2025年 06月 09日
★まず、まもなく発売となるちくま学芸文庫の6月新刊5点を列記します。 『古典の継承者たち――ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史』L・D・レノルズ/N・G・ウィルソン(著)、西村賀子/吉武純夫(訳)、ちくま学芸文庫、2025年6月、本体1,800円、文庫判624頁、ISBN978-4-480-51183-6 『インド哲学 七つの難問』宮元啓一(著)、ちくま学芸文庫、2025年6月、本体1,200円、文庫判272頁、ISBN978-4-480-51305-2 『「文明の裁き」をこえて――対日戦犯裁判読解の試み』牛村圭(著)、ちくま学芸文庫、2025年6月、本体1,600円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-51314-4 『増補 害虫の誕生――虫からみた日本史』瀬戸口明久(著)、ちくま学芸文庫、2025年6月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51178-2 『物理学の発展――山本義隆自選論集Ⅱ』山本義隆(著)、ちくま学芸文庫、2025年6月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-51304-5 ★『古典の継承者たち』は、英国のラテン語学者L・D・レノルズ(Leighton Durham Reynolds, 1930-1999)と、英国の古典学者N・G・ウィルソン(Nigel Guy Wilson, 1935-)の共著『Scribes and Scholars: A Guide to the Transmission of Greek and Latin Literature』(初版1968年、第二版1974年、第三版1991年)の訳書(国文社、1996年)の文庫化。文庫版訳者あとがきと巻末特記によれば、文庫化にあたり、原書の第四版(2013年刊)にもとづいて改訂をおこなったとのことです。ウィルソンによる2012年7月付の序文によれば「前の版の刊行以来、20年以上経ち、もう一度、このテーマへの最近の貢献を考慮すべき時が来た。本文は大部分、変更していない。注はかなりの数の調整が必要だった。その多くはマイケル・リーブ氏に負っている」とあります。 ★『インド哲学 七つの難問』は、2002年に講談社メチエの1冊として刊行されたものの文庫化。「ことばには世界を創る力があるのか?」「「有る」とは何か、「無い」とは何か?」「本当の「自己」とは何か?」「無我説は成り立つか?」「名付けの根拠は何か?」「知識は形をもつか?」「どのようにして、何が何の原因なのか?」の全7問。文庫版へのあとがきでは、親本刊行以後の宮元啓一(みやもと・けいいち, 1948-)さんの主な著訳書が紹介されています。 ★『「文明の裁き」をこえて』は、2001年に中公叢書の1冊として刊行されたものの文庫化。文庫版へのあとがきによれば、もともとは「博士論文を企図した草稿」で、刊行後に山本七平賞を受賞。さらに中公叢書版に加筆して博士の学位を授与された経緯を明かしておられます。文庫化にあたり「冗長な表現等に手を加え」たとのことです。カバー表4紹介文に曰く「東京裁判を始めとする対日戦争犯罪裁判〔…〕戦犯とされた日本人はいかにして西洋文明という異文明に対峙したのか。膨大な法廷速記録をはじめとする諸史料を丹念に読み解き、「曖昧な答弁で責任追及をはぐらかす日本人戦犯」という丸山眞男流のイメージは誤りだったことを明らかにする」と。著者の牛村圭(うしむら・けい, 1959-)さんは、明星大学、日文研を経て現在、日本文化大學法学部教授。 ★『増補 害虫の誕生』は、2009年にちくま新書の1冊として刊行された親本に加筆訂正し、補章「害虫の誕生再考」と文庫版あとがきを加えたもの。文庫版あとがきによれば「新書との違いは以下の通りである。まず出典を明示するため、新書版のもとになった私の博士論文をもとに註を追加した。ただし本文については基本的に新書版のもとになった私の博士論文をもとに註を追加した。ただし本文については基本的に新書版のままとし、明らかな誤りや誤字などを修正するにとどめた。そのため註にあげられている参考文献は、新書版が発行された段階までの研究にとどめている。/今回追加した補章は、刊行後16年がたって、もう一度、自然と人間の関係について考えなおしたものである」。著者の瀬戸口明久(せとぐち・あきひさ, 1975-)さんは京都大学人文科学研究所教授。