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2025年 07月 27日

注目新刊:ウィダー『深海の闇の奥へ』紀伊國屋書店、ほか

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★まずは注目の文庫新刊既刊を記します。

政治的なものの概念』カール・シュミット(著)、中山元(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年7月、本体1,060円、文庫判384頁、ISBN978-4-334-10713-0
エミール 2』ルソー(著)、斉藤悦則(訳)、光文社古典新訳文庫、2025年7月、本体1,500円、文庫判518頁、ISBN978-4-334-10712-3
戦争と漫画 銃後の物語』山田英生(編)、ちくま文庫、2025年7月、本体980円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-44042-6
戦争と漫画 戦地の物語』山田英生(編)、ちくま文庫、2025年6月、本体940円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-44037-2
深夜の祝祭――澁澤龍彥怪異小品集』澁澤龍彦(著)、東雅夫(編)、平凡社ライブラリー(文豪怪異小品シリーズ第14弾)、2025年7月、本体1,900円、B6変型判並製384頁、ISBN978-4-582-76993-7
最初の哲学、最後の哲学――形而上学と科学のあいだの西洋の知』ジョルジョ・アガンベン(著)、岡田温司(訳)、平凡社ライブラリー、2025年6月、本体1,900円、B6変型判並製224頁、ISBN978-4-582-76991-3
中国奇想小説集――古今異界万華鏡』井波律子(編訳)、平凡社ライブラリー、2025年6月、本体1,800円、B6変型判並製336頁、ISBN978-4-582-76992-0
本と子どもが教えてくれたこと』中川李枝子(著)、平凡社ライブラリー、2025年4月、本体1,300円、B6変型判並製128頁、ISBN978-4-582-76988-3
トリストラントとイザルデ』アイルハルト・フォン・オーベルク(著)、石川栄作(訳)、講談社学術文庫、2025年6月、本体1,500円、A6判344頁、ISBN978-4-06-539833-3

★光文社古典新訳文庫の7月新刊は2点。カール・シュミット『政治的なものの概念』は、近年では 権左武志訳(岩波文庫、2023年8月)に続く新訳。権左訳は「1932年版と33年版を全訳し、各版での修正箇所を示すことで、初出論文である27年版からの変化をたどれるように編集。さらに63年版の序文や補遺等も収録」したものでした。今回の中山訳では、第2版(1932年/1963年、最終版)と第3版(1933年、ナチス版)、最終版(1963年)のまえがきと、第2版(1932年)のあとがきを収録。中山さんの巻末解説から紹介文を引きます。

★「大幅な改訂を加えた第二版は、戦後になってシュミットが底本として採用したものであり、第一版では語り得なかった問題についてもさまざまな分野まで考察を広げている。ナチスが政権を取る直前の版であり、当時のシュミットの政治哲学的な模索の現場をかいま見せてくれる。/翌年刊行された第三版は、シュミットがナチスに入党した後に刊行されたものであり、第二版において学問的に高く評価していたユダヤ人のエーリヒ・カウフマンについての言及をすべて削除しただけえではなく、人種差別的な表現をいくつか滑り込ませるようなこともしている。さらにナチスの運動体としての側面に注目した言及もみられる。細かなところまで秀が入っているので、ナチス時代にシュミットが自分の著作をどのようなものとして見られたいと考えていたかを知るために役立つだろう」(380~381頁)。

★『エミール 2』は、全3巻の第2巻。「信仰と道徳についてルソー自身の哲学観、宗教観がもっとも色濃く語られる「サヴォワの助任司祭の信仰告白」を収録」(カバー表4紹介文より)。第1巻は4月に刊行済。これまでに光文社古典新訳文庫で刊行されたルソーの新訳には『エミール』のほか3点あります。2008年8月『人間不平等起源論』中山元訳、2008年9月『社会契約論/ジュネーヴ草稿』中山元訳、2012年9月『孤独な散歩者の夢想』永田千奈訳。『エミール』を訳した斉藤悦則の同文庫での既訳書には、2011年7月にマルサス『人口論』、2012年6月にミル『自由論』、2015年10月にヴォルテール『カンディード』、2016年5月にヴォルテール『寛容論』、2017年5月にヴォルテール『哲学書簡』があります。

