は死んだか?」「近親相姦と算法」「悲劇的過渡期」「有益な噓」「慰めなきもの」の全5章構成。「偉大な芸術と、もっとも根源的な道徳・政治問題とが、緊密に交錯する場が悲劇以外にはほとんどない〔…〕悲劇こそ、私たちが究極的に価値をおくものが何であるかを知らしめる尺度にほかならぬ〔…〕。悲劇は芸術形式のなかでは貴族的なものに属するが、私自身の著作――『甘美なる暴力』〔森田典正訳、大月書店、2004年〕と本書――は、私の友にして恩師でもあった亡きレイモンド・ウィリアムズの流儀にならい、悲劇を民主化することを目指している」(はじめに、3頁)。 ★『原智広全集』は、仏文学者で作家の原智広(はら・ともひろ, 1985-)さんが22才から39歳まで執筆し発表してきたテクストを自らが編んだ個人全集で、未公刊の文章も含みます。発行元の紹介文に曰く「映画、翻訳、文学、音楽――あらゆる領域を渉りながら「ひとつづきの生」を再構築する作家の、2009-2023年の全著作を収録。「光学的革命論」をはじめとする未刊行作品や、写真作品も多数掲載」と。「論考」「文学」「映画」「音楽」「エッセイ」「翻訳」の6部構成。詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「もう私は取返しのつかないことをしてしまったのかもしれない」と「あとがき」に書かれているのが印象的です。「魂にそなえられた光の啓示、私は自身を聖性を奪還することを熱烈に渇望するが、同時に自身が消滅することを望む、私は最期の裁きを待ち望む」(「私は裁きを待ち望む」297頁)。揺らぐ生の明滅を孕んでうねるように連綿と進む憑依的文体と、折々に挟まれたキャプションのない写真の数々。特異な祝祭のための呪具を読者は手にするのかもしれません。黒々とした装丁は、簗瀬幸佑さんによるもの。「全体は暗黒であり〔…〕私は好んでこの死の周りを旋回する」(「死についてのいくつかの覚書」270頁)。
by urag
| 2025-09-21 23:52
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