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2025年 08月 03日
★まもなく発売となるちくま学芸文庫の8月新刊5点を列記します。 『法然の手紙を読む』阿満利麿(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,300円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51320-5 『ジャポニスム――幻想の日本』馬渕明子(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,500円、文庫判401頁、ISBN978-4-480-51317-5 『日本・現代・美術』椹木野衣(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,700円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-51315-1 『ボスニア内戦――グローバリゼーションとカオスの民族化』佐原徹哉(著)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,800円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51313-7 『ブリタニア列王史――アーサー王ロマンス原拠の書』ジェフリー・オヴ・モンマス(著)、瀬谷幸男(訳)、ちくま学芸文庫、2025年8月、本体1,600円、文庫判512頁、ISBN978-4-480-51310-6 ★『法然の手紙を読む』は、明治大学名誉教授の阿満利麿(あま・としまろ, 1939-)さんによる、文庫オリジナルの書き下ろし。カバー裏紹介文に曰く「本書では、法然が熊谷直実のような武士から式子内親王、北条政子に至る人々に宛てた手紙を平易な訳文とともに紹介する。仏教を専門としない相手に書かれた手紙には、称名念仏による極楽往生こそ救いの道であることが、わかりやすくかつ論理的に説かれている。また文面からは、身分や年齢にかかわらず相手を尊重し、権力とは正面から対峙しない、優しくも強かな法然の人柄が窺える。本書はそうした手紙の読解を通じて、現実から逃げるのではなく往生を見据えて現実を強く生きるという、本願念仏の持つ実践的な力を提示する」。巻末には法然の手紙の原文、略年表、主要参考文献などが配されています。「今回、あらためて通読してみて強く感じるのは、〔…〕本願念仏が「他力」の「行」だという点である」(あとがきより)。「なまじいに私の「自我」が大きいばっかりに、自分のあり方は自分が決めているような錯覚を起こしているに過ぎない。「他力」が分かるということは、人間と世界のあり方が分かるということでもある」(同)。 ★『ジャポニスム』は、美術史家の馬渕明子(まぶち・あきこ, 1947-)さんの同名著書(ブリュッケ、1997年;新装版2004年;新版2015年)の文庫化。カバー裏紹介文によれば「ジャポニスムの定義から起こして、印象派・ウィーン分離派ほか多数の作品や当時の評論をもとに、日本美術が与えたインパクトとその意味を詳細に解説する」と。文庫化にあたり、巻末に版自著解説「「ジャポニスム」は理解されてきたか?」が加えられています。「この本を一読すれば分かると思うが、これは日本文化のすばらしさを謳うものでは全くない。〔…〕ジャポニスムとは西洋人が作り上げたもので、そこには日本への賛美もないわけではないが、基本的には西洋人が、自分たちが持っていた表現方法や物の考えかたに対して、異なった見方を取り入れようとしたものである」(364頁)。「1997年に初版が出た時から、28年という歳月が経っているので、私自身ジャポニスムに関してもいくつか執筆しているのだが、今回の文庫版には大幅な加筆はせず、最小限の訂正と情報提供に留めた」とお書きになっています。 ★『日本・現代・美術』は、1997年に新潮社より刊行された、美術評論家の椹木野衣(さわらぎ・のい, 1962-)さんの単著の文庫化。カバー裏紹介文に曰く「世界史から切り離され、忘却と堂々めぐりを繰り返す「閉じられた円環」である「悪い場所」日本において、美術の歴史は成立しているのか? 1945年=敗戦以降の美術の動向と批評の堆積を遡行し、歴史的・政治的なコンテクストに位置づける」。文庫版あとがきによれば「文庫化にあたり増補はもちろん、最小限の表記の変更や適切な語句への修正、補足的な註などを除いては、原則として加筆・修正をいっさい行わなかった(ただし口絵については新たに河原温の「浴室」シリーズから1点を加えた。これは初版刊行当時から所望していたものが実現できていなかった)」とのことです。巻末解説は安藤礼二さんによる「「悪い場所」を超えて」です。 ★『ボスニア内戦』は、2008年に有志舎から刊行された単行本を改訂し文庫化したもの。1992年4月から19995年11月までの3年半にわたり、イスラム教徒のボシュニャク人、東方正教会のセルビア人、カトリックのクロアチア人のあいだに勃発したボスニア内戦における残虐行為を、旧ユーゴ国際戦犯法廷や国際刑事裁判所の記録を通じて分析しています。「これからの戦争は、国家と民族の衰退を加速させるだけなのだ。このことに多くの人が気づいて、無意味な軍拡と兵器開発を止め、気候変動対策や住む場所を失った人々の救済に資源を振り向けるべきである。本書がそのための一助となることを願っている」(文庫版あとがきより)。佐原徹哉(さはら・てつや, 1963-)さんは明治大学教授。ご専門は東欧史・比較ジェノサイド研究です。まもなく最新著『極右インターナショナリズムの時代――世界右傾化の正体』が有志舎から発売となります。 ★『ブリタニア列王史』は、2007年に南雲堂フェニックスから刊行された単行本の文庫化。帯文に曰く「ブリタニア王国建国から滅亡までの二千年を活写し、アーサー王や魔術師マーリンの事績を体系づけた壮大な偽史」。訳者の言葉を借りると、アーサー王の生涯がはじめて修正されて網羅的に描かれ、アーサー王伝説にいわば歴史的な骨子と枠組みを付与し、アーサー王を疑似歴史上の君主として創りあげた『Historia Regum Britannie』(1138年頃)の訳書です。