★『戦地の物語』『銃後の物語』は、山田英生(やまだ・ひでお, 1968-)さん編纂によるマンガアンソロジー『戦争と漫画』全3巻の第1弾と第2弾。第1弾『戦地の物語』では、12作品を収録。武田一義、滝田ゆう(原作:野間宏)、水木しげる、わちさんぺい、山田参助、楳図かずお、石坂啓、今日マチ子、比嘉慂、村上もとか、河井克夫(原作:辺見じゅん)、ちばてつや、の各氏。巻末エッセイは吉田裕さん。第2弾『銃後の物語』でも12作品を収録。こうの史代、伊藤重夫、大島弓子、滝沢聖峰、古谷三敏、石坂啓、水木しげる、おざわゆき、巴里夫、近藤ようこ(原作:坂口安吾)、伊藤潤二、滝田ゆう、の各氏。巻末エッセイは中島京子さん。それぞれの目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。来月8月には、第3弾『焦土の記憶』が発売予定です。山田さんによるマンガアンソロジー集は『戦争と漫画』のほかに9点あります。うち8点の整理番号は「や-50」番台で、「現代マンガ選集」のシリーズの1冊『悪の愉しみ』で、こちらの整理番号のみ「け-6-6」です。

★平凡社ライブラリーの4~7月新刊より4点。4月刊『本と子どもが教えてくれたこと』は、児童文学作家の中川李枝子(なかがわ・りえこ, 1935-2024)さんの語り下ろし自伝(平凡社、2019年)の文庫化。版元紹介文に曰く「名作絵本『ぐりとぐら』『いやいやえん』を生み出した本と子どもとの出合い。巻末に手書きのメッセージ、おすすめのブックリスト付」。巻頭に掲げられた著者の言葉がとても素敵です。「もし、誰かに「あなたの人生は幸せでしたか?」と聞かれたら、「はい、とても」と答えるつもり。「どうして?」と聞かれたら、「本をたくさん読めたからよ」と答えるでしょうね。まだ聞かれたことはないけれど」。巻末解説は夢眠ねむさんによる「本に育てられた、かつての子どもたち」。

★6月刊2点『最初の哲学、最後の哲学』は、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベン(Giorgio Agamben, 1942-)さんの著書『Filosofia prima filosofia ultima: Il sapere dell'Occidente fra metafisica e scienze』(Einaudi, 2023)の全訳。文庫化ではなく、最初から文庫版で出るのはアガンベンさんの訳書では初めてです。「この研究は、西洋哲学の伝統において「第一哲学」という言い回しによって、あるいはまた――少なくともこの伝統の一部において――「形而上学」という用語によって、いったい何が意図されてきたのかを解明しようとするものである。ここでわたしたちにとって関心があるのは、それを理論的に定義することよりもむしろ、この概念が哲学史のなかで帯びてきた戦略的な機能を解明することである」(9頁)。「第二哲学」「分裂した哲学」「超越論批判」「無限の名」「超越論的対象=X」「形而上学的動物」の全6章立て。

★『中国奇想小説集』は、2018年に同社から刊行された単行本の文庫化。六朝から唐、宋、明、清代までの古典『捜神記』『唐代伝奇』『聊斎志異』『子不語』などから奇想幻想小説26編を精選したもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「白娘子 永えに雷峰塔に鎮めらるること」は17世紀初め(明末)に馮夢龍(ふうぼうりゅう, 1574-1646)が編纂した小説集『警世通言』に収められた「白娘子永鎮雷峰塔」の現代語訳。いわゆる白蛇伝と総称される民間伝説に属するものです。日本では上田秋成の『雨月物語』の「蛇性の婬」がその一変奏と言えます。日本でも児童書からコミック、小説、実写映画、アニメ、ミュージカルなど、幅広く取り上げられてきた主題です。

