人気ブログランキング | 話題のタグを見る

URGT-B(ウラゲツブログ)

urag.exblog.jp
ブログトップ
2025年 06月 01日

注目新刊:平凡社シリーズ「本の文化史」完結、ほか

注目新刊:平凡社シリーズ「本の文化史」完結、ほか_a0018105_00202234.jpg


★まず、注目文庫新刊を列記します。

イメージ、それでもなお――アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(著)、橋本一径(訳)、平凡社ライブラリー、2025年5月、本体2,400円、B6変型判並製408頁、ISBN978-4-582-76989-0
『改造』論文集成――革新の現象学と倫理学』エトムント・フッサール(著)、植村玄輝/鈴木崇志/八重樫徹/吉川孝(訳)、講談社学術文庫、2025年5月、本体1,700円、A6判392頁、ISBN978-4-06-539814-2
神々の構造――印欧語族三区分イデオロギー』ジョルジュ・デュメジル(著)、松村一男(訳)、講談社学術文庫、2025年5月、本体1,200円、256判256頁、ISBN978-4-06-539612-4
自殺について 他四篇』ショーペンハウアー(著)、藤野寛(訳)、岩波文庫、2025年5月、本体700円、文庫判164頁、ISBN978-4-00-336327-0
過去と思索(七)』ゲルツェン(著)、金子幸彦/長縄光男(訳)、岩波文庫、2025年5月、本体1,560円、文庫判544頁、ISBN978-4-00-386046-5

★平凡社ライブラリー『イメージ、それでもなお』は、フランスの美術史家ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(Georges Didi-Huberman, 1953-)の著書『Images malgré tout』(Minuit, 2003)の全訳(平凡社、2006年)のライブラリー化。平凡社ライブラリー版「訳者あとがき」によれば、再刊にあたり「訳文に大幅な改変はしていないが、この機に全体を見直し、必要と思われた修正は加えてある。とりわけ注において、本書の初版刊行以後に新たに日本語に訳出された文献の情報は、できる限り付け加えた」とのことです。巻末には田中純さんによる解説「歴史の症候――希望としてのイメージ」が加えられています。

★講談社学術文庫の5月新刊より2点。『『改造』論文集成』は、カバー表4紹介文に曰く「現象学の創始者エトムント・フッサール(1859-1938)は、その地位を確立した『イデーンⅠ』を刊行したあと、長い沈黙の時期に入った。その間、世界大戦を経験するヨーロッパの中で哲学者は何を思索したのか? 日本の総合雑誌『改造』からの依頼に応えて執筆した5本の論文〔1922~23年執筆〕に加え、草稿や関連する講演をも収録した、初の日本語版集成」。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。当時の翻訳の再刊ではなく、ドイツ語版原典からの新訳です。『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』 (原著1936年刊;細谷恒夫/木田元訳、中央公論社、1974年;中公文庫、1995年)に関連する主題を見出すことができる重要書です。

★『神々の構造』は、フランスの比較神話学者ジョルジュ・デュメジル(Georges Dumézil, 1898-1986)の著書『L'idéologie tripartie des Indo-Européens』(Latomus, 1958)の訳書(国文社、1987年)の文庫化。原著の付論は訳出されていません。帯文に曰く「人類はいかにして神を創ったのか? 比較神話学の巨人による革命的入門書」。巻末の訳者解説には加筆があり、訳者文献案内はアップデートされています。国文社はすでに廃業しているため、遺産がこうして再刊されていくことは非常に有意義です。

★岩波文庫の5月新刊より2点。ショーペンハウアー『自殺について 他四篇』は、『余禄と補遺』(Parerga und Paralipomena, 1851)から「生と死をめぐる5篇を収録」(カバー紹介文より)。旧訳版は、斎藤信治訳『自殺について 他四篇』(1952年;改版1979年;著者名表記はショウペンハウエル)です。同名文庫には、ショーペンハウエル『自殺について』(石井立訳、角川文庫、1955年;新版、角川ソフィア文庫、2012年)があります。こちらは『新補遺』(Neue Paralipomena, 1892?)から「死によってわたしたちの真の存在は滅ぼされるものではないという説」が第一部として訳出され、第二部では『余禄と補遺』から岩波文庫版と同様の箇所が訳出されています。目次を対照させると以下の通りです。

斎藤訳:我々の真実の本質は死によって破壊せられえないものであるという教説によせて
藤野訳:われわれの真なる存在は死によって破壊されえない、という教説について
石井訳:死によってわたしたちの真の存在は滅ぼされるものではないという説によせて

斎藤訳:現存在の虚無性に関する教説によせる補遺
藤野訳:生存の虚しさについての教説への補足
石井訳:生の空しさに関する説によせる補遺

斎藤訳:世界の苦悩に関する教説によせる補遺
藤野訳:世界の苦しみについての教説への補足
石井訳:この世の悩みに関する説によせる補遺

斎藤訳:自殺について
藤野訳:自殺について
石井訳:自殺について

斎藤訳:生きんとする意志の肯定と否定に関する教説によせる補遺
藤野訳:生きようとする意志の肯定・否定についての教説への補足
石井訳:生きようとする意志の肯定と否定とに関する説によせる補遺