ご専門は科学史、環境史です。 ★『物理学の発展』は、Math&Scienceシリーズの1冊。『物理学の誕生』(2024年10月)に続く「山本義隆自選論集」の第2巻です。カバー表4紹介文によれば「自選論集の完結編である本書では、熱力学や電磁気学などの18、19世紀における革新的な成果を跡づけつつ、古典力学から量子論・量子力学の誕生までの道筋をたどる」。12本の論考のほか「あとがき――物理学について,私がこれまで書いてきたもの」が付されています。曰く「『物理学の発展』は、ニュートンまで語った『物理学の誕生』の続編として、オイラーに始まり、ラグランジュ、そして哲学者カントへと進みます。そこから先は歴史を離れ、20世紀物理学のさらなる発展へと話題は広がっています。収録した12の論考のうち、「7. ケブラー問題の初等的解法と離心ベクトルの保存について」と「12. 相対性理論入門講座」以外はすべて依頼されてどこかに書いたもの、今回それらをもとに手を加えたものです」。 ★続いて、藤原書店さんの5月新刊3点。 『声の文化と文字の文化〈普及版〉』ウォルター・J・オング(著)、桜井直文/林正寛/糟谷啓介(訳)、藤原書店、2025年5月、本体2,800円、四六判並製416頁、ISBN978-4-86578-462-6 『世界の多様性――家族構造と近代性〈普及版〉』エマニュエル・トッド(著)、荻野文隆(訳)、藤原書店、2025年5月、本体3,300円、A5判並製576頁(付カラー地図)、ISBN978-4-86578-463-3 『金時鐘コレクション(9)故郷への訪問と詩の未来――「五十年の距離、月より遠く」ほか 文集3』金時鐘(著)、多和田葉子(解説)、細見和之(解題)、藤原書店、2025年5月、本体4,200円、四六変型判上製424頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-461-9 ★『声の文化と文字の文化〈普及版〉』は、アメリカの文化史家でイエズス会士のウォルター・J・オング(Walter Jackson Ong, 1912-2003)の著書『Orality and Literacy: The Technologizing of the Word』(1982年)の全訳(1991年)の再刊。「「書く技術」の登場は、人間の思考と社会構造をどのように変化させたのか。文字言語以前の社会における記憶・思考の形式や生活文化の特性をつぶさに描き、「文字文化」そして「印刷文化」における言語のあり方を捉え返す」(帯文より)。共訳者の桜井直文さんによる「文字の文化以前以後――普及版へのあとがきにかえて」が新たに加わっています。巻頭の編集部付記によれば「参考文献の邦訳書情報を追加した」とのことです。税別定価は旧版4,500円から普及版2,800円に下がりました。 ★『世界の多様性〈普及版〉』は、フランスの歴史家エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd, 1951-)の著書『La Diversité du monde : structures familiales et modernité』(Seuil, 1999)の全訳(2008年)の再刊。「“家族構造”の分析で、全く新しい世界認識を提示するトッド理論の原点」(帯文より)。訳者の荻野文隆さんによる「普及版への訳者あとがき」が新たに加わっています。曰く「『世界の多様性』はまさに、均一で単一な規範の支配による全体主義への抵抗運動を支える指針として、守るべき「多様性」のなんたるかを明らかにした歴史的人類学的な分析である。このタイミングで普及版が刊行される意義もそこにある」と。税別定価は旧版4,600円から普及版3,300円に下がりました。 ★『故郷への訪問と詩の未来』は、「金時鐘コレクション」全12巻中の第11回配本となる第9巻。帯文に曰く「金時鐘はなぜ「思想詩人」と言われるのか。「情感過多」な日本語に背を向け通してきた著者の、「異質」とも思える言語のエッセイ。社会批評、文学論、あるべき詩への揺るぎない論究」。目次詳細は書名のリンク先でご確認ください。巻末には多和田葉子さんによる解説「狼が見えた少年」と、細見和之さんによる解題が付されています。付属の「月報」は岡葉子「詩の教室」、なんどう照子「大阪文学学校「金時鐘公開講座」にて」、方政雄「高校における初めての「朝鮮語」授業」、向井徹「金時鐘をめぐる「運命の紐」」を収載。 ★最後に、作品社の5月新刊4点を列記します。 