★『深夜の祝祭』は、東雅夫さんが編者をつとめる「文豪怪異小品集」シリーズの第14弾。今回は澁澤龍彥がフィーチャーされています。「物語作家・澁澤龍彥の精髄を収めた〈女妖について〉、雑誌「幻想文学」に寄稿した評論、関連エッセイを網羅した〈書妖について〉、幼年期を過ごした東京・田端や思い出深い鎌倉など土地にまつわる記憶を綴った〈地妖について〉の三章立て」(カバー表4紹介文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。ご参考までに「文豪怪異小品集」シリーズの既刊書を以下に記します。

第01弾:2012年06月『おばけずき――鏡花怪異小品集』泉鏡花
第02弾:2013年06月『百鬼園百物語――百閒怪異小品集』内田百閒
第05弾:2016年07月『怪談入門――乱歩怪異小品集』江戸川乱歩
第10弾:2021年08月『幻想童話名作選――文豪怪異小品集 特別篇』泉鏡花/内田百間/佐藤春夫/江戸川乱歩/夢野久作/谷崎潤一郎/小川未明/三島由紀夫/宮沢賢治/鈴木三重吉/室生犀星/芥川龍之介/与謝野晶子/小泉八雲/川路重之/巌谷小波
第12弾:2023年08月『龍潭譚/白鬼女物語――鏡花怪異小品集』泉鏡花(2回目)

★『トリストラントとイザルデ』は、ケルト起源のトリスタン伝説が発展するなかで、12世紀後半に古フランス語で纏められた原典(その後散逸)をもとにドイツ語で物語を書いた、アイルハルト・フォン・オーベルクの作品を新訳したもの。訳者解説によれば「トリスタン伝説の全貌を伝える最古の作品」とのこと。底本が違いますが、文庫で読めるトリスタン伝説には、今回の新訳と底本が異なりますが、ジョゼフ・ベティエ編『トリスタン・イズー物語』(佐藤輝夫訳、岩波文庫、1953年;改版1985年)がありました。現在は品切。オーベルク版の既訳については、wikipediaの「トリスタンとイゾルデ」の項目をご参照ください。

★このほか最近では以下の新刊との出逢いがありました。

深海の闇の奥へ』エディス・ウィダー(著)、橘明美(訳)、紀伊國屋書店、2025年8月、本体3,000円、46判並製464頁、ISBN978-4-314-01215-7
熊になったわたし――人類学者、シベリアで世界の狭間に生きる』ナスターシャ・マルタン(著)、高野優(訳)、紀伊國屋書店、2025年8月、本体2,000円、46判並製208頁、ISBN978-4-314-01211-9
アナーキーのこと』フランシス・デュピュイ=デリ/トマ・デリ(著)、片岡大右(訳)、作品社、2025年7月、本体2,700円、四六判並製288頁、ISBN978-4-86793-089-2
浮世絵のみかた』フランク・ロイド・ライト(著)、上杉隼人(編訳)、作品社、2025年7月、本体2,700円、A5判並製208頁、ISBN978-4-86793-102-8
ウオルド』大小島真木(文・絵)、作品社、2025年7月、本体2,700円、B4横変形判上製56頁、ISBN978-4-86182-989-5
現代思想2025年8月号 特集=「昭和一〇〇年」から問う』青土社、2025年7月、本体1,800円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1485-8