★『過去と思索(七)』は、ゲルツェン自伝全7巻の完結篇。1858~1862年を扱う承前の第七部「自由ロシア印刷所と《コロコル(鐘)》」の第五十七章「R・ウェザリー商会「ウォード・ジャクソン」号」から、1865~1868年を扱う第八部「断章」まで。岩波文庫の複数巻ものは、同社の折々の重版にもかかわらず品切期間が空く場合があるので、後回しにせず在庫があるうちに全巻を揃えておくのが吉です。まだ1冊も買っていない方は、いずれ発売されるだろう全巻が入る化粧函ができてから購入するのもいいかもしれません。

★続いて、最近出会いがあった新刊を列記します。

書籍の思想史』若尾政希(編)、シリーズ〈本の文化史〉:平凡社、2025年5月、本体3,600円、4-6判上製296頁、ISBN978-4-582-40295-7
様式と造本』鈴木俊幸(編)、シリーズ〈本の文化史〉:平凡社、2025年5月、本体3,600円、4-6判上製304頁、ISBN978-4-582-40296-4
共和国における動物――フランス革命と動物の権利の起源 1789-1802年』ピエール・セルナ(著)、楠田悠貴/三澤慶展/山本佳生(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2025年5月、本体3,600円、四六判上製268頁、ISBN978-4-588-01183-2
現代思想2025年6月号 特集=テラフォーミング――惑星改造の技術と思想』青土社、2025年5月、本体1,800円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1482-7

★『書籍の思想史』と『様式と造本』は、シリーズ〈本の文化史〉全6巻の最終回配本となる第5巻と第6巻。第5巻『書籍の思想史』は、編者を務める一橋大名誉教授、若尾政希(わかお・まさき, 1961-)さんによる総論「書籍の思想史」を巻頭に置き、以下の8本の論考が続きます。曽根原理「天海の思想形成と『東照社縁起』の成立」、小川和也「民を養う「牧民の書」 ――近世民政論の形成と展開」、綱川歩美「「闇斎学」の享受者たち――跡部良顕を中心に」、小関悠一郎「明君録と幕藩政改革」、小林准士「異安心事件と仏書出版」、中川和明「平田塾と地方国学――『天満宮御伝記略』とその影響」、矢森小映子「洋学の思想――渡辺崋山と佐久間象山」、古畑侑亮「引き継がれる歴史研究――福住正兄と小室元長の交友から」。

★第6巻『様式と造本』は、編者を務める中央大学教授の鈴木俊幸(すずき・としゆき, 1956-)さんによる総論「様式と造本」を巻頭に置き、以下の8本の論考が続きます。佐々木孝浩「書籍様式の中世と近世」、白井純「キリシタン版の版式」、鈴木広光「平仮名はいかにして活字に載せられたか」、永井一彰「板木から見えてくる世界――秋成の場合」、鈴木俊幸「板木屋考――井上治兵衛の仕事」、森登「江戸期銅版の展開と石版の濫觴」、岩切信一郎「木版印刷の行方――明治期木版印刷の諸相と展開」、木戸雄一「明治の製本様式」。上記2書の各論文のさらに詳しい目次は、それぞれの書名のリンク先でご確認いただけます。

★『共和国における動物』は、フランスの政治史家でパリ第一大学パンテオン=ソルボンヌ校教授、2023年からは東京大学附属東京カレッジの招聘教授も務めているピエール・セルナ(Pierre SERNA, 1963-)の著書『L’Animal en République (1789-1802), Genèse du droit des bêtes』(Anacharsis, 2016)の全訳。訳者あとがきでの紹介を引くと「1802年にフランス国立学士院が公募した「動物虐待は、どの程度一般の道徳的関心を惹くか。この問題に関して法を制定すべきか」という課題の懸賞論文28本(ただし1本は消失)を主たる史料として、歴史家ピエール・セルナが、第一共和政末期を生きた人々の政治認識や社会意識を分析した著作」。帯文に曰く「今日の動物の権利やエコロジー思想の起源に遡る歴史学の挑戦」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。論文を除くと、著書が翻訳されるのは今回が初めてになります。

★『現代思想2025年6月号』の特集は「テラフォーミング」。版元紹介文に曰く「未来の夢物語ではなく現在の課題として、テラフォーミングの技術と思想を検討する」と。巻頭討議は伊勢田哲治+山敷庸亮「いつか地球に住めなくなる日の前に」。論考は、木澤佐登志「未来は奴らの手の中――権威主義的リバタリアニズムとSF的未来像がもたらすもの」、米田翼「惑星間庭園主義――エピクロスの快楽主義を宇宙規模に拡張する」、篠原雅武「「惑星の他性」における人間の条件」など、全16本。6月末発売の次号7月号の特集は「バイスタンダーとは誰か――当事者/非当事者を問いなおす」。


by urag | 2025-06-01 23:49 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


<< 注目新刊:ちくま学芸文庫6月新...      注目新刊:『ゲンロン18』ほか >>