『炎症と人間――燃える地球と人体を癒す真の処方箋』ルパ・マリア/ラジ・パテル(著)、山本規雄(訳)、作品社、2025年5月、本体3,600円、四六判並製408頁、ISBN978-4-86793-094-6 『奪われた集中力――もう一度“じっくり”考えるための方法』ヨハン・ハリ(著)、福井昌子(訳)、作品社、本体2,700円、四六判並製352頁、ISBN978-4-86793-090-8 『黒澤明の音楽――鈴木静一、服部正、早坂文雄、伊福部昭、佐藤勝とその響き』小林淳(著)、作品社、2025年5月、本体4,500円、四六判並製496頁、ISBN978-4-86793-092-2 『日本の防衛政策――冷戦後の30年と現在』杉本康士(著)、作品社、2025年5月、本体2,700円、四六判並製400頁、ISBN 978-4-86793-088-5 ★『炎症と人間』は、米国の医師ルパ・マリア(Rupa Marya)さんと、テキサス大学オースティン校教授のラジ・パテル(Raj Patel)さんの共著『Inflamed: Deep Medicine and the Anatomy of Injustice』(2021年)の全訳。帯文に曰く「エコノミストと医師のタッグが、現代世界の病理を診断。真の原因〈植民地主義〉から脱するための「深層医療」の真髄」と。目次詳細と原註は書名のリンク先でご確認いただけます。「DemocracyNow!」の紹介動画を以下に掲出しておきます。 ★『奪われた集中力』は、英国出身の作家でジャーナリストのヨハン・ハリ(Johann Hari, 1979-)さんの著書『Stolen Focus: Why You Can't Pay Attention – and How to Think Deeply Again』(2022年)の全訳。世界で100万部売れているベストセラーとのことです。「現代人全員が、何かしら頭を悩ませている「集中力の喪失」はなぜ生じているのか? 世界各地の専門家や研究者250人以上に取材し明らかになったのは、私たちの集中力はただ失われたのではなく「奪われ」ていること、そして必要なのは個人的な努力にとどまらず、社会全体で「取り戻す」取り組みであるということだった。仕事ではマルチタスクに追い立てられ、休日はSNSとショート動画に費やしてしまう、だけど本当はじっくり集中して、豊かな人生を取り戻したい、すべての人の必読書」(カバーソデ紹介文より)。書名のリンク先で目次詳細と「イントロダクション」が公開されています。 ★『黒澤明の音楽』は、帯文によれば「登場人物を引き立たせるライトモチーフ、実験的なコントラプンクト……『姿三四郎』から『赤ひげ』までの23作品にちりばめられた仕掛けが、映画音楽評論の第一人者によって説き明かされる。ファン必携の力作」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。著者の小林淳(こばやし・あつし, 1958-)さんは映画・映画音楽評論家。2020年には同社より長篇評論『ゴジラの音楽――伊福部昭、佐藤勝、宮内國郎、眞鍋理一郎の響きとその時代』を上梓されています。 ★『日本の防衛政策』は、帯文に曰く「石破茂首相、岸田文雄元首相ほか、防衛相、国家安全保障局長、防衛事務次官、統合幕僚長ら現役・OB等に取材」し、日本の防衛政策をめぐりその「決定過程を詳細に明らかにする」もの。目次を下段に転記しておきます。付録として詳細な年表「冷戦後の防衛政策」が付いています。著者の杉本康士(すぎもと・こうじ, 1974-)さんは産経新聞外信部次長。 目次: はじめに――なぜ戦略の形成過程を検証する必要があるのか? 第1章 冷戦終結と軍縮の季節――1995年の防衛計画の大綱 第2章 テロとの戦いと小泉構造改革の嵐――2004年の防衛計画の大綱 第3章 中国台頭と民主党政権の光と影――2010年の防衛計画の大綱 第4章 安倍政権の挑戦と挫折――2013年の防衛計画の大綱 第5章 安部政権、二度目の正直とその限界――2018年の防衛計画の大綱 第6章 打撃力保有への道――2020年の内閣総理大臣の談話 第7章 勝てる自衛隊への模索――2022年の戦略3文書 第8章 歴史的転換めぐる攻防――2022年の戦略3文書 終章 台湾有事まで死ねない 謝辞 注 参考文献 用語解説 人名索引 〈組織図〉防衛力整備に関する主な組織とポスト
by urag
| 2025-06-09 01:33
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