★紀伊國屋書店さんのまもなく発売となる新刊より2点。『深海の闇の奥へ』は、米国の海洋学者エディス・ウィダー(Edith Anne Widder Smith, 1951-)による科学ノンフィクション『Below the Edge of Darkness: A Memoir of Exploring Light and Life in the Deep Sea』(Random House, 2021)の訳書です。帯文に曰く「世界初、生きたダイオウイカの撮影に成功した女性科学者が地球最後のフロンティアに潜む謎に挑んだ40年の軌跡」と。映画監督のジェームズ・キャメロンは「苦難を乗り越えて楽観主義を貫いた、懸命な探究と画期的な研究の物語」と評しています。

★『熊になったわたし』は、フランスの人類学者ナスターシャ・マルタン(Nastassja Martin, 1986-)の実録『Croire aux fauves』(Verticales, 2019)の訳書。帯文によれば「熊に顔をかじられ九死に一生を得た人類学者の変容と再生の軌跡を追ったノンフィクション」。当時著者は29歳。襲われた後に応急処置を受け、ヘリで搬送されて治療される過程がまず描かれます。彼女の友人はこう言います。「今、君はミエトゥカ――二つの世界の狭間で生きる者になったんだ」と。ツングース諸語のひとつであるエヴェン語で「熊に印をつけられた者」という意味のミエトゥカは、半分人間で半分熊だと見なされるそうです。フランスでベストセラーとなり、複数の賞を受賞しています。

★作品社さんの7月新刊より3点。『アナーキーのこと』は、カナダの政治学者フランシス・デュピュイ=デリ(Francis Dupuis-Déri, 1966-)と彼の父で出版人のトマ・デリ(Thomas Déri, 1936-)の共著『L'anarchie expliquée à mon père』(Lux éditeur, 2014)の全訳。「本書では、無神論者で兵役拒否者の父親と、大学でアナキズムを講じる政治学者の息子との対話をとおして、〔…〕「調和による秩序」を求めるその核心を明らかにし、現在の社会問題へと接続する。国家、宗教、家父長制、資本主義、人種差別など、豊富な論点を取り上げ、総合的な見取り図を提供する、最良の基本書」(カバーソデ紹介文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『浮世絵のみかた』は、「近代建築の巨匠ライトが遺した、浮世絵にまつわる評論/エッセイを一冊にまとめる、本邦初の書籍。ライトが日本で収集し、アメリカに持ち帰った作品のカラー図版、96点を収録」(帯文より)。「浮世絵 ひとつの解釈」「暫(しばらく)」「未来の世代のために」「一九〇六年シカゴ美術館「広重展」序文」「日本古代誌」「浮世絵を追い求めて」の全6章。フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright, 1867-1959)は米国の建築家。1910年代から20年代に日本で手掛けた建築に、帝国ホテルライト館や自由学園明日館、旧山邑邸などがあります。

★『ウオルド』は、美術家の大小島真木(おおこじま・まき, 1987-)さんと編集者の辻陽介(つじ・ようすけ, 1983-)さんの二氏によるアートユニット「大小島真木」が手掛ける初めての絵本。シュルレアリスムを思わせる絵画群に言葉が添えられています。ユニットの制作活動は「「絡まり、もつれ、ほころびながら、いびつに循環していく生命」をテーマにしているとのこと。9月には本書の特装限定版(クロス装、函入、直筆サインおよびナンバリング入りの銅版画付き)が作品社ウェブサイトで税別5万円にて発売されると予告されています。

★『現代思想2025年8月号』の特集は「「昭和一〇〇年」から問う」。版元紹介文に曰く「近年――憧憬あるいは嫌悪をもって――盛んに回顧される「昭和」表象にも目を向けつつ、60年余りに及んだこの一時代をいま改めて問うことで、戦前/戦後を貫き現在にまで連なる歴史のありようを広く見渡していく」と。佐藤卓己さんと成田龍一さんによる討議「記憶の場としての「昭和」/方法としての「昭和」」のほか、論考17本と資料1本を掲載。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。次号9月号の特集は「米と日本人」とのこと。


by urag | 2025-07-27 17:17 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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