底本はニール・ライトによる編書(1985年)で、参考した他の版は「訳者あとがき」冒頭に掲出されています。著者のジェフリー・オヴ・モンマス(Geoffrey of Monmouth, c1100-c1154/55)は南ウェールズのカトリックの聖職者。本書のほかの日本語で読める著書には、同じ訳者による『マーリンの生涯――中世ラテン叙事詩』(南雲堂フェニックス、2009年5月)があります。 ★このほか最近では以下の新刊との出逢いがありました。 『スネーク・ピープル――ジグザグデモ、あるいは戦術の系譜』酒井隆史(著)、洛北出版、2025年8月、本体2,800円、四六判並製414頁、ISBN978-4-903127-37-8 『エモさと報道』西田亮介(著)、ゲンロン、2025年7月、本体2,000円、四六判並製232頁、ISBN:978-4-907188-62-7 『激動の時代』マリオ・バルガス=リョサ(著)、久野量一(訳)、作品社、2025年8月、本体3,600円、46判並製332頁、ISBN978-4-86793-103-5 『後藤新平論集』後藤新平(著)、立石駒吉(編)、伏見岳人(監修・解説)、藤原書店、2025年7月、本体3,000円、四六判上製320頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-465-7 『国史より観たる皇室――[附]日本の行くべき道』徳富蘇峰(著)、所功(註・解説)、藤原書店、2025年7月、本体2,700円、四六変型判上製208頁+口絵4頁、ISBN 978-4-86578-466-4 『玉井義臣の全仕事 あしなが運動六十年(5)遺児作文集 天国にいるおとうさま/黒い虹 ほか』玉井義臣(著)、藤原書店、2025年7月、本体8,000円、A5判上製布クロス装560頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-467-1 ★『スネーク・ピープル』はまもなく発売。社会学者の酒井隆史(さかい・たかし, 1965-)さんの論考「Notes on the Snake Dance / Zigzag Demonstration」(『体制の歴史』所収、洛北出版、2013年)を発展させたもので、『通天閣』(青土社、2011年)の「スピンオフ」とのこと。帯文に曰く「かつてのデモは、多種で柔軟だった。なかでも路上を蛇行するジグザグデモは、デモンストレーションの華であり、労働者・失業者、老若男女・色とりどりの人びとを魅了した。しかし、その変幻自在な乱舞のあらわれは、大衆の愚かな「はみだし」としてバッシングされ、内と外から「迷惑行為」として規制されていく…。このスネーク・ダンスの誕生から姿を消すまでの、蛇行の軌跡を追尾する」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★『エモさと報道』は、ゲンロン叢書の第17弾。マスメディアの「エモい記事」をめぐる論争から生まれた一冊。社会学者の西田亮介(にしだ・りょうすけ, 1983-)さんの提言と、それを発端とした対談や鼎談が収められています。「インターネット、SNS、動画という新しい事業形態が全面化した環境のことで、なぜ「民業としての報道」の成立、存続を自明視できるのだろうか」(38頁)。「「信頼できる情報」はその土台となる「トラストな情報基盤」があって初めて提供される。しかしそのような土台の維持、発展はメディア環境の変化によってハード、ソフトともに棄損されているのではないか。それが筆者の問題意識であり、認識である」(47頁)。 ★「ここでいう「トラストな情報基盤」とは、正確な情報を収集し、信頼できるコンテンツの制作と流通を具体的に保証する制度、仕組み、機能を有する報道事業者等の総体のことである」(36頁)。「筆者が懸念するのは、記者が「個性」を求められる時代だけに、昔ながらの社会部的「軟派もの」の名残やエモーショナルな「ちょっといい話」「お涙頂戴物」の現代バージョンを、貴重な紙面やネットに垂れ流しているのではないかということだ。そんなものはいまどきネットにいくらでも無料で転がっているはずだ。報道事業者に求められている仕事だろうか」(51頁)。 ★『激動の時代』は、ペルーの作家マリオ・バルガス=リョサ(Mario Vargas Llosa, 1936-2025)の最晩年の長篇『Tiempos recios』(Alfaguara, 2019)の訳書。書名はアビラの聖テレサの自伝から採られているとのことです。グアテマラ革命の挫折が主題の本書は、長篇小説としては19冊目で、最後から数えて2番目の作品だとか。なお本書には『チボの狂宴』(作品社、2010年)の登場人物が再登場します。人名を書くとネタバレになるので、控えておきます。訳者あとがきの全文が作品社のnoteで公開されています。 ★藤原書店の7月新刊は3点。『後藤新平論集』は、後藤新平(ごとう・しんぺい, 1857-1929)が50代前半の折に行った講演と論説を46編収録したもの。1911年に刊行された書籍の復刊。「文明国の要素」と「新国歌」は収録から外されています。『国史より観たる皇室』は、公職追放され自宅拘禁中の徳富蘇峰(とくとみ・そほう, 1863-1957)が1946年に語り下ろし1953年に私家版として刊行された幻の遺著の復刊。併載された「日本の行くべき道」は同じく1953年の口述で謄写版の小冊子として残されていたもの。『遺児作文集 天国にいるおとうさま/黒い虹 ほか』は、「玉井義臣の全仕事」全6巻中の第5回配本。帯文に曰く「交通遺児・災害遺児・震災遺児・病気遺児・自死遺児に加えて、遺児家庭保護者の声を含めた生の声を厳選して、この一冊に収録」と。
by urag
| 2025-08-03 21